特許第5774510号(P5774510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5774510誘電体セラミック材料及びそれに用いるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の製造方法
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  • 特許5774510-誘電体セラミック材料及びそれに用いるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774510
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】誘電体セラミック材料及びそれに用いるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/462 20060101AFI20150820BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20150820BHJP
   H01G 4/20 20060101ALN20150820BHJP
   H05K 1/03 20060101ALN20150820BHJP
   H05K 3/46 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   C04B35/46 C
   H01B3/12 303
   !H01G4/20
   !H05K1/03 610R
   !H05K3/46 T
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-16510(P2012-16510)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-155072(P2013-155072A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】田邉 信司
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/027074(WO,A1)
【文献】 特開2001−233669(JP,A)
【文献】 特開2005−093096(JP,A)
【文献】 特開2005−174711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/46−35/493
H01B 3/12
H01G 4/20
C01G 23/00−23/08
H05K 1/00−1/18
H05K 3/00−3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が8μm以上50μm以下でBET比表面積が0.05m/g以上0.3m/g未満であるペロブスカイト(ABO)型複合酸化物粗粒子10重量%以上70重量%以下と平均粒子径がμm3μm以下でBET比表面積が0.6m/g以上3m/g以下であるペロブスカイト(ABO)型複合酸化物微粒子30重量%以上90重量%以下とからなることを特徴とする誘電体セラミック材料。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子が、Ba、Ca、Mg及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む炭酸塩と、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物と、分散媒とを含むスラリーをメディアミルにより、スラリー中の固形分の平均粒子径が0.8μm以下、最大粒子径が3μm以下となるように調製し、このスラリーをスプレードライ法で乾燥させて造粒粉を得、この造粒粉を焼成して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミック材料。
【請求項3】
前記スラリーが、チタン酸バリウム前駆体を更に含むことを特徴とする請求項2に記載の誘電体セラミック材料。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型複合酸化物微粒子が、Aサイト元素がBa、Ca、Mg及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり且つBサイト元素がTi及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であるABO型複合酸化物からなることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の誘電体セラミック材料。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子が、焼結助剤を含有しないことを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の誘電体セラミック材料。
【請求項6】
複合誘電体の無機充填材として用いられることを特徴とする請求項1〜の何れか一項に記載の誘電体セラミック材料。
【請求項7】
Ba、Ca、Mg及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む炭酸塩と、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物と、分散媒とを含むスラリーを調製する工程、
前記スラリーをスプレードライ法で乾燥させて造粒粉を得る工程、及び
前記造粒粉の焼成温度を1150℃以上1400℃以下の範囲で調整し、BET比表面積が0.05m/g以上0.3m/g未満である焼成体を得る工程
で得られる平均粒子径が8μm以上50μm以下でBET比表面積が0.05m/g以上0.3m/g未満であるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子10重量%以上70重量%以下と、蓚酸塩法で得られる平均粒子径が1μm超3μm以下でBET比表面積が0.6m/g以上3m/g以下であるペロブスカイト型複合酸化物微粒子30重量%以上90重量%以下とを混合することを特徴とする誘電体セラミック材料の製造方法。
【請求項8】
前記スラリーを調製する工程が、前記スラリー中の固形分の平均粒子径が0.8μm以下、最大粒子径が3μm以下となるようにメディアミルによる処理を行うことを含むことを特徴とする請求項7に記載の誘電体セラミック材料の製造方法。
【請求項9】
前記スラリーが、チタン酸バリウム前駆体を更に含むことを特徴とする請求項に記載の誘電体セラミック材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合誘電体の無機充填材等として有用な誘電体セラミック材料及びそれに用いるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、薄型化及び高密度化のため、多層プリント配線板が多く使用されるようになってきた。この多層プリント配線板は、高誘電率材料からなる層を内層又は表層に設けて実装密度を向上させることにより、電子機器の更なる小型化、薄型化及び高密度化に対応可能となる。
従来、高誘電率材料としては、セラミック粉末を成形した後、これを焼成して得られるセラミック焼結体を用いているため、その寸法や形状は成形法により制約を受けた。また、焼結体は高硬度で脆性であるため、自由な加工が困難であり、任意の形状や複雑な形状を得るには困難を極めた。
【0003】
このため、樹脂中に高誘電率の無機充填材を分散させた複合誘電体が、加工性に優れるため注目されている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1では、粒子径が比較的大きな多孔質のペロブスカイト型複合酸化物粒子を用いているため、ハンドリング性に問題が生じることはないが、樹脂中に充填できる量がせいぜい30体積%程度であり、得られる複合誘電体の誘電率が低いという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2には、熱硬化性樹脂中に誘電体フィラーを65体積%〜90体積%充填する技術が開示されている。しかし、特許文献2では、高充填率のわりには誘電率が低く、また、誘電体フィラーを70体積%以上も充填したものは、機械的特性及び電気絶縁性の低下が懸念されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−94717号公報
【特許文献2】特開2001−233669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、複合誘電体を構成する樹脂中に少なくとも30体積%充填することができ、従来よりも高充填することなく複合誘電体の誘電率を高めることのできる誘電体セラミック材料を提供することを目的とする。また、その誘電体セラミック材料に用いるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の工業的に有利な製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、特定の平均粒子径及びBET比表面積を有する2種類のペロブスカイト型複合酸化物粒子を組み合わせた誘電体セラミック材料が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明に係る誘電体セラミック材料は、平均粒子径が8μm以上50μm以下でBET比表面積が0.05m/g以上0.3m/g未満であるペロブスカイト(ABO)型複合酸化物粗粒子と平均粒子径が0.7μm以上3μm以下でBET比表面積が0.6m/g以上3m/g以下であるペロブスカイト(ABO)型複合酸化物微粒子とからなるものである。
【0008】
本発明に係るペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の製造方法は、Ba、Ca、Mg及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む炭酸塩と、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物と、分散媒とを含むスラリーを調製する工程、そのスラリーをスプレードライ法で乾燥させて造粒粉を得る工程、及びその造粒粉の焼成温度を1150℃以上1400℃以下の範囲で調整し、BET比表面積が0.05m/g以上0.3m/g未満である焼成体を得る工程を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電体セラミック材料によれば、複合誘電体を構成する樹脂中に少なくとも30体積%充填することができ、従来よりも高充填することなく複合誘電体の誘電率を高めることができる。また、本発明のペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の製造方法によれば、上記誘電体セラミック材料に用いるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子を工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】製造例1で得られたペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る誘電体セラミック材料は、平均粒子径が8μm〜50μmでBET比表面積が0.05m/g以上0.3m/g未満であるペロブスカイト(ABO)型複合酸化物粗粒子と平均粒子径が0.7μm〜3μmでBET比表面積が0.6m/g〜3m/gであるペロブスカイト(ABO)型複合酸化物微粒子とからなるものである。
ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の平均粒子径が8μm未満であると、焼成時に粒子同士の融着が進行して解砕を強力に行う必要を要し、ひいては結晶性低減や微細粒子を発生するなど不具合を生じ、一方、平均粒子径が50μm超であると、最大径が100μmを超え、樹脂との複合化において厚みに関する自由度を失い、用途が大幅に制限される。好ましくは、ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の平均粒子径は10μm〜30μmである。更に、ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子のBET比表面積が0.05m/g未満であると、過度の焼成により粒度分布の悪化を伴い、一方、BET比表面積が0.3m/g以上であると、樹脂複合時の分散性が悪くなるためである。好ましくは、ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子のBET比表面積は0.05m/g〜0.2m/gである。
また、ペロブスカイト型複合酸化物微粒子の平均粒子径が0.7μm未満であると、粒子自身の結晶性も低く、誘電率向上に対して不利となり、一方、平均粒子径が3μm超であると、粗粒子間に存在して分散性を向上させる上で妨げとなる。好ましくは、ペロブスカイト型複合酸化物微粒子の平均粒子径は1μm〜2μmである。更に、ペロブスカイト型複合酸化物微粒子のBET比表面積が0.6m/g未満であると、樹脂複合時に効率の良い誘電率向上が困難になり、一方、BET比表面積が3m/g超であると、樹脂への分散性が悪くなり、複合体の機械的強度を低減させるなど不具合を生じ易くなる。好ましくは、ペロブスカイト型複合酸化物微粒子のBET比表面積は0.8m/g〜2m/gである。
なお、本発明における平均粒子径(D50)とは、レーザー光散乱法により求められる値である。
【0012】
本発明に係る誘電体セラミック材料において、好ましくはペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の配合割合は10重量%〜70重量%であり且つペロブスカイト型複合酸化物微粒子の配合割合は30重量%〜90重量%であり、より好ましくはペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の配合割合は30重量%〜60重量%であり且つペロブスカイト型複合酸化物微粒子の配合割合は40重量%〜70重量%である。ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子とペロブスカイト型複合酸化物微粒子との配合割合が上記範囲内であると、樹脂複合時の分散性が良好である上、強度が高く、誘電特性に優れた複合誘電体を得ることができる。
【0013】
ペロブスカイト型複合酸化物の組成は、特に制限されるものではないが、Aサイト元素が、Ba、Ca、Mg及びSrからなる群から選択される少なくとも1種であり、Bサイト元素が、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。具体的な好ましい組成を例示すると、BaTiO、CaTiO、SrTiO、BaCa1−xTiO(式中、xは0<x<1)、BaSr1−xZrO(式中、xは0<x<1)、BaTiZr1−x(式中、xは0<x<1)、BaCa1−xTiZr1−y(式中、xは0<x<1、yは0<y<1)、Ba1−x−yCaMgTiZr1-z(式中、xは0<x<1、yは0<y<1、zは0<z<1、0<x+y<1)等が挙げられる。これらのペロブスカイト型複合酸化物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
ペロブスカイト型複合酸化物では、Aサイト元素とBサイト元素とのモル比を示すA/B比が、好ましくは0.995〜1.006、より好ましくは0.997〜1.005、最も好ましくは0.999〜1.004の範囲にある。A/B比が上記範囲内であると、焼成による比表面調整が容易で、誘電体セラミック材料を充填した複合誘電体の誘電率をより高めることができる。
【0015】
ペロブスカイト型複合酸化物の粒子形状は球状であることが充填性に優れる観点から好ましい。なお、粒子形状が球状とは球状とみなせる形状である限り、必ずしも真球であることを要しない。
【0016】
このようなペロブスカイト型複合酸化物の製造履歴は、特に制限されるものではなく、例えば、共沈法、加水分解法、水熱合成法、ゾル−ゲル法、固相法、蓚酸塩法等の通常の方法で得られるものを使用することができる。
中でも、ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子については、固相法を利用して製造することが工業的観点から望ましい。ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子を製造する具体的な方法は、Ba、Ca、Mg及びSrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む炭酸塩と、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物と、分散媒とを含むスラリーを調製し、このスラリーをスプレードライ法で乾燥させて造粒粉を得、この造粒粉を焼成すればよい。造粒粉の焼成温度を1150℃〜1400℃の範囲で調整することで、0.05m/g以上0.3m/g未満のBET比表面積を有するペロブスカイト型複合酸化物粗粒子を得ることができる。
【0017】
なお、スプレードライ法で乾燥させるスラリーは、メディアミル等の湿式粉砕装置で、混合及び粉砕処理を行っておくことが、各原料が均一に混合された均一混合スラリーを一層容易に得ることができる観点から好ましい。
また、メディアミルによる処理は、スラリー中の固形分の平均粒子径が0.8μm以下、好ましくは0.1μm〜0.6μmで、最大粒子径が3μm以下となるように行うことが、粒子間の空隙の状態を制御しながら、上記範囲の平均粒子径とBET比表面積のものを容易に得ることができ、また、誘電特性にも優れたペロブスカイト型複合酸化物粗粒子が得られる観点から好ましい。
メディアミルとしては、ビーズミル、ボールミル、ペイントシェーカー、アトライタ、サンドミル等を用いることができる。特にビーズミルを用いることが好ましい。その場合、運転条件やビーズの種類及び大きさは、装置のサイズや処理量、使用する原料の種類に応じて適切に選択すればよい。
【0018】
また、スプレードライ法による乾燥は、乾燥温度が100℃〜130℃、好ましくは105℃〜120℃であり、また、造粒粉の平均粒子径が10μm〜60μm、好ましくは15μm〜40μmとなるように行われることが、目的とするペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の粒径の制御の点から好ましい。
【0019】
焼成温度を上記範囲とする理由は、1150℃未満では焼成を進めて目的の比表面積に到達させることができないためであり、一方、1400℃を越えると焼成用の機材の特殊化を要すためである。焼成時間は、通常5時間〜30時間、好ましくは10時間〜20時間である。焼成の雰囲気は特に制限されず大気中又は不活性ガス雰囲気中の何れであってもよい。
【0020】
また、上記製法で用いるスラリーには、チタン酸バリウム前駆体を含有させてもよい。スラリーにチタン酸バリウム前駆体を含有させることで、組成制御の簡便化を図ることができ、焼成工程でのガスの発生がないため、粒子内部についても空隙の存在が抑えられ密なものが得られやすく、また特性のバラツキが極めて少ないものを得ることができる。なお、チタン酸バリウム前駆体とは、水溶液中で、TiCl、BaCl及び蓚酸を反応させてBaTiO(C・4HO(蓚酸バリウムチタニル)の沈殿を生成させた後、生成した沈殿を乾燥もしくは脱蓚酸して得られるものである。また、この製法では、ホウ素ケイ素系やビスマス系に代表されるガラス粉末等の焼結助剤を使用しなくてもペロブスカイト型複合酸化物粗粒子を得ることができるという利点がある。焼結助剤は、焼結を低温化する効果があるものの、得られるペロブスカイト型複合酸化物粗粒子の化学的・環境的耐性を低下させる。そのため、ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子は、焼結助剤を含有しないことが好ましい。
【0021】
ペロブスカイト型複合酸化物微粒子については、蓚酸塩法を利用して製造することが工業的観点から望ましい。蓚酸塩法では、蓚酸由来の有機物を焼成により十分除去する必要がある。焼成温度は、通常950℃〜1200℃、好ましくは1050℃〜1150℃である。焼成時間は、通常5時間〜30時間、好ましくは10時間〜20時間である。焼成の雰囲気は特に制限されず大気中又は不活性ガス雰囲気中の何れであってもよい。この製法において焼成は、所望により何度行ってもよく、粉体特性を均一にするため1度焼成したものを粉砕し、再焼成を行ってもよい。
【0022】
上述した製法で得られるペロブスカイト型複合酸化物には、必要により誘電特性や温度特性を調製する目的で副成分元素含有化合物を含有させてもよい。用いることができる副成分元素含有化合物としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類元素、Ba、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Si、Ca、Sr、Co、Ni、Cr、Fe、Mg、Ti、V、Nb、Mo、W及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物が挙げられる。これらの副成分元素含有化合物は、無機物であってもよく、有機物であってもよく、例えば、上記元素を含む酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩、アルコキシド等が挙げられる。ペロブスカイト型複合酸化物に副成分元素を含有させる方法は、例えば、ペロブスカイト型複合酸化物の原料粉末に副成分元素含有化合物を添加する等の常法に従って行えばよい。
【0023】
本発明の誘電体セラミック材料は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の高分子材料と無機充填材とからなる複合誘電体用の無機充填材として好適に用いることができる他、トナーの外添剤等の用途にも適用可能である。
【0024】
次いで、本発明の誘電体セラミック材料を無機充填材として用いた複合誘電体について説明する。
本発明における複合誘電体は、後述する高分子材料に上述した誘電体セラミック材料を好ましくは30体積%〜70体積%、より好ましくは40体積%〜65体積%充填することができる。誘電体セラミック材料を充填率が低過ぎると、高い誘電率が得られず、一方、充填率が高過ぎると、機械的特性及び電気絶縁性の低下が懸念される。しかし、本発明の誘電体セラミック材料は、特許文献2よりも低い充填率で同程度の誘電率を達成することができる(後述する実施例を参照)。
【0025】
本発明において用いることができる高分子材料としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂又は光感光性樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、シアネート樹脂類、ビスマレイミド類、ビスマレイミド類とジアミンとの付加重合物、多官能性シアン酸エステル樹脂、二重結合付加ポリフェニレンオキサイド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルベンジルエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、フマレート樹脂等の公知のものが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これら熱硬化性樹脂の中でも、耐熱性、加工性、価格等のバランスからエポキシ樹脂及びポリビニルベンジルエーテル樹脂が好ましい。
【0026】
本発明で用いるエポキシ樹脂とは、1分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールS、アルキル置換又は非置換のビフェノール等のジグリシジルエーテル、フェノール類とジシクロペンタジエンやテルペン類との付加物または重付加物をエポキシ化したもの、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
エポキシ樹脂硬化剤としては、当業者において公知のものはすべて用いることができるが、特に、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のC2〜C20の直鎖脂肪族ジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラキシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジシクロヘキサン、ビス(4−アミノフェニル)フェニルメタン、1,5−ジアミノナフタレン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、ジシアノジアミド等のアミン類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン、フェノールアラルキル樹脂、ナフトール系アラルキル樹脂等の、ベンゼン環やナフタリン環その他の芳香族性の環に結合する水素原子が水酸基で置換されたフェノール化合物と、カルボニル化合物との共縮合によって得られるフェノール樹脂や、酸無水物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
エポキシ樹脂硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂に対して、当量比で好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.7〜1.3の範囲である。
【0028】
また、本発明においてエポキシ樹脂の硬化反応を促進させる目的で公知の硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤としては、例えば、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン化合物、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の有機ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明で用いるポリビニルベンジルエーテル樹脂とは、ポリビニルベンジルエーテル化合物から得られるものである。ポリビニルベンジルエーテル化合物は、下記一般式(1)で示される化合物が好ましい。
【0030】
【化1】
【0031】
一般式(1)の式中、R1はメチル基又はエチル基を示す。R2は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を示す。R2で表される炭化水素基は、置換基を有していてもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基等である。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。R3は水素原子又はビニルベンジル基を示す。なお、R3の水素原子は一般式(1)の化合物を合成する場合の出発化合物に由来し、水素原子とビニルベンジル基とのモル比が60:40〜0:100であると硬化反応を十分に進行させることができ、また、本発明の複合誘電体において、十分な誘電特性が得られる点で好ましい。nは2〜4の整数を示す。
【0032】
ポリビニルベンジルエーテル化合物は、それのみを樹脂材料として重合して用いてもよく、他のモノマーと共重合させて用いてもよい。共重合可能なモノマーとしてはスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジビニルベンジルエーテル、アリルフェノール、アリルオキシベンゼン、ジアリルフタレート、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルピロリドン、これらの変性物等が挙げられる。これらのモノマーの配合割合は、ポリビニルベンジルエーテル化合物に対して2質量%〜50質量%である。
【0033】
ポリビニルベンジルエーテル化合物の重合及び硬化は、公知の方法で行うことができる。硬化は、硬化剤の存在下又は不存在下の何れでも可能である。硬化剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルパーベンゾエート等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。使用量は、ポリビニルベンジルエーテル化合物100質量部に対して0質量部〜10質量部である。硬化温度は、硬化剤の使用の有無及び硬化剤の種類によっても異なるが、十分に硬化させるためには、好ましくは20℃〜250℃、より好ましくは50℃〜250℃である。
また、硬化の調整のために、ハイドロキノン、ベンゾキノン、銅塩等を配合してもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ヒドロキシスチレン樹脂、ノボラック樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等の公知のものが挙げられる。
【0035】
感光性樹脂としては、例えば、光重合性樹脂、光架橋性樹脂等の公知のものが挙げられる。
【0036】
本発明で用いる光重合性樹脂としては、例えば、エチレン性不飽和基を有するアクリル系共重合体(感光性オリゴマー)と光重合性化合物(感光性モノマー)と光重合開始剤を含むもの、エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤とを含むもの等が挙げられる。感光性オリゴマーとしては、エポキシ樹脂にアクリル酸を付加したもの、それをさらに酸無水物と反応させたものやグリシジル基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む共重合体に(メタ)アクリル酸を反応させたもの、さらにそれに酸無水物を反応したもの、水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーを含む共重合体に(メタ)アクリル酸グリシジルを反応させたもの、さらにそれに酸無水物を反応したもの、無水マレイン酸を含む共重合体に水酸基を有する(メタ)アクリルモノマーあるいはグリシジル基を有する(メタ)アクリルモノマーを反応させたもの等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
光重合性化合物(感光性モノマー)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルフォリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインとそのアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、キサントン類、チオキサントン類等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、これらの光重合開始剤は、安息香酸系、第三アミン系等の公知慣用の光重合促進剤と併用することができる。光カチオン重合開始剤としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ブレンステッド酸の鉄芳香族化合物塩(チバ・ガイギー社、CG24−061)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
光カチオン重合開始剤によってエポキシ樹脂が開環重合するが、光重合性は通常のグリシジルエステル系エポキシ樹脂よりも脂環エポキシ樹脂の方が反応速度が速いのでより好ましい。脂環エポキシ樹脂とグリシジルエステル系エポキシ樹脂とを併用することもできる。脂環エポキシ樹脂としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート、ダイセル化学工業(株)製、EHPE−3150等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
光架橋性樹脂としては、例えば、水溶性ポリマー重クロム酸塩系、ポリケイ皮酸ビニル(コダックKPR)、環化ゴムアジド系(コダックKTFR)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
これらの感光性樹脂の誘電率は一般に2.5〜4.0と低い。従って、バインダーの誘電率を上げるために、感光性樹脂の感光特性を損なわない範囲で、より高誘電性のポリマー(例えば、住友化学のSDP−E(ε:15<)、信越化学のシアノレジン(ε:18<))や高誘電性液体(例えば、住友化学のSDP−S(ε:40<))を添加することもできる。
【0042】
本発明において、上記した高分子材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
また、本発明の複合誘電体は、本発明の効果を損なわない範囲の添加量で他の無機充填剤を含有することができる。他の無機充填剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボン微粉、黒鉛微粉、炭化ケイ素等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の複合誘電体には、本発明の効果を損なわない範囲で、硬化剤、ガラス粉末、カップリング剤、高分子添加剤、反応性希釈剤、重合禁止剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、無機系充填剤、防カビ剤、調湿剤、染料溶解剤、緩衝剤、キレート剤、難燃剤、シランカップリング剤(インテグラルブレンド法)等を添加してもよい。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本発明の複合誘電体は、複合誘電体ペーストを調製し、有機溶剤の除去、硬化反応又は重合反応を行うことにより製造することができる。複合誘電体ペーストは、樹脂成分、誘電体セラミック材料、必要により添加される添加剤及び有機溶剤を含有するものである。
【0046】
複合誘電体ペーストに含有される樹脂成分は、熱硬化性樹脂の重合性化合物、熱可塑性樹脂の重合体及び感光性樹脂の重合性化合物である。なお、これらの樹脂成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
ここで、重合性化合物とは、重合性基を有する化合物を示し、例えば、完全硬化前の前駆体重合体、重合性オリゴマー及び単量体を含む。また、重合体とは、実質的に重合反応が完了した化合物を示す。
【0048】
必要により添加される有機溶剤としては、用いる樹脂成分により異なり、樹脂成分を溶解できるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、エーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐のアルキル基を有するモノアルコールのエチルグリコールエーテル、プロピレングリコールエーテル、ブチルグリコールエーテル、ケトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エステル、エチルアセテート、ブチルアセテート、エチレングリコールアセテート、メトキシプロピルアセテート、メトキシプロパノール、その他ハロゲン化炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン及びジキシレンが好ましい。
【0049】
本発明において、複合誘電体ペーストは、所望の粘度に調製して使用される。複合誘電体ペーストの粘度は、通常、1,000mPa・s〜1,000,000mPa・s(25℃)であり、複合誘電体ペーストの塗布性を考慮すると、好ましくは10,000mPa・s〜600,000mPa・s(25℃)である。
【0050】
本発明の複合誘電体は、フィルム状、バルク状又は所定形状の成形体として加工して用いることができ、特に薄膜形状の高誘電体フィルムとして用いることができる。
【0051】
本発明の複合誘電材料を用いて複合誘電体フィルムを製造するには、例えば、従来公知の複合誘電体ペーストの使用方法に従って製造すればよく、下記にその一例を示す。
複合誘電体ペーストを基材上に塗布した後、乾燥することによりフィルム状に成形することができる。基材としては、例えば、表面に剥離処理がなされたプラスチックフィルムを用いることができる。剥離処理が施されたプラスチックフィルム上に塗布してフィルム状に成形した場合、一般には成形後、フィルムから基材を剥離して用いることが好ましい。基材として用いることができるプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、アラミド、カプトン、ポリメチルペンテン等のフィルムを挙げることができる。また、基材として用いるプラスチックフィルムの厚みとしては、1μm〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは1μm〜40μmである。また、基材表面上に施す離型処理としては、シリコーン、ワックス、フッ素樹脂等を表面に塗布する離型処理が好ましく用いられる。
【0052】
また、基材として金属箔を用い、金属箔の上に誘電体フィルムを形成してもよい。このような場合、基材として用いた金属箔をコンデンサーの電極として用いることができる。
【0053】
基材上に前記複合誘電体ペーストを塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な塗布方法を用いることができる。例えば、ローラー法、スプレー法、シルクスクリーン法等により塗布することができる。
【0054】
このような誘電体フィルムは、プリント基板等の基板に組み込んだ後、加熱して熱硬化することができる。また、感光性樹脂を用いた場合には、選択的に露光することによりパターニングすることができる。
【0055】
また、例えば、カレンダー法等により、本発明の複合誘電体を押出成形して、フィルム状に成形してもよい。
押出成形した誘電体フィルムは、上記の基材上に押し出されるように成形されてもよい。また、基材として、金属箔を用いる場合、金属箔としては、銅、アルミニウム、真鍮、ニッケル、鉄等を材料とする箔の他、これらの合金の箔、複合箔等を用いることができる。金属箔には、必要時に応じて表面粗面化の処理や、接着剤の塗布等の処理を施しておいてもよい。
【0056】
また、金属箔の間に誘電体フィルムを形成してもよい。この場合、金属箔上に複合誘電体ペーストを塗布した後、この上に金属箔を載せ、金属箔の間に複合誘電体ペーストを挟んだ状態で乾燥させることにより、金属箔の間に挟まれた状態の誘電体フィルムを形成してもよい。また、金属箔の間に挟まれるように押出成形することにより、金属箔の間に設けられた誘電体フィルムを形成してもよい。
【0057】
また、本発明の複合誘電体は、前述した有機溶媒を用いてワニスとした後、これにクロス又は不織布を含浸し、乾燥を行うことによりプリプレグとして用いてもよい。用いることができるクロスや不織布の種類は、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができる。クロスとしては、ガラスクロス、アラミドクロス、カーボンクロス、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。また、不織布としては、アラミド不織布、ガラスペーパー等が挙げられる。プリプレグは、回路基板等の電子部品に積層した後、硬化することにより、電子部品に絶縁層を導入することができる。
【0058】
本発明の複合誘電体は、高い誘電率を有することから電子部品、特にプリント回路基板、半導体パッケージ、コンデンサー、高周波用アンテナ、無機EL等の電子部品の誘電体層として好適に用いることができる。
【0059】
本発明の複合誘電体を用いて多層プリント配線板を製造するには、当該技術分野で公知の方法を用いて製造することがでる(例えば、特開2003−192768号公報、特開2005−29700号公報、特開2002−226816号公報、特開2003−327827号公報等参照。)。なお、以下に示す一例は、複合誘電体の高分子材料として熱硬化性樹脂を用いた場合の例示である。
【0060】
本発明の複合誘電体を前述した誘電体フィルムとし、誘電体フィルムの樹脂面で回路基板に加圧、加熱するか、或いは真空ラミネーターを使用してラミネートする。ラミネート後、フィルムから基材を剥離して露出された樹脂層上に、更に金属箔をラミネートし、樹脂を加熱硬化させる。
【0061】
また、本発明の複合誘電体をプリプレグとしたものの回路基板へのラミネートは、真空プレスにより行うことができる。具体的にはプリプレグの片面を回路基板に接触させ、他面に金属箔をのせてプレスを行うことが望ましい。
【0062】
また、本発明の複合誘電体をワニスとして用い、回路基板に、スクリーン印刷、カーテンコート、ロールコート、スプレーコート等を用いて塗布・乾燥することにより多層プリント配線板の中間絶縁層を形成することができる。
【0063】
本発明において、絶縁層を最外層に持つプリント配線板の場合は、スルーホール及びバイアホール部をドリルまたはレーザーで穴開けを行い、絶縁層表面を粗化剤処理し微細な凹凸を形成する。絶縁層の粗化方法としては、絶縁樹脂層が形成された基板を酸化剤等の溶液中に浸漬する方法や、酸化剤等の溶液をスプレーする方法等の仕様に応じて、実施することができる。粗化処理剤の具体例としては、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、オゾン、過酸化水素/硫酸、硝酸等の酸化剤、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、メトキシプロパノール等の有機溶剤、また苛性ソーダ、苛性カリ等のアルカリ性水溶液、硫酸、塩酸等の酸性水溶液、又は各種プラズマ処理等を用いることができる。また、これらの処理は併用して用いてもよい。上記のように、絶縁層が粗化されたプリント配線板上は、次いで蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式めっき、もしくは無電解・電解めっき等の湿式めっきにより導体層を形成する。このとき、導体層とは逆パターンのめっきレジストを形成し、無電解めっきのみで導体層を形成してもよい。このように導体層が形成された後、アニール処理することにより、熱硬化性樹脂の硬化が進行し導体層のピール強度をさらに向上させることもできる。このようにして、最外層に導体層を形成することができる。
【0064】
また、中間絶縁層を形成した金属箔は、真空プレスで積層することにより、多層化できる。中間絶縁層を形成した金属箔は、内層回路が形成されたプリント配線板上に、真空プレスで積層することにより、最外層が導体層のプリント配線板にすることができる。また、本発明の複合誘電体を用いたプリプレグは、金属箔と供に、内層回路が形成されたプリント配線板上に、真空プレスで積層することにより、最外層が導体層のプリント配線板にすることができる。コンホーマル工法等で所定のスルーホール及びバイアホール部をドリルまたはレーザーで穴開けを行い、スルーホール及びバイアホール内をデスミア処理し、微細な凹凸を形成する。次に、無電解・電解めっき等の湿式めっきにより、層間の導通を取る。
【0065】
さらに、必要に応じてこれらの工程を数回繰り返し、更に、最外層の回路形成が終了した後、ソルダーレジストを、スクリーン印刷法によるパターン印刷・熱硬化、又はカーテンコート・ロールコート・スプレーコートによる全面印刷・熱硬化後レーザーでパターンを形成することにより、所望の多層プリント配線板を得る。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<製造例1:ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子(BaCaTiZr系)>
容器に水を仕込み、撹拌しながら粉末濃度が20〜30重量%となるよう、また所定の複合酸化物組成となるよう炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタン及び酸化ジルコニウムを仕込み、1時間以上撹拌してスラリーを得た。このスラリーをビーズミルにて、レーザー光散乱法で求めた固形分の平均粒子径が0.47μm、粒度分布の最大径が3μm以下となるよう処理した。このスラリーを、スプレーバッグドライヤーを用いて造粒乾燥処理し、球状の造粒粉とした。なお、球状の造粒粉はレーザー光散乱法で求められる平均粒子径が33.4μmであった。スプレーバッグドライヤーのスラリー射出仕様は100mmφのディスクで20,000rpmとし、乾燥室温度は105℃とした。得られた造粒粉を気孔率20%以上のアルミナ系容器に仕込み、1315℃で20時間焼成を行った。得られた焼成体をコーヒーミルで解砕し、目開き100μmの篩を通して、球状の複合ペロブスカイト粒子を得た。得られた複合ペロブスカイト粒子は、20.5μmの平均粒子径(D50)、0.14m/gのBET比表面積及び1.002のA/B比((BaO+CaO)/(TiO+ZrO)のモル比)を有するBa(0.981)Ca(0.020)Ti(0.849)Zr(0.150)であった。なお、複合ペロブスカイト粒子の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0067】
<製造例2:ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子(BaCaTiZr系)>
焼成温度を1325℃に変更した以外は製造例1と同様にして球状の複合ペロブスカイト粒子を得た。得られた複合ペロブスカイト粒子は、20.9μmの平均粒子径(D50)、0.26m/gのBET比表面積及び0.999のA/B比((BaO+CaO)/(TiO+ZrO)のモル比)を有するBa(0.980)Ca(0.020)Ti(0.850)Zr(0.151)であった。なお、複合ペロブスカイト粒子の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0068】
<製造例3:ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子(BaCaTiZr系)>
容器に水を仕込み、所定量の分散剤(花王株式会社製ポイズ2100)を添加し、撹拌しながら粉末濃度が20〜30重量%となるよう、また所定の複合酸化物組成となるようチタン酸バリウム前駆体、炭酸バリウム、炭酸カルシウム及び酸化ジルコニウムを仕込み、1時間以上撹拌してスラリーを得た。このスラリーをビーズミルにて、レーザー光散乱法で求めた固形分の平均粒子径が0.54μm、粒度分布の最大径が3μm以下となるよう処理した。このスラリーを、スプレーバッグドライヤーを用いて造粒乾燥処理し、球状の造粒粉とした。なお、球状の造粒粉はレーザー光散乱法で求められる平均粒子径が30.3μmであった。スプレーバッグドライヤーのスラリー射出仕様は100mmφのディスクで20,000rpmとし、乾燥室温度は105℃とした。得られた造粒粉を気孔率20%以上のアルミナ系容器に仕込み、1275℃で20時間焼成を行った。得られた焼成体をコーヒーミルで解砕し、目開き100μmの篩を通して、球状の複合ペロブスカイト粒子を得た。得られた複合ペロブスカイト粒子は、17.8μmの平均粒子径(D50)、0.15m/gのBET比表面積及び1.001のA/B比((BaO+CaO)/(TiO+ZrO)のモル比)を有するBa(0.980)Ca(0.020)Ti(0.851)Zr(0.149)であった。
なお、ここで使用したチタン酸バリウム前駆体は、蓚酸塩法チタン酸バリウム合成の出発原料となる蓚酸バリウムチタニルを脱蓚酸し、さらに気流粉砕を行って得られたものである。このチタン酸バリウム前駆体は、2.8μmの平均粒子径(D50)及び7.7m/gのBET比表面積を有するものであった。
また、複合ペロブスカイト粒子及びチタン酸バリウム前駆体の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0069】
<製造例4:ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子(BaCaTiZr系)>
焼成温度を1300℃に変更した以外は製造例4と同様にして球状の複合ペロブスカイト粒子を得た。得られた複合ペロブスカイト粒子は、17.7μmの平均粒子径(D50)、0.07m/gのBET比表面積及び1.001のA/B比((BaO+CaO)/(TiO+ZrO)のモル比)を有するBa(0.980)Ca(0.020)Ti(0.851)Zr(0.149)であった。なお、複合ペロブスカイト粒子の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0070】
<製造例5:ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子(BaCaTiZr系)>
焼成温度を1250℃に変更した以外は製造例4と同様にして球状の複合ペロブスカイト粒子を得た。得られた複合ペロブスカイト粒子は、18.2μmの平均粒子径(D50)、0.28m/gのBET比表面積及び1.001のA/B比((BaO+CaO)/(TiO+ZrO)のモル比)を有するBa(0.980)Ca(0.020)Ti(0.851)Zr(0.149)であった。なお、複合ペロブスカイト粒子の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0071】
<製造例6:ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子(BaTi系)>
容器に水を仕込み、所定量の分散剤(花王株式会社製ポイズ2100)を添加し、撹拌しながら粉末濃度が20〜30重量%となるよう、チタン酸バリウム前駆体を仕込み、1時間以上撹拌してスラリーを得た。このスラリーをビーズミルにて、レーザー光散乱法で求めた固形分の平均粒子径が0.51μm、粒度分布の最大径が3μm以下となるよう処理した。このスラリーを、スプレーバッグドライヤーを用いて造粒乾燥処理し、球状の造粒粉とした。なお、球状の造粒粉はレーザー光散乱法で求められる平均粒子径が32.9μmであった。スプレーバッグドライヤーのスラリー射出仕様は100mmφのディスクで20,000rpmとし、乾燥室温度は105℃とした。得られた造粒粉を気孔率20%以上のアルミナ系容器に仕込み、1225℃で20時間焼成を行った。得られた焼成体をコーヒーミルで解砕し、目開き100μmの篩を通して、球状のチタン酸バリウム粒子を得た。得られたチタン酸バリウム粒子は、15.0μmの平均粒子径(D50)、0.19m/gのBET比表面積及び0.999のA/B比(BaO/TiOのモル比)を有するものであった。
なお、ここで使用したチタン酸バリウム前駆体は、蓚酸塩法チタン酸バリウム合成の出発原料となる蓚酸バリウムチタニルを脱蓚酸し、さらに気流粉砕を行って得られたものである。このチタン酸バリウム前駆体は、2.8μmの平均粒子径(D50)及び7.7m/gのBET比表面積を有するものであった。
また、球状のチタン酸バリウム粒子及びチタン酸バリウム前駆体の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0072】
<製造例7:ペロブスカイト型複合酸化物粗粒子(BaTi系)>
焼成温度を1250℃に変更した以外は製造例6と同様にして球状のチタン酸バリウム粒子を得た。得られたチタン酸バリウム粒子は、14.4μmの平均粒子径(D50)、0.05m/gのBET比表面積及び0.999のA/B比(BaO/TiOのモル比)を有するものであった。
なお、球状のチタン酸バリウム粒子の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0073】
<製造例8:ペロブスカイト型複合酸化物微粒子(BaTi系)>
蓚酸バリウムチタニルを脱蓚酸した後、気孔率20%以上のムライト製容器に仕込み、950℃で20時間の焼成を行なった。焼成粉末に対し気流粉砕を行い、平均粒子径0.75μm、BET比表面積2.0m/gのチタン酸バリウムを得た。このチタン酸バリウムを同様にムライト製容器に仕込み、1100℃で20時間の焼成を行なった。焼成粉末に対し気流粉砕を行い、球状のチタン酸バリウム粒子を得た。得られたチタン酸バリウム粒子は、1.9μmの平均粒子径(D50)、0.90m/gのBET比表面積及び1.001のA/B比(BaO/TiOのモル比)を有するものであった。
なお、球状のチタン酸バリウム粒子の平均粒子径はレーザー光散乱法で求めた。
【0074】
<実施例1〜7>
表1に示すような重量割合で、上記製造例で得られたペロブスカイト型複合酸化物粗粒子及びペロブスカイト型複合酸化物微粒子を市販のミキサーで混合し、実施例1〜7の誘電体セラミック材料を得た。
【0075】
【表1】
【0076】
表2に示すような配合割合で、無機充填材としての実施例1〜7の誘電体セラミック材料、製造例1で得られたペロブスカイト型複合酸化物粗粒子又は製造例8で得られたペロブスカイト型複合酸化物微粒子と、エポキシ樹脂とを混練し、エポキシ樹脂組成物を調製した。表2中、混練が問題なく行え、均一なエポキシ樹脂組成物が得られたものを○と評価し、混練は行えるが、エポキシ樹脂組成物の増粘により泡が生じたものを△1)と評価し、混練は行えるが、エポキシ樹脂組成物中で無機充填材の沈降が生じたものを△2)と評価し、混練は行えるが、エポキシ樹脂組成物の増粘により泡が生じ、また無機充填材の沈降も生じたものを△1)2)と評価し、混練が困難であったものを×と評価した。
なお、ここで使用したエポキシ樹脂は、99重量%の熱硬化性エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製、商品名:JER(登録商標)828EL、分子量約370、比重1.17、25℃での公称粘度120〜150P)と、1重量%のイミダゾール系硬化促進剤(四国化成工業株式会社製、商品名:2E4MZ)とからなるものである。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の結果より、実施例1〜7の誘電体セラミック材料を使用した実施例8〜14ではいずれも、エポキシ樹脂中に30体積%以上充填することができた。これに対し、比較例1では、無機充填材を30〜45体積%充填することができたものの、無機充填材と樹脂の分離が生じて均質なエポキシ樹脂組成物の形成ができず、50体積%充填ではエポキシ樹脂組成物の増粘により泡も生じた。更に、比較例1では、無機充填材を55体積%以上充填することはできなかった。また、比較例2では、無機充填材を50体積%までは充填することができたが、55体積%充填することはできなかった。
【0079】
次いで、上記混練の評価で○が得られたエポキシ樹脂組成物のうち、エポキシ樹脂組成物中の無機充填材充填率が50体積%、55体積%、60体積%及び65体積%の一部について誘電特性を評価した。エポキシ樹脂組成物を140℃、5時間で硬化させて複合誘電体試料を作製した。得られた複合誘電体試料の両面に、蒸着法にて厚さ30nmの白金膜を電極として形成した後、インピーダンスアナライザー(ソーラートロン社製1255B)、インターフェース(ソーラートロン社製1296)にて、周波数1kHz、印加電圧1Vにおける誘電率及び誘電損失の測定を行った。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3の結果より、同じ充填率(50体積%)で比べた場合、実施例8〜12は、誘電率に関しては比較例2と同程度であったが、誘電損失に関しては比較例2より低い値を示した。実施例9〜14は、60体積%の充填率で55以上の誘電率を達成することができる。これは、特許文献2の試料番号4(本実施例で使用したエポキシ樹脂よりも誘電率が大きい樹脂系において、誘電体フィラーを60体積%充填)の誘電率46をも大きく上回っていることが分かる。
図1