(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
〔陽イオン交換膜〕
本実施形態の陽イオン交換膜は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体と、前記膜本体の内部に配置された強化芯材とを具備している。
前記膜本体は、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第1の層(以下、単に第1の層、又はカルボン酸層と言う場合もある。)と、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層(以下、単に第2の層、又はスルホン酸層と言う場合もある。)と、を有している。
前記第1の層と前記第2の層との積層方向における断面において、
前記強化芯材の中心Aから、前記第2の層の膜表面までの距離が最短となる直線を仮定したとき、
当該直線上において、前記第2の層の膜表面との交点をBとし、
当該直線上において、前記第1の層の膜表面との交点をCとし、
当該直線上において、前記強化芯材の外周との交点であって、Bと近い方の交点をDとしたときに、
距離BD/距離CDが、0.11〜0.5である。
なお、前記「第2の層の膜表面」、「第1の層の膜表面」とは、第1の層と第2の層との境界部分を意味せず、当該境界部分と反対側の表面を言う。
【0014】
(強化芯材と膜本体の位置関係)
以下、図面を元に本実施形態の陽イオン交換膜の構成について詳細に説明する。
図1は、本実施形態の陽イオン交換膜の断面模式図である。
陽イオン交換膜1は、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第1の層2(カルボン酸層)と、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層3(スルホン酸層)とが積層された膜本体を具備し、膜本体内部に強化芯材4を有している。
電解に使用する際は、第1の層(カルボン酸層)2側を陰極側、第2の層(スルホン酸層)3側を陽極側に配置して電解を行う。
【0015】
図2は、本実施形態の陽イオン交換膜の要部の断面模式図であって、陽イオン交換膜の構成を説明するための図である。
図2を用いて、本実施形態の陽イオン交換膜における、強化芯材4の位置について説明する。
まず、陽イオン交換膜1の断面において、強化芯材4の中心をAとする。強化芯材4の中心Aとは、強化芯材4の断面形状が円形である場合にはその中心を、楕円形である場合には長径と短径の交点を、長方形状である場合には対角線の交点を言う。
【0016】
そして、その点Aから、第2の層(スルホン酸層)3の膜表面までの最短距離となる直線Lを仮定し(
図2中の破線)、以下の定義により、点B〜Dを決定する。
当該直線L上において、第2の層(スルホン酸層)3の膜表面との交点をBとする。
当該直線L上において、第1の層(カルボン酸層)2の膜表面との交点をCとする。
当該直線L上において、強化芯材4の外周との交点であって、前記Bと近い方をDとする。
本実施形態の陽イオン交換膜1は、距離CDに対する距離BDの比率(BD/CD)が0.11〜0.5である。電解性能の観点から好ましくは0.11〜0.3であり、より好ましくは0.11〜0.2であり、さらに好ましくは0.12〜0.16である。
BD/CDが0.11以上であることにより、強化芯材4から第2の層(スルホン酸層)3の膜表面までの厚みが十分に確保されるため、陽イオン交換膜1に外部から応力が掛かった時に、強化芯材4がBD間にあるスルホン酸基を含むフッ素重合体を陽イオン交換膜の外側へ押し出す応力が緩和され、強化芯材4が陽イオン交換膜内部から抜け出すことを防ぐことができる。このことにより、陽イオン交換膜に亀裂が入ったとしても、スルホン酸基を含む含フッ素重合体と強化芯材4とによって、亀裂の伝播を抑制(遮断)することができる。そのため、本実施形態の陽イオン交換膜は、引き裂き強度が高く、安定して電解に使用することができるのである。
また、BD/CDが0.5以下であることにより、強化芯材4から第1の層(カルボン酸層)2の膜表面までの厚みが十分であるため、前記と同様の理由により、亀裂の伝播を抑制することができる。
【0018】
図4は、本実施形態に係る陽イオン交換膜の他の一例の、要部の断面模式図であり、陽イオン交換膜の構成を説明するための図である。
図4に示す陽イオン交換膜は、第2の層(スルホン酸層)3の表面に凹凸加工を施すことにより凸部5が形成されている。
図4のように第2の層(スルホン酸層)3の表面に凹凸が形成されている場合、凹凸の高さを平均した基準線を第2の層(スルホン酸層)3の膜表面として、点B〜Dを決定することができる。
なお、前記「凹凸の高さを平均した基準線」は、具体的に、〔(凸部の底面積×凸部の高さ)+(凹部の面積×凹部の高さ)〕/(凸部の底面積+凹部の面積)により求めることができる。
【0019】
また、本実施形態の陽イオン交換膜は、距離ACに対する距離ABの比率(AB/AC)が、0.52〜0.8であることが好ましい。それによって、引き裂き強度がより向上する。より好ましくは、0.57〜0.68である。
【0020】
(陽イオン交換膜を構成する材料)
本実施形態の陽イオン交換膜は、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体を具備している。
膜本体は陽イオンを選択的に透過する機能を有し、イオン交換基(カルボン酸基又はスルホン酸基)を有する含フッ素重合体を含むものであればよく、その構成や材料は特に限定されず、適宜好適なものを選択することができる。
ここでいうイオン交換基を有する含フッ素系重合体とは、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体、を有する含フッ素系重合体である。
例えば、フッ素化炭化水素の主鎖からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体が挙げられる。このような含フッ素系重合体について、以下に説明する。
【0021】
カルボン酸基を有する含フッ素重合体については、以下の第1群の単量体、及び第2群の単量体を共重合する、又は第2群の単量体を単独重合することによって、製造することができる。
スルホン酸基を有する含フッ素重合体については、第1群の単量体、及び第3群の単量体を共重合する、又は第3群の単量体を単独重合することによって、製造することができる。
【0022】
第1群の単量体としては、例えば、フッ化ビニル化合物が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等が挙げられる。特に、本実施形態に係る陽イオン交換膜1をアルカリ電解用膜として用いる場合、フッ化ビニル化合物は、パーフルオロ単量体であることが好ましく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選ばれるパーフルオロ単量体が好ましい。
【0023】
第2群の単量体としては、例えば、カルボン酸型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。カルボン酸型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF
2=CF(OCF
2CYF)
s−O(CZF)
t−COORで表される単量体等が挙げられる(ここで、sは0〜2の整数を表し、tは1〜12の整数を表し、Y及びZは、各々独立して、F又はCF
3を表し、Rは低級アルキル基を表す。)。
これらの中でも、CF
2=CF(OCF
2CYF)
n−O(CF
2)
m−COORで表される化合物が好ましい。(ここで、nは0〜2の整数を表し、mは1〜4の整数を表し、YはF又はCF
3を表し、RはCH
3、C
2H
5、又はC
3H
7を表す。)。
特に、本実施形態に係る陽イオン交換膜1をアルカリ電解用陽イオン交換膜として用いる場合、第1群の単量体としてパーフルオロ化合物を少なくとも用いることが好ましいが、エステル基のアルキル基(上記R参照)は加水分解される時点で重合体から失われるため、アルキル基(R)は全ての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基でなくてもよい。これらの中でも、例えば、下記に表す単量体がより好ましい;
CF
2=CFOCF
2−CF(CF
3)OCF
2COOCH
3、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)O(CF
2)
2COOCH
3、
CF
2=CF[OCF
2CF(CF
3)]
2O(CF
2)
2COOCH
3、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)O(CF
2)
3COOCH
3、
CF
2=CFO(CF
2)
2COOCH
3、
CF
2=CFO(CF
2)
3COOCH
3。
【0024】
第3群の単量体としては、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF
2=CFO−X−CF
2−SO
2Fで表される単量体が好ましい(ここで、Xはパーフルオロ基を表す。)。これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる;
CF
2=CFOCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CF(CF
2)
2SO
2F、
CF
2=CFO〔CF
2CF(CF
3)O〕
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
2OCF
3)OCF
2CF
2SO
2F。
これらの中でも、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、及びCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fがより好ましい。
【0025】
これら単量体から得られる共重合体は、フッ化エチレンの単独重合及び共重合に対して開発された重合法、特にテトラフルオロエチレンに対して用いられる一般的な重合方法によって製造することができる。例えば、非水性法においては、パーフルオロ炭化水素、クロロフルオロカーボン等の不活性溶媒を用い、パーフルオロカーボンパーオキサイドやアゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、温度0〜200℃、圧力0.1〜20MPaの条件下で、重合反応を行うことができる。
【0026】
上記共重合体において、上記単量体の組み合わせの種類及びその割合は、特に限定されず、得られる含フッ素系重合体に付与したい官能基の種類及び量等によって選択決定される。例えば、カルボン酸エステル官能基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第2群から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。また、スルホニルフルオライド官能基のみを含有する重合体とする場合、上記第1群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。更に、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基を有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群、第2群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。この場合、上記第1群及び第2群よりなる共重合体と、上記第1群及び第3群よりなる共重合体とを、別々に重合し、後に混合することによっても目的の含フッ素系重合体を得ることができる。また、各単量体の混合割合は、特に限定されないが、単位重合体当たりの官能基の量を増やす場合、上記第2群及び第3群より選ばれる単量体の割合を増加させればよい。
【0027】
含フッ素系共重合体の総イオン交換容量は特に限定されないが、乾燥樹脂として0.5〜2.0mg当量/gである乾燥樹脂であることが好ましく、0.6〜1.5mg当量/gであることがより好ましい。ここで、総イオン交換容量とは、乾燥樹脂の単位重量あたりの交換基の当量のことをいい、中和滴定等によって測定することができる。
【0028】
膜本体は、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第1の層(カルボン酸層)2と、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層(スルホン酸層)3とを少なくとも備える。
スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層(スルホン酸層)3は電気抵抗が低い材料から構成され、膜強度の観点から膜厚が厚いことが好ましい。カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第1の層(カルボン酸層)2は、膜厚が薄くても高いアニオン排除性を有するものが好ましい。ここでいうアニオン排除性とは、陽イオン交換膜1へのアニオンの浸入や透過を妨げようとする性質をいう。かかる層構造の膜本体10とすることで、ナトリウムイオン等の陽イオンの選択的透過性を一層向上させることができる。
【0029】
カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第1の層(カルボン酸層)2に用いる重合体としては、例えば、上記した含フッ素系重合体のうち、CF
2=CFOCF
2CF(CF
2)O(CF
2)
2COOCH
3が好ましい。
スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層(スルホン酸層)3に用いる重合体としては、例えば、上記した含フッ素系重合体のうち、CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fが好ましい。
【0030】
(強化芯材)
本実施形態の陽イオン交換膜1は、上述したように膜本体の内部に配置された強化芯材4を有する。本実施形態において、強化芯材4とは、陽イオン交換膜の機械的強度や寸法安定性を強化する部材である。強化芯材4を膜本体の内部に配置させることにより、特に陽イオン交換膜の伸縮を所望の範囲に抑制できる。かかる陽イオン交換膜1は、加水分解や電気分解等によって、必要以上に伸縮せず、長期に亘り優れた寸法安定性を維持することができる。
【0031】
強化芯材4の形成方法は、特に限定されず、例えば、強化糸と呼ばれる糸を紡糸したものを用いて形成させてもよい。ここでいう強化糸とは、強化芯材4を構成する部材であって、陽イオン交換膜に所望の機械的強度を付与することができるものであり、かつ陽イオン交換膜1中で安定に存在できる糸のことをいう。かかる強化糸を紡糸した強化芯材4を用いることにより、一層優れた寸法安定性及び機械的強度を陽イオン交換膜1に付与することができる。
【0032】
強化芯材4及びこれに用いる強化糸の材料は、特に限定されないが、酸やアルカリ等に耐性を有する材料であることが好ましい。特に、長期にわたる耐熱性及び耐薬品性の観点から、フッ素系重合体を含むものがより好ましい。フッ素系重合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、トリフルオロクロルエチレン−エチレン共重合体及びフッ化ビニリデン重合体(PVDF)等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び耐薬品性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0033】
強化芯材4に用いられる強化糸の糸径は、特に限定されないが、20〜300デニールであることが好ましく、50〜250デニールであることがより好ましい。また、強化糸の織り密度(単位長さ あたりの打ち込み本数)は、5〜50本/インチが好ましい。
強化糸は、モノフィラメントでもよいし、マルチフィラメントでもよい。また、これらのヤーン、スリットヤーン等も使用できる。
【0034】
陽イオン交換膜1中における強化芯材4の形態としては、上記強化糸を用いた織布、不織布、編布を用いることができる。これらの中でも、製造の容易性の観点から、織布であることが好ましい。織布の織り方としては、平織りの織り方であることが好ましい。織布の厚みは、特に限定されないが、30〜250μmであることが好ましく、30〜150μmであることがより好ましい。
【0035】
膜本体における強化芯材4の織り方及び配置は、特に限定されず、陽イオン交換膜1の大きさや形状、陽イオン交換膜1に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。例えば、膜本体の所定の一方向に沿って強化芯材4を配置してもよいが、寸法安定性の観点から、所定の第一の方向に沿って強化芯材4を配置し、かつ第一の方向に対して略垂直である第二の方向に沿って別の強化芯材4を配置することが好ましい。膜本体の縦方向膜本体の内部において、略直行するように複数の強化芯材を配置することで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。例えば、膜本体の表面において縦方向に沿って配置された強化芯材4(縦糸)と横方向に沿って配置された強化芯材4(横糸)を織り込む配置が好ましい。縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせて打ち込んで織った平織りや、2本の経糸を捩りながら横糸と織り込んだ絡み織り、2本又は数本ずつ引き揃えて配置した縦糸に同数の横糸を打ち込んで織った斜子織り(ななこおり)等とすることが、寸法安定性、機械的強度及び製造容易性の観点からより好ましい。
【0036】
特に、陽イオン交換膜1のMD方向(Machine Direction方向)及びTD方向(Transverse Direction方向)の両方向に沿って強化芯材4が配置されていることが好ましい。すなわち、MD方向とTD方向に平織りされていることが好ましい。ここで、MD方向とは、後述する陽イオン交換膜の製造工程において、膜本体や各種芯材(例えば、強化芯材4、強化糸、後述する犠牲糸等)が搬送される方向(流れ方向)をいい、TD方向とは、MD方向と略垂直の方向をいう。そして、MD方向に沿って織られた糸をMD糸といい、TD方向に沿って織られた糸をTD糸という。通常、電解に用いる陽イオン交換膜1は、矩形状であり、長手方向がMD方向となり、幅方向がTD方向となることが多い。MD糸である強化芯材4とTD糸である強化芯材4を織り込むことで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。
【0037】
強化芯材4の開口率は、50%以上90%以下であることが好ましい。より好ましくは60%以上、さらに好ましくは65%以上である。
ここで、開口率とは、膜本体のいずれか一方の表面の面積(A)におけるイオン等の物質(電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン))が通過できる表面の総面積(B)の割合(B/A)をいう。
イオン等の物質が通過できる表面の総面積(B)とは、陽イオン交換膜1において、陽イオンや電解液等が、陽イオン交換膜1に含まれる強化芯材4や強化糸等によって遮断されない領域の面積の合計である。
図5は、本実施形態に係る陽イオン交換膜を構成する強化芯材4の開口率を説明するための概略図である。
図5は、陽イオン交換膜1の一部を拡大し、その領域内に強化芯材4の配置のみを図示しているものであり、他の部材については図示を省略している。ここで、縦方向に沿って配置された強化芯材4と横方向に配置された強化芯材4を含む陽イオン交換膜の投影面積(A)から強化芯材4の総面積(C)を減じることにより、上述した領域の面積(A)におけるイオン等の物質が通過できる領域の総面積(B)を求めることができる。
すなわち、開口率は、下記式(I)により求めることができる。
開口率=(B)/(A)=((A)−(C))/(A)・・・(I)
開口率の具体的な測定方法を説明する。
陽イオン交換膜(コーティング等を塗る前の陽イオン交換膜)の表面画像を撮影し、強化芯材が存在しない部分の面積から、上記(B)が求められる。そして、陽イオン交換膜の表面画像の面積から上記(A)を求め、上記(B)を上記(A)で除することによって、開口率が求められる。
【0038】
強化芯材4として、特に好ましい形態は、耐薬品性及び耐熱性の観点から、PTFEを含む強化芯材であり、強度の観点から、テープヤーン糸又は高配向モノフィラメントである。具体的には、PTFEからなる高強度多孔質シートをテープ状にスリットしたテープヤーン、又はPTFEからなる高度に配向したモノフィラメントの50〜300デニールを使用し、かつ、織り密度が10〜50本/インチである平織りであり、その厚みが50〜100μmの範囲である強化芯材であることがより好ましい。また、前記開口率は、60%以上であることが更に好ましい。
強化糸の形状としては、特に限定されず、丸糸、テープ状糸等が挙げられる。
【0039】
(連通孔)
本実施形態の陽イオン交換膜1は、連通孔を有することが好ましい。
連通孔とは、電解の際に発生する陽イオンや電解液の流路となり得る孔をいう。
連通孔とは、膜本体内部に形成されている管状の孔であり、後述する犠牲芯材(又は犠牲糸)が溶出することで形成される。連通孔の形状や径等は、犠牲芯材(犠牲糸)の形状や径を選択することによって制御することができる。
連通孔を膜本体の内部に形成することで、電解の際に発生する陽イオンや電解液の移動性を確保できる。
連通孔の形状は特に限定されない。後述する製法に従って陽イオン交換膜を製造する場合、酸又はアルカリに溶解する犠牲糸が、膜本体の連通孔を形成するため、連通孔の形状は犠牲糸の形状となる。
陽イオン交換膜の断面において、連通孔は、強化芯材の陽極側(スルホン酸層側)と陰極側(カルボン酸層側)を交互に通過するように形成されることが好ましい。かかる構造とすることで、連通孔の空間を流れる電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)が、膜本体の陽極側と陰極側の間を移送することができる。その結果、電解の際に陽イオンの流れに対する遮蔽が緩和されるため、陽イオン交換膜1の電気抵抗を更に低くすることができる。
【0040】
連通孔は、本実施形態の陽イオン交換膜1を構成する膜本体の所定の一方向のみに沿って形成されていてもよいが、より安定した電解性能を発揮するという観点から、膜本体の縦方向と横方向との両方向に形成されていることが好ましい。
【0041】
(コーティング層)
本実施形態の陽イオン交換膜は、電解時に陰極側表面及び陽極側表面にガスが付着することを防止する観点から、必要に応じて、膜本体のいずれか一方の表面の少なくとも一部を被覆するコーティング層を更に有することが好ましい。
図6は、本実施形態の陽イオン交換膜の他の一例の断面模式図である。
陽イオン交換膜1は、カルボン酸層である第1の層2と、スルホン酸層である第2の層3とを有する膜本体と、当該膜本体の内部に配置された強化芯材4とを有している。
膜本体の第1の層2側の表面がコーティング層11により被覆され、膜本体の第2の層3側の表面がコーティング層12により被覆されている。
コーティング層11、12により膜本体の表面を被覆することで、電解の際に発生するガスが膜表面に付着することを防止できる。これにより、陽イオンの膜透過性を一層向上させることができるので、電解電圧を一層低くすることができる。
【0042】
コーティング層11、12を構成する材料としては、特に限定されないが、ガス付着防止の観点から、無機物を含むことが好ましい。無機物としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられる。
コーティング層11、12を膜本体の表面に形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散させた液を、スプレー等により塗布する方法(スプレー法)が挙げられる。バインダーポリマーとしては、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物等が挙げられる。塗布条件については、特に限定されず、例えば、60℃でスプレーを用いることとすることができる。スプレー法以外の方法としては、例えば、ロールコート等が挙げられる。
【0043】
コーティング層11、12の平均厚みは、ガス付着防止と厚みによる電気抵抗増加の観点から、1〜10μmであることが好ましい。
図6の陽イオン交換膜は、
図1に示す陽イオン交換膜の表面をコーティング層11、12で被覆したものであり、コーティング層11、12以外の部材及び構成については、陽イオン交換膜1として既に説明した部材及び構成を同様に採用することができる。
【0044】
(凸部)
図4に示すように、本実施形態の陽イオン交換膜は、膜本体の表面に、断面視において、高さが20μm以上である凸部5が形成されていることが好ましい。
特に、第2の層(スルホン酸層)3が、凸部5を有することによって、電解の際に電解液が十分に膜本体に供給されることから、膜の損傷をより低減することができる。
通常、電解電圧を下げる目的で、陽イオン交換膜は陽極と密着した状態で使用される。一方、陽イオン交換膜と陽極とが密着すると、電解液(塩水等)の供給がされづらくなり、水の電解が起こり、H
+が生じる。H
+が多量に発生するとカルボン酸層が損傷することが知られている。そこで、陽イオン交換膜の表面に凸部5を形成することにより、陽イオン交換膜と陽極との密着を抑制することができるため、電解液の供給をスムーズに行うことができる。その結果、カルボン酸層が損傷することを防止できる。
【0045】
凸部5の配置密度は、特に限定されないが、電解液を膜に十分に供給する観点から、20〜1500個/cm
2であることが好ましく、50〜1200個/cm
2であることがより好ましい。
凸部5の形状は、特に限定されないが、円錐状、多角錐状、円錐台状、多角錐台状、半球状、ドーム状からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。なおここで言う半球状とは、ドーム状等とよばれる形状も包含する。
【0046】
上述した凸部5の高さ、形状及び配置密度は、以下の方法によりそれぞれ測定・確認することができる。
まず、陽イオン交換膜の1000μm四方の範囲の膜表面において、高さが一番低い点を基準とする。そして、その基準点から高さが20μm以上である部分を凸部とする。
高さの測定方法としては、KEYENCE社製「カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9710)」を用いて行う。具体的には、乾燥状態の陽イオン交換膜から、任意に10cm×10cmの箇所を切り出し、平滑な板と陽イオン交換膜の陽極側を両面テープで固定し、陽イオン交換膜の陰極側を測定レンズに向けるよう測定ステージにセットする。各10cm×10cmの膜において、1000μm四方の測定範囲で、陽イオン交換膜表面における形状を観測し、高さが一番低い点を基準とし、そこからの高さを測定することで凸部を観測することができる。
また、凸部の配置密度については、任意に10cm×10cmの膜を3箇所切り出して、その各10cm×10cmの膜において、1000μm四方の測定範囲で9箇所測定した値を平均した値である。
【0047】
〔陽イオン交換膜の製造方法〕
本実施形態の陽イオン交換膜の好適な製造方法としては、以下の(1)〜(5)の工程を有する方法が挙げられる。
(1)イオン交換基、又は加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を製造する工程。
(2)複数の強化芯材を織り込むことにより補強材を得る、又は、酸又はアルカリに溶解する性質を有し連通孔を形成する犠牲糸と強化芯材とを織り込むことにより隣接する強化芯材同士の間に犠牲糸が配置された補強材を得る工程。
(3)イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する前記含フッ素系重合体をフィルム化してフィルムを得る工程。
(4)前記フィルムに前記補強材を埋め込んで、前記補強材が内部に配置された膜本体を得る工程。
(5)酸又はアルカリで前記犠牲糸を溶解させることで、膜本体の内部に連通孔を形成させる工程(加水分解工程)。
本実施形態に係る陽イオン交換膜の製造方法は、(4)の前記補強材と前記フィルムを埋め込む工程において、温度、圧力、時間を制御することによって、強化芯材が膜内部の特定の位置に配置された陽イオン交換膜とすることができる。以下詳細に説明する。
【0048】
(1)工程:含フッ素系重合体の製造工程
本実施形態において、含フッ素系重合体のイオン交換容量を制御するためには、その製造工程において原料の単量体の混合比等を調整すればよい。
【0049】
(2)工程:補強材を得る工程
補強材とは、強化糸を織った織布等である。補強材が膜内に埋め込まれることで、強化芯材が形成される。
連通孔を有する陽イオン交換膜とするときには、犠牲糸も一緒に織り込み、補強材を形成する。この場合の犠牲糸の混織量は、好ましくは補強材全体の10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。あるいは、20〜50デニールの太さを有し、モノフィラメント又はマルチフィラメントからなるポリビニルアルコール等も好ましい。膜内部に埋め込まれた犠牲糸は、後述する加水分解の工程で溶出して、膜内部に連通孔を形成することとなる。なお、(2)工程において、強化芯材や犠牲糸等の配置を調整することで、連通孔の配置等を制御することができる。
【0050】
(3)工程:フィルム化工程
(3)工程では、(1)工程で得られた含フッ素重合体を、押出し機を用いてフィルム化する。フィルムは単層構造でもよいし、上記したようにスルホン酸層とカルボン酸層の2層構造でもよいし、3層以上の多層構造であってもよい。
フィルム化する方法としては以下の方法が挙げられる。
先ず、スルホン酸層とカルボン酸層の2層構造の場合は、以下の方法が挙げられる。
・カルボン酸層を形成するカルボン酸基を有する含フッ素重合体と、スルホン酸層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体をそれぞれ別々にフィルム化する方法。
・カルボン酸層を形成するカルボン酸基を有する含フッ素重合体と、スルホン酸層を形成するスルホン酸基を有する含フッ素重合体とを共押出しにより、複合フィルムとする方法。
次に、3層以上の多層構造の場合は、以下の方法が挙げられる。
・各層を構成する含フッ素重合体をそれぞれ別々にフィルム化する方法。
・特定の2層を構成する含フッ素重合体を共押出しにより、複合フィルムとし、その他の層を構成する含フッ素重合体は別々にフィルム化する方法。
・各層を構成する含フッ素重合体を共押出しにより、複合フィルムとする方法。
複数層を共押出しすることは、界面の接着強度を高めることに寄与するため、好ましい。
【0051】
(4)工程:膜本体を得る工程
(4)工程では、(2)工程で得た補強材を、(3)工程で得たフィルムの内部に埋め込むことで、補強材が内在する膜本体を得る。
埋め込む方法としては、加熱源及び/又は真空源を内部に有し、表面上に多数の細孔を有する平板又はドラム上に、透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、補強材、フィルムの順に積層して、フィルムの含フッ素重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法が挙げられる。
先ず、スルホン酸層とカルボン酸層の2層構造の場合は、ドラム上に、離型紙、補強材、スルホン酸層を構成するフィルム、カルボン酸層を構成するフィルム、の順に積層して一体化する方法、または、離型紙、補強材、スルホン酸層を補強材側に向けた複合フィルム、の順に積層して一体化する方法、離型紙、スルホン酸層を構成するフィルム、補強材、カルボン酸層を構成するフィルム、の順に積層して一体化する方法が挙げられる。
次に、3枚以上のフィルムを積層した多層構造とする場合は、ドラム上に、離型紙、補強材、各層を構成する複数枚のフィルム、の順に積層して一体化する方法、ドラム上に、離型紙、各層を構成する複数枚のフィルム、補強材、各層を構成する複数枚のフィルム、の順に積層して一体化する方法等が挙げられる。3層以上の多層構造とする場合は、カルボン酸層を構成するフィルムは、ドラムから一番離れた位置に積層し、スルホン酸層を構成するフィルムは、ドラムに近い位置に積層するように調整することが好ましい。
より好ましくは、ドラム上に、離型紙、スルホン層を構成するフィルム、補強材、スルホン酸層側を補強材に向けた複合フィルム、の順に積層して一体化する方法である。この方法により積層して一体化した3層構造の陽イオン交換膜は、距離CDに対する距離BDの比率を大きくすることができるため、好ましい。
さらに、補強材が膜内部に固定されているため、陽イオン交換膜の機械的強度を十分に保持できる。なお、ここで説明した積層のバリエーションは一例であり、所望する膜本体の層構成や物性等を考慮して、適宜好適な積層パターン(例えば、各層の組合せ等)を選択した上で、共押出しすることができる。
【0052】
本実施形態に係る陽イオン交換膜の製造方法では、各重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する工程において、温度、減圧の圧力、時間を制御することで、膜内部における強化芯材の位置を制御することができる。
温度を高くすると、重合体が溶融して流動性が高まり、距離BDを大きくすることができる。温度としては、積層する際の補強材や含フッ素重合体によって異なるが、210〜260℃であることが好ましく、減圧度、時間と共に、この温度範囲で制御する。
減圧の際の圧力(減圧度)を大きくすると、重合体が強化芯材に対して埋め込まれ易くなるため、距離BDを大きくすることができる。ドラムで吸引するときの減圧度としては、積層する際の補強材や含フッ素重合体によって異なるが、65〜90kPaであることが好ましく、温度、時間と共に、この減圧度の範囲で制御する。
時間を長くすると、重合体が溶融して流れる時間が長くなるため、距離BDを大きくすることができる。埋め込み基にイオン交換膜が乗っている時間としては、積層する際の補強材や含フッ素重合体によって異なるが、0.5分〜5分であることが好ましく、温度、減圧度と共に、この時間範囲で制御する。
【0053】
陽イオン交換膜の電気的性能をさらに高める目的で、スルホン酸層とカルボン酸層との間に、カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層をさらに介在させることや、スルホン酸層の代わりにカルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する層を用いることも可能である。
この層を形成する方法は、カルボン酸エステル官能基を含有する重合体と、スルホニルフルオライド官能基を含有する重合体と、を別々に製造した後に混合する方法でもよいし、カルボン酸エステル官能基を含有する単量体とスルホニルフルオライド官能基を含有する単量体の両者を共重合したものを使用する方法でもよい。
【0054】
カルボン酸エステル官能基とスルホニルフルオライド官能基の両方を含有する混合層を陽イオン交換膜の構成とする場合には、カルボン酸層とこの混合層との共押出しフィルムを成形し、スルホン酸層はこれとは別に単独でフィルム化し、前述の方法で積層してもよいし、カルボン酸層/混合層/スルホン酸層の3層を一度に共押し出しでフィルム化してもよい。
このようにして、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体を、補強材上に形成することができる。
【0055】
本実施形態の陽イオン交換膜は、上述したように、所定の距離CDに対する所定の距離BDの比率(BD/CD)が0.11〜0.5である。
また、所定の距離ACに対する距離ABの比率(AB/AC)が、0.52〜0.8であることが好ましい。
強化芯材4の膜本体との相対的な位置関係を制御するためには、上述したように、膜本体を得る工程において、各重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する際、温度、減圧の圧力、時間を適宜制御し、膜本体内部における強化芯材の位置を制御すればよい。
【0056】
また、本実施形態に係る陽イオン交換膜において、膜本体の表面に凸部を形成する方法としては、特に限定されず、樹脂表面に凸部を形成する公知の方法を採用できる。本実施形態において膜本体の表面に凸部形成する方法としては、具体的には、膜本体の表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。例えば、前記した複合フィルムと補強材等とを一体化する際に、予めエンボス加工した離型紙を用いることによって、上記の凸部を形成させることができる。エンボス加工により凸部を形成する場合、凸部の高さや配置密度の制御は、転写するエンボス形状(離型紙の形状)を制御することで行うことができる。
【0057】
(5)工程:加水分解する工程
(5)工程では、前記(4)工程で得られた膜本体を酸又はアルカリで加水分解して、陽イオン交換膜を製造する。補強材に犠牲糸が含まれている場合、酸又はアルカリで溶解除去することで、膜本体に連通孔を形成させることができる。
犠牲糸は、陽イオン交換膜の製造工程や電解環境下において、酸又はアルカリに対して溶解性を有するものであり、酸又はアルカリにより犠牲糸が溶出することで当該部位に連通孔が形成される。このようにして、膜本体に連通孔が形成されたイオン交換膜を得ることができる。
【0058】
(5)工程で用いる酸又はアルカリは、犠牲糸を溶解させるものであればよく、その種類は特に限定されない。酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、含フッ素酢酸等が挙げられる。
アルカリとしては、例えば、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0059】
ここで、犠牲糸を溶出させることで連通孔を形成する工程についてより詳細に説明する。
図7(a)、(b)は、本実施形態における陽イオン交換膜の連通孔を形成する方法を説明するための模式図である。
図7(a)では、強化芯材4と犠牲糸504a(これにより形成される連通孔504)のみを図示しており、膜本体等の他の部材については、図示を省略している。まず、強化芯材4と犠牲糸504aを編みこみ補強材とする。そして、前記(5)工程において犠牲糸504aが溶出することで、
図7(b)に示すように連通孔504及び開孔部(図示せず)が形成される。
【0060】
上記方法によれば、陽イオン交換膜の膜本体内部において強化芯材4、連通孔504を如何なる配置とするのかに応じて、強化芯材4と犠牲糸504aの編み込み方を調整すればよいため、簡便である。
図7(a)では、紙面において縦方向と横方向の両方向に沿って強化芯材4と犠牲糸504aを編り込んだ平織りの補強材を例示しているが、必要に応じて補強材における強化芯材4と犠牲糸504aの配置を変更することができる。
また、(5)工程では、上述した(4)工程で得られた膜本体を加水分解して、イオン交換基前駆体にイオン交換基を導入することもできる。
【0061】
上述した(1)工程〜(5)工程を経た後、得られた陽イオン交換膜の表面に、コーティング層を形成してもよい。
コーティング層は、特に限定されず、公知の方法により形成できる。例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散させた液を、スプレー等により塗布する方法(スプレー法)が挙げられる。バインダーポリマーとしては、例えば、スルホン型イオン交換基に変換し得る官能基を有するビニル化合物等が挙げられる。塗布条件については、特に限定されず、例えば、60℃でスプレーを用いることとすることができる。スプレー法以外の方法としては、例えば、ロールコート等が挙げられる。
【0062】
〔電解槽〕
本実施形態の陽イオン交換膜は、これを用いて電解槽として使用することができる。
図8は、本実施形態に係る電解槽の一実施形態の模式図である。
本実施形態の電解槽100は、陽極200と、陰極300と、陽極200と陰極300の間に配置された陽イオン交換膜1を少なくとも備える。
ここでは、上記した陽イオン交換膜1を備えた電解槽100を一例として説明しているが、これに限定されるものではなく、本実施形態の効果の範囲内で種々構成を変形して実施することができる。かかる電解槽100は、種々の電解に使用できるが、以下、代表例として、塩化アルカリ水溶液の電解に使用する場合について説明する。
【0063】
電解条件は、特に限定されず、公知の条件で行うことができる。
例えば、陽極室に2.5〜5.5規定(N)の塩化アルカリ水溶液を供給し、陰極室は水又は希釈した水酸化アルカリ水溶液を供給し、電解温度が50〜120℃、電流密度が5〜100A/dm
2の条件で電解することができる。
【0064】
本実施形態に係る電解槽100の構成は、特に限定されず、例えば、単極式でも複極式でもよい。電解槽100を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、陽極室の材料としては、塩化アルカリ及び塩素に耐性があるチタン等が好ましく、陰極室の材料としては、水酸化アルカリ及び水素に耐性があるニッケル等が好ましい。電極の配置は、陽イオン交換膜1と陽極200との間に適当な間隔を設けて配置してもよいが、陽極200と陽イオン交換膜1が接触して配置されていても、何ら問題なく使用できる。また、陰極は一般的には陽イオン交換膜と適当な間隔を設けて配置されているが、この間隔がない接触型の電解槽(ゼロギャップ式電解槽)であっても、何ら問題なく使用できる。
【0065】
本実施形態の陽イオン交換膜1を用いることにより、安定して運転することができる。従来であれば、電解する塩水にSiO
2等の不純物が含有した場合に電流効率の低下がおきることがあったが、本実施形態の陽イオン交換膜を用いることにより、電流効率の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の単位において、特に断りがない限り、質量基準に基づくものとする。
【0067】
(膜断面の観測)
後述する実施例1〜3、比較例1〜3の陽イオン交換膜において、下記に定義する点A〜点Dを結ぶ各距離(BD、CD、AB、AC)を測定は、以下の通りに行った。
点A〜点Dは、以下の通りとする。
点A〜Dは、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含む第1の層と、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層との積層方向における断面において定められる。
A:強化芯材の中心
B:前記点Aからスルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層の膜表面までの距離が最短となる直線を仮定したとき、当該直線上において、スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む第2の層の膜表面との交点
C:前記直線上において、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む第1の層の膜表面との交点
D:前記直線上において、前記強化芯材の外周との交点であって、Bと近い方の交点
加水分解を行う前の複合膜を、MD方向の強化芯材を16本含み、TD方向の強化芯材を16本含む範囲で、サンプルを3枚切り出した。
切り出したサンプルを、
図9に示すように、強化芯材の交点を結び、TD方向の強化芯材4を三本跨ぐように、MD方向の強化芯材の1本目から16本目まで、
図9中の破線のように斜めにスライスした。
スライスしたサンプルの断面を、顕微鏡(OLYMPUS BH−2)を用いて、各距離の測定を行った。
各距離の値は、各サンプルで、5箇所の断面において測定し、計15箇所で測定した値の平均値とした。
【0068】
(引き裂き強度評価)
陽イオン交換膜の引き裂き強度評価は、以下の通りに行った。
引き裂き試験機(東洋精機 エルメンドルフ)の捨て針を針制御版に接触させ、振り子を動かして振り子についている目盛盤のゼロに合うように捨て針制御板の位置を調整した。
3回振り子を動かし、確実に目盛盤がゼロに合うことを確認した。
次にケン化(加水分解)後、水で平衡状態にした後述する実施例1〜3、比較例1〜3のイオン交換膜を、TD方向75mmMD方向63mmと、TD方向63mmMD方向75mmのサイズで、それぞれ7枚ずつ切り出し、カルボン酸基を有する含フッ素重合体の層の面側を手前にして、幅75mm側を、前記引き裂き試験機にセットして締め付けた。
幅63mm側の方に、引き裂き試験機のナイフを用いて、深さ20mmの切り込みを入れて、捨て針を針制御板に接触させた。
引き裂き試験機のスイッチを押し、振り子を動かし膜の引き裂き強度を測定した。
評価結果は、TD方向、MD方向のそれぞれについて、7枚中最大値、最小値を削除した5枚の結果の平均値とした。
【0069】
〔実施例1〕
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、150デニールのテープヤーンに900回/mの撚りを掛けて糸状にしたものを用いた(以下、PTFE糸という。)。
まず、PTFE糸を22本/インチで平織りし、織布(補強材)を得た。
次に、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOCH
3との共重合体で乾燥樹脂のポリマーA(イオン交換容量が0.92mg当量/g)、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーB(イオン交換容量が1.1mg当量/g)を作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にてフィルムX1を得た。フィルムX1はポリマーA層の厚みが28μm、ポリマーB層の厚みが77μmであるものとした。
また、ポリマーBを使用しフィルムX2を得た。フィルムX2の厚みは51μmとした。
前記補強材、フィルムX1及びX2を、表面に微細孔を有し、内部に加熱源及び真空源を有するドラム上に、離型紙、フィルムX2、補強材、フィルムX1の順に積層し、加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで複合膜を得た。
このときの加工温度は223℃、減圧度は77kPa、埋め込み時間は2分であった。
得られた複合膜を95℃で1時間加水分解した後、水洗、乾燥した。
更にポリマーBの酸型ポリマーの5質量%エタノール溶液に、1次粒径1μmの酸化ジルコニウムを20質量%加え、分散させた懸濁液を調合し、この懸濁液をスプレー法で上記の複合膜の両面に噴霧し、コーティング層を複合膜の表面に形成し、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の断面を顕微鏡で観察した結果を、下記表1に示した。
上記のように得られた陽イオン交換膜は、引き裂き強度がMD方向は5.6kg、TD方向は5.6kgであった。
【0070】
〔実施例2〕
ポリマーAとしてイオン交換容量が0.67mg当量/gであるポリマー、ポリマーBとしてイオン交換容量が0.95mg当量/gであるポリマーを用いた。
イオン交換容量は、単量体の混合比を調整することにより制御した。
また、フィルムX1において、ポリマーA層の厚みを17μm、ポリマーB層の厚みを53μmとした。
また、各材料を積層する工程において、加工温度を221℃、減圧度を77kPaに変更したこと以外は、実施例1と同様に陽イオン交換膜を作製した。
得られた陽イオン交換膜の断面を顕微鏡で観察した結果を、下記表1に示した。
上記のように得られた陽イオン交換膜は、引き裂き強度がMD方向は5.3kg、TD方向は6.0kgであった。
【0071】
〔比較例1〕
フィルムX1において、ポリマーA層の厚みを25μm、ポリマーB層の厚みを38μmとした。 また、各材料を積層する工程において、加工温度を220℃、減圧度を70kPaに変更したこと以外は、実施例1と同様に陽イオン交換膜を作製した。
得られた陽イオン交換膜の断面を顕微鏡で観察した結果を、下記表1に示した。
上記のように得られた陽イオン交換膜は、引き裂き強度がMD方向は4.2kg、TD方向は4.6kgであった。
【0072】
〔比較例2〕
各材料を積層する工程において、加工温度を223℃、減圧度を70kPaに変更したこと以外は、実施例2と同様に陽イオン交換膜を作製した。
得られた陽イオン交換膜の断面を顕微鏡で観察した結果を、下記表1に示した。
上記のように得られた陽イオン交換膜は、引き裂き強度がMD方向は4.7kg、TD方向は5.4kgであった。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1及び2は、BD/CDが0.11〜0.5であり、これらは比較例1及び2に比べて、引き裂き強度が高いことが分かった。
【0075】
〔実施例3〕
補強材を構成する強化糸として、実施例1で用いたPTFE糸を用いた。
犠牲糸として、90デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)に200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。
そして、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸がPTFE間に2本配置されるように、平織りして織布(補強材)を得た(
図7参照)。
次に、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2COOCH
3との共重合体で乾燥樹脂のポリマーA(イオン交換容量が0.85mg当量/g)、CF
2=CF
2とCF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2Fとの共重合体で乾燥樹脂のポリマーB(イオン交換容量が1.0mg当量/g)を作製した。
これらのポリマーA及びBを使用し、共押出しTダイ法にて、フィルムYを得た。ポリマーA層の厚みが15μm、ポリマーB層の厚みが104μmであるものとした。
ここで得られた補強材、フィルムYを、表面に微細孔を有し、内部に加熱源及び真空源を有するドラム上に、離型紙、補強材、フィルムYの順に積層し、加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで複合膜を得た。このときの加工温度は243℃、減圧度は77kPa、埋め込み時間は2分であった。
その後、実施例1と同様に作製し、陽イオン交換膜を得た。
得られた陽イオン交換膜の断面を顕微鏡で観察した結果は、下記表2に示した。
上記のように得られた陽イオン交換膜は、引き裂き強度がMD方向は3.0kg、TD方向は3.0kgであった。
【0076】
〔比較例3〕
各材料を積層する工程において、加工温度を235℃、減圧度を77kPaに変更したこと以外は、実施例3と同様に陽イオン交換膜を作製した。
得られた陽イオン交換膜の断面を顕微鏡で観察した結果は、下記表2に示した。
上記のように得られた陽イオン交換膜は、引き裂き強度がMD方向は2.6kg、TD方向は2.6kgであった。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例3及び比較例3は、補強材の中に犠牲糸が一緒に埋め込まれ、膜本体に連通孔が形成されている陽イオン交換膜である。
実施例3は、BD/CDが0.11〜0.5であり、比較例3に比べて引き裂き強度が高いことが分かった。