(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
ボルテゾミブ((N-(2-ピラジン)カルボニル-L-フェニルアラニン-L-ロイシンボロン酸);Velcade(登録商標)の名でMillennium Pharmaceuticals社から販売されている)は、26Sプロテアソーム阻害剤であり、様々な腫瘍性疾患の治療(特に、再発した多発性骨髄腫及びマントル細胞リンパ腫の治療)における使用が認可されている。ボルテゾミブ中のホウ素原子がプロテアソームの触媒部位に結合し、結果としてプロテアソームの阻害及びアポトーシス促進性因子分解の減少がもたらされ、そのことにより処置細胞においてアポトーシスが誘発されると考えられている。ボルテゾミブ及び関連化合物が米国特許第5780454号、第6083903号、第6297217号、第6617317号、第6713446号、第6747150号、第6958319号、第7119080号に記載されている。これらの米国特許及び本明細書で言及する他の外部資料はその全体が引用により本明細書に組み入れられる。組み入れられた参照文献における用語の定義や用法が本明細書において提供されるその用語の定義と一致せず、あるいは相反する場合には、本明細書で提供された定義が適用され参照文献における定義は適用されない。
【0004】
残念ながら、アミノアルキルボロン酸の多く(ボルテゾミブを含む)は、遊離α-アミノ基の不安定性のために自発的に1,3-転位反応をして同族アミンになってしまう。これらの化合物は、分解されてホウ酸及びアルコールを生じ、酸化反応を起こし、この酸化反応によりC-B結合(対応するC-C結合と比べてより長く、より弱い)が容易に壊される(例えば、Adele Bolognese, Anna Esposito, MicheleManfra, Lucio Catalano, Fara Petruzziello, Maria CarmenMartorelli, Raffaella Pagliuca,VittoriaMazzarelli, Maria Ottiero, Melania Scalfaro,及びBruno Rotoli. Advances in Hematology, 2009 (2009) 1-5を参照のこと)。ボルテゾミブのストレステスト及び加速安定性試験においてもそのような不安定性は裏付けられており、注射用水溶液中のボルテゾミブは本質的に不安定であるという知見が確立されている。例えば、エタノール:標準生理食塩水(2:98、pH 2.8)中では、ボルテゾミブ(0.5mg/mL)は25℃において1ヶ月で20%分解し、プロピレングリコール:エタノール:水(50:10:40)中ではこの化合物の安定性は改善したがそれでも25℃で8ヶ月間貯蔵したところ20%分解した。その他の要因の中でも、PEG300は自動酸化を起こすと同時にペルオキシドを生成することが知られていることから、PEG300:EtOH:H2O (40:10:50)溶媒中で見られたボルテゾミブの分解はペルオキシドの存在によるものと推測された(Journal of Pharmaceutical Sciences, 89, 2000 758-765)。
【0005】
別の研究では、ボルテゾミブは多くの実験条件下で酸化分解を受けること、及び、アルキルボランの酸化(ホウ酸エステルを生じる)もまたアルキル過酸、アルキルペルオキシド、又は酸素ラジカル種との反応により起こり得ることが報告されている(Brown HC. 1972. Boranes in organic chemistry. Ithaca, NY: Cornell University Press)。最初の酸化はペルオキシド又は分子状酸素及びそのラジカルに起因すると考えることができ、通常は、光、金属イオン、及びアルカリ性条件が酸化を促進する。従ってこれらの条件はボルテゾミブあるいはその他のアルキルボロン酸誘導体の安定性にとっては好ましくないものであると考えられる(Hussain MA, Knabb R, Aungust BJ, Kettner C.1991. Anticoagulant activity of a peptide boronic acid thrombin inhibitor by various routes of administration in rats. Peptides 12:1153-1154)。
【0006】
Kuivilaらは、ジオール及びポリオールからボロン酸エステルを形成することを報告しており、マンニトールやソルビトールのような糖類及びカテコールやピナコールのような1,2-ジオールと反応させてフェニルボロン酸のエステルを数種類調製したことを報告している(J. Org. Chem. 1954, 8, 780-783)。水中でボロン酸とポリオールとを相互作用させることによってボロン酸エステルを可逆的に形成することはLorandとEdwardsによって最初に見出された(J. Org. Chem. 1959, 24, 769-774)。米国特許第7119080号、第6713446号、第6958319号、第6747150号、及び第6297217号は、凍結乾燥後にボロン酸官能基とマンニトールとのジエステルが形成されることを開示している。そのようにして形成されたエステルから、注射用に生理食塩水中で薬剤製品を再構成する際に、活性ボロン酸が得られる。同様に、クエン酸のようなアルファヒドロキシ、ベータカルボン酸とボロン酸とのエステルを、充填剤及びバッファーとあわせて製剤化する試みがWO 2009/154737に開示されている。
【0007】
ボルテゾミブの溶液中安定性の問題を回避するために、化合物を凍結乾燥しておいて注射の前に再構成することができる。しかしながらそのようなアプローチでは、ボルテゾミブの安定性にまつわる問題は解決されるとしても、未使用の再構成溶液は数時間中あるいは数日中に注射しなければならない(例えば、Stability of unused reconstituted bortezomib in original manufacturer vials; J Oncol Pharm Pract. 2010 Oct 6、又はStability of bortezomib 1-mg/mL solution in plastic syringe and glass vial; Ann Pharmacother. 2005 Sep;39(9):1462-6を参照のこと)。同様に、マンニトールのボルテゾミブエステルは、再構成されると、室温で保存する場合は8時間以内の投与にしか適さない。さらに別の既知のアプローチとしては、WO2008075376A1に記載されているように安定性の向上した特定の多形型を単離すること、及びWO2010089768A2に記載されているようにトロメタミンを用いて凍結乾燥状態とすること、が挙げられる。WO2010039762A2には、特定の有機溶媒とその他の成分とを有するさらに別の製剤が記載されている。残念ながら、このような既知の組成物のすべてあるいはその殆どは、ボルテゾミブに顕著な安定性、特に製剤が液状製剤である場合の貯蔵安定性を与えるには至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、当該技術分野では多くのボルテゾミブ製剤が知られてはいるが、そのすべてあるいはその殆どは、ボルテゾミブを溶液とする際(特に、長期間溶液状態におく場合)に安定性が限られてくるという問題を有している。その結果、現在使用されている製品は投薬(dosing)の融通が利かない。さらに重要なことに、現在知られているか、あるいは販売されている製品では、すぐに使えて安定性の優れた多回投与用液状製剤を得ることができない。従って、より安定性の優れた改良型液状ボルテゾミブ製剤を提供することが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ボルテゾミブの長期安定性が著しく向上した溶液型ボルテゾミブ組成物及び溶液型ボルテゾミブについての方法に関する。最も好ましい態様において、企図される製剤は、単一相であって実質的に非水性の液状製剤であり、及び/又は、ボルテゾミブがヘテロ二官能性ルイス塩基供与体化合物と共に製剤化されてルイス供与体‐受容体複合体を形成している製剤である。
【0010】
本発明の好ましい一態様においては、液状単一相多回投与用薬学組成物が調製され、ボルテゾミブを含有する液状製剤を含み単回使用又は複数回使用に適した容器中において提供され、この液状製剤は注射に適した実質的に非水性の溶媒系であり、この溶媒系は主成分としてプロピレングリコールを含む。本明細書において使用される場合、「多回投与用(multi-dosage)」及び「多回投与用(multi-dose)」という用語は互換的に使用され、薬学組成物又は製剤との関連でこの用語が使用される場合には、薬学組成物又は製剤の少なくとも2回の独立別個の投与(対象は同じ患者でも異なった患者でもよい)に適した体積及び/又は量の活性医薬成分を有する薬学組成物又は製剤を表す。最も好ましくは、そのような製剤中には、ボルテゾミブが薬学的に有効な濃度で、かつ、独立した少なくとも2回分の投薬量として十分な量で存在しており、また溶媒系は、液状製剤が環境条件(すなわち、25 ℃、60 %相対湿度)において少なくとも3ヶ月以上貯蔵されたときにボルテゾミブの分解が10重量%未満(より典型的には8重量%以下、最も典型的には2〜6重量%以下)のレベルに維持されるように調製されている。
【0011】
実質的に非水性であるこの溶媒系は、少なくとも50体積%、より好ましくは少なくとも75体積%、最も好ましくは100体積%のプロピレングリコールを含むことが特に好ましい。そのような製剤において、実質的に非水性であるこの溶媒系は50体積%以下、より好ましくは25体積%以下、最も好ましくは15体積%以下の極性溶媒を含むことがさらにまた好ましい。その他の選択肢がある中で、極性溶媒はエタノールであることが最も好ましい。あるいは、実質的に非水性であるこの溶媒系は、15体積%以下、より典型的には10体積%以下の極性溶媒を含んでいてもよい。そのような場合には極性溶媒は水であることが好ましい。
【0012】
本発明の別の好ましい態様においては、薬学組成物はボルテゾミブとヘテロ二官能性ルイス塩基とを含有し、ここで、これらのボルテゾミブとヘテロ二官能性ルイス塩基は共にルイス供与体‐受容体複合体の形態で存在し、特に好ましいヘテロ二官能性ルイス塩基は少なくとも2つの異なる供与基(最も好ましくは-NH
2、-SH、COOH、及び-OHの中から選択される)を有する。そのような企図される製剤は凍結乾燥させるか又は溶液とすることが好ましい。
【0013】
そのような製剤においては、ボルテゾミブとヘテロ二官能性ルイス塩基が1:200の比率で、より好ましくは5:80の比率で、最も好ましくは20:40の比率で存在していることが一般的に好ましい。最も典型的には、好ましいヘテロ二官能性ルイス塩基として、アミノ酸(例えば天然アミノ酸又はN-アセチル化アミノ酸)、ペプチド(例えば天然又は合成のジペプチドもしくはトリペプチド)、及び置換ポリエチレングリコールが挙げられる。特に好ましい置換ポリエチレングリコールは式Iの構造を有する。
【化1】
【0014】
上記式中、nは2〜5,000の整数であり、それぞれのAは独立して水素、-NH2、-SH、-COOH、及び-OHからなる群から選択される。組成物が凍結乾燥される場合には、バッファー剤、凍結乾燥保護剤(lyoprotectant)、凍結保護剤(cryoprotectant)、保存剤、及び/又は抗酸化剤が製剤に含まれることが好ましい。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、貯蔵安定性液状薬学組成物はボルテゾミブを単一相液状製剤中に含み、この製剤は、注射に適した実質的に非水性の溶媒系、バッファー、及びボルテゾミブを含有し、ここで、製剤中のボルテゾミブは治療上有効な濃度(例えば1 mg/ml〜5 mg/ml)で存在する。特に好ましい組成物においては、この溶媒系は、プロピレングリコールを主要成分として(すなわち、少なくとも50体積%、より典型的には少なくとも70体積%、最も典型的には少なくとも90体積%)含む。さらに、液状製剤を貯蔵条件(例えば、50 ℃で少なくとも15日間)で貯蔵する際に、例えば、アミド分解産物、第一カルビノールアミド分解産物、及び第二カルビノールアミド分解産物のうちの少なくとも一つの形成を有効に抑制できるように、溶媒系、バッファー、及びpHが選択されることも企図される。別の見方をすると、特に好ましい非水性溶媒系の一つは、実質的にプロピレングリコールからなるか又は少なくとも70体積%(より典型的には少なくとも90体積%)のプロピレングリコールを含み、とりわけ好ましいバッファーとして酢酸バッファー水溶液を(例えば0.05〜0.25Mの濃度で)特にpH 3にて含む。
【0016】
発明者はまた、容器(例えば、バイアル、アンプル、静脈点滴用バッグ、又は注射器)も企図しており、この容器は複数回使用容器の構成であってもなくてもよい。そのような使用においてこの容器は、独立した複数回の投与に適した量の液状製剤を含む。
【0017】
別の見地から、発明者は、溶液中でボルテゾミブの複数の分解産物が形成することを抑制する方法も企図している。特に好ましい方法は、注射に適した実質的に非水性の溶媒系、バッファー、及びボルテゾミブから単一相液状製剤を調合する工程を含み、ここでボルテゾミブは薬学的に有効な濃度(好ましくは1 mg/ml〜5 mg/ml)で製剤中に存在する。最も好ましくは、溶媒系は実質的にプロピレングリコールからなるか又は主成分としてプロピレングリコールを含み、この溶媒系、バッファー、及びpHは、液状製剤を貯蔵条件(例えば、50 ℃で15日間にわたる貯蔵)で貯蔵する際に、例えば、アミド分解産物、第一カルビノールアミド分解産物、及び第二カルビノールアミド分解産物のうちの少なくとも一つの形成が有効に抑制されるように選択される。特に好ましい方法では、バッファーは0.05〜0.25Mの濃度の酢酸バッファー水溶液であり、製剤のpHはpH 3である。
【0018】
本発明の様々な目的、特徴、態様、及び利点は、以下に記載する好ましい実施態様の詳細な説明からより明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は一般的に、薬学組成物と、治療上有効な濃度のボルテゾミブを含有する液状の及び凍結乾燥状の製剤を調製する方法とに関し、この製剤は(特に液状製剤である場合に)著しく改善されたボルテゾミブの安定性を提供する。製剤が凍結乾燥されるか又は注射に適した濃度を超えて濃縮される場合には、企図される組成物は、一つ以上の薬学的に許容される希釈剤で組成物を再構成した後に投与され、薬学的に許容される抗酸化剤、安定化剤、保存剤、及び/又は共溶媒をさらに含ませてもよい。
【0020】
本発明の特定の態様においては、企図される製剤は、ボルテゾミブとヘテロ二官能性ルイス塩基供与体とを含んで供与体‐受容体複合体を形成し、別の態様では、企図される製剤は液状製剤であって少なくとも二成分からなる非水性溶媒系を含む。さらにまた別の態様では、ボルテゾミブ及び/又はボルテゾミブ供与体‐受容体複合体は、薬学的に許容される送達システム又は担体システムに、特にリポソーム、ミセル、ナノ粒子、ミクロスフィア、エマルジョン、及び/又は懸濁物に封入されていてもよい。企図される製剤は、具体的な調製形態に関わらず、安定化剤、バッファー成分、抗酸化剤、等張調整剤、及び凍結乾燥保護剤をさらに含んでいてもよい。
【0021】
企図される医薬製剤は、最も典型的には、窒素で上部空間を満たした褐色バイアル中で貯蔵した場合に、環境条件(すなわち、25 ℃、60 %相対湿度)において数ヶ月間安定である。最も典型的には、企図される製剤は滅菌フィルター処理され、凍結乾燥された場合には、食塩水、デキストロース、又は水のような静注用希釈剤で再構成することによって注射用とすることができる。
【0022】
例えば、好ましい一態様では、本発明の薬学組成物は、注射に適した実質的に非水性の溶媒系中にボルテゾミブを含む液状製剤を含み、この溶媒系はプロピレングリコールを主成分として含む。「実質的に非水性の溶媒系」という用語は、水なしでも10 mg/mlもの濃度でボルテゾミブを完全に溶解でき、水の総含有量が15体積%以下である溶媒系を表す。所望する場合は、抗酸化剤を製剤に含ませてもよい。本明細書において使用される場合、溶媒系との関連で用いられる「単一相」という用語は、複数の構成要素が別個の相に分離したり別個の相として存在していたりしない組成物のことを表す。従って、リポソーム製剤、エマルジョン、及び懸濁物は単一相溶媒系とはみなされない。一方で、互いに混和性である二以上の溶媒の混合物は単一相溶媒系とみなされる。別の好ましい例では、企図される薬学組成物は、ボルテゾミブとヘテロ二官能性ルイス塩基とがルイス供与体‐受容体複合体を形成する製剤を含む。最も典型的には、このヘテロ二官能性ルイス塩基は少なくとも二つの異なる供与基(好ましくは-NH
2、-SH、COOH、及び-OHからなる群の中から選択される)を有し、この製剤は凍結乾燥状態又は溶液状態である。本明細書で用いられる「供与体‐受容体複合体」という用語は、非共有性かつ非イオン性の会合であって、共有結合及びイオン結合の中間の安定性を有するものを表す。
【0023】
最も好ましくは、ボルテゾミブとヘテロ二官能性ルイス塩基とは1:100〜1:200の比率で、より典型的には1:10〜1:100の比率で、最も典型的には1:1〜1:10の比率で存在する。本明細書中に記載されるすべての数値範囲は、文脈において別解釈が示されない限り、その両端の値を含むものとして解釈するべきであり、上限又は下限が指定されない数値範囲は商業上実用的な数値を含むものとして解釈するべきである。同様に、すべての数値のリストは、文脈において別解釈が示されない限り、中間の値を包含するものとみなすべきである。
【0024】
別の好ましい態様では、治療上有効な量のボルテゾミブを含む貯蔵安定性液状薬学組成物が企図される。本明細書において使用される場合、「貯蔵安定性液状薬学組成物」という用語は、薬学的活性成分(ボルテゾミブ)がすぐに使用できる濃度で溶媒又は溶媒系(バッファーを含み得る)に溶解しており、50℃で7日間貯蔵してもこの薬学的活性成分の少なくとも99%が未分解の状態のままであるような液状薬学組成物を表す。
【0025】
最も好ましくは、この組成物は、注射に適した実質的に非水性の溶媒系、バッファー、及びボルテゾミブを含む単一相液状製剤を含み、ここで、ボルテゾミブは治療上有効な濃度で製剤中に存在する。従って本発明の最も好ましい態様では、ボルテゾミブが0.1 mg/ml〜10.0 mg/mlの濃度、より典型的には0.5 mg/ml〜5.0 mg/mlの濃度、最も典型的には1.0 mg/ml〜2.5 mg/mlの濃度で存在する(それぞれ両端の値を含む)。
【0026】
特に好ましい態様では、そのような製剤における溶媒系は唯一の主要成分としてプロピレングリコールを有する。従って、特に好ましい製剤における溶媒系は実質的にプロピレングリコールからなる。しかしながら、それほどは好ましくない態様では、この製剤は、プロピレングリコールと混和性を有する一つ以上のさらなる溶媒を含んでもよく、特に好ましい共溶媒としてはポリエチレングリコール及びエタノールが挙げられる。従って企図される製剤は、少なくとも70体積%、より典型的には少なくとも90体積%のプロピレングリコールを含む。下に示す実験データに見られるように、溶媒系を適切に選択することによって、ボルテゾミブの化学的安定性を大きく向上させることができる。
【0027】
同様に、数多くの薬学的に許容されるバッファーが本発明において適切に使用できると考えられるが、特に好ましいバッファーは水性バッファーであり、特に酢酸バッファーである(下に示す結果も参照のこと)。バッファーの強度については、0.01M〜0.5Mの濃度、より典型的には0.025M〜0.3Mの濃度、最も典型的には0.05M〜0.2Mの濃度でバッファー剤が存在していることが一般的に好ましい。バッファーのpHは最も好ましくは3.0であるが、そのpH値を適度に変更することも企図される。下記でより詳細に示すように、発明者らは、酢酸バッファー水溶液中約3.0のpHにおいて、特に、製剤が唯一かつ主要な成分としてプロピレングリコールを有する実質的に非水性の溶媒系を含む場合において、本発明のボルテゾミブ製剤は有意に、かつ予測外に高い安定性を有することを発見した。当然のことながら、pH 3.0から少し逸脱しても同様に高い安定性が達成され得ることは理解されるべきである。酢酸バッファーを使用してpH 3周辺で好ましい安定性が得られる範囲を決定することは、過度な実験をせずとも行うことができる。従って、酢酸バッファーの好適なpH値は、通常、2.7〜3.0の範囲及び3.0〜3.3の範囲も含む。
【0028】
従って下記に示す実験データに基づいて、発明者らは、例えば、液状製剤が貯蔵条件下で貯蔵された場合にアミド分解産物、第一カルビノールアミド分解産物、及び/又は第二カルビノールアミド分解産物の形成を抑制する上で有効であるように、溶媒系とpHが選択された、ボルテゾミブ、溶媒系、及び一定pHのバッファーを含む製剤を企図する。分解産物(アミド分解産物、第一カルビノールアミド分解産物、及び/又は第二カルビノールアミド分解産物)との関連で本明細書で用いられる「形成を抑制する」という用語は、50℃の温度で少なくとも7日間貯蔵した場合に、製剤中に上記分解産物のうちの少なくとも1種が、(Journal of Pharmaceutical Sciences, 89, 2000, 758-765に開示される改良型HPLCアッセイ法を使用して)検出できる量では存在しないことを意味する。ボルテゾミブ製剤のHPLC分析のためのクロマトグラフィーでは、Symmetryカラム(ウォーターズ社;C-8、3.5μ、4.6 x 150 mm)をカラム温度30℃にて使用した。移動相としては0.1%ギ酸及び0.05%トリエチルアミンを含有する水/アセトニトリル(68/32)を1.0 mL/minの流速及び定組成溶離にて使用した。UV検出は270 nmにて行い、注入体積は10 μLであった。
【0029】
今まで発表されてきたデータ及び下記に示す実験データから容易に明らかになるように、ボルテゾミブは多種多様な液状溶媒中及び条件下できわめて不安定であるので、液状ボルテゾミブ組成物の貯蔵安定性がとりわけ重要であるということは特に留意すべきである。従ってその結果として、市販されているボルテゾミブ組成物のほとんどは、溶媒による再構成が必要な凍結乾燥組成物である。しかし、いったん再構成されると、その溶液は著しい分解を伴わずに長期間貯蔵することができず、そのため、複数の患者に使用できるか、及び/又は、長期の治療期間にわたって一人の患者に使用できる多回投与用液状製剤の可能性が除外される。ボルテゾミブの溶液中での分解はよく知られた現象であり、下記のスキームIで典型的な分解スキームを示す。ここで、化合物IIは第一カルビノールアミド分解産物であり、化合物IIIは第二カルビノールアミド分解産物(化合物IIの立体異性体)である。化合物II又はIIIの加水分解により対応するアミドIVの形成がもたらされ、それがさらにカルボン酸産物Vに加水分解され得る。
【化2】
【0030】
従って、別の見方をすると、本発明は、安定な液状投与形態中に、又は、安定な凍結乾燥製品として、ボルテゾミブを含む組成物及び医薬製剤に関する。本発明者らは、本発明の液体状医薬製剤は、ほとんどの場合、環境条件において少なくとも2ヶ月、より典型的には6ヶ月、さらに典型的には12ヶ月、最も典型的には24ヶ月あるいはそれ以上の期間にわたってボルテゾミブの安定性を提供することを企図する。下記にさらに示すように(実施例を参照のこと。さらなるデータもあるが本明細書には示していない)、企図される製剤は多様な溶媒系中でボルテゾミブに著しい安定性を付与し、好ましい溶媒系は、液状製剤を環境条件で少なくとも3ヶ月以上貯蔵したときにボルテゾミブの分解が10重量%以下、より典型的には8重量%以下、さらに典型的には6重量%以下、最も典型的には4重量%以下、あるいは2重量%以下に維持されるように調製された。
【0031】
貯蔵安定性については、発明者らは、環境条件における貯蔵安定性を予測又は推定するものとして当該技術分野でよく知られているモデル条件を使用した。例えば、下記の実験データで示すように、製剤を40℃、相対湿度75%で貯蔵する「加速」貯蔵条件、及び、50℃、相対湿度75%で1ヶ月間貯蔵する「超加速」貯蔵条件を使用したが、これらは通常、この製剤を環境条件で16ヶ月間貯蔵した場合に相当する安定性データを予測又は推定することができる。
【0032】
同様に、ボルテゾミブが凍結乾燥形態である場合にも、企図されるものは環境条件で少なくとも2ヶ月、より典型的には6ヶ月、最も典型的には12ヶ月あるいはそれ以上、ボルテゾミブの安定性を提供する。ボルテゾミブは企図される医薬製剤中に適切な如何なる量において含まれていてもよく、最も好ましくは再構成後の注射に適した量において含まれ得ることは理解されるべきである。従って、別の見地からいえば、ヒト又はヒト以外の哺乳類における腫瘍性(又はその他の)状態を治療するために有効な量においてボルテゾミブが含まれる。好ましい態様では、癌を治療するために有効な量においてボルテゾミブが含まれる。典型的には、ボルテゾミブは組成物全体の約0.01%から約99 %(w/w)の量において含まれる。
【0033】
特に好ましい態様では、上記非水性溶媒系は単一溶媒系又は二成分溶媒系であり、バッファーをさらに含んでいてもよい。様々な代替溶媒が本発明における使用に適していると考えられるが、特に好ましい溶媒及び溶媒系としては、プロピレングリコール、一種以上の短鎖アルコール(C
1-C
6)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、及びグリセロールが挙げられる。別の見方をすれば、好適な溶媒としては特に、極性の非プロトン性及びプロトン性溶媒が挙げられる。溶媒系が二成分系である場合には、この溶媒は短鎖アルコール(例えばエタノールやtert-ブチルアルコール)、アリールアルコール(例えばベンジルアルコール)、グリコール(特にプロピレングリコール)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、及びジメチルスルホキシドのうちの二つ以上であることが好ましい。
【0034】
思いがけないことに、発明者らは、ある溶媒が安定な液状製剤を形成できたとしても、密接に関連する他の溶媒では急速な分解が起こることがあることも見出した。例えば、下記でさらに示すように、プロピレングリコールはボルテゾミブの安定な溶液を形成することができたが、ポリエチレングリコールを用いた溶液ではしばしばボルテゾミブの急速な分解が見られた。同様に、比較的低濃度(例えば25体積%以下、より典型的には20体積%以下)のエタノールではより安定な製剤ができたが、25体積%を超える量のエタノールでは著しい分解が起こった。特に好ましい溶媒(例えば、プロピレングリコール、エタノール)では、製剤中に水が少量しかなかったり(例えば15体積%以下)全くなかったりしてもエステル又はジエステル形成を起こさないということも理解されるべきである。
【0035】
同様に、ボルテゾミブは(ヘテロ)二官能性ルイス塩基供与体分子と共にエステル又はジエステルを形成しないということにも留意するべきである。そのかわり、ボルテゾミブは、ほとんどの場合、イオン結合と共有結合の中間の安定性を有する供与体‐受容体複合体を形成する。従って、ボロン酸部分は、溶液中でも凍結乾燥状態でもエステルを形成することなく保護され続け、顕著に向上した安定性がもたらされる。例えば、好適なヘテロ二官能性ルイス塩基供与体としては、-OH、-SH、-COOH、及び/又は-NH2基を二つ以上有する化合物が挙げられ、それらの基は最も典型的には互いに隣接する基であるか、又は互いに離れているとしても4原子以内の直線距離にある。例えば、好適なヘテロ二官能性ルイス塩基供与体としては、2つのヘテロ二官能基が-OHと-SH、-OHと-NH2、-SHと-NH2、-COOH と-NH2、及び-COOHと-SHである諸化合物が挙げられる。
【0036】
多種多様なヘテロ二官能性ルイス塩基供与体が当該技術分野において知られており、特に好ましい供与体としては、数多くのアミノ酸(例えば、タンパク質構成アミノ酸、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、化学修飾アミノ酸、合成アミノ酸、ベータ‐、ガンマ‐アミノ酸、等)が挙げられ、これらはいずれもD型であってもL型であってもよい。例えば、企図されるアミノ酸としては、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、システイン、グルタミン、グリシン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、ロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、セリン、プロリン、トリプトファン、トレオニン、チロシン、及びバリンが挙げられる。
【0037】
さらなる例では、ヘテロ二官能性ルイス塩基供与体はまた、合成又は天然ペプチドであってもよく、特に、ジペプチド、トリペプチド、又はオリゴペプチドであり得る。ペプチドの例としては、カルノシン、アンセリン、ホモアンセリン、キョートルフィン、バレニン、アスパルテーム、グロリン、バレッティン(barettin)、シュードプロリン、グリシルグリシン、イソロイシン‐プロリン‐プロリン(ipp)、グルタチオン、サイロトロピン放出ホルモン、メラノスタチン、オフタルミン酸、ロイペプチン、及びエイセニンが挙げられる。オリゴペプチドも、上記のものほどは好ましくないものの好適であると考えられる。
【0038】
本発明のさらに別の例では、ヘテロ二官能性ルイス塩基供与体はまた、ルイス塩基供与性基をペンダント基及び/又は末端基として有する様々なポリマーであってもよい。その他の好ましい選択肢がある中でも、特に好適なものとしては、薬学的に許容されるポリマーが挙げられ、例えば式Iで表される構造を有する置換ポリエチレングリコールが挙げられる。
【化3】
【0039】
上記式中、nは2から5,000の間の整数であり、それぞれのAは独立して水素、-NH
2、-SH、COOH、及び-OHからなる群から選択される。さらに別の好ましい態様では、このポリマーは二以上の異なるルイス供与性基で誘導体化された炭化水素骨格を含み得る。当然のことながら、すべてのポリマーは特に薬学的に許容できるものであることは理解されるべきである。
【0040】
ヘテロ二官能性ルイス塩基供与体とボルテゾミブとの複合体を形成させることは数多くの方法でできることも言及されるべきであり、特に好適な方法としては、選択した溶媒中で適切な時間加熱することが挙げられる。あるいは、複合体又はエステルは溶媒の蒸発、塩析、又は沈殿(シード添加によって促進される)によっても調製することができる。特に好ましい別の方法は、ボルテゾミブとヘテロ二官能性ルイス塩基供与体とを一緒に凍結乾燥させる方法であり、これは通常、ボルテゾミブとモル過剰量のヘテロ二官能性ルイス塩基供与体とを含む水溶液から行われる。ある実施態様では、上記水溶液は(好ましくは水と混和性の)共溶媒をさらに含む。好適な共溶媒の例としてはtert-ブチルアルコール、メタノール、エタノール、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロ二官能性ルイス塩基供与体のボルテゾミブに対するモル過剰の程度は広範囲であり得るが、1:1〜1:200、より典型的には1:100〜1:200、さらに典型的には1:10〜1:100、最も典型的には1:1〜1:10の過剰であることが一般的に好ましい。
【0041】
具体的な製剤によっては、企図される組成物は、凍結乾燥を促進させるために充填剤、凍結保護剤、又は凍結乾燥保護剤の一つ以上を含んでもよい。ある実施態様ではルイス塩基供与体分子が充填剤、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、及び/又は安定化剤としても機能し得る。別の好適な凍結乾燥保護剤としてはアミノ酸及びポリマーが挙げられる。好ましくは、アミノ酸はリシン、アラニン、グリシンの中から選ばれる。好適なポリマーとしては様々なタンパク質(例えばゼラチン、アルブミン、等)、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びデキストラン-40が挙げられる。最も典型的には、凍結乾燥保護剤は組成物全体の50%(w/w)未満を占め、組成物全体の1%(w/w)を超える濃度であれば製剤の安定性を高める上で有効であると考えられる。従って、凍結乾燥保護剤は組成物全体の少なくとも約5%(w/w)、少なくとも約10%(w/w)、又は少なくとも約20%(w/w)の量で存在し得る。
【0042】
本明細書で企図される組成物は等張化剤をさらに含んでいてもよく、好適な等張化剤としては塩化ナトリウム、グリセロール、チオグリセロールが挙げられる。企図される製剤は、さらに加えて、薬学的に許容される賦形剤、特にバッファー剤、保存剤、抗酸化剤、及びそれらの適切な混合物を含んでもよい。しかしながら、少なくともいくつかの製剤では、抗酸化剤を含まない(特にN-アセチルシステインを含まない)方が安定性が高いことを、発明者は思いがけなく見出した。
【0043】
具体的な添加成分に応じて製剤のpHは変わり得ることは理解されるべきである。しかしながら、製剤のpHは注射に適したものであることが一般的に好ましく、典型的には4.0〜9.0、より典型的には5.5〜8.0である。従って、pHを所望の値又は範囲で安定させるために、一以上のバッファー系を利用し得る。好適なバッファーとしてはクエン酸バッファー、酢酸バッファー、マレイン酸バッファー、リン酸バッファー、コハク酸バッファー、及び酒石酸バッファーが挙げられる。最も典型的には、バッファーの強度は5 mM〜150 mMであるが、それより高いか、又はそれより低い強度でも本発明において好適に使用できると考えられる。特筆すべきことに、溶液を酢酸バッファーによってpH 3(あるいはpH 3付近、典型的にはpH 2.7〜3.3)にて緩衝した場合にも安定性の著しい向上が観察された。
【0044】
安定性をさらにまた改善させるために、一以上の抗酸化剤を製剤に含ませてもよい。例えば、疎水性抗酸化剤としてはブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、及びα-トコフェロール、DL-トコフェロール、α-トコフェロールアセタート、トコフェロールポリエチレングリコールスクシナート(ビタミンE TPGS)、L-システインが挙げられ、あるいは、親水性抗酸化剤としてはEDTAナトリウム及びチオグリセロールが挙げられる。最も典型的には、抗酸化剤の濃度は組成物全体の0.005%〜5%(w/w)である。それに加えて、又はそれに代えて、企図される製剤は保存剤(例えばフェノール、チメロサール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、m-クレゾール、フェノキシエタノール、メチルパラベン、及びプロピルパラベン)を含んでもよく、その濃度は典型的には組成物全体の0.001%以上5%未満(w/w)、最も典型的には組成物全体の0.003 %〜2.0 %(w/w)である。
【0045】
企図される製剤は滅菌されることは理解されるべきであり、また、0.22ミクロンフィルターによるフィルター処理、熱滅菌、放射線(ガンマ、電子線、マイクロ波等)、及び/又はエチレンオキシド滅菌を含む、すべての既知の滅菌法が企図される製剤を滅菌するために本明細書において好適に使用できることは理解されるべきである。本発明の製剤が凍結乾燥される場合には、凍結乾燥ケーキ、凍結乾燥粉末、等として調製され得る。溶液又は凍結乾燥物は、当該技術分野で知られる標準的な静注用希釈剤で希釈及び/又は再構成することができる。本発明における使用に適した静注用希釈剤としては例えば水、食塩水、水中5%のデキストロース、注射用水、又は乳酸リンゲル液が挙げられる。
【0046】
従って、治療上有効な量のボルテゾミブ、注射に適した実質的に非水性の溶媒系、及び水性バッファーを含む薬学組成物であって、pHが4.0以下である液状薬学組成物を発明者らは特に企図する。特に好ましい一態様では、この液状薬学組成物は、(a)0.1 mg/ml〜10 mg/mlの濃度、より典型的には0.5 mg/ml〜5.0 mg/mlの濃度、最も典型的には1 mg/ml〜2.5 mg/mlの濃度のボルテゾミブ、(b)実質的に非水性の溶媒系の主要成分としてのプロピレングリコール(典型的には溶媒系の少なくとも50体積%、より典型的には少なくとも70体積%、さらに典型的には少なくとも90体積%であり、最も典型的には溶媒系は実質的にプロピレングリコールからなる)、及び(c)非キレート型バッファー又は一座配位型バッファー(最も好ましくは、0.01〜0.5M、より典型的には0.05〜0.25Mのバッファー強度における酢酸バッファーであり、そのpHは2.0〜4.0、より典型的には2.3〜3.7、最も典型的には2.7〜3.3である)を含有する。そのような組成物では、加速貯蔵条件に3ヶ月おいた後のボルテゾミブの分解が10%以下、より好ましくは7%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは3%以下である。従って、別の見方をすれば、企図される組成物は貯蔵安定性液状薬学組成物である。
【0047】
特に好ましい液状薬学組成物は例えば、1 mg/ml〜2.5 mg/mlの濃度でボルテゾミブを含有し、実質的に非水性の溶媒系の少なくとも70体積%の量のプロピレングリコールを含み、0.05〜0.25Mのバッファー強度の酢酸バッファーをさらに含み、バッファーのpHは2.7〜3.3である。そのような組成物では、加速貯蔵条件に3ヶ月おいた後のボルテゾミブの分解が10%以下である。
【0048】
別の例では、特に好ましい液状薬学組成物は0.5 mg/ml〜5.0 mg/mlの濃度でボルテゾミブを含有し、実質的に非水性の溶媒系の少なくとも90体積%の量のプロピレングリコールを含み、0.05〜0.25Mのバッファー強度の酢酸バッファーをさらに含み、バッファーのpHは2.7〜3.3である。そのような組成物では、加速貯蔵条件に3ヶ月おいた後のボルテゾミブの分解が10%以下である。さらに別の例では、特に好ましい液状薬学組成物は1 mg/ml〜2.5 mg/mlの濃度でボルテゾミブを含有し、実質的に非水性の溶媒系の少なくとも70体積%の量のプロピレングリコールを含み、0.05〜0.25Mのバッファー強度の非キレート型バッファー(例えばモノカルボン酸バッファー)又は一座配位型バッファー(すなわち、バッファー剤分子の一つの化学基とボルテゾミブのホウ素部分との間で配位結合が一つだけ形成されるもの)をさらに含み、バッファーのpHは2. 3〜3. 7である。そのような組成物では、加速貯蔵条件に3ヶ月おいた後のボルテゾミブの分解が10%以下である。
【0049】
さらに別の例では、特に好ましい液状薬学組成物は1 mg/ml〜2.5 mg/mlの濃度でボルテゾミブを含有し、実質的に非水性の溶媒系の少なくとも90体積%の量のプロピレングリコールを含み、0.05〜0.25Mのバッファー強度の酢酸バッファーをさらに含み、バッファーのpHは2.3〜3.7である。そのような組成物では、加速貯蔵条件に3ヶ月おいた後のボルテゾミブの分解が10%以下である。
【0050】
さらなる別の例では、特に好ましい液状薬学組成物は1 mg/ml〜2.5 mg/mlの濃度でボルテゾミブを含有し、実質的に非水性の溶媒系の少なくとも70体積%の量のプロピレングリコールを含み、0.05〜0.25Mのバッファー強度の酢酸バッファーをさらに含み、バッファーのpHは2.7〜3.3(最も典型的には3.0)である。そのような組成物では、加速貯蔵条件に3ヶ月おいた後のボルテゾミブの分解が10%以下である。
【0051】
具体的な製剤に関わらず、単回使用及び複数回使用の両方に適した容器に製剤を入れることが特に好ましい。従って、特に好ましい容器としては、アンプル、バイアル、事前充填注射器、及び静注用バッグが挙げられる。特に好ましい複数回使用容器は、少なくとも2回、より典型的には少なくとも5回、最も好ましくは少なくとも10回の別個の使用(患者への製剤の投与量が毎回同じでなければならない場合もあるし、そうでない場合もある)を可能とするのに適した量のボルテゾミブを含む。従って、特に好ましい容器は複数回使用容器(例えば、複数別個の投与に適した容量の組成物を含む)としての構成を有し、特に好ましい複数回使用容器としては、注射器の針で貫通することができるゴム栓を有するバイアルが挙げられる。
【0052】
従って、企図される製剤は典型的には、環境条件下で、初回の使用後少なくとも1週間、より典型的には少なくとも2〜4週間、最も典型的には少なくとも1〜3ヶ月(あるいはそれ以上)、ボルテゾミブの著しい分解を伴うことなく(すなわち、分解を10%未満、より典型的には5%未満に抑えながら)ボルテゾミブを貯蔵することを可能にすることが理解されるべきである。従って、ヒト及び各種動物、特に哺乳類への投与用にボルテゾミブを配合することができる。製剤は例えば、注射用溶液(注射可能な多回投与用無菌組成物等)、あるいは無菌粉末組成物(凍結乾燥ケーキ、粉末、凍結乾燥粉末、等)の形態をとることができ、これらは希釈後又は再構成後に投与され得る。
【0053】
従って発明者らは、注射に適した実質的に非水性の溶媒系、バッファー、及びボルテゾミブから単一相液状製剤が形成される溶液中で、ボルテゾミブの複数の分解産物が形成されることを抑制する方法も企図しており、ここでボルテゾミブは薬学的に有効な濃度で製剤中に存在する。最も好ましくは、溶媒系は主たる構成成分としてプロピレングリコールを含んでおり、この溶媒系、バッファー、及びpHは、例えば、液状製剤を貯蔵条件下で貯蔵したときにアミド分解産物、第一カルビノールアミド分解産物、及び第二カルビノールアミド分解産物が形成されることを抑制する上で有効であるように選択される。分解産物、溶媒系、バッファー、及びpHについては上述した検討事項がそのまま適用されるのでここでは繰り返さない。
【実施例】
【0054】
以下の実験は、本明細書に開示される発明の様々な態様を例示によって説明するためのものである。しかしながら、記載されたもの以外にも、本明細書に記載された当該発明コンセプトから逸脱することなく他の多くの変更が可能であることは当業者には明らかなはずである。
【0055】
非水性製剤(セット1):表1に示す各種成分から5種類の非水性製剤を調製した。より詳細には、D/L-トコフェロールのストック溶液は625 mgのD/L-トコフェロールを25 mlのエタノールに溶解することにより作製し、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)及びブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)のストック溶液はそれぞれ15 mgを100 mlのエタノールに溶解することにより調製した。5種類の製剤はすべて、20 mgのボルテゾミブを10 mlの200プルーフエタノールに溶解し、100μlのDLトコフェロールのエタノールストック溶液、並びに0.2 mlのBHT及びBHAストックを表1に示すように添加して調製した。それから窒素で上部空間を満たした褐色バイアルにサンプルを入れ、各表に示す各種貯蔵条件で貯蔵した。製剤I〜VのpHは4.0であった。
【表1】
【0056】
安定性についての結果を表2〜4に示す。表2は40℃、相対湿度75%におけるボルテゾミブの安定性試験の結果を表示しており、表3は25℃、相対湿度60%におけるボルテゾミブの安定性試験の結果を表示しており、表4は4℃におけるボルテゾミブの安定性試験の結果を表示している。カルビノールアミドIはスキームIの化合物IIであり、カルビノールアミドIIはスキームIの化合物IIIであり、アミドはスキームIの化合物IVであり、カルボン酸はスキームIの化合物Vである。
【表2】
【表3】
【表4】
【0057】
非水性製剤(セット2):別の5種類の製剤を、表5に示す各種成分を用いて調製した。製剤は以下のようにして調製した。注射用水(WFI)を脱気処理して、注射用水及びプロピレングリコール、高純度ポリエチレングリコール300、及び酢酸バッファー中の溶解酸素を除去する。必要量のボルテゾミブを秤量して混合容器に加え、撹拌することによって同容器内のPG又はPEGに溶解させる。薬剤が完全に溶解したら、残りの量のプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、バッファー等のべヒクルを加える。N-アセチルシステインを含む製剤の場合には、窒素下でN-アセチルシステインをバッファー液に加えて溶解し、上記薬剤溶液に加える。製剤A〜EのpHは4.0であった。
【表5】
【0058】
安定性についての結果を表6〜8に示す。表6は、表記された貯蔵条件における2週間のボルテゾミブ安定性試験の結果を表示しており、表7は表記された貯蔵条件における6週間のボルテゾミブ安定性試験の結果を表示しており、表8は表記された貯蔵条件における2ヶ月間のボルテゾミブ安定性試験の結果を表示している。ND =上記のHPLC法で検出せず;NA =データなし;QL =定量限界;ND =検出せず。
【表6】
【表7】
【表8】
【0059】
薬剤がPEG中で不溶だったため、PEG を含む製剤Bは当該試験に含めなかった。上記の結果からわかるように、PGの存在下ではボルテゾミブの安定性が向上する。水性バッファーを10%有する製剤も、PGだけを含む製剤に匹敵する安定性を示した。しかしながら、バッファー濃度が増加すると分解産物の好ましくない増加が起こることが明らかとなった。N-アセチルシステインのような安定化剤/抗酸化剤の存在下でボルテゾミブの著しい分解が引き起こされたことは注目に値する。
【0060】
非水性製剤(セット3): 別の6種類の実質的に非水性な製剤を、表9及び表10に示す各種成分を用いて調製した。これらの製剤は以下のようにして調製した。バッファー液及び注射用水を脱気処理して溶解酸素を除去し、必要量のボルテゾミブを秤量して混合容器に加え、撹拌しながら同容器中のPGに溶解する。薬剤が完全に溶解したら、注射用水及びバッファー等の残りの量のべヒクルを加える。上部空間を窒素で満たした褐色バイアルにサンプルを充填し、40℃/75%RHの貯蔵条件で3ヶ月の間貯蔵した。
【表9】
【表10】
【0061】
安定性についての結果を表11に示す。表11は40℃、75%相対湿度で貯蔵した場合のボルテゾミブの安定性試験の結果を表示する。バッファー強度及びプロピレングリコールの割合が製品の安定性に与える影響を解明するために、これらの製剤の安定性を検討した。ND =上記のHPLC法で検出せず; カルビノールアミドIはスキームIの化合物IIである;カルビノールアミドIIはスキームIの化合物IIIである;アミドはスキームIの化合物IVである;カルボン酸はスキームIの化合物Vである。
【表11】
【0062】
上記の結果から、バッファー強度を0.1Mから1 Mに上げるとボルテゾミブの安定性が損なわれると見られる。バッファー強度ごとの安定性は0.1M>0.5M>1.0Mという順序であった。同様に、バッファーを一切有しない製剤は、0.1 M酢酸バッファーを含むものと比較して%アッセイ値の低下及び関連物質の増加を示した。水性相の組成を固定してPGの割合を変えた製剤V及びVIでは、安定性の順序は70% PG>50%PGであった。
【0063】
非水性製剤(セット4):表12に示す各種成分及び各種条件でいくつかのさらなる組成物を調製した。この例では、本質的に上記と同じ方法で、超高純度溶媒の使用がボルテゾミブの安定性に何らかの効果を及ぼす可能性について調べた。溶液は以下のようにして調製した。WFIを脱気処理して、WFI及びプロピレングリコール、高純度PG、高純度ポリエチレングリコール300(PEG)、及び酢酸バッファー中の溶解酸素を除去する。必要量のボルテゾミブを秤量して混合容器に加え、撹拌しながら同容器中のPG及びPEG中に溶解させて2 mg/ml溶液を作る。残りの量のPG、PEG、酢酸バッファー等のべヒクルを加えることによってこのストック溶液を1 mg/mlにさらに希釈した。表12に示すすべての製剤のpHは4.0であった。
【表12】
【0064】
これらの結果は、意外なことに、製剤で使われるPGの種類は何ら影響を有しないことを示している。しかしながら、本発明者らは、超高純度PEGの存在下ではボルテゾミブの著しい分解を観察した。このことは、本明細書に示した実験パラメータにおいて、プロピレングリコールの存在下ではボルテゾミブを安定化できるが、密接に関連した代替グリコール溶媒であるPEGの存在下では安定化できないらしい、ということを示している。
【0065】
非水性製剤(セット5):表13に示す各種成分を用いて、実質的に非水性である5種類の製剤を調製した。これらの例示製剤では、プロピレングリコールの割合を90%に固定し、水性相の組成を変動させた。これらの製剤では、pH 4.0 のクエン酸バッファーとpH 7.4のリン酸バッファーをそれぞれ2種類のイオン強度において使用した。加えて、イオン強度が製品の安定性に与える影響を測定するために、NaClを加えてイオン強度を0.5Mまで上げた。製剤は以下のようにして調製した。バッファー溶液を脱気処理して溶解酸素を除去し、必要量のボルテゾミブを秤量して混合容器に加え、撹拌しながら同容器中のPGに溶解させた。薬剤が完全に溶解したら、残りの量のプロピレングリコール、バッファー等のべヒクルを加える。上部空間を窒素で満たした褐色バイアルにサンプルを詰め、50℃で7日間という「超加速」安定性条件で貯蔵した。
【表13】
【0066】
安定性試験の結果を表14に示す。カルビノールアミドIはスキームIの化合物IIである。カルビノールアミドIIはスキームIの化合物IIIである。アミドはスキームIの化合物IVである。カルボン酸はスキームIの化合物Vである。
【表14】
【0067】
プロピレングリコールを製剤X及びXIのそれぞれの水性相に加えると、バッファー剤の塩が沈殿した。従ってこれらの製剤の安定性解析は行えなかった。7日目の加速安定性試験結果を比較すると、pH 7.4のリン酸バッファーを含む製剤の安定性が最も低く、pH 4.0のクエン酸バッファーの製剤がそれに続く(中程度の安定性)ことが観察された。
【0068】
非水性製剤(セット6):pHがボルテゾミブの安定性に与える影響をさらに解明するために、表15に示す各種成分を用いて実質的に非水性である7種類の製剤(F-XII〜F-XVIII)を調製した。これらの例示製剤では、プロピレングリコールの割合を90 %に固定し、水性相のpHをpH 2.2〜5.0で変動させた。製剤は以下のようにして調製した。バッファー溶液を脱気処理して溶解酸素を除去する。必要量のボルテゾミブを秤量して混合容器に加え、撹拌しながら同容器中のPGに溶解させる。薬剤が完全に溶解したら、残りの量のプロピレングリコール、バッファー等のべヒクルを加える。上部空間を窒素で満たした褐色バイアルにサンプルを詰め、50℃、15日間という「超加速」安定性条件で貯蔵した。
【表15】
【0069】
安定性についての結果を表16に示す。カルビノールアミドIはスキームIの化合物IIである。カルビノールアミドIIはスキームIの化合物IIIである。アミドはスキームIの化合物IVである。カルボン酸はスキームIの化合物Vである。
【表16】
【0070】
15日間の「超加速」安定性試験の結果は、プロピレングリコールの割合に加えて、水性相のpHもボルテゾミブの安定性に影響を及ぼすことを示している。具体的には、水性相がpH 3.0である製剤では、15日経過後の%アッセイ値が99.8であり、スクリーニングしたすべての製剤の中で最高であった。それに比べて、水性相がpH 5.0及びpH 2.2である製剤では、ボルテゾミブの急速な分解が見られた。
【0071】
非水性製剤(セット7):表17に示す各種成分を用いて実質的に非水性である製剤を調製した。製剤は以下のようにして調製した。バッファー溶液及び注射用水を脱気処理して溶解酸素を除去する。必要量のボルテゾミブを秤量して混合容器に加え、撹拌しながら同容器中のPGに溶解させてボルテゾミブ溶液を作り、続いて適切量の酢酸バッファーを加えて2.5 mg/mlとする。組成物を4℃及び室温に置いて物理的安定性を検討した。3つの組成物のすべてが物理的に安定であり、2.5 mg/mlの濃度でボルテゾミブを皮下ルートで投与するためには製剤XIXが最も好ましい。
【表17】
【0072】
従って、特に好ましい製剤としては、透明、無色、無菌で、自己保存的である多回投与用、非発熱性溶液が挙げられ、静脈内(IV)使用及び皮下(SC)使用のために1ミリリットル当たりそれぞれ1 mg及び2.5 mgという2つの濃度であることが好ましい。最も好ましくは、そのような製剤は、1 mg/mLのボルテゾミブを含有する10 mL褐色バイアル、及び2.5 mg/mLのボルテゾミブを含有する5 mLバイアルとして提供される。両サイズの各バイアルは、表18に例示されているように、0.9 ml/1.0 mlのプロピレングリコールUSP及び0.1 ml/mLのpH 3.0、0.1 M酢酸バッファー水溶液も含む。
【表18】
【0073】
非水性製剤(セット8):表19に示す各種成分を用いて、実質的に非水性の製剤を調製した。製剤は以下のようにして調製した。バッファー溶液と注射用水を脱気処理して溶解酸素を除去する。必要量のボルテゾミブを秤量して混合容器に加え、撹拌しながら同容器中のPGに溶解してボルテゾミブ溶液を作り、続いて適切量の酢酸バッファーを加えて1.0 mg/mlとする。このボルテゾミブのバルク溶液を、窒素で満たされた上部空間を有するか又は有しない10 mL褐色タイプIバイアルに詰めた。この組成物をその後2〜8℃、室温(25℃/60%RH)、及び加速温度(40℃/75%RH)に置いて化学的安定性を検討した。1ヶ月間の貯蔵後の結果を表20に示す。
【表19】
【表20】
【0074】
本明細書に記載されていないものであっても、本明細書に記載された当該発明のコンセプトを逸脱しない数多くの変更態様が可能であることは、当業者には明らかなはずである。従って、添付した特許請求の範囲内である限り、本発明は何ら限定されるものではない。また、明細書及び特許請求の範囲の解釈にあたっては、すべての用語はその文脈に合致した最も広い意味で解釈されるべきである。特に、「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」という用語は、構成要素、成分、又は工程を非排他的な意味で表しており、言及された構成要素、成分、又は工程は、明示的に言及されていない他の構成要素、成分、又は工程と共に存在していたり、使用されたり、組み合わせたりされ得ることを示していると解釈するべきである。明細書及び特許請求の範囲が、A、B、C…及びNからなる群から選択される何かの少なくとも一つ、と言う場合には、その文は群中の要素の一つだけを必要としており、AプラスNあるいはBプラスN等を必要としているわけではないと解釈すべきである。