特許第5774641号(P5774641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774641
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ループアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 7/00 20060101AFI20150820BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   H01Q7/00
   H01Q21/24
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-149726(P2013-149726)
(22)【出願日】2013年7月18日
(65)【公開番号】特開2015-23405(P2015-23405A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2014年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】田山 博育
(72)【発明者】
【氏名】官 寧
【審査官】 富澤 哲生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−109295(JP,A)
【文献】 特開平07−249921(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0057442(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 7/00
H01Q 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が互いに近接した帯状かつループ状の放射素子と、
少なくとも1つのスリットが端点間に形成された第1の帯状導体であって、該スリットが形成された領域を除く内周全体が上記放射素子の外周に接することなく上記放射素子の外周の少なくとも一部に沿うように配置された第1の帯状導体と、上記第1の帯状導体の端点以外の点を始点とする第2の帯状導体であって、該始点を除く内周全体が上記第1の帯状導体の外周に接することなく上記第1の帯状導体の外周の少なくとも一部に沿うように配置された第2の帯状導体とを有する無給電素子と、を備えている、
ことを特徴とするループアンテナ。
【請求項2】
上記第1の帯状導体は、少なくとも1つの直線部を有し、
上記スリットは、上記直線部の一方の端部に形成されており、上記第2の帯状導体の始点は、上記直線部の他方の端部に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のループアンテナ。
【請求項3】
上記第2の帯状導体の終点は、上記スリットに近接している、
ことを特徴とする請求項2に記載のループアンテナ。
【請求項4】
上記放射素子の一端から上記放射素子に取り囲まれた領域の中心に向かう第1の給電路であって、当該中心に近い方の端部に第1の給電点が設けられる第1の給電路と、
上記放射素子の他端から上記放射素子に取り囲まれた領域の中心に向かう第2の給電路であって、当該中心に近い方の端部に第2の給電点が設けられる第2の給電路と、を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1から3までの何れか1項に記載のループアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏波を受信するループアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
各種通信に利用される電磁波は、電界の方向が回転しない直線偏波と、電界の方向が回転する円偏波とに分類される。円偏波は、更に、電界の回転の向きによって右旋円偏波と左旋円偏波とに分類される。GPS(Global Positioning System)やETC(Electronic Toll Collection System)では、右旋円偏波が利用されており、衛星ラジオでは、左旋円偏波も利用されている。
【0003】
円偏波を受信するためには、従来、クロスダイポールアンテナを用いることが一般的であった。クロスダイポールアンテナは、(1)互いに直交する2つのダイポールアンテナと、(2)第1のダイポールアンテナにより得られた第1の信号の位相を90°シフトすると共に、位相が90°シフトされた第1の信号を第2のダイポールアンテナにより得られた第2の信号に合成する移相合成回路とにより構成される。
【0004】
しかしながら、クロスダイポールアンテナは、2つのダイポールアンテナにより得られた信号を合成するために移相合成回路を要するので、低コスト化が困難であるという問題を抱えていた。また、クロスダイポールアンテナは、2つのダイポールアンテナ(全長λ/2)を配置するために対角線の長さがλ/2となる正方形状の領域(面積λ/8)を要するので、小型化が困難であるという問題を抱えていた。
【0005】
これらの問題の解決に資するアンテナとしては、特許文献1に記載のループアンテナが知られている。特許文献1に記載のループアンテナは、移相合成回路を用いることなく円偏波を受信することができるので、低コスト化が容易である。また、特許文献1に記載のループアンテナのアンテナ導体(全長λ)は、1辺がλ/4となる正方形状の領域(面積λ/16)に配置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−118268号公報(2009年5月28日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のループアンテナは、円偏波に対する受信能力を高めるために、無給電素子と環状導体とを要する。この無給電素子は、交差偏波識別度を高めるための構成であり、鈍角的に交わる2つの直線部からなるV字状の線状導体からなる。また、環状導体は、円偏波に対する受信利得を高めるための構成であり、アンテナ導体及び無給電素子を取り囲む環状の線状導体からなる。このため、アンテナ導体、無給電素子、及び環状導体を含むアンテナ全体の配置に要する領域の面積は、アンテナ導体の配置に要する領域の面積よりも著しく大きくなる。
【0008】
例えば、環状導体の全長をアンテナ導体の全長の3倍(すなわち3λ)とし、環状導体の形状を隣り合う2辺の比が1:2となる長方形とした場合、アンテナ全体の配置に要する面積は、λ×λ/2=λ/2となり、クロスダイポールアンテナの配置に要する面積(λ/8)よりも大きくなる。このようなループアンテナを自動車のフロントガラスに貼付した場合、視界を阻害したり美観を損ねたりすることは明らかである。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、円偏波に対する受信能力が高いループアンテナであって、特許文献1に記載のループアンテナよりも配置に要する領域の面積が小さいループアンテナを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るループアンテナは、上記の課題を解決するために、両端が互いに近接した帯状の放射素子と、少なくとも1つのスリットが形成された第1の帯状導体であって、該スリットが形成された領域を除く内周全体が上記放射素子の外周に接することなく上記放射素子の外周の少なくとも一部に沿うように配置された第1の帯状導体と、上記第1の帯状導体の端点以外の点を始点とする第2の帯状導体であって、該始点を除く内周全体が上記第1の帯状導体の外周に接することなく上記第1の帯状導体の外周の少なくとも一部に沿うように配置された第2の帯状導体とを有する無給電素子と、を備えている、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、放射素子及び無給電素子を取り込む環状導体を用いることなく、円偏波に対する受信能力が高い(交差偏波識別度が高く、かつ、円偏波に対する受信利得が高い)ループアンテナを実現することができる。
【0012】
しかも、受信能力が高いループアンテナを実現するために必要となる無給電素子は、その内周全体が放射素子の外周に沿う第1の帯状導体と、内周全体が第1の帯状導体の外周に沿う第2の帯状導体とにより構成されている。このため、上記の構成によれば、アンテナ全体の配置に要する領域の面積が、特許文献1に記載のループアンテナの配置に要する領域の面積よりも小さくなる。
【0013】
すなわち、上記の構成によれば、円偏波に対する受信能力が高いループアンテナであって、特許文献1に記載のループアンテナよりも配置に要する領域の面積が小さいループアンテナを実現することができる。
【0014】
なお、(1)上記第1の帯状導体は、少なくとも1つの直線部を有し、(2)上記スリットは、上記直線部の一方の端部に形成されており、(3)上記第2の帯状導体の始点は、上記直線部の他方の端部に形成されており、(4)上記第2の帯状導体の終点は、上記スリットに近接している構成を採用した場合、円偏波に対する受信能力が高いループアンテナが実現されることが実験により確かめられている。ただし、円偏波に対する受信能力が高いループアンテナを実現し得る構成は、これに限定されるものではない。
【0015】
本発明に係るループアンテナは、上記放射素子の一端から上記放射素子に取り囲まれた領域の中心に向かう第1の給電路であって、当該中心に近い方の端部に第1の給電点が設けられる第1の給電路と、上記放射素子の他端から上記放射素子に取り囲まれた領域の中心に向かう第2の給電路であって、当該中心に近い方の端部に第2の給電点が設けられる第2の給電路と、を更に備えている、ことが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、上記放射素子に取り囲まれた領域の中心付近から同軸ケーブルをアンテナ形成面と直交する方向に引き出すことができる。同軸ケーブルを高俯角方向に引き出した場合、高仰角方向の受信利得を上昇させるという効果を奏する。逆に、同軸ケーブルを高仰角方向に引き出した場合、高俯角方向の受信利得を上昇させるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、円偏波に対する受信能力が高いループアンテナであって、特許文献1に記載のループアンテナよりも配置に要する領域の面積が小さいループアンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るループアンテナの構成を示す上面図である。
図2図1に示すループアンテナ(実施例)に関する利得の方向依存性を示すグラフである。
図3図1に示すループアンテナからスリットを省略したもの(比較例)に関する利得の方向依存性を示すグラフである。
図4図1に示すループアンテナの変形例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るループアンテナの一実施形態について、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施形態に係るループアンテナは、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)波を受信する車載用アンテナである。ただし、本発明は、円偏波(右旋円偏波であっても左旋円偏波であってもよい)を受信するループアンテナ一般に適用することが可能であり、その用途も車載用に限定されない。
【0020】
〔ループアンテナの構成〕
本実施形態に係るループアンテナ1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るループアンテナ1の上面図である。
【0021】
ループアンテナ1は、図1に示すように、放射素子11と、無給電素子12と、給電路対13とを備えている。放射素子11、無給電素子12、及び給電路対13は、同一の平面(以下、「アンテナ形成面」とも記載する)、例えば、誘電体基板の表面上に形成される。
【0022】
放射素子11は、一方の端部11aと他方の端部11bとが互いに近接した帯状導体、すなわち、ループを形成する帯状導体である。
【0023】
本実施形態においては、図1に示すように、長方形のループを形成する帯状導体を放射素子11として用いている。より具体的に言うと、(1)端部11aを始点とし、第1の方向(図1におけるx軸負方向)に延伸する第1の直線部11p1と、(2)第1の直線部11p1の終点を始点とし、第1の方向に直交する方向(図1におけるy軸正方向)に延伸する第2の直線部11p2と、(3)第2の直線部11p2の終点を始点とし、第1の方向と反対方向(図1におけるx軸正方向)に延伸する第3の直線部11p3と、(4)第3の直線部11p3の終点を始点とし、第2の方向と反対方向(図1におけるy軸負方向)に延伸する第4の直線部11p4と、(5)第4の直線部11p4の終点を始点とし、第1の方向(図1におけるx軸負方向)に延伸し、端部11bを終点とする第5の直線部11p5とにより構成された帯状導体を放射素子11として用いている。
【0024】
なお、本実施形態においては、長方形のループを形成する帯状導体を放射素子11として用いているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、放射素子11が形成するループの形状は任意である。例えば、楕円形(円形を含む)のループを形成する帯状導体を放射素子11として用いることも可能である。
【0025】
無給電素子12は、2つの帯状導体121〜122により構成されている。
【0026】
第1の帯状導体121は、その内周121aが放射素子11の外周11cに沿うように配置された帯状導体である。ここで、「第1の帯状導体121の内周121aが放射素子11の外周11cに沿う」とは、第1の帯状導体121の内周121aと放射素子11の外周11cとの間隔が、角の部分を除いて一定に保たれていることを指す。なお、第1の帯状導体121は放射素子11から孤立しており、第1の放射素子121の内周121aが放射素子11の外周11cに接することはない。
【0027】
本実施形態においては、図1に示すように、その内周121a全体(ただし、スリット121dが形成された領域は除く)が放射素子11の外周11c全体に沿うように配置された帯状導体を第1の帯状導体121として用いている。より具体的に言うと、(1)その内周が放射素子11の第1の直線部11p1及び第5の11p5の外周に沿うように配置された第1の直線部121p1と、(2)その内周が放射素子11の第2の直線部11p2の外周に沿うように配置された第2の直線部121p2と、(3)その内周が放射素子11の第3の直線部11p3の外周に沿うように配置された第3の直線部121p3(請求項における「少なくとも1つの直線部」に対応)と、(4)その内周が放射素子11の第4の直線部11p4の外周に沿うように配置された第4の直線部121p4と、により構成された帯状導体を第1の帯状導体121として用いている。
【0028】
ここで、第1の直線部121p1は、第4の直線部121p4の終点を始点とし、第2の直線部121p2は、第1の直線部121p1の終点を始点とし、第4の直線部121p4は、第3の直線部121p3の終点を始点とする。一方、第3の直線部121p3は、その始点が第2の直線部121p2の終点から離隔している。すなわち、第2の直線部121p2の終点と第3の直線部121p3の始点との間(第3の直線部121p3の一方の端部)には、第1の帯状導体121を横断するスリット121dが形成されている。このようなスリット121dを設けることによって、ループアンテナ1の交差偏波識別度を高めることができる。なお、スリット121dの個数は任意である。ただし、スリット121dの個数を奇数個とした方が放射特性に優位である。
【0029】
なお、本実施形態においては、その内周121a全体が放射素子11の外周11c全体に沿うように配置された帯状導体を第1の帯状導体121として用いているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、その内周121a全体が放射素子11の外周11cの少なくとも一部に沿うように配置された帯状導体であれば、第1の帯状導体121として用いることができる。例えば、後述する実施例においては、その内周121a全体が放射素子11の外周11cの一部(第2の直線部11p2、第3の直線部11p3、及び第4の直線部11p4の外周)に沿うように配置された帯状導体を第1の帯状導体121として用いている。
【0030】
第2の帯状導体122は、第1の帯状導体121上の点121cを始点とし、その内周122a全体(ただし、始点となる点121cは除く)が第1の帯状導体121の外周121bに沿うように配置された帯状導体である。ここで、「第2の帯状導体122の内周122aが第1の帯状導体121の外周121bに沿う」とは、第2の帯状導体122の内周122aと第1の帯状導体121の外周121bとの間隔が、角の部分を除いて一定に保たれていることを指す。なお、第2の帯状導体122は第1の帯状導体121から孤立しており、第2の帯状導体122の内周122aが第1の帯状導体121の外周121bに接することはない。
【0031】
本実施形態においては、図1に示すように、第1の帯状導体121の第3の直線部121p3の終点近傍の点121c(第3の直線部121p3の他方の端部)を始点とし、その内周全体が第1の帯状導体121の第3の直線部121p3の外周に沿うように配置された帯状導体を第2の帯状導体122として用いている。したがって、第2の帯状導体122の始点(根本)122bは、第1の帯状導体121の第3の直線部121p3の終点近傍に位置し、第2の帯状導体122の終点(先端)122cは、第1の帯状導体121の第3の直線部121p3の始点近傍に位置する(換言すれば、スリット121dに近接している)。
【0032】
なお、本実施形態においては、その内周全体が第1の帯状導体121の第3の直線部121p3の外周に沿う帯状導体を第2の帯状導体122として用いているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、その内周全体が第1の帯状導体121の別の部分又は全体の外周に沿うように配置された帯状導体であっても、第2の帯状導体12として用いることが可能である。
【0033】
給電路対13は、2つの給電路131〜132により構成される。
【0034】
第1の給電路131は、放射素子11の一方の端部11aから、放射素子11により取り囲まれた領域の中心Oに向かって延伸する帯状導体により構成される。第1の給電路131の当該中心Oに近い方の端部131aには、同軸ケーブルの外側導体が接続される第1の給電点Pが設けられる。
【0035】
第2の給電路132は、放射素子11の他方の端部11bから、放射素子11により取り囲まれた領域の中心Oに向かって延伸する帯状導体により構成される。第2の給電路132の当該中心Oに近い方の端部132aには、同軸ケーブルの内側導体が接続される第2の給電点Qが設けられる。
【0036】
このような給電路13を設けることによって、放射素子11により取り囲まれた領域の内部から、同軸ケーブルをアンテナ形成面と直交する方向に引き出す構成を採用することが可能になる。
【0037】
放射素子11により取り囲まれた領域の内部から、同軸ケーブルをz軸負方向に引き出す構成を採用した場合、高仰角方向(z軸正方向との成す角をθとしたときにθ≒0となる方向)に位置する波源から放射された円偏波(右旋円偏波及び左旋円偏波)に対する受信利得が高くなる。一方、放射素子11により取り囲まれた領域の内部から、同軸ケーブルをz軸正方向に引き出す構成を採用した場合、高俯角方向(z軸正方向との成す角をθとしたときにθ≒±180°となる方向)に位置する波源から放射された円偏波(右旋円偏波及び左旋円偏波)に対する受信利得が高くなる。本実施形態に係るループアンテナ1は、−90°≦θ≦+90°の方向に位置する波源から放射される右旋円偏波を受信するためのものなので、放射素子11により取り囲まれた領域の内部から、同軸ケーブルをz軸負方向に引き出す構成を採用することが好ましい。
【0038】
以上のように構成された、本実施形態に係るループアンテナ1は、円偏波に対する受信能力が高いループアンテナ、すなわち、交差偏波識別度が高く、かつ、円偏波に対する受信利得が高いループアンテナとなる。このことを示す実験結果については、実施例として後述する。
【0039】
特許文献1に記載のループアンテナにおいては、交差偏波識別度を高めるために、鈍角的に交わる2つの直線部からなるV字状の無給電素子を用いている。また、特許文献1に記載のループアンテナにおいては、円偏波に対する受信利得を高めるために、アンテナ導体及び無給電素子を取り囲む環状導体を用いている。このため、特許文献1に記載のループアンテナにおいては、アンテナ全体の配置に要する領域の面積が、アンテナ導体の配置に要する領域の面積と比べて著しく大きくなるという問題を生じる。
【0040】
一方、本実施形態に係るループアンテナ1においては、無給電素子12を用いることによって、放射素子11及び無給電素子12を取り込む環状導体を用いることなく、交差偏波識別度を高めると共に、円偏波に対する受信利得を高めることに成功している。ここで、無給電素子12は、その内周121a全体が放射素子11の外周11cに沿う第1の帯状導体121と、その内周122a全体が第1の帯状導体121の外周121bに沿う第2の帯状導体122とにより構成されている。このため、本実施形態に係るループアンテナ1においては、アンテナ全体の配置に要する領域の面積が、放射素子11の配置に要する領域の面積と比べて著しく大きくなるという問題を生じない。
【0041】
以上のように、本実施形態に係るループアンテナ1は、円偏波に対する受信能力が高いループアンテナであって、特許文献1に記載のループアンテナよりも配置に要する領域の面積が小さいループアンテナとなる。
【0042】
〔実施例〕
本実施形態に係るループアンテナ1の一実施例について、図2図3を参照して説明する。なお、本実施例に係るループアンテナ1は、GPSアンテナであり、1575.45MHz又は1580MHzの右旋円偏波の受信に好適なものである。
【0043】
本実施例においては、第1の直線部11p1及び第5の直線部11p5の長さを19mmとし、第2の直線部11p2及び第4の直線部11p4の長さを36mmとし、第3の直線部11p3の長さを39mmとした。また、本実施例においては、第1の直線部11p1、第2の直線部11p3、第3の直線部11p3、第4の直線部11p4、及び第5の直線部11p5の幅を1.5mmとした。
【0044】
また、本実施例においては、第1の帯状導体121として、幅1.5mmの帯状導体を用いた。第1の直線部121p1の長さは44.7mmとし、第2の直線部121p2の長さは43mmとし、第3の直線部121p3の長さは42.7mmとし、第4の直線部121p4の長さは42mmとした。このとき、スリット121dの幅は、0.5mmとなる。
【0045】
また、本実施例においては、第2の帯状導体122として、幅1.5mmの帯状導体を用いた。第2の帯状導体122の長さは41.8mmとした。
【0046】
また、本実施例においては、第1の給電路131の幅(端部131aを除く)を1mmとし、第2の給電路132の幅(端部132aを除く)を1mmとした。なお、第1の給電点P及び第2の給電点Qに接続された同軸ケーブルは、放射素子11により取り囲まれた領域の内部からz軸負方向に引き出した。
【0047】
図2は、右旋円偏波(RHCP)及び左旋円偏波(LHCP)に対する利得の方向依存性を示すグラフである。
【0048】
図2に示すように、本実施例に係るループアンテナ1においては、左旋円偏波の利得が右旋円偏波の利得と比べて著しく小さくなっている。すなわち、交差偏波識別度(右旋円偏波の利得−左旋円偏波の利得)が十分に高くなっている。例えば、z軸正方向における交差偏波識別度は、20dBiを超えている。
【0049】
また、図2に示すように、本実施例に係るループアンテナ1においては、右旋円偏波の利得自体も十分に高くなっている。例えば、z軸正方向における右旋円偏波の利得は、0dBiを超えている。
【0050】
以上のことから、本実施例に係るループアンテナ1は、交差偏波識別度が高く、かつ、右旋円偏波に対する受信利得が高いループアンテナであると言える。すなわち、右旋円偏波に対する受信能力が高いループアンテナであると言える。
【0051】
なお、本実施例に係るループアンテナ1からスリット121dを省略した場合、交差偏波識別度が著しく低下する。実際、本実施例に係るループアンテナ1からスリット121dを省略すると、右旋円偏波(RHCP)及び左旋円偏波(LHCP)に対する利得の方向依存性は図3に示したものとなる。このことから、無給電素子12を構成する第1の帯状導体121に形成されたスリット121dの技術的意義が明らかになる。すなわち、無給電素子12を構成する第1の帯状導体121に形成されたスリット121dは、交差偏波識別度を高めるという技術的意義を有している。
【0052】
〔変形例〕
本実施形態に係るループアンテナ1の一変形例について、図4を参照して説明する。なお、本変形例に係るループアンテナ1は、GPSアンテナであり、1575.45MHz又は1580MHzの右旋円偏波の受信に好適なものである。
【0053】
図4は、本変形例に係るループアンテナ1の上面図である。本変形例に係るループアンテナ1は、放射素子11と、無給電素子12(第1の帯状導体121及び第2の帯状導体122)と、給電路13(第1の給電路131及び第2の給電路132)とを備えている。
【0054】
放射素子11は、第3の直線部11p3を拡幅した点を除き、図1に示したものと同様の構成とした。第1の直線部11p1及び第5の直線部11p5の長さは、19mmとし、第2の直線部11p2及び第4の直線部11p4の長さは、36mmとし、第3の直線部11p3の長さは、39mmとした。また、第1の直線部11p1、第2の直線部11p3、第4の直線部11p4、及び第5の直線部11p5の幅は、1.5mmとし、第3の直線部11p3の幅は、1.5mmとした。
【0055】
第1の帯状導体121としては、その内周が放射素子11の第2の直線部11p2の外周に沿うように配置された第2の直線部121p2と、その内周が放射素子11の第3の直線部11p3の外周に沿うように配置された第3の直線部121p3と、その内周が放射素子11の第4の直線部11p4の外周に沿うように配置された第4の直線部121p4とにより構成された幅1.5mmの帯状導体を用いた(ただし、第2の直線部121p2及び第4の直線部121p4のy軸負方向側の端部については、その幅を2mmに拡げた)。第2の直線部121p2の長さは、43mmとし、第4の直線部121p4の長さは、42mmとし、第3の直線部121p3の長さは、42.7mmとした。
【0056】
第2の帯状導体122は、その幅を拡幅した点を除き、図1に示したものと同様の構成とした。第2の帯状導体122の幅は、1.5mmとし、第2の帯状導体122の長さは、41.8mmとした。
【0057】
第1の給電路131及び第2の給電路132は、図1に示したものと同様の構成とした。第1の給電路131の幅は、端部131aを除き、1mmとし、第2の給電路132の幅は、端部132aを除き、1mmとした。第1の給電点P及び第2の給電点Qに接続された同軸ケーブルは、放射素子11により取り囲まれた領域の内部からz軸負方向に引き出した。
【0058】
なお、本変形例に係るループアンテナ1には、図4に示すように、バランス無給電素子14を付加した。このバランス無給電素子14を付加することによって、ループアンテナ1の入力インピーダンスと同軸ケーブルの出力インピーダンスとの整合を高めることができる。
【0059】
本変形例に係るループアンテナ1も、図1に示すループアンテナ1と同様、交差偏波識別度が高く、かつ、右旋円偏波に対する受信利得が高いループアンテナとなる。
【0060】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、円偏波を受信するループアンテナに広く適用することができる。例えば、GPS波を受信するループアンテナに好適である。
【符号の説明】
【0062】
1 ループアンテナ
11 放射素子
11a,11b 一方の端部,他方の端部(両端)
11c 外周
12 無給電素子
121 第1の帯状導体
121a 内周
121b 外周
121c 端点以外の点
121d スリット
122 第2の帯状導体
122a 内周
122b 始点
122c 終点
図1
図2
図3
図4