【実施例】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な各実施例について説明する。
【0026】
<第1実施例>
図1(a)は、第1実施例に係る表示装置100の概略構成の一例を示す。
図1(a)に示すように、表示装置100は、映像を投影するプロジェクタ3と、光学的特性を変化させることが可能なスクリーン5と、を備える。
【0027】
プロジェクタ3は、映像のフレーム周期の一部の時間内に全面表示のための映像光を1回投射する。プロジェクタ3は、例えば、カラーフィルタを配置した液晶ライトバルブ、反射型液晶素子などを有し、これらにRGB3原色を混合した白色光を照射する。これにより、所定の映像に必要な透過光あるいは反射光は、光学系を通してスクリーン5の表示面上に結像される。この場合、プロジェクタ3は、白色光源として、例えばパルス駆動が可能なフラッシュランプ、白色LEDランプ、RGBを混合したレーザーなどを有する。
【0028】
なお、プロジェクタ3は、所謂3板式プロジェクタであってもよい。即ち、この場合、プロジェクタ3は、RGB別々の液晶ライトバルブ、反射型液晶素子(例えば、LCOS:Liquid Crystal On Silicon)などを用い、それぞれにパルス駆動が可能なRGB別の光源から光を出射し、光学系を通してこれらの映像を重ね合わせてスクリーン5の表示面上に所定の映像に必要な透過光あるいは反射光を結像させる。この場合、RGB光源は、例えばRGB単色LEDやレーザーである。また、プロジェクタ3は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを有し、プロジェクタ3の制御及びスクリーン5の状態制御を行う制御部30を備える。
【0029】
スクリーン5は、光学状態を透明状態と散乱状態との間で切り替えることが可能であり、例えば、粒子状の液晶セルの屈折率を変化させる高分子分散液晶や、透明セル内の白色粉体を移動させることで散乱状態を制御する素子などで構成される。
【0030】
スクリーン5は、スクリーン5の状態を切り替える制御信号(「制御信号Sw」とも呼ぶ。)をプロジェクタ3から受信する。これにより、スクリーン5は、プロジェクタ3からのパルス状の映像光が照射される前に、透明状態から散乱状態に切り替えられ、照射が終了した後に散乱状態から透明状態に切り替えられる。この場合、スクリーン5の散乱状態は、可能な限り観察者側に効率的に散乱されるような光学特性を有することが望ましい。上述の制御信号Swは、プロジェクタ3の制御部30によって生成され、マイクロ波や可視光線、赤外線など電磁波を用いたワイヤレス手法あるいは電気的接続などにより、スクリーン5に送出される。この制御信号Swは映像あるいは映像と同様な機構でスクリーンに到達、受信させても良い。
【0031】
図1(b)、(c)は、スクリーン5の光学状態の変化の一例を示す図である。
図1(b)では、プロジェクタ3から照射された映像光の照射領域50を含む所定の領域51が散乱状態となり、他の領域52乃至54は、透明状態となっている。また、
図1(c)では、スクリーン5上での照射領域50の変化に伴い、新たに照射領域50を含むことになった領域52が散乱状態となり、他の領域51、53、54は、透明状態となっている。なお、光学状態の変化は、
図1(b)、(c)の例に限定されず、スクリーン5は、全面に亘り同時に透明状態と散乱状態を切り替えることが可能である。
【0032】
このように、スクリーン5は、映像光が照射されたときは、照射領域50を含む領域が散乱状態となり映像が表示され、映像光が照射されていないときには透明状態となる。従って、人間の目にはこれらが平均(積分)されて視認され、明るい表示状態であってもスクリーン5は透明であるというシースルー特性が得られる。
【0033】
ここで、スクリーン5の状態を制御する具体的方法について説明する。
【0034】
表示装置100は、透明状態のスクリーン5の散乱強度を調整することで、背景にある物体の見易さを変化させることができる。例えばスクリーン5に高分子分散液晶を用いた場合、スクリーン5は、制御部30の制御に基づき、透明状態の交流印加電圧を変える。これにより、
図2に示すようにスクリーン5の散乱強度が増減する。このとき、映像光を照射したときの散乱強度は変わらないため、表示の明るさは同じままで、正透過率を増減させることができる。
【0035】
透明状態のスクリーン5の散乱強度を調整する一例では、表示装置100は、スクリーン5を、透明状態のスクリーン5の散乱強度が、映像光を照射したときの散乱強度となるような状態にすることで、シースルー性を極めて低く、あるいは消失させることもできる。制御部30は、例えば数100msの周期で、スクリーン5がこの状態になるように制御することで、観察者に背景の動きをコマ送りのように見せることもできる。また、制御部30は、特に注目して欲しい情報を表示する際、最初の数秒間はスクリーン5をこの状態にすることで、視聴者が背景ではなくスクリーン5の表示面の映像を注視するという状況を作ることができる。
【0036】
また、表示装置100は、映像光がない場合に、スクリーン5を散乱状態にする時間を設けず、透明状態を連続させてもよい。この場合、例えば、プロジェクタ3は、数100ms周期で黒画面(即ち、投射光がない状態)を映像に挿入することで、スクリーン5の表示面上の映像は、高い透過率をもった状態とシースルー表示状態とが交互に現れる。これにより、表示装置100は、背面物体をより明確に視認可能な状態で映像をスクリーン5上に表示することが可能である。
【0037】
<第2実施例>
次に、第2実施例について説明する。概略的には、第2実施例の表示装置100は、時間に基づきスクリーン5の光学状態を変調させる方式(「時分割方式」とも呼ぶ。)に基づき映像を表示する。
【0038】
以下では、第1実施例と同様の部分については適宜その説明を省略する。また、以後では、スクリーン3の表示面のうち、映像が表示される範囲を、単に「表示領域」とも呼び、当該表示面のうち映像が表示されない範囲を「非表示領域」とも呼ぶ。
【0039】
図3(a)は、第2実施例に係る表示装置100の概略構成図の一例である。
【0040】
図3(a)に示すように、プロジェクタ3は、スクリーン5に対して、映像の全体像を構成する光を投射する。このとき、プロジェクタ3は、映像のフレーム周期のうち、一部の時間内に少なくとも1つの映像に対応する映像光を少なくとも1回投射する。このプロジェクタ3の方式には、RGB光源からの光が時分割で液晶ライトバルブ、反射型液晶素子、又はデジタルミラーデバイスに照射される方式などがある。この場合、RGB光源は、例えばRGB単色LED又はレーザーなどである。
【0041】
スクリーン5は、第1実施例と同様、光学状態を透明状態と散乱状態との間で切り替え可能である。スクリーン5は、例えば、粒子状の液晶セルの屈折率を変化させる高分子分散液晶や、透明セル内の白色粉体を移動させることで散乱状態を制御する素子などで構成される。また、スクリーン5は、表示面の全面又は表示領域の全領域に亘り同時に透明状態と散乱状態とを切り替え可能である。この例については、
図4で後述する。
【0042】
図3(b)は、映像のフレーム周期における、映像投射の有無の変化及びスクリーン5の光学特性の変化を示すタイムチャートの一例である。
図3(b)に示すように、プロジェクタ3は、映像のフレーム周期のうち、一部の時間で映像光を投影する。具体的には、
図3(b)の「映像投射」が「ON」の場合に、映像光がプロジェクタ3から少なくとも1回出射される。
【0043】
そして、スクリーン5は、映像光が照射されるときには、その前に表示領域又は全面が透明状態から散乱状態に切り替わる。これにより、スクリーン5上に映像が表示される。また、スクリーン5は、映像光が照射されていないときには透明状態となる。従って、人間の目にはこれらが平均(積分)されて視認され、明るい表示状態であってもスクリーン5は透明であるというシースルー特性が得られる。
【0044】
次に、スクリーン5の透明状態と散乱状態とを切り替える際の、スクリーン5の電圧制御について
図4(a)、(b)を参照して2つ具体例を挙げて説明する。
【0045】
図4(a)は、電圧印加時にスクリーン5が透明状態となる場合のスクリーン5の電極間電圧の波形の例を示す。
図4(a)に示すように、電圧が印加されていない場合には、スクリーン5の全面又は表示領域の全領域に亘り散乱状態となり、電圧が印加されている場合には、スクリーン5の全面又は表示領域の全領域に亘り透明状態となる。
【0046】
図4(b)は、電圧印加時にスクリーン5が散乱状態となる場合のスクリーン5の電極間電圧の波形の例を示す。この場合、
図4(b)に示すように、電圧が印加されていない場合には、スクリーン5の全面又は表示領域の全領域に亘り透明状態となり、電圧が印加されている場合には、スクリーン5の全面又は表示領域の全領域に亘り散乱状態となる。
【0047】
<第3実施例>
次に、第3実施例について説明する。概略的には、第3実施例の表示装置100は、スクリーン5上での走査に応じて所定の領域ごとにスクリーン5の状態を変更させる方式(「領域分割方式」とも呼ぶ。)に基づき映像を表示する。以下では、第1実施例と同様の部分については適宜その説明を省略する。
【0048】
図5(a)は、第3実施例に係る表示装置100の概略構成図の一例である。
図5(a)に示すように、映像を投影するプロジェクタ3は、映像のフレーム周期中にライン状の映像を順次スクリーン5の表示面に投影する。
【0049】
プロジェクタ3は、例えば、1フレーム内に映像全体の中の投影領域が順次シフト(即ち、投射光を走査)していくような液晶ライトバルブ又は反射型液晶素子などで構成される。
【0050】
スクリーン5は、制御部30の制御に基づき、プロジェクタ3の走査方向に対応するように短冊状に分割された領域(以後、「分割領域Td」とも呼ぶ。)が、それぞれ独立したタイミングで透明状態と散乱状態に切り替わる。スクリーン5は、例えば、粒子状の液晶セルの屈折率を変化させる高分子分散液晶、又は透明セル内の白色粉体を移動させることで散乱状態を制御する素子などで構成される。
【0051】
図5(b)は、所定の分割領域Tdでの映像投射の有無及びスクリーン5の光学特性の変化を示すタイムチャートの一例である。
図5(b)に示すように、スクリーン5の各分割領域Tdは、プロジェクタ3からの映像光が照射されるタイミングより前に透明状態から散乱状態に切り替わり、照射が終了した後、さらに散乱状態から透明状態に切り替わる。従って、各分割領域Tdは時間をずらしながら順次光学状態が切り替わる。ここで、スクリーン5は、第1実施例と同様、可能な限り観察者側に効率的に散乱されるような光学特性を有することが望ましい。
【0052】
そして、上述のスクリーン5の光学状態を切り替えるタイミングは、プロジェクタ3の制御部30により制御される。具体的には、制御部30は、例えばマイクロ波や可視光線、赤外線など電磁波を用いたワイヤレス手法あるいは電気的接続により、光学特性の切り替えのタイミングを示す制御信号Swをスクリーン5に送信する。そして、スクリーン5は、制御信号Swに基づいて光学状態を切り替える。
【0053】
また、制御信号Swは、フレーム周期の同期のみで可能であるが、好適には、プロジェクタ3の走査開始のタイミングの情報、走査速度の情報、及び走査の遅延、シフトの情報を含む。従って、スクリーン5は、制御信号Swに基づき駆動することで、フレーム周波数が変化したような場合にも映像の乱れなく、良好なシースルー表示を実現することが可能となる。
【0054】
ここで、スクリーン5の透明状態と散乱状態とを切り替える際の、スクリーン5の電圧制御について
図6、
図7を参照して2つ具体例を挙げて説明する。
【0055】
図6は、電圧印加時にスクリーン5が透明状態となる場合のスクリーン5の電極間電圧の波形の例を示す。
図6は、一例として、スクリーン5の表示面を8つの分割領域Tdに分ける8分割走査変調方式の例を示し、8つの分割領域Tdそれぞれに印加される電圧波形を縦に並べて示している。
【0056】
図6に示すように、電圧が印加された分割領域Tdは、透明状態となり、電圧が印加されていない分割領域Tdは、散乱状態となる。また、光学状態の切り替えに要する遷移時間を考慮し、散乱状態の分割領域Tdが透明状態に遷移する前に、他の一つの分割領域Tdが透明状態から散乱状態となっている。
【0057】
図7は、電圧印加時にスクリーン5が散乱状態となる場合のスクリーン5の電極間電圧の波形の例を示す。
図7では、
図6と同様、一例として、スクリーン5の表示面を8つの分割領域Tdに分ける8分割走査変調方式の例を示し、8つの分割領域Tdそれぞれに印加される電圧波形を縦に並べて示している。
【0058】
図7に示すように、電圧が印加された分割領域Tdは、散乱状態となり、電圧が印加されていない分割領域Tdは、透明状態となる。また、光学状態の切り替えに要する遷移時間を考慮し、散乱状態の分割領域Tdが透明状態に遷移する前に、他の一つの分割領域Tdが透明状態から散乱状態となっている。
【0059】
<第4実施例>
第4実施例では、プロジェクタ3は、映像のフレーム周期でラスター走査を行い、映像を点順次にスクリーン5の表示面に投影する点で第1乃至第3実施例と異なる。尚、その他、第1乃至第3実施例と同様の部分については、適宜その説明を省略する。
【0060】
第4実施例では、プロジェクタ3は、光ビームをミラーで振る形態のプロジェクタであり、例えばレーザプロジェクタである。
【0061】
スクリーン5は、制御部30の制御に基づき、プロジェクタ3の走査方向に対応するように、走査される点を含む領域が散乱状態となる。なお、走査される点を含む領域は、プロジェクタ3からの映像光が照射される前に散乱状態に遷移する。
【0062】
これにより、スクリーン5は、映像光が照射されたときは散乱状態となり映像が表示され、映像光が照射されていないときには透明状態となる。従って、第4実施例でも同様に、表示装置100は、人間の目にはこれらが平均(積分)されて視認され、明るい表示状態であってもスクリーン5は透明であるというシースルー特性が得られる。
【0063】
<作用効果>
次に、第1実施例乃至第4実施例に係る表示装置100を実現する上で基本となる技術について補足説明する。
【0064】
プロジェクタ3からスクリーン5上に投射された光は、スクリーン5の表示面(単に「表示面」とも呼ぶ。)で散乱されスクリーン5上の映像として観察者に認識される。
【0065】
表示面の透過率は散乱状態と透明状態との時間比率に依存する。ここで、透明状態の正透過率を「Tr0」、散乱状態の正透過率を「Trs」、全光学状態のうち透明状態となる時間比率を「R」とし、数10ms以下の十分短い周期で変調が繰り返される場合、観察者が実際に視認する時間平均化された表示面の正透過率「Tr」は、
Tr={Tr0×R}+{Trs×(1−R)} 式(1)
である。但し、ここでは各状態間の遷移時間は十分短いとしている。例えば、「Tr0=70%、Trs=10%、R=0.60」とすると、映像を表示しているシースルー状態の正透過率は約50%(Tr≒0.5)となり、背景の物体を視認するに十分高いシースルー性を実現することができる。式(1)に示すように、シースルー性を高めるには、即ち、透過率Trを大きくするには、透明状態の正透過率Tr0を大きく、散乱状態の正透過率Trsを小さくし、透明状態の時間比率Rを大きくすることが必要となる。
【0066】
一方、表示面に投射される映像の明るさは投射光の強度と散乱強度に依存する。なお、ここでは散乱の指向性については言及しない。特定の領域「j」に照射される一周期で規格(正規)化された投射光強度の時間変化を「Ij(t)」、光散乱効率の時間変化を「Sj(t)」とすると、プロジェクタ3の光束を「I
O」として明るさに比例する指標(以下「輝度指標B」と呼ぶ。)は、
B=I
0・∫Ij(t)・Sj(t)/T・dt (積分時間は一周期0〜T)
である。ここで、実効的な透明状態の時間比率「Reff」は、
Reff=1−∫Sj(t)/T・dt (積分時間は一周期0〜T)
程度である。
【0067】
定常スクリーンの場合は「Sj(t)〜1=max.,const.」であるため、どのような「Ij(t)」に対しても最大輝度指標「Bmax」が得られる。しかし、「Reff(〜R)=0」であるため正透過率は極めて小さくシースルー性は得られない。
【0068】
今、「Sj(t)=1;0≦t≦0.2T」(「T」はフレーム周期)を仮定すると、「Reff(〜R)=0.8」であり、「Ij(t)=I
O=const.」の場合には、輝度指標Bは、「Bmax/5」程度となる。従って、輝度指標Bを上げようとすれば、時間比率Reffを小さくしなければならず、シースルー性を犠牲にしてしまう。
【0069】
ここで、「Ij(t)=10×I
0;0.05T≦t≦0.15T」とすれば、正透過率は50%以上を保ったまま、輝度指標Bを最大輝度指標Bmaxにすることができ、シースルー性と表示映像の視認性とが両立した表示、つまりシースルー表示を実現できる。定常的なスクリーン5と同様な高い光利用効率かつ高い輝度指標を得るには、「Ij(t)≠0」であるタイミングに、「Sj(t)=1」とすればよい。
【0070】
ここで、第2実施例に相当する時分割方式での、一周期で規格化された投射光強度の時間変化「I(t)」と、一周期で規格化された光散乱効率の時間変化「S(t)」との関係について
図8、9を参照して説明する。
【0071】
図8は、表示領域の全面にRGB光を一括して投射する全面一括投射を実行する場合の走査位置と時間との関係を示すグラフである。ここで、「走査位置」とは、具体的には、スクリーン5の縦方向の位置を示すものとする。また、
図8において、2点鎖線「Lr1」、「Lr2」は、赤(R)の投射位置及び時間を示し、破線「Lg1」、「Lg2」は、緑(G)の投射位置及び時間を示し、一点鎖線「Lb1」、「Lb2」は、青(B)の投射位置及び時間を示す。また、実線「L1」、「L2」により挟まれる領域と、実線「L3」、「L4」により挟まれる領域は、光学状態を散乱状態に切り替えるように制御されるスクリーン5の走査位置と時間を示す。なお、RGB光の投射位置及び時間を図中の線で表しているが、「L1」、「L2」または「L3」、「L4」に挟まれる領域の散乱状態に切り替えられた時間を少なくとも含むように映像が投射されればよい。
【0072】
この場合、
図8に示すように、全面一括投射の場合には、RGBの光が投射されるタイミングを含む期間で、プロジェクタ3の表示領域は、全面で散乱状態に保たれる。なお、
図5に示す例は、RGBが同時に投射された所謂3板式プロジェクタあるいは白色光源とカラーフィルタを用いた単板式プロジェクタと同様な方式に相当する。
【0073】
図9は、表示領域の全面にRGB光を独立したタイミングで投射する場合の走査位置と時間との関係を示すグラフである。
図9において、2点鎖線「Lr3」、「Lr4」は、赤(R)の投射位置及び時間を示し、破線「Lg3」は、緑(G)の投射位置及び時間を示し、一点鎖線「Lb3」は、青(B)の投射位置及び時間を示す。また、実線「L5」、「L6」により挟まれる領域と、実線「L7」、「L8」により挟まれる領域、実線「L9」、「L10」により挟まれる領域、実線「L11」、「L12」により挟まれる領域は、散乱状態に切り替えられているスクリーン5の位置と時間を示す。なお、投射光の投射位置及び時間を図中の線で表しているが、「L5」、「L6」などに挟まれる領域の散乱状態に切り替えられた時間を少なくとも含むように映像が投射されればよい。
【0074】
この場合、
図9に示すように、RGB光がそれぞれスクリーン5に投射されるタイミングで、スクリーン5は、透明状態から散乱状態に切り替わる。また、全面一括投射の場合と同様に、RGBの光が投射されるタイミングを含む期間で、プロジェクタ3の表示領域は、全面で散乱状態に保たれる。この例は、RGBを時分割にした単板式プロジェクタあるいはデジタルミラーデバイス(DMD)のサブフィールド(SF)分割を用いたプロジェクタと同様な方式に相当する。
【0075】
なお、このようにRGBで時分割する場合、表示装置100は、全波長を散乱させる状態にするのではなく、投射された波長のみ強く散乱するようにすることもできる。こうすることで、表示装置100は、透明状態の時間比率Rが短くなることによるシースルー性の低下を抑制することができる。この場合、例えば、表示装置100は、各波長に対応する散乱層を積層し、特定の色のみ表示する場合には、当該色に対応した層のみ変調を行う。
【0076】
次に、第3実施例で説明した領域分割方式の場合について説明する。以後では、表示面の領域を1次元で分割する場合を代表例に説明する。なお、以下の説明は、2次元で分割する場合についても同様に適用される。
【0077】
図10は、領域分割方式の走査位置と時間との関係を示すグラフである。
図10において、2点鎖線「Lr5」、「Lr6」は、赤(R)の投射位置及び時間を示し、破線「Lg5」、「Lg6」は、緑(G)の投射位置及び時間を示し、一点鎖線「Lb5」、「Lb6」は、青(B)の投射位置及び時間を示す。また、実線「L13」、「L14」により挟まれる領域と、実線「L15」、「L16」により挟まれる領域は、散乱状態に切り替えられているスクリーン5の位置と時間を示す。なお、投射光の投射位置及び時間を図中の線で表しているが、「L13」、「L14」などに挟まれる領域の散乱状態に切り替えられた時間を少なくとも含むように映像が投射されればよい。
【0078】
図10に示す例では、映像光は一方向に一定の速さで走査されている。そして、表示装置100は、この映像光の照射されている領域を含むように分割されたスクリーン5の領域を透明状態から散乱状態に切り替えている。
【0079】
領域分割方式は、駆動回路(電気的に切り替える場合)の多チャンネル化が必要であるなどのデメリットはあるものの、
図8、
図9で示した2例のように短時間に強い光源光強度が必要とならず、安定で明るい表示を比較的簡単に実現できる。
図10に示す例は、レーザー走査プロジェクタなどを用いた場合に相当する。
【0080】
次に、シースルーの透過率を制御する方法について補足説明する。例えば、表示装置100は、透明状態の正透過率を調整する。他の例では、表示装置100は、散乱状態をパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)により変調する。これにより、表示装置100は、シースルー性を制御しつつ良好な表示視認性を実現することが可能となる。
【0081】
なお、上記説明では投影光をRGBとしたが、必要に応じて単色あるいは他の色であっても本発明効果を得ることはいうまでもない。
【0082】
<その他の作用効果>
次に、第1実施例乃至第4実施例における表示装置100の作用効果について例示する。
【0083】
(その1)
一般に、反射型(プロジェクタからの投影光が観察者側から投射される配置)の透明状態のスクリーン5に映像光が照射されると、その裏面側の物体に映像光が照射される。例えば、赤い映像を表示するような場合に、弱い漏洩光でも白い物体は赤く着色して見えてしまい、形は識別できても色を正確に認識することはできない。透過型(プロジェクタからの投影光がスクリーンに対し観察者の反対側から投射される配置)の場合でも、透明状態のスクリーン5に映像光が照射されると、強い映像光が観察者に漏洩することになり、不快な刺激を与えることになる。また、一般に、散乱状態と透明状態を切り替えるスクリーン5は、所定の遷移時間を有する応答特性を有する。従って、映像光を投射するタイミングでは、スクリーン5は、透明状態から散乱状態へ完全に移行した状態、即ち散乱状態が十分に立ち上がった状態となる必要がある。
【0084】
以上を勘案し、表示装置100は、映像光を投射するタイミングよりも前に、当該映像光が投射されるスクリーン5の表示面の散乱状態への移行を開始する。言い換えると、制御部30は、映像光を投射する(即ち走査を行う)タイミングと、スクリーン5の光学状態を散乱状態へ切り替えるタイミングとを同期させる際、スクリーン5の光学状態を散乱状態へ切り替えるタイミングよりも、映像光を投射するタイミングを遅延させる。以後、この遅延を、「走査遅延」とも呼ぶ。
【0085】
このようにすることで、表示装置100は、反射型の場合、スクリーン5の裏面側の物体に照射されるプロジェクタ3からの映像光を最小限に抑えることができ、色認識への影響を抑えることができる。また透過型の場合でも、観察者への不必要な漏洩光を最小限に抑えることができる。
【0086】
(その2)
一般に、時分割方式の場合、スクリーン5の散乱特性に変化があっても、スクリーン5に表示される映像にムラが見えない。一方、領域分割方式の場合、各分割領域Tdの散乱特性が映像光の照射されるタイミングで均一でない(即ち一定でない)場合には、スクリーン5に表示される映像に、領域境界が目立つブロックムラが発生する。
【0087】
以上を勘案し、領域分割方式では、表示装置100は、各分割領域Tdの散乱特性を
図11に示すように照射時間内でほぼ一定にする。また、表示装置100は、2つの分割領域Tdの境界を映像光が照射走査される時、当該2つの分割領域Tdの散乱特性をほぼ同じにする。このようにすることで、表示装置100は、ブロックムラを抑制することができる。
【0088】
(その3)
一般に、シースルー状態であっても、スクリーン5の表示面のうち表示領域の透過率は低下し散乱状態が混じるため、ヘイズ値(全透過率に対する散乱透過率の比率)が上昇する。一方、スクリーン5の表示面のうち表示領域は、透過率の高い透明状態となる。従って、すりガラスと透明ガラスとの境界のように、表示領域と非表示領域との境界付近が目立つ場合がある。
【0089】
以上を勘案し、表示装置100は、非表示領域も散乱状態に切り替え可能とし、非表示領域を徐々にヘイズ値の高い透明状態に近づけるようにする。このようにすることで表示領域と非表示領域との境界付近の境界を目立たなくすることができる。なお、非表示領域の光学特性は、表示領域のように時間的に変化させなくてもよい。
【0090】
<変形例>
以下、第1実施例乃至第4実施例に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、任意に組み合わせて第1実施例乃至第4実施例に適用してもよい。
【0091】
(変形例1)
第1実施例乃至第4実施例では、スクリーン5は、主にプロジェクタ3から照射された光を反射することで観察者に映像を視認させる反射型のプロジェクションであった。しかし、本発明が適用可能な構成は、これに限定されない。これに代えて、スクリーン5は、プロジェクタ3と観察者との間に設けられ、光を透過させて映像を観察者に視認させる透過型スクリーンであってもよい。この場合であっても、本発明は好適に適用される。
【0092】
(変形例2)
領域分割方式では、制御部30は、上述した処理に加え、全ての光学状態のうち、散乱状態が全体に占める時間の比率(「変調時間率Rt」とも呼ぶ。)をスクリーン5の各分割領域Tdで一定にするように切り替えることが望ましい。このとき、変調時間率Rtは、各分割領域Tdで映像光が投影される時間率の最小値以上の値に設定される。これにより、表示領域全体のシースルー透過率及び散乱状態が均一となり、ムラのない良好なシースルー表示が実現される。
【0093】
例えば、縦方向に表示領域が分割されて走査される場合、走査速度が一定であるならば、プロジェクタ3は、各分割領域Tdの散乱状態の時間比率と、各分割領域Tdの走査遅延の時間幅とを一定にして走査する。
【0094】
MEMS(Micro Electro Mechanical System)共振ミラーを用いた場合など走査速度が正弦波の一部であるような変化である場合、即ち、走査速度が一定でない場合、制御部30は、変調時間率Rtを一定に保持し、走査遅延を制御して、各分割領域Tdへ映像光が投射されるタイミングと当該分割領域Tdの散乱状態への切り替えのタイミングとを同期させる。なお、これは、縦横に表示領域を分割した場合等についても同様である。
【0095】
また、これに加え、表示装置100は、非表示領域であっても表示領域と同じ変調時間率Rtで変調することにより、ディスプレイの透明部分と表示部分の境界を目立たなくすることができ、違和感のないシースルー表示を実現することができる。
【0096】
なお、表示装置100は、各分割領域Tdの変調時間率Rtを変更する場合、例えば各分割領域Tdの走査遅延の時間幅を変えずに各分割領域Tdの変調時間率Rtを変更する。
【0097】
(変形例3)
変形例2に加え、映像投射の走査速度が一定でない場合、走査速度が相対的に早い分割領域Tdの走査方向での幅(「走査幅」とも呼ぶ。)が大きく、走査速度が相対的に遅い分割領域Tdの走査幅が細かくなるように、表示領域を分割してもよい。この場合、表示装置100は、各分割領域Tdの走査遅延を、上述の走査幅の分布に合わせて設定する。これにより、駆動回路出力を少なくすることができ、性能を落とすことなく低コスト化することが可能となる。
【0098】
また、表示装置100は、細かく分割された分割領域Tdをまとめて駆動する(出力)ことで、実質的に走査幅を大きくしても良い。
【0099】
なお、表示装置100は、表示領域を縦横分割する場合、長方形(正方形も含む。)あるいは六角形のブロックに分割してもよい。各分割領域Tdの延在方向と走査方向とが異なる場合でも、表示装置100は、シースルー性を維持するように散乱状態への切り替えタイミングを調整することができる。
【0100】
また、表示装置100は、各分割領域Tdを細かく分割する必要はない。これは、分割領域Tdを細かく分割した場合とその他の場合とで、変調時間率Rtが同じであれば、作用効果が同じであることに基づく。
【0101】
(変形例4)
正透過率は、変調時間率Rtによって一意に定まる。従って、表示装置100は、変調時間率Rtを、そのとり得る最小値以上1以下で可変にしてもよい。その例を
図12に示す。
【0102】
このようにすることで、表示装置100は、シースルー性を容易に制御することができ、スクリーン5の背景にある物体(背景物体)を観察者の視界に入れたくない場合あるいは背景物体が視界に入るのを抑制したい場合に、これに対応することができる。例えば、背景物体が、コントラストの変化が細かい構造物、あるいは強く照明されている場合、シースルー性が高いとスクリーン5に投影された映像の視認性が低下する。この場合には、表示装置100は、シースルー性を抑制することで視認性を高めることが可能となる。
【0103】
また、好適には、表示装置100は、正透過率が所定の範囲をとるように、変調時間率Rtの上限値及び下限値を設定する。これにより、表示装置100は、正透過率の範囲を設定することができる。例えば、表示装置100は、変調時間率Rtの下限値又は/及び上限値を低く設定することで、安全性を向上させ、変調時間率Rtの下限値又は/及び上限値を高く設定することで、プライバシー保護を重視することが可能である。
【0104】
また、領域分割方式の場合、正透過率は、分割領域Tdごとに可変であってもよい。この場合、映像が投影されていない分割領域Tdの変調時間率Rtを、映像が投影された分割領域Tdの変調時間率Rtの最小値以下に設定してもよい。これにより、表示装置100は、シースルー性を抑制した強調表示などが可能となると共に、映像が投影されていない分割領域Tdの正透過率を極めて高く設定することができる。
【0105】
例えば、車両のダッシュボード上に表示装置100を設置したような場合、表示装置100は、運転中は表示領域の下部にのみ妨害にならない程度のシースルー映像を表示し、車両の停止中では表示領域の全体にシースルー映像を表示することが可能となる。
【0106】
また、好適には、表示装置100は、分割領域Tdごとに変調時間率Rtの上限値及び下限値を設定する。これにより、表示装置100は、分割領域Tdごとに正透過率の範囲を設定することができる。例えば、表示装置100は、注意喚起などに必要な表示部分に対応する分割領域Tdでは、他の分割領域Tdと比較して、変調時間率Rtの下限値又は/及び上限値を高く設定することで、背景物体像を遮蔽して強調した表示を実現できる。
【0107】
(変形例5)
図1(a)、
図3(a)、
図5(a)では、制御部30は、プロジェクタ3内に設けられていたが、本発明が適用可能な構成は、これに限定されず、プロジェクタ3外に存在してもよい。この場合であっても、制御部30は、制御信号Swをスクリーン5に送信することで、スクリーン5の光学状態を制御する。