(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
短繊維の炭素繊維と、前記炭素繊維を結合する、融点を有さない非熱可塑性の水膨潤フィブリル化繊維とを備えるシートに熱可塑性樹脂繊維を混抄したプリプレグを、複数枚積層し熱圧成型した繊維強化耐熱樹脂成型体であって、
前記水膨潤フィブリル化繊維の叩解の程度が0ml〜200mlの範囲であり、
前記水膨潤フィブリル化繊維の物理的な交絡によって炭素繊維がX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合されており、
マトリックスとして、100重量部の炭素繊維に対して、50重量部〜2000重量部の熱可塑性樹脂繊維を含んでなることを特徴とする繊維強化耐熱樹脂成型体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、単繊維状の炭素繊維を熱可塑性樹脂中に高含有率で埋設する繊維強化プラスチック成型体を記載している。この繊維強化プラスチック成型体は、炭素繊維の重量平均繊維長(Lw)を0.5〜10mmとし、さらに炭素繊維をランダムに配置にすることで、優れた力学特性を実現する。さらに、この繊維強化プラスチック成型体は、繊維状の炭素繊維と、単繊維状の熱可塑性樹脂繊維とを使用することで、炭素繊維をランダムに配置して力学特性を改善する。この繊維強化プラスチック成型体は、所定の長さの炭素繊維と、熱可塑性樹脂繊維を混合して湿式でシート状に加工した後、乾燥してプリプレグとし、複数のプリプレグを積層し、予熱して、金型のキャビティーに配置し、金型のキャビティーで加熱加圧成形することで、熱可塑性樹脂繊維を熱軟化させて、炭素繊維の隙間に含浸させる状態として所定の形状に成形される。
【0006】
以上の繊維強化プラスチック成型体は、炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維とを抄紙してシートとした後、乾燥してプリプレグとする。このプリプレグが複数枚に積層され、予熱した後、金型のキャビティー内で加熱、加圧、成型して所定の形状に成形される。
【0007】
しかしながら、この方法で製造される繊維強化プラスチック成型体は、炭素繊維のバインダーとして熱可塑性樹脂を用いているため、熱溶融等の高熱時に熱可塑性樹脂が溶融してしまうと、炭素繊維同士の交絡点の固定が損なわれる結果、炭素繊維の3次元構造が崩れるおそれがあった。このような場合には、炭素繊維が特定の方向に配向し易くなって、強度が低下することが起こりうる。
【0008】
本発明は、従来のこのような問題点を解決するためになされたものである。本発明は、プリプレグを熱圧成型する際にも、繊維の3次元構造を維持でき、耐熱紙及びその製造方法、繊維強化耐熱樹脂成型体及びその前駆体並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の第1の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体の製造方法によれば、短繊維の炭素繊維をシート状としてなる、連続式での抄紙が可能な湿式抄紙方法を用いて製造した耐熱紙を積層した繊維強化耐熱樹脂成型体の製造方法であって、前記炭素繊維と水膨潤フィブリル化繊維とを水中に分散させ、抄紙用スラリーを作製し、前記抄紙用スラリーを分散剤と共にメッシュコンベアの抄紙面に分散させ、強制的に吸引して、前記炭素繊維及び水膨潤フィブリル化繊維を、X軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させて堆積し、シート状に加工する抄紙工程と、前記抄紙シートを加圧、加熱し、脱水して、抄紙シートに含まれる水膨潤フィブリル化繊維を交絡させて水膨潤フィブリル化繊維の物理的な交絡によって炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合する結合工程と、得られた耐熱紙に熱可塑性樹脂繊維を混抄
したプリプレグを複数枚積層し、熱圧成型する工程とを含み、前記抄紙工程において、前記炭素繊維100重量部に対して、前記水膨潤フィブリル化繊維を5重量部〜45重量部添加することができる。
【0010】
上記構成により、従来のシート材で使用されてきた樹脂製のバインダーに代えて水膨潤フィブリル化繊維を用いたことで、融点によらず水膨潤フィブリル化繊維の立体的構造が保持され、高強度を維持できる。すなわち、通常の熱可塑性樹脂をバインダーに使用すると、熱溶融等の高熱時にバインダーが溶融して炭素繊維の交絡点の固定が失われ、炭素繊維のZ軸方向すなわち厚さ方向の配向が損なわれて強度が低下するところ、水膨潤フィブリル化繊維の枝状に分岐した部分によって炭素繊維の配向が維持される結果、自立性が保たれて強度の低下を回避され、Z軸方向の補強効果を維持できる。特に、抄紙工程においては微小なフィブリルが互いに交絡して繊維網を形成することで、炭素繊維をX,Y軸方向のみならず、Z軸方向にも補強できるのである。また結合工程においては、乾燥により、水膨潤フィブリル化繊維中に含まれる水分が除去される際に大きく収縮して、物理的な結合によって強固な繊維網が形成され、炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合することができる。
【0011】
また第2の側面に係る
繊維強化耐熱
樹脂成型体の製造方法によれば、前記炭素繊維の平均繊維長さを、0.5mm〜13mmとすることができる。
【0012】
さらに第3の側面に係る
繊維強化耐熱
樹脂成型体の製造方法によれば、前記メッシュコンベアの網目の隙間を、0.01mm〜3mmとすることができる。
【0013】
さらにまた第4の側面に係る
繊維強化耐熱
樹脂成型体の製造方法によれば、前記水膨潤フィブリル化繊維を、フィブリル化パラ型芳香族ポリアミド繊維、又はフィブリル化アクリル繊維のいずれかとできる。
【0014】
さらにまた第5の側面に係る
繊維強化耐熱
樹脂成型体の製造方法によれば、前記水膨潤フィブリル化繊維の叩解の程度を0ml〜200mlの範囲とすることができる。
【0015】
さらにまた第6の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体の製造方法によれば
、前記炭素繊維100重量部に対して、熱可塑性樹脂繊維を50重量部〜2000重量部、前記水膨潤フィブリル化繊維と共に混抄させており、前記熱可塑性樹脂繊維の軟化温度よりも高温で、加熱、加圧して溶融させ、さらに冷却固化させることとができる。これにより、抄紙させる一工程で繊維強化耐熱樹脂成型体の前駆体(プリプレグ)を製造することができる。
【0016】
さらにまた第7の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体の製造方法によれば、前記熱可塑性樹脂繊維が、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素系樹脂から選択される少なくとも一又はこれらの組み合わせとできる。
【0021】
さらにまた第
8の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体は、上記繊維強化耐熱樹脂成型体の製造方法で製造されたものである。
【0024】
さらにまた第
9の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体によれば、短繊維の炭素繊維と、前記炭素繊維を結合する、融点を有さない非熱可塑性の水膨潤フィブリル化繊維とを備えるシートに熱可塑性樹脂繊維を混抄したプリプレグを、複数枚積層し熱圧成型した繊維強化耐熱樹脂成型体であって、前記水膨潤フィブリル化繊維の叩解の程度が0ml〜200mlの範囲であり、前記水膨潤フィブリル化繊維の物理的な交絡によって炭素繊維がX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合されており、マトリックスとして、100重量部の炭素繊維に対して、50重量部〜2000重量部の熱可塑性樹脂繊維を含めることができる。上記構成により、複数工程に亘ることなく、抄紙と同時にプリプレグを形成でき、製造工程を簡素化できる利点が得られる。
【0025】
さらにまた第
10の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体によれば、前記熱可塑性樹脂繊維を、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素系樹脂から選択される少なくとも一又はこれらの組み合わせとできる。
【0026】
さらにまた第
11の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体によれば、前記熱可塑性樹脂繊維を26%〜95%、炭素繊維を5%〜64%、水膨潤フィブリル化繊維を0.2%〜23%含有含有させることができる。
【0029】
さらにまた第
12の側面に係る繊維強化耐熱樹脂成型体用のプリプレグは、上記繊維強化耐熱樹脂成型体を構成するプリプレグである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以上の方法で製造されるプリプレグは、複数枚を積層し、加熱、加圧して、繊維強化耐熱樹脂成型体とする状態で、プリプレグの層間の強度を著しく向上できる。それは、抄紙シートを製造する工程で、炭素繊維と水膨潤フィブリル化繊維とを混合している分散液をメッシュコンベアの抄紙面に吸引し、炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させ、堆積させてシート状の抄紙シートとしたことで、水膨潤フィブリル化繊維で炭素繊維を交絡できるからである。特に、水膨潤フィブリル化繊維を強固に交絡させることで、水膨潤フィブリル化繊維の物理的な交絡によって炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合できる。特に、結合工程における乾燥により、水膨潤フィブリル化繊維中に含まれる水分を除去する際に大きく収縮させることで、物理的な結合によって強固な繊維網が形成され、炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合することができる。
【0031】
このように水膨潤フィブリル化繊維を樹脂バインダーに代えて利用することで、熱可塑性樹脂を用いる場合に比べ、高温時にバインダーが溶融せず、物理的な交絡が維持される結果、特にZ方向(厚さ方向)の強度の補強効果の低下を抑制でき、高強度の樹脂成型体を得ることが可能となる。
【0032】
分散液をメッシュコンベアの抄紙面に吸引して堆積すると、メッシュコンベアを透過する水流は、炭素繊維をZ軸方向に配向させようとする。とくに、炭素繊維の先端部は、網目を通過する水流によって、網目から突出されてZ軸方向に配向される。このため、メッシュコンベアの表面に堆積される抄紙シートは、その表面にZ軸方向に配向する繊維が生じて、この繊維が表面から無数に突出する状態となる。
【0033】
さらに、以上の方法は、繊維の微細な隙間に熱硬化性樹脂を含浸させる工程においても、表面から無数の繊維が突出する状態に保持される。従来の方法では、加熱状態で高い粘度となる熱可塑性樹脂のプラスチックシートを積層して、この高粘度のプラスチックシートが表面から突出している無数の繊維を押し付けて平滑面とする。
【0034】
これに対して、本発明の方法では、繊維基材の隙間に、未硬化状態にある液状の熱硬化性樹脂を含浸させるので、熱硬化性樹脂がスムーズに繊維の隙間に含浸されて、Z軸方向の配向を保持する。したがって、熱硬化性樹脂を炭素繊維の微細な隙間に含浸させた状態においても、プリプレグ表面には無数の繊維がZ軸方向に配向され、これが層間の熱硬化性樹脂に埋設されて層間の結合強度を補強する。このため、複数のプリプレグを積層し加熱、加圧して成形される繊維強化耐熱樹脂成型体は、層間の強度を著しく向上できる特徴を実現する。
【0035】
またプリプレグの製造方法によれば、含浸工程において、繊維基材の表面に、未硬化状態にある熱硬化性樹脂シートを積層して加熱し、熱硬化性樹脂シートを溶融させて未硬化状態にある熱硬化性樹脂を繊維基材の隙間に含浸させることができ、あるいは、繊維基材の隙間、未硬化状態にある液状の熱硬化性樹脂を含浸させることができる。
【0036】
繊維基材の表面に、未硬化状態にある熱硬化性樹脂シートを積層して加熱する方法は、加熱されると低粘度となる熱硬化性樹脂シートを積層し、これを加熱して繊維の隙間に含浸させるので、低粘度の熱硬化性樹脂をスムーズに繊維の隙間に含浸させてZ軸方向の配向を保持できる。また、未硬化状態にある熱硬化性樹脂を含浸する方法は、液状の熱硬化性樹脂を、簡単かつ容易に繊維の微細な隙間の内部に含浸させながらZ軸方向の配向を保持できる。
【0037】
また炭素繊維の含有量を9重量%〜64重量%とし、かつ炭素繊維の平均繊維長さを0.5mm〜13mmとすることができる。
【0038】
さらに、メッシュコンベアの網目の隙間を0.01mm〜3mmとすることができる。
【0039】
以上の方法は、分散液を湿式抄紙するメッシュコンベアの網目を大きくしているので、分散液がメッシュコンベアをスムーズに透過して炭素繊維のZ軸方向の配向作用を大きくする。さらに、炭素繊維の先端部をより長く繊維基材表面から突出させて、繊維強化耐熱樹脂成型体の層間強度をより向上できる。
【0040】
一方、熱硬化性樹脂をエポキシ樹脂とすることができる。熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂の何れかとすることができる。
(繊維強化耐熱樹脂成型体の製造方法)
【0041】
次に、繊維強化耐熱樹脂成型体の製造方法を説明する。まず、熱硬化性樹脂を用いた場合は、抄紙工程、樹脂含浸工程、成型工程を経て繊維強化耐熱樹脂成型体を製造する。抄紙工程においては、炭素繊維と水膨潤フィブリル化繊維を混抄して、耐熱紙を製造する。ここでは短繊維の炭素繊維をシート状とする。
【0042】
次に樹脂含浸工程においては、抄紙工程で抄造した耐熱紙に、未硬化の樹脂を含浸させてプリプレグを作製する。ここでは、未硬化状態の熱硬化性樹脂シートを熱転写する方法、あるいは液状の熱硬化性樹脂を含浸させる方法等が利用できる。
【0043】
そして成型工程においては、樹脂含浸工程で得られたプリプレグを1枚以上積層し、プリフォームを得ると共に、このプリフォームを加熱、加圧して繊維強化耐熱樹脂成型体を製造する。
【0044】
また、熱硬化性樹脂に代えて、熱可塑性樹脂繊維を用いる場合は、抄紙工程と樹脂含浸工程を同時に行うことができる。すなわち、炭素繊維と水膨潤フィブリル化繊維に加えて、熱可塑性樹脂繊維も同時に混抄し、1工程にてプリプレグを製造することができる。得られたプリプレグは、上記と同様に1又は複数を積層し、熱圧する成型工程を経て繊維強化耐熱樹脂成型体を得ることができる。
熱可塑性樹脂繊維は、炭素繊維100重量部に対して50重量部〜2000重量部を混抄させる。また熱可塑性樹脂繊維の配合比率は180重量部〜2000重量部とすることが好ましい。熱可塑性樹脂を180重量部以上とすることによって、炭素繊維がX軸、Y軸、Z軸方向に配向している状態で、後に熱圧成形を行って、その繊維間の隙間を溶融した熱可塑性樹脂で埋め、ボイド率を低減することができる。ここでボイドとは、CFRP成形後に成形品に含まれる空気分を意味する。ボイド率を少なくすることで、CFRPの強度を向上させることができる。なお熱可塑樹脂を180重量部以上とすることで、炭素繊維とフィブリル化繊維と熱可塑樹脂繊維を含むプリプレグの原料配合比率を100重量%としたとき、炭素繊維の配合比率は35重量%未満になる。
【0045】
含浸工程においては、繊維基材の表面に、未硬化状態にある熱硬化性樹脂シートを積層して加熱し、熱硬化性樹脂シートを溶融させて未硬化状態にある熱硬化性樹脂を繊維基材の隙間に含浸させることができ、あるいは、繊維基材の表面に、未硬化状態にある液状の熱硬化性樹脂を含浸して繊維基材の隙間に含浸させることができる。
【0046】
水膨潤フィブリル化繊維は、熱溶融してバインダー効果を示すものではないが、物理的な絡みによって繊維同士を交絡させることができる。この結果、プリプレグを加熱、加圧し、繊維強化耐熱樹脂成型体とする工程の際にも、繊維の3次元構造が保持され、成形後にも一定の強度が保持される。
【0047】
成型工程においては、プリプレグを1枚以上積層し、加熱、加圧してプリプレグに含まれる樹脂を軟化させた後に、硬化(熱可塑性樹脂の場合は固化)させて、繊維強化耐熱樹脂成型体を成型する。その際、プリプレグ中にZ軸方向に配向する炭素繊維が存在するため、プリプレグ間の層間補強繊維となり、3次元方向の繊維補強効果のある繊維強化耐熱樹脂成型体が成型される。
【0048】
なお特許文献1にも抄紙工程が開示されているものの、またバッチ法であって連続法でない。これに対し本実施の形態によれば連続抄紙が可能であり、熱可塑性樹脂繊維との混抄であれば1段工程でプリプレグを作成でき、生産性に優れる。
【0049】
以下、本発明の実施例を詳述する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための耐熱紙及びその製造方法、繊維強化耐熱樹脂成型体及びその製造方法を例示するものであって、本発明は耐熱紙及びその製造方法、繊維強化耐熱樹脂成型体及びその製造方法を以下の方法には特定しない。さらに、この明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0050】
なお本明細書において耐熱紙とは、炭素繊維と水膨潤フィブリル化繊維を混抄したシートを意味する。またプリプレグとは、上記耐熱紙に熱硬化性樹脂を含浸したシート。もしくは上記耐熱紙に熱可塑繊維を混抄してシートとしたものを意味する。さらにプリフォームとは、上記プリプレグを複数枚積層したものを意味する。さらにまた繊維強化耐熱樹脂成型体とは、上記プリフォームを熱圧し、成型体としたものを意味し、一般にはFRPやCFRP等と呼ばれる。
【0051】
繊維強化耐熱樹脂成型体は、短繊維の炭素繊維をシート状としている繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸している複数のプリプレグを積層し、これを加熱、加圧してプリプレグの熱硬化性樹脂を硬化して製造される。
【0052】
プリプレグは、炭素繊維を繊維基材とするシート加工工程と、このシート加工工程で得られた繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させる含浸工程とで製造される。シート加工工程は、炭素繊維を湿式抄紙してシート状の抄紙シートに加工する抄紙工程と、この抄紙工程で得られる抄紙シートの炭素繊維を水膨潤フィブリル化繊維で結合して繊維基材とする結合工程とからなる。抄紙工程は、水膨潤フィブリル化繊維を、100重量部の炭素繊維に対して5重量部〜45重量部加えて分散液に添加すると共に、炭素繊維と水膨潤フィブリル化繊維の添加された分散液をメッシュコンベアの抄紙面に吸引して炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させ、堆積してシート状に加工する。特に、抄紙工程においては微小なフィブリルが互いに交絡して繊維網を形成することで、炭素繊維をX,Y軸方向のみならず、Z軸方向にも配向できる。
【0053】
結合工程は、抄紙工程で得られる抄紙シートを加圧、加熱し、脱水して、抄紙シートに含まれる水膨潤フィブリル化繊維を強固に交絡させて水膨潤フィブリル化繊維の物理的な交絡によって炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合する。この結合工程において、乾燥によって、水膨潤フィブリル化繊維中に含まれる水分を除去する際に大きく収縮させて、物理的な結合によって強固な繊維網が形成され、炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合することができる。なお、水膨潤フィブリル化繊維には、フィブリル化パラ型芳香族ポリアミド繊維や、フィブリル化アクリル繊維等が利用できる。さらに、含浸工程では、繊維基材の隙間に、未硬化状態にある熱硬化性樹脂を含浸させる。
【0054】
プリプレグは、短繊維の炭素繊維をシート状に加工してなる繊維基材に、未硬化状態にある熱硬化性樹脂を含浸させて製造される。プリプレグは、好ましくは、熱硬化性樹脂の含有量を26重量部〜91重量部とし、かつ、炭素繊維の含有量を9重量部〜64重量部とする。
【0055】
繊維基材は、抄紙工程において、短繊維の炭素繊維を湿式抄紙してシート状の抄紙シートに加工し、この抄紙シートの炭素繊維を、結合工程において、水膨潤フィブリル化繊維で結合して製造される。
【0056】
抄紙シートは、抄紙工程において、以下のように湿式抄紙して製造される。
【0057】
短繊維の炭素繊維を水に懸濁して抄紙用スラリーとし、この抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状とし、これを乾燥して抄紙シートを製造する。炭素繊維は、平均繊維長さを0.5mm〜13mmとするものを使用する。
【0058】
さらに、炭素繊維に加えて、水膨潤フィブリル化繊維を添加して抄紙用スラリーとする。この水膨潤フィブリル化繊維は、フィブリル化パラ型芳香族ポリアミド繊維、又はフィブリル化アクリル繊維のいずれかを使用する。さらに、水膨潤フィブリル化繊維は、これ等を複数種混合したものを使用することもできる。水膨潤フィブリル化繊維は、100重量部の炭素繊維に対して5重量部〜45重量部を加えて分散液に添加する。
【0059】
さらに、分散液には、炭素繊維と水膨潤フィブリル化繊維に加えて、補助繊維を添加することもできる。この補助繊維には、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリイミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、ポリビニルアルコール繊維、エチルビニルアルコール繊維、のいずれか又はこれ等を複数種混合したものが使用できる。これらの補助繊維は、例えば、100重量部の炭素繊維に対して50重量部〜2000重量部を加えて分散液に添加することができる。ただ、補助繊維は、必ずしも添加する必要はない。
【0060】
以上のようにして調製された分散液をメッシュコンベアの抄紙面に吸引して堆積してシート化し抄紙シートとする。このメッシュコンベアは、網目の隙間を0.01mm〜3mmとすることができる。このように、分散液をメッシュコンベアの抄紙面に吸引して堆積すると、メッシュコンベアの網目を透過する水流により、炭素繊維が網目から突出してZ軸方向に配向される。湿式法による抄紙シートの製造においては、湿式の製紙機械としてすでに使用されている長網抄紙機、傾斜金網、抄紙機、円網抄紙機等を利用する。繊維の分散が良いこと、配向性の調整が容易であること等の点からすると、傾斜金網を使用する装置が最適である。
【0061】
抄紙工程で製造された抄紙シートは、結合工程において、加熱、乾燥して繊維基材とする。
【0062】
結合工程においては、乾燥により、水膨潤フィブリル化繊維中に含まれる水分が除去される際に大きく収縮して、物理的な結合によって強固な繊維網が形成され、炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合することができる。
【0063】
シート加工工程で製造された繊維基材は、含浸工程において、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させる。繊維基材に含浸させる熱硬化性樹脂は、繊維基材に含浸性を有し、後述する積層工程での取り扱い性が確保できる引張強度を有する未硬化状態の熱硬化性樹脂を使用する。繊維基材に含浸される熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂を使用する。ただ、熱硬化性樹脂には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂の何れかを使用することもできる。
【0064】
熱硬化性CFRP用プリプレグの製造における含浸工程は、耐熱紙の表面に、未硬化状態にある熱硬化性樹脂シートを積層して加熱、加圧し、熱硬化性樹脂シートを軟化させて、未硬化状態にある熱硬化性樹脂を繊維基材の隙間に転写させる。
【0065】
あるいは、耐熱紙に未硬化状態にある液状の熱硬化性樹脂を含浸して、繊維基材の隙間に含浸させてもよい。この繊維基材に樹脂を含浸させたものをプリプレグという。なお、熱硬化性樹脂が繊維基材に含浸する際、低粘度となった熱硬化性樹脂がスムーズに繊維基材内部に含浸されるため、繊維基材の炭素繊維のX軸、Y軸、Z軸方向の配向は崩れることなくそのまま保たれる。
【0066】
以上のようにして製造されたプリプレグを複数枚積層し、これを加熱、加圧してプリプレグの熱硬化性樹脂を硬化させて繊維強化耐熱樹脂成型体を製造する。プリプレグの積層体は、加熱されることにより硬化する熱硬化性樹脂を介して、互いに積層されたプリプレグ同士が層間において強固に結合されて繊維強化耐熱樹脂成型体となる。
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに詳細を説明する。
[実施例1]
【0068】
実施例1として、耐熱紙(抄紙シート、繊維基材)、熱硬化性樹脂を用いたプリプレグ及び耐熱樹脂成型体を、以下の手順で製造する。
(1)プリプレグの製造工程
[シート加工工程]
1.抄紙工程
【0069】
炭素繊維として、炭素繊維(PAN系、繊維径7μm、平均繊維長3mm)を85重量部と、バインダーとして水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維(帝人アラミド製、トワロンジェットスパンフィブリッド)15重量部とを含む組成分を、水中に混合分散し、固形分0.1〜3.0%からなる抄紙用スラリーを調整する。この後、分散剤としてアニオン系ポリアクリル酸ソーダを0.00002重量部を添加後、この分散液を、網目の隙間を0.3mmとするメッシュコンベアの抄紙面に吸引して堆積してシート化し、抄紙シートとする。この際、微小なフィブリルが互いに交絡して繊維網を形成する。そして、炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で堆積してシート状に加工する。
2.結合工程
【0070】
抄紙工程で製造された加湿状態の抄紙シートを、加圧、加熱(圧熱)し、脱水して、抄紙シートに含まれる水膨潤フィブリル化繊維を強固に交絡させ、水膨潤フィブリル化繊維の物理的な交絡によって炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合し、繊維基材とする。この状態で、繊維基材は、短繊維の炭素繊維が、X軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向された状態で結合される。特に乾燥によって、水膨潤フィブリル化繊維中に含まれる水分が除去される際に大きく収縮し、物理的な結合によって強固な繊維網を形成し、炭素繊維をX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに配向させた状態で結合する。
【0071】
以上のシート加工工程により、
(1)坪量25g/m
2、厚さ0.15mm、密度0.17g/cm
3、引張強度1.0N/15mm
(2)坪量50g/m
2、厚さ0.30mm、密度0.17g/cm
3、引張強度2.5N/15mm
(3)坪量70g/m
2、厚さ0.45mm、密度0.16g/cm
3、引張強度5.1N/15mmとするシートが、それぞれ得られた。
【0072】
なお、このシートは連続式での抄造が可能であり、それぞれのシートについて、650mm幅×100m巻きのロールサンプルを抄造した。
[含浸工程]
【0073】
次に、シート加工工程で製造された繊維基材(ここでは上記(3)坪量70g/m
2を使用した。)に、未硬化の熱硬化性樹脂シートを含浸させる。含浸される熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を使用する。エポキシ樹脂は、メチルエチルケトンに希釈して、原紙に付着させて熱硬化性樹脂シートとする。希釈濃度は、40重量%とする。メチルエチルケトンを除去する状態で原紙に付着される熱硬化性樹脂の量は、原紙に対して170重量%とする。
【0074】
以上のようにして、製造された熱硬化性樹脂シートを繊維基材の表面に積層し、さらに加熱して熱硬化性樹脂シートを溶融させて、未硬化の熱硬化性樹脂シートを繊維基材の隙間に含浸させる。これにより、単位面積に対する重量を190g/m
2とするプリプレグを製造する。このようにして、繊維基材に樹脂を含浸させて得られたものをプリプレグという。
(2)繊維強化耐熱樹脂成型体の製造工程
[積層工程]
【0075】
以上の工程で製造されたプリプレグを用いて、繊維強化耐熱樹脂成型体を製造する。ここでは、プリプレグを12枚積層する。
[加熱加圧処理工程]
【0076】
プリプレグの積層体を、5MPa、130℃条件下における熱圧処理を行う。これにより、プリプレグの熱硬化性樹脂を硬化させて、複数枚のプリプレグを層間で互いに結合してCFRPを製造する。
(0089)
【0077】
以上の工程で製造されたCFRPは、単位面積に対する重量が2280g/m
2、厚さ2.04mm、密度1.12g/cm
3であった。
【0078】
さらに実施例1で製造された繊維強化耐熱樹脂成型体について、引張強度を実施した。この引張強度の測定はJIS K 7073に準じ試験を実施したところ、引張強度147MPaであった。
(0091)
【0079】
さらに実施例1で製造されたCFRPについて、曲げ強度(3点曲げ)を実施した。この曲げ強度の測定はJIS K 7074に準じ試験を実施したところ、曲げ強度221MPa、曲げ弾性率3.0GPaであった。
[実施例2]
【0080】
次に実施例2として、熱可塑性樹脂繊維を用いたプリプレグ及び繊維強化耐熱樹脂成型体を製造する。
(1)プリプレグの製造工程
【0081】
まず、プリプレグの製造工程を説明する。炭素繊維(PAN系、繊維径7μm、平均繊維長3mm)を30重量部と、バインダーとして、水膨潤フィブリル化芳香族ポリアミド繊維(帝人アラミド製、トワロンジェットスパンフィブリッド)を15重量部と、マトリックス(母材)となる熱可塑性ナイロン繊維を55重量部とを含む組成分を、水中に混合分散し、固形分0.1〜3.0%からなる抄紙用スラリーを調整する。
【0082】
この後、分散剤としてアニオン系ポリアクリル酸ソーダを、0.00002重量部を添加後、この分散液を、網目の隙間を0.3mmとするメッシュコンベアの抄紙面に吸引して、堆積してシート化し、抄紙シートとする。
【0083】
以上の抄紙工程により、坪量78g/m
2、厚さ0.41mm、密度0.17g/cm
3、引張強度14N/15mmとするシート(プリプレグ)が得られた。なお、このシートは連続式での抄造が可能であり、650mm幅×100m巻きのロールサンプルを抄造した。
(2)繊維強化耐熱樹脂成型体の製造工程
【0084】
次に、繊維強化耐熱樹脂成型体の製造工程を説明する。ここでは、以上の工程で製造されたプリプレグを、27枚積層する。
【0085】
さらにプリプレグの積層体を、5MPa、250℃条件下における熱圧処理を行う。これにより、プリプレグの熱可塑性樹脂繊維を軟化、固化させて、複数枚のプリプレグを層間で互いに結合してCFRTPを製造する。
【0086】
以上の工程で製造されたCFRTPは、単位面積に対する重量が2106g/m
2、厚さ2.00mm、密度1.05g/cm
3であった。
【0087】
さらに以上の実施例2で製造された繊維強化熱可塑性樹脂成型体について引張強度を実施した。この引張強度の測定はJIS K 7073に準じ試験を実施したところ、引張強度200MPaであった。