(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粘弾性体の自然高さは、前記被除振物を支持しているときの前記吸収材収容部の高さの110%未満であり、かつ、前記被除振物を支持して除振中の前記吸収材収容部の最小高さよりも大きい、請求項1に記載の除振部材。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施態様による除振部材は、被除振物を支持した状態で使用されるものであり、1または複数の除振部材により、被除振物を支持しながら、被除振物に伝わる床からの振動を減衰させる。除振部材は、上部支持体と、上部支持体と離間して配置された下部支持体と、両端で上部支持体と下部支持体とに固定的に接して配置されているコイルバネとを有する。除振部材は、さらに、上部支持体と下部支持体との間にコイルバネに並列に設けられた吸収材収容部を有し、粘弾性体が吸収材収容部に配置されている。粘弾性体の自然状態での高さAは、除振部材が被除振物を支持していない状態での吸収材収容部の高さH’よりも小さく、除振部材が被除振物を支持した状態における吸収材収容部の高さHと略同じになるように選択されている。このため、除振部材が被除振物を支持しても粘弾性体が実質的に圧縮されず、除振性能の低下を最小限にすることができる。
【0011】
以下図面を参照しながら、本発明の除振部材を説明する。
図1は本発明の第1の実施形態による除振部材を示す断面図であり、
図2は被除振物を支持している状態の除振部材を示す断面図である。
【0012】
除振部材1は、下部支持体10と、下部支持体10から離間して配置された上部支持体12と、下部支持体10と上部支持体12との間に配置されたコイルバネ14とを有し、コイルバネ14と並列に上下の支持体10、12間に設けられた吸収材収容部16に粘弾性体18を有する。本実施形態に係る除振部材1は、自然状態の粘弾性体18の高さAよりも被除振物60を支持しない状態における吸収材収容部16の高さH‘が大きく、自然状態の粘弾性体18の高さAと被除振物60を支持した状態における吸収材収容部16の高さHが略等しいものである。
【0013】
コイルバネ14は、金属等の弾性体を螺旋状に形成したバネであり、コイルバネ14に圧縮荷重を加えて使用する圧縮バネである。コイルバネ14は、支持する被除振物の質量や、使用される除振部材の数量、被除振物の設置場所に発生している振動の周波数特性や振幅の大きさによって、適宜必要な特性のコイルバネを選ぶことができる。上述したように、広い周波数特性で優れた除振効果を発揮させるためには、バネ定数の小さいコイルバネを選択することが好ましい。
【0014】
上部支持体12と下部支持体10(以下、単に支持体と称することもある)は、それぞれ略板状の部材を使用でき、コイルバネ14の両端に接して配置されている。それぞれの支持体10、12は、コイルバネ14と一体的に取り扱いができるように、コイルバネ14に対して固定的に取り付けられていることが好ましい。支持体10、12は、金属やプラスチック等の任意の材料から作製することができる。例えば、鉄やアルミ等の金属や、液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチック等の変形しにくい素材から、支持体10、12を作製することができる。なお、ここでは、上部支持体12と下部支持体10とは、略板状部材を用いているが、支持体の形状は必ずしも板状に限られない。両支持体は、コイルバネ14と粘弾性体18とを支持するとともに、下部支持体10なら、下部支持体10が設置される設置面に安定して設置できる形状であればよく、上部支持体12なら、被除振部材60を設置できる形状であれば、その形状は限定されない。
【0015】
下部支持体10は、例えば、被除振物を設置する床40の床面40aに対して下部支持体10の下面10aが接するように配置される。床面40aはビルや家屋の床面に限られず、地面や、機器を設置する台の表面やボックスの底面をも含む。下部支持体10は、床面40aに対して直接設置されるだけでなく、設置高さを調整する等の目的で、スペーサー等の他の部材の上に配置してもよい。上部支持体12は、被除振物60と接する部分である。被除振物60は、上部支持体12の上面12bに接して配置されてもよいし、例えば、上部支持体12に図示しない棒状の取付部材を設け、その取付部材に対して被除振物を固定しても良い。
【0016】
吸収材収容部16は、上部支持体12と下部支持体10との間にコイルバネ14と並列に形成された空間であり、そこに振動吸収材としての粘弾性体18が配置される。吸収材収容部16はコイルバネ14の内部空間に限られるわけではなく、コイルバネ14の外側に吸収材収容部16を設けても良い。
【0017】
本実施形態では、粘弾性体18は、シート状の粘弾性物質を積層した円柱形を有している。なお、粘弾性体18の詳細については、後述する。
【0018】
本実施形態では、除振部材1が被除振物60を支持していない状態における吸収材収容部16の高さH’(下部支持部材10の上面10bと、上部支持部材12の下面12aとの距離)は、粘弾性体18の自然状態(自重以外に荷重を受けていない状態)での高さAよりも大きい(
図1)。しかし、除振部材1が被除振物60を支持してコイルバネ14が縮んだときに、吸収材収容部16の高さHが粘弾性体18の自然状態での高さAと略同じになるように、粘弾性体18の高さAが設定される(
図2)。
【0019】
例えば被除振物60を4つの除振部材1で支持する場合を考えると、被除振物60の質量の1/4が1つの除振部材1に荷重として加わったときに、吸収材収容部16の高さHと粘弾性体18の自然状態での高さAとが略等しくなるように粘弾性体18の高さAが調節される。このようにすると、被除振物60を支持したときに粘弾性体18と上部支持部材12とが接触するが、粘弾性体18は実質的に支持部材10、12によって圧縮されないことになる。
【0020】
ここで、一般に弾性体の共振周波数f
0は、f
0=(K/m)
0.5/2πであらわすことができる。ここで、Kは粘弾性体のバネ定数、mは粘弾性体に加わる荷重である。また、圧縮される方向の断面積が一定の柱状粘弾性体のバネ定数Kは、K=E’×S/tで表すことができる。ここで、Sは粘弾性体の圧縮方向に垂直な面の断面積、tは粘弾性体の圧縮方向の高さ(厚さ)、E’は粘弾性体のヤング率である。
【0021】
この式から分かるとおり、粘弾性体18のヤング率E’が小さいほどバネ定数が小さくなり、結果として粘弾性体18およびそれが組み込まれた除振部材1の共振周波数を下げることができる。粘弾性体18は、圧縮された状態ではヤング率が増加し、除振部材1のバネ定数を大きくしてしまう。しかし、本実施形態のように、除振部材1が被除振物60を支持した状態で粘弾性体18が実質的に圧縮されないように粘弾性体18の高さAを設定すると、粘弾性体18の低い弾性率を有効に利用することができる。
【0022】
なお、粘弾性体18が実質的に圧縮されないとは、粘弾性体18が他の部材からの圧縮を全く受けていない状態に加え、粘弾性体18の弾性を大きく損なわない程度に粘弾性体18が他の部材から圧縮されている状態をも含むものである。
【0023】
粘弾性体18の自然状態での高さAは、理想的には、被除振物60を支持したときの吸収材収容部16の高さHに等しく設定されるが、本発明は粘弾性体18の自然状態での高さAと被除振物60を支持したときの吸収材収容部16の高さHとが等しいものに限られない。粘弾性体18の自然状態での高さAが被除振物60を支持したときの吸収材収容部16の高さHに対して大きいほど、上部支持部材12と粘弾性体18とが確実に接触するが、被除振物60を支持したときの粘弾性体18の圧縮量が大きくなり弾性率が高くなる。従って、粘弾性体18の自然状態での高さAは、被除振物60を支持したときの吸収材収容部16の高さHの115%以下とすることができ、110%以下が好ましく、107%以下がさらに好ましく、100%以下がさらに好ましい。
【0024】
また粘弾性体18の自然状態での高さAは、除振部材1が振動中(除振中)に粘弾性体18と上部支持部材12とが接触できる程度の高さがあればよい。つまり、除振部材1が被除振物60を支持して振動しているときに吸収材収容部16の高さは振動の周期に合わせて変化するが、振動中に吸収材収容部16がとる最小高さと、粘弾性体18の自然状態での高さAが等しいか、粘弾性体18の自然状態での高さAがそれよりも大きいものであればよい。より具体的には、粘弾性体18の自然状態での高さAは被除振物60を支持したときの吸収材収容部16の高さHの90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましく、97%以上がさらに好ましい。
【0025】
上述のように、粘弾性体18の自然状態での高さAと被除振物60を支持した状態での吸収材収容部16の高さHとが略同じになるように設定すると、粘弾性体18の自然状態での高さAと被除振物60を支持していない状態における吸収材収容部16の高さH’とを略同じにした場合に比べて、応答倍率を低く保ったまま共振周波数を低くすることができる。また、このように構成した除振部材1の周波数特性は、周波数が共振周波数を超えると急激に応答倍率が減少する周波数特性を示す。つまり、応答倍率の周波数特性は、共振周波数で極大となるピークを示すが、ピーク幅が非常に狭く、ピーク値を過ぎて周波数が高くなると応答倍率が急峻に低下するものとなる。そのため、除振部材1の共振周波数に近い外部振動に対しても優れた除振性能を発揮することができる。
【0026】
粘弾性体18は、粘弾性を有する任意の粘弾性物質から構成することができる。粘弾性物質は一般的にポリマーを含み、使用できるポリマーとして天然または合成ゴム、シリコーンポリマー、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、フッ素系ポリマー等を例示することができる。
【0027】
本実施形態で使用される粘弾性体18は、容器に収容したり、表面にフィルムを巻きつけたりしなくとも、自らの形状を維持できる程度の粘度を有するものである。つまり、容器等に収容しなくとも、除振部材1の使用中に加えられる変形の程度において弾性変形し、外力が除去されたときに元の形状を回復できるものである。このような粘弾性体18を使用すると、粘弾性体18のための容器等を設ける必要がないので、除振部材1を小型かつシンプルな構成とすることができる。さらに、後述のように、粘弾性体18の変形が容器等によって制限されないので、粘弾性体18の弾性率の上昇を効果的に抑制することができる。
【0028】
粘弾性体18は、上下の支持体10、12の少なくとも一方に対して固定的に取り付けられていることが好ましい。また、粘弾性体18は支持部材10、12に対し粘着できる程度の粘着性を有していてもよい。粘弾性体18が支持部材10,12に対して粘着できると、粘弾性体18を下部支持部材10に対して固定する固定部材を設けずとも、粘弾性体18と下部支持部材10とを一体化することが可能となる。また、粘弾性体18が引張りを受ける状態でも、粘弾性体18が上部支持部材12と接した状態を維持して振動吸収性能を発揮することが可能となり、除振部材1の除振性能を高めることができる。
【0029】
粘弾性体18は、本実施形態のようにシート状に加工した粘弾性物質を複数積層して作製することが好ましい。柱状の粘弾性体18を作製するには、例えば柱状の内部空間を有する型に注型する方法や、柱状体の高さと等しい厚さを有する粘弾性物質のシートを作製してから切り抜く方法等が考えられる。しかし、粘弾性物質が低い弾性率と高い粘着性とを有するゲル状の物質である場合、上記のような方法では作製が困難となる場合がある。注型で作製するには、粘弾性物質を中心まで均一に硬化させることや、粘着性のある粘弾性物質を離型させることが困難である。柱状体を一度に切り抜く場合も、粘弾性物質のシートが切り抜き工程で変形し、所望の形状に加工するのが難しくなる。
【0030】
一方、粘弾性物質を薄いシート状に加工し、それを積層して柱状体を作製する方法では、上記のような困難性が回避されうる。また、粘弾性物質が粘着性を有すると、別途粘着剤等を使用せずとも積層した粘弾性物質を一体化できる。
【0031】
粘弾性体18は使用中(除振中)にコイルバネ14と接触せず、また、接触しても粘着しないことが好ましい。粘弾性体18は縦方向に上下の支持部材12、10によって圧縮されると、それに応じて横方向に膨張することになる。逆に粘弾性体18が上下方向に伸ばされると、横方向に収縮することになる。粘弾性体18の横方向への膨張・収縮が規制されると、粘弾性体18の縦方向への収縮・膨張が困難になり、弾性率が増加することになる。したがって、除振部材1の作動中に、粘弾性体はコイルバネと接触して横方向への膨張や収縮が規制されないことが、低周波数でも優れた除振性能を発揮するためには好ましい。また、同様な理由で、粘弾性体18がコイルバネ14に粘着すると粘弾性体18の自由な膨張・収縮が規制されることとなるため、粘弾性体18はコイルバネ14と粘着しないことが好ましい。
【0032】
粘着性を有する粘弾性体18を使用する場合、支持体10、12と接する表面以外の粘弾性体18の表面18aは粘着性を有さないように処理をすることが好ましい。この処理には、公知の各種処理方法を使用することができる。例えば、粘弾性体18の表面18aに溶剤等を塗布し、表面18aに化学変化を生じせしめ、粘着性を消失させてもよい。または、粘弾性体18の表面18aの架橋度合いを、粘弾性体18内部の架橋度合いよりも高めて、粘着性を低下・消失させてもよい。あるいは、粘弾性体18の表面に他の物質、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のプラスチックの微粒子、を付着させて粘着性を低下・消失させてもよいし、粘弾性体18の表面に可撓性のあるフィルムを巻着させてもよい。
【0033】
微粒子のように、粘弾性体18の高さに比較して十分に小さい粒子を粘弾性体18に付着させると、粘弾性体18の膨張・収縮を阻害せずに粘着性を低下・消失させることができる。したがって、粘弾性体18に比べて小さい微粒子等の物質を表面18aに付着させることで粘着性を消失させることが好ましい。
【0034】
粘弾性体18を構成する粘弾性物質としては、ヤング率E’が小さいものが好ましい。ヤング率E’が小さいと、粘弾性体18のバネ定数を小さくすることができる。上述のとおりバネ定数Kには粘弾性体18の大きさもパラメーターとして影響するが、バネ定数を小さくするために粘弾性体の体積Vを小さくすると、粘弾性体18が振動を減衰させる能力が低下してしまう。また、使用するコイルバネ14の大きさや被除振物60の質量等によって、粘弾性体18の体積を変化させられる範囲に限りがある。したがって除振部材1の設計自由度を高めるためには、ヤング率E’の小さい粘弾性物質を選択することが好ましい。
【0035】
本実施形態に使用できる粘弾性物質のヤング率E’は、温度15℃の環境中で、1Hzの圧縮モードで動的粘弾性測定したときに、3x10
5Pa以下が好ましく、2x10
5Pa以下がさらに好ましく、8x10
4Pa以下がさらに好ましい。
【0036】
粘弾性体物質は、損失係数(tanδ)が大きいものが好ましい。損失係数が大きいほど、振動エネルギーを効果的に熱エネルギーに変換できるので、除振部材1の振動減衰性能を向上させることができる。粘弾性物質の損失係数は、動的粘弾性測定装置を使用して温度20 ℃、1Hzの圧縮モードで測定したときに、0.15以上であることが好ましく、0.2以上であることが更に好ましい。
【0037】
そのような粘弾性物質として、アクリルポリマーを好適に使用することができる。アクリル系ポリマーは加水分解性が低く、シリコーンを含まないので電子部品等を汚染する危険性が低い。そのためアクリルポリマーを含む粘弾性体は、長期間の耐候性に優れておいり、耐薬品性や耐汚染性においても優れている。
【0038】
アクリルポリマーは、アクリルモノマーと架橋剤、開始剤とを含む混合物を、公知の方法で重合・架橋反応させることで得られる。アクリルモノマー等を含む混合物は、さらに任意の添加物を含むことができ、例えば、増粘剤を含むことができる。増粘剤はアクリルモノマーを含む混合物の粘度を上昇させ、比較的厚みの大きい粘弾性物質シートの作製を容易にする。
【0039】
アクリルモノマーとしては、炭素数2〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを好適に使用できる。このモノマーは、アクリルの骨格にアルキル基が付加されたものである。アクリルモノマーのアルキル基は、アルキル基が長いほど弾性率が低くなり損失係数が高くなる。そのため、アルキル基の炭素数は多いほど好ましく、具体的には炭素数は8以上が好ましく、16以上がさらに好ましい。
【0040】
またアクリルモノマーは分岐構造を有していることが好ましい。一般的に、炭素数が多くかつ分岐構造を有さないアクリルモノマーから得られるアクリルポリマーは、結晶性が高く、蝋状の性質が強くなる傾向を有するからである。
【0041】
炭素数2〜20のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、イソオクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル等を挙げることができる。なお、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」もしくは、「メタアクリレート」を意味する。アクリルモノマー等を含む混合物には、上記のアルキル(メタ)アクリレートを単独で、あるいは複数のものを混合して使用してもよい。
【0042】
アクリルモノマー等を含む混合物には、さらに、極性基ビニルモノマーを加えて、アクリルモノマーと共重合させても良い。極性基ビニルモノマーは、アクリルポリマーの保持力(被着体からの剥がれ難さ)を改善する効果を有する。他方、極性基ビニルモノマーの量が増えると、ポリマー内部に水素結合が増加するため、アクリルポリマーの弾性率が大きくなる傾向にある。したがって、アクリルモノマー等を含む混合物に添加する極性基ビニルモノマーの割合(質量比)は、アクリルモノマー1に対して極性基ビニルモノマー0.1以下とすることが好ましく、アクリルモノマー1に対して極性基ビニルモノマー0.05以下とすることが更に好ましい。
【0043】
極性基ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート類等のカルボキシ基含有ビニルモノマー : 2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニルモノマー: アクリルアミド、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等の窒素含有ビニルモノマー等を挙げることができる。上記のような極性基ビニルモノマーは単独で、あるいは、複数種類をアクリルモノマー等を含む混合物に加えることができる。
【0044】
アクリルモノマー等を含む混合物には、上記に加えて、架橋剤を添加することができる。アクリルモノマー等を含む混合物に架橋剤を添加することにより、重合反応と架橋反応が同時に起こり、アクリルポリマーに架橋構造を導入することができる。
【0045】
架橋剤としては特に限定はされないが、多官能ビニル化合物を使用することができる。多官能ビニル化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ、1,9−ノナンジオール、(ポリ)エチレングリコールジ、(ポリ)プロピレングリコールジ、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの多官能ビニル化合物を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してよい。
【0046】
アクリルモノマー等を含む混合物に含まれる開始剤としては特に限定されないが、紫外線等で重合反応を開始できる光重合開始剤が好適に使用できる。使用可能な光重合開始剤としては、例えば、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(Irgacure2959,チバ・スペシャリティケミカルズ社)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure184,チバ・スペシャリティケミカルズ社)、2,2−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(Irgacure651,チバ・スペシャリティケミカルズ社)等を挙げることができる。
【0047】
上記のようなアクリルモノマー等を含む混合物からアクリルポリマーを得るには、アクリルモノマー等を含む混合物に対して光重合開始剤が反応する波長の光を照射し、重合・架橋反応を開始させればよい。このとき、アクリルモノマー等を含む混合物を型に注入して所望の形状のアクリルポリマーとすることができるし、2枚のフィルムの間に挟んでシート状のアクリルポリマーとすることもできる。
【0048】
ポリマーを含む粘弾性体18として、ポリマーをゲル状にしたものを使用することができる。例えば、公知の手法でゲル状に加工された、シリコーンゲル等を使用できる。ゲル化されたポリマーは、粘弾性体の損失係数を向上させることができ、除振性能を改善する。
【0049】
ゲル状の粘弾性物質として、アクリルポリマーにイオン液体を導入してゲル化させたイオン性液体ゲルを好適に使用できる。この材料は非常に軟質な、つまり弾性率の低いゲル状の材料とすることができるからである。イオン性液体ゲルは非常に多量の液体成分を含むことができ、液体成分の摩擦によって非常に大きい損失係数、例えば、20℃で0.4以上を有することができる。
【0050】
イオン性液体ゲルとは、高分子構造、いわゆるポリマーネットワーク中にイオン液体を含むことを特徴としたものである。ここで「イオン液体」とは、アニオンとカチオンから成る電解質でありながら、常温常圧(25℃、1気圧(1×10
5Pa))下において液体状態で存在する物質をいう。なお、「イオン液体」は一般には「常温溶融塩」とも呼ばれる。
【0051】
イオン性液体ゲルに含まれるイオン液体は、それ自身がもつアニオンとカチオンのイオン結合等の存在により、振動吸収性能を効果的に発揮することが可能であるとともに、イオン液体が備える不揮発性、難燃性、イオン伝導性等の性質を併せ持つ。本実施の形態のイオン性液体ゲルでは、このイオン液体を含むことで柔軟性を備えるものであり、例えば全体の50質量%以上、すなわち多量のイオン液体を含む場合は、柔軟なゲル構造の特徴とともにイオン液体の特性を比較的明瞭に発揮しやすい。
【0052】
本実施の形態に係るイオン性液体ゲルで使用される高分子(ポリマー)は、少なくとも酸性基もしくは塩基性基のいずれか一を構成単位に含む。酸性基としては、たとえばカルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン酸基等を挙げることができる。塩基性基としては、たとえば第1級、第2級、第3級の各アミン基、第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基、アミド基、イミダゾール基、イミド基、モルホリン基、およびピペリジル基等を挙げることができる。本実施の形態に係るゲル状組成物で使用される高分子としては、これらの酸性基もしくは塩基性基を有するビニル系誘導体あるいはその塩より選ばれる少なくとも1種のものをモノマーとするホモポリマー、コポリマー、ターリマー、若しくはセルロース、デンプン、ヒアルロン酸等の多糖類、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0053】
これらの酸性基もしくは塩基性基を有する高分子は、イオン液体存在下で重合を行う場合、イオン液体との間で水素結合等のインタラクションを形成することで、高分子マトリックス中にイオン液体を保持し、ゲル状態を形成しやすい。
【0054】
たとえば、酸性基としてカルボキシル基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロイロキシエチルフタレート等を挙げることができる。
【0055】
高分子として、特に、ポリアクリル酸を使用する場合は、イオン液体との相溶性も良く、ブリードアウトを生じにくい。また、イオン液体との間で、水素結合等のインタラクションを形成しやすく、ポリマーマトリックス中に多量のイオン液体を保持しやすい。よってイオン液体成分を多く含有するゲル状組成物を提供できる。
【0056】
さらに、高分子として、アクリル酸ホモポリマーあるいはコポリマー等のアクリル樹脂を使用する場合は、ゲル状組成物に粘着性を付与することができる。別途、粘着剤層を必要とせず、必要な場所に直接ゲル状組成物を貼り付けて使用することが可能になる。
【0057】
ここで、酸性基としてヒドロキシル基を有するモノマーの例としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等を挙げることができる。
【0058】
また、酸性基としてスルホン酸基を有するモノマーの例としては、2−アクリロイロキシエチルスルホン酸、2−メタクリロキシエチルスルホン酸、2−アクリロイロキシエチルスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0059】
さらに、塩基性基として第1級、第2級、第3級の各アミン基を有するモノマーの例としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノブチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0060】
また、塩基性基として第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基を有するモノマーの例としては、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムフロリド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムブロミド、アクリロイロキシエチルジメチルアンモニウムヨージド等を挙げることができる。
【0061】
さらに、塩基としてアミド基を有するモノマーの例としては、ジメチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド等を挙げることができる。
【0062】
また、塩基としてイミダゾール基、イミド基、モルホリン基、ピペリジル基を有するモノマーの例としては、ビニルイミダゾール、イミドアクリレート、イミドメタクリレート、アクリロイルモルホリン等を挙げることができる。
【0063】
本実施の形態のイオン性液体ゲルにおいて、イオン液体は、イオン性液体ゲル全体の50質量%以上含まれことができ、80%以上含まれることができる。このようにイオン液体を多く含むことにより、イオン性液体ゲルに柔軟性が付与され、非常に低い弾性率と、イオン液体の持つ不揮発性、難燃性、イオン伝導性等の特徴を与えることができる。
【0064】
また、本実施の形態に係るイオン性液体ゲルは、イオン液体が持つカチオンとアニオン間のイオン結合と、高分子構造とイオン液体間の水素結合等の存在により、結合部分で振動による摩擦を生じ易いため、これらの構造を持たないポリマーにオイルを含有したオルガノゲル等の従来のゲル状材料に比較し、効果的に振動エネルギーを熱エネルギーに変換し、より高い振動吸収性能を発揮することができる。
【0065】
よって、振動吸収能は、ゲル状組成物におけるイオン液体の比率が高い程、高い効果が期待できる。したがって、イオン性液体ゲルにおけるイオン液体の量は、好ましくは、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上もしくは80質量%以上とする。70質量%以上含まれる場合は、一般に市販されている粘弾性材料と同等の振動吸収特性を得ることが可能であり、さらに約80質量%以上含有する場合、従来のウレタンゴムやオルガノゲル、シリコーンゲルを使用した振動吸収材より高い振動吸収特性を得ることが可能となる。
【0066】
また、イオン液体の比率が高い程、高い振動吸収能とともに、イオン液体としての特徴をより強く発揮することができる。たとえば、使用するイオン液体の種類により、不揮発性、イオン伝導性、難燃性等のイオン液体に由来する特性が、振動吸収能に付加される。
【0067】
一方、ゲル状組成物中のイオン液体の量は、ゲル構造が維持できればよく、ゲル状組成物全体の95質量%以下とすることが好ましい。また、90質量%以下とすれば、より安定した構造を得ることが可能であるが、用途により、必要とされる振動吸収能のレベルに合わせて、イオン性液体ゲル中のイオン液体量を調整することができる。
【0068】
本発明の実施の形態のイオン性液体ゲル中に含まれるイオン液体の種類に限定はない。カチオンとしては、特に限定されず、公知のものも使用することができる。具体的には、第一級(R
1NH
3+)、第二級(R
1R
2NH
2+)、第三級(R
1R
2R
3NH
+)、第四級(R
1R
2R
3R
4N
+)鎖状アンモニウムカチオン(式中、R
1、R
2、R
3、R
4は各々独立に炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいは1個以上のヒドロキシル基を側鎖に持つ炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいはフェニル基である。)および環状アンモニウムカチオンが使用できる。環状アンモニウムカチオンとしては、オキサゾリウム、チアゾリウム、イミダゾリウム等が挙げられる。さらに別のカチオンとしては、鎖状ホスホニウムカチオン(R
5R
6R
7P
+およびR
5R
6R
7R
8P
+)、鎖状スルホニウムカチオン(R
9R
10R
11S
+)(式中、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11は各々独立に炭素数1〜12個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基又はフェニル基である。)および環状スルホニウムカチオンが挙げられる。環状スルホニウムカチオンには、チオフェニウム、チアゾリニウムおよびチオピラニウムが例示できる。
【0069】
アニオンとしては、リン酸、硫酸、カルボン酸等の無機酸系イオン、フッ素系イオン等が使用できる。カチオンとアニオンの組み合わせについては様々な組み合わせが可能である。
【0070】
フッ素系アニオンとしては、テトラフルオロボレート(BF
4−)、ヘキサフルオロホスフェート(PF
6−)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF
6−)、トリフルオロメチルスルホネート(CF
3SO
3−)、ビス(フルオロスルホニル)イミド[(FSO
2)
2N
−]、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド [(CF
3SO
2)
2N
−]、ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド[(CF
3CF
2SO
2)
2N
−]、トリス(トリフルオロメチルスルホニルメチド)[(CF
3SO
2)
3C
−]を挙げることができる。
【0071】
非ハロゲン系のアニオンを使用することが望ましく、特に、リン酸系イオンを使用すれば、フッ素系イオンを用いる場合に比較し安価で、経済性が高いとともに、高い難燃性を得ることができる。たとえば、リン酸系アニオンとして以下のリン酸基を含む一般式[PO
43−]、 [RPO
42−]または [RR’PO
4−](式中、R、R’は水素、炭素数1〜8個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基あるいはフェニル基を表す。)で示される塩が使用できる。具体的には、リン酸 (PO
43−,HPO
42−,H
2PO
4−), リン酸モノエステル(RPO
42−,HRPO
4−),リン酸ジエステル(R
2PO
4−) [Rは炭素数1〜8個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基あるいはフェニル基]を挙げることができる。
【0072】
上述のように、本実施形態のイオン性液体ゲルでは、難燃性イオン液体を使用する場合は、難燃性を得ることができる。ここでいう難燃性とは、例えば米国Underwriters Laboratories Inc.(UL)が定めた安全性基準UL−94規格の難燃試験方法に準じて、V−1以上、或いはより好ましくはV−0以上相当する場合のみならず、JISK6911で規定するA法で自己消化性が認められる場合や、あるいは、バーナー等の火炎を一定時間接炎させた後、バーナーを離した際に数秒から数十秒以内で炎が消える性質をいうものとする。
【0073】
次に、本実施の形態のイオン性液体ゲルの製造方法について説明する。本実施の形態のイオン性液体ゲルは、イオン液体とモノマーもしくはポリマーおよび必要に応じて架橋剤を混合した後、紫外線(UV)照射、もしくは加熱によりモノマーを重合および架橋、もしくはポリマーを架橋させることにより作製できる。
【0074】
イオン液体は、市販のものを使用することもできるが、酸エステル法、錯形成法、および中和法などの方法を用いて合成することもできる。また、1種類のみならず複数種類を混ぜ合わせて使用することもできる。
【0075】
たとえば、リン酸系イオン液体を中和法を用いて合成する場合は、アルコール等の有機溶媒で5倍に希釈したリン酸、リン酸ジブチル等の無機/有機リン酸に、アミンを低温条件下、例えば、0℃の条件下で、滴下し、室温で十分に攪拌する。その後、これを減圧下で蒸留し、溶媒を揮発させる。
【0076】
次に、得られたイオン液体と1種もしくは2種以上のモノマーと必要に応じて架橋剤を加え、混合する。モノマーとしては、カルボキシル基、ヒドロキシル基およびスルホン酸基等からなる群から選択される少なくとも一の酸性基を構成単位として含むモノマー、あるいは、第1級、第2級、第3級の各アミン基、第1級、第2級、第3級、第4級の各アンモニウム基、アミド基、イミダゾール基、イミド基、モルホリン基、およびピペリジル基等からなる群から選択される少なくとも一の酸性基を構成単位として含むモノマー等を用いることができる。モノマーは1種に限られず、2種以上を使用してもよい。
【0077】
たとえば、カルボキシル基を含むモノマーである、アクリル酸モノマーを使用する場合は、アクリル酸、アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸リチウム、メタクリル酸、メタクリル酸アンモニウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム等のモノマーを使用できる。
【0078】
イオン液体とモノマーとの混合比率は、最終的に得られるゲル状組成物の50質量%以上がイオン液体となるように、たとえば、モノマー100質量部に対し、イオン液体を100質量部以上加える。
【0079】
モノマーの代わりにポリマーを使用することもできる。また、モノマーとポリマーの両方もしくは、複数種類のモノマーおよびポリマーを使用することも可能である。いずれの場合も、ポリマーもしくはモノマーとポリマーの合計の100質量部に対し、イオン液体を100質量部以上加える。
【0080】
架橋剤は、モノマー、またはポリマーもしくはモノマーとポリマーの合計100質量部に対し、約0.1質量部〜10質量部、もしくは0.1〜50質量部加える。
【0081】
また、アクリル酸モノマーを使用する場合、架橋剤としては、たとえば、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ECH変性1,6−ヘキサンジオールジアクリレート等を使用することができる。
【0082】
重合手段としては、熱や放射線のいずれの重合手段を利用してもよい。放射線としては、特に、波長200nm〜400nmの紫外線(UV)を使用すれば、制御性もよく、常温で重合硬化できるので、比較的融点の低い基材の上にでも直接ゲル状組成物を形成できる。なお、UV重合を行う場合には、光重合開始剤を添加する。光重合開始剤は、モノマー100質量部に対し、たとえば約0.01質量部〜1質量部加える。
【0083】
光重合開始剤としては、たとえば、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(Irgacure2959, チバ・スペシャリティケミカルズ社)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Irgacure184, チバ・スペシャリティケミカルズ社)、2,2−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(Irgacure651, チバ・スペシャリティケミカルズ社)等を挙げることができる。
【0084】
なお、振動吸収材の用途に合わせて、さらに、種々の添加物を加えることもできる。たとえば、放熱材や電磁波吸収材としてのフィラーを添加することもできる。ゲル組成自身は、ほぼ透明である場合は、顔料や色素を添加することで、色彩を施すこともできる。さらに必要に応じて、粘着付与剤や表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、腐食防止剤などを添加することも可能である。
【0085】
また、重合の際、使用用途に合わせて、必要な加工を施すこともできる。その形状に限定はない。たとえば厚みが数mmから数十mmのシート状であってもよく、数mm以下のフィルム状であってもよい。或いは部材に貼り合わせて使用する場合は、貼り合わせる部材形状に合わせて成形加工することもできる。
【0086】
シート状、あるいはフィルム状に加工する場合は、たとえばシリコーンゴム等の離型性のよい枠型に、上述するイオン液体とモノマーおよび架橋剤と光重合剤を混合した混合溶液を流し込み、その上に剥離処理をした透明な樹脂フィルムをラミネートする。その後、透明な樹脂フィルムを介して紫外線(UV)を照射することで、混合溶液を重合する。重合後、型枠および樹脂フィルムを剥離することで、シート状のゲル状組成物を得ることができる。
【0087】
なお、剥離処理した樹脂フィルム上に上記混合液をコーティングし、さらに、その上に剥離処理した樹脂フィルムでラミネートし、いずれかの樹脂フィルムを介して紫外線(UV)を照射することで、混合液を重合してもよい。重合後、両フィルムを剥離することで、フィルム状のゲル状組成物を得ることができる。あるいは、2枚の樹脂フィルムの間にゲル状組成物を挟んだ状態のまま振動吸収材として使用することもできる。また、2枚の樹脂フィルムの端部をシールし、ゲル状組成物を密封した構成としてもよい。
【0088】
2枚の樹脂フィルムのうち一方のみに剥離処理を施し、ユーザが使用時に一方のフィルムを剥離し、振動吸収材を使用したい場所にはく離した側のゲル状組成物面を貼り付けてもよい。ゲル状組成物のポリマーとしてアクリル酸ホモポリマーもしくはコポリマーが使用されている場合は、ゲル状組成物自身に粘着力があるため、必要な場所に直接貼り付けて使用することができる。使用する樹脂フィルムに特に制限はないが、可とう性を備えたフィルムであれば望ましい。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、セロハン(登録商標)、フッ化ビニルデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン及び塩化ビニルデンアクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン、フッ素系樹脂(PVdF,ETFE等)、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルなどの樹脂フィルムを挙げることができる。
【0089】
上述のような除振部材1は、以下のようにして作製することができる。まず、被除振物60が設置される場所で発生している振動の周波数、1つの除振部材が支持する被除振物の質量等から、適切なバネ定数を持ったコイルバネ14を選定する。
【0090】
その質量から、除振部材1が被除振物を支持したときの、コイルバネ14の長さを実験的又は計算により求め、吸収材収容部16の高さHを求める。吸収材収容部16の高さHと略同じ高さを有する粘弾性体18を、任意の方法によって用意する。
【0091】
図1に示す構造の除振部材1を組み立てる。例えば、下部支持部材10を用意し、その上にコイルバネ14と粘弾性体18とを配置する。コイルバネ14の上に、上部支持部材12を配置する。コイルバネ14と上下の支持部材12、10とは任意の方法で固定することができる。
【0092】
本発明の一実施形態に係る除振部材1は、上述の実施形態以外にもさまざまな変形を行うことができる。以下、他の実施形態について説明する。
図3および
図4に、本発明の第2の実施形態による除振部材101を示す。本実施形態の除振部材101は、上部支持部材1200が、吸収材収容部16の高さH’(つまりH)を調整する調整部材120を有する点で、第1の実施形態と異なる。
【0093】
第2の実施形態の除振部材101は、上部支持部材1200の上部支持部材ベース112に係合した調整部材120を有する。調整部材120は軸部122と軸部122の一端に設けられた支持部124とを有する。支持部124の下面124aと下部支持部材10の上面10bとの間に吸収材収容部16が配置されている。
【0094】
軸部122は、円柱状の部分であり、表面122aにネジ山を有する。上部支持部材ベース112も、軸部122の外径に対応する孔部113を有し、その内面113aにネジ山を有する。軸部122と孔部113とはそれぞれの表面にあるネジ山によって螺合されている。したがって、調整部材120を上部支持部材112に対して相対的に回転させることで、調整部材120の上部支持部材112に対する位置、つまり吸収材収容部16の高さHを調節することができる。
【0095】
支持部124は粘弾性体18と接する部分であり、図示の実施形態では円盤状の形状を有している。除振部材101が被除振物60を支持するとコイルバネ14が圧縮され、支持部124が粘弾性体18に接近する。予め調整部材120を上部支持部材ベース112に最も近い位置に配置して、被除振部60を支持したときに支持部124の下面124aと粘弾性体18との間に間隙を生じさせる。次に、調整部材120を回転させて粘弾性体18に接近させ、下面124aと粘弾性体18とが接触した位置で調整部材120を固定できる。
【0096】
被除振物60の質量が事前に分からないような場合では、吸収材収容部16の高さHや粘弾性体の高さAを事前に決定することが困難になる。その場合、本実施形態のように調整部材120を有すると、被除振物60の質量に合わせて吸収材収容部16の高さHを調整できる。
【0097】
なお、調整部材120と上部支持部材ベース112とを係合する手段はネジに限られず、公知の各種手段が利用できる。また、除振中に調整部材120の位置が変化しないように、調整部材120と上部支持部材ベース112とをピンやナット等の公知の固定要素や接着剤等で固定しても良い。あるいは、粘弾性体18と上部支持部材ベース112との間に調整部材としての薄板を挿入し、被除振物60を支持したときの吸収材収容部16の高さHと自然状態での粘弾性体18の高さAとが略等しくなるように調整してもよい。
次に、本発明の第3の実施形態による除振部材について説明する。
図5にその除振部材201の断面図を示す。除振部材201は、上部支持部材12と粘弾性体18との間に粘着を抑制しうる中間層20を備えることを特徴とする。それ以外は、上述した第1あるいは第2の実施形態と同様な構造および材料を使用できる。なお、
図5には、中間層20以外は第1の実施形態の構造を使用した例を示す。
【0098】
本発明の第1、第2の実施形態において使用される粘弾性体18は、代表的にはイオン性液体ゲルのように、粘着性を示す粘弾性物質を使用できる。粘着性のある粘弾性体18の使用は、下部支持部材12への固定を容易にできることや、シート状に加工した粘弾性物質を複数積層して粘弾性体18を構成する場合などに積層体の一体化を容易にできるといった利点がある。しかしながら、その一方で、除振部材1上に被除振部材を載置した状態で振動が加わった際に、粘弾性体18は、実質的にほとんど圧縮はしないものの、コイルバネ14の上下収縮運動により、コイルバネ14が縮んだ際に上部支持体12に粘弾性体18の上部表面18bが接触するため、粘弾性体18がその粘着性により上部支持部材12に粘着してしまう場合がある。一旦、粘弾性体18が上部支持部材12に粘着してしまうと、粘弾性体18がコイルバネ14とともに振動することになり、コイルバネ14の実質的なバネ定数Kは、コイル本来のバネ定数(Kc)と粘弾性体の持つバネ定数(Kv)の和となる。バネ定数Kが上昇するため、固有振動数が上がり、共振周波数を低く維持できなくなる。
【0099】
図5に示す第3の実施形態による除振部材201は、上部支持部材12と粘弾性体18との間に、上部支持部材12と粘弾性体18との粘着を抑制できる中間層20を備える。中間層20の存在により、粘弾性体18が上部支持部材12に粘着することを防ぐことができるので、コイルバネ14本来の除振性能が粘弾性体18の粘着で阻害されることを防止できる。その結果として、コイルバネ14の実質的なバネ定数Kはコイルバネ本来のバネ定数(Kc)を維持でき、共振周波数を低く抑えることができるとともに、粘弾性体18のクッション効果により、除振部材201で支持する部材の応答加速度を低減し、良好な防振効果が発揮できる。
中間層20の配置は、上部支持部材12と粘弾性体18との間であれば、特に限定されることはないが、例えば、
図5に示すように、中間層20を上部支持部材12と対向する粘弾性体18の上部表面18bを覆うように配置することができる。この場合においても、中間層20は、粘弾性体18の上部表面18bの全面を覆う必要はなく、少なくとも部分的に覆うように配置することで、粘弾性体18と上部支持部材12との粘着を抑制できればよい。
【0100】
中間層20としては、粘弾性体18と上部支持部材12との粘着を抑制できるものであれば使用でき、材料に限定はないが、粘弾性体18本来の動きを阻害しない材料であることが望ましい。例えば非粘着性の樹脂フィルム層、樹脂コーティング層、金属箔、金属や酸化膜コーティング層、樹脂あるいは無機微粒子、金属箔等、種々の材料を使用することができる。これらの材料を、上部支持部材12と対向する粘弾性体18の上部表面18bに載置すれば、粘弾性体18自身の持つ粘着性で固定できるとともに、粘弾性体18の上部表面18b上に非粘着性表面を形成でき、上部支持部材12との粘着を抑制できる。
中間層20として樹脂フィルム層を使用する場合は、除振部材201への装着も容易にできる。使用する樹脂フィルムとしては、特に制限はないが、使用中の粘弾性体18の変形に追従できる程度の可とう性を備えた樹脂フィルムを使用することが好ましい。たとえば、このような樹脂フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、セロハン(登録商標)、フッ化ビニルデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン及び塩化ビニルデンアクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン、フッ素系樹脂(PVdF,ETFE等)、ポリイミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンエーテルなどの樹脂フィルムを挙げることができる。
【0101】
使用する樹脂フィルムの厚みに限定はないが、粘弾性体18の動きに追従しやすいよう、材料の種類により500μm以下、300μm以下、あるいは100μm以下の厚さを使用することが好ましい。一方、振動時に加わる繰り返し衝撃に耐える耐久性を備えるため、10μm以上、あるいは50μm以上とすることが望ましい。これらのフィルムは、開口部を備えた、穴あきフィルムあるいはメッシュ状のフィルムであってもよい。
また、中間層20として、無機または有機微粒子を粘弾性体上部表面18b上に分散付着させた層を使用する場合は、無機微粒子としては、酸化シリコン(SiO
2)、酸化チタン(TiO
2)などの各種金属酸化粒子等を使用でき、有機微粒子としては、例えばポリプロピレンやポリエチレン等のプラスチック微粒子を使用できる。
【0102】
なお、中間層20としては、必ずしも粘弾性体18や上部支持部材12と別体のものを使用する必要はなく、粘弾性体18の上部表面18b、あるいは上部支持部材12の粘弾性体との対向表面に物理的、あるいは化学的加工を施すことで、中間層20を形成し、両者の粘着を抑制してもよい。例えば、粘弾性体18の上部表面18bを加熱処理、プラズマ処理あるいは紫外線照射処理などにより、樹脂の架橋度合いを高める表面改質を行い、粘着性を低下、消失させた表面層、すなわち中間層20を形成してもよい。
【0103】
なお、
図5では、第3の実施形態の除振部材201として、第1の実施形態の上部支持部材12を使用する例を示したが、第2の実施形態の上部支持部材1200を使用した場合も、粘弾性体の上部表面18bと対向する上部支持部材の表面に相当する調整部材121の底面との間に中間層20を備えることで、同様な効果を得ることができる。
【0104】
また、
図5において、中間層20を粘弾性体18の上部表面18b上に形成しているが、中間層20の配置は必ずしも上部表面18b上に形成あるいは固定する必要はなく、上部支持部材12と粘弾性体18の対向面間に存在すればよい。たとえば、上部支持部材12の底面12a側に中間層20を備えてもよい。あるいは、上部支持部材12の底面12aおよび粘弾性体表面18bのそれぞれに中間層20を備えてもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の除振部材の構造、材料等は、上述する第1〜第3の実施形態の記載に限定されるものではなく、種々の変形、組み合わせが可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0105】
1.−1 粘弾性組成物の調製
<例1>
C16イソパルミチルアクリレート(東邦化学社製HEDA16)94重量部と、ポリイソブチレン(BASF社製Oppanol B100)6重量部と、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(共栄化学社製ライトアクリレート1,6HX−A)0.1重量部と、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキサイド(チバスペシャルティケミカルズ社Darocur TPO)0.3重量部とをビーカーに入れ、プロペラ型4枚羽根を装備したシャフトを取り付けたラボスターラー(ヤマト科学 社製LR−51B)を用いて30分間混合した。その混合溶液をシリコーンで剥離処理された異なる2枚のPETフィルム(帝人デュポンフィルム社製A50 50μm厚および東レ社製セラピールMIB(T) 50μm厚)で挟んだ。すなわち、一方のPETフィルムの上にPMMA製枠を置き、枠内に混合溶液を流し込んだ後、他方のPETフィルムでカバーをした。PETフィルムを介して混合溶液に光波長300−400nmかつ351nmに最大発光スペクトルを有する蛍光黒色電球(Sylvania社製F20T12B)で積算量3000mJ/cm
2の紫外線を照射し、厚さ約1.3mmのシート状粘弾性組成物を得た。シート状粘弾性組成物を円形に切り抜き、4枚積層して表1に示す形状の粘弾性組成物を得た。なお、寸法はダイヤルシックネスゲージ(ミツトヨ社製)で測定した。
【0106】
<例2>
2−エチルヘキシルアクリレート(株式会社日本触媒社製AEH)100重量部、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(CIBA specialty chemicals社製Irgacure651)0.04重量部をフラスコに入れ、上記ラボスターラーで10分間撹拌し、均一な溶液を得た。得られた溶液を撹拌しながら窒素ガスによるバブリングを10分間行い、上記蛍光黒色電球で積算量90mJ/cm
2の紫外線を照射し、反応率10%、粘度1000cpsの重合性プレポリマーシロップを作製した。
【0107】
上記重合性プレポリマーシロップ 100重量部に対し、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)(新中村化学工業株式会社製NKエステルA−HD)0.1重量部、上記2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.16重量部を加えてさらに30分間攪拌し、均一な溶液にした。
【0108】
得られた溶液を、2枚のシリコーン剥離処理したPET(帝人デュポンフィルム社製 A71、50μm厚)に挟み、上記蛍光黒色電球で積算量1500mJ/cm
2の紫外線を照射し、厚さ約1.2mmのシート状粘弾性組成物を得た。シート状粘弾性組成物を円形に切り抜き、3枚積層して表1に示す形状の粘弾性組成物を得た。
【0109】
<例3>
モノエチル/ジエチルリン酸 トリエチルアンモニウム等モル混合物(TrEA−EtHPO
4/Et
2PO
4) トリエチルアミン(TrEA)(ダイセル化学工業株式会社製)100質量部に、メタノール(MeOH)(特級、和光純薬工業株式会社製)50質量部を加え、さらに氷冷下でリン酸モノエチル とリン酸ジエチルをモル比で50:50に混合した溶液(EtH
2PO
4/Et
2HPO
4)(JP−502、城北化学工業株式会社製)139質量部をゆっくりと滴下した。室温で3時間撹拌したのち、減圧下で蒸留し、無色透明な粘性液体であるTrEA−EtHPO
4/Et
2PO
4を得た。
【0110】
上述のプロセスで得られたTrEA−EtHPO
4/Et
2PO
480重量部、アクリル酸(試薬特級、和光純薬工業社製)20重量部、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(CIBA specialty chemicals社製、Darcur 1173)0.04重量部をフラスコに入れ、上記ラボスターラーで10分間攪拌し、均一な溶液を得た。得られた溶液を撹拌しながら窒素ガスによるバブリングを10分間行い、上記蛍光黒色電球で積算量90mJ/cm
2の紫外線を照射し、反応率10%、粘度1000cpsの重合性プレポリマーシロップを作製した。
【0111】
得られた重合性プレポリマーシロップ100重量部に、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)( 共栄化学社製ライトアクリレート1,6HX−A)0.08重量部、Darcur1173 0.08重量部を加えさらに30分間攪拌し、均一な溶液を得た。
【0112】
上記溶液を真空脱泡した後、2枚の剥離処理したPET(帝人デュポンフィルム社製A31 38μm厚)に挟み、上記蛍光黒色電球で積算量1500mJ/cm
2の紫外線を照射し、厚さ約1.2mmのシート状粘弾性組成物を得た。シート状粘弾性組成物を円形に切り抜き、3枚積層して表1に示す形状の粘弾性組成物を得た。
【0113】
【表1】
1−2.粘弾性組成物のヤング率の測定
例1〜3で調整した粘弾性組成物について、TAInstruments社製RSAIIIを用いて、圧縮モードにおけるヤング率E’を測定した。ただし、サンプルの周囲温度を20℃に設定し、測定周波数は1Hzとした。測定されたヤング率E’と計算により求めたバネ定数を表1に示す。
【0114】
1−3.除振部材の作製および除振性能の測定
<例4>
例1と同様にして、シート状粘弾性組成物を調整した。ただし、得られたシート状粘弾性組成物の厚みは約1.2mmであり、それを直径約23mmの円形に切り抜いた。円形に切り抜いた粘弾性組成物を13枚積層し、円柱状の粘弾性体を得た。粘弾性組成物の各層は、自らの粘着性により一体化させた。得られた粘弾性体の自然状態での高さは、15.6mmであった。
【0115】
得られた粘弾性体と、コイルバネ(直径30mm、自由長30mm、バネ定数約1.68N/m)とを2枚のバネ座(直径30mm)の間に配置して、除振部材を作製した。なお、バネ座の粘弾性体と接触する面は、コイルバネの端面が接触する面と3.2mmの断差を有しており、吸収体収容部の高さはバネの長さよりも6.4mm短くなるように構成されている。
【0116】
作製した除振部材の周波数特性を測定した。除振部材には6kgfの荷重を加えて、粘弾性体の自然状態による高さと吸収材収容部の高さとを略同じ状態にした。加振機と除振部材の上部支持体の双方の振動を測定し、それらから振動入力に対する振動出力の比を応答倍率として求めた。なお、6kgfで圧縮したときのコイルバネ単体の長さは、約22mmであった。
図5に示した例4の除振部材の波形のように、何れのサンプルにおいても低周波側で応答倍率の極大値(共振倍率)を有する波形が観測された。得られた測定結果から、応答倍率が最大値の70%となるピーク幅と、そのピーク幅の中心(共振周波数)を計算により求めた。結果を表2に示す。
【0117】
加振機:IMV社製m060MA1
加速度ピックアップ:小野測器製NP−3211
加速度測定器:小野測器製 DS−2000FFTアナライザ
環境温度:25℃
加振条件:加速度0.5G(周波数5−500Hz)
加振方向:Z方向(コイルバネを圧縮伸長する方向)
【0118】
<例5〜例7>
例4で作製した除振部材を使用し、粘弾性体と上部支持部材との間に直径30mm、厚さ1.6mmのシム(スペーサ)を1枚〜3枚挿入して吸収材収容部の高さを変化させて、例4と同様に測定を行った。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】
2−1.粘弾性組成物の調製
<例8>
例1と同じ組成条件で調製したアクリルモノマー混合溶液を準備した。シリコーンで剥離処理さPETフィルム(帝人デュポンフィルム社製A71、38μm厚)上PMMA製枠を置き、枠内に混合溶液を流し込み、その上を、同様にシリコーンで剥離処理さPETフィルム(東レ社製 セラピールMIB(T)、38μm厚)で被覆した。さらに、そのPETフィルム上に厚さ1mm厚の透明なPMMA板(株式会社ミスミ製 アクリルプレートキャストACA HM)を置き、このPMMA板とPETフィルムを介して、光波長300〜400nmかつ351nmに最大発光スペクトルを有する蛍光黒色電球(Sylvania社製 F20T12B)で積算量4400mJ/cm
2の紫外線を照射し、厚さ約4mmのシート状粘弾性組成物を得た。
【0120】
2−2.粘弾性組成物のヤング率の測定
例8で調製した粘弾性組成物について、TAInstruments社製RSAIIIを用いて、圧縮モードにおけるヤング率E’を測定した。ただし、サンプルの周囲温度を20℃に設定し、測定周波数は1Hzとした。測定されたヤング率E’と計算により求めたバネ定数を表3に示す。
【0121】
【表3】
2−3.除振部材の作製
<例−9>
例8で得られたシート状粘弾性組成物を直径23mmの円形に切り抜き、4枚積層して厚さ16mmの円柱状粘弾性体を得た。この円柱状粘弾性体の側部表面および上部表面に厚さ30μmのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム(シーダム株式会社製 EVA35/PET50 FILM)を貼り付けた。こうして、粘弾性体上部表面および側部表面を粘着性がない状態とした。
EVAフィルムを貼り付けた円柱状粘弾性体の外周囲にコイルバネ(直径30mm、自由長30mm、バネ定数約0.93N/m)を配置し、さらにこれらを、上部支持部材および下部支持部材となる2枚のバネ座(直径30mm)の間に設置して、除振部材を作製した。粘弾性体上部表面と対向する一方のバネ座の面は、コイルバネの端面が接触する面と3.5mmの断差を有しており、吸収体収容部の高さはバネの長さよりも7.0mm短くなるように構成されている。
【0122】
<例−10>
例9との比較のため、例8で得られたシート状粘弾性組成物を直径23mmの円形に切り抜き、4枚積層して厚さ16mmの円柱状粘弾性体を用意し、その側部表面のみに厚さ30μmのエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム(シーダム株式会社製 EVA35/PET50 FILM)を貼り付けた。これを、例−9と同じコイルバネの内側に置き、その状態で両者を2枚のバネ座(直径30mm)の間に配置して、除振部材を作製した。EVAが貼り付けられていない粘弾性体上部表面は、粘着性のある粘弾性体が露出した状態である。
バネ座の粘弾性体と接触する面は、コイルバネの端面が接触する面と3.5mmの断差を有しており、吸収体収容部の高さはバネの長さよりも7.0mm短くなるように構成されている。
【0123】
2−4.除振性能の測定
例−9および例−10で作製した2つの除振部材、およびその比較例として、除振部材で使用されたコイルバネと同じコイルバネのみを用いた除振部材の応答加速度の周波数依存性を測定した。除振部材には5kgfの荷重を加えて、粘弾性体の自然状態による高さと吸収材収容部の高さとを略同じ状態にした。下記条件で、加振機を用いて所定の振動を除振部材に与え、各除振部材上に支持された5kgfの被支持体に生じる応答加速度を測定した。なお、5kgfで圧縮したときのコイルバネ単体の長さは、約13mmであった。また、コイルバネのみを用いた場合において、応答加速度が測定機器の測定限度を超える低周波領域については測定していない。
【0124】
加振機:IMV社製m060MA1
加速度ピックアップ:小野測器製NP−3211
加速度測定器:小野測器製DS−2000FFTアナライザ
環境温度:20℃
測定周波数:5〜500Hz
加振条件:加速度片振幅:0.5G、加速度複振幅:1G
加振方向:Z方向(コイルバネを圧縮伸長する方向)
結果を
図7に示した。例−9および例−10の除振部材において、いずれも10Hz以下の低周波側で応答加速度の極大値、すなわち共振周波数を有する波形が観測されるとともに、コイルバネのみを用いた場合に較べ、共振周波数での応答加速度が大幅に低減された。さらに、例−10の除振部材に比較し、粘弾性体の上部表面にEVAフィルムを貼り付け、バネ座との粘着を防止した例−9の除振部材において、共振周波数がより低周波側にシフトするとともに共振周波数での応答加速度がより低減できた。