(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Aサイト元素としてLi,Na及びKを含み、Bサイト元素としてNb及びSbを含み、Bサイト元素の総原子数に対するAサイト元素の総原子数の比が1より大きく、Bサイト元素の総原子数に占めるSbの原子数が1mol%以上10mol%以下であるペロブスカイト型酸化物に、Ba,Sr,Ca,La,Ce,Nd,Sm,Dy,Ho及びYbからなる群より選択される一種類以上の選択元素の化合物と、Mnの化合物と、を含有させ、前記ペロブスカイト型酸化物100モル部に対する前記選択元素の化合物の含有量が選択元素原子換算で0.01モル部以上0.2モル部以下である圧電/電歪磁器組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1 第1実施形態)
第1実施形態は、圧電/電歪磁器組成物に関する。
【0019】
(用途)
第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物は、第2実施形態〜第5実施形態に示すようにアクチュエータに好適に用いられる。ただし、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物の用途は、アクチュエータに限られない。例えば、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物は、センサ等の圧電/電歪素子にも用いられる。
【0020】
(組成)
第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物は、Aサイト元素としてリチウム(Li),ナトリウム(Na)及びカリウム(K)を含み、Bサイト元素としてニオブ(Nb)及びアンチモン(Sb)を含み、Bサイト元素の総原子数に対するAサイト元素の総原子数の比が1より大きく、Bサイト元素の総原子数に占めるSbの原子数が1mol%以上10mol%以下であるペロブスカイト型酸化物に、バリウム(Ba),ストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca),ランタン(La),セリウム(Ce),ネオジム(Nd),サマリウム(Sm),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho)及びイッテルビウム(Yb)からなる群より選択される一種類以上の元素(以下では、「選択元素」という)の化合物と、マンガン(Mn)の化合物と、を含有させた圧電/電歪磁器組成物である。ペロブスカイト型酸化物に、Aサイト元素として銀(Ag)等の1価元素をさらに含有させてもよいし、Bサイト元素としてタンタル(Ta),バナジウム(V)等の5価元素をさらに含有させてもよい。
【0021】
(ペロブスカイト型酸化物)
圧電/電歪磁器組成物の第1の成分は、組成が一般式{Li
y(Na
1-xK
x)
1-y}
a(Nb
1-z-wTa
zSb
w)O
3で表されるペロブスカイト型酸化物であることが望ましい。a,x,y,z及びwは、それぞれ、1<a≦1.05,0.30≦x≦0.70,0.02≦y≦0.10,0≦z≦0.5及び0.01≦w≦0.1を満たすことが望ましい。
【0022】
A/B比を1<aとしたのは、粒成長を促進し、焼結体を緻密化するためである。また、A/B比を1<aとすると、焼結体が十分に緻密化する焼成温度が1100℃以下となり、焼結体の組成の変動が抑制される。焼成温度の低下には、余剰のアルカリ成分により焼成過程において低融点の異相が生成することが寄与していると推察される。さらに、A/B比を1<aとすると、焼結体に対して分極処理を行った後にさらにエージング処理を行うことにより、高電界印加時の電界誘起歪が大きくなる。
【0023】
逆に、A/B比をa≦1とすると、焼結体が十分に緻密化する焼成温度が1100℃より高くなる。焼成温度を高くすると、アルカリ成分の蒸発が起こりやすくなり、焼結体の組成が変動しやすくなる。
【0024】
A/B比をa≦1.05としたのは、誘電損失を減少させ、高電界印加時の電界誘起歪を大きくするためである。誘電損失の増加は、高電界を印加するアクチュエータ用の圧電/電歪磁器組成物では問題が大きい。
【0025】
Sb置換量を0.01≦w≦0.1としたのは、正方晶−斜方晶相転移温度(以下では「相転移温度」という)T
OTを室温に近づけ、高電界印加時の電界誘起歪を大きくするためである。相転移温度T
OTは、50℃以下であることが望ましく、10℃以下であることがさらに望ましい。
【0026】
K量、Li量及びTa量をそれぞれ0.30≦x≦0.70,0.02≦y≦0.10及び0≦z≦0.5としたのは、アクチュエータ用として好適な圧電/電歪磁器組成物を得るためである。
【0027】
K量がこの範囲を下回ると、高電界印加時の電界誘起歪が急激に小さくなる。一方、K量がこの範囲を上回ると、焼結体が十分に緻密化する焼成温度が高くなる。Li量がこの範囲を下回ると、焼結体が十分に緻密化する焼成温度が高くなる。一方、Li量がこの範囲を上回ると、焼結体に含まれる異相が多くなり、焼結体の絶縁性が低下する。Ta量がこの範囲を上回ると、焼結体が十分に緻密化する焼成温度が高くなる。
【0028】
(選択元素の化合物)
圧電/電歪磁器組成物の第2の成分は、Ba,Sr,Ca,La,Ce,Nd,Sm,Dy,Ho及びYbからなる群より選択される一種類以上の選択元素の化合物である。
【0029】
選択元素の化合物は、ペロブスカイト型酸化物100モル部に対する選択元素原子換算の含有量が0.01モル部以上0.5モル部以下となるように含有させることが望ましい。選択元素の化合物の含有量がこの範囲を下回ると、高電界印加時の電界誘起歪が小さくなる傾向があるからである。また、選択元素の化合物の含有量がこの範囲を上回ると、結晶相が正方晶から斜方晶へ変化し、高電界印加時の電界誘起歪が小さくなる傾向があるからである。
【0030】
選択元素の化合物は酸化物となってペロブスカイト型酸化物に固溶していることが望ましい。すなわち、選択元素は、母相であるペロブスカイト型酸化物の結晶格子に取り込まれ、母相を構成する元素として焼結体の内部に存在していることが望ましい。ただし、選択元素を含有する異相が焼結体の内部にわずかに存在していてもよい。
【0031】
(Mnの化合物)
圧電/電歪磁器組成物の第3の成分は、Mnの化合物である。
【0032】
Mnの化合物は、ペロブスカイト型酸化物100モル部に対するMn原子換算の含有量が3モル部以下となるように含有させることが望ましい。Mnの化合物の含有量がこの範囲を上回ると、誘電損失が増加し、高電界印加時の電界誘起歪が小さくなる傾向があるからである。
【0033】
Mnの化合物の含有量はごく微量でも足りる。例えば、ペロブスカイト型酸化物100モル部に対してMn原子換算で0.001モル部のMnの化合物を含有させたに過ぎない場合でも、焼結体の分極処理が容易になり、Sbによる置換との相乗効果により、高電界印加時の電界誘起歪が大きくなる。
【0034】
Mnの化合物は、原子価が主として2価のMnの化合物であることが望ましい。例えば、酸化マンガン(MnO)やMnが固溶したその他の化合物であることが望ましく、ニオブ酸三リチウム(Li
3NbO
4)にMnが固溶した化合物であることが特に望ましい。「主として2価」とは、原子価が2価以外のMnの化合物を含んでいてもかまわず、最も多く含まれる原子価が2価であればよいことを意味する。Mnの原子価は、例えば、X線吸収端構造(XANES;X-ray absorption near-edge structure)により確認される。また、Mnは、母相であるペロブスカイト型酸化物の結晶格子に取り込まれることなく、Mnの化合物の異相を構成する元素として焼結体の内部に存在していることが望ましい。これにより、Mnの化合物の含有によるハード化が抑制され、電界誘起歪が大きくなる。ただし、わずかなMnが母相を構成する元素として焼結体の内部に存在していていてもよい。
【0035】
(相転移温度)
ニオブ酸アルカリ系のペロブスカイト型酸化物及びその変性物は、一般的に言って、高温から低温に向かって立方晶、正方晶、斜方晶の順に逐次相転移するが、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物では、相転移温度T
OTが室温の近傍となるように組成を選択することが望ましい。相転移温度T
OTが室温の近傍にあれば、高電界印加時の電界誘起歪が大きくなるからである。
【0036】
(結晶系及び格子歪)
第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物では、結晶相が正方晶であって、その格子歪がある程度小さくなるように組成を選択することが望ましい。
【0037】
具体的には、X線源にCu−Kα線を用いたX線回折パターンにおいて、(200)面の間隔に対する(002)面の間隔の比、すなわち、a軸方向の格子定数aに対するc軸方向の格子定数cの比c/aが1.003以上1.025以下となるように組成を選択することが望ましい。比c/aがこの範囲内であれば、ドメインの回転が容易になり、高電界印加時の電界誘起歪が向上するからである。
【0038】
(原料粉末の製造)
第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物の原料粉末の製造にあたっては、ペロブスカイト型酸化物の構成元素(Li,Na,K,Nb,Ta,Sb等)の素原料の粉末に分散媒が加えられ、分散媒が加えられた素原料の粉末が乳鉢混合、ボールミル等のポットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル等で混合される。ペロブスカイト型酸化物の構成元素の素原料としては、酸化物又は仮焼過程において酸化物となる炭酸塩、酒石酸塩等の化合物が用いられる。分散媒としては、エタノール、トルエン、アセトン等の有機溶剤が用いられる。
【0039】
得られた混合スラリーからは蒸発乾燥や濾過等により分散媒が除去され、乾燥した混合原料が得られる。
【0040】
乾燥した混合原料は、600〜1300℃で仮焼され、ペロブスカイト型酸化物の粉末が合成される。仮焼は、1回だけ行われてもよいし、2回以上行われてもよい。2回以上の仮焼が行われる場合は、各仮焼の条件は同じであってもよいし、異なっていてもよい。仮焼のときの雰囲気は、大気雰囲気であってもよいし、酸素雰囲気であってもよい。仮焼のときの昇温速度及び降温速度は20〜2000℃/時間であることが望ましく、仮焼温度を保持する時間は30秒〜20時間であることが望ましい。所望の粒子径のペロブスカイト型酸化物の粉末を得るために、仮焼後にボールミル等で粉砕を行ってもよい。粉砕が行われる場合は、乳鉢粉砕、ポットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ジェットミル、メッシュ又はスクリーンに押し当てる方法等の粉砕方法が用いられる。また、固相反応法ではなくアルコキシド法や共沈法によりペロブスカイト型酸化物の粉末を合成してもよい。さらに、予めBサイト元素同士の固溶体(例えば、複数のBサイト元素の複合酸化物等)を合成した後、Aサイト元素と混合、仮焼しペロブスカイト型酸化物の粉末を合成してもよい。
【0041】
混合原料は、一般的に用いられる1段階の仮焼スケジュール(台形型の温度プロファイル)で仮焼される。例えば、
[1]20〜2000℃/時間の昇温速度で室温から第1の仮焼温度の600〜1300℃まで昇温し第1の仮焼温度を保持する第1の段階;
の終了後すぐに20〜2000℃/時間の降温速度で室温まで降温する1段階の仮焼スケジュールにより混合原料が仮焼される。
【0042】
混合原料は、多段階の仮焼スケジュールで仮焼されてもよい。例えば、
[1]室温から第1の仮焼温度の600〜800℃まで昇温し第1の仮焼温度を保持する第1の段階;及び
[2]第1の仮焼温度から第2の仮焼温度の800〜1300℃まで昇温し第2の仮焼温度を保持する第2の段階;
の終了後に室温まで降温する2段階の仮焼スケジュールにより混合原料が仮焼される。
【0043】
又は、
[1]室温から第1の仮焼温度の900〜1300℃まで500℃/時間以上の昇温速度で昇温し第1の仮焼温度を保持する第1の段階;及び
[2]第1の仮焼温度から第2の仮焼温度の600〜900℃まで200℃/時間以上の降温速度で降温し第2の仮焼温度を保持する第2の段階;
の終了後に室温まで降温する2段階の仮焼スケジュールにより混合原料が仮焼される。
【0044】
混合原料は、上記の2通りの2段階の仮焼スケジュールを組み合わせた3段階の仮焼スケジュールにより仮焼されてもよい。
【0045】
ペロブスカイト型酸化物の粉末の平均粒子径は、0.07〜10μmであることが望ましく、0.1〜3μmであることがさらに望ましい。また、ペロブスカイト型酸化物の粉末の粒子径の調整のために、ペロブスカイト型酸化物の粉末を400〜850℃で熱処理してもよい。微細な粒子ほど他の粒子と一体化しやすいので、この熱処理を行うと、粒子径が均一なペロブスカイト型酸化物の粉末が得られ、粒径が均一な焼結体が得られる。
【0046】
ペロブスカイト型酸化物の粉末には、選択元素の化合物及びMnの化合物の素原料の粉末が添加される。選択元素の化合物及びMnの化合物の素原料の粉末の添加は、例えば、ペロブスカイト型酸化物の粉末並びに選択元素の化合物及びMnの化合物の素原料の粉末に分散媒を加え、分散媒を加えたこれらの粉末をボールミル等で混合することにより行う。
【0047】
選択元素の化合物及びMnの化合物の素原料としては、酸化物又は焼成過程において酸化物となる炭酸塩、酒石酸塩等の化合物が用いられる。Mnの素原料としては、Mnの原子価が4価の二酸化マンガン(MnO
2)も用いられる。MnO
2を構成する原子価が4価のMnは、焼成中に還元されて原子価が2価のMnとなり、高電界印加時の電界誘起歪の向上に寄与する。
【0048】
(焼結体の製造)
第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物の焼結体の製造にあたっては、まず、プレス成形、テープ成形、鋳込み成形等により原料粉末が成形される。
【0049】
原料粉末の成形体は、600〜1300℃(望ましくは800〜1100℃)で焼成される。焼成のときの雰囲気は、酸素雰囲気であることが望ましいが、大気雰囲気であってもよい。原料粉末が含有する元素と同一の元素からなる雰囲気調整用の粉末を原料粉末の成形体の周辺においた状態で焼成を行ってもよい。焼成のときの昇温速度及び降温速度は20〜2000℃/時間であることが望ましく、焼成温度を保持する時間は30秒〜20時間であることが望ましい。
【0050】
原料粉末の成形体は、一般的に用いられる1段階の焼成スケジュールで焼成される。例えば、
[1]20〜2000℃/時間の昇温速度で室温から第1の焼成温度の600〜1300℃まで昇温し第1の焼成温度を保持する第1の段階;
の終了後すぐに20〜2000℃/時間の降温速度で室温まで降温する1段階の焼成スケジュールにより原料粉末の成形体が仮焼される。
【0051】
原料粉末の成形体は、多段階の焼成スケジュールで焼成されてもよい。例えば、
[1]室温から第1の焼成温度の600〜800℃まで昇温し第1の焼成温度を保持する第1の段階;及び
[2]第1の焼成温度から第2の焼成温度の800〜1300℃まで昇温し第2の焼成温度を保持する第2の段階;
の終了後に室温まで降温する2段階の焼成スケジュールにより原料粉末の成形体が仮焼される。
【0052】
又は、
[1]室温から第1の焼成温度の900〜1300℃まで500℃/時間以上の昇温速度で昇温し第1の焼成温度を保持する第1の段階;及び
[2]第1の焼成温度から第2の焼成温度の600〜900℃まで200℃/時間以上の降温速度で降温し第2の焼成温度を保持する第2の段階;
の終了後に室温まで降温する2段階の焼成スケジュールにより原料粉末の成形体が仮焼される。
【0053】
原料粉末の成形体は、上記の2通りの2段階の焼成スケジュールを組み合わせた3段階の仮焼スケジュールにより仮焼されてもよい。
【0054】
焼結体の表面には、スクリーン印刷、抵抗加熱蒸着、スパッタリング等により電極膜が形成される。原料粉末の成形体と電極膜とを一体的に焼成してもよい。焼結体の内部に電極膜を形成してもよい。焼結体に対して研磨、切断等の加工を行ってもよい。
【0055】
電極膜が形成された焼結体には、望ましくは、分極処理及びエージング処理が順次行われる。エージング処理は省略される場合もある。また、抗電界を超える電界が使用時に印加される場合は、又は、もっぱら電歪効果を利用する場合は、分極処理も省略される場合もある。
【0056】
分極処理を行う場合、電極膜を形成した焼結体がシリコンオイル等の絶縁油に浸漬され、電極膜に電圧が印加される。このとき、焼結体を50〜150℃に加熱する高温分極処理を行うことが望ましい。高温分極処理を行うときには、焼結体に2〜10kV/mmの電界が印加される。
【0057】
エージング処理を行う場合、電極膜が開放された状態で焼結体が大気中で100〜300℃に加熱される。
【0058】
(2 第2実施形態)
第2実施形態は、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物を用いた単層型の圧電/電歪アクチュエータ1に関する。
【0059】
(圧電/電歪アクチュエータ1の概略)
図1は、第2実施形態の圧電/電歪アクチュエータ1の模式図である。
図1は、圧電/電歪アクチュエータ1の断面図である。
【0060】
図1に示すように、圧電/電歪アクチュエータ1は、基体11の上面に、電極膜121、圧電/電歪体膜122及び電極膜123をこの順序で積層した構造を有する。圧電/電歪体膜122の両主面上の電極膜121,123は、圧電/電歪体膜122を挟んで対向する。電極膜121、圧電/電歪体膜122及び電極膜123を積層した積層体12は基体11に固着される。
【0061】
「固着」とは、有機接着剤や無機接着剤を用いることなく、基体11と積層体12との界面における固相反応により、積層体12を基体11に接合することをいう。なお、基体と積層体の最下層の圧電/電歪体膜との界面における固相反応により積層体を基体に接合してもよい。
【0062】
圧電/電歪アクチュエータ1では、電極膜121,123に電圧が印加されると、印加された電圧に応じて圧電/電歪体122が電界と垂直な方向に伸縮し、その結果として屈曲変位を生じる。
【0063】
(圧電/電歪体膜122)
圧電/電歪体膜122は、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物の焼結体である。
【0064】
圧電/電歪膜122の膜厚は、0.5〜50μmであることが望ましく、0.8〜40μmであることがさらに望ましく、1〜30μmであることが特に望ましい。圧電/電歪膜122の膜厚がこの範囲を下回ると、緻密化が不十分になる傾向があるからである。また、圧電/電歪膜122の膜厚がこの範囲を上回ると、焼結時の収縮応力が大きくなるため、基体11の板厚を厚くする必要が生じ、圧電/電歪アクチュエータ1の小型化が困難になるからである。
【0065】
(電極膜121,123)
電極膜121,123の材質は、白金、パラジウム、ロジウム、金若しくは銀等の金属又はこれらの合金である。中でも、焼成時の耐熱性が高い点で白金又は白金を主成分とする合金が好ましい。また、焼成温度によっては、銀−パラジウム等の合金も好適に用いられる。
【0066】
電極膜121,123の膜厚は、15μm以下であることが望ましく、5μm以下であることがさらに望ましい。電極膜121,123の膜厚がこの範囲を上回ると、電極膜121,123が緩和層として機能し、屈曲変位が小さくなる傾向があるからである。また、電極膜121,123がその役割を適切に果たすためには、電極膜121,123の膜厚は、0.05μm以上であることが望ましい。
【0067】
電極膜121,123は、圧電/電歪体膜122の屈曲変位に実質的に寄与する領域を覆うように形成されることが望ましい。例えば、圧電/電歪体膜122の中央部分を含み、圧電/電歪体膜122の両主面の80%以上の領域を覆うように形成されることが望ましい。
【0068】
(基体11)
基体11の材質は、セラミックスであるが、その種類に制限はない。もっとも、耐熱性、化学的安定性及び絶縁性の観点から、安定された酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ムライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素及びガラスからなる群より選択される少なくとも1種類を含むセラミックスであることが望ましい。中でも、機械的強度及び靭性の観点から安定化された酸化ジルコニウムがさらに望ましい。「安定化された酸化ジルコニウム」とは、安定化剤の添加によって結晶の相転移を抑制した酸化ジルコニウムをいい、安定化酸化ジルコニウムの他、部分安定化酸化ジルコニムを包含する。
【0069】
安定化された酸化ジルコニウムとしては、例えば、1〜30mol%の酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム若しくは酸化セリウム又は希土類金属の酸化物を安定化剤として含有させた酸化ジルコニウムがあげられる。中でも、機械的強度が特に高い点で、酸化イットリウムを安定化剤として含有させた酸化ジルコニウムが望ましい。酸化イットリウムの含有量は、1.5〜6mol%であることが望ましく、2〜4mol%であることがさらに望ましい。また、酸化イットリウムに加えて、0.1〜5mol%の酸化アルミニウムを含有させることもさらに望ましい。安定化された酸化ジルコニウムの結晶相は、立方晶と単斜晶との混合晶、正方晶と単斜晶との混合晶又は立方晶と正方晶と単斜晶との混合晶等であってもよいが、主たる結晶相が正方晶と立方晶との混合晶又は正方晶となっていることが、機械的強度、靭性及び耐久性の観点から好ましい。
【0070】
基体11の板厚は均一になっている。基体11の板厚は、1〜1000μmであることが望ましく、1.5〜500μmであることがさらに望ましく、2〜200μmであることが特に望ましい。基体11の板厚がこの範囲を下回ると、圧電/電歪アクチュエータ1の機械的強度が低下する傾向にあるからである。また、基体11の板厚がこの範囲を上回ると、基体11の剛性が高くなり、電圧を印加した場合の圧電/電歪体膜122の伸縮による屈曲変位が小さくなる傾向があるからである。
【0071】
基体11の表面形状(積層体が固着される面の形状)は、特に制限されず、三角形、四角形(長方形や正方形)、楕円形又は円形とすることができ、三角形及び四角形については角丸めを行ってもよい。これらの基本形を組み合わせた複合形としてもよい。
【0072】
(圧電/電歪アクチュエータ1の製造)
圧電/電歪アクチュエータ1の製造にあたっては、基体11の上に電極膜121が形成される。電極膜121は、イオンビーム、スパッタリング、真空蒸着、PVD(Physical Vapor Deposition)、イオンプレーティング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、メッキ、エアロゾルデポジション、スクリーン印刷、スプレー、ディッピング等の方法で形成される。中でも、基体11及び圧電/電歪体膜122との接合性の観点から、スパッタリング法又はスクリーン印刷法が望ましい。形成された電極膜121は、熱処理により、基体11及び圧電/電歪体膜122と固着される。熱処理の温度は、電極膜121の材質や形成方法に応じて異なるが、概ね500〜1400℃である。
【0073】
続いて、電極膜121の上に圧電/電歪体膜122が形成される。圧電/電歪体膜122は、イオンビーム、スパッタリング、真空蒸着、PVD(Physical Vapor Deposition)、イオンプレーティング、CVD(Chemical Vapor Deposition)、メッキ、ゾルゲル、エアロゾルデポジション、スクリーン印刷、スプレー、ディッピング等の方法で形成される。中でも、平面形状や膜厚の精度が高く、圧電/電歪体膜を連続して形成することができる点で、スクリーン印刷法が望ましい。
【0074】
さらに続いて、圧電/電歪体膜122の上に電極膜123が形成される。電極膜123は、電極膜121と同様に形成される。
【0075】
電極膜123を形成した後に、積層体12が形成された基体11が一体的に焼成される。この焼成により、圧電/電歪体膜122の焼結が進行するとともに、電極膜121,123が熱処理される。圧電/電歪体膜122の焼成温度は、800〜1250℃が望ましく、900〜1200℃がさらに望ましい。圧電/電歪体膜122の焼成の温度がこの範囲を下回ると、圧電/電歪体膜122の緻密化が不十分になり、基体11と電極膜121との固着や電極膜121,123と圧電/電歪体膜122との固着が不完全になる傾向があるからである。また、圧電/電歪体膜122の焼成の温度がこの範囲を上回ると、圧電/電歪体膜122の圧電/電歪特性が低下する傾向にあるからである。また、焼成時の最高温度の保持時間は、1分〜10時間が望ましく、5分〜4時間がさらに望ましい。この範囲を下回ると、圧電/電歪体膜122の緻密化が不十分になる傾向があるからである。また、この範囲を上回ると、圧電/電歪体膜122の圧電/電歪特性が低下する傾向にあるからである。
【0076】
なお、電極膜121,123の熱処理を焼成とともに行うことが生産性の観点から好ましいが、このことは、電極膜121,123を形成するごとに熱処理を行うことを妨げない。ただし、電極膜123の熱処理の前に圧電/電歪体膜122の焼成を行っている場合は、圧電/電歪体膜122の焼成温度より低い温度で電極膜123を熱処理する。
【0077】
焼成の終了後、圧電/電歪アクチュエータに対して、分極処理及びエージング処理が行われる。
【0078】
圧電/電歪アクチュエータ1は、積層セラミック電子部品の製造において常用されているグリーンシート積層法によっても製造される。グリーンシート積層法においては、原料粉末にバインダ、可塑剤、分散剤及び分散媒が加えられ、セラミックス、バインダ、可塑剤及び分散媒がボールミル等で混合される。得られたスラリーはドクターブレード法等でシート形状に成形され、成形体が得られる。
【0079】
続いて、スクリーン印刷法等で成形体の両主面に電極ペーストの膜が印刷される。ここで用いる電極ペーストは、上述の金属又は合金の粉末に、溶媒、ビヒクル及びガラスフリット等を加えたものである。
【0080】
さらに続いて、電極ペーストの膜が両主面に印刷された成形体と基体とが圧着される。
【0081】
しかる後に、積層体が形成された基体が一体的に焼成され、焼成が終わった後に適当な条件下で分極処理及びエージング処理が行われる。
【0082】
(3 第3実施形態)
第3実施形態は、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物を用いた多層型の圧電/電歪アクチュエータ2に関する。
【0083】
図2は、第3実施形態の圧電/電歪アクチュエータ2の模式図である。
図2は、圧電/電歪アクチュエータ2の断面図である。
【0084】
図2に示すように、圧電/電歪アクチュエータ2は、基体21の上面に、電極膜221、圧電/電歪体膜222、電極膜223、圧電/電歪体膜224及び電極膜225をこの順序で積層した構造を有する。圧電/電歪体膜222の両主面上の電極膜221,223は、圧電/電歪体膜222を挟んで対向し、圧電/電歪体膜224の両主面上の電極膜223,225は、圧電/電歪体膜224を挟んで対向する。電極膜221、圧電/電歪体膜222、電極膜223、圧電/電歪体膜224及び電極膜225を積層した積層体22は基体21に固着される。なお、
図2には、圧電/電歪体膜が2層である場合が図示されているが、圧電/電歪体膜が3層以上となってもよい。
【0085】
圧電/電歪アクチュエータ2の基体21の板厚は積層体22が接合される中央部215が周縁部216よりも薄肉化されている。これにより、基体21の機械的強度を保ちつつ、屈曲変位を大きくすることができる。基体21を第2実施形態の圧電/電歪アクチュエータ1に用いてもよい。
【0086】
圧電/電歪アクチュエータ2も、形成すべき圧電/電歪膜及び電極膜の数が増える点を除いては、単層型の圧電/電歪アクチュエータ1と同様に製造される。
【0087】
(4 第4実施形態)
第4実施形態は、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物を用いた多層型の圧電/電歪アクチュエータ3に関する。
【0088】
図3は、第4実施形態の圧電/電歪アクチュエータ3の模式図である。
図3は、圧電/電歪アクチュエータ3の断面図である。
【0089】
図3に示すように、圧電/電歪アクチュエータ3は、第3実施形態の基体21と同様の構造を有する単位構造が繰り返される基体31を備える。基体31の単位構造の各々の上には、第3実施形態の積層体22と同様の構造を有する積層体32が固着される。
【0090】
圧電/電歪アクチュエータ3も、形成すべき積層体の数並びに圧電/電歪膜及び電極膜の数が増える点を除いては、単層型の圧電/電歪アクチュエータ1と同様に製造される。
【0091】
(5 第5実施形態)
第5実施形態は、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物を用いた圧電/電歪アクチュエータ4に関する。
【0092】
図4〜
図6は、第5実施形態の圧電/電歪アクチュエータ4の模式図である。
図4は、圧電/電歪アクチュエータ4の斜視図、
図5は、圧電/電歪アクチュエータ4の縦断面図、
図6は、圧電/電歪アクチュエータ4の横断面図である。
【0093】
図4〜
図6に示すように、圧電/電歪アクチュエータ4は、圧電/電歪体膜402と内部電極膜404とを軸Aの方向に交互に積層し、圧電/電歪体膜402と内部電極膜404とを積層した積層体410の端面412,414に外部電極膜416,418を形成した構造を有する。
【0094】
圧電/電歪アクチュエータ4の一部を軸Aの方向に分解した状態を示す
図7の分解斜視図に示すように、内部電極膜404には、端面412に達しているが端面414には達していない第1の内部電極膜406と、端面414に達しているが端面412には達していない第2の内部電極膜408とがある。第1の内部電極膜406と第2の内部電極膜408とは交互に設けられる。第1の内部電極膜406は、端面412において外部電極膜416と接し、外部電極膜416と電気的に接続される。第2の内部電極膜408は、端面414において外部電極膜418と接し、外部電極膜418と電気的に接続される。したがって、外部電極膜416を駆動信号源のプラス側に接続し、外部電極膜418を駆動信号源のマイナス側に接続すると、圧電/電歪体膜402を挟んで対向する第1の内部電極膜406と第2の内部電極膜408とに駆動信号が印加され、圧電/電歪体膜402の厚さ方向に電界が印加される。この結果、圧電/電歪体膜402は厚さ方向に伸縮し、積層体410は全体として
図4において破線で示す形状に変形する。
【0095】
圧電/電歪アクチュエータ4は、既に説明した圧電/電歪アクチュエータ1〜3と異なり、積層体410が固着される基体を有さない。また、圧電/電歪アクチュエータ4は、パターンが異なる第1の内部電極膜406と第2の内部電極膜408とを交互に設けることから、「オフセット型の圧電/電歪アクチュエータ」とも呼ばれる。
【0096】
圧電/電歪体膜402は、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物の焼結体である。圧電/電歪体膜402の膜厚は、5〜500μmであることが好ましい。この範囲を下回ると、後述のグリーンシートの製造が困難になるからである。また、この範囲を上回ると、圧電/電歪体膜402に十分な電界を印加することが困難になるからである。
【0097】
内部電極膜404及び外部電極膜416,418の材質は、白金、パラジウム、ロジウム、金若しくは銀等の金属又はこれらの合金である。内部電極膜404の材質は、これらの中でも、焼成時の耐熱性が高く圧電/電歪体膜402との共焼結が容易な点で白金又は白金を主成分とする合金であることが好ましい。ただし、焼成温度によっては、銀−パラジウム等の合金も好適に用いられる。
【0098】
内部電極膜402の膜厚は、10μm以下であることが望ましい。この範囲を上回ると、内部電極膜402が緩和層として機能し、変位が小さくなる傾向があるからである。また、内部電極膜402がその役割を適切に果たすためには、膜厚は、0.1μm以上であることが望ましい。
【0099】
なお、
図4〜
図6には、圧電/電歪体膜402が10層である場合が図示されているが、圧電/電歪体膜402が9層以下又は11層以上であってもよい。
【0100】
圧電/電歪アクチュエータ4の製造にあたっては、第1実施形態の圧電/電歪磁器組成物の原料粉末にバインダ、可塑剤、分散剤及び分散媒が加えられ、これらがボールミル等で混合される。得られたスラリーは、ドクターブレード法等でシート形状に成形され、グリーンシートが得られる。
【0101】
続いて、パンチやダイを使用してグリーンシートが打ち抜き加工され、グリーンシートに位置合わせ用の孔等が形成される。
【0102】
さらに続いて、グリーンシートの表面にスクリーン印刷等により電極ペーストが塗布され、電極ペーストのパターンが形成されたグリーンシートが得られる。電極ペーストのパターンには、焼成後に第1の内部電極膜406となる第1の電極ペーストのパターンと焼成後に第2の内部電極膜408となる第2の電極ペーストのパターンとの2種類がある。もちろん、電極ペーストのパターンを1種類だけとして、グリーンシートの向きをひとつおきに180°回転させることにより、焼成後に内部電極膜406,408が得られるようにしてもよい。
【0103】
次に、第1の電極ペーストのパターンが形成されたグリーンシートと第2の電極ペーストのパターンが形成されたグリーンシートが交互に重ね合わされるとともに、電極ペーストが塗布されていないグリーンシートが最上部にさらに重ね合わされ後に、重ね合わされたグリーンシートが厚さ方向に加圧され圧着される。このとき、グリーンシートに形成された位置合わせ用の孔の位置が揃うようにする。また、重ね合わせたグリーンシートの圧着にあたっては、圧着に使用する金型を加熱しておくことにより、加熱しながらグリーンシートを圧着するようにすることも望ましい。
【0104】
このようにして得られたグリーンシートの圧着体は焼成され、得られた焼結体はダイシングソー等で加工され、積層体410が得られる。そして、焼き付け、蒸着、スパッタリング等により積層体410の端面412,414に外部電極膜416,418が形成され、分極処理及びエージング処理が行われることにより、圧電/電歪アクチュエータ4が得られる。
【実施例】
【0105】
(評価用の圧電/電歪素子の製造)
評価用の圧電/電歪素子の製造にあたっては、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、酒石酸水素ナトリウム一水和物(C
4H
5O
6Na・H
2O)、酒石酸水素カリウム(C
4H
5O
6K)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
5)及び酸化アンチモン(Sb
2O
3)の素原料の粉末を、焼成後の酸化物において表1〜表5に示す組成となるように秤量した。表1〜表5の「x」「y」「z」「w」及び「a」の欄には、第1の成分のペロブスカイト型酸化物の組成を一般式{Li
y(Na
1-xK
x)
1-y}
a(Nb
1-z-wTa
zSb
w)O
3で表したときのx,y,z,w及びaの値が示されている。
【0106】
続いて、秤量した素原料の粉末に分散媒としてアルコールを加えてボールミルで16時間混合した。
【0107】
さらに続いて、得られた混合原料を乾燥し、800℃で5時間仮焼してボールミルで粉砕することを2回繰り返し、ペロブスカイト型酸化物の粉末を得た。
【0108】
ペロブスカイト型酸化物の粉末を得た後に、選択元素の酸化物又は炭酸塩及びMnO
2の粉末を表1〜表5に示す含有量となるように添加した。表1〜5の「選択元素」の欄には、選択元素の種類、「選択元素量」の欄には、ペロブスカイト型酸化物100モル部に対する選択元素原子換算の選択元素の酸化物又は炭酸塩の含有量が示されている。「Mn量」の欄には、ペロブスカイト型酸化物100モル部に対するMn原子換算のMnO
2の含有量が示されている。
【0109】
続いて、原料粉末を粗粉砕した後、500メッシュのふるいに通して粒度調整を行った。
【0110】
このようにして得られた原料粉末を2×10
8Paの圧力で直径18mm、板厚5mmの円板形状にプレス成形した。そして、成形体をアルミナ容器内に収納し、試料番号E1,E2を除き、970℃で3時間焼成して焼結体を得た。
【0111】
試料番号E1は、
(1)1000℃/時間の昇温速度で1000〜1050℃まで昇温して1分間保持する第1の段階、
(2)400〜2000℃/時間の降温速度で940〜980℃まで降温して3〜6時間保持する第2の段階、
(3)200℃/時間の降温速度で室温まで冷却する第3の段階、
を順次実行する焼成プロファイルを用いて焼成を行った。試料番号E1の焼成雰囲気は、酸素雰囲気である。
【0112】
試料番号E2は、
(1)200℃/時間の昇温速度で860〜900℃まで昇温して0.5〜3時間保持する第1の段階、
(2)1000℃/時間の昇温速度で1000〜1050℃まで昇温して1分間保持する第2の段階、
(3)400〜2000℃/時間の降温速度で940〜980℃まで降温して3〜6時間保持する第3の段階、
(4)200℃/時間の降温速度で室温まで冷却する第4の段階、
を順次実行する焼成プロファイルを用いて焼成を行った。試料番号E2の焼成雰囲気は、酸素雰囲気である。
【0113】
続いて、焼結体を長辺12mm×短辺3mm×厚み1mmの矩形形状に加工し、600〜900℃で熱処理を行った。その後、矩形試料の両主面にスパッタリングで金電極を形成した。そして、これを70〜100℃のシリコンオイル中に浸漬し、両主面の金電極に5kV/mmの電圧を15分間印加して厚さ方向に分極処理を行い、エージング処理を行った。
【0114】
(電気特性)
評価用の圧電/電歪素子を用いて、圧電定数d
31(pm/V)及び歪率S
4000(ppm)を測定した。その測定結果を表1〜表5に示す。表1,2,4,5には、エージング処理の後の圧電定数d
31及び歪率S
4000が示されている。表3には、分極処理の後であってエージング処理の前及びエージング処理の後の圧電定数d
31及び歪率S
4000が示されている。
【0115】
圧電定数d
31は、圧電/電歪素子の周波数−インピーダンス特性及び静電容量をインピーダンスアナライザで測定するとともに、圧電/電歪素子の寸法をマイクロメータで測定し、長辺方向伸び振動の基本波の共振周波数及び反共振周波数、静電容量並びに寸法から算出することにより得た。歪率S
4000は、両主面の金電極に4kV/mmの電圧を印加したときの長辺方向の電界誘起歪を接着剤で電極に貼り付けた歪ゲージで測定することにより得た。
【0116】
表1の試料番号A1〜A8を対比すると、Ba,Sr,Ca,La,Ce,Nd,Smの化合物を含有させることにより、圧電定数d
31及び歪率S
4000が向上することがわかる。また、試料番号A1〜A8の焼結体の微構造及び結晶相はほぼ同じであり、粒径は約10μm、相対密度は94〜96%であった。
【0117】
【表1】
【0118】
表2の試料番号B1〜B6を対比すると、選択元素がBaの場合、Ba量が0.01〜0.05モル部の範囲内では圧電定数d
31及び歪率S
4000が向上するが、Ba量が0.06モル部となると良好な圧電定数d
31及び歪率S
4000が得られないことがわかる。同様に、表3の試料番号C1〜C6を参照すると、選択元素がSrの場合、Sr量が0.01〜0.05モル部の範囲内では圧電定数d
31及び歪率S
4000が向上するが、Sr量が0.06モル部となると良好な圧電定数d
31及び歪率S
4000が得られないことがわかる。また、Ba量及びSr量が0.01〜0.05モル部の範囲内では焼結体の主結晶相は正方晶であったが、Ba量及びSr量が0.06モル部となると焼結体の主結晶相は斜方晶に変化した。
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
表4の試料番号D1〜D8を参照すると、A/B比が1.005〜1.05の範囲内では、エージング処理による圧電定数d
31及び歪率S
4000の向上が見られるが、A/B比が1又は1.055となると、エージング処理による圧電定数d
31及び歪率S
4000の向上は見られない。また、A/B比が1の場合は、焼結体が十分に緻密化しておらず、粒成長も不十分であった。一方、A/B比が1.055の場合は、焼結体に異相が観察され、誘電損失が上昇していた。
【0122】
【表4】
【0123】
焼成プロファイルを変更した表5の試料番号E1,E2においても、良好な圧電定数d
31及び歪率S
4000が得られた。なお、圧電/電歪磁器組成物の組成を本発明の範囲内で変更した場合であっても、試料番号E1,E2において採用された焼成プロファイルを適用すると、良好な圧電定数d
31及び歪率S
4000が得られた。
【0124】
【表5】
【0125】
上記の説明は、すべての局面において例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。