(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の動力伝達装置においては、油圧クラッチのピストンがバネによって付勢される構造であるため、この油圧クラッチには解放時に作動油を供給するキャンセル油室が設けられている。このキャンセル油室に作動油を供給することにより、バネ力に抗する方向にピストンを移動させることができ、油圧クラッチを解放状態に切り換えることが可能となる。すなわち、油圧クラッチを完全に解放するためには、キャンセル油室に作動油を供給することが必要であるため、オイルポンプが停止するエンジン停止時には油圧クラッチを解放することができず、車両をニュートラル状態に制御することが不可能であった。
【0007】
このため、イグニッションスイッチがオフ操作される車両停止時においても、エンジンと共にオイルポンプが停止することから、エンジンと駆動輪とを切り離すことが不可能であった。このように、ニュートラル制御がエンジン作動時に制限されることは、車両の使い勝手を低下させる要因となっていた。すなわち、エンジンを始動することができない車両故障等が発生した場合には、動力伝達系をニュートラル状態に制御することができないため、車両の牽引等を行うことが不可能となっていた。
【0008】
本発明の目的は、エンジン再始動時における締結ショックの発生を抑制するとともに、エンジン停止時においてもニュートラル状態に制御することが可能な車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用駆動装置は、所定の停止条件下で自動的に停止されて所定の始動条件下で自動的に再始動されるエンジンを備えた車両用駆動装置であって、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達径路に設けられ、油圧ピストンを係合方向に移動させて摩擦板を係合し、前記油圧ピストンを解放方向に移動させて前記摩擦板の係合状態を解除する摩擦係合機構と、前記エンジンに駆動され、前記油圧ピストンを係合方向と解放方向とに移動させる作動油を前記摩擦係合機構に供給するオイルポンプと、前記動力伝達径路に設けられるとともに電磁駆動部を備え、前記電磁駆動部の通電時には前記動力伝達径路を接続する締結状態に切り換えられる一方、前記電磁駆動部の非通電時には前記動力伝達径路を切断する解放状態に切り換えられる入力クラッチ機構と、運転手のセレクト操作に基づいて、前記電磁駆動部を通電状態と非通電状態とに制御する入力クラッチ制御手段と
、を有し、前記油圧ピストンを係合方向に向けて付勢する付勢手段を前記摩擦係合機構に設け、前記オイルポンプが停止するエンジン停止時に前記摩擦係合機構を滑り状態または締結状態に保持し、
セレクトレバーが走行位置に操作された状態のもとで、前記所定の始動条件が成立して前記エンジンを
自動的に再始動する
場合には、
前記エンジンが再始動される前から前記付勢手段によって前記摩擦係合機構は滑り状態または締結状態に保持され、
前記エンジンが再始動される前から前記入力クラッチ制御手段によって前記入力クラッチ機構は締結状態に制御され、起動スイッチがオン操作され
て車両の制御システムが起動する車両起動状態のもとで、
前記セレクトレバーが中立位置に操作されたときには、前記入力クラッチ制御手段によって前記電磁駆動部を非通電状態にすることで前記入力クラッチ機構は解放状態に切り換えられ、前記起動スイッチがオフ操作され
て車両の制御システムが停止する車両停止状態のもとでは、前記起動スイッチのオフ操作によって前記電磁駆動部を非通電状態にすることで前記入力クラッチ機構は解放状態に切り換えられる、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の車両用駆動装置は、前記入力クラッチ機構は、前記摩擦係合機構よりも前記エンジン側に配置されることを特徴とする。
【0011】
本発明の車両用駆動装置は、前記入力クラッチ機構は、前記動力伝達径路に設けられる変速機構よりも前記エンジン側に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オイルポンプが停止するエンジン停止時にも付勢手段によって滑り状態または締結状態に保持される摩擦係合機構を動力伝達径路に設けるとともに、電磁駆動部の非通電時に解放状態に切り換えられる入力クラッチ機構を動力伝達径路に設けるようにしている。これにより、簡単な構成によってエンジン再始動時における摩擦係合機構の締結ショックが抑制することが可能となる。さらに、車両起動状態でのエンジン停止時にはセレクト操作によって車両用駆動装置をニュートラル状態に制御することが可能となり、車両停止状態においても起動スイッチのオフ操作によって車両用駆動装置をニュートラル状態に制御することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態である車両用駆動装置を示す概略図である。
図1に示すように、車両用駆動装置10は、エンジン11、トルクコンバータ12、無段変速機(変速機構)13、および前後進切換機構14を有している。エンジン11にはトルクコンバータ12および入力クラッチ15を介して無段変速機13が連結されており、この無段変速機13には前後進切換機構14およびフロントデファレンシャル機構16を介して前輪(駆動輪)19fが連結されている。また、前後進切換機構14にはトランスファクラッチ17を介して後輪(駆動輪)19rが連結されている。すなわち、入力クラッチ15および前後進切換機構14は、エンジン11と駆動輪19f,19rとの間の動力伝達径路18に設けられており、入力クラッチ15および前後進切換機構14を介して、エンジン11から駆動輪19f,19rに動力が伝達されている。
【0015】
図示する車両用駆動装置10はアイドリングストップ機能を有しており、所定の停止条件が成立したときにはエンジン11を自動的に停止させる一方、所定の始動条件が成立したときにはエンジン11を自動的に再始動させている。エンジン11の停止条件としては、停車状態(車速=0km/h)であり、且つブレーキペダルが踏み込まれること等が挙げられる。また、エンジン11の始動条件としては、ブレーキペダルの踏み込みが解除されることや、アクセルペダルが踏み込まれること等が挙げられる。なお、エンジン11を始動回転させるスタータモータとしては、始動時にピニオンが突出してエンジン11の図示しないリングギヤに噛み合う方式のスタータモータであっても良く、一方向クラッチを介してリングギヤに常時噛み合う方式のスタータモータであっても良い。さらに、オルタネータをスタータモータとして機能させても良い。
【0016】
エンジン11に連結されるトルクコンバータ12は、クランク軸20に連結されるポンプインペラ21と、このポンプインペラ21に対向するとともにタービン軸22に連結されるタービンランナ23とを備えている。なお、トルクコンバータ12には、フロントカバー24とタービンランナ23とを直結するロックアップクラッチ25が設けられている。また、無段変速機13は、プライマリ軸30とこれに平行となるセカンダリ軸31とを有している。プライマリ軸30にはプライマリプーリ32が設けられており、プライマリプーリ32の背面側にはプライマリ油室33が区画されている。また、セカンダリ軸31にはセカンダリプーリ34が設けられており、セカンダリプーリ34の背面側にはセカンダリ油室35が区画されている。さらに、プライマリプーリ32およびセカンダリプーリ34には駆動チェーン36が巻き掛けられている。プライマリ油室33およびセカンダリ油室35の油圧を調整することにより、プーリ溝幅を変化させて駆動チェーン36の巻き付け径を変化させることができ、プライマリ軸30からセカンダリ軸31に対する無段変速が可能となる。
【0017】
トルクコンバータ12から無段変速機13にエンジン動力を伝達するため、トルクコンバータ12と無段変速機13との間には歯車列40および入力クラッチ(入力クラッチ機構)15が設けられている。歯車列40は、トルクコンバータ12のタービン軸22に固定される駆動ギヤ40aと、セカンダリ軸31に回転自在に設けられる従動ギヤ40bとを備えている。また、入力クラッチ15は、従動ギヤ40bの中空軸40cに設けられる駆動ディスク41と、プライマリ軸30に設けられる従動ディスク42とを備えている。さらに、入力クラッチ15は、対向する駆動ディスク41と従動ディスク42とを押圧するための電磁駆動部43を有している。この電磁駆動部43は、磁性体であるプレッシャプレート43aとこれに対向する電磁石43bとによって構成されている。プレッシャプレート43aと電磁石43bとは、駆動ディスク41および従動ディスク42を挟み込むように配置されている。電磁石43bに対して通電を施すことにより、磁化する電磁石43bに向けてプレッシャプレート43aが吸引される。これにより、プレッシャプレート43aによって駆動ディスク41と従動ディスク42とが押圧されるため、入力クラッチ15は動力伝達径路18を接続する締結状態に切り換えられる。一方、電磁石43bに対する通電を遮断することにより、電磁石43bによるプレッシャプレート43aの吸引が解除される。これにより、プレッシャプレート43aによる駆動ディスク41と従動ディスク42との押圧状態が解除されるため、入力クラッチ15は動力伝達径路18を切断する解放状態に切り換えられる。このように、入力クラッチ15は、電磁石43bの通電時に締結状態に切り換えられる一方、電磁石43bの非通電時に解放状態に切り換えられる常開型(ノーマルオープン型)の入力クラッチとなっている。
【0018】
また、無段変速機13から駆動輪19f,19rに向けてエンジン動力を出力するため、セカンダリ軸31には歯車列45を介して前後進切換機構14が接続されている。歯車列45は、セカンダリ軸31に固定される駆動ギヤ45aと、前後進切換機構14の前後進入力軸46に固定される従動ギヤ45bとを備えている。さらに、前後進切換機構14は、ダブルピニオン式の遊星歯車列47、前進クラッチ48および後退ブレーキ49によって構成されている。前後進切換機構14の遊星歯車列47は、前後進入力軸46に固定されるサンギヤ50と、これの径方向外方に回転自在に設けられるリングギヤ51とを備えている。サンギヤ50とリングギヤ51との間には相互に噛み合う一対のプラネタリピニオンギヤ52,53が複数設けられている。サンギヤ50とリングギヤ51とを連結するプラネタリピニオンギヤ52,53はキャリア54によって回転自在に支持されており、このキャリア54は前後進出力軸55に固定されている。
【0019】
また、前後進切換機構14の前進クラッチ(摩擦係合機構)48は、前後進入力軸46に固定されるクラッチドラム60と、キャリア54に固定されるクラッチハブ61とを備えている。クラッチドラム60とクラッチハブ61との間には複数枚の摩擦板60a,61aが設けられており、摩擦板60aはクラッチドラム60の内周面に支持され、摩擦板61aはクラッチハブ61の外周面に支持されている。また、クラッチドラム60内には摩擦板60a,61aを押圧する油圧ピストン62が摺動自在に設けられている。また、クラッチドラム60に収容される油圧ピストン62の一方面側には締結油室63が区画される一方、油圧ピストン62の他方面側には解放油室64が区画されている。さらに、締結油室63にはバネ部材(付勢手段)65が組み込まれており、バネ部材65によって油圧ピストン62は係合方向に付勢されている。なお、係合方向とは油圧ピストン62が摩擦板60a,61aに近づく方向であり、後述する解放方向とは油圧ピストン62が摩擦板60a,61aから離れる方向である。
【0020】
そして、前進クラッチ48の締結油室63に作動油を供給して解放油室64から作動油を排出することにより、油圧ピストン62を係合方向に移動させることが可能となる。これにより、油圧ピストン62を押し当てて摩擦板60a,61aを係合状態とすることができ、前進クラッチ48はクラッチドラム60とクラッチハブ61とを一体に回転させる締結状態となる。一方、締結油室63から作動油を排出して解放油室64に作動油を供給することにより、油圧ピストン62を解放方向に移動させることが可能となる。これにより、油圧ピストン62を離して摩擦板60a,61aの係合状態を解除することができ、前進クラッチ48はクラッチドラム60とクラッチハブ61とを切り離す解放状態となる。また、締結油室63と解放油室64との双方から作動油が排出された場合であっても、油圧ピストン62はバネ部材65によって係合方向に付勢されることから、前進クラッチ48は滑り状態または締結状態に制御される。なお、前進クラッチ48の滑り状態とは、摩擦板60a,61a間に設定される遊びが無くなる状態であり、摩擦板60a,61a同士が完全に締結される前の状態である。すなわち、前進クラッチ48の滑り状態とは、摩擦板60a,61a同士が軽く接触している状態であり、前進クラッチ48が解放状態から締結状態に移行する過程の状態である。
【0021】
さらに、前後進切換機構14の後退ブレーキ49は、図示しないケースに固定されるブレーキドラム70と、リングギヤ51に固定されるブレーキハブ71とを有している。ブレーキドラム70とブレーキハブ71との間には複数枚の摩擦板70a,71aが装着されており、摩擦板70aはブレーキドラム70の内周面に支持され、摩擦板71aはブレーキハブ71の外周面に支持されている。また、ブレーキドラム70内には摩擦板70a,71aを押圧する油圧ピストン72が摺動自在に収容されている。さらに、油圧ピストン72の一方面側には締結油室73が区画されており、この締結油室73に作動油を供給することにより、油圧ピストン72を係合方向に移動させることができ、後退ブレーキ49を締結状態に切り換えることが可能となる。なお、後退ブレーキ49の油圧ピストン72には、図示しないリターンスプリングが組み付けられており、締結油室73から作動油を排出することにより、後退ブレーキ49はバネ力によって解放状態に切り換えられる。
【0022】
なお、前進走行時には、後退ブレーキ49を解放した状態のもとで前進クラッチ48が締結される。これにより、前後進入力軸46と前後進出力軸55とが直結されるため、前後進入力軸46に入力されるエンジン動力は、そのままの回転方向で前後進出力軸55に伝達される。一方、後退走行時には、前進クラッチ48を解放した状態のもとで後退ブレーキ49が締結される。これにより、リングギヤ51が固定されるため、前後進入力軸46に入力されるエンジン動力は、逆向きの回転方向で前後進出力軸55に伝達される。このように、動力伝達径路18上の前進クラッチ48および後退ブレーキ49を制御することにより、前後進出力軸55の回転方向を切り換えることが可能となっている。
【0023】
ここで、
図2は車両用駆動装置10の一部を制御系とともに示す概略図である。
図2に示すように、車両用駆動装置10には、前後進切換機構14等に対して作動油を供給するため、トロコイドポンプ等のオイルポンプ74が設けられている。また、前進クラッチ48の締結油室63および解放油室64、後退ブレーキ49の締結油室73に作動油を供給制御するため、車両用駆動装置10内には複数のソレノイドバルブを備えたバルブユニット75が設けられている。オイルポンプ74とバルブユニット75とは油路76を介して接続されており、オイルポンプ74から吐出される作動油は、バルブユニット75を経て前進クラッチ48や後退ブレーキ49等に供給される。オイルポンプ74には従動スプロケット77bが連結されており、トルクコンバータ12のポンプインペラ21には駆動スプロケット77aが連結されている。また、駆動スプロケット77aと従動スプロケット77bとはチェーン77cを介して連結されている。このように、エンジン11とオイルポンプ74とは直結されており、エンジン11の駆動状態に連動してオイルポンプ74が作動している。なお、オイルポンプ74から吐出される作動油は、バルブユニット75を経てトルクコンバータ12や無段変速機13に供給されることはいうまでもない。
【0024】
また、エンジン11、バルブユニット75、電磁石43b等を制御するため、車両用駆動装置10には制御ユニット80が設けられている。この制御ユニット80には、セレクトレバー81の操作位置(セレクト操作)を検出するインヒビタスイッチ82、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルペダルセンサ83、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキペダルセンサ84、車速を検出する車速センサ85、運転手に操作されるイグニッションスイッチ(起動スイッチ)86等が接続されている。そして、制御ユニット80は、各種センサ等からの情報に基づき車両状態を判定し、エンジン11、バルブユニット75、電磁石43b等に対して制御信号を出力する。このように、制御ユニット80は電磁駆動部43の電磁石43bに対して通電制御を行っており、制御ユニット80は入力クラッチ制御手段として機能することになる。なお、運転手に操作されるセレクトレバー81は、Pレンジ(駐車レンジ)、Nレンジ(ニュートラルレンジ,中立位置)、Dレンジ(前進走行レンジ)、Rレンジ(後退走行レンジ)に操作可能となっている。また、制御ユニット80は、制御信号等を演算するCPUを備えるとともに、制御プログラム、演算式、マップデータ等を格納するROMや、一時的にデータを格納するRAMを備えている。
【0025】
続いて、入力クラッチ15の切換制御について説明する。
図3は入力クラッチ15の切換制御の手順を示すフローチャートであり、
図3にはイグニッションスイッチ86がオン操作されてからオフ操作される迄の手順が示されている。
図3に示すように、ステップS1では、イグニッションスイッチ86がオン操作されているか否かが判定される。ステップS1において、イグニッションスイッチ86がオン操作されている場合、つまり車両の制御システムが起動する車両起動状態であると判定された場合には、ステップS2に進み、セレクトレバー81の操作位置に基づいて入力クラッチ15が締結状態または解放状態に切り換えられる。このステップS2において、PレンジやNレンジが選択されている場合には入力クラッチ15が解放状態に切り換えられ、DレンジやRレンジが選択されている場合には入力クラッチ15が締結状態に切り換えられる。
【0026】
続くステップS3では、イグニッションスイッチ86が始動位置に操作されているか否かが判定される。ステップS3において、始動位置に操作されていると判定された場合には、ステップS4に進み、セレクトレバー81の操作位置が判定される。ステップS4において、PレンジやNレンジが選択されていると判定された場合には、入力クラッチ15が解放されることから、ステップS5に進み、エンジン11の始動が許可される。一方、ステップS4において、DレンジやRレンジが選択されていると判定された場合には、入力クラッチ15が締結されることから、エンジン11を始動させずに再びステップS1からルーチンが繰り返される。このように、イグニッションスイッチ86の始動操作によるエンジン始動時には、無段変速機13等の制御油圧が大幅に低下していることが想定されるため、駆動チェーン36等のスリップを防止する観点から、入力クラッチ15を解放した状態のもとでエンジン11を始動させている。
【0027】
そして、ステップS6では、セレクト操作に基づいて入力クラッチ15が締結状態または解放状態に切り換えられ、続くステップS7では、イグニッションスイッチ86がオフ操作されたか否かが判定される。ステップS7において、イグニッションスイッチ86がオン操作されていると判定された場合には、再びステップS6からルーチンが繰り返される。一方、ステップS7において、イグニッションスイッチ86がオフ側に切り換えられたと判定された場合には、車両の制御システムが停止される車両停止状態であることから、ステップS8に進み、電磁石43bが非通電状態になるとともに、入力クラッチ15が解放状態に切り換えられる。このように、イグニッションスイッチ86がオン操作される車両起動状態においては、入力クラッチ15の電磁石43bに対する通電制御が実行されることから、運転手のセレクト操作に応じて入力クラッチ15が締結状態と解放状態とに切り換えられる。一方、イグニッションスイッチ86がオフ操作される車両停止状態においては、イグニッションスイッチ86のオフ操作に伴って電磁石43bが非通電状態となることから、運転手のセレクト操作に拘わらず入力クラッチ15は解放状態に切り換えられる。
【0028】
続いて、車両起動状態での入力クラッチ15の切換制御について説明する。なお、車両起動状態での入力クラッチ15の切換制御とは、前述したステップS6において実行される入力クラッチ15の切換制御である。以下、車両起動状態における入力クラッチ15の切換制御の1つである、アイドリングストップ中に実行される入力クラッチ15の切換制御について、
図4のフローチャートに沿って説明する。さらに、車両起動状態における入力クラッチ15の切換制御の1つである、エンジン作動中に実行される入力クラッチ15の切換制御について、
図5のフローチャートに沿って説明する。なお、アイドリングストップ中とは、アイドリングストップ制御によるエンジン停止中を意味している。
【0029】
図4はアイドリングストップ中に実行される入力クラッチ15の切換制御の手順を示すフローチャートである。
図4に示すように、ステップS11では、アイドリングストップ制御によるエンジン停止中であるか否かが判定される。ステップS11において、エンジン11が停止していると判定された場合には、ステップS12に進み、運転手によるセレクトレバー81の操作位置が判定される。ステップS12において、セレクトレバー81がPレンジまたはNレンジに操作されていると判定された場合には、ステップS13に進み、電磁石43bに対する通電が遮断されて入力クラッチ15が解放状態に切り換えられる。一方、ステップS12において、セレクトレバー81がPレンジやNレンジ以外のDレンジやRレンジに操作されていると判定された場合には、ステップS14に進み、電磁石43bに対する通電が実施されて入力クラッチ15が締結状態に切り換えられる。このように、PレンジやNレンジが選択された場合には入力クラッチ15が解放される一方、DレンジやRレンジが選択された場合には入力クラッチ15が締結されることになる。
【0030】
続いて、ステップS15に進み、エンジン11の始動要求があるか否かが判定される。すなわち、アイドリングストップ制御における所定の始動条件が成立しているか否かが判定される。このステップS15において、始動要求が無いと判定された場合には、再びステップS12に戻ってルーチンが繰り返される。一方、ステップS15において、始動要求があると判定された場合には、ステップS16に進み、走行再開に備えてエンジン11が再始動される。ここで、前進クラッチ48には油圧ピストン62を係合方向に付勢するバネ部材65が設けられることから、エンジン停止時に制御油圧が低下しても前進クラッチ48は滑り状態または締結状態に保持されており、エンジン再始動に伴う前進クラッチ48の締結ショックを抑制することが可能となる。
【0031】
次いで、エンジン作動中に実行される入力クラッチ15の切換制御について説明する。
図5はエンジン作動中に実行される入力クラッチ15の切換制御の手順を示すフローチャートである。
図5に示すように、ステップS21では、セレクトレバー81がRレンジに切り換えられたか否かが判定される。ステップS21において、Rレンジに切り換えられたと判定された場合には、入力クラッチ15を締結状態に切り換えるため、ステップS22に進み、前進クラッチ48および後退ブレーキ49が解放状態に切り換えられる。そして、ステップS23において、入力クラッチ15が締結状態に切り換えられてから、ステップS24において、後退ブレーキ49が締結状態に切り換えられる。このように、エンジン作動中においては、前進クラッチ48と後退ブレーキ49とを解放した上で、入力クラッチ15の切換制御を実行するようにしたので、入力クラッチ15を滑らかに締結状態に切り換えることができ、締結ショックを抑えて車両品質を向上させることが可能となる。
【0032】
また、ステップS21において、Rレンジに切り換えられていないと判定された場合には、ステップS25に進み、セレクトレバー81がPレンジやNレンジに切り換えられたか否が判定される。ステップS25において、PレンジやNレンジに切り換えられたと判定された場合には、入力クラッチ15を解放状態に切り換えるため、ステップS26に進み、前進クラッチ48および後退ブレーキ49が解放状態に切り換えられる。そして、ステップS27において、入力クラッチ15が解放状態に切り換えられる。このように、エンジン作動中においては、前進クラッチ48と後退ブレーキ49とを解放した上で、入力クラッチ15の切換制御を実行するようにしたので、入力クラッチ15を滑らかに解放状態に切り換えることができ、解放ショックを抑えて車両品質を向上させることが可能となる。
【0033】
また、ステップS25において、PレンジやNレンジに切り換えられていないと判定された場合、つまりセレクトレバー81がDレンジに切り換えられていると判定された場合には、入力クラッチ15を締結状態に切り換えるため、ステップS28に進み、前進クラッチ48および後退ブレーキ49が解放状態に切り換えられる。そして、ステップS29において、入力クラッチ15が締結状態に切り換えられてから、ステップS30において、前進クラッチ48が締結状態に切り換えられる。このように、エンジン作動中においては、前進クラッチ48と後退ブレーキ49とを解放した上で、入力クラッチ15の切換制御を実行するようにしたので、入力クラッチ15を滑らかに締結状態に切り換えることができ、締結ショックを抑えて車両品質を向上させることが可能となる。
【0034】
これまで説明したように、油圧ピストン62を係合方向に付勢するバネ部材65を前進クラッチ48に組み込むようにしたので、アイドリングストップに伴って制御油圧が低下した場合であっても前進クラッチ48を滑り状態または締結状態に保持することができ、エンジン再始動に伴う前進クラッチ48の締結ショックを抑制することが可能となる。さらに、セレクト操作に連動する入力クラッチ15を動力伝達径路18に設けるようにしたので、エンジン停止時であってもセレクトレバー81をNレンジに操作することにより、電磁石43bに対する通電を遮断して入力クラッチ15を解放することができ、エンジン11と駆動輪19f,19rとを切り離すことが可能となる。
【0035】
すなわち、前進クラッチ48はバネ力によって滑り状態または締結状態に保持されることから、制御油圧を得ることのできないエンジン停止時においては、前進クラッチ48を解放することが不可能であり、車両用駆動装置10をニュートラル状態に切り換えることが不可能であった。そこで、本発明の車両用駆動装置10においては、エンジン11と駆動輪19f,19rとの間の動力伝達径路18に、セレクト操作によって解放される入力クラッチ15を設けている。これにより、前進クラッチ48を解放するための制御油圧を得ることができない場合であっても、入力クラッチ15を解放して車両用駆動装置10をニュートラル状態に制御することができ、車両の牽引作業等を安全に行うことが可能となる。しかも、入力クラッチ15は非通電時に解放される常開型の入力クラッチであるため、イグニッションスイッチ86をオフ操作することで入力クラッチ15を解放することができ、車両用駆動装置をニュートラル状態に切り換えることが可能となる。これにより、制御系の電力供給源であるバッテリが放電することにより、電磁石43bに対して電力を供給できない場合であっても、車両用駆動装置10をニュートラル状態に制御することができ、車両の牽引作業等を安全に行うことが可能となる。
【0036】
また、前述の説明では、電磁石43bおよびプレッシャプレート43aを用いて入力クラッチ15を切り換えているが、このような切換構造の電磁クラッチに限られることはなく、電動アクチュエータを用いて入力クラッチ15を切り換えても良い。さらに、前述の説明では、摩擦クラッチによって入力クラッチ15を構成しているが、これに限られることはなく、噛合クラッチ(ドグクラッチ)によって入力クラッチ15を構成しても良い。ここで、
図6は本発明の他の実施の形態である車両用駆動装置90を示す概略図である。なお、
図6において
図1に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0037】
図6に示すように、トルクコンバータ12と無段変速機13との間には歯車列40および入力クラッチ(入力クラッチ機構)91が設けられている。入力クラッチ91は、従動ギヤ40bの中空軸40cに対して軸方向に移動自在に設けられる駆動円板部92と、プライマリ軸30に固定される従動円板部93とを備えている。また、駆動円板部92の外周部には凹凸部92aが形成されており、この凹凸部92aに対向する凹凸部93aが従動円板部93の外周部に形成されている。さらに、駆動円板部92にはフォーク部材94を介して電磁駆動部である電動アクチュエータ95が連結されており、この電動アクチュエータ95によって駆動円板部92を軸方向にスライド移動させることが可能となる。
【0038】
そして、電動アクチュエータ95に対して通電を施すことにより、駆動円板部92を従動円板部93に向けて移動させることが可能となる。これにより、駆動円板部92の凹凸部92aと従動円板部93の凹凸部93aとを噛み合わせることができ、入力クラッチ91は動力伝達径路18を接続する締結状態に切り換えられる。一方、電動アクチュエータ95に対する通電を遮断することにより、駆動円板部92を従動円板部93から引き離すことが可能となる。これにより、駆動円板部92の凹凸部92aと従動円板部93の凹凸部93aとの噛み合いを解除することができ、入力クラッチ91は動力伝達径路18を切断する解放状態に切り換えられる。このように、入力クラッチ91は、電動アクチュエータ95の非通電時に解放状態に切り換えられる常開型(ノーマルオープン型)の入力クラッチとなっている。このように、噛合クラッチを用いて入力クラッチ91を構成するとともに、この入力クラッチ91を電動アクチュエータ95によって切り換える構造であっても、非通電時に入力クラッチ91を解放する構成とすることにより、本発明を有効に適用することが可能である。
【0039】
また、前述の説明では、無段変速機13よりも駆動輪19f,19r側に前後進切換機構14を配置しているが、これに限られることはなく、動力伝達径路18上の他の位置に前後進切換機構14を配置しても良い。ここで、
図7は本発明の他の実施の形態である車両用駆動装置100を示す概略図である。なお、
図7において
図1に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図7に示すように、車両用駆動装置100においては、入力クラッチ15とプライマリプーリ32との間の動力伝達径路18上に、前後進切換機構14を配置している。このように、無段変速機13よりもエンジン11側に前後進切換機構14を配置した場合であっても、前進クラッチ48や入力クラッチ15は動力伝達径路18上に配置されることから、本発明を有効に適用することが可能である。
【0040】
また、
図1、
図6および
図7に示すように、前進クラッチ48よりもエンジン11側に入力クラッチ15,91が配置されているが、これに限られることはなく、前進クラッチ48よりも駆動輪19f,19r側に入力クラッチ15,91を配置しても良い。さらに、無段変速機13よりもエンジン11側に入力クラッチ15,91が配置されているが、これに限られることはなく、無段変速機13よりも駆動輪19f,19r側に入力クラッチ15,91を配置しても良い。前進クラッチ48や入力クラッチ15,91は、エンジン11と駆動輪19f,19rとの間の動力伝達径路18上に配置すれば良く、他の機構に対する前後の位置関係が問われるものではない。なお、イグニッション操作によるエンジン始動を考慮した場合には、エンジン11から回転体を切り離して始動性を向上させるため、入力クラッチ15,91をエンジン11に近づけて配置することが望ましい。特に、変速機構が無段変速機13である場合には、イグニッション操作によるエンジン始動時に、制御油圧が大きく低下している無段変速機13を回転させることがないように、無段変速機13よりもエンジン11側に入力クラッチ15,91を配置することが好ましい。
【0041】
また、前述の説明では、前後進切換機構14の前進クラッチ48に対してバネ部材65を組み付けているが、これに限られることはなく、前後進切換機構14の後退ブレーキ(摩擦係合機構)49に対して油圧ピストン72を係合方向に付勢するバネ部材を組み付けても良い。これにより、後退走行時にアイドリングストップ制御が実行される車両においても、エンジン再始動時における後退ブレーキ49の締結ショックを抑制することが可能となる。なお、前進クラッチ48と後退ブレーキ49との双方に対し、油圧ピストン62,72を係合方向に付勢するバネ部材65を組み付けても良い。
【0042】
また、前述の説明では、車両用駆動装置10,90,100には変速機構としてチェーンドライブ式の無段変速機13が搭載されているが、これに限られることはなく、変速機構としてベルトドライブ式やトラクションドライブ式の無段変速機を搭載しても良く、変速機構として遊星歯車式や平行軸式の自動変速機を搭載しても良い。なお、変速機構として自動変速機を採用する場合には、前進発進時や後退発進時に締結される摩擦クラッチ(摩擦係合機構)や摩擦ブレーキ(摩擦係合機構)に対して、油圧ピストンを係合方向に付勢するバネ部材が組み付けられる。
【0043】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、入力クラッチ15としては、
図1に示した摩擦型の電磁クラッチに限られることはなく、噛合型の電磁クラッチであっても良く、磁性粉を摩擦媒介として用いるようにしたパウダー型の電磁クラッチ等であっても良い。また、入力クラッチ91としては、
図6に示した電動アクチュエータ95を備える噛合クラッチに限られることはなく、電動アクチュエータ95を備えた摩擦クラッチであっても良い。この摩擦クラッチとして、手動変速機に搭載されるダイヤフラムスプリング型の摩擦クラッチを採用しても良い。この場合には、ダイヤフラムスプリングを操作するレリーズベアリングが電動アクチュエータ95によって駆動される。
【0044】
また、前述の説明では、オイルポンプ74としてトロコイドポンプを用いているが、これに限られることはなく、他の形式の内接型ギヤポンプであっても良く、外接型ギヤポンプであっても良い。また、レンジ操作部としてセレクトレバー81を用いているが、これに限られることなく、パドルによってセレクト操作を行うパドル式、ダイヤルによってセレクト操作を行うダイヤル式、もしくは押ボタンによってセレクト操作を行う押ボタン式であっても良い。また、図示する車両用駆動装置10,90,100は、四輪駆動用の車両用駆動装置であるが、これに限られることなく、前進駆動用や後輪駆動用の車両用駆動装置であっても良い。