(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体発光部と、ドナー及びアクセプタが添加されたポーラス状の単結晶6H型SiCからなり前記半導体発光部から発せられる光により励起されるとドナー・アクセプタ・ペア発光により可視光を発するポーラスSiC部と、前記ポーラスSiC部の表面を覆い窒化物からなる保護膜と、を有する発光ダイオード素子の製造方法であって、
ドナー及びアクセプタが添加されたバルク状の単結晶6H型SiCに電極を形成する電極形成工程と、
前記電極が形成された単結晶6H型SiCに対して、陽極酸化を行って前記ポーラスSiC部を形成する陽極酸化工程と、
前記ポーラスSiC部を、表面清浄化のために、所定温度で熱処理する表面清浄工程と、
表面清浄化が行われた前記ポーラスSiC部に、保護膜形成ために、850℃以下で熱処理する保護膜形成工程と、を含み、
前記表面清浄工程と前記保護膜形成工程とは同一容器内で連続的に行われ、
前記保護膜形成工程の後、前記ポーラスSiC部を含むSiC基板にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる発光ダイオード素子の製造方法。
前記発光ダイオード素子は、N及びBが添加されたバルク状の単結晶6H型SiCからなり、前記半導体発光層から発せられる光により励起されると前記ポーラスSiC部より波長の長い可視光を発するバルクSiC部を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
前記陽極酸化工程にて、前記単結晶6H型SiCと反応させる溶液として、酸化補助剤が加えられたフッ化水素酸水溶液を用いる請求項1から6のいずれか1項に記載の発光ダイオード素子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体のpn接合による発光素子として、LED(発光ダイオード)が広く実用化され、主に、光伝送、表示及び特殊照明用途に用いられている。近年、窒化物半導体と蛍光体を用いた白色LEDも実用化され、今後は一般照明用途への展開が大いに期待されている。しかし、白色LEDにおいては、エネルギー変換効率が既存の蛍光灯と比較して不十分のため、一般照明用途に対しては大幅な効率改善が必要である。さらに、高演色性、低コスト且つ大光束のLEDの実現のためには多くの課題が残されている。現在市販されている白色LEDとして、リードフレームに実装された青色発光ダイオード素子と、この青色発光ダイオード素子に被せられYAG:Ceからなる黄色蛍光体層と、これらを覆いエポキシ樹脂等の透明材料からなるモールドレンズと、を備えたものが知られている。この白色LEDでは、青色発光ダイオード素子から青色光が放出されると、黄色蛍光体を通り抜ける際に青色光の一部が黄色光に変換される。青色と黄色は互いに補色の関係にあることから、青色光と黄色光が交じり合うと白色光となる。この白色LEDでは、効率改善や演色性向上のため、青色発光ダイオード素子の性能向上等が求められている。
【0003】
青色発光ダイオード素子として、n型のSiC基板上に、AlGaNからなるバッファ層、n−GaNからなるn型GaN層、GaInN/GaNからなる多重量子井戸活性層、p−AlGaNからなる電子ブロック層、p−GaNからなるp型コンタクト層が、SiC基板側からこの順で連続的に積層されたものが知られている。さらに、p型コンタクト層の表面にp側電極が形成されるとともに、SiC基板の裏面にn側電極が形成され、p側電極とn側電極との間に電圧を印加して電流を流すことにより、多重量子井戸活性層から青色光が放出される。この青色発光ダイオード素子では、SiC基板に導電性があるため、サファイア基板を用いた青色発光ダイオード素子と異なり、上下に電極を配置することができ、製造工程の簡略化、電流の面内均一性、チップ面積に対する発光面積の有効利用等を図ることができる。
【0004】
さらに、蛍光体を利用することなく、単独で白色光を生成する発光ダイオード素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この発光ダイオード素子では、前述の青色発光ダイオード素子のn型のSiC基板に代えて、B及びNをドープした第1SiC層と、Al及びNをドープした第2SiC層を有する蛍光SiC基板が用いられ、多重量子井戸活性層から近紫外光が放出される。近紫外光は、第1SiC層及び第2SiC層にて吸収され、第1SiC層にて緑色から赤色の可視光に、第2SiC層にて青色から赤色の可視光にそれぞれ変換される。この結果、蛍光SiC基板から演色性が高く太陽光に近い白色光が放出されるようになっている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の発光ダイオード素子では、第2SiC層にBが混入すると、Al及びNの不純物準位間での発光の少なくとも一部が消失して、B及びNの不純物準位間で発光し、所期の発光特性が得られないおそれがある。Bが高濃度に添加された蛍光SiC基板を用いると、SiC層の成長中に一旦分解したBが第2SiC層に取り込まれたり、結晶中を固相拡散して第2SiC層に混入したりするため、第2SiC層へのBの混入を完全に阻止することは困難である。
【0006】
そこで、本願発明者らにより、N及びBが添加されたポーラス状の単結晶6H型SiCからなり、半導体発光部から発せられる光により励起されると可視光を発するポーラスSiC部を有する発光ダイオード素子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この発光ダイオード素子によれば、6H型SiCにAlをドープすることなく、B及びNがドープされた通常の6H型SiCの発光波長域よりも短波長側の発光を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から
図5は本発明の一実施形態を示すものであり、
図1は発光ダイオード素子の模式断面図である。
【0024】
図1に示すように、発光ダイオード素子100は、SiC基板102と、SiC基板102上に形成される窒化物半導体層と、を備えている。半導体発光部としての窒化物半導体層は、熱膨張係数が5.6×10
−6/℃であり、バッファ層104、n型層106、多重量子井戸活性層108、電子ブロック層110、p型クラッド層112、p型コンタクト層114をSiC基板102側からこの順に有している。p型コンタクト層114上にはp側電極116が形成され、SiC基板102の裏面側にn側電極118が形成されている。
【0025】
SiC基板102は、単結晶6H型SiCからなり、熱膨張係数が4.2×10
−6/℃である。SiC基板102は、N及びBが添加されたバルク状の単結晶6H型SiCからなるバルク層122と、N及びBが添加されたポーラス状の単結晶6H型SiCからなるポーラス層124と、を有している。尚、ここでいうバルク状とは、内部にて他の物質との界面が存在しない状態または界面が存在したとしても物性値の変化が無視できる程度の状態をいう。また、ここでいうポーラス状とは、多孔質状に形成されて内部にて雰囲気との界面が存在する状態をいう。
【0026】
バルクSiC部としてのバルク層122は、紫外光により励起されると、ドナー・アクセプタ・ペア発光により、おおよそ黄色から橙色の可視光を発する。バルク層122は、例えば、500nm〜650nmにピークを有する500nm〜750nmの波長の光を発する。本実施形態においては、バルク層122は、ピーク波長が580nmの光を発するよう調整されている。バルク層122におけるB及びNのドーピング濃度は、10
15/cm
3〜10
19/cm
3である。ここで、バルク層122は、408nm以下の光により励起可能である。
【0027】
ポーラスSiC部としてのポーラス層124は、紫外光により励起されると、ドナー・アクセプタ・ペア発光により、おおよそ青色から緑色の可視光を発する。ポーラス層124は、例えば、400nm〜500nmにピークを有する380nm〜700nmの波長の光を発する。本実施形態においては、ポーラス層124は、ピーク波長が450nmの光を発するよう調整されている。ポーラス層124におけるB及びNのドーピング濃度は、10
15/cm
3〜10
19/cm
3である。ポーラス層124は、表面が保護膜により覆われており、雰囲気に直接的に曝されないようになっている。ここで、保護膜の形成にあたり、ポーラス層124は、850℃以下で熱処理が行われている。本実施形態においては、保護膜は窒化物により構成されている。
【0028】
バッファ層104は、SiC基板102上に形成され、AlGaNで構成されている。本実施形態においては、バッファ層104は、後述するn型層106等よりも低温にて成長されている。n型層106は、バッファ層104上に形成され、n−GaNで構成されている。
【0029】
多重量子井戸活性層108は、n型層106上に形成され、GalnN/GaNで構成され、電子及び正孔の注入により例えば励起光を発する。本実施形態においては、多重量子井戸活性層108は、Ga
0.95ln
0.05N/GaNからなり、発光のピーク波長は385nmである。尚、多重量子井戸活性層108におけるピーク波長は任意に変更することができる。
【0030】
電子ブロック層110は、多重量子井戸活性層108上に形成され、p―AIGaNで構成されている。p型クラッド層112は、電子ブロック層110上に形成され、p−AlGaNで構成されている。p型コンタクト層114は、p型クラッド層112上に形成され、p−GaNで構成されている。
【0031】
バッファ層104からp型コンタクト層114までは、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長により形成される。尚、第1導電型層、活性層及び第2導電型層を少なくとも含み、第1導電型層及び第2導電型層に電圧が印加されると、電子及び正孔の再結合により活性層にて光が発せられるものであれば、窒化物半導体層の層構成は任意である。
【0032】
p側電極116は、p型コンタクト層114上に形成され、例えばNi/Auからなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。n側電極118は、SiC基板102に形成され、例えばTi/Al/Ti/Auからなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0033】
次いで、
図2から
図5を参照して発光ダイオード素子100の製造方法について説明する。
図2はオーミック電極が形成されたSiC基板の模式断面図である。
【0034】
まず、昇華法によりB及びNがドープされたバルク状の単結晶6H型SiCを生成し、バルク層122からなるSiC基板102を作製する(バルクSiC準備工程)。尚、SiC結晶のB及びNのドーピング濃度は、結晶成長時の雰囲気ガス中への不純物ガスの添加および原料粉末への不純物元素またはその化合物の添加により制御することができる。SiC基板102の厚さは任意であるが、例えば250μmである。尚、このSiC基板102は、昇華法のバルク成長により30mm程度のバルク結晶を作製しておき、外周研削、スライス、表面研削、表面研磨等の工程を経て作製されている。
【0035】
そして、
図2に示すように、SiC基板102の一面にオーミック電極201を形成する(電極形成工程)。本実施形態においては、オーミック電極201は、Niからなり、スパッタ法により堆積した後、熱処理が施される。オーミック電極201の厚さは任意であるが、例えば100nmであり、例えば1000℃程度で熱処理される。ここで、SiC基板102の(0001)Si面側にポーラス層124を形成する場合、オーミック電極201をC面に形成することとなる。尚、C面側にポーラス層124を形成する場合は、オーミック電極201をSi面に形成すればよい。
【0036】
図3はSiC基板をポーラス化する陽極酸化装置の説明図である。
図3に示すように、陽極酸化装置200は、SiC基板102が載置されるステンレス板202と、ステンレス板202の上方に配置されSiC基板102の直上に形成された開口204を有するテフロン(登録商標)容器206と、容器206の内部に配置される白金ワイヤ208と、SiC基板102及び白金ワイヤ208に電圧を印加する直流電源210と、を備えている。容器206は、耐フッ酸性シート212を介してステンレス板202の上に設けられ、内部が溶液214で満たされている。また、容器206は、内部へ紫外光218を入射可能な開口216が上部に形成されている。
【0037】
本実施形態においては、溶液214は、フッ化水素酸を純水で希釈したフッ化水素酸水溶液で、酸化補助剤としての硝酸が加えられたものである。フッ化水素酸の濃度は任意であるが、例えば質量濃度で1%以上20%以下とすることができる。フッ化水素酸の溶媒として、水以外にエタノール等を用いることもできる。また、硝酸を加えるか否かは任意であるし、加える場合の濃度も任意であるが、例えば3mol/l以下とすることができる。硝酸は、SiC結晶の化学的酸化反応を促進する働きを持っていることから、陽極酸化にてポーラス層124の形成を促進することができる。尚、酸化補助剤として、硝酸以外に、硫酸、過硫酸カリウム等を用いることができる。
【0038】
この陽極酸化装置200にて、SiC基板102をバルク層122が溶液214と接触する状態で、直流電源210によりオーミック電極201にプラスの電圧を印加して、SiC基板102と白金ワイヤ208の間に電流を流す。電流が流れ始めると、SiC基板102の表面から内部へ向かって、下記の化学反応が進行する。
【0039】
SiC+6OH
− → SiO
2+CO
2+2H
2O+2H
++8e
−・・・(1)
SiO
2+6F
−+2H
+ → H
2SiF
6+2H
2O+4e
−・・・(2)
【0040】
SiCは酸化反応によりSiO
2とCO
2に変化し、SiO
2はさらにフッ素イオンによって水溶性のH
2SiF
6に変化して溶液に融解する。CO
2は気体であることから、そのまま気化によって消失する。この反応は、SiC原子結合の比較的弱い方向へ進行し、SiC基板102の表面に対して所定角度だけ傾いた方向に空洞が形成される。これにより。ポーラス層124の結晶は繊維状となる。
【0041】
図4はポーラス層が形成されたSiC基板の模式断面図、
図5は作製したポーラス層の断面の電子顕微鏡写真である。
図4に示すように、陽極酸化反応により、バルク層122の表面側からポーラス層124が形成されていく(陽極酸化工程)。尚、
図4には、ポーラス層124を形成した後に、オーミック電極201を除去したSiC基板102を図示している。また、
図5に示すように、実際に得られたポーラス層124においても、規則性のある空洞が断面を横切っていることがわかる。このように形成された繊維状のポーラス層124の結晶サイズは、幅寸法が50nm以下である。尚、この幅寸法は、ポーラス層124における平均値である。ここで、SiC基板102の(0001)Si側面にて反応が進行する場合は、表面に対して54度傾いた方向に空洞が形成される。
【0042】
尚、SiC基板102における電流密度は任意であるが、電流値が高すぎると、ポーラス層124における空隙がSiC基板102表面に対して垂直方向に近づき、またその形状が不均一なものとなるため、電流密度は低い方が望ましい。具体的には、電流密度は、10mA/cm
2以下が望ましく、典型的には6mA/cm
2である。ポーラス層124の厚さは陽極酸化の時間に比例し、本実施形態においては50μmとしてある。
【0043】
また、硝酸を付加することにより、上式(1)の反応が促進され、ポーラス層124における空洞の数を多くすることができる。これにより、残留してポーラス層124を構成する結晶の平均サイズを小さくすることができる。
【0044】
本実施形態においては、ポーラス層124を形成した後、SiC基板102の熱処理を行う(表面清浄工程)。具体的には、水素雰囲気中にて850℃以下で熱処理を行うことにより、ポーラス層124の結晶表面に過剰に析出しているCを除去する。
【0045】
本実施形態においては、ポーラス層124の表面清浄工程の後、保護膜の形成を行う(保護膜形成工程)。具体的には、水素とアンモニアの雰囲気中にて850℃以下で熱処理を行うことにより、清浄な結晶の表面上にSi
3N
4の保護膜を形成することができ、ポーラス層124の表面準位を安定的に低減させることができる。尚、ポーラス層124の結晶表面上にCが析出しないようにするため、表面清浄工程と保護膜形成工程とは同一容器内で連続的に行うことが好ましい。
【0046】
このようにして、
図4に示すようなポーラス層124を有するSiC基板102が作製される。この後、SiC基板102にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる。本実施形態においては、例えば有機金属化合物気相成長法によってAlGaNからなるバッファ層104を成長させた後、n−GaNからなるn型層106、多重量子井戸活性層108、電子ブロック層110、p型クラッド層112及びp型コンタクト層114を成長させる。窒化物半導体層を形成した後、各電極116,118を形成し、ダイシングにより複数の発光ダイオード素子100に分割することにより、発光ダイオード素子100が製造される。ここで、
図4に示すSiC基板102は、発光ダイオード素子100の基板とせずに、蛍光体板として利用することも可能である。
【0047】
以上のように構成された発光ダイオード素子100は、p側電極116とn側電極118に電圧を印加すると、多重量子井戸活性層108から紫外光が放射状に発せられる。多重量子井戸活性層108から発せられる紫外光のうち、p側電極116へ向かうものについては、大部分がp側電極116にて反射してSiC基板102へ向かう。従って、多重量子井戸活性層108から発せられた光は、殆どがSiC基板102へ向かうこととなる。
【0048】
SiC基板102へ入射した紫外光は、ポーラス層124にて青色から緑色の第1可視光に変換され、残りがバルク層122にて黄色から橙色の第2可視光に変換される。このように、ポーラス層124が短波長側の発光成分を有し、バルク層122が長波長側の発光成分を有するので、演色性が高い白色光を得ることができる。この光は、太陽光に似た白色光として、SiC基板102から外部へ放出される。
【0049】
このように、本実施形態の発光ダイオード素子100によれば、ポーラス層124にて、6H型SiCにAlをドープすることなく、B及びNがドープされたバルク状の6H型SiCの発光波長域よりも短波長側の発光を得ることができる。従って、SiC基板102にドープする元素をB及びNのみとし、SiC基板102の作製を簡単容易に行うことができ、SiC基板102の作製コスト、ひいては発光ダイオード素子100の製造コストを低減することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、ポーラス層124が作製されたSiC基板102を、水素雰囲気中で熱処理を行った後、水素及びアンモニア雰囲気中で熱処理を行い、ポーラス層124の表面に保護膜を形成したので、表面準位密度を大幅に低減することができる。これにより、ポーラス層124において、表面再結合による非発光再結合の割合が増大し、ドナー・アクセプタ・ペアの再結合確率が低下して発光強度が低下することを防止することができる。ポーラス層124においては、ポーラス化により結晶の平均サイズが小さくなればなるほど、表面再結合による非発光再結合の割合が増大するため、保護膜による効果が大きくなる。特に、繊維状の結晶の平均サイズが50nm以下である場合に、保護膜による効果が顕著となる。
【0051】
ここで、ポーラスSiCの保護膜形成時に、例えば1000℃超の高温で処理すると、窒化反応が進みすぎてSiCが消失して、発光が得られなくなる。本実施形態においては、窒化処理の温度をポーラスSiCに好適な850℃以下としたので、窒化反応の過剰な進行を抑制することができる。尚、バルク状態のSiCの熱処理温度は、1000℃から1300℃が一般的である。これは、バルク結晶の場合、最も化学的に安定な(0001)面のみを持っているからである。ポーラス結晶の場合、(0001)面ではないため、1000℃超とするかえって反応が進みすぎてしまう。
【0052】
尚、前記実施形態においては、SiC基板102のポーラス層124を形成してから、SiC基板102上に半導体層を積層するものを示したが、SiC基板102上に半導体層を積層した後にポーラス層124を形成するようにしてもよい。例えば、
図6に示すように、バルク層122からなるSiC基板102を作製し、SiC基板102上にIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させ、p側電極116を形成してしまう。そして、前記実施形態のオーミック電極201の代わりにp側電極116を利用してSiC基板102の陽極酸化を行うことにより、
図7に示すように、SiC基板102にポーラス層124を形成するようにしてもよい。
図7の発光ダイオード素子300は、SiC基板102の半導体層の成長面と反対側にポーラス層124を有している。さらには、SiC基板102にオーミック電極201を形成せず、導体基板を貼り付けて陽極酸化を行うようにしてもよい。そして、導体基板上に半導体層を形成して発光ダイオード素子とすることもできる。
【0053】
また、前記実施形態においては、昇華再結晶によりバルク状のSiC基板102を得るものを示したが、CVD法等によりSiC基板102を得るようにしてもよい。また、SiCのポーラス化を陽極酸化により行うものを示したが、ポーラス化の方法は任意であり、例えば気相エッチングにより行ってもよい。
【0054】
また、前記実施形態においては、ポーラス化したSiCを発光ダイオード素子100の基板として用いるものを示したが、光源と別個の蛍光体として利用することもできる。B及びNを添加したポーラス状の単結晶6H型SiCは、粉末状として利用してもよいし、波長変換用の蛍光板として利用することもできる。また、ポーラス化したSiCは、可視光のみならず紫外光を発するものとして利用することも可能である。
【0055】
また、前記実施形態においては、バルク層122とポーラス層124を有するSiC基板102を用いて、白色光を発する発光ダイオード素子100を示したが、例えば、ポーラス層124のみを有するSiC基板102として例えば緑色光を発する発光ダイオード素子としてもよい。また、前記実施形態においては、ポーラス層124がバルク層122の表面側の全領域にに形成されているものを示したが、ポーラス層124がバルク層122の表面側の一部の領域に形成されているものであってもよい。また、バルク層122の一部をポーラス化してポーラス層124を形成するものを示したが、バルク層122を有するSiCと、ポーラス層124を有するSiCとが別個に形成されているものであってもよい。
【0056】
また、表面清浄工程、保護膜形成工程等の具体的条件も適宜に変更可能であることは勿論である。さらに、ドナー及びアクセプタとして、N及びBを用いたものを示したが、他の元素であってもよいことは勿論である。
【0057】
次に、
図8から
図10を参照して、熱処理が施されたポーラス状の単結晶6H型SiCの実施例について説明する。
昇華法によりB及びNがドーピングされた単結晶6H型SiCを作製し、陽極酸化によりポーラス化した試料体を複数作製した。ここで、SiC中のB及びNの濃度は、安定した発光が得られるように、Bの濃度については2×10
18/cm
3とし、Nの濃度については4×10
18/cm
3とした。陽極酸化にあたり、フッ化水素酸水溶液は質量濃度で5%とした。ここで、陽極酸化は、電流密度を6mA/cm
2、通電時間を200分、得られるポーラス状SiCの厚さが20μmの条件により行った。また、表面清浄工程では、水素雰囲気中にて850℃で5分間熱処理を行った。この後の保護膜形成工程では、水素及びアンモニア雰囲気中にて850℃で10分間熱処理を行った。
【0058】
図8は、試料体1の発光波長と発光強度を示すグラフである。尚、
図8中には、ポーラス化前のバルクSiCと、ポーラス化直後のポーラスSiCと、表面清浄工程及び保護膜形成工程にて熱処理後のポーラスSiCの発光波長及び発光強度を示している。
試料体1は、フッ化水素酸水溶液に酸化補助剤を加えずに作製した。
図8に示すように、ポーラス化直後は発光強度の低下が著しく、熱処理により発光強度が回復している。また、発光ピーク波長は、ポーラス化前が610nmであったのに対し、ポーラス化直後に470nmとなり、熱処理により595nmとなった。尚、熱処理によりピーク波長が595nmとなっているが、短波長側の発光強度はポーラス化前によりも向上しており、熱処理後もポーラス化前よりも短波長側の発光強度が向上している。
【0059】
図9は、試料体1の発光波長と発光強度を示すグラフである。尚、
図9中には、熱処理後の経過時間が、0分、3分、5分、10分、20分、60分の発光波長及び発光強度を示している。
図9に示すように、試料体1については、熱処理後、時間経過とともに発光強度が向上したことが確認された。
【0060】
次に、試料体1と表面清浄工程及び保護膜形成工程の熱処理温度を変えて、試料体2及び3を作成した。試料体2は熱処理の温度を900℃とし、試料体3は熱処理の温度を1100℃とした。
図10は、試料体1〜3の保護膜形成後の経過時間と発光強度を示すグラフである。尚、
図10中、試料体1及び3については全波長領域の発光強度としている。また、試料体2については、波長408nmにおける発光強度と、670nmにおける発光強度を別々に表している。
【0061】
図10に示すように、850℃で熱処理した試料体1は、時間経過とともに発光強度が増大する。これに対し、1100℃で熱処理した試料体3は、時間経過とともに発光強度が低下する。また、900℃で熱処理した試料体2は、波長670nmでは時間経過とともに発光強度が低下し、波長408nmでは時間経過で発光強度は殆ど変化しない。従って、850℃以下であれば、全波長域で経時的に発光強度が向上することが理解される。
【0062】
次いで、表面清浄化を行わず有機溶剤を用いて保護膜を形成した試料体4及び5を作成した。試料体4は、ポーラス化まで試料体1と同様の条件で行った後、有機溶剤としての1−デセンに、90℃に保持したまま12時間含浸させて保護膜を形成した。試料体5は、ポーラス化の陽極酸化にあたり、質量濃度5%のフッ化水素酸と質量濃度2%の硝酸を含む水溶液を用い、有機溶剤としての1−デセンに、90℃に保持したまま12時間含浸させて保護膜を形成した。
【0063】
図11は、試料体4、5の保護膜形成後の経過時間と発光強度を示すグラフである。尚、
図11中、試料体4については、保護膜形成前と保護膜形成後について表している。試料体5については、保護膜形成後のものである。
図11に示すように、試料体4では、保護膜の形成により経時劣化が抑制される。また、試料体5では、時間経過で発光強度は殆ど変化しない。従って、酸化補助剤として硝酸を加えて陽極酸化を行うと、経時劣化が効果的に抑制されることが理解される。
【0064】
ここで、ポーラス化時の水溶液に硝酸を加えた試料体5では、試料体4に対してピーク波長が短波長化するとともに発光強度が増大した。これは、量子サイズ効果によるものであると考えられる。
【0065】
図12は、ドナー・アクセプタ・ペア発光を説明するための図であり、(a)はバルク結晶中の状態を示し、(b)はポーラス結晶中の状態を示す。
ドナー・アクセプタ・ペアの再結合による遷移エネルギーE
DAは、一般に、
E
DA=E
g−(E
D+E
A)+e
2/εR
DA
で表される。ここで、E
gは結晶のバンドギャップエネルギー、E
Dはドナーのイオン化エネルギー、E
Aはアクセプタのイオン化エネルギー、eは電子電荷、εは誘電率、R
DAは平均的なドナー・アクセプタ間距離である。結晶サイズが小さくなることにより、一般に知られているとおりE
gが大きくなる。また、ドナー、アクセプタ間の実際の距離は不変であるが、ドナーに捕獲された電子や、アクセプタに捕獲された正孔は、各々の不純物を中心にボーア半径を持つ軌道を周回しているため、
図12(b)に示すようにその軌道は結晶サイズ縮小の影響を受ける。
【0066】
バルク結晶の場合には、
図12(a)に示すように、ドナーに捕獲された電子とアクセプタに捕獲された正孔はともに各々の不純物を中心に球状の軌道を描いて周回している。そして、電子と正孔の軌道の重なりがドナー・アクセプタ・ペアの再結合確率に比例する。
一方、ポーラス結晶では、
図12(b)に示すように、結晶が部分的に消失するために、ドナーに捕獲された電子とアクセプタに捕獲された正孔が球状を維持できなくなり、不純物が重心からずれた楕円球状の軌道となる。その結果、両者の軌道の重なりが大きくなり、再結合確率が増加する。そして、ポーラス化前においては上式のR
DAはR1
DAであったところ、ポーラス化によりR
DAは、実質的にはR1
DAより小さなR2
DAとなる。これにより、ポーラス化によって遷移エネルギーは一層大きくなる。