(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被膜の厚みをシミュレーションする際には、ワークを複数の要素に分割した解析モデルを作成するだけでなく、処理槽内の処理液を複数の要素に分割した解析モデルを作成する必要がある。しかしながら、複数のパネルで構成される車体等のワークには、処理液が浸入する微小な隙間が多数存在している。このため、処理槽内の処理液をモデル化する際に、単に処理槽に沈められるワーク以外の領域を処理液とみなし、この処理液の領域の全てを複数の要素に分割することは、解析モデルの要素数を著しく増大させる要因となる。このような要素数の増大は、解析モデルの作成やその後の数値解析のコストを増大させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、解析モデルの要素数を減らしてコストを削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモデル作成方法は、コンピュータによって実行され、ワークが浸漬処理される処理槽内の処理液を複数の要素に分割して解析モデルを作成するモデル作成方法であって、前記処理槽内で前記ワークが占める領域を非処理液領域として設定するとともに、それ以外の領域を処理液が占める処理液領域として設定する初期領域設定ステップと、前記ワークを構成するパネル間の隙間寸法を計算し、前記パネル間に区画される前記処理液領域のうち前記隙間寸法が基準値を下回る領域を前記非処理液領域として更新する領域更新ステップと、前記領域更新ステップを経て残存する前記処理液領域を複数の要素に分割して前記解析モデルを作成する要素分割ステップと有することを特徴とする。
【0007】
本発明のモデル作成方法は、前記隙間寸法と比較される前記基準値を、前記処理液が流入する前記ワークの開口部からの距離に応じて変化させることを特徴とする。
【0008】
本発明のモデル作成方法は、前記ワークは電着塗装される車体であることを特徴とする。
【0009】
本発明のモデル作成プログラムは、コンピュータ
に、ワークが浸漬処理される処理槽内の処理液を複数の要素に分割して解析モデルを作成
させるためのモデル作成プログラムであって、
前記コンピュータに、前記処理槽内で前記ワークが占める領域を非処理液領域として設定するとともに、それ以外の領域を処理液が占める処理液領域として設定する初期領域設定ステップと、前記ワークを構成するパネル間の隙間寸法を計算し、前記パネル間に区画される前記処理液領域のうち前記隙間寸法が基準値を下回る領域を前記非処理液領域として更新する領域更新ステップと、前記領域更新ステップを経て残存する前記処理液領域を複数の要素に分割して前記解析モデルを作成する要素分割ステップと
、を実行させる、ことを特徴とする。
【0010】
本発明のモデル作成プログラムは、前記隙間寸法と比較される前記基準値を、前記処理液が流入する前記ワークの開口部からの距離に応じて変化させることを特徴とする。
【0011】
本発明のモデル作成プログラムは、前記ワークは電着塗装される車体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、処理液領域のうちパネル間の隙間寸法が基準値を下回る領域を非処理液領域として更新し、この領域更新ステップを経て残存する処理液領域を複数の要素に分割して解析モデルを作成している。これにより、処理液領域を削減することができるため、解析モデルの要素数を削減することが可能となり、コストを削減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は電着塗装工程を示す概略図である。
図1に示すように、複数のパネルによって構成される車体(ワーク)10に対して電着塗装(浸漬処理)を施すため、電着塗装工程には電着液(処理液)11を溜めた電着槽(処理槽)12が設置されている。また、電着槽12の上方にはレール13が設置されており、このレール13を走行するハンガー14には車体10が吊り下げられている。また、レール13に沿ってバスバー15が設置されており、電着槽12の底部には電極16が設置されている。さらに、電着塗装工程には電源装置17が設置されており、電源装置17の負極端子はバスバー15およびハンガー14を介して車体10に接続される一方、電源装置17の正極端子は電極16に接続されている。この電着塗装工程においては、電着槽12に沈められた車体10と電極16との間で通電が為され、車体10のアウタパネルやインナパネルに塗膜が形成される。また、車体10の防錆性能を確保するためには、塗膜の厚み(塗膜厚)が所定値を超えることが必要となっている。この塗膜厚は車体構造の影響を受けることから、車体10の設計段階で電着塗装シミュレーションを実行することにより、適切な塗膜厚が得られる車体構造であるか否かを事前に判断することが重要となっている。
【0015】
続いて、本発明のモデル作成技術を用いた電着液解析モデルM2の作成手順について説明した後に、この電着液解析モデルM2を用いた電着塗装シミュレーションについて説明する。ここで、
図2は解析装置20を示すブロック図である。この解析装置20はモデル作成装置として機能しており、解析装置20によって本発明の一実施の形態であるモデル作成方法やモデル作成プログラムが実行される。
図2に示すように、パーソナルコンピュータ等によって構成される解析装置(コンピュータ)20は、CPUやメモリ等によって構成される演算装置21、キーボード等の入力装置22、液晶ディスプレイ等の表示装置23、磁気ディスク等の記憶装置24を備えている。この解析装置20は、パーソナルコンピュータ等の単一のコンピュータを用いて構成しても良く、ネットワークを介して相互に接続される複数のコンピュータを用いて構成しても良い。
【0016】
解析装置20が備える記憶装置24には、車体10を複数の要素で分割した車体解析モデルM1が格納されている。ここで、
図3は車体解析モデルM1を示す概略図である。
図3の拡大部分に示すように、車体解析モデルM1は、車体10の表面形状を表す複数の要素と、要素の頂点に設けられる節点とによって構成されている。この車体解析モデルM1については、車体解析モデルM1を構成するパネル部材の番号データ、各パネル部材が備える要素や節点の番号データ、要素や節点を表す座標データ等の形で記憶装置24に格納されている。なお、車体解析モデルM1としては、衝突変形シミュレーション等に用いられる車体解析モデルを流用することが可能である。
【0017】
また、演算装置21にはモデル作成部25が設けられており、このモデル作成部25によって電着液11を複数の要素で分割した電着液解析モデル(解析モデル)M2が作成される。この電着液解析モデルM2は、電着塗装シミュレーションにおいて、電着槽12内の電位分布を計算する際に用いられる解析モデルとなっている。ここで、
図4は電着液解析モデルM2の作成手順の一例を示すフローチャートである。また、
図5(a)および(b)は電着液解析モデルM2の作成過程を概略的に示す説明図である。さらに、
図6は完成した電着液解析モデルM2を概略的に示す説明図である。なお、説明を容易にするため、
図5には簡略化した車体10の一部が示されている。
図5に示される車体10の一部は、対向するパネルP1,P2の一端部が互いに接続されて他端部が開放された形状となっている。
【0018】
図4に示すように、ステップS1では車体解析モデルM1が読み込まれ、ステップS2では電着槽データが読み込まれる。なお、電着槽データとしては、電着槽形状および電極形状を示す座標データ、電着液11の深さデータ、沈められる車体10の位置データ等が記憶装置24に格納されている。続いて、ステップS3では、車体解析モデルM1および電着槽データに基づいて、電着槽12内で車体10が占めるワーク領域(非処理液領域)A1と、電着槽12内で電着液11が占める電着液領域(処理液領域)A2とが設定される(初期領域設定ステップ)。すなわち、
図5(a)に示すように、電着槽12内で車体10が占めるハッチング領域がワーク領域A1として設定され、それ以外の白抜き領域が電着液領域A2として設定される。なお、ステップS3において設定されるワーク領域A1の形状は、車体解析モデルM1の形状と一致している。
【0019】
次いで、ステップS4では、電着液解析モデルM2を作成する際の要素数が設定される。なお、ステップS4においては、予め設定された要素数を読み込んでも良く、作業者に対して要素数の入力を求めても良い。続いて、ステップS5では、
図5(a)に示すように、車体10を構成するパネルP1,P2間の隙間寸法GapがパネルP1,P2の各部で計算される。そして、続くステップS6では、各部の隙間寸法Gapと所定の基準値G0(例えば2mm)とを比較し、ワーク領域A1と電着液領域A2との境界が更新される(領域更新ステップ)。
図5(a)に符号αで示すように、隙間寸法Gapが基準値G0以上となる範囲においては、
図5(b)に示すように、パネルP1,P2間に区画される領域が電着液領域A2のまま維持される。一方、
図5(a)に符号βで示すように、隙間寸法Gapが基準値G0を下回る範囲においては、
図5(b)に示すように、パネルP1,P2間に区画される領域が電着液領域A2からワーク領域A1に変換される。すなわち、パネルP1,P2間の隙間寸法Gapが基準値G0以上となる部位では、パネルP1,P2間の広い隙間に対して電着液11が流入することから、パネルP1,P2間の領域が電着液領域A2のまま維持されることになる。一方、パネルP1,P2間の隙間寸法Gapが基準値G0を下回る部位では、パネルP1,P2間の狭い隙間に対して電着液11が流入しないことから、パネルP1,P2間の領域が電着液領域A2からワーク領域A1に変換されることになる。
【0020】
このように、ステップS6において、隙間寸法Gapに基づきワーク領域A1と電着液領域A2との境界が更新されると、ステップS7に進み、電着液解析モデルM2を構成する要素サイズが設定される。なお、ステップS6においては、予め設定された要素サイズを読み込んでも良く、作業者に対して要素サイズの入力を求めても良い。続いて、ステップS8では、ステップS6を経て残存する電着液領域A2を、
図6(a)に示すように、設定された要素数や要素サイズに基づいて複数の要素に分割して電着液解析モデルM2を作成する(要素分割ステップ)。次いで、ステップS9に進み、要素形状等に基づいて電着液解析モデルM2の要素品質が確認される。ステップS9において、要素品質が所定レベルを満たしていないと判断された場合には、ステップS10に進み、設定された要素数を超えない範囲で要素サイズが縮小される。そして、要素品質が所定レベルに達するまで、要素サイズを縮小しながら電着液領域A2が複数の要素に分割され、新たな電着液解析モデルM2が作成される。
【0021】
このように、電着液解析モデルM2が作成されると、解析装置20は電着塗装シミュレーションを実行する。演算装置21には塗膜厚計算部26が設けられており、この塗膜厚計算部26によって車体解析モデルM1に析出する塗膜厚Xが算出される。ここで、
図7は塗膜厚Xを算出する手順の一例を示すフローチャートである。また、
図8(a)〜(c)は塗膜厚Xを算出する過程を概略的に示す説明図である。なお、塗膜厚Xの算出手順自体は周知技術であり、
図7および
図8を用いて概略的に説明する。
【0022】
図7に示すように、ステップS11では初期設定が行われる。このステップS11では、車体解析モデルM1および電着液解析モデルM2が読み込まれ、解析する上で必要となる境界条件や計算条件等が設定される。続いて、ステップS12において時刻tをΔtだけ進行させ、ステップS13において時刻tでの境界条件(電極16電圧等)が更新される。そして、ステップS14では、有限体積法、有限要素法あるいは有限差分法等を用いて、所定の電位拡散方程式を解くことにより、
図8(b)に示すように、電着槽12内の電位分布が計算される。続いて、ステップS15では、電着槽12内の電位分布に基づいて、パネル表面に吸着する塗料の膜厚抵抗を考慮しながらパネル表面の電流密度が算出される。そして、ステップS16において、基礎実験等から予め確認されている電流密度と塗膜厚との予測式を用いることにより、パネル表面の電流密度に基づいてパネル表面の塗膜析出量ΔXが算出される。続いて、ステップS17では、前回の塗膜厚Xに今回の塗膜析出量ΔXを加えることにより、
図8(c)に示すように、現在の時刻tにおける塗膜厚Xが算出される。次いで、ステップS18において、現在の時刻tと解析終了時刻tENDとを比較することにより、塗膜厚Xの解析を終了させるか否かが判定される。ステップS18において、時刻tが解析終了時刻tENDに達したと判定された場合には、ステップS19に進み、塗膜厚Xを出力してルーチンを抜ける。一方、ステップS18において、時刻tが解析終了時刻tENDに達していないと判定された場合には、時刻tが解析終了時刻tENDに達するまで、ステップS12〜S17の手順が繰り返して実行される。なお、車体解析モデルM1の塗膜厚Xは、演算装置21のポスト処理部27を経て表示装置23に出力される。ポスト処理部27においては、例えば、塗膜厚Xを色相や濃淡等によって区分して表現する処理が実行される。
【0023】
これまで説明したように、本発明のモデル作成方法およびモデル作成プログラムにおいては、パネルP1,P2間の隙間寸法Gapに基づいて、微小隙間に設定される電着液領域A2をワーク領域A1に変更したので、電着液領域A2を削減することができ、電着液解析モデルM2の要素数を削減することが可能となる。ここで、
図9(a)は本発明のモデル作成技術を用いて作成された電着液解析モデルM2の一例を示す概略図であり、
図9(b)は従来の手順によって作成された電着液解析モデルの一例を示す概略図である。なお、
図9(a)は
図5(b)に示した電着液領域A2を要素分割して得られる電着液解析モデルM2となっており、
図9(b)は
図5(a)に示した電着液領域A2を要素分割して得られる電着液解析モデルとなっている。
【0024】
図9(a)に示すように、本発明のモデル作成技術を用いて電着液解析モデルM2を作成した場合には、
図9(b)に符号αで示した領域の要素を削減することができ、電着液解析モデルM2を簡素化してシミュレーションコストを削減することが可能となる。さらに、
図9(a)および(b)に符号β,γで示すように、本発明においては従来よりも電着液解析モデルM2の要素サイズを大きく設定することが可能となる。すなわち、
図9(b)に符号αで示すように、微小隙間の電着液領域A2を分割した場合には、要素品質を確保するためには要素サイズを小さく設定する必要がある。このように、微小隙間を小さな要素で分割した場合には、
図9(b)に符号βで示すように、微小隙間に連続する他の領域についても要素を急に拡大することは困難となるのである。これに対し、
図9(a)に符号γで示すように、本発明のモデル作成技術を用いた場合には、微小隙間に対して電着液領域A2が設定されないことから、要素品質を確保しつつ要素サイズを大きく設定することが可能となっている。このように、電着液解析モデルM2の要素を大きく分割することができるため、電着液解析モデルM2の要素数を削減することが可能となり、電着液解析モデルM2を簡素化してシミュレーションコストを削減することが可能となる。しかも、パネルP1,P2間の微小隙間には電着液11が入り込まないため、この微小隙間の領域をワーク領域A1として設定しても電着塗装シミュレーションの精度を低下させることはない。
【0025】
前述の説明では、隙間寸法Gapと基準値G0とを比較することにより、ワーク領域A1および電着液領域A2を更新しているが、基準値G0としては固定値に限られることはなく、ワーク構造に応じて変化させても良い。ここで、
図10(a)および(b)は本発明の他の実施の形態であるモデル作成方法およびモデル作成プログラムによる電着液解析モデルの作成過程を概略的に示す説明図である。
図10(a)に示すように、車体10を構成するパネルP2には電着穴(開口部)30が形成されており、この電着穴30によって電着液11の流動性が高められている。このように、電着液11の流入を促す電着穴30が形成される場合には、以下の式(1)に基づいて基準値G2が設定される。また、式(1)において、G1とは予め設定される基準隙間であり、Lとは判定部位と電着穴30との距離である。さらに、式(1)の係数Kや変数Mは、
図10(a)に示すように、電着穴30の大きさDおよび電着穴30とパネルP1,P2との隙間G3に応じて設定される値となっている。なお、
図10(a)に示す一点鎖線αは、電着穴30からの距離L等に応じて変化する基準値G2を示している。
G2=G1−K×G1/L+M …(1)
【0026】
すなわち、
図10(a)に一点鎖線αで示すように、電着穴30に近い場合や電着穴30が大きい場合には、電着液11が流入し易いことから基準値G2が小さく設定される一方、電着穴30から離れる場合や電着穴30が小さい場合には、電着液11が流入し難いことから基準値G2が大きく設定されることになる。図示する場合には、符号βで示すように、パネルP1,P2間の隙間寸法Gapと基準値G2とが一致する部位に、ワーク領域A1と電着液領域A2との境界が設定されることになる。このように、ワーク構造に応じて基準値G2を変化させることにより、ワーク領域A1と電着液領域A2とを適切に設定することができ、電着液解析モデルの要素数を削減しつつ高精度のシミュレーション結果を得ることが可能となる。なお、前述の説明では、基準値G2の変動要因として電着穴30を挙げているが、
図10(a)に示すように、パネルP1,P2間に設けられる開口部31に基づいて基準値G2を変化させても良い。この場合には、開口部31の大きさに応じて基準値G2が変化したり、開口部31と判定部位との距離に応じて基準値G2が変化したりすることになる。
【0027】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、ワークとして車体10を挙げているが、これに限られることはなく、ワークとしてケース等の他の部品を用いても良い。さらに、図示する場合には、三角形の要素を用いて解析モデルを構成しているが、これに限られることはなく、四角形や五角形等の要素を用いて解析モデルを構成しても良い。なお、浸漬処理の一例として電着塗装を挙げて説明しているが、ワーク表面に金属層を形成するメッキ処理(浸漬処理)についてのシミュレーションを実行するため、本発明のモデル作成方法やモデル作成プログラムを用いても良い。