(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5774940
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】シミュレーション方法およびシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 17/50 20060101AFI20150820BHJP
C25D 13/22 20060101ALN20150820BHJP
C25D 21/12 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
G06F17/50 612H
G06F17/50 680Z
!C25D13/22 304
!C25D21/12 Z
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-173705(P2011-173705)
(22)【出願日】2011年8月9日
(65)【公開番号】特開2013-37561(P2013-37561A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080001
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100093023
【弁理士】
【氏名又は名称】小塚 善高
(74)【代理人】
【識別番号】100117008
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 章子
(72)【発明者】
【氏名】沈 建栄
【審査官】
松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−217697(JP,A)
【文献】
特開2008−171145(JP,A)
【文献】
国際公開第02/016675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
C25D 9/00 − 9/12
C25D 13/00 −21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって実行され、浸漬処理によってワークに形成される被膜の厚みが所定値を下回る場合に、前記ワークに追加される貫通穴の大きさを設定するシミュレーション方法であって、
前記ワークの解析モデルを構成する要素毎に、浸漬処理によって形成される前記被膜の厚みを計算する膜厚計算ステップと、
前記被膜の厚みが所定値を下回る膜厚不足領域を前記解析モデルから抽出し、前記膜厚不足領域毎に前記被膜の最も薄い前記要素を穴加工要素として抽出する要素抽出ステップと、
前記ワークの強度試験時に前記穴加工要素に作用する応力に基づいて、前記貫通穴の大きさを設定する貫通穴設定ステップとを有することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1記載のシミュレーション方法において、
前記貫通穴設定ステップにおいて、前記応力が小さい程に前記貫通穴は大きく設定される一方、前記応力が大きい程に前記貫通穴は小さく設定されることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のシミュレーション方法において、
前記貫通穴設定ステップにおいて、前記穴加工要素に前記貫通穴の加工位置が設定されることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法において、
前記貫通穴設定ステップによって設定された前記貫通穴を反映し、前記解析モデルを再構築するモデル構築ステップを有し、
前記解析モデルから前記膜厚不足領域が無くなるまで、前記膜厚計算ステップ、前記要素抽出ステップ、前記貫通穴設定ステップおよび前記モデル構築ステップが繰り返されることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシミュレーション方法において、
前記ワークは車体であり、前記応力は前記車体の衝突試験時に作用する応力であることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項6】
コンピュータに、浸漬処理によってワークに形成される被膜の厚みが所定値を下回る場合に、前記ワークに追加される貫通穴の大きさを設定させるためのシミュレーションプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記ワークの解析モデルを構成する要素毎に、浸漬処理によって形成される前記被膜の厚みを計算する膜厚計算ステップと、
前記被膜の厚みが所定値を下回る膜厚不足領域を前記解析モデルから抽出し、前記膜厚不足領域毎に前記被膜の最も薄い前記要素を穴加工要素として抽出する要素抽出ステップと、
前記ワークの強度試験時に前記穴加工要素に作用する応力に基づいて、前記貫通穴の大きさを設定する貫通穴設定ステップと、
を実行させる、ことを特徴とするシミュレーションプログラム。
【請求項7】
請求項6記載のシミュレーションプログラムにおいて、
前記貫通穴設定ステップにおいて、前記応力が小さい程に前記貫通穴は大きく設定される一方、前記応力が大きい程に前記貫通穴は小さく設定されることを特徴とするシミュレーションプログラム。
【請求項8】
請求項6または7記載のシミュレーションプログラムにおいて、
前記貫通穴設定ステップにおいて、前記穴加工要素に前記貫通穴の加工位置が設定されることを特徴とするシミュレーションプログラム。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載のシミュレーションプログラムにおいて、
前記コンピュータに、前記貫通穴設定ステップによって設定された前記貫通穴を反映し、前記解析モデルを再構築するモデル構築ステップ、を実行させ、
前記コンピュータに、前記解析モデルから前記膜厚不足領域が無くなるまで、前記膜厚計算ステップ、前記要素抽出ステップ、前記貫通穴設定ステップおよび前記モデル構築ステップを繰り返して実行させる、ことを特徴とするシミュレーションプログラム。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載のシミュレーションプログラムにおいて、
前記ワークは車体であり、前記応力は前記車体の衝突試験時に作用する応力であることを特徴とするシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬処理によってワークに形成される被膜の厚みが所定値を下回る場合に、ワークに追加される貫通穴の大きさを設定するシミュレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装やメッキ等においては、処理液を溜めた処理槽にワークを沈めて通電を施すことにより、ワーク表面に均一な塗膜や金属層等の被膜を形成することが可能となる。このような電着塗装等においては、所定の基準値以上の厚さで被膜を形成することが、ワークの防錆性能を確保する観点から重要となっている。また、ワークに形成される被膜の厚みは、ワーク構造等に起因するワーク表面の電流密度に左右されることから、設計段階において適切な被膜を得るためのワーク構造を把握することが重要となっている。そこで、事前に被膜の厚みを予測することにより、ワーク構造を検証するようにしたシミュレーション技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−41395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被膜の厚みが基準値に達しない場合には、被膜の厚みが不足する領域に貫通穴が追加される。この貫通穴を形成することにより、処理液の流動性を改善してワーク表面の電流密度を引き上げることができ、被膜の厚みを改善することが可能となる。この貫通穴の加工位置や大きさは、シミュレーションを繰り返しながら試行錯誤的に決定されており、開発コストを増大させる要因となっていた。また、ワークに貫通穴を追加することは、ワークの強度を低下させる要因となる。このため、被膜厚さの観点から決定した貫通穴について、再度、ワーク強度の観点から検証する必要があり、このことも開発コストを増大させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、開発コストを抑制しながらワークに追加する貫通穴の大きさを設定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシミュレーション方法は、コンピュータによって実行され、浸漬処理によってワークに形成される被膜の厚みが所定値を下回る場合に、前記ワークに追加される貫通穴の大きさを設定するシミュレーション方法であって、前記ワークの解析モデルを構成する要素毎に、浸漬処理によって形成される前記被膜の厚みを計算する膜厚計算ステップと、前記被膜の厚みが所定値を下回る膜厚不足領域を前記解析モデルから抽出し、前記膜厚不足領域毎に前記被膜の最も薄い前記要素を穴加工要素として抽出する要素抽出ステップと、前記ワークの強度試験時に前記穴加工要素に作用する応力に基づいて、前記貫通穴の大きさを設定する貫通穴設定ステップとを有することを特徴とする。
【0007】
本発明のシミュレーション方法は、前記貫通穴設定ステップにおいて、前記応力が小さい程に前記貫通穴は大きく設定される一方、前記応力が大きい程に前記貫通穴は小さく設定されることを特徴とする。
【0008】
本発明のシミュレーション方法は、前記貫通穴設定ステップにおいて、前記穴加工要素に前記貫通穴の加工位置が設定されることを特徴とする。
【0009】
本発明のシミュレーション方法は、前記貫通穴設定ステップによって設定された前記貫通穴を反映し、前記解析モデルを再構築するモデル構築ステップを有し、前記解析モデルから前記膜厚不足領域が無くなるまで、前記膜厚計算ステップ、前記要素抽出ステップ、前記貫通穴設定ステップおよび前記モデル構築ステップが繰り返されることを特徴とする。
【0010】
本発明のシミュレーション方法は、前記ワークは車体であり、前記応力は前記車体の衝突試験時に作用する応力であることを特徴とする。
【0011】
本発明のシミュレーションプログラムは、コンピュータ
に、浸漬処理によってワークに形成される被膜の厚みが所定値を下回る場合に、前記ワークに追加される貫通穴の大きさを設定
させるためのシミュレーションプログラムであって、
前記コンピュータに、前記ワークの解析モデルを構成する要素毎に、浸漬処理によって形成される前記被膜の厚みを計算する膜厚計算ステップと、前記被膜の厚みが所定値を下回る膜厚不足領域を前記解析モデルから抽出し、前記膜厚不足領域毎に前記被膜の最も薄い前記要素を穴加工要素として抽出する要素抽出ステップと、前記ワークの強度試験時に前記穴加工要素に作用する応力に基づいて、前記貫通穴の大きさを設定する貫通穴設定ステップと、
を実行させる、ことを特徴とする。
【0012】
本発明のシミュレーションプログラムは、前記貫通穴設定ステップにおいて、前記応力が小さい程に前記貫通穴は大きく設定される一方、前記応力が大きい程に前記貫通穴は小さく設定されることを特徴とする。
【0013】
本発明のシミュレーションプログラムは、前記貫通穴設定ステップにおいて、前記穴加工要素に前記貫通穴の加工位置が設定されることを特徴とする。
【0014】
本発明のシミュレーションプログラムは、
前記コンピュータに、前記貫通穴設定ステップによって設定された前記貫通穴を反映し、前記解析モデルを再構築するモデル構築ステップ
、を実行させ、
前記コンピュータに、前記解析モデルから前記膜厚不足領域が無くなるまで、前記膜厚計算ステップ、前記要素抽出ステップ、前記貫通穴設定ステップおよび前記モデル構築ステップ
を繰り返
して実行させる、ことを特徴とする。
【0015】
本発明のシミュレーションプログラムは、前記ワークは車体であり、前記応力は前記車体の衝突試験時に作用する応力であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被膜の厚みが所定値を下回る膜厚不足領域を解析モデルから抽出し、膜厚不足領域毎に被膜の最も薄い要素を穴加工要素として抽出し、ワークの強度試験時に穴加工要素に作用する応力に基づいて貫通穴の大きさを設定する。したがって、ワーク強度を考慮しながら貫通穴の大きさを設定することができ、被膜の厚みを確保する観点から貫通穴を追加する場合であっても、不要なワーク強度の低下を回避することが可能となる。これにより、ワーク強度を回復させるための設計変更を回避することができ、ワークの開発コストを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】シミュレーション装置を示すブロック図である。
【
図4】塗膜厚を算出する手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】(a)〜(c)は塗膜厚を算出する過程を概略的に示す説明図である。
【
図6】電着穴を設定する手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】(a)〜(c)は電着穴を設定する過程を概略的に示す説明図である。
【
図8】電着穴の設定過程で参照されるテーブルデータの一例を示す説明図である。
【
図9】電着穴の加工位置および電着穴径の設定結果の一例を示す説明図である。
【
図10】車体解析モデルに対する電着穴の形成方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は電着塗装工程を示す概略図である。
図1に示すように、ワークである車体10に対して電着塗装(浸漬処理)を施すため、電着塗装工程には電着液を溜めた処理槽11が設置されている。また、処理槽11の上方にはレール12が設置されており、このレール12を走行するハンガー13には車体10が吊り下げられている。また、レール12に沿ってバスバー14が設置されており、処理槽11の底部には電極15が設置されている。さらに、電着塗装工程には電源装置16が設置されており、電源装置16の負極端子はバスバー14に接続される一方、電源装置16の正極端子は電極15に接続されている。なお、車体10とバスバー14とはハンガー13を介して電気的に接続されている。
【0019】
この電着塗装工程においては、車体10に対して脱脂や表面調整等の前処理を施した後に、車体10を処理槽11に沈めて車体10と電極15との間で通電することにより、車体10のアウタパネルやインナパネルに塗膜(被膜)が形成される。この電着塗装においては、車体10の防錆性能を確保する観点から、塗膜の厚み(塗膜厚)が所定の基準値を超えることが必要となっている。また、塗膜厚は車体表面の電流密度に応じて決まることから、複雑な構造の車体10に対して適切に塗膜を形成するためには、車体各部に電着穴(貫通穴)を形成して電着液の流動性を高めることにより、車体各部に満遍なく電着液が流入する車体構造が求められている。
【0020】
以下、本発明の一実施の形態であるシミュレーション方法およびシミュレーションプログラムについて説明する。ここで、
図2はシミュレーション装置20を示すブロック図であり、このシミュレーション装置20によってシミュレーション方法やシミュレーションプログラムが実行される。
図2に示すように、パーソナルコンピュータ等によって構成されるシミュレーション装置(コンピュータ)20は、CPUやメモリ等によって構成される演算装置21、キーボード等の入力装置22、液晶ディスプレイ等の表示装置23、磁気ディスク等の記憶装置24を備えている。このシミュレーション装置20は、パーソナルコンピュータ等の単一のコンピュータを用いて構成しても良く、ネットワークを介して相互に接続される複数のコンピュータを用いて構成しても良い。
【0021】
シミュレーション装置20の記憶装置24には、車体全体をメッシュで表した車体解析モデル(解析モデル)M1が格納されている。ここで、
図3は車体解析モデルM1を示す概略図である。
図3の拡大部分に示すように、車体解析モデルM1は、車体10の表面形状を分割する複数の要素と、要素の頂点に設けられる節点とによって構成されている。この車体解析モデルM1については、車体解析モデルM1を構成するパネル部材の番号データ、各パネル部材が備える要素や節点の番号データ、各要素の重心等を表す座標データ、各節点の座標データ等の形で記憶装置24に格納されている。なお、車体解析モデルM1としては、衝突変形シミュレーション等に用いられる車体解析モデルM1を流用することが可能である。
【0022】
また、演算装置21には塗膜厚計算部25が設けられており、この塗膜厚計算部25は車体解析モデルM1を構成する要素毎に塗膜厚Xを算出する(膜厚計算ステップ)。ここで、
図4は塗膜厚Xを算出する手順の一例を示すフローチャートである。また、
図5(a)〜(c)は塗膜厚Xを算出する過程を概略的に示す説明図である。なお、塗膜厚Xの算出手順自体は周知技術であり、
図4および
図5を用いて概略的に説明する。まず、
図4に示すように、ステップS1では初期設定が行われる。このステップS1では、車体解析モデルM1や電着槽解析モデルM2が読み込まれ、解析する上で必要となる境界条件や計算条件等が設定される。なお、電着槽解析モデルM2とは、
図5(a)に示すように、車体解析モデルM1と同様に、電着槽内の電着液をメッシュで表現した解析モデルである。
【0023】
また、ステップS2において時刻tをΔtだけ進行させ、続くステップS3において時刻tでの境界条件(電極電圧等)が更新される。そして、ステップS4では、有限体積法、有限要素法あるいは有限差分法等を用いて、所定の電位拡散方程式を解くことにより、
図5(b)に示すように、電着槽内の電位分布が計算される。続いて、ステップS5では、電着槽内の電位分布に基づいて、パネル表面に吸着する塗料の膜厚抵抗を考慮しながらパネル表面の電流密度が算出される。そして、ステップS6において、基礎実験等から予め確認されている電流密度と塗膜厚との予測式を用いることにより、パネル表面の電流密度に基づいてパネル表面の塗膜析出量ΔXが算出される。続いて、ステップS7では、前回の塗膜厚Xに今回の塗膜析出量ΔXを加えることにより、
図5(c)に示すように、現在の時刻tにおける塗膜厚Xが算出される。次いで、ステップS8において、現在の時刻tと解析終了時刻tENDとを比較することにより、塗膜厚Xの解析を終了させるか否かが判定される。ステップS8において、時刻tが解析終了時刻tENDに達したと判定された場合には、ステップS9に進み、塗膜厚Xを出力してルーチンを抜ける。一方、ステップS8において、時刻tが解析終了時刻tENDに達していないと判定された場合には、時刻tが解析終了時刻tENDに達するまで、ステップS2〜S7の手順が繰り返して実行される。
【0024】
このように、初期状態の車体解析モデルM1の各要素について塗膜厚Xが算出されると、塗膜厚Xが所定の基準値(所定値)を上回るか否かが判定される。そして、塗膜厚Xが基準値を下回る場合には、塗膜厚Xの不足領域に対する電着液の流入を増大させて塗膜を厚くするため、電着液の流動性を高める電着穴が車体解析モデルM1に形成される。そこで、演算装置21に設けられる電着穴設定部26は、車体解析モデルM1に追加する電着穴の加工位置および電着穴径(大きさ)を設定する。以下、電着穴の加工位置および電着穴径を設定する際の手順について説明する。ここで、
図6は電着穴を設定する手順の一例を示すフローチャートである。また、
図7(a)〜(c)は電着穴を設定する過程を概略的に示す説明図である。また、
図8は電着穴の設定過程で参照されるテーブルデータの一例を示す説明図であり、
図9は電着穴の加工位置および電着穴径の設定結果の一例を示す説明図である。なお、説明を容易にするため、
図7および
図8には簡略化した車体解析モデルM1aを示している。
【0025】
まず、
図6に示すように、ステップS10では、前述した
図4のフローチャートに沿って要素毎に塗膜厚Xが計算される。続いて、ステップS11では、要素毎に塗膜厚Xを所定の基準値と比較することにより、塗膜厚Xが基準値(例えば、20μm)を満たしているか否かが判定される。ステップS11において、全要素について塗膜厚Xが基準値以上であると判定された場合には、更なる電着穴の設定が不要であることからルーチンを抜ける。一方、ステップS11において、1つ以上の要素について塗膜厚Xが基準値を下回ると判定された場合には、ステップS12に進み、車体解析モデルM1から膜厚不足領域が抽出される(要素抽出ステップ)。この膜厚不足領域とは、
図7(a)に薄墨(符号A1,A2)で示すように、塗膜厚Xが基準値を下回るとともに隣接する要素によって構成される領域である。なお、
図7(a)において、各要素に示される数字は、要素毎に計算された塗膜厚[μm]を意味している。
【0026】
続いて、ステップS13では、膜厚不足領域毎に穴加工要素が抽出される(要素抽出ステップ)。この穴加工要素とは、
図7(a)に符号B1,B2で示すように、個々の膜厚不足領域A1,A2内において最も薄い塗膜厚Xを備えた要素である。続くステップS14では、抽出された穴加工要素に電着穴の加工位置が設定される(貫通穴設定ステップ)。
図7(c)に示すように、穴加工要素B1に形成される電着穴H1の加工位置として、穴加工要素B1の重心位置C1が設定されている。また、穴加工要素B2に形成される電着穴H2の加工位置として、穴加工要素B2の重心位置C2が設定されている。すなわち、穴加工要素B1,B2の領域内に電着穴H1,H2の加工位置(中心位置)が設定されている。なお、図示する場合には、電着穴H1,H2の中心位置と穴加工要素B1,B2の重心位置C1,C2とが一致している。
【0027】
そして、ステップS15では、
図7(b)に示すような所定のマップデータを参照することにより、抽出された穴加工要素毎に応力が読み込まれる。すなわち、
図7に示す場合には、穴加工要素B1の応力として50MPaが読み込まれ、穴加工要素B2の応力として110MPaが読み込まれる。このステップS14で読み込まれる応力とは、車体10の強度試験である衝突試験時に各要素に作用する応力である。ステップS14においては、予め衝突試験シミュレーション等によって要素毎の応力を示したマップデータが作成されており、このマップデータを参照することで穴加工要素に作用する応力が読み込まれている。なお、
図7(b)において、各要素に示される数字は、要素毎に作用する応力[MPa]を意味している。
【0028】
次いで、ステップS16では、
図8に示すような所定のテーブルデータを参照することにより、応力に基づいて電着穴径(電着穴の半径)が設定される(貫通穴設定ステップ)。
図8に示すように、要素に作用する応力が小さい程に電着穴径が大きく設定されており、要素に作用する応力が大きい程に電着穴径が小さく設定されている。例えば、
図7および
図8に示す場合には、穴加工要素B1の電着穴H1について、応力が50MPaであることから電着穴径が10mmに設定される。また、穴加工要素B2の電着穴H2について、応力が110MPaであることから電着穴径が4mmに設定される。
【0029】
そして、
図9に示すように、車両解析モデルの全ての膜厚不足領域について、電着穴の加工位置および電着穴径が設定されると、
図6のステップS17に進み、演算装置21に設けられるモデル構築部27は、車体解析モデルM1に電着穴を形成することにより、電着穴を反映した車体解析モデルM1を再構築する(モデル構築ステップ)。ここで、
図10は車体解析モデルM1に対する電着穴の形成方法の一例を示す説明図である。
図10に示すように、穴加工要素Bの重心位置Cに対して電着穴径Rの電着穴Hを形成する際には、まず重心位置Cを中心に半径Rの球面Sを設定する。そして、穴加工要素Bと球面Sとの境界線Lを切断することにより、穴加工要素Bの重心位置Cに電着穴径Rの電着穴Hが形成される。これにより、穴加工要素Bの傾斜に影響されることなく、電着穴Hを簡単に形成することが可能となる。
【0030】
このように、ステップS17において、電着穴を反映した車体解析モデルM1が再構築されると、ステップS10に戻り、新たな車体解析モデルM1について塗膜厚Xが再計算される。このような、塗膜厚Xの計算や車体解析モデルM1の再構築は、車体解析モデルM1から膜厚不足領域が無くなるまで繰り返され、塗装基準を満足する車体解析モデルM1が構築されることになる。そして、完成した車体解析モデルM1の塗膜厚Xは、演算装置21のポスト処理部28を経て表示装置23に出力される。ポスト処理部28においては、例えば、塗膜厚Xを色相や濃淡等によって区分して表現する処理が実行される。
【0031】
これまで説明したように、本発明においては、衝突試験時に穴加工要素に作用する応力に基づいて電着穴径を設定したので、衝突試験に合格する車体強度(車体剛性)を確保しながら電着穴径を設定することが可能となる。すなわち、小さな応力が作用する穴加工要素には、強度に余力が有ることから電着穴径を大きく設定する一方、大きな応力が作用する穴加工要素については、強度に余力が無いことから電着穴径を小さく設定している。このように、車体剛性を考慮しながら電着穴を設定することにより、塗膜厚を確保する観点から電着穴を追加する場合であっても、十分な車体強度を確保することが可能となる。これにより、車体10に対して電着穴の追加した後に、衝突試験用に車体強度を確保するための設計変更を回避することができ、車体10の開発コストを抑制することが可能となる。また、膜厚不足領域内において塗膜厚の最も薄い要素を穴加工要素として設定し、この穴加工要素に対して電着穴を加工するようにしたので、電着穴の個数を抑制しながら効率良く塗膜厚Xを改善することも可能となる。
【0032】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、穴加工要素の重心位置に電着穴の加工位置を設定しているが、これに限られることはなく、穴加工要素の内心点や外心点等に電着穴の加工位置を設定しても良い。また、
図7(a)に示した塗膜厚が算出される各要素と、
図7(b)に示した応力が記録される各要素とが、同じ形状や大きさを有しているが、これに限られることはなく、穴加工要素とこれに対応する応力とを対比させることが可能であれば、各要素の形状や大きさが一致しなくても良い。
【0033】
また、前述の説明では、ワークとして車体10を挙げているが、これに限られることはなく、ワークとしてケース等の他の部品を用いても良い。この場合には、穴加工要素に作用する応力として、ケースの強度試験時に穴加工要素に作用する応力が用いられる。さらに、図示する場合には、三角形の要素を用いて解析モデルを構成しているが、これに限られることはなく、四角形や五角形等の要素を用いて解析モデルを構成しても良い。なお、電着塗装を例に挙げて説明しているが、本発明のシミュレーション方法やシミュレーションプログラムを、ワーク表面に金属層を形成するメッキ処理(浸漬処理)に対して適用しても良い。
【符号の説明】
【0034】
10 車体(ワーク)
20 シミュレーション装置(コンピュータ)
A1,A2 膜厚不足領域
B1,B2 穴加工要素
H1,H2 電着穴(貫通穴)
M1,M1a 車体解析モデル(解析モデル)
X 塗膜厚(被膜の厚み)