【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の実施例1に係るシール装置の模式図、
図2は、実施例1のシール装置を表す断面図、
図3は、実施例1のシール装置における縦壁部と突出部との関係を表す概略図、
図4は、実施例1のシール装置の作用を表す断面図、
図5は、シール装置の軸方向位置に対する周方向速度を表すグラフである。
【0025】
実施例1において、
図1及び
図2に示すように、シール装置10は、静止体11と回転体12との間に設けられ、この静止体11と回転体12との間を回転体12の軸心方向A及び周方向Bに流れる流体の流れ(漏洩)を抑制するものである。このシール装置10は、ラビリンスシール構造を基本として、スワールブレーカ(旋回防止)構造を効果的に適用することで、シール性能の向上を図ったものである。
【0026】
即ち、シール装置10は、静止体11に設けられる複数の第1縦壁部21及び第2縦壁部22と、回転体12に設けられる突出部23と、静止体11に設けられる複数のスワールブレーカ室24とを有している。
【0027】
第1縦壁部21は、静止体11の内周面から回転体12の外周面側へ延出したリング形状をなし、静止体11から回転体12側に向けてその厚さが徐々に薄くなり、先端部と回転体12の外周面との間に径方向における所定隙間が確保されている。この第1縦壁部21は、流体の流れ方向である軸心方向Aに沿って複数、本実施例では、3つの第1縦壁部21(21A,21B,21C)が所定の間隔で配置されている。
【0028】
第2縦壁部22は、静止体11の内周面から回転体12の外周面側へ延出したリング形状をなし、静止体11から回転体12側に向けてその厚さが徐々に薄くなっている。この第2縦壁部22は、流体の流れ方向である軸心方向Aに沿って配置された3つの第1縦壁部21(21A,21B,21C)に隣接してその間、つまり、流体の流れ方向(軸心方向A)における最上流側の第1縦壁部21Aより下流側で、且つ、2段目の第1縦壁部21Bより上流側に配置されている。そして、この第2縦壁部22は、軸心方向Aにおける先端部の厚さが、第1縦壁部21の先端部の厚さより厚く設定されている。
【0029】
突出部23は、第2縦壁部22に対向して回転体12の外周面から静止体11の内周面側に突出したリング形状をなし、先端部(外周面)と静止体11の内周面、具体的には、第2縦壁部22の先端部(内周面)との間に径方向における所定隙間が確保されている。そのため、第2縦壁部22は、その径方向長さが、第1縦壁部21の径方向長さより短く設定され、第2縦壁部22に対向して突出部23が配置されることとなる。
【0030】
スワールブレーカ室24は、突出部23に対向して静止体11に形成された部屋であり、回転体12の周方向Bに所定の間隔で複数配置されている。このスワールブレーカ室24は、略立方体形状をなし、回転体12の突出部23側に開口すると共に、流体の流れ方向(軸心方向A)における最上流側の第1縦壁部21A側に開口している。
【0031】
この場合、第1縦壁部21Aと第2縦壁部22の間、第2縦壁部22と第1縦壁部21Bの間、第1縦壁部21Bと第1縦壁部21Cの間には、ほぼ同形状をなす空間部25(25A,25B,25C)が形成されている。即ち、第1縦壁部21Aの後端と第2縦壁部22の前端の距離、第2縦壁部22の後端と第1縦壁部21Bの前端の距離、第1縦壁部21Bの後端と第1縦壁部21Cの前端の距離が、ほぼ同距離となっている。
【0032】
また、静止体11側のスワールブレーカ室24は、回転体12側の突出部23に径方向に対向しているものの、流体の流れ方向(軸心方向A)における最上流側の第1縦壁部21A側にずれて配置されることで、空間部25Aに開口することとなる。
【0033】
そして、
図3に示すように、第1縦壁部21における先端部の厚さをT1、第2縦壁部22における先端部の厚さをT2とすると、第2縦壁部22における先端部の厚さT2は、第1縦壁部21における先端部の厚さT1より厚く(T1<T2)設定されている。また、突出部23の厚さをT3とすると、突出部23の厚さT3は、第2縦壁部22における先端部の厚さT2と同じかまたは薄く(T3≦T2)設定されている。
【0034】
また、第1縦壁部21の先端部から回転体12の外周面までの径方向隙間をS1、突出部23の径方向長さをS2とすると、突出部23の径方向長さS2は、第1縦壁部21の先端部から回転体12までの径方向隙間S1以上に設定されている。この場合、突出部23の径方向長さS2を、第1縦壁部21の先端部から回転体12までの径方向隙間S1の2倍以上に設定することが望ましい。なお、第1縦壁部21の先端部から回転体12までの径方向隙間S1と、第2縦壁部22の先端部と突出部23との径方向隙間S3は、ほぼ同様(S1=S3)の長さ(距離)となっている。
【0035】
更に、
図1及び
図2に示すように、スワールブレーカ室24は、静止体11に回転体12の周方向Bに均等間隔で形成されており、周方向長さ(幅)W1が、スワールブレーカ室24同士の距離(間隔)W2とほぼ同じ長さに設定されている。
【0036】
従って、
図4に示すように、静止体11に対して回転体12が回転する状態にて、静止体11と回転体12との間に流れる流体は、回転体12の軸心方向Aに沿った軸心方向成分と、周方向Bに沿った旋回方向成分を有している。この流体は、静止体11における第1縦壁部21Aの先端部と回転体12の外周面との隙間S1を通って空間部25Aに到達する。ここで、流体は、回転体12の突出部23の上流側端面に衝突することより回転体12の外方側に流れ、一部が空間部25A内での旋回流となる一方、一部がスワールブレーカ室24に入り込む。
【0037】
そのため、流体は、スワールブレーカ室24にて、回転体12の軸心方向Aに沿った軸心方向成分が前方(軸心方向Aにおける下流側)の壁面に衝突して減衰され、周方向Bに沿った旋回方向成分が側方の壁面に衝突して減衰される。そして、流体は、スワールブレーカ室24から、静止体11における第2縦壁部22の先端部と回転体12の突出部23の外周面との隙間S3を通って空間部25Bに流れる。
【0038】
また、流体は、ラビリンスシールとして機能する第1縦壁部21A,21B,21Cと第2縦壁部22によりシールされ、その流量が低減される。
【0039】
ここで、本実施例のシール装置10による流体の速度変化について説明する。
図5のグラフは、シール装置10の軸方向における各位置での周方向速度を表している。一点鎖線で表す従来の5つのシールフィン(本発明における縦壁部に相当)を有するシール装置は、各シールフィン位置で流体の周方向速度が低下するものの、結果として十分に低下していない。そのため、流体の周方向速度(旋回方向成分)が十分に低下していないことから、回転体に励振力が作用して不安定振動が発生する。
【0040】
一方、実線で表す実施例1のシール装置10は、L1〜L5の位置に、第1縦壁部21A、スワールブレーカ室24、第2縦壁部22、第1縦壁部21B、第1縦壁部21Cが位置しており、各位置L1〜L5で流体の周方向速度が低下する。特に、位置L1からL3の直前にかけて、スワールブレーカ室24により流体の周方向速度が大幅に低下している。そのため、流体の周方向速度が十分に低下していることから、回転体12に作用する励振力が低下して不安定振動の発生が抑制される。即ち、実施例1のシール装置10は、不安定振動の元となる剛性係数を大幅に低減することが可能となっている。
【0041】
このように実施例1のシール装置にあっては、静止体11から回転体12側へ延出すると共に回転体12の軸心方向Aに所定の間隔で配置されるリング形状をなす3つの第1縦壁部21(21A,21B,21C)と、静止体11から回転体12側へ延出すると共に第1縦壁部21に隣接してこの第1縦壁部21より厚いリング形状をなす第2縦壁部22と、第2縦壁部22に対向して回転体12から静止体11側に突出するリング形状をなす突出部23と、突出部23に対向して静止体11に回転体12の周方向Bに所定の間隔で配置される複数のスワールブレーカ室24とを設けている。
【0042】
従って、静止体11に対して回転体12が回転するとき、両者の間に流れる流体は、第1縦壁部21Aと回転体12との隙間から下流側に流れ、突出部23に衝突してガイドされることで径方向の外方側に流れてスワールブレーカ室24に入る。このスワールブレーカ室24では、流体がスワールブレーカ室24の内壁により軸心方向の成分と旋回方向の成分が減衰され、流体速度が低下する。静止体11と回転体12との間を流れる流体の速度が低下すると、静止体11と回転体12との間の漏れ流れを抑制することができると共に、旋回方向成分が減衰されることで、回転体12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0043】
また、実施例1のシール装置では、静止体11と回転体12の間を回転体12の軸心方向Aに流れる流体の流れ方向にて、最上流側の第1縦壁部21Aより下流側にスワールブレーカ室24を設けている。従って、第1縦壁部21Aと回転体12との隙間を通過した流体を突出部23により適正にスワールブレーカ室24に流すことができ、流体の軸心方向成分と旋回方向成分を減衰することができる。
【0044】
また、実施例1のシール装置では、スワールブレーカ室24を突出部23側に開口すると共に最上流側の第1縦壁部21A側に開口している。従って、第1縦壁部21Aと回転体12との隙間を通過して突出部23によりガイドされた流体を、開口から適正にスワールブレーカ室24に流すことができる。
【0045】
また、実施例1のシール装置では、突出部23の径方向長さを、第1縦壁部21の先端部から回転体12までの径方向隙間以上に設定している。従って、第1縦壁部21Aと回転体12との隙間を通過した流体を適正に突出部23に導き、この突出部23により流体をスワールブレーカ室24に流すことができる。
【0046】
また、実施例1のシール装置では、スワールブレーカ室24の周方向長さを、スワールブレーカ室24同士の距離とほぼ同様に設定している。従って、スワールブレーカ室24の周方向長さと間隔を規定することで、このスワールブレーカ室24に入り込んだ流体の旋回方向成分を適正に減衰して速度を低下させることができる。
【実施例2】
【0047】
図6は、本発明の実施例2に係るシール装置を表す断面図である。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0048】
実施例2において、
図6に示すように、シール装置30は、静止体11と回転体12との間に設けられ、この静止体11と回転体12との間を回転体12の軸心方向A及び周方向B(
図1参照)に流れる流体の流れ(漏洩)を抑制するものである。このシール装置30は、ラビリンスシール構造を基本として、スワールブレーカ構造を効果的に適用することで、シール性能の向上を図ったものである。
【0049】
即ち、シール装置30は、回転体12に設けられる複数の第1縦壁部31及び第2縦壁部32と、回転体12に設けられる突出部33と、静止体11に設けられる複数のスワールブレーカ室34とを有している。
【0050】
第1縦壁部31は、回転体12の外周面から静止体11の内周面側へ延出したリング形状をなし、回転体12から静止体11側に向けてその厚さが徐々に薄くなり、先端部と静止体11の内周面との間に所定隙間が確保されている。この第1縦壁部31は、流体の流れ方向である軸心方向Aに沿って複数、本実施例では、3つの第1縦壁部31(31A,31B,31C)が所定の間隔で配置されている。
【0051】
第2縦壁部32は、回転体12の外周面から静止体11の内周面側へ延出したリング形状をなし、回転体12から静止体11側に向けてその厚さが徐々に薄くなっている。この第2縦壁部32は、流体の流れ方向である軸心方向Aに沿って配置された3つの第1縦壁部31(31A,31B,31C)に隣接してその間、つまり、流体の流れ方向(軸心方向A)における最上流側の第1縦壁部31Aより下流側で、且つ、2段目の第1縦壁部31Bより上流側に配置されている。そして、この第2縦壁部32は、軸心方向Aにおける先端部の厚さが、第1縦壁部31の先端部の厚さより厚く設定されている。
【0052】
突出部33は、第2縦壁部32に対応してこの第2縦壁部32の先端部に一体に設けられ、第2縦壁部32の先端部から静止体11の内周面側に突出したリング形状をなしている。
【0053】
スワールブレーカ室34は、突出部33(第2縦壁部32)に対向して静止体11に形成された部屋であり、回転体12の周方向Bに所定の間隔で複数配置されている。このスワールブレーカ室34は、略立方体形状をなし、回転体12の突出部33側に開口している。
【0054】
この場合、静止体11は、内周面に突出部33(第2縦壁部32)に対向してリング形状をなす凹部36が形成されており、第2縦壁部32の先端部の突出部33がこの凹部36に入り込んでいる。そして、第2縦壁部32(突出部33)の先端部(外周面)と静止体11の内周面との間に所定隙間が確保されている。そのため、第2縦壁部32及び突出部33は、その径方向長さが、第1縦壁部31の径方向長さより長く設定されることとなる。
【0055】
また、第1縦壁部31Aと第2縦壁部32の間、第2縦壁部32と第1縦壁部31Bの間、第1縦壁部31Bと第1縦壁部31Cの間には、ほぼ同形状をなす空間部35(35A,35B,35C)が形成されている。即ち、第1縦壁部31Aの後端と第2縦壁部32の前端の距離、第2縦壁部32の後端と第1縦壁部31Bの前端の距離、第1縦壁部31Bの後端と第1縦壁部31Cの前端の距離が、ほぼ同距離となっている。そして、静止体11の凹部36は、軸心方向Aにおける長さが、回転体12の突出部33(第2縦壁部32)の長さより長くなっており、この凹部36は、前端部が空間部35Aと連通し、後端部が空間部35Bと連通している。
【0056】
また、静止体11側のスワールブレーカ室34は、回転体12側の突出部33に径方向に対向しているものの、流体の流れ方向(軸心方向A)における最上流側の第1縦壁部31A側にずれて配置されることで、空間部35Aに開口することとなる。
【0057】
そして、実施例1と同様に、第2縦壁部32における先端部の厚さは、第1縦壁部31における先端部の厚さよりが厚く設定されている。なお、第1縦壁部31の先端部から静止体11までの長さ(隙間)と、第2縦壁部32(突出部33)の先端部から凹部36との隙間は、ほぼ同様の長さとなっている。
【0058】
従って、静止体11に対して回転体12が回転する状態にて、静止体11と回転体12との間に流れる流体は、回転体12における第1縦壁部31Aの先端部と静止体11の内周面との隙間を通って空間部35Aに到達する。ここで、流体は、回転体12の第2縦壁部32及び突出部33の上流側端面に衝突することにより回転体12の外方側に流れ、一部が空間部35A内での旋回流となる一方、一部がスワールブレーカ室34に入り込む。
【0059】
そのため、流体は、スワールブレーカ室34にて、回転体12の軸心方向Aに沿った軸心方向成分が前方(軸心方向Aにおける下流側)の壁面に衝突して減衰され、周方向Bに沿った旋回方向成分が側方の壁面に衝突して減衰される。そして、流体は、スワールブレーカ室34から、回転体12における突出部33の先端部と静止体11の凹部36の内周面との隙間を通って空間部35Bに流れる。
【0060】
また、流体は、ラビリンスシールとして機能する第1縦壁部31A,31B,31Cと第2縦壁部32及び突出部33によりシールされ、その流量が低減される。
【0061】
このように実施例2のシール装置にあっては、回転体12から静止体11側へ延出すると共に回転体12の軸心方向Aに所定の間隔で配置されるリング形状をなす3つの第1縦壁部31(31A,31B,31C)と、回転体12から静止体11側へ延出すると共に第1縦壁部31に隣接してこの第1縦壁部31より厚いリング形状をなす第2縦壁部32と、第2縦壁部32の先端部に静止体11側に突出するリング形状をなす突出部33と、突出部33に対向して静止体11に回転体12の周方向Bに所定の間隔で配置される複数のスワールブレーカ室34とを設けている。
【0062】
従って、静止体11に対して回転体12が回転するとき、両者の間に流れる流体は、第1縦壁部31Aと静止体11との隙間から下流側に流れ、突出部33に衝突してガイドされることで径方向の外側に流れてスワールブレーカ室34に入る。このスワールブレーカ室34では、流体がスワールブレーカ室34の内壁により軸心方向の成分と旋回方向の成分が減衰され、流体速度が低下する。静止体11と回転体12との間を流れる流体の速度が低下すると、静止体11と回転体12との間の漏れ流れを抑制することができると共に、旋回方向成分が減衰されることで、回転体12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0063】
なお、上述した各実施例では、第2縦壁部22,32と突出部23,33とスワールブレーカ室24,34を、流体の流れ方向である軸心方向Aにおける最上流側の第1縦壁部21A,31Aより下流側で、且つ、2段目の第1縦壁部21B,31Bより上流側に配置したが、この位置に限定されるものではない。即ち、流体の流れ方向である軸心方向Aにおける最上流側の第1縦壁部21A,31Aより上流側でなければよく、第1縦壁部21A,21B,21C,31A,31B,31Cより下流側であればどこでもよいものである。
【0064】
また、上述した各実施例では、第1縦壁部21A,21B,21C,31A,31B,31Cを3つ、第2縦壁部22,32と突出部23,33とスワールブレーカ室24,34を1つ設けたが、この数に限定されるものではなく、第1縦壁部を2つまたは4つ以上設けたり、第2縦壁部と突出部とスワールブレーカ室を2つ以上設けたりしてもよい。この場合、第2縦壁部と突出部とスワールブレーカ室を2つ以上連続して設けたり、または複数の第1縦壁部の間に設けたりしてもよい。
【0065】
また、上述した各実施例では、スワールブレーカ室24,34の形状を立方体としたが、これに限定されるものではなく、直方体としたり、回転体12の径方向に長い中空円筒形状、中空多角形形状などとしたりしてもよい。
【0066】
また、上述した各実施例では、静止体11と回転体12の一方に第1縦壁部21A,21B,21C,32A,31B,31Cと第2縦壁部22,32を設けたが、両方に設けてもよい。即ち、ラビリンスシールの構成は、各実施例に限定されるものではない。
【0067】
また、上述した各実施例では、静止体11や回転体12に直接第1縦壁部21A,21B,21C,32A,31B,31C、第2縦壁部22,32、突出部23,33、スワールブレーカ室24,34などを設ける構成としたが、静止体や回転体とは別に第1縦壁部、第2縦壁部、突出部、スワールブレーカ室などが設けられた1つまたは2つ以上からなるシール部材を構成し、静止体や回転体に固定して構成してもよい。