特許第5775047号(P5775047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775047
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】X線発生装置及び除電装置
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/06 20060101AFI20150820BHJP
   H01J 35/08 20060101ALI20150820BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20150820BHJP
   H01J 35/18 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   H05F3/06
   H01J35/08 F
   H01J35/06 E
   H01J35/18
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-220585(P2012-220585)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-75190(P2014-75190A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2014年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃
(72)【発明者】
【氏名】出口 清之
(72)【発明者】
【氏名】中村 和仁
【審査官】 高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−092695(JP,A)
【文献】 特開2004−253193(JP,A)
【文献】 特開2009−212010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/04− 3/06
H01J 35/00−35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除電のために除電対象物にX線を放射するX線発生装置において、
窓部が形成されたX線不透過性の基板と、
前記基板の外面側から前記窓部を閉止するように設けられたX線透過窓と、
前記基板の内面側から前記窓部に設けられたX線ターゲットと、
前記基板の内面側に取り付けられてその内部が高真空状態とされた扁平箱型の容器部と、
前記容器部の内部に設けられて前記X線ターゲットに衝突する電子を放出する線状の陰極と、
前記陰極と前記X線ターゲットの間に設けられて前記陰極から放出された電子を制御する制御電極と、
前記陰極と前記制御電極と前記X線透過窓に接続されて陰極側が接地された駆動回路とを有し、
前記陰極から放出された電子を前記X線ターゲットに衝突させて発生させたX線を前記X線透過窓から放出させるX線管を具備するとともに、
前記X線透過窓と前記除電対象物の間に設けられ、前記X線透過窓から放出されたX線が通過してX線の照射エリアを限定するX線放射口を有する接地された電界遮蔽電極を具備することを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記電界遮蔽電極の前記X線放射口にはメッシュが設けられたことを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
【請求項3】
請求項1乃至2の何れかに記載のX線発生装置をX線源に備えた除電装置であって、
前記除電対象物が搬送される搬送系を有し、該搬送系の所定位置に前記X線発生装置が配置されたことを特徴とする除電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除電対象物を除電するためにX線を発生させるX線発生装置及びこれを備えた除電装置に係り、特に、除電対象物を正に逆帯電させることなくX線放射面の側を高電圧に設定することにより駆動回路中の高電圧電源の数を減少させた低コストのX線発生装置及び除電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示された除電装置は、X線源としてX線発生装置を備えている。X線発生装置はそのケース内に図5に示すようなX線管101を収容している。このX線管101は、いわゆる丸型管と呼ばれるものであり、コバールガラス製の円筒状のバルブ102を有し、バルブ102のステム104の末端には密封された排気管103があり、またバルブ102の開放端には、コバール金属製の円筒状の出力窓保持部105が溶融接続されている。出力窓保持部105には、その中央円形開口105aを塞ぐように円板状の出力窓106が固定され、出力窓106の内面側には電子ビームの衝突によりX線を発生させるX線ターゲット107が蒸着されている。ステム104には2本のステムピン108,108が貫通して固定されており、バルブ102内のステムピン108,108の先端には、所定電圧で電子ビームを放出するカソードとしてフィラメント109が固定されている。これらステムピン108のいずれか一方には、ステンレス製の円筒状の部材であるフォーカス110が固定されている。なお、出力窓保持部105はコバール金属製であるため熱伝動性及び導電性が良好であるとともに、アースされたケース内に電気的に接続されることで接地電位になっており、その結果、ターゲット107も接地電位に維持されている。
【0003】
ところが、上述したような丸型管101では、カソードであるフィラメント109から放出される電子線がビーム状に絞られており、X線ターゲット107に衝突した位置を中心としてX線が放射状に広がる点状のX線照射であり、X線は出力窓106から出た後は円錐状に広がるため、照射対象物の大きさに対して有効な照射エリアが狭いという問題があった。従って、このように照射エリアが狭いX線管(丸型管101)を用いて広い範囲にX線を照射させるには、多数のX線管を用い、これらを並べて使用する必要があり、設備コストやメンテナンス面での負担が大きかった。また、X線を広範囲に照射するには、例えば照射対象物から遠ざけてX線を照射するということも考えられるが、照射対象物に所望のX線を照射するには、X線の照射強度を強くする必要がある。あわせて、不要な箇所にまでX線を照射することになり、X線漏洩の問題が生じてしまう。
【0004】
本願の発明者等は、このような丸型管101における問題点を解決するために、図6及び図7に示すような扁平箱型のX線管201を発明した。このX線管201は、開口部202aが形成された金属材料からなる基板202と、開口部202aを塞ぐように外面側から設けられたX線透過窓203と、基板202の内面側に取り付けられ、1枚の背面板204aと4枚の側面板204bを箱型に組み立ててなり、基板202と共にパッケージ210を構成して内部を高真空状態とされた容器部204と、容器部204内にて開口部202aの周辺とX線透過窓203の内面に密着して設けられたX線ターゲット205とを備えている。図7に示すように、基板202の開口部202aは、基板202の長手方向(すなわち、パッケージ210の長手方向)に延びた略矩形(例えば幅2mm程度)の細長いスリット状に形成されている。また、容器部204内には、背面電極206の他、電子源である線状の陰極(フィラメント)207及び複数の制御電極(第1制御電極208、第2制御電極209)を備えている。第1制御電極208によってフィラメント207から引き出された電子は第2制御電極209によって加速される。そして、X線ターゲット205と衝突して発生したX線は、X線透過窓203を透過して箱型パッケージの外に放射される。
上述した扁平箱型のX線管201によれば、X線は基板202の開口部202aで規制されたX線透過窓203から放射されるため、開口部202aのスリット形状の寸法を所望のサイズに設定すれば、X線が放射される領域を実質的に線状としてX線透過窓203のスリット幅でX線が広がるようにすることができる。これにより、照射対象物Wの大きさに対応して有効な広さの照射エリアを比較的高い自由度で容易に設定することができ、照射エリアが狭い従来の丸型管101にはない効果を得ることができる。
さらに、開口部202aの寸法・形状を所望のサイズの矩形溝状などに形成すれば、X線透過窓203においてX線が放射される領域は円形のX線透過窓(出力窓106)に比べて比較的容易にその外形から判断できるため、X線を所定位置に精密に導く経路の設定が比較的容易であるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−5319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8は、本願発明者等が発明した図6及び図7に示す扁平箱型のX線管201をX線源とした除電装置200の構成を示す図である。この除電装置200は複数の高電圧電源を備えた駆動回路を備えており、背面電極206、陰極207、第1及び第2制御電極208,209とX線透過窓203の間にそれぞれ適当な電圧を与えて駆動することができる。駆動回路がX線管201を駆動すると、陰極207からは電子が放出され、電子は制御電極208、209で制御されてX線ターゲット205に衝突し、X線ターゲット205からはX線が放出される。そして、X線はX線透過窓203から外に放出され、除電対象物に照射されてその表面を除電する。図9は、この除電装置200における除電特性を示すグラフであり、縦軸は除電対象物の表面の帯電電圧(V)を示し、横軸は除電を開始してからの時間(秒)を示す。この図において、実線で示すグラフが陽極接地駆動を行ったときの除電特性であり、時間の経過とともに除電対象物の表面の帯電電圧が低下していくのが分かる。
【0007】
この除電装置200では、駆動回路の陽極側、すなわちX線透過窓203が設けられているX線管201のX線放射面側が接地電位(0V)に設定されている。このような駆動回路の接地構成を陽極接地と称し、このように陽極接地された駆動回路によるX線管の駆動を陽極接地駆動と呼ぶ。
【0008】
このように、陽極接地駆動では電子が衝突する陽極側のX線透過窓203を接地電位(0V)としているため、背面電極206、陰極207、第1制御電極208、第2制御電極209の各電極には、電圧値が異なる4種類の高電圧電源を接続する必要がある。例えば背面電極206の印加電圧が−5kVであるとすれば、その他の各電極にはX線透過窓の0Vに向けて順次値の異なる電圧が加わるように、電圧値及び電流値が異なる高電圧電源の各陰極を接続する必要がある。このように、扁平箱型のX線管を陽極接地駆動する場合には、種類の異なる高電圧電源を駆動電極の数だけ設けるため、駆動回路のコストが大きくなるという問題があった。なお、この問題は図5に示すような従来の丸型管101においても生じる。
【0009】
このような駆動回路における高電圧電源の数量増加によるコスト問題を解消するために、図8における駆動回路の接地構成を逆にし、各高電圧電源の陰極側を接地電位(0V)としてX線透過窓203の側を高電圧に設定する陰極接地駆動を行うことが考えられる。電子が衝突する陽極側のX線透過窓203を最も高い電位、例えば+5kVに設定し、背面電極206を接地電位(0V)とすれば、陰極207、第1制御電極208、第2制御電極209の各電極には数Vから100V程度の低電圧電源でよく、高電圧電源を設ける必要はない。このように、コストの安い低電圧電源を用いるメリットがある。
【0010】
ところが、本願発明者等の研究によれば、扁平箱型の前記X線管を用いた除電装置を陰極接地駆動とした場合、高電圧電源の数量増加によるコスト問題は解消されるが、除電ができなくなってしまうという問題があった。前述したように、図9には図8に示した陽極接地駆動のX線管を有する除電装置200の除電特性を実線で示すとともに、さらに図8の除電装置においてX線管を陰極接地駆動した場合の除電特性を一点鎖線で示した。この一点鎖線のグラフから分かるように、X線管を陰極接地駆動した場合には、除電対象物Wを除電するどころか、逆に正の電荷を帯電させる逆帯電が発生してしまっている。これは、X線管のX線放射面がプラスの高電圧になっており、除電対象物Wがこの影響を受けるためである。このような逆帯電の問題から、高電圧電源の数量増加によるコスト問題にも関わらず、これまで本願発明者等は、扁平箱型の前記X線管を用いた除電装置において陰極接地駆動を採用することは不適当であると考えていた。
【0011】
本発明は、以上説明した課題を解決することを目的としており、除電対象物を正に逆帯電させる不都合な現象を発生させることなくX線放射面の側を高電圧に設定し、これにより駆動回路の高電圧電源の数を減らして製造コストを低減させたX線発生装置及び該X線発生装置を用いた除電装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載されたX線発生装置は、
除電のために除電対象物にX線を放射するX線発生装置において、
窓部が形成されたX線不透過性の基板と、
前記基板の外面側から前記窓部を閉止するように設けられたX線透過窓と、
前記基板の内面側から前記窓部に設けられたX線ターゲットと、
前記基板の内面側に取り付けられてその内部が高真空状態とされた扁平箱型の容器部と、
前記容器部の内部に設けられて前記X線ターゲットに衝突する電子を放出する線状の陰極と、
前記陰極と前記X線ターゲットの間に設けられて前記陰極から放出された電子を制御する制御電極と、
前記陰極と前記制御電極と前記X線透過窓に接続されて陰極側が接地された駆動回路とを有し、
前記陰極から放出された電子を前記X線ターゲットに衝突させて発生させたX線を前記X線透過窓から放出させるX線管を具備するとともに、
前記X線透過窓と前記除電対象物の間に設けられ、前記X線透過窓から放出されたX線が通過してX線の照射エリアを限定するX線放射口を有する接地された電界遮蔽電極を具備することを特徴としている。
【0013】
請求項2記載のX線発生装置は、請求項1記載のX線発生装置において、前記電界遮蔽電極の前記X線放射口にはメッシュが設けられたことを特徴としている。
【0014】
請求項3記載の除電装置は、請求項1乃至2の何れかに記載のX線発生装置をX線源に備えた除電装置であって、
前記除電対象物が搬送される搬送系を有し、該搬送系の所定位置に前記X線発生装置が配置されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載のX線発生装置によれば、陰極及び制御電極等に接続される駆動回路を陰極接地したので、駆動回路に設ける高電圧電源の数はX線透過窓に高電圧を印加するための1個で済むようになり、製造コストが低減する。また、除電対象物に対面し、X線が放射されるX線管のX線透過窓には、正の高電圧が印加されることになるが、このX線透過窓と除電対象物の間には接地された電界遮蔽電極があるので、除電対象物に正の電荷が帯電する逆帯電の現象が起きることはない。
【0016】
また、電界遮蔽電極には、X線放射口が形成されているので、X線放射口を通過したX線の照射エリアを限定し、範囲を規定することができる。これにより、不要な方向へのX線放射を防止することができる。
【0017】
請求項2記載のX線発生装置によれば、電界遮蔽電極のX線放射口に設けられているメッシュの疎密を変更することでX線放射口の開口率を任意の値に設定できるので、X線放射口におけるX線通過率を任意の値に設定することができる。
【0018】
請求項3記載の除電装置によれば、陰極及び制御電極等に接続される駆動回路を陰極接地したので、駆動回路に設ける高電圧電源の数はX線透過窓に高電圧を印加するための1個で済むようになり、製造コストが低減する。また、除電対象物に対面し、X線が放射されるX線管のX線透過窓には、正の高電圧が印加されることになるが、このX線透過窓と除電対象物の間には接地された電界遮蔽電極があるので、除電対象物に正の電荷が帯電する逆帯電の現象が起きることはない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態におけるX線発生装置の断面図である。
図2】本発明の第1実施形態の除電特性をあらわすグラフである。
図3】本発明の第2実施形態におけるX線発生装置の断面図である。
図4】本発明の第1実施形態において電界遮蔽電極のX線放射口のメッシュ開口率と除電速度の関係をあらわすグラフである。
図5】従来の除電装置に組み込まれたX線管(丸型管)を示す断面図である。
図6】本願発明者等が発明した扁平箱型のX線管の断面図である。
図7】本願発明者等が発明した扁平箱型のX線管の正面図である。
図8】本願発明者等が発明した扁平箱型のX線管を有する除電装置の断面図である。
図9図8の除電装置の除電特性をあらわすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して第1実施形態のX線発生装置について説明する。このX線発生装置は、除電のために除電対象物にX線を放射する装置であり、除電装置の基本的機能を担う部分である。
図1に示すように、X線発生装置20はX線を発生させるX線管1を有している。このX線管1は扁平箱型のパッケージ2を本体としている。このパッケージ2は、ガラス板(1枚の背面板3aと4枚の側面板3b)を扁平箱型に組み立てた容器部3の開放側周縁部に、後述するX線透過窓5が設けられたX線不透過性の基板4を取り付けて封止したものであり、その内部は高真空状態となるように排気されている。基板4は、426合金からなる矩形板である。426合金は、42%Ni、6%Cr、残りがFeなどの合金であり、容器部3を構成するソーダライムガラスと熱膨張係数が略等しい。なお、前記容器部3の材質がソーダライムガラス以外のガラス板の場合、前記基板4は、前記容器部3の熱膨張係数に略等しくなるように他の材質の金属板を使用してもよい。
【0021】
図1に示すように、基板4の中央には、X線を外部に照射するために、細長い矩形状の開口である窓部6が形成されている。窓部6は、図7においてこの窓部6に相当する開口部202aと同様に、基板4の長手方向(すなわち、パッケージ2の長手方向)に延びた略矩形状に形成されている。この窓部6は更に細くスリット状に形成してもよい。基板4の外面側には、窓部6よりも大きいチタン箔からなるX線透過窓5が、窓部6を閉止するように貼付されている。また、パッケージ2の内部において、基板4の窓部6の周囲の内面と、窓部6から覗くチタン箔のX線透過窓5の内面には、タングステンの膜が蒸着されることにより、X線ターゲット7が形成されている。X線ターゲット7は、電子の衝突を受けてX線を放出する金属であり、モリブデンなどのタングステン以外の金属を用いることができる。
【0022】
図1に示すように、容器部3の内部、すなわち、パッケージ2の内部には、X線透過窓5と反対側の容器部3の内面(すなわち、基板4と対面する板材(背面板3a)の内面)に、ガラスへの帯電を防止するための背面電極8が設けられている。背面電極8の直下には、電子源である線状の陰極9が張設されている。陰極9は、タングステン等からなるワイヤー状の芯線の表面に炭酸塩を施したものであり、芯線を通電加熱することで熱電子を放出するものである。
【0023】
陰極9の下方(X線透過窓5側)には、陰極9から電子を引き出すための第1制御電極10が設けられている。第1制御電極10には、スリット状の開口部10aが形成されており、その開口10a内にはメッシュが設けられている。
【0024】
さらに、第1制御電極10の下方(X線透過窓5側)には、電子線の照射範囲を規制する第2制御電極11が設けられている。第2制御電極11は、略矩形の中央板体11bの四方をそれぞれ板体11cに囲まれた箱型の電極部材であり、背面電極8、陰極9及び第1制御電極10を囲んで配置されている。第2制御電極11の中央板体11bには、線状の陰極9と対応する位置に、スリット状の開口部11aが形成されている。この開口部11aは、第1制御電極10の開口部10aよりも幅が小さく、第1制御電極10の開口部10aと同様にメッシュが設けられている。
【0025】
この実施形態によれば、電子源である陰極9は、その周囲を所定の電位が印加された第1及び第2制御電極10,11で囲われているので、容器部3の内面に帯電した電荷の影響を受けることがなく、陰極9の周囲の電位は安定的であり、陰極9からの電子の放出は安定している。
【0026】
なお、背面電極8は、容器部3と線状の陰極9との距離が十分保たれていれば、容器部3の帯電の影響が少ないため、設けなくてもよい。また、制御電極としては、前述した第1制御電極10及び第2制御電極11に加えて、線状の陰極9とX線ターゲット7の距離、管電圧、あるいはX線透過窓5から取り出すX線の集束度合いに応じて、その他の制御電極を適宜追加してもよい。また、第1制御電極10及び第2制御電極11は、前記基板4と同様、容器部3の熱膨張係数を略等しくするために、426合金を使用することが望ましい。
【0027】
図1に示すように、X線発生装置20は、X線管1の駆動電極群である背面電極8、陰極9、第1制御電極10、第2制御電極11にそれぞれ所定の駆動電圧を印加する駆動回路12を備えている。駆動回路12は、X線透過窓5に陽極が接続された1個の高電圧電源16aを備えており、X線透過窓5を最も高い電位(例えば+5kV)に設定できるようになっている。また駆動回路12は、陰極9と第1制御電極10と第2制御電極11の3つの電極にそれぞれ陽極が接続された3個の低電圧電源16bを備えており、これら3個の電極に0Vより大きい値の異なる正の低電位をそれぞれ印加できるようになっている。そして、1個の高電圧電源16a及び3個の低電圧電源16bの各陰極は、背面電極8に接続されるとともに接地されている。このように、X線管の駆動回路の陰極側を接地した構造を陰極接地と呼び、陰極接地の駆動回路でX線管を駆動することを陰極接地駆動と呼ぶ。このX線発生装置によれば、駆動回路を陰極接地したので、駆動回路に設ける高電圧電源の数はX線透過窓に高電圧を印加するための1個で済むようになり、陽極接地の場合に比べて製造コストが低減する。
【0028】
図1に示すように、X線発生装置20は、X線放射面となるX線透過窓5が設けれらた面とその直下に配置される除電対象物Wとの間に、X線発生装置20側からの電界を遮断するように、金属板からなる電界遮蔽電極13を有している。この電界遮蔽電極13は接地されているため、X線発生装置20が陰極接地駆動されてX線透過窓5に正の高電圧が印加されても、X線発生装置20側からの電界を遮断することができる。このため、除電対象物Wに正の電荷が帯電する逆帯電と呼ばれる不都合な現象が生じることはない。また、この電界遮蔽電極13にはX線透過窓5から放出されたX線を通過させるX線放射口14が形成されている。このX線発生装置20を除電装置の一部として用いた場合には、除電対象物Wに対してこのX線放射口14からX線が放射される。
【0029】
第1実施形態では、電界遮蔽電極13のX線放射口14にはメッシュ15が設けられている。X線放射口14は、このメッシュ15の疎密を変更することにより、その開口率を任意に設定することができる。これにより、電界遮蔽電極13のX線放射口14のX線通過率を任意に設定することができ、X線放射口14から放射されるX線の線量調整が可能となる。
【0030】
図2は、本発明者等の提案になるX線発生装置を用いた除電装置の除電特性を示している。図2において、二点鎖線で示したグラフはX線発生装置20を陽極接地駆動した場合の除電特性であり、実線で示したグラフはX線発生装置20を陰極接地駆動した第1実施形態の除電特性である。これらのグラフを比較すれば分かるように、本実施形態によれば、陽極接地駆動の場合と略同等の良好な結果が得られる。
【0031】
次に、図3を参照して上述したX線発生装置20をX線源に備えた除電装置30について説明する。
図3に示すように、除電装置30のX線源となるX線発生装置20のX線管1は、導電性を有する筐体21内に収容されている。X線管1と筐体21の内面との間には絶縁スペーサ22が設けられている。筐体21には、X線管1のX線放射面であるX線透過窓5と対向する壁部に、X線透過窓5から発生されたX線を通過させるための開口部23が形成されている。また、筐体21の開口部23が形成された壁部の外面には、上述した電界遮蔽電極13が設けられている。電界遮蔽電極13は、筐体21を介して接地されている。
【0032】
さらに、筐体21内には1つの高電圧電源24及びプリント基板25が配設されている。この高電圧電源24は、図3中に回路記号で示した駆動回路12中の高電圧電源16aを筐体21中に実際の配置で示したものである。また、駆動回路12中の低電圧電源16bは筐体21中には図示しないが前記プリント基板25上に配置されている。なお、図3中の符号26は、X線発生装置20、高電圧電源24及びプリント基板25を筐体21内の所定位置に保持するための絶縁性のスペーサである。
【0033】
この除電装置30では、X線発生装置20の下方に、除電対象物Wを搬送する搬送コンベア等の搬送系31が設けられている。このような搬送系31により搬送されてきた除電対象物Wは、搬送系31の上方の所定位置に配置されたX線発生装置20から放射されたX線を受けて除電処理される。
【0034】
なお、図3に示す除電装置30では、電界遮蔽電極13はX線発生装置20の筐体21の外面側に設けられているが、電界遮蔽電極13はX線発生装置20とは別体とし、例えば搬送系31の側(具体的には搬送系31のフレーム等)に固定される等の構成でもよい。
【0035】
図4は第1実施形態のX線発生装置20を備えた除電装置30において、電界遮蔽電極13のX線放射口14のメッシュ開口率(X線通過率に対応する)と除電速度の関係をあらわすグラフである。除電速度とは、一定の条件下において除電対象物の表面を除電するのに必要なX線の照射時間である。図4に示すように、メッシュ開口率が小さいほどX線の通過量が少ないので除電に要する時間が長くなり、この場合には搬送系31による除電対象物の搬送速度は相対的に遅くする必要がある。また逆に、メッシュ開口率が大きいほどX線の通過量が多くなるので除電に要する時間は短くなり、この場合には搬送系31による除電対象物の搬送速度を相対的に速くすることができる。図4において、除電対象物の種類や除電の目的に応じて、許容できる除電速度の範囲を合格と判定するものとし、その基準を例えば図4中の破線及び矢印で示すように除電速度1.2sec以下とすれば、メッシュ開口率が60%以上の場合に許容範囲内となる除電速度が得られる。なお、第1実施形態においては、電界遮蔽電極13のX線放射口14のメッシュ開口率は許容範囲内の除電速度が得られる80%に設定されている。
【0036】
上述した除電装置30によれば、X線発生装置20の駆動回路は陰極接地としたので、高価な高電圧電源はX線透過窓5のための1個だけで済み、その他の電極用の電源は安価な低電圧電源で済むので、除電装置30は製造コストが低減されて安価となる。また、X線発生装置20におけるX線透過窓5と除電対象物Wの間には接地された電界遮蔽電極13があるので、X線透過窓5にプラスの高電圧が印加されても除電対象物を逆帯電させることはない。
【符号の説明】
【0037】
1…X線管
3…容器部
4…基板
5…X線透過窓
6…窓部
7…X線ターゲット
9…陰極
10…制御電極(第1制御電極)
11…制御電極(第2制御電極)
12…駆動回路
13…電界遮蔽電極
14…X線放射口
15…メッシュ
16a…高電圧電源
16b…低電圧電源
20…X線発生装置
30…除電装置
31…搬送系
W…除電対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9