(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775066
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】神経治療のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 2/00 20060101AFI20150820BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
A61N1/42 Z
A61N1/36
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-502878(P2012-502878)
(86)(22)【出願日】2010年4月6日
(65)【公表番号】特表2012-522568(P2012-522568A)
(43)【公表日】2012年9月27日
(86)【国際出願番号】IL2010000289
(87)【国際公開番号】WO2010113164
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2013年4月5日
(31)【優先権主張番号】61/166,628
(32)【優先日】2009年4月3日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511237151
【氏名又は名称】ニューロニクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100066692
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 皓
(74)【代理人】
【識別番号】100072040
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100140028
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 義光
(74)【代理人】
【識別番号】100072822
【弁理士】
【氏名又は名称】森 徹
(72)【発明者】
【氏名】バロール、エヤル
(72)【発明者】
【氏名】ベントウィッチ、ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ファラン、サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】カッツ、アミール
【審査官】
佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−149028(JP,A)
【文献】
特表2008−543388(JP,A)
【文献】
特表2007−500053(JP,A)
【文献】
特開2008−79712(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/123147(WO,A1)
【文献】
特表2008−543416(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0058853(US,A1)
【文献】
特表昭59−500405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 2/00
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経治療のためのシステムであって、
(a)脳領域に神経刺激を与えるように構成された神経刺激(NS)モダリティと、
(b)脳領域にCTを与えるように構成された認知訓練(CT)モダリティと、
(c)前記神経刺激によって起こされた所定の定量化可能な生理的作用の量を受信し、神経治療セッションを実施するように構成されたプロセッサと
を備え、
前記治療セッションが、
iが、1〜M(ここで、Mは脳領域の数であり、Mは少なくとも1である)であって、
jが、j=1〜N(i)(ここで、N(i)は、脳領域iを刺激する回数であり、N(i)は少なくとも2である)である場合、
(1)前記所定の定量化可能な生理的作用を起こすように選択される量Pijの神経刺激を与えるために、前記NSモダリティを脳領域iに作動させることであって、前記所定の定量化可能な生理的作用が、j−1回目の前記NSモダリティの前記作動の発生の終了時に初期レベルを有し、前記所定の定量化可能な生理的作用のレベルが、前記NSモダリティの前記作動の終了後に、経時的に低下することと、
(2)前記CTモダリティを作動させて、脳領域iにCTを与え、前記CTモデリティを前記NSモダリティの前記作動の終了後、所定時間において作動させることと、
を含み、
j=2,...N(i)回目において、前記所定の定量化可能な生理的作用の前記レベルが、前記初期レベルの所定の割合よりも高い場合に、j回目の前記NSモダリティの作動を発生させるシステム。
【請求項2】
前記所定の定量化可能な生理的作用は、fMRI、EEG、PET、SPECT、ERP、認知測定法、EMG、及びMEP測定法のうちいずれか1つ以上によって定量化可能な作用である請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
Pijは、前記所定の定量化可能な生理的作用を起こすNSの最少量である請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記NSは、DC電流、AC電流、DC電圧、AC電圧、tDCS、EST、磁場、電場、RF放射、マイクロ波放射、赤外線放射、光放射、紫外線放射、X線放射、超音波、及び機械的波動の少なくとも1つを有するグループから選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記NSを、侵襲的に施行する請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記NSモダリティは、(A)2つ以上のNS源からNS、及び(B)2種類以上のNS、のうちの1つ又は両方を与えるように構成されている請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記CTは、日常的な物の名前の記憶、顔‐名前の連想、物‐位置の連想、展望的記憶課題の成績、現実見当識、時事についての質問/記憶、並びに、コンピュータを使用する単純なクロスワード又は迷路パズルを解くこと、を改善するように設計された課題を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記CTは、視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激、触覚刺激、及び空間記憶刺激を有するグループから選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記NSは、TMSである請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記TMSは、rTMSである請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
rTMSは、0.5Hz〜30Hzの周波数を有する請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記rTMSは、0.5〜5秒のパルス時間を有する請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記rTMS強度が、運動閾値の40%〜110%の範囲内である請求項10に記載の
システム。
【請求項14】
前記CTモダリティを、前記NSモダリティの作動の終了後15秒以内に作動させる請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記NSモダリティの連続する2回の作動が、5秒〜120秒間隔で行われる請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記NSを、非侵襲的に施行する請求項1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療デバイスに関し、より詳細には、神経及び/又は精神疾患又は病気を治療するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明を理解するに当たり、以下に記載の非特許文献1〜9及び特許文献1が関連するものと考えられる。
【0003】
認知症は、それまで健常だった人における、通常の加齢から予測され得るものよりも深刻な認知能力の喪失である。それは、特有の全脳損傷による静的な(変化の無い)ものであったり、身体の損傷又は病気による長期低下に至る進行性のものであったりする。認知症は、老年人口にはるかに多く見られるが、成人期のどの段階でも起こり得る。徐々に発症し数年かけて進行的に悪化する認知症は、通常、神経変性疾患によって、つまり、脳のニューロンに対してのみ又は最初に影響してこれらの細胞の機能を徐々にしかし不可逆的に喪失させる病気によって引き起こされる。
【0004】
認知症は、非特異性疾病の症候群であり、影響を受ける認知の分野には、記憶、注意力、言語能力、及び問題解決力、並びに、基本的・手段的日常生活動作(ADL)、社会スキル、及び行動障害がある。
【0005】
特に病気の後期には、痴呆症者は、時間について(何曜日か、何日か、さらには何年か、が分からない)、場所について(どこにいるか、が分からない)、人について(痴呆症者自身又は彼らの周囲の他の人達が誰か、が分からない)、見当識障害が起こる。
【0006】
認知症の原因は、症状が現れる年齢による。高齢者人口(通常、この文脈では、年齢が65歳よりも上の人口として定義される)において、認知症例の大部分は、アルツハイマー病及び血管性認知症によって起こる。レビー小体型認知症は、他の原因としてかなり一般的であり、これも他の原因のいずれか又は両方と同時に起こりうる。甲状腺機能低下症によって、その主症状として緩徐進行性の認知機能障害が起こることもあり、これは治療によって完全に回復が可能である。正常圧水頭症は、比較的まれであるが、治療によって進行を抑え病気の他の症状を改善することができるため、識別することが重要である。しかしながら、認知力の大幅な改善はまれである。
【0007】
単一の事象として起こる、様々な種類の脳損傷によって、不可逆性だが変化の無い認知機能障害を起こしうる。外傷性脳損傷は、脳の白質に対する全般的な損傷、又はより局所的な損傷を起こす。脳への血液や酸素の供給の一時的な低下によって、低酸素性虚血性障害を引き起こしうる。脳に影響を及ぼす脳梗塞(虚血性脳卒中、若しくは脳内出血、くも膜下出血、硬膜下出血、又は硬膜外出血)又は感染症(髄膜炎及び/又は脳炎)、長期性てんかん性発作、及び急性水頭症も、認知力に長期に亘る影響を及ぼす。過剰なアルコール摂取も、アルコール性認知症及びコルサコフ精神病のいずれかを起こしうる(また、他のあるレクレーショナル・ドラッグも物質誘因性の持続性認知症を起こしうる)が、過剰摂取を止めると、認知機能障害は持続するが進行はしない。
【0008】
アルツハイマー病(AD)は、アルツハイマー型老年性認知症(SDAT)、又は単にアルツハイマーとも呼ばれ、認知症の最も一般的な形態である。アルツハイマー病は、不治の、退行性の、終末期疾患であり、一般的に、年齢が65歳を超える人々において診断されるものであるが、早期発症型アルツハイマー病は、流行率は低いが、より若い年齢で起こりうる。2006年には、世界中で2,660万人の患者がおり、年齢が80歳を超える人々の約3分の1がアルツハイマー病を患っていた。アルツハイマーは、2050年までに、世界中で85人に1人が罹患すると予測されている。ADに対する公共支出は莫大であり、米国単独でも年間1,000億ドル近くに達し、欧州のうち大国7カ国では年間2,500億ドルを超える。
【0009】
アルツハイマー病の経過は個々人によって特有であるが、多くの共通の症状がある。初期段階において、最も一般的に認識される症状には、最近学んだ事実を覚えるのが難しいといった、記憶喪失がある。診断は通常、行動評価及び認知テストによって確認され、続いて脳スキャンが行われる場合もある。病気が進行すると、症状に混乱、興奮、攻撃性、気分変動、言語障害、長期記憶喪失、並びに、患者の感覚が低下するにつれて全体的に引き籠もること等が含まれるようになる。徐々に身体機能が失われ、最終的には死に至る。
【0010】
現在使用されている治療方法は、症状に対して軽微な恩恵しかもたらさず、病気の進行を(3〜6ヶ月以上)大幅に遅らせたり、又は止めたりする治療法はまだ無い。可能性のある防止法及び病気に対処する道理にかなった方法として、精神的刺激や運動、バランスのとれた食事が提案されている。今日のほとんどの患者には、脳内のアセチルコリン濃度を上昇させるコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)系の薬が投与される。しかしながら、この薬によってもたらされるどの改善もわずか3カ月しか持続せず、患者は再び通常のように悪化し始める。
【0011】
経頭蓋磁気刺激法(TMS)は、急激に磁場を変化させることにより弱電流を脳組織に誘引することで、脳内のニューロンを刺激する非侵襲的な方法である。MRIに基づく神経ナビゲーション制御により、TMSの対象に対する精度を、約数ミリメートルの誤差で決定することができる。一般的な治療パラメータは、磁場強度が、コイル表面上で約2テスラ、大脳皮質内で0.5Tであり、(ゼロからピークまでの)電流立ち上がり時間が、約50〜150マイクロ秒である。波形は単相性でも二相性でもよい。不快感を最小限に抑えながら、脳活動を誘引し、脳の回路及び結合の機能性を観察することができる。高周波(>5Hz)及び低周波(≦1Hz)のrTMS両方が採用されており、前者は主に興奮性の正味効果を有し、後者は主に抑制性の正味効果を有すると考えられている。
【0012】
単発又は二連発パルスTMSにおいて、パルスによって、刺激部位下の新皮質内のニューロンを脱分極させて活動電位を放電する。脳の一次運動野において使用する場合は、運動誘発電位(MEP)と称される筋肉の活動を発生させ、筋電図検査法(EMG)によって記録することができる。後頭皮質に対して使用する場合は、「眼内閃光(光のフラッシュ)」が被験者によって感知されることがある。大脳皮質の他のほとんどの領域では、参加者は何の効果も自覚的には経験しないが、参加者の挙動がわずかに変化したり(例えば、認知課題における反応時間が遅くなったり早くなったりする)、脳活動における変化が、ポジトロン断層法(PET)や脳波検査(EEG)、又はMRIによって検出されうる。
【0013】
単発又は二連発パルスによる効果は、刺激時間より長く持続はしない。反復TMS(rTMS)では、刺激時間よりも長く続く効果が生じる。rTMSの反復速度は、1Hz未満(「遅速TMS」)から1Hz超(「高速TMS」)としうる。rTMSは、刺激の強度やコイルの配向性、刺激の周波数に応じて、皮質脊髄路や皮質間経路の興奮性を増加又は減少させることができる。特定の脳の領域に関連する認知プロセスに対するrTMSのこの効果は、絵画命名課題に対するTMSの効果を試験した研究において、rTMSの終了後約30秒間持続することが観察されている(非特許文献5及び6)。しかしながら、rTMSの全体的な効果は、刺激時間よりも1〜2時間ほど長く続きうる(非特許文献3及び4)。
【0014】
TMSは、認知心理学/神経科学において因果関係を実証するために使用されてきた。被験者がある特定の課題を行う時、脳のどの領域が活性化されるかを判断するために、fMRIのような非侵襲的なマッピング技法が使用される。TMS刺激によって、関連する領域における活動が抑制(「ノックアウト」)され、被験者がそれ以前よりもその課題を上手く行えない場合、これは、その領域がその課題を行う際に使用されていることを示していると考えられる。
【0015】
例えば、一連の数字を記憶し繰り返すように要求された被験者の場合、一般的に、fMRIによる前頭前皮質(PFC)の活性化を示し、短期記憶でのこの脳領域の関連性を示す。PFCがTMSによって干渉されると、一般的に、被験者の数字を記憶する能力が低下し、PFCが短期記憶に関与していることを示す。
【0016】
rTMSは、鬱病を治療するための確立された方法である。また、TMS及びrTMSは、弱視や筋萎縮性側索硬化症、統合失調感情障害を伴う幻聴、慢性疼痛、失語症、ジストニア、てんかん、線維筋痛症、半側空間無視、主要な鬱病からくる片頭痛、強迫性障害、パーキンソン病、幻肢、脳卒中、非流暢性失語、及び耳鳴のような様々な病気の治療において研究されている。しかしながら、現在まで結論は出ていない。
【0017】
最近の研究では、Cotelli等が、アルツハイマー型認知症(AD)患者のグループに対して、物体・行動命名課題の最中に、左右のdlPFC(前頭前野背外側部)を刺激した。rTMS直後の行動命名課題の成績が、偽(Sham)刺激と比較して、両左右dlPFCに対する高周波刺激の間、全ての被験者において改善した(非特許文献1及び2)。しかしながら、これらの結果は、刺激の施行中に測定された、特定の認知テストにおける即時の一時的な改善を提示しているにすぎないことは注意すべきである。
【0018】
認知訓練とは、作用の機構に関わらず、認知機能を改善するように設計されたあらゆる非薬理学的な介入治療を指す。一般的に、認知訓練は、基本的・手段的日常生活動作(ADL)、社会スキル、及び行動障害のような機能に関する特定の認知領域、又は認知に関与する領域に焦点を当てている。認知訓練には、認知刺激、記憶リハビリテーション、現実見当識訓練、及び神経心理学的リハビリテーションが含まれる。1980年〜2004年の間の、早期ADのための認知訓練をテストした研究の最近のメタアナリシスは、認知訓練が効果的であることを裏付けている。具体的には、中程度の効果量が、学習、記憶、実行機能、ADL、全般的認知問題、鬱病、及び自己評価された全般的機能に関して観察された(Sitzer,D.I.等)。
【0019】
特許文献1には、中枢神経系に関連する病状を治療するためのシステム及び方法が開示されている。脳領域を、電場又は磁場で刺激する。該脳領域の認知機能も刺激される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】国際公報第WO2009/044271号
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Cotelli等,Archives of Neurology 2006;63:1602−1604
【非特許文献2】Cotelli等,European Journal of Neurology 2008,15:1286−1292
【非特許文献3】Hallett,Nature 2000;406:147−50
【非特許文献4】Maeda等,Exp Brain Res 2000;133:425−30
【非特許文献5】Mottaghy等,Behavioral Neurology 17(2006),177−186
【非特許文献6】Mottaghy等;Neurology 53(8)(10 Nov 1999),1806−1812
【非特許文献7】Oder等,The British Journal of Psychiatry(2005)187:450−455
【非特許文献8】Orrelli等,Int J Geriatr Psychiatry 2005;20:446−451
【非特許文献9】Spector等,The British Journal of Psychiatry (2003)183:248−254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、rTMSのような神経刺激を認知訓練と組み合わせることによって相乗効果が生まれ、神経刺激と認知訓練との両方を使用して様々な神経疾患の治療を行うことによって、神経刺激又は認知訓練のいずれかのみによって得られる結果よりも優れた結果を得ることができるという新規且つ予想外の発見に基づく。特に、本発明者らは、神経刺激と認知訓練とを組み合わせた治療後の認知能力の改善が、神経刺激及び認知訓練のいずれか1つを使用して得られる改善よりも長く持続しうることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0023】
従って、本発明は、その第1の態様において、神経治療のためのシステム及び方法を提供する。本発明のシステムは、脳領域に神経刺激を与えるように構成された神経刺激(NS)モダリティと、同一の脳領域に認知訓練を与えるように構成された認知訓練(CT)モダリティとを備える。プロセッサは、神経刺激モダリティ及び認知訓練モダリティを作動させて、少なくとも2回のNSの施行及び2回のCTの施行からなる治療計画を実施するように構成されている。一般的に、NSによって、治療を受けている脳領域に、定量化可能な生理的刺激作用が起こる。この生理的刺激作用は、NSの終了時の初期レベルを有し、この生理的作用のレベルは、時間と共に低下する。本発明の一実施例において、NSによって起こされた生理的作用のレベルが、該生理的作用の初期レベルの所定の割合よりも高い間、当該脳領域に対してCTを与える。特定の理論に縛られるわけではないが、NSによって起こされる生理的作用が通常経時的に低下すること、及びNSのレベルが依然として非常に高いうちにCTを施行すると、該CTの有益な効果が高まることが考えられる。この効果は、NS及びCTのサイクルを繰り返すことによってさらに高められ、NSの生理的作用が非常に高い間に、CTの各施行が行われる。
【0024】
神経刺激は、rTMSでもよく、この場合、一般的には、rTMSの終了後直ちにCTを開始し、約10〜120秒間続ける。
【0025】
本発明の他の実施例において、NSは、TMS、DC電流、AC電流、tDCS、EST、磁場、電場、RF放射、マイクロ波放射、IR放射、光及び紫外線放射、任意の形態のX線、超音波、若しくは任意の形態の機械的波動のうちのいずれか1つ以上、又はそれらの任意の組み合わせとすることができる。NS源は、非侵襲的であっても侵襲的であってもよい。NSは、刺激型(例えば、対象の領域の脳活動を高める)であっても、抑制型(例えば、対象の領域の脳活動を抑制する)であってもよく、全ては臨床目標による。
【0026】
NS及び/又はCTは、例えば、アルツハイマー病、認知症、軽度認知機能障害、記憶喪失、加齢、ADHD、パーキンソン病、鬱病、嗜癖、物質乱用、統合失調症、双極性障害、記憶力向上、知能向上、集中力向上、幸福感・気分向上、自尊心向上、言語能力、話術、語彙に関するスキル、明瞭に発音するスキル、覚醒、集中、リラクゼーション、知覚スキル、思考・分析スキル、実行機能、睡眠の向上、運動スキル、協調スキル、スポーツスキル、音楽スキル、人間関係スキル、社会スキル、及び感情的スキルに関連する脳領域内のいずれか1つ又は複数の脳部位に対して向けてもよい。
【0027】
NS又はCTによって刺激される脳領域のうちのいずれか1つ以上は、例えば、左前頭前野、前頭葉、帯状回、大脳半球、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、小脳扁桃、小脳、海馬、アンスレオナル(anthreonal)、ピーボディ(Peabody)、斑、濃縮体、脳幹、硬膜、脳梁、皮質下領域、大脳皮質、脳回、白質、又は灰白質とすることができる。
【0028】
CTは、例えば、日常的な物の名前の記憶、顔‐名前の連想、物‐位置の連想、展望的記憶課題の成績、現実見当識、並びに、時事についての質問/記憶、コンピュータを使用する単純なクロスワードパズル及び迷路等のような認知を刺激する様々な課題の実行等を改善するように具体的に設計された課題とすることができる。CTは、視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激、触覚刺激、又は空間刺激とすることができる。
【0029】
CTは、NSによって活性化された領域と同じ脳領域、又はそれとは異なる脳領域を訓練するように選択することができる。表1に、幾つかの特定の脳領域に向けられると考えられるCTの例を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
従って、その第1の態様において、本発明は、神経治療のためのシステムであって、
(a)脳領域に神経刺激を与えるように構成された神経刺激(NS)モダリティと、
(b)脳領域にCTを与えるように構成された神経刺激(CT)モダリティと、
(c)神経治療セッションを実施するように構成されたプロセッサと
を備え、
前記治療セッションが、
(i)i回(i=1〜M(ここで、Mは脳領域の数))、
j回(j=1〜N(i)(ここで、N(i)は第1脳領域iを刺激する回数であり、N(i)は少なくとも2である)、
(a)前記NSモダリティを、所定時間Tij作動させることと、
(b)前記CTモダリティを、前記NSモダリティの作動に応じた所定時間作動させて、第2脳領域にCTを与えることと
を行うこと
を行うこと
を含むシステム。
【0032】
本発明のシステムは、例えば、任意の形態の認知症若しくは他の加齢性の病気の治療、任意の形態の神経性の病気の治療、又は任意の形態の精神性の病気の治療に使用してもよい。第1脳領域は、第2脳領域と同一であってもよく、若しくは、第1脳領域と第2脳領域とは異なっていてもよい。NSは、非侵襲的に施行しても侵襲的に施行してもよい。
【0033】
脳領域iに対するj回目のNSモダリティの作動の発生は、量Pijの神経刺激を該脳領域iに与えることを含んでもよく、ここで、神経刺激Pijが、所定の生理的作用を起こす。生理的作用が、NS作動の終了後経時的に低下する初期レベルを有してもよい。j=2,...N(i)回目において、j−1回目のNSモダリティの作動の発生によって起こされた上記所定の生理的作用のレベルが上記初期レベルの所定の割合よりも高い場合に、j回目のNSモダリティの作動を発生させてもよい。上記生理的作用は、fMRI、EEG、PET、SPECT、認知測定法、EMG、及びMEP
測定法のうちいずれか1つ以上によって定量化可能な作用であってもよい。Pijは、所定の生理的作用を起こすNSの最少量であってもよい。
が、所定の定数未満であってもよい。該所定の定数は、
が前記所定の定数未満の場合所定の副作用が起こらないように選択してもよい。
【0034】
NSモダリティは、2つ以上のNS源からNSを与えるように構成されてもよい。NSモダリティは、2種類以上のNS刺激を与えるように構成されてもよい。
【0035】
NSは、DC電流、AC電流、DC電圧、AC電圧、tDCS、EST、磁場、電場、RF放射、マイクロ波放射、赤外線放射、光放射、紫外線放射、X線放射、超音波、及び機械的波動のうちいずれか1つ以上を含んでもよい。
【0036】
CTは、日常的な物の名前の記憶、顔‐名前の連想、物‐位置の連想、展望的記憶課題の成績、現実見当識、時事についての質問/記憶、並びにコンピュータを使用する単純なクロスワードパズル及び迷路を改善するように設計された課題を含んでもよい。CTは、視覚刺激、聴覚刺激、嗅覚刺激、触覚刺激、及び空間刺激から選択されてもよい。
【0037】
NSは、TMSであってもよく、該TMSは、rTMSであってもよい。該rTMSは、例えば、0.5Hz〜30Hzの周波数を有してもよい。該rTMSは、例えば、0.5〜5秒のパルス時間を有してもよい。該rTMSは、例えば、運動閾値の40%〜110%の範囲内のrTMS強度を有してもよい。
【0038】
本システムのCTモダリティは、NSモダリティの作動の終了後15秒以内に作動させてもよい。NSモダリティの連続する2回の作動が、5秒〜120秒間隔で行われもよい。
【0039】
その第2の態様において、本発明は、
神経治療のための方法であって、
(ii)i回(i=1〜M(ここで、Mは脳領域の数)、
j回(j=1〜N(i)(ここで、N(i)は、第1脳領域iを刺激する回数であり、N(i)は少なくとも2である)、
(a)神経刺激(NS)モダリティを所定時間作動させ、
(b)認知訓練(CT)モダリティを、前記NSモダリティの作動に応じた所定時間作動させて、第2脳領域にCTを与えること
を行うこと
を行うこと
を含む方法を提供する。
【0040】
本発明を理解し実際にどのように実行されるかを知ることができるよう、添付の図面を参照しながら非限定の例を用いて、以下に実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の一実施例に係る神経訓練のためのシステムを示す。
【
図2】本発明の一実施例に係る訓練セッション・プロトコルを示す。
【実施例1】
【0042】
図1は、本発明の一実施例に係る神経治療のためのシステム2を示す。システム2は、神経刺激を受ける被験者が座る椅子3を含む。システム2は、神経刺激装置を備える。該神経刺激装置は、本実施例においては、TMSモダリティ4である。該TMSモダリティ4は、ケーブル8によってTMS/rTMSコントローラ5に接続されたTMSコイル6と、医療用トランス7とを備える。空気ハンドラー10が、コイル6を介して空気を吸引することによってコイル6を冷却する。また、コイルの温度を安全限度以内に保つために、該温度は治療中監視される。
【0043】
本システムは、CTを与えるように構成されたCTモダリティ22を更に備える。例えば、CTの刺激が視覚刺激である場合には、CT装置は、表示画面24と、キーボード26のような被験者入力装置とを含む。表示画面24は、椅子3に座った被験者が見るのに便利なように配置されており、入力装置26は、被験者が使用するのに便利なように位置付けられている。
【0044】
TMSモダリティ4及びCTモダリティ22は、プロセッサ34の制御下にある。ユーザ入力端子28は、表示画面30と、キーボード32のようなユーザ入力装置とを含む。プロセッサ34は、訓練プロトコルに関するデータ及びMRI画像を含む被験者に関するデータを保存するとともに訓練セッションに関するデータを保存するためのメモリ38を含む。プロセッサ34は、MRIにおいて示される脳領域にTMSを与えるために、TMSコイル6を、予め取得したMRI画像に登録する。プロセッサ34は更に、1つ以上の所定の治療プロトコルを実施し、訓練セッション中に与えられるCTに対する被験者の反応を収集し、収集したデータをメモリに保存し、そしてデータを分析するように構成されている。
【0045】
治療セッションは、1つ以上の脳領域を治療することを含む。本発明の本実施例によれば、治療する各脳領域に対して、TMSモダリティをまず作動させて治療対象の脳領域に対してrTMSを与える。ここで、rTMSのパラメータは、NSによって、所定の生理的作用が、少なくとも治療対象の脳領域に対して起こるように選択され、ここで該生理的作用は、NSの終了後経時的に低下する初期レベルを有する。そして、
所定の生理的作用のレベルが上記初期レベルの所定の割合よりも依然として高いうちに、CTモダリティを作動させてCTを脳領域に対して与える。CTが後に続くこのサイクルrTMSは、治療の有効性を確実なものにするために数回繰り返してもよい。NSの次の回は、
所定の生理的作用のレベルが治療計画の間初期レベルの所定の割合よりも低くならないことを確実にするために、前回のNSの後十分に短い時間内に開始する。
【0046】
生理的作用は、例えば、fMRIによって定量化可能な作用であってもよい。
【0047】
図2は、第1の所定の脳領域に対する一般的な治療プロトコルを示す。該プロトコルは、時間Ta間のrTMSからなる第1サイクル40で開始される。時間Taは、例えば0.1〜10秒、好ましくは1〜4秒とすることができ、その後に第1中間時間Tb(例えば0〜10秒の時間)が続き、その後、時間Tc(例えば5〜300秒、好ましくは10〜60秒の時間)間のCT、そして第2中間時間Td(0〜10秒)へと続く。時間間隔Tb+Tc+Tdは、生理的作用のレベルがNSの終了時に示された生理的作用の初期レベルの一定の割合を上回るように十分短く選択される。
【0048】
rTMSの周波数は、0.1Hz〜50Hz、好ましくは5〜20Hzの範囲内とすることができ、rTMSの連続する回の間の時間は上記したようにすることができる。そして、第1サイクル40の後には、TMS、第1中間時間、CT、及び第2中間時間からなる少なくとも1つの追加サイクル42が続く。各サイクル中、CTが、TMS後の脳領域が刺激を受けた状態で与えられる。プロトコルは、TMSを与えない(コイル6を励磁しない)制御サイクルを含んでいてもよい。
図2のプロトコルは、その後、1つ以上の追加の脳領域のそれぞれに対して繰り返してもよい。
【実施例2】
【0049】
イスラエルで行われた臨床研究において、軽度〜中等度のアルツハイマー患者(DSM−IVR)(ミニメンタルステート検査(MMSE)で18〜24)に対して、本発明のシステムによって治療を施した。この治療では、NSを周波数10HzのBiPhasic(二相性)rTMSとし、パルス時間を2秒とし、繰り返し速度を30〜50秒とした。rTMS強度は、運動閾値の80〜90%にセットした。治療を施した脳領域は全部で6つあり、そのうち3つをそれぞれの日に治療した。脳領域は、ADによって影響を受け劣化していると分かる領域として選択した。治療を施した脳領域は、ブローカ野、ウェルニッケ野、左体性運動野、右体性運動野、右背外側前頭前皮質、及び左背外側前頭前皮質である。これらの領域の位置を、MRIスキャンによって確認した。各脳領域に、20列のパルス、合わせて400パルスを印加した。患者は、合計で一日当たり1,200パルスまで印加された。CTは、NS列の終了に続き直ちに又は5秒以内に開始し、次のNSパルス列が施されるまで30〜50秒続けられた。患者の認知成績を、ADAS−COG(アルツハイマー病評価尺度認知機能検査)で測定した。ADAS−COGは、治療前、6週間の毎日のセッションを終了後3〜6日間の間、及び3か月間の1週間に2度の治療セッションを終了後3〜10日間の間に、AD治療(例えば、FDAによって認可された薬剤を含む)を評価するための標準検査である。治療の結果、患者のADAS−COGのスコアは、(6週間の治療の後)−4.2ポイント、その後の3か月間の治療の後では、さらに−4.0ポイント改善した(どちらも統計的に有意、p<0.05)。
【0050】
比較すると、CTのみでは、約−0.5〜−2しか改善できないと報告されている(例えば、非特許文献7,8,及び9を参照)。
【0051】
TMS又はrTMSのみの治療に関しては、本発明者らは、AD患者の治療直後にのみ観察された一時的な効果(例えば、非特許文献2参照)以外の認知機能の改善を示すような文献は確認していない。