【課題を解決するための手段】
【0009】
その課題は、請求項1に記載の混合物によって、およびin vivo細胞(膜)修飾方法によって、および従属請求項に従ってこのやり方で調製された細胞によって解決される。その方法は、任意の細胞膜と本発明の両親媒性分子の混合物との間の膜融合に基づく。これによって、生物学的または薬学的に関連する分子を融合によって細胞内部および/または細胞膜に組み入れることができ、かつ/またはその表面でそれらに連結することもできる。その混合物は、単一の細胞だけでなく、有利には組織または組織切片にも使用可能である。
【0010】
融合混合物
両親媒性分子の混合物は、親水性領域に正の総電荷を担持する両親媒性分子種Aと、親水性および/または疎水性領域に非局在化した電子系を形成する両親媒性分子種Bとを有する。
【0011】
したがって、非局在化した電子系を有する分子種Bは、共役二重結合および/または自由電子対(freie Elektronenpaare)および/または空のp軌道によって形成される、本発明の少なくとも1種(または複数種)の環状構造モチーフを含む。これらは、ヒュッケル則に従う。
【0012】
特に有利には、非局在化した電子系中の分子種Bの共有結合性隣接原子は、0.4以上の電気陰性度の差(Δχ)を有する。この法則を満たす分子種Bは、融合効率を上げる。
【0013】
さらになお、分子種Bにおいて、非局在化した電子系を形成する基Rが疎水性領域または親水性領域に結合していることが有利である。
【0014】
本発明の一形態において、その混合物は、分子種Aとして1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)を含む。
【0015】
分子種Bは、本発明のさらなる一形態では、非局在化した電子系を有する蛍光色素が結合しているリン脂質によって形成される。しかしながら他の色素、例えばアゾ色素を、リン脂質に結合させることもできる。
【0016】
分子種Bのリン脂質として、混合物中に特に1−ヘキサデカノイル−2−ドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンまたは1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、または1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンが提供される。
【0017】
分子種Bにおいて非局在化した電子系は、有利には次に挙げるような基Rによって形成される:2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)またはN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)またはリサミンローダミンBスルホニルまたは(5−(クロロスルホニル)−2−(1H,2H,3H,5H,6H,7H,11H,12H,13H,15H,16H,17H−ピリド[3,2,1−ij]キノリジノ[1’,9’:6,7,8]クロメノ[2,3−f]キノリン−4−イウム−9−イル)ベンゼンスルホネートまたは7−ニトロ−2−1,3−ベンゾオキサジアゾール−4−イルまたはカルボキシフルオレセインまたは1−ピレンスルホニル。
【0018】
明記された分子種Bの基本構成要素、すなわち例えばリン脂質と、前記基Rとは、自由に相互に組み合わせ可能であって、すなわち色素のそれぞれがリン脂質に結合することができる。
【0019】
融合混合物は、既知の融合混合物に比べて広範にわたる利点を有する。その混合物は、全ての(哺乳動物)細胞型で、したがって普遍的に使用可能である。そのうえその混合物は、高効率であって(>50%)、融合によって細胞に損傷も発生しない。したがって細胞は、融合後に無制限に分裂可能である。そのうえその混合物は、組織切片にも使用可能である。さらなる利点は、例えば方式3に挙げられたように、特異的分子で細胞膜を官能化することによって達成される。
【0020】
本発明の混合物にさらなる両親媒性分子種Cをヘルパー分子として提供することができる。
【0021】
これに加えて、特に1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)が分子種Cとして存在することができる。
【0022】
分子種A、BおよびCの好ましい比は、約1:0.05〜0.2:1wt/wtである。
【0023】
上記混合物は、最大99%wtの両親媒性分子種A、40%wtの両親媒性分子種B(基Rを有する)、および最大70%wtの両親媒性分子種Cを含む。
【0024】
本発明の方法のために、任意の混合物が有機溶媒に溶解され、十分に均一化される(例えばボルテックス、超音波)。その溶媒は、例えば真空中で除去され、分子種の乾燥混合物を水性緩衝液に溶解させる。この混合物は、冷却すると長期保存可能である。
【0025】
特に好ましくは分子種A、BおよびCは、脂質として存在する。次にこれらは、水性緩衝液中に入れられるとリポソームを形成する。リポソームが好ましいのは、すぐれた方式でさらなる分子種を細胞膜内および細胞膜に接して配置することができ、リポソームに封入された分子をリポソームと細胞膜との融合の間に細胞内に導入することもできるからである。
【0026】
したがって、とりわけ好ましくは、その混合物はリポソームとして存在する。特に有利には本発明のリポソームによって、細胞の好ましい修飾へと導くことができるさらなる分子をその中に配置することができるようになる。
【0027】
しかし、分子種Aおよび/またはBおよび/またはCとして脂質の代わりにポリマーを挙げることも考えられる。
【0028】
in vivo細胞修飾のための本発明の方法のために、細胞膜を有する選択された細胞を、好ましくは緩衝化された混合物、場合によってはリポソームと接触させる。接触過程は、有利には融合の間にわずか数分、例えば1〜120、好ましくは10〜30分間継続する。単一の細胞は、有利には混合物、場合によりリポソームと接触直後にこれと融合する。細胞組織は、状況によっては幾分長い時間、すなわち最大約120分間を必要とする。リポソームのエンドサイトーシスは、融合と厳密に区別すべきである。
【0029】
この方法は、技術の現状に比べてそして短い接触時間で高い割合の、混合物またはリポソームと融合した細胞を示す。そこからの効率は、有利には50%よりも大きい。
【0030】
その方法の間に、本発明の混合物に多様なさらなる分子を供給することができる。これに関して本発明の方法は、多面的であって頑健であることが実証される。それに関して、多数の異なる機能的な分子種を個別にまたは同時に混合することができ、それで膜だけではなく細胞の所望の修飾へと導くことができる。vivo系であることから、細胞は機能的なままである。
【0031】
例示的に、親水性領域に官能基を有する、特に官能基としてキレート基を有する両親媒性分子種Dを、分子種A、Bおよび場合によりCを有する本発明の混合物に供給することができる。その場合、その混合物は、例えば分子種A、B、Dおよび場合によりCを含む。官能基は、混合物、場合によりリポソームと、細胞の細胞膜との融合の間に細胞膜表面に配置される。
【0032】
このアプローチを用いて、細胞膜表面を特異的に修飾および官能化することができる。これに対して官能基は、細胞表面から外側に突出し、さらなる化学基によって狙いを定めた修飾が可能である。これは、本発明の特に有利な一形態において、癌治療の成功へと導くことができる。
【0033】
したがって本発明の一混合物は、この目的のために例えば、分子種Aとして1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパンおよび分子種BとしてN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Cとしてトリエチルアンモニウム塩/1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Dとして1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)を例えば1:0.1:1:0.002wt/wtの混合比率で含む。
【0034】
次に、記載されたさらなる細胞修飾は、6×ヒスチジンリピートに結合した腫瘍壊死因子(TNF)αの添加によって行われる。これは、方式3(下記参照)に挙げられたような癌療法の成功へと導く。
【0035】
両親媒性分子種E、特に分子種EとしてのバクテリオロドプシンまたはグリコホリンAまたはインテグリンをその混合物に供給することができ、融合の間に細胞の細胞膜中に配置することができる。
【0036】
さらになお、予め乾燥された混合物の緩衝化溶液に、非両親媒性の親水性分子種Fも供給し、融合の間に細胞内腔に送達することができる。分子種Fに関して、特にRNA、DNA、Ca
2+、ペプチド、タンパク質または薬剤、例えばアセチルサリチル酸が含まれる。
【0037】
同様に非両親媒性の疎水性分子種Gを、同時にその混合物に供給し、融合の間に細胞膜中に配置することができる。これに関して、特にコレステリン、ビタミンA、D、EおよびK、またはコルチゾンのような薬剤が含まれる。
【0038】
全ての分子種A、B、C、D、場合によりGは、有機溶媒に溶解し、均一化することができる。それを続いて乾燥させ、水性緩衝液に溶解させ、保存することができる。水性緩衝溶液に溶解させる際に、前記分子種Eおよび/Fを混合することができる。その際に分子種の性質に応じて、有利には分子種A、B、C、D、E、F、Gからリポソームを形成させることができる。
【0039】
以下の分子は、膜との融合により細胞膜を修飾するための融合混合物の製造に使用することができる。後に続く列挙は網羅的でも限定的でもない。
【0040】
分子種Aの実施例:
分子Aの基準は、(a)その分子が少なくとも一つまたは複数の正電荷を有する親水性領域を有することによって、その分子の親水性部分の合計電荷が正であることである。この分子の課題は、負荷電した細胞膜近辺に静電力によって上記融合混合物をもたらすことである。(b)加えて疎水性領域は、好ましくは二重結合を有するかまたは有さないC
10〜C
30−部分を有する。有利には、二重結合によって、生成したリポソームの膜が弾性になり、それによってリポソームと細胞膜との融合が容易になる。(c)本発明の混合物中の分子種Aの割合は、最大99wt/wt%でありうる。
【0041】
例えば1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)、N−(2,3−ジオレイルオキシプロピル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、または(1−[2−(オレオイルオキシ)エチル]−2−オレイル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DOTIM)のような分子が適切である。
【0042】
第一の例として、DOTAP(1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(塩化物塩))が挙げられる。
【0043】
【化1】
【0044】
分子種Bの実施例:
本発明の融合誘導性分子としての両親媒性分子種Bの基準は、以下の通りである。(a)それは、電荷を有するかまたは好ましくは電荷を有さない親水性領域を有さなければならない。(b)そしてそれは、二重結合を有するかまたは有さない疎水性領域、好ましくはC
10〜C
30−部分を有さなければならない。二重結合の機能については種Aを参照されたい。(c)その分子は、疎水性および/または親水性領域のいずれかに、非局在化した電子系を有する基(R)を有する。それによって、共役二重結合および/または自由電子対および/または空のp軌道からの環状構造モチーフが意図される。
【0045】
基Rにおいて、共有結合した隣接原子の間の電気陰性度の差が大きいことが特に好ましい。これは、特に有利には少なくとも0.4(Δχ≧0.4)でありうる。これは、高められた分極率に役立ち、融合にプラスの影響を及ぼす。(d)混合物中の融合誘導性分子種Bの割合は、最大40wt/wt%に調整することができる。
【0046】
後に続く表に、種Bの分子について関連する基Rをいくつか要約する。
【0047】
【表1】
【0048】
分子種Bの第1の例(β−BODIPY−C
12−HPC):
2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)はβ−BODIPYであり、基Rを意味する。この基Rが、1−ヘキサデカノイル−2−ドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(C
12−HPC)に結合している。両者は一緒になって次の構造式を与える:
【0049】
【化2】
【0050】
分子種Bの第2の例(BODIPY FL DHPE):
N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)はBODIPY−FLである。この基Rが、DHPE(1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩))に結合している。両者は一緒になって次の構造式を与える:
【0051】
【化3】
【0052】
分子種Bの第3の例(「DiO」):
DiOC
18(3)3,3’−ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩。この分子は、最初の2つの分子Bのように脂質と結合した色素ではなく、それ自体次の構造式で示される両親媒性の分子である:
【0053】
【化4】
【0054】
分子種Bの第4の例(LR−DOPE):
リサミンローダミンBスルホニルが基Rである。これは、両親媒性分子としての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)に結合している。両者は次の構造式を与える:
【0055】
【化5】
【0056】
分子種Bの第5の実施例(Texas Red(登録商標)−DHPE):
Texas Redは、(5−(クロロスルホニル)−2−(1H,2H,3H,5H,6H,7H,11H,12H,13H,15H,16H,17H−ピリド[3,2,1−ij]キノリジノ[1’,9’:6,7,8]クロメノ[2,3−f]キノリン−4−イウム−9−イル)ベンゼンスルホネート、つまり基Rである。これが、1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合しており、一緒になって次の構造式を与える:
【0057】
【化6】
【0058】
分子種Bの第6の例(NBD−DOPE):
NBDは、(7−ニトロ−2−1,3−ベンゾオキサジアゾール−4−イル)、つまり基Rである。これが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式となる:
【0059】
【化7】
【0060】
分子種Bへの第7の例(フルオレセイン−DOPE):
カルボキシフルオレセインが基Rであって、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式となる:
【0061】
【化8】
【0062】
分子種Bへの第8の例(ピレン−DOPE)
1−ピレンスルホニルが基Rであって、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式となる:
【0063】
【化9】
【0064】
分子種Bの第9の例(β−py−C
10−HPC):
ピレンデカノイルが基Rであって、1−ヘキサデカノイル−2−sn−グリセロ−3−ホスホコリンに結合して次の構造式となる:
【0065】
【化10】
【0066】
全ての基Rは、本発明の意味において非局在化電子構造を有する。分子種B中の基Rは、非局在化のためにしばしば色素として存在する。
【0067】
前記基Rは、それ自体、両親媒性分子の疎水性部分および非局在化二重結合によって形成されることが考えられる。
【0068】
表1から追加的にわかるように、直接隣接した原子の、その電気陰性度に関する差が大きいほど、融合の質は良好である。
【0069】
それに反して次の分子、例えばcapBio−DOPE(キャップビオチニルである基Rが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して、次の構造式となったもの)
【0070】
【化11】
などは機能しない。
【0071】
PI、すなわちL−α−ホスファチジルイノシトール(ナトリウム塩)
【0072】
【化12】
およびメトキシ(ポリエチレングリコール)−2000である基Rが、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンに結合して次の構造式(PEG2000−DOPE)となったもの
【0073】
【化13】
も同様に機能しない。
【0074】
直前の3種の分子には電子構造の非局在化が欠けている。これは、本発明の混合物がこれを有さなければならないことを示している。
【0075】
記載されたように、正電荷に関する分子種Aの有利な性質および非局在化した電子系もしくは電気陰性度の差に関する分子種Bの有利な性質を、化学合成分子に統合することも考えられる。したがって、これまでは本発明者らに知られていなかった当該分子も、同じく本発明の対象であるはずである。
【0076】
前記混合物の場合によるさらに有利な形態は、融合混合物の製造または細胞膜修飾のために以下のさらなる分子が可能である。
【0077】
ヘルパー分子としての分子種Cの実施例
ヘルパー分子/担体分子Cの基準は:(a)その分子が、親水性領域および(b)二重結合を有するかまたは有さない疎水性領域(特にC
10〜C
30)を有さなければならないことである。二重結合の機能のために、種Aおよび/または種Bを参照されたい。(c)大きな荷電密度および分子種Aの正荷電分子の間の斥力を中和するために、両方の領域は、中性を有するべきである。この効果は、系の安定化へと導く。(d)担体分子の割合は、最大70%wt/wtに調整することができる。
【0078】
例えばホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジエライドイルsn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジフィタノールsn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジリノレオイルsn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンまたは1,2−ジオレオイルsn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン)のような分子が、適切である。
【0079】
第1の例として1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)が挙げられる。
【0080】
【化14】
【0081】
有利には、分子種A、BおよびCを脂質またはポリマーとして形成させることが可能である。両親媒性脂質の場合、すぐに使用可能な混合物を製造するときにリポソームを生成させる。
【0082】
分子種A、BおよびCの間の重量混合比(wt/wt)は、有利には1:0.05〜0.2:1である。
【0083】
分子種D(官能基を有する両親媒性)
両親媒性分子種Dの基準は、以下の通りである:(a)その分子は、親水性領域および(b)二重結合を有するかまたは有さない疎水性領域(特にC
10〜C
30を有する)を有さなければならない。二重結合の機能については種A、B、またはCを参照されたい。(c)その分子は、融合後に細胞表面へのさらなる化学結合を可能にする官能基を親水性領域に有さなければならない。
【0084】
例えば長鎖脂肪酸およびアルコール、キレート錯体修飾脂質、例えば1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)、ビオチン修飾脂質(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−キャップ−ビオチン)、もしくはPEG修飾脂質(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](アンモニウム塩)のような分子または薬剤も適切である。
【0085】
これについての第一の実施例は、官能基としての(イミノ二酢酸)スクシニル(ニッケル塩)であり、ここではキレート基の形態で1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−5−アミノ−1−カルボキシペンチルに結合している。これは、次の構造式を与える:
【0086】
【化15】
【0087】
分子種E(両親媒性):
さらになお、分子種Eの基準は、以下の通りである:(a)それは両親媒性である。(b)これは、例えばバクテリオロドプシン、インテグリン、グリコホリンAおよび他多数のような膜タンパク質、ペプチド、表面レセプターでありうる。(c)分子種Eは、その他の成分A、B、C、Dのように人工的に合成することもできるし、また細胞から得ることもできる。(d)例えば蛍光または放射性標識のようなこれらの分子の修飾が利用可能である。(e)分子種Eは、混合物に最大20%wt/wtまで添加することができる。
【0088】
両親媒性分子種Eは、種A〜Dとして脂質を利用する際にリポソーム膜中に組み入れられる。非両親媒性分子種Eは、種A〜Dとして脂質を利用する際にリポソーム膜上に結合して組み入れられる。
【0089】
分子種F(水溶性または親水性):
分子種Fの基準は次の通りである:(a)その分子は、水溶性であるべきである。以下の例が与えられる:イオン、ペプチド、タンパク質、薬剤、DNAまたはRNA。
【0090】
分子種Fは、分子種として脂質を利用する際にリポソームの内腔中に組み入れられる。
【0091】
分子種G(非水溶性または疎水性):
分子種Gへの基準は次の通りである:(a)その分子は疎水性の性質を有し、有機溶媒に溶解性良好である。以下の例が与えられる:コレステロール、ビタミンB。分子種A、B、CおよびDと一緒にこれらを有機溶媒中で混合する。
【0092】
融合方法
分子種AおよびBを有する本発明の混合物の成分は、場合により、それに混合されたさらなる分子C、場合によりDおよび場合によりGと一緒に、所望の重量比で同時に、有機溶媒、好ましくはクロロホルム、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサン、ヘプタンまたはこれらの混合物中に入れられる。有機溶媒中に均一化した後で、有機溶媒は除去すべきである。
【0093】
乾燥された混合物は、好ましくはpH値7程度の水性緩衝液に入れられ、再び均一化される。次に、有利には添加された分子種を含むリポソームが形成される。そのうえ、分子種EおよびFの分子を同様に混合することができる。この形態でその混合物は、例えば4℃で少なくとも1ヶ月間保存可能である。このステップは本発明の方法の調製のために役立つ。
【0094】
本来の方法は、融合混合物を細胞培地で例えば1:100(混合物:細胞培地v/v)に希釈し、再度均一化して、細胞上に与えることを備える。
【0095】
生きた細胞への本発明の融合混合物の添加によって、好ましくはin vivoで融合が生じる。これに関して、細胞を約1〜60分間、組織試料の場合は例えば60〜120分間その混合物と接触させることで十分である。次に、細胞の洗浄ステップを挿入すべきであろう。
【0096】
その方法は、有利には少なくとも50%、好ましくは70%超、特に90%超という特に高い融合効率によって特徴づけられる。
【0097】
膜融合は、特に有利には単一の細胞型に限定されるのではなく、表2に表示するようにほぼ普遍的なメカニズムを意味する。その上、密な組織試料は、延長したインキュベーション時間によってうまく処理することができる。それゆえにその方法は、特に有利に非常に多方面に使用可能である。
【0098】
本発明の混合物と細胞膜との融合の際に、分子種Fの形態の小胞内容物(vesikulaeren Volumina)が細胞内に導入されることから、これは、有利には細胞の細胞質への可溶性分子、イオン、タンパク質またはDNAの導入に役立てることができる。したがって分子種Fは、本来の意味で両親媒性分子種の混合物の成分ではない。
【0099】
融合プロセスの間に、生物学的または薬学的に関連する分子種D、EまたはGを無傷(intakte)細胞膜に取り込むことができる。細胞膜に導入された分子種Dの反応基は、例えばカップリング反応のために使用することができる。ペプチドまたはタンパク質のような種Eの追加的な膜固有の分子を細胞膜中に組み入れることができる。
【0100】
本発明の混合物および本発明の方法は、基礎研究の多分野の分析を実施するための方式、例えば無傷細胞膜中に組み込まれた分子の拡散分析、文献中で脂質ラフトとしても公知の脂質のマイクロドメインおよびナノドメインの特徴づけ、または細胞における膜分子の調節および輸送経路の研究を可能にする。
【0101】
同時にその系は、例えば医学的に高度に関連する、特定の細胞型に狙いを定めた標識のために、例えば癌細胞の標識のために、細胞遊走の誘導を用いた創傷閉鎖の支援のために、細胞−細胞接触の形成、細胞突起または増殖誘導または細胞−細胞融合の形成のために利用することができる。
【0102】
したがって、分子種A、B、(C)、DとTNFαとの特定の本発明の両親媒性混合物は、医薬として、ならびにそれと同時に癌細胞の標識および治療の際に使用することができる。
【0103】
細胞膜修飾のためのいくつかの方法の概要を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に関する略語:
手法1:細胞膜の染色;手法2:細胞表面の修飾;手法3:細胞内腔の修飾;手法4:細胞膜中のタンパク質の再構成
【0106】
分子種Cに関して:DOPE=1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン
【0107】
分子種Aに関して:DOTAP=1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−(トリメチルアンモニウム−プロパン(塩化物塩)
【0108】
分子種Bに関して:
β−BODIPY C
12−HPC:2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)−1−ヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
β−ピレン C
10−HPC:1−ヘキサデカノイル−2−(1−ピレンデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン
BODIPY FL DHPE:N−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、(トリエチルアンモニウム塩)
DiO:DiOC
18(3)3,3’−ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩
フルオレセイン−DHPE:1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−(カルボキシフルオレセイン)(アンモニウム塩)
LR−DHPE:リサミンローダミンB 1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、(トリエチルアンモニウム塩)
LR−DOPE:リサミンローダミンB 1,2−ジオレノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、(トリエチルアンモニウム塩)
NBD−DOPE:N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)−1,2−ジオレノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩)
ピレン−DOPE:1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−(1−ピレンスルホニル)(アンモニウム塩)
Texas Red−DHPE:Texas Red1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(トリエチルアンモニウム塩)
【0109】
分子種D〜Gに関して:
BR−TRITC:分子種Eとしての、テトラメチルローダミンイソチオシアネートアイソマー混合物でラベルされたハロバクテリウム・サリナラム(Halobacterium salinarum)由来バクテリオロドプシン。
DOGS−NTA:分子種Dとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)。
capBioDOPE:分子種Dとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−キャップ−ビオチン。
B FL−SM:分子種DとしてのN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)スフィンゴシルホスホコリン
GPA−TRITC:分子種Eとしての、テトラメチルローダミンイソチオシアネートアイソマー混合物でラベルされたグリコホリンA(MNS血液型)。
PI:分子種EとしてのL−α−ホスファチジル−イノシトール(ナトリウム塩)。
分子種FとしてのCaCl
2xH
2O。
【0110】
細胞型および細胞系:
BSMC:気管支平滑筋細胞
ESMC:胎児平滑筋細胞
HEK:ヒト胎児腎、HEK293
h.線維芽細胞:ヒト線維芽細胞
角化細胞:ヒト角化細胞
マクロファージ:ヒトマクロファージ
筋線維芽細胞:ラット心臓線維芽細胞
ニューロン:ラット胎仔皮質ニューロン
R37:乳癌細胞系
心膜:ラット胎仔心嚢(heart bag)
【0111】
表2に関するその他:
TNF:TNFα−His−タグ:腫瘍壊死因子が6×ヒスチジンリピートと連結したもの
【0112】
以下に実施例および添付の図面に基づいて本発明を詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
なお、本願は特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.親水性領域に正の総電荷を有する両親媒性分子種Aと、親水性および/または疎水性領域に非局在化した電子系を形成する両親媒性分子種Bとを有する、両親媒性分子の混合物。
2.共役二重結合および/または自由電子対および/または空のp軌道によって形成される少なくとも一つの環状構造モチーフを含む、非局在化した電子系を有する分子種Bを特徴とする、上記1に記載の混合物。
3.非局在化した電子系中の分子種Bの共有結合性隣接原子が、0.4以上の電気陰性度の差(Δχ)を有することを特徴とする、上記1〜2のいずれか一つに記載の混合物。
4.非局在化した電子系を形成する基Rを含む分子種Bを特徴とする、上記1〜3のいずれか一つに記載の混合物。
5.分子種Aとしての1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパン(DOTAP)を特徴とする、上記1〜4のいずれか一つに記載の混合物。
6.非局在化した電子系を有する蛍光色素が基Rとして結合した、分子種Bとしてのリン脂質を特徴とする、上記1〜5のいずれか一つに記載の混合物。
7.分子種Bのリン脂質としての1−ヘキサデカノイル−2−ドデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンまたは1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、または1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンを特徴とする、上記1〜6のいずれか一つに記載の混合物。
8.分子種Bにおいて非局在化した電子系を形成する、2−(4,4−ジフルオロ−5−メチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−ドデカノイル)またはN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)またはリサミンローダミンBスルホニルまたは(5−(クロロスルホニル)−2−(1H,2H,3H,5H,6H,7H,11H,12H,13H,15H,16H,17H−ピリド[3,2,1−ij]キノリジノ[1’,9’:6,7,8]クロメノ[2,3−f]キノリン−4−イウム−9−イル)ベンゼンスルホネートまたは7−ニトロ−2−1,3−ベンゾオキサジアゾール−4−イルまたはカルボキシフルオレセインまたは1−ピレンスルホニルを特徴とする、上記1〜7のいずれか一つに記載の混合物。
9.ヘルパー分子としてのさらなる両親媒性分子種Cを特徴とする、上記1〜8のいずれか一つに記載の混合物。
10.分子種Cとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)を特徴とする、上記1〜9のいずれか一つに記載の混合物。
11.分子種A、BおよびCの間で1:0.05〜0.2:1wt/wtの比を特徴とする、上記1〜10のいずれか一つに記載の混合物。
12.最大99%wtの両親媒性分子種Aを有する、上記1〜11のいずれか一つに記載の混合物。
13.最大40%wtの両親媒性分子種Bを有する、上記1〜12のいずれか一つに記載の混合物。
14.最大70%wtの両親媒性分子種Cを有する、上記1〜13のいずれか一つに記載の混合物。
15.水性緩衝液に溶解して存在することを特徴とする、上記1〜14のいずれか一つに記載の混合物。
16.分子種Aおよび/またはBおよび/またはCとしての脂質を特徴とする、上記1〜15のいずれか一つに記載の混合物。
17.上記15および16に記載の混合物を含むリポソーム。
18.分子種Aおよび/またはBおよび/またはCとしてのポリマーを特徴とする、上記1〜17のいずれか一つに記載の混合物。
19.細胞膜と、上記1〜18のいずれか一つに記載の混合物またはリポソームとの接触および融合を特徴とする、in vivo細胞修飾方法。
20.融合の間の細胞の細胞膜と前記混合物との最大1〜120分間、好ましくは10〜30分間の接触を特徴とする、上記19に記載の方法。
21.50%を超える、前記混合物または前記リポソームと融合した細胞の割合を特徴とする、上記19〜20に記載の方法。
22.両親媒性分子種Dの親水性領域における官能基、特に官能基としてのキレート基が前記混合物に供給され、前記融合の間に細胞表面に配置されることを特徴とする、上記19〜21のいずれか一つに記載の方法。
23.分子種Aとして1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパンおよび分子種BとしてN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Cとしてトリエチルアンモニウム塩/1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Dとして1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)を、例えば1:0.1:1:0.002wt/wtの混合比率で含む混合物が、融合のために使用されることを特徴とする、上記22に記載の方法。
24.6×ヒスチジンリピートに結合した腫瘍壊死因子(TNF)αの添加によるさらなる細胞修飾が行われることを特徴とする、上記23に記載の方法。
25.両親媒性分子種E、特に分子種EとしてのバクテリオロドプシンまたはグリコホリンAまたはインテグリンが前記混合物に供給され、前記融合の間に細胞膜に配置されることを特徴とする、上記19〜24のいずれか一つに記載の方法。
26.緩衝溶液中の非両親媒性の親水性分子種F、特に分子種FとしてのRNA、DNA、Ca2+、ペプチド、タンパク質または薬剤、例えばアセチルサリチル酸が、乾燥された混合物に供給され、前記融合の間に細胞内腔に送達されることを特徴とする、上記19〜25のいずれか一つに記載の方法。
27.非両親媒性の疎水性分子種G、特に分子種Gとしてのコレステリン、ビタミンA、D、EおよびKまたは薬剤、例えばコーチゾンが前記混合物に供給され、前記融合の間に細胞膜に配置されることを特徴とする、上記19〜26のいずれか一つに記載の方法。
28.特に1:0.1:1:0.002wt/wtの混合比の、分子種Aとしての1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウム−プロパンおよび分子種BとしてのN−(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオニル)−1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Cとしてのトリエチルアンモニウム塩/1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンおよび分子種Dとしての1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−[(N−(5−アミノ−1−カルボキシペンチル)イミノ二酢酸)スクシニル](ニッケル塩)を特徴とする、上記1〜18のいずれか一つに記載の混合物。
29.上記1〜18、28のいずれか一つに記載の混合物またはリポソームとin vivo融合された細胞。