(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、アミノエーテル、エーテル、エステル、ニトリル、アミン、有機アミド、アルコール、イミン、カルボジイミド、ケトン、アルデヒド、アミジン、グアニジン、イソ尿素、1〜20のエトキシ−(C2H4O)−繰り返し単位を有するグライム溶媒、アミノエーテル及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一つの溶媒に溶解されている、請求項1又は2に記載の化合物を含む、組成物。
n−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、水素化カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウム金属、カリウム金属、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシドからなる群から選択される金属試薬を用いて、ピロール配位子を直接金属化し、その後、上記結果の生成物を、ヨウ化アルカリ土類金属、アルカリ土類金属アセテート、アルカリ土類金属カルボキシレート、アルカリ土類金属カーボネート、アルカリ土類金属ホルメート、臭化アルカリ土類金属、アルカリ土類金属トリフルオロアセテート、アルカリ土類金属ヘキサフルオロアセチルアセトナート、アルカリ土類金属トリフルオロアセチルアセトナート、アルカリ土類金属アセチルアセトナート、アルカリ土類金属ジイミン、アルカリ土類金属ケトイミン、アルカリ土類金属アミジナート、アルカリ土類金属グアジニナート及びこれらの混合物と反応させることによって、請求項1又は2に記載の化合物を合成する方法。
アルカリ土類金属アミド、アルカリ土類金属フェノキシド、アルカリ土類金属ヒドロキシド、アルカリ土類金属アルキル、アルカリ土類金属アリール及びこれらの混合物を用いて、ポリアルキル化ピロールを反応させることにより、請求項1又は2に記載の化合物を直接合成する方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の新規の化合物は、それらの化合物の中性配位子付加物に加えて、アニオン性の多官能化ピロリル配位子を含み、これはバリウム、ストロンチウム、マグネシウム、ラジウム、又はカルシウムのイオンに配位されて単量体又は二量体の化合物のどちらかを生じる。この新規の化合物は、優れた熱的安定性及びクリーンな気化特性を有する。本発明の目的に関して、多官能化とは、ピロリル環が、他の場合には炭素に結合されているであろう水素を置換して、その様々な炭素に結合されている基を有することを意味する。その置換基は、この明細書内において、R
1〜R
16の定義として特定され且つ記載される。
【0013】
ピロリル環は、非対称に多官能化されて、直接液体注入(DLI)によく適した高い溶解性を有する、比較的低い融点の化合物を生じることもできる。このシリーズの7つの化合物の構造が、
図1、2、3、4(本発明の化合物に二量体化され得る)、並びに
図5、6及び7(本発明の二量体)に示されている。ここで、
図1、2、3及び4の化合物(構造式A)は単量体であり、そして
図5、6及び7の化合物(構造式B)は二量体であることが分かる。
【0014】
最新のアルカリ土類前駆体と比較したとき、
図5、6及び7(構造式B)の新規の化合物は、
図8及び9でTGA運転により示されたように、完全気化後に際立って低レベルの不揮発性残渣を残すことにより、それらをしのぐ。
【0015】
ALD及びCVD用途に関して最も良く知られるバリウム化合物群の一つは、「バロセン」化合物であり、そのバリウムイオンは、二つの複数アルキル官能化シクロペンタジエニルアニオン、例えば、トリ−tert−ブチルシクロペンタジエニル(t−Bu
3Cp)に配位されている。9つの異なったバリウムシクロペンタジエニルのシリーズの合成及び熱特性は、非特許文献5でHetanpaa等により報告されている。この検討において、その完全な開示の一環として、熱重量分析(TGA)が用いられて、これら化合物の揮発度/熱安定性を選別した。この技術では、バリウム化合物のサンプルは微量天秤皿に置かれ、これは乾燥不活性ガス、例えば窒素の一定流量の下で、一定の昇温速度で加熱される。そのサンプルの温度が上昇すると、バリウム化合物はいっそう大きい速度で気化し、そしてこの重量損失が微量天秤により検出される。最終的には、その気化は停止して、そして、バリウムに関して、通常は不揮発性物質の残渣が存在する。
【0016】
このアプローチを用いると、最高の性能の物質は、TGA残渣がそのシリーズで最も低く測定された、そのテトラヒドロフラン(THF)付加物としての、Ba[t−Bu
3C
5H
2]
2であることが分かった。しかしながら、TGAプロセス中に、その配位したTHFはバリウム化合物から分離され、溶媒和されていない、後で気化するバリウム化合物を残す。それゆえ、溶媒和されていない(THFのない)バリウム錯体のTGA性能を検討することも有益である。
【0017】
我々は、事前に減圧昇華により精製してTHF及び他のあらゆる微量揮発性成分を除去したこのバリウム化合物のサンプルを用いて、この試験を実施し、そして10.3wt%の不揮発性残渣を得た。バリウム化合物であるバリウムビス(2,3,5−トリ−tert−ブチルピロリル)(
図3)及び本発明のジ−バリウムテトラキス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)(
図5)を、同一のTGA条件の下で試験して、我々は、それぞれ6.50wt%及び5.12wt%の残渣のみを得た。これはこの新しい分子が、優れた気化特性及び熱的安定特性を有することを示唆する。その3つ全てのTGA試験の結果は、
図8に要約され、且つ示されている。Hetanpaa等に報告された全てのTGAのデータは、大気圧に対して動的真空下(dynamic vacuum)で運転されたことは注目に値する。これは後者の方が、揮発度及び熱的安定性の負担がより少ない試験を意味するからである。言い換えれば、動的真空下できれいに昇華することができる物質は、大気圧下ではきれいに昇華しない場合がある。これは、大気圧下では、より高い昇華温度が必要で、そしてこれらのより高い温度では、その物質が熱的に不安定な場合があり、それゆえ、高レベルの不揮発性残渣を残して分解し始めるからである。
【0018】
低レベルの残渣がより強く望まれる。ALD又はCVDプロセスのために前駆体化合物供給源として用いられるならば、これは、バリウムの制御された気化を可能とすることを意味するからである。加えて、CVD又はALDプロセスに関して、多数の金属前駆体、例えばバリウム前駆体が溶媒に溶解され、そしてこの溶液がDLI系で気化される。基本的に、これは気化器への正確に制御された溶液の流れの供給を含み、ここでは、その溶液及び溶解された溶質が、減圧下で急速に加熱され、そして気化される。生成された蒸気は、その後、CVD又はALD反応器中に移送される。通常は、小型化されたノズル及び細い内径のチューブが存在し、これらは、その溶液が噴霧され又は蒸発温度に単純に導入される気化器内部の位置で使用される。もしその溶質が、完全に気化せず、そして不揮発性残渣が形成されるならば、これら細い内径のチューブは閉塞され、それにより溶液のさらなる流れを阻害しうる。これらの理由のため、TGA実験中に観測される不揮発性残渣をできる限り少なくして閉塞する残渣の蓄積を避けることが、実現しうる最良のDLI性能のために強く望まれる。これは、そのような装置の故障が法外に高額となる、商業的な製造環境において、特に重要である。
【0019】
本発明は、直接液体注入における蒸気供給のための、新規な且つ今までにないバリウム、ストロンチウム、マグネシウム、ラジウム及びカルシウムの多官能化ピロリル系化合物及びそれらの溶液の合成及び使用法に向けられている。ここでそのピロリル配位子アニオンの官能基は、かさの大きい炭化水素、例えば:tert−ブチル、tert−アミル等でよく、また窒素含有アルキル又は酸素含有アルキル、例えば:本発明の二量体に関しては三級アミン又はエーテル基、並びに単量体に関しては窒素及び三級アミンでよい。加えて、これら新しい化合物は、他の中性の配位子、例えば:エーテル又はアミン又はアルコキシアミンを配位することも可能である。電子吸引基、例えばニトロもまた、ピロール環置換基として存在することができる。
【0020】
理論に拘束されることを望むものではないが、基、例えばニトロ基は、付加された中性配位子、例えばTHF、ジグリム、18−クラウン−6クラウンエーテルの有効な結合を、ピロリルアニオンがバリウム若しくはストロンチウム又は他のアルカリ土類金属に対し比較的少ない電子を供与するようにすることによって増強し、それにより付加された配位子に対するその金属のルイス酸性を増加し、それによりその金属への親和性(結合定数)を増加させる。この比較的強い結合の達成は、配位した配位子、例えばTHFを有する、バリウム又はストロンチウム化合物全体を、この配位した配位子をまず解放するのではなく、一つの完全な化合物として気化することを可能とする。
【0021】
本発明は、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム、ラジウム又はカルシウムの化合物の新規の合成方法も含み、これは金属試薬、例えばバリウムヘキサメチルジシラザン、ストロンチウムヘキサメチルジシラザン又はバリウムヒドリドを用いたピロール配位子の直接金属化(direct metallization)により、標準的なメタセシス型反応の使用に対する効率的な代替手段を与える。ここで、そのピロールは金属ヒドリド、例えば水素化ナトリウムでまず処理されて、ナトリウムピロリドを形成し、これは今度はバリウム又はストロンチウムのハロゲン化物、例えばヨウ化バリウム又はヨウ化ストロンチウム等と反応させる。
【0022】
これら新規な化合物を合成するための他の新規な技術としては、これらに限定されないが、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム、若しくはカルシウムの金属とピロール配位子との直接反応、又はアンモニア存在下でのバリウム若しくはストロンチウム金属との反応、又はアミン、例えばヘキサメチルジシラザン及びアンモニアの存在下でのピロール配位子とバリウム金属の反応が挙げられる。その新規な化合物は、電気化学的な合成によって作成されてもよい。
【0023】
加えて、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム、ラジウム又はカルシウム供給源と反応する前に、多様な金属及び金属化物質は、ピロール配位子の効率的な脱プロトン化に用いられることができる。そのような試薬としては、これらに限定されないが:n−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミド、水素化カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウム金属、カリウム金属、バリウム金属、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシドが挙げられる。バリウム供給源としては、これらに限定されないが、ヨウ化バリウム、臭化バリウム、バリウムトリフルオロアセテート、バリウムヘキサフルオロアセチルアセトン、バリウムトリフルオロアセチルアセトナート、バリウムアセチルアセトナート、バリウムジイミン、バリウムケトイミン、バリウムアミジナート、バリウムグアニジナート、バリウムアミド、バリウムアルコキシド、バリウムアミド、バリウムカーボナート、バリウムアセテート、バリウムカーボナート、バリウムホルマート、バリウムプロピオナート、バリウムフェノキシド、バリウムヒドロキシド、並びに、ストロンチウム、マグネシウム、ラジウム及びカルシウムのバリウム供給源の類似体を含む。
【0024】
本発明の新規の多官能化ピロールのバリウム、マグネシウム、カルシウム、ラジウム又はストロンチウムの化合物は、次の構造から選択される:(i)構造式A(R
1〜R
8はそれぞれ個別に選択されて、アシル、ホルミル、ニトロ、アミド、アルキルアミン、ヘテロ原子置換環状構造(例えばイミダゾール、ピロール、ピリジン、フラン、ピリミジン、ピラゾール、ピロール)で官能化されたC
1〜C
10アルキル、アミド基で官能化されたC
1〜C
10アルキル、及びエステル基で官能化されたC
1〜C
10アルキルとなり;且つnはそれぞれ独立に0〜4、好ましくはnはそれぞれ独立に0、1又は2);及び(ii)構造式B(R
1〜R
16はそれぞれ個別に選択されて、アシル、ホルミル、ニトロ、アミド、H、C
1〜C
10、一級、二級又は三級アルキル、C
1〜C
10アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロ原子置換環状構造(例えば、イミダゾール、ピロール、ピリジン、フラン、ピリミジン、ピラゾール、ピロール)で官能化されたC
1〜C
10アルキル、アミド基で官能化されたC
1〜C
10アルキル、及びエステル基で官能化されたC
1〜C
10アルキルとなり;且つnはそれぞれ独立に0〜4、好ましくはnはそれぞれ独立に0、1又は2)。配位した(L)配位子が存在していないことを示す(L)
nにおいてn=0のである中性配位子のない分子もまた、記載されていることに注意すべきである。
【0025】
混合された錯体もまた生成されることができ、ここでは、R
1〜16がピロリルアニオン間で異なっている。その後、この混合物は、その生成金属錯体が混合物となるように、バリウム、又は他のアルカリ土類金属に錯体化する。ここで、2つの異なるピロリルアニオンP
1及びP
2が混合されて、その後、例えば、バリウムに錯体化されると、3つの固有のバリウム錯体、すなわち、Ba(P
1)
2、Ba(P
1P
2)及びBa(P
2)
2が作成されうる。3つの異なるピロリルアニオンP
1、P
2及びP
3が混合され、その後、バリウムに錯体化されると、6つのバリウム錯体、すなわち、Ba(P
1)
2、Ba(P
1P
2)、Ba(P
1P
3)、Ba(P
2)
2、Ba(P
2P
3)及びBa(P
3)
2が形成される。これらの例において、他のアルカリ土類金属も考慮され、そして、ピロール「P」はこの明細書中の他の場所に記載されているように官能化されうる。
【0026】
これら混合物は、DLIの配合のために、液体であるか又は高溶解性となるであろう。これら化合物全てにおいて、ピロリルアニオンはη5モードで配位することができ、この場合、5員のピロール環のそれぞれの原子が金属に結合しており;又はη4モードでは、ピロール環原子のうちの4つが金属に結合しており;又はη3モードでは、ピロール環原子のうちの3つがその金属に結合しており;又はη2モードでは、ピロール環原子のうちの2つが金属に結合しており;又はη1モードでは、ピロール環原子のうちの1つだけが金属に結合している。加えて、ピロール環は、混合モード、例えばη1及びη5で金属に結合することもでき、これは
図5、6及び7に示している。一つのピロリルアニオンの基Rは、他の一つのピロリルアニオンの基Rに結合して、二つのアニオンを共に連結することもできる。
【0027】
下記の構造式A及び構造式B中の中性の配位子(L)は、脂肪族のC
1〜C
20エーテル若しくはポリエーテル、クラウンエーテル(例えば18−クラウン−6)、アミン若しくはポリアミン、アルコキシアミン若しくはポリアルコキシアミン、アミド若しくはポリアミド、エステル若しくはポリエステル、芳香族エーテル、芳香族エステル、芳香族アミド、芳香族アミン、ピリジン、イミダゾール、ピリジン、ピラジン、フラン、アルキルカーボネート、又はピロールから選択される。
【化3】
【0028】
構造式Aは、本発明の化合物を示しており、ここでR
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8はそれぞれ個別に選択されて、アシル、ホルミル、ニトロ、アミド、アルキルアミン、ヘテロ原子置換環状構造(例えばイミダゾール、ピロール、ピリジン、フラン、ピリミジン、ピラゾール、ピロール)で官能化されたC
1〜C
10アルキル、アミド基で官能化されたC
1〜C
10アルキル、及びエステル基で官能化されたC
1〜C
10アルキルとなり;且つnはそれぞれ独立に0〜4、好ましくはnはそれぞれ独立に0、1又は2;且つMはバリウム、マグネシウム、カルシウム、ラジウム又はストロンチウムである。加えて、R
1、R
2、R
3及びR
4の一以上の基、並びにR
5、R
6、R
7及びR
8の一以上の基は、共に結合されて、環状構造を形成することができる。これら環状構造は芳香族であってもよい。
【化4】
【0029】
構造式Bは、本発明の追加の化合物を示しており、ここでR
1〜R
16はそれぞれ個別に選択されて、アシル、ホルミル、ニトロ、アミド、H、C
1〜C
10、一級、二級又は三級アルキル、C
1〜C
10アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロ原子置換環状構造(例えば、イミダゾール、ピロール、ピリジン、フラン、ピリミジン、ピラゾール、ピロール)で官能化されたC
1〜C
10アルキル、アミド基で官能化されたC
1〜C
10アルキル、及びエステル基で官能化されたC
1〜C
10アルキルであり;且つnはそれぞれ独立に0〜4、好ましくはnはそれぞれ独立に0、1又は2;且つMはバリウム、マグネシウム、カルシウム、ラジウム又はストロンチウムである。その中性の配位子は、上記されている。構造式Aに関して上述したように、一つのピロールの一以上のR基が、構造式B中の他の一つのピロールの一以上のR基に結合されうる。
【0030】
構造式A及びBにおいて、M
1は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、好ましくはストロンチウム及びバリウム、より好ましくはバリウムから選択される第2族金属である。前駆体中のフッ素の存在が問題を起こさない場合、R
1〜16は、フルオロアルキル、フルオロアルコキシ又はフルオロアリルアルキルであってもよい。シリコン元素の存在がいずれの問題も引き起こさない場合、R
1〜16は、トリアルキルシリルであってもよい。同様に、R
1〜16がアルキル、フルオロアルキル、及びトリアルキルシリルから個々に選択される物質を、作成することもできる。
【0031】
加えて、構造式Cの型の新規の化合物が記載され、これは構造式Bと同じ族であるが、2つの異なる金属(M
2)及び(M
3)を備えており、M
2及びM
3は二価の金属、例えばBe、Mg、Ca、Sr、Ba又はRaから選択される。
【化5】
【0032】
上記の錯体に加えて、理論に拘束されることを望むものではないが、一つの多官能化ピロリルアニオン及び一つの他の有機又は無機アニオンが、バリウム又は他のアルカリ土類金属に配位して完全な錯体を作る場合には、バリウム錯体の混合物も作成されうる。そのような代わりのアニオンとしては、これらに限定されないが、β−ジケトナート、アセテート、ケトイミナート、ジイミン、アルコキシド、アミド、ヒドリド、β−ケトエステル、アミジナート、グアニジナート、シクロペンタジエニル、シアニド、イソシアニド、ホルメート、オキサラート、マロナート、フェノキシド、チオラート、スルフィド、ニトラート、アルキル、シリルアルキル、フルオロアルキル、アリール、イミダゾレートが挙げられる。上記のような、他のアルカリ土類金属錯体もまた考慮される。
【0033】
いくつかの利点を、化学気相成長及び原子層堆積のための前駆体としてのこれら金属含有ポリアルキル化ピロールによって、得ることができる。そしてこれらの利点は以下を含む:
−反応性錯体を良好な収率で形成する能力;
−単量体の熱的に安定な錯体、特にストロンチウム錯体及びバリウム錯体を形成する能力。これらには、一種又は混合種の配位子が配位し、それにより既知のストロンチウム及びバリウム前駆体の蒸気圧よりも高い蒸気圧を達成している。既知のストロンチウム前駆体及びバリウム前駆体は、低蒸気圧の多量体の錯体、又は低熱安定性若しくは相対的に不揮発性残渣が高水準となる単量体化合物のいずれかである;
−マイクロエレクトロニクスデバイスでの使用のための、高度にコンフォーマルな金属酸化物薄膜を形成する能力;
−その錯体の高い化学反応性に起因する、金属含有アルキル化ピロリルアニオンと基材表面との間の表面反応を増強する能力;及び
−R
1〜4基の変更を通じて、これら金属含有アルキル化ピロリルアニオンの物理特性を調整する能力。
【0034】
加えて、金属錯体は、二つの異なる多官能化ピロリルアニオンが、金属(例えばバリウム)の中心に配位し、それによって、その二つの配位子が互いに最適な「適合」又は「連結」となるようし、且つ金属の周りに、適切な配位圏を提供して安定な単量体錯体を生成するようにして、作成することも可能である。
【0035】
理論に拘束されることを望むものではないが、本開示の分子は、アルカリ土類金属酸化物含有フィルムの堆積のためのCVD又はALDプロセスでの使用に関して優れた前駆体となり、これは、それらが連続又は同時のいずれかで、酸化剤、例えば水、アルコール、酸素、オゾン、亜酸化窒素、二酸化窒素、過酸化水素又はこれらの組み合わせと反応することによる。加えて、本開示のバリウム及びストロンチウムの分子は、チタン前駆体、例えばチタンアルコキシ/ジケトナート、チタンアルコキシド、チタンシクロペンタジエニル、チタンアミド、チタンケトエステル、チタンハロゲン化物、チタンニトラート、又はこれらの組み合わせと、CVD、パルスCVD又はALDモードにおいて反応して、高誘電率により極めて重要であるBST(チタン酸バリウムストロンチウム)フィルム、STO(チタン酸ストロンチウム)及びBTO(バリウム酸ストロンチウム)を堆積することが可能である。加えて、本発明のバリウム錯体は、ストロンチウムケトイミナート及びチタン前駆体、例えば、チタンアルコキシ/ジケトナート、チタンアルコキシド、チタンシクロペンタジエニル、チタンアミド又はこれらの組み合わせと、CVD、パルスCVD又はALDモードにおいて反応して、BSTフィルムを堆積することができる。
【0036】
本明細書に開示された方法は、原子層堆積(ALD)又は化学気相成長(CVD)プロセスを用いて、第二族金属含有フィルムを堆積する。本明細書に開示された方法に関する適切な堆積プロセスの例としては、これらに限定されないが、サイクリックCVD(CCVD)、MOCVD(有機金属CVD)、熱化学気相成長、プラズマ化学気相成長(「PECVD」)(plasma enhanced chemical vapor deposition)、高密度PECVD、光CVD(photon assisted CVD)、プラズマ−光CVD(「PPECVD」)(plasma−photon assisted CVD)、極低温化学気相成長(cryogenic chemical vapor deposition)、化学支援気相成長(chemical assisted vapor deposition)、熱フィラメント化学気相成長、液体ポリマー前駆体のCVD、超臨界流体からの堆積、及び低エネルギーCVD(LECVD)(low energy CVD)が挙げられる。ある実施態様において、金属含有フィルムは、プラズマALD(PEALD)(plasma enhanced ALD)又はプラズマサイクリックCVD(plasma enhanced cyclic CVD)(PECCVD)プロセスにより堆積される。これらの実施態様において、堆積温度は、比較的低くてもよく、又は200℃〜400℃の範囲でもよく、そしてより幅広いプロセスウィンドウ(process window)にして最終用途で求められるフィルム特性の仕様を制御してもよい。PEALD又はPECCVD堆積のための典型的な堆積温度としては、次の端点の任意の一以上を有する範囲が挙げられる:200、225、250、275、300、325、350、375及び/又は400℃。
【0037】
すでに言及したように、本明細書で開示された方法は、少なくとも一つの金属前駆体、例えば本明細書に記載した構造を有する第二族金属含有前駆体、任意的に酸素供給源、任意的に追加の金属含有前駆体又は他の金属含有前駆体、任意的に還元剤、そして任意的に窒素供給源を用いて、金属含有フィルムを形成する。本明細書で用いられるその前駆体及び供給源は、「ガス状」として記載される場合があるが、その前駆体は、液状又は固体状のいずれかとなることができ、これらは不活性ガス及び/又は溶媒と共に、又はそれらなしで、反応器中に、直接気化(direct vaporization)、バブリング、又は昇華を通じて移送されることが理解される。いくつかの場合には、気化された前駆体はプラズマ発生器を通過することができる。
【0038】
堆積方法のための基材としては、酸化シリコン、電極表面(例えば、ルテニウム、プラチナ)、窒化チタン、窒化タンタル、又は半導体デバイスにおいて一般的な他の基材を挙げることができる。
【0039】
ある実施態様において、他の金属含有前駆体は、本明細書に記載された第二族金属含有前駆体に加えて、用いられることができる。半導体製造に通常使用される金属としては、チタン、タンタル、タングステン、ハフニウム、ジルコニウム、セリウム、亜鉛、トリウム、ビスマス、ランタン、ストロンチウム、バリウム、鉛、及びこれらの組み合わせ等の、金属アミドのための金属成分として使用されることができるものが挙げられる。本明細書で開示される方法で用いられてもよい他の金属含有前駆体の例としては、これらに限定されないが、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム(TDMAZ)、テトラキス(ジエチルアミノ)ジルコニウム(TDEAZ)、テトラキス(エチルメチルアミノ)ジルコニウム(TEMAZ)、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム(TDMAH)、テトラキス(ジエチルアミノ)ハフニウム(TDEAH)、及びテトラキス(エチルメチルアミノ)ハフニウム(TEMAH)、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン(TDMAT)、テトラキス(ジエチルアミノ)チタン(TDEAT)、テトラキス(エチルメチルアミノ)チタン(TEMAT)、tert−ブチルイミノトリ(ジエチルアミノ)チタン(TBTDET)、tert−ブチルイミノトリ(ジメチルアミノ)タンタル(TBTDMT)、tert−ブチルイミノトリ(エチルメチルアミノ)タンタル(TBTEMT)、エチルイミノトリ(ジエチルアミノ)タンタル(EITDET)、エチルイミノトリ(ジメチルアミノ)タンタル(EITDMT)、エチルイミノトリ(エチルメチルアミノ)タンタル(EITEMT)、tert−アミルイミノトリ(ジメチルアミノ)タンタル(TAIMAT)、tert−アミルイミノトリ(ジエチルアミノ)タンタル、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、tert−アミルイミノトリ(エチルメチルアミノ)タンタル、ビス(tert−ブチルイミノ)ビス(ジメチルアミノ)タングステン(BTBMW)、ビス(tert−ブチルイミノ)ビス(ジエチルアミノ)タングステン、ビス(tert−ブチルイミノ)ビス(エチルメチルアミノ)タングステン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ストロンチウム、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)バリウム、M(R
mC
5−m−nH
n)(ここでM=Sr又はBa、nは1〜4の整数、n+m=5)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0040】
すでに言及したように、本明細書に記載した方法を用いて堆積したフィルムのいくつかは、酸素の存在下で形成されてもよい。酸素供給源は、少なくとも一つの酸素供給源の形態で反応器中に導入されてもよく、且つ/又は堆積プロセス中に用いられる他の前駆体中に付随的に存在していてもよい。適切な酸素供給源ガスとしては、例えば、水(H
2O)(例えば、脱イオン水、純水、及び/又は蒸留水)、酸素(O
2)、酸素プラズマ、オゾン(O
3)、NO、NO
2、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO
2)及びこれらの混合物が挙げられる。ある実施態様において、酸素供給源は、酸素供給源ガスを含み、そのガスは、反応器中に、約1〜約2000平方立方センチメートル(sccm)、又は約1〜約1000sccmの範囲の流量で導入される。その酸素供給源は、約0.1〜約100秒の範囲の時間で導入されることができる。特定の一実施態様において、その酸素供給源は、10℃以上の温度を有する水を含む。フィルムがALDプロセスにより堆積されるこの実施態様又は他の実施態様において、前駆体パルスは0.01秒超のパルス持続時間を有することができ、そして酸素パルスは0.01秒超のパルス持続時間を有することができ、また水パルスは0.01秒超のパルス持続時間を有することができる。さらに他の一実施態様において、パルス間のパージ持続時間はゼロ秒程度の短さであってよい。
【0041】
本明細書で開示されている堆積方法は、一以上のパージガスを伴っても良い。パージガスは、未消費の反応物及び/又は反応副生成物をパージするために用いられるが、前駆体と反応しない不活性ガスであり、且つ好ましくはAr、N
2、He、H
2及びこれらの混合物からなる群から選択されても良い。ある実施態様において、パージガス、例えばArは、反応器中に約0.1秒〜1000秒の間に、約10〜約2000sccmの範囲の流量で供給され、それによって反応器中に残留している未反応物及びあらゆる副生成物をパージする。
【0042】
ある実施態様において、追加のガス、例えば窒素供給源ガスが、反応器中に導入されてもよい。窒素供給源ガスの例としては、例えば、NO、NO
2、アンモニア、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ジアルキルヒドラジン、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
本明細書に記載した方法の一実施態様において、反応器、すなわち堆積チャンバー中の基材の温度は、約600℃以下、又は約500℃以下、又は250℃〜400℃である。この実施態様又は他の実施態様において、圧力は、約0.1Torr〜約100Torr又は約0.1Torr〜約5Torrの範囲でよい。
【0044】
前駆体、酸素供給源及び/又は他の前駆体若しくは供給源ガスを供給する各ステップは、それらを供給するための時間を変化させることにより実行して、生成する金属含有フィルムの化学量論的組成を変化させてもよい。
【0045】
エネルギーが、前駆体、酸素供給源ガス、還元剤、又はこれらの組み合わせの少なくとも一つに適用されて、反応を誘導し、そして基材上に金属含有フィルムを形成する。そのようなエネルギーは、これらに限定されないが、熱、プラズマ、パルスプラズマ、へリコンプラズマ、高密度プラズマ、誘導結合プラズマ、X線、電子線、光子、及びリモートプラズマ法により供給されることができる。ある実施態様において、二次高周波供給源が用いられて、基材表面でプラズマ特性を変化することができる。堆積がプラズマを伴う実態態様において、プラズマ生成プロセスは、反応器中で直接的にプラズマを生成する直接プラズマ生成プロセス(direct plasma−generated process)、又はあるいは、プラズマを反応器の外で発生させそして反応器中に供給するリモートプラズマ生成プロセス(remote plasma−generated process)を含んでもよい。
【0046】
本明細書に開示した方法のさらに他の一実施態様において、第二族金属含有フィルムは、蒸着法を用いて形成される。この方法は次のステップを含む:(a)第二族金属含有前駆体を、気化状態で反応チャンバー中に導入し、そして加熱された基材上に金属含有前駆体を化学吸着させるステップ;(b)未反応の第二族金属含有前駆体をパージするステップ;(c)酸素供給源を加熱した基材上に導入して、吸着した第二族金属含有前駆体と反応させるステップ;及び(d)未反応の酸素供給源をパージするステップ。上記ステップは、本明細書に記載した方法に関しての1サイクルを定義している;そしてそのサイクルは、金属含有フィルムの所望の厚みが得られるまで繰り返すことができる。この実施態様又は他の実施態様において、本明細書に記載した方法のステップは、多様な順番で実行される場合があり、順番に又は同時に(例えば少なくとも他の一ステップの一部の間に)、及びこれらのあらゆる組み合わせで、実行される場合があると理解される。その前駆体と酸素供給源ガスを供給する各ステップは、それらを供給する持続時間を変化させることによって行って、生成する金属酸化物フィルムの化学量論的組成を変えてもよい。多成分金属酸化物フィルムに関して、ストロンチウム含有前駆体、バリウム含有前駆体又は両方の前駆体が、ステップ(a)において反応器チャンバー中に交互に導入されることができる。
【0047】
第二族金属含有前駆体及び/又は他の金属含有前駆体は、反応器チャンバー、例えばCVD又はALD反応器に様々な方法で供給してもよい。一実施態様において、液体供給システムが利用されてもよい。別の実施態様において、液体供給及びフラッシュ気化プロセスが組み合わされたユニットが採用されて、例えばターボ気化器(turbo vaporizer)(MSP Corporation製、ショアビュー、ミネソタ州)が採用されて、低揮発度物質を容量分析的に供給することを可能とし、前駆体の熱的分解のない状態で再現性のある移送及び堆積をもたらしてもよい。熱的分解のない状態での再現性のある移送及び堆積のこれら両方の考慮は、商業的に受け入れられる銅CVD又はALDプロセスの供給のために本質的である。
【0048】
本明細書に記載された方法の一実施態様において、サイクリック堆積プロセス、例えばCCVD、ALD、又はPEALDが採用されてもよく、ここでは、第二族金属含有前駆体又はその溶液、及び酸素供給源、例えばオゾン、酸素プラズマ、又は水プラズマが使用される。前駆体容器から反応チャンバーに繋げるガスラインは、そのプロセスの必要に応じて、約150℃〜約200℃の範囲の一以上の温度に加熱され、第二族金属含有前駆体の容器は、バブリングのために、約100℃〜約190℃の範囲の一以上の温度に保たれるのに対して、第二族金属含有前駆体を含む溶液は、直接液体注入のために約150℃〜約180℃の範囲の一以上の温度で保たれた気化器に注入される。アルゴンガスの100sccmの流れが、キャリアガスとして使用されて、前駆体パルスの間の、第二族金属含有前駆体の蒸気の反応チャンバーへの供給を支援してもよい。その反応チャンバーのプロセス圧力は、約1Torrである。典型的なALD又はCCVDプロセスにおいて、その基材、例えば酸化シリコン又は金属窒化物は、反応チャンバー中のヒーター台で加熱される。それは最初に第二族金属含有前駆体に暴露されて、その錯体を基材の表面上に化学的に吸着させる。不活性ガス、例えばアルゴンガスは、未吸着の過剰な錯体をプロセスチャンバーからパージする。十分なArパージの後で、酸素供給源が、反応チャンバー中に導入されて、その吸着された表面と反応し、続いてチャンバーから反応副生成物を除去するための別の不活性ガスパージを行う。そのプロセスサイクルは繰り返されて、所望のフィルムの厚みを得ることができる。
【0049】
液体供給配合物中において、本明細書に記載された前駆体は、この前駆体を含む溶媒配合物中又は組成物中で使用されてもよい。それゆえ、ある実施態様において、その前駆体の配合物は、適切な特性を有する溶媒成分を含んで、与えられた最終用途において所望であり且つ有利となるように、基材上にフィルムを形成してもよい。堆積プロセスでの使用のために、前駆体を可溶化するのに用いられる溶媒は、任意の相溶性の溶媒又はそれらの混合物、例えば脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びペンタン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン又はトルエン)、エーテル、エステル、ニトリル、アルコール、アミン(例えば、トリエチルアミン、tert−ブチルアミン)、イミン及びカルボジイミド(例えば、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド)、ケトン、アルデヒド、アミジン、グアナジン、イソ尿素等を含んでもよい。適切な溶媒のさらなる例は、1〜20のエトキシ−(C
2H
4O)−繰り返し単位を有するグライム溶媒;C
2〜C
12のアルカノール、C
1〜C
6アルキル部を有するジアルキルエーテルからなる群から選択される有機エーテル、C
4〜C
8の環状エーテル;(前置のC
iの範囲がエーテル化合物中の炭素原子の数iであり、且つ後置のO
jの範囲がエーテル化合物中の酸素原子の数jである)C
12〜C
60クラウンO
4〜O
20エーテル;C
6〜C
12脂肪族炭化水素;C
6〜C
18芳香族炭化水素;有機エステル;有機アミン;ポリアミン;アミノエーテル及び有機アミドからなる群から選択される。利点を提供する溶媒の他の一つの類は、RCONR’R”構造の有機アミド類であり、ここでR及びR’は1〜10の炭素原子を有するアルキルであり且つそれらは結合されて環状の基(CH
2)
nを形成することができ(ここでnは4〜6であり好ましくは5)、且つR”は1〜4の炭素原子を有するアルキル及びシクロアルキルから選択される。N−メチル−若しくはN−エチル−又はN−シクロヘキシル−2−ピロリジノン、N,N−ジエチルアセトアミド、及びN,N−ジエチルホルムアミドが例である。
【0050】
これら前駆体の液体供給に関する一つの特定の実施態様は、
図10に示されており、ここでは0.05Mのジ−バリウムテトラキス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)が、2,2’−オキシビス(N,N−ジメチルエタンアミン)溶媒に溶解されている。50時間の稼働時間に渡る圧力安定性は、連続的な液体供給の間のこの配合物の安定性を示している。これは、製造に関して連続操業が重要である半導体用途に関して、特に有利である。必要とされる気化器温度に対するその溶媒の沸点は、着実な前駆体供給のために特に適合させる。
【0051】
特別の前駆体のための特定の溶媒組成物の有用性が、容易に実験的に測定でき、使用される特定の第二族前駆体の液体注入気化及び移送に関して、適切な単一成分又は複数成分の溶剤を選択できる。
【0052】
他の一実施態様において、直接液体供給法が、第二族金属含有前駆体を適切な溶媒又は溶媒混合物に溶解して、その使用する溶媒又は混合溶媒に応じて0.01〜2Mのモル濃度を有する溶液を作成することにより、採用されることがある。ここで使用する溶媒は、任意の相溶性のある溶媒又はそれらの混合物、例えば、これらに限定されないが、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、直鎖又は環状のエーテル、エステル、ニトリル、アルコール、アミン、ポリアミン、及び有機アミド、アミノエーテル等であり、好ましくは高沸点を有する溶媒である。
【0053】
本明細書に記載された方法は、三元金属酸化物フィルムの形成のためのサイクリック堆積プロセスも含む。ここでは、その三元金属酸化物フィルムの形成のための条件下で、複数の前駆体が、連続して堆積チャンバー中に導入され、気化され、基板上に堆積される。
【0054】
特定の一実施態様において、その生成した金属酸化物フィルムは、堆積後処理、例えばプラズマ処理にさらされて、そのフィルムを圧縮及び/又は結晶化できる。
【0055】
本明細書に記載した第二族金属含有前駆体を作成するための方法を説明する以下の実施例は、決してこの方法を限定することを意図されていない。
【実施例】
【0056】
2,5−ジ−tert−ブチルピロール、2,3,5−ジ−tert−ブチルピロール、及びバリウムヘキサメチルジシラジドを文献の手順(それぞれ、R.Ramasseul及びA.Rassat、Chemical Communications、1965年、453号;及びB.A.Vaarstra,J.C.Huffman,W.E.Streib,K.G.Caulton、Inorganic Chemistry、30巻,121〜125ページ,1991年)に従って作成した。3,3,6,6−テトラメチル−4,5−オクタンジオン及び2,5−ジ−tert−アミルピロールを、それぞれ下記の実施例1及び2に従って合成した。
【0057】
実施例1
3,3,6,6−テトラメチル−4,5−オクタンジオンの合成
【0058】
2−クロロ−2−メチルブタン(48mL、0.39モル)を、390mLのTHF中のマグネシウムペレット(9.5g、0.39モル)にゆっくりと添加して、グリニャール試薬t−アミルMgClを作成した。これを、塩化第一銅(12g、0.12モル)及び塩化スクシニル(13.5mL、0.12モル)の混合物にゆっくりと添加し、ドライアイス中で−50℃に冷却した。添加後、その混合物を、終夜で室温に暖めた。大部分のTHFを、減圧除去し、続いてへキサン500mL及び2Mの塩酸200mLを添加する。この混合物をろ過して、固体の副生成物を除去した。水層を、ヘキサン100mLで三回洗浄し、ヘキサン層を、2Mの塩酸200mLで3回、200mLのNaHCO
3/水で2回、200mLの水で1回、そして最終的に200mLのNaCl/水で1回洗浄した。その生成物混合物を、その後、無水硫酸マグネシウム20g上で1時間乾燥し、これをその後ろ過により除去した。ヘキサンを、その後、常圧蒸留により除去して、8.4g(72%)の最終生成物を得た。これは質量分析によって、以下のように特徴付けた:227m.uの親イオン。
【0059】
実施例2
2,5−ジ−tert−アミルピロールの合成
【0060】
33.6g(0.146モル)の3,3,6,6−テトラメチル−4,5−オクタンジオン、22.51g(0.292モル)の酢酸アンモニウム、及び50.1mL(0.876モル)の酢酸を、140℃で終夜で還流した。その結果として生じる生成物混合物を炭酸水素ナトリウム溶液で中和して、その後へキサンで抽出した。水層を、100mLのヘキサンで3回洗浄した。ヘキサン層を、100mLの水で3回洗浄し、その後20gの無水硫酸マグネシウム上で2時間置き、その後ろ過により除去した。ヘキサンを、その後減圧除去して、27.6g(92%)を得た。これは質量分析によって、以下のように特徴付けた:207m.uの親イオン。
【0061】
実施例3
バリウムビス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)ビステトラヒドロフラン、すなわち実施例7の前駆体としての
図1のBa錯体の合成
【0062】
窒素雰囲気下で、1.98g(0.011モル)の2,5−ジ−tert−ブチルピロールを、室温で25mLの乾燥脱酸素化THF中で攪拌した状態で溶解した。10mlのTHF中に溶解した3.34g(0.0055モル)のバリウムヘキサメチルジシラジド(THF)
2を、10分にわたって添加して、そして混合物を、終夜で攪拌しておいた。溶媒及び揮発物を、その後、減圧下でこの反応混合物から除去し、そして液体窒素トラップで収集した。その生成液のガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)解析は、高濃度のヘキサメチルジシラザンを示し、これは、ピロールの脱プロトン化が望み通り進行していたことを示した。残留のオフホワイトの固体の反応物混合物を、その後35mlの沸騰しているヘキサン中に溶解し、室温に冷却させて、その後−20℃の冷凍庫に終夜置いた。ヘキサン上澄み液をデカントして除去し、そして生成した無色の結晶を減圧下で乾燥して、2.5gの生成物(2,5−ジ−tert−ブチルピロールに基づいて71%の収率)を得た。
1H NMR:(500MHz、C
6D
6):δ=1.3(m、8H)、δ=1.45(s、36H)、δ=3.5(m、8H)、δ=6.3(s、4H)。
【0063】
実施例4
バリウムビス(2,3,5−トリ−tert−ブチルピロリル)(THF)、すなわち
図2のBa錯体の合成
【0064】
20mgのバリウムビス(2,3,5−トリ−tert−ブチルピロール)を、0.1mlのTHF中に溶解して、その後その溶媒を気化により除去した。生成した結晶体を、その後ヘキサン中で再結晶して、約10mgの結晶を得た。これは、その後X線解析により所望の生成物であることが示された。
【0065】
実施例5
図3のバリウムビス(2,3,5−トリ−tert−ブチルピロリル)の合成
【0066】
窒素雰囲気下で、0.483g(0.00205モル)の2,3,5−トリ−tert−ブチルピロールを、室温で10mLの乾燥脱酸素化THF中で攪拌した状態で溶解した。10mlのTHFに溶解した0.6g(0.00102モル)のバリウムヘキサメチルジシラジド(THF)
2を、10分にわたって添加して、そしてその混合物を終夜攪拌しておいた。溶媒及び揮発物を、その後、減圧下でこの反応混合物から除去し、そして液体窒素トラップで収集した。その生成液のガスクロマトグラフ質量分析(GCMS)解析は、高濃度のヘキサメチルジシラザンを示し、これは、ピロールの脱プロトン化が望み通り進行していたことを示した。残留の固体の反応混合物を、その後、150℃で昇華させて、無色のワックス状の固体(0.5g)を得た。これを同じ条件下で再度昇華して、0.4g(収率77%)を得た。NMR解析及びバリウムに対する陽性燃焼試験(positive flame test)は、これがTHFのないバリウム錯体であるバリウムビス(2,3,5−トリ−tert−ブチルピロリル)であることを示した。
1H NMR:(500MHz、C
6D
6):δ=1.3(m、8H)、δ=1.45(s、36H)、δ=3.5(m、8H)、δ=6.3(s、4H)。
【0067】
実施例6
図4のバリウムビス(2,5−ジ−tert−アミルピロリル)(THF)
2の合成
【0068】
窒素雰囲気下で、20.7g(0.1モル)の2,5−ジ−tert−アミルピロールを、室温で125mLの乾燥脱酸素化THF中で攪拌した状態で溶解した。20mlのTHF中に溶解した30g(0.05モル)のバリウムヘキサメチルジシラジド(THF)
2を、10分にわたって添加して、そしてその混合物を終夜で攪拌しておいた。溶媒及び揮発物を、その後、この反応混合物から除去した。残留の固体の反応混合物(28.3g)を、ヘキサンから再結晶して、無色の角柱として最終生成物を得た。X線回折により、これを
図4に示すように特徴付けた。
【0069】
実施例7
図5のジ−バリウムテトラキス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)の合成
【0070】
0.5gのバリウムビス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)ビステトラヒドロフランを、175℃/50mTorrの動的真空下で昇華して、0.35gのジ−バリウムテトラキス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)を無色の角柱として得た(バリウムビス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)ビステトラヒドロフランに基ついて92%の収率)。
1H NMR:(500MHz、C
6D
6):δ=1.51(s、72H)、δ=6.47(s、8H)。
【0071】
実施例8
図6のジ−バリウムテトラキス(2,5−ジ−tert−アミルピロリル)の合成
【0072】
実施例6からの28.3gの粗製バリウムビス(2,5−ジ−tert−アミルピロリル)(THF)
2を、150℃で昇華して、ジ−バリウムテトラキス(2,5−ジ−tert−アミルピロリル)の生成物を白い固体として、17g(収率59%)得た。
1H NMR:(500MHz、C
6D
6):δ=0.86(t、24H)、δ=1.3(s、48H)、δ=1.4(q、16H)、δ=6.2(s、8H)。
【0073】
実施例9
図7のジ−ストロンチウムテトラキス(2,5−ジ−tert−アミルピロリル)の合成
【0074】
窒素雰囲気下で、2.07g(0.01モル)の2,5−ジ−tert−アミルピロールを、室温で25mLの乾燥脱酸素化THF中で攪拌して溶解し、その後10mlのテトラヒドロフラン中で攪拌された水素化カリウム0.4g(0.01モル)に添加した。この混合物を、2時間攪拌して、水素の脱離を伴うピロールの脱プロトン化を完了させた。この溶液を、その後、50mlのテトラヒドロフラン中に溶解したヨウ化ストロンチウム1.7g(0.005モル)の溶液に滴下し、結果としてヨウ化カリウムの白い沈殿物を得た。この混合物を、終夜で攪拌し、ろ過して、そして溶媒を減圧除去した。その結果の生成物を、その後150℃で昇華して、2.0g(収率80%)の最終生成物を無色の結晶として得た。
1H NMR:(500MHz、C
6D
6):δ=0.77(t、24H)、δ=1.33(s、48H)、δ=1.61(q、16H)、δ=6.25(s、8H)。
【0075】
図4は、化学文献に従来報告されていない、バリウム又は他のアルカリ土類金属へのピロリル配位子の配位モードを示す。このモードでは、
図1の1つの化合物(THFがない)の2つのピロリル配位子が、2つのバリウムイオンにそれぞれ結合している。一つのバリウムイオンは、歪んだη5型の配位で結合しているが、他方のバリウムは、シグマ型のドナー結合で、ピロリルアニオンの窒素に結合している。この方法で、これら二つのピロリル配位子及び二つのバリウムイオンが、新規の4員環を形成する。他の二つのピロリル配位子は、通常のη5モードでバリウムに結合する。それゆえ、
図5のバリウム化合物の化学構造は、化学文献に前例のない、そしてそれゆえ新規な材料の組成物を構成する。
【0076】
実施例10
本実施例では、2,2’−オキシビス(N,N−ジメチルエタンアミン)溶媒に溶解されている、ジバリウムテトラキス(2,5−ジ−tert−ブチルピロリル)の0.05Mの液体供給を用いたBaOのALD堆積について説明する。その堆積温度の範囲は、200〜450℃である。その堆積チャンバーの圧力は、1.5Torr前後の範囲である。
1.Arをキャリアガスとして用いた液体注入によりバリウム前駆体を導入する;
2.Arパージして、あらゆる未吸着のバリウム前駆体をArと共に除去する;
3.オゾンを堆積チャンバーに導入する;そして
4.Arパージして、あらゆる未反応オゾンをArと共に除去する。
【0077】
本実施例において、BaOフィルムが得られ、生成BaOフィルムの堆積温度依存性を示す。通常のALD条件は下記のとおりである:Ba前駆体パルス時間が6秒、Ba前駆体パルス後のArパージ時間が10秒、オゾンパルス時間が5秒、そしてオゾンパルス後のArパージ時間が10秒。そのサイクルを50回繰り返す。
【0078】
そのALDのプロセスウィンドウが約325℃までである場合の結果を、
図12に示す。興味深いことに、325℃を越えたALDウィンドウがいまだに存在している場合があるが、より高い温度では、その表面反応力学が、その脱離を減少する。この実施例は、相当に広いALDウィンドウにわたって、これら前駆体の生存能力を明らかにする。これは、ALDウィンドウが重複する必要がある組み合わせフィルム、例えばSTO、BST又はBTOを形成する場合に、特に有利である。この型の前駆体について得に有利な点は反応性であり、これは、325℃のウェハー温度で堆積速度が1.56Å/サイクルとなることが計算される、
図13で示されている。