特許第5775169号(P5775169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5775169改善されたベクトル化の安定によるクロストークキャンセルデバイスおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775169
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】改善されたベクトル化の安定によるクロストークキャンセルデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/32 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   H04B3/32
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-543650(P2013-543650)
(86)(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公表番号】特表2014-502114(P2014-502114A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】EP2011072102
(87)【国際公開番号】WO2012080064
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2013年8月13日
(31)【優先権主張番号】10290665.8
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391030332
【氏名又は名称】アルカテル−ルーセント
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デフオールト,フランク
(72)【発明者】
【氏名】フエルリンデン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】フアンデルヘーヘン,デイルク
(72)【発明者】
【氏名】フアン・ブリユツセル,ダニー
(72)【発明者】
【氏名】ヌズマン,カール
【審査官】 前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/099399(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/114861(WO,A1)
【文献】 Jochen Maes, et al.,Pilot-Based Crosstalk Channel Estimationfor Vector-Enabled VDSL Systems,2010 44th Annual Conference on Information Sciences and Systems (CISS),米国,IEEE,2010年 3月17日,pages.1-6
【文献】 ITU-T Study Group 15,Self-FEXT cancellation (vectoring) for use withVDSL2 transceivers,SERIES G: TRANSMISSION SYSTEMS AND MEDIA,DIGITAL SYSTEMS AND NETWORKSDigital sections and digital line system . Access networks,ITU-T,2010年 4月,G.993.5,whole document,(検索日2014.05.16),インターネット<URL:http://handle.itu.int/11.1002/1000/10414-en?locatt=format:pdf&auth>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害側通信回線において多くてもM個の妨害側通信回線のクロストークノイズをキャンセルするためのクロストークキャンセルデバイスであって、前記妨害側通信回線および前記障害側通信回線がベクトル化グループの一部を形成し、Mが正の整数である、クロストークキャンセルデバイスにおいて、
前記クロストークキャンセルデバイスは、前記障害側通信回線においてまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークノイズがキャンセルされることを必要とする、前記ベクトル化グループにおけるクロストークノイズ変動に応答して多くてもM個の妨害側通信回線のクロストークをキャンセルした後に前記障害側通信回線において多くてもM個のキャンセルされる妨害側通信回線のうちの少なくとも1つの最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるように構成されており、
前記クロストークノイズ変動は、起動する追加の回線から、またはクロストークチャネル変化の結果としてベクトル化グループにおける回線より増加する妨害から、または妨害側によって伝送された増加した信号PSDから、生じることを特徴とする、クロストークキャンセルデバイス。
【請求項2】
前記クロストークキャンセルデバイスが、多くてもM個の妨害側通信回線のリストにおいてK個のスペア位置を確保するように構成されており、K個のスペア位置は、妨害側通信回線の前記クロストークノイズを一時的にキャンセルするために使用され、Kが、1に等しい、または1よりも大きい整数である、請求項1に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項3】
前記数字Kが、構成可能である、請求項2に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項4】
クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが前記障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−K−Aよりも小さい、またはM−K−Aに等しい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが前記障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、前記クロストークキャンセルデバイスが、前記J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線を前記リストに加えるように構成されている、請求項2に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項5】
クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが前記障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−Aよりも小さい、またはM−Aに等しく、かつM−K−Aよりも大きい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが前記障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、前記クロストークキャンセルデバイスが、前記J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線を前記リストに加え、JだけAを増加させ、前記障害側通信回線において前記リストのうちのA−M+K個の最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるように構成されている、請求項2に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項6】
クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが前記障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−Aよりも大きい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが前記障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、前記クロストークキャンセルデバイスが、前記J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のうちのM−A個を前記リストに加え、前記障害側通信回線において前記リストのうちのK個の最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を徐々に低下させ、前記J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のうちの多くても別のK個を前記リストに加え、前記J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線が前記リストに加えられるまで、前記最後の2つのステップを繰り返すように構成されている、請求項2に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項7】
クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが前記障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−Aよりも大きい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが前記障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、前記クロストークキャンセルデバイスが、前記J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のうちのM−A個を前記リストに加え、Kを増加させ、前記障害側通信回線において前記リストのうちのK個の最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を反復して徐々に低下させ、前記J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線が前記リストに加えられるまでK個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線を前記リストに加え、Kを再設定するように構成されている、請求項3に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項8】
ゼロに向けて、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて、すべての離散マルチトーンのトーンに対する妨害側通信回線のクロストークチャネル係数を徐々に下げることを通して、前記妨害側通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるように構成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項9】
離散マルチトーンのトーンごとに、または離散マルチトーンのトーングループごとに、徐々に、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて妨害側通信回線のクロストークチャネル係数を消去することを通して、前記妨害側通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるように構成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項10】
前記クロストークキャンセルデバイスが、前記障害側通信回線に仮想ノイズを注入することを通して、妨害側通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるように構成されており、前記仮想ノイズが、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて前記妨害側通信回線の使用されるクロストークチャネル係数から直接引き出され、その後、前記プリコーダおよび/または前記ポストコーダにおいて前記妨害側通信回線のすべての前記クロストークチャネル係数を消去する、請求項1から7のいずれか一項に記載のクロストークキャンセルデバイス。
【請求項11】
障害側通信回線において多くてもM個の妨害側通信回線のクロストークノイズをキャンセルするためのクロストークキャンセル方法であって、前記妨害側通信回線および前記障害側通信回線がベクトル化グループの一部を形成し、Mが正の整数である、クロストークキャンセル方法において、
前記障害側通信回線においてまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークノイズがキャンセルされることを必要とする、前記ベクトル化グループにおけるクロストークノイズ変動に応答して多くてもM個の妨害側通信回線のクロストークをキャンセルした後に前記障害側通信回線において多くてもM個のキャンセルされる妨害側通信回線のうちの少なくとも1つの最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるステップを含み、
前記クロストークノイズ変動は、起動する追加の回線から、またはクロストークチャネル変化の結果としてベクトル化グループにおける回線より増加する妨害から、または妨害側によって伝送された増加した信号PSDから、生じることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、通信回線間のクロストークキャンセルに関し、たとえば、互いに干渉し合う、同じケーブルバインダまたはバンドル内のデジタル加入者線(DSL)のより対線間のクロストークが、特定のより対線(すなわち、妨害側通信回線)上で送信されたDSL信号の望ましくない漏れを、使用されている別のより対線(すなわち、障害側通信回線)の中にもたらす、クロストークのキャンセルに関する。そのようなクロストークは、信号対ノイズ比(SNR)を低下させ、およびその結果として障害側通信回線のビットレートもまた低下させる、障害側通信回線におけるノイズを表す。たとえば、起動されつつある回線または変化する環境条件から生じる、そのようなクロストークの突然の増加は、障害側通信回線が、たとえば、シームレスな速度適応(SRA)またはビットスワップの動作などを通して十分に迅速に適応できないときに、不安定な状態を引き起こすことがある。本発明は、とりわけ、突然のクロストークチャネル変動の場合のこの不安定な状態の問題を解決する、クロストークキャンセル技法に関する。
【背景技術】
【0002】
「Self−FEXT Cancellation (Vectoring) for Use with VDSL2 Transceivers」と題されたITU−T Recommendation G.993.5は、DSL回線のためのクロストークキャンセルメカニズムであるベクトル化を説明している。妨害側DSL回線によって、障害側DSL回線の中に誘発されたクロストークは、妨害側DSL回線からのクロストークノイズを補償するアンチ信号を、障害側DSL回線に加えることによってキャンセルされる。ベクトル化は、障害側DSL回線内でこれらすべての妨害側DSL回線からのクロストークを同時に抑制することを可能にする複数の妨害側DSL回線について行われてよい。ダウンストリーム方向、すなわち、中央局(CO)から加入者宅内装置(CPE)の方向では、クロストークキャンセルは、クロストークを事前補償するプリコーダによって、障害側DSL回線上で伝送されることになる所望のDSL信号に、クロストークのアンチ信号を加えることによって行われる。アップストリーム方向、すなわち、CPEからCOの方向では、クロストークキャンセルは、クロストークを事後補償するポストコーダによって、障害側DSL回線から受信されるDSL信号に、クロストークのアンチ信号を加えることによって実行される。
【0003】
クロストークキャンセルは、いわゆるベクトル化グループにおいて、互いに対話する(たとえば、同じバインダまたはケーブルバインダ内の回線)すべての通信回線をグループ化することに依存する。そのようなベクトル化グループにおいて、すべての他の回線においてクロストークを誘発する各通信回線は、妨害側通信回線(および、この特許出願の以下の全体を通して「妨害側(disturber)」と呼ばれる)とみなされ、すべての他の回線からのクロストークを受信する各通信回線は、障害側通信回線(および、この特許出願の以下の全体を通して「障害側」と呼ばれる)とみなされる。1つの妨害側から1つの障害側の中に誘発されたクロストークは、2つの部分に分離される:伝達関数、またはいわゆる「クロストークチャネル」、すなわちクロストーク結合を表す2つの回線間の関数、および、妨害側上で伝送される信号の伝送電力スペクトル密度(PSD)。妨害側および障害側の任意の組み合わせについて、特定のクロストークチャネルが存在する。誘発されたクロストークは、特定のクロストークチャネルと、妨害側の伝送PSDとの乗算として計算される。妨害側と障害側との間のクロストークチャネルは、たとえば、初期化中に測定され、クロストークチャネル行列においてクロストークチャネル係数によって表され、この行列において、行が障害側を表し、列が妨害側を表す、または、その逆である。たとえば、2つのVDSL回線間のクロストークチャネル係数を測定するために、妨害側VDSL回線の初期化中にパイロット信号がSYNCシンボルの上に重畳され、相関技法が適用されて、このパイロット信号によって障害側VDSL回線の中に誘発されたクロストークノイズを認識する。クロストークチャネル係数は次いで、既知のパイロット信号および感知されたノイズから計算される。クロストークチャネル行列の中で、障害側が行を表し、妨害側が列を表す場合、クロストークチャネル行列の各行は、ベクトル化グループにおけるすべての妨害側によって単一の障害側の中に誘発された全体のクロストークを表すベクトルを構成する。理論的には、そのようなベクトルは、総クロストークの逆変換を表す単一のアンチ信号の追加を通して、障害側の中へのすべての妨害側のクロストークを同時にキャンセルすることを可能にする。
【0004】
残念なことに、大きなベクトル化グループにおいては、すべての回線のクロストークをキャンセルすることができるベクトル化システムの作成を、技術的な制限が妨げている。たとえば、400のVDSL回線のベクトル化グループ内のクロストークをキャンセルするためには、毎秒ほぼ1013程度の積和(Multiply and Accumulate:MAC)演算が実行されなければならない。これは、現在、コストおよび電力効率の点において、技術的に実現可能でない。結果として、今日では、部分的なクロストークキャンセルが実装されており、これは、障害側内のベクトル化グループのうち、たとえば多くてもM=16妨害側の、限定された数の妨害側のクロストークをキャンセルすることを可能にする。考慮中の障害側に対して、好ましくは最も支配的な妨害側を表す明らかな理由を別にすれば、これらの16の妨害側は、ベクトル化グループ内で任意に選択されてよい。通常、ベクトル化グループにおける他の妨害側から来るクロストークをキャンセルしないまま、これらのM個の妨害側によって誘発されたクロストークがキャンセルされ得るように、障害側ごとにM個の最も支配的な妨害側を決定するためのアルゴリズムが実装されることになり、それにより、障害側上のトータルな残りのノイズを最小限にし、したがって、障害側上で達成可能なビットレートを最適化する。このアルゴリズムは、全スペクトルに基づいて支配的な妨害側の単一のリストを作成してもよく、または、スペクトルの任意の部分についての複数のリストを作成してもよい。
【0005】
最大数M個の妨害側のクロストークが既にキャンセルされた時間点におけるクロストークノイズ変動の場合に、このクロストークノイズ変動が、障害側の安定性に影響を与えることがある。クロストークノイズ変動は、起動する追加の回線から、またはクロストークチャネル変化の結果としてベクトル化グループにおける回線より増加する妨害から、または妨害側によって伝送された増加した信号PSDから、生じることがある。クロストークチャネル変化は、たとえば、気温の変動、ワイヤ張力の変化、雨または湿気漏れ、その他などの環境的な変化によって引き起こされることがあり、その結果として、妨害側回線と障害側回線とがより強く結合されるようになる。クロストークノイズ変動の結果として、ベクトル化グループの非キャンセル回線が、キャンセルされなければならないより支配的な妨害側となることがある。部分的なクロストークキャンセルの場合の単刀直入なアプローチは、新たに起動する回線から、または、特定の妨害側の変化するクロストークチャネルもしくは増加したPSD伝送信号から生じた、新しいクロストークノイズが、特定の障害側に対するM個のキャンセルされる妨害側のうちの最も支配的ではない妨害側のクロストークノイズレベルを上回るかどうかを推定することになる。新しいクロストークノイズが、特定の障害側に対する最も支配的ではないキャンセルされる妨害側のクロストークノイズレベルを下回る場合、新しい回線は、特定の障害側の中へのそのクロストークノイズをキャンセルせずに起動されることになる、または、変化したクロストークノイズを有する特定の妨害側が、特定の障害側に対してキャンセルされないままになる。残念なことに、新しい回線の起動、または、変化するクロストークチャネルもしくは変化する伝送PSDを有する妨害側をキャンセルしないままにしておくことは、突然のクロストークノイズブースト、すなわち、これらの障害側の安定性に影響することがあるノイズ残余を、任意の障害側において作り出すことになる。新しいクロストークノイズが、最も支配的ではないキャンセルされる妨害側のクロストークノイズレベルを上回る場合、この最も支配的ではない妨害側は、もはやキャンセルされないことになる。最も支配的ではない妨害側は、M個のキャンセルされる妨害側のリストから取り除かれ、新しい、または増加された妨害側に置き換えられることになる。いずれにせよ、この状況はまた、もはやキャンセルされない最も支配的ではない妨害側から生じるクロストークノイズにおいて、突然のブーストを引き起こすことになる。この突然のクロストークノイズブーストは、やはり障害側回線に不安定な状態を引き起こすことがある。
【0006】
要約すると、ベクトル化に基づいた完全なクロストークキャンセルは、大きなベクトル化グループについては技術的に実現可能でない一方で、部分的なクロストークキャンセルは、クロストークノイズ変動の場合の不安定な状態の問題が欠点となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Self−FEXT Cancellation (Vectoring) for Use with VDSL2 Transceivers」、ITU−T Recommendation G.993.5
【非特許文献2】ITU−T VDSL Recommendation G.993.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、不安定な状態のリスクを冒さずに、障害側回線がクロストークノイズ変動に対処することを可能にする、上記で言及した欠点を克服した、ベクトル化グループにおけるクロストークキャンセルのためのデバイスおよび方法を開示することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記で定義された目的は、請求項1によって定義されるように、障害側通信回線において多くてもM個の妨害側通信回線のクロストークノイズをキャンセルするためのクロストークキャンセルデバイスによって実現され、妨害側通信回線および障害側通信回線がベクトル化グループの一部を形成し、Mが正の整数であり、クロストークキャンセルデバイスは、障害側通信回線においてまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークノイズがキャンセルされることを必要とする、ベクトル化グループにおけるクロストークノイズ変動時に、障害側通信回線においてキャンセルされる妨害側通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるように構成されている。
【0010】
したがって、M個のキャンセルされる妨害側のリストから最も支配的ではない妨害側をただ取り除く代わりに、本発明の原理によるクロストークキャンセラの動作は、考慮中の特定の障害側におけるキャンセル深度、すなわち、クロストークキャンセルの度合いを徐々に減少させ、それにより、特定の障害側においてもはやキャンセルされないことになる回線からのクロストークノイズ残余を増加させることになる。このようにして、障害側回線において不安定な状態を引き起こすことがある突然のクロストークノイズブーストは、回避される。本発明の結果として、障害側回線は、たとえば、ITU−T VDSL Recommendation G.993.2において定義されるような、ビットスワップまたはシームレスな速度適応(SRA)などのメカニズムを介して、増加したクロストークレベルにシームレスに適応するための可能性を有することになる。それらの技法は、むしろゆっくり、通常、数秒分の1から数十秒までについての全DSLスペクトルの処理を可能にする。ビットスワップ動作が、ビットをDSLスペクトル上であちこち移動することができる一方で、SRA動作は、ビットレートを信号対ノイズ比(SNR)マージンに変換することができ、およびその逆も同様である。ビットスワップおよびSRAの組み合わせは、DSLシステムが、エラーなしに、ゆっくりと増加するノイズ状態に適応するのを可能にする。そのような状態は、本発明を介して、特定の障害側においてもはやキャンセルされないことになるDSL回線のクロストークノイズが、たとえば1分間の時間間隔にわたって徐々に増加するのを可能にするときに、作り出される。しかしながら、ビットスワップおよびSRAは、本発明が使用されない場合に発生する突然のクロストークノイズブーストに適応するのには向いていない。本発明がなければ、そのようなクロストークノイズブーストが、全周波数スペクトルにおいて、またはその一部のみに存在し得ることに留意されたい。
【0011】
さらに、本発明は、新たに起動されつつある回線から、(たとえば、変化した気象条件の結果として)変化したクロストークチャネルから、または変化した妨害側伝送PSDから生じたクロストークノイズ変動の後にも、最も支配的な妨害側がキャンセルされることを確実にし、それにより、部分的なクロストークキャンセルを通して障害側回線上で達成可能なビットレートを最適化する。
【0012】
請求項1によって定義された通りのクロストークキャンセルデバイスに加えて、本発明はまた、請求項11によって定義されるように、障害側通信回線において多くてもM個の妨害側通信回線のクロストークノイズをキャンセルするための、対応するクロストークキャンセル方法に関し、妨害側通信回線および障害側通信回線がベクトル化グループの一部を形成し、Mが正の整数であり、クロストークキャンセル方法は、障害側通信回線においてまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークノイズがキャンセルされることを必要とする、ベクトル化グループにおけるクロストークノイズ変動時に、障害側通信回線においてキャンセルされる妨害側通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるステップを含む。
【0013】
任意選択で、請求項2によって定義されるように、本発明によるクロストークキャンセルデバイスは、多くてもM個の妨害側通信回線のリストにおいてK個のスペア位置を確保するように構成されており、Kは、1に等しい、または1よりも大きい整数である。
【0014】
実際に、たとえばK=3の、同時に起動する新しい妨害側のクロストークが、それらの起動を遅延させずにキャンセルされ得ることを、障害側回線が可能にするために、クロストークキャンセラは、それがキャンセルできるM個の妨害側のリストにおいて、常に3つのスペア位置を保持しなければならない。3つの新しい妨害側の起動時において、クロストークキャンセラはこうして、M個までの妨害側回線のクロストークを一時的にキャンセルすることができる。その後、3つよりも少ないスペア位置がある場合、最も支配的ではない妨害側のうちのいくつかが、たとえば1分間の時間間隔にわたって3つのスペア位置を再生成するために、シームレスにフェーズアウトされる。明らかに、数字3は、例として与えられているにすぎない。一般的には、KがゼロからM(Mを含む)の間の整数であれば、任意の数のK個のスペア位置が実現可能である。パラメータKがゼロに設定される場合、クロストークキャンセルデバイスの動作は、パラメータKなしのクロストークキャンセルデバイスの動作に縮小されることになる。本発明のそのような実施形態では、または同時に起動する妨害側の数がKよりも多い任意の状況では、1つまたは複数の新しい妨害側の起動は、最も支配的ではないキャンセルされる妨害側が各障害側回線においてシームレスにフェーズアウトされるまで、遅延されることになる。パラメータKがMに等しく設定される場合、それぞれ新しく起動する回線の影響は和らげられることになり、本発明を適用するときのベクトル化グループの概念は、消失してよい。
【0015】
さらに、任意選択で、請求項3によって定義されるように、数字Kは構成可能であってよい。
【0016】
実際に、数字Kは、製造業者によって事前に構成されてもよく、またはオペレータによる構成が可能であってもよい。同時に加入する回線についてより高いリスクがある場合、たとえば、CPEのスイッチがオンのときに複数の回線が同時に起動する場合のボンディング(bonding)CPEの存在下では、ベクトル化グループにおいてこの数字はより大きくてよい。スペア位置の数はまた、動的に調整されて、たとえば、多数の回線が同時に加入することになる状況について予測し、長い起動の遅延を回避することができる。
【0017】
請求項4によって定義される本発明のさらなる態様によれば、クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−K−Aよりも小さい、またはM−K−Aに等しい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、本発明によるクロストークキャンセルデバイスは、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線をリストに加えるように構成されてよい。
【0018】
したがって、実際にキャンセルされる妨害側の数量Aが少なく、K個のスペア位置に影響することなくJ個の新たに起動されつつある回線を許可するために、多くてもM個の妨害側のリストの中に十分なスペースがある状況では、J個の新たに起動されつつある回線は、リストに加えられることになり、本発明によるクロストークキャンセラは、障害側においてこれらのJ個の新しい妨害側によって誘発されたクロストークをキャンセルすることになる。J個の加入回線の起動が遅延される必要はない。
【0019】
請求項5によって定義される本発明のさらなる態様によれば、クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−Aよりも小さい、またはM−Aに等しく、かつM−K−Aよりも大きい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、本発明によるクロストークキャンセルデバイスは、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線をリストに加え、JだけAを増加させ、障害側通信回線においてリストのうちのA−M+K個の最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を徐々に減少させるように、構成されてよい。
【0020】
したがって、同時に起動されつつある回線の数Jがリストの中の空いている位置の数を下回ったままで(すなわち、J≦M−A)、しかし、K個のスペア位置のいくつかまたは全部がJ個の加入回線を許可することを必要とされる(すなわち、J>M−K−A)状況では、J個の新たに起動されつつある回線は、リストに加えられることになり、本発明によるクロストークキャンセラは、J個のうちのいずれか1つの起動も遅延させずに、障害側回線においてこれらのJ個の新しい妨害側によって誘発されたクロストークノイズをキャンセルすることになる。特定の障害側において実際にキャンセルされる妨害側の数量を表すパラメータAは、Jだけ増加されることになる。これ以降、クロストークキャンセラは、たとえば、1分間の時間間隔にわたって、A−M+K個の最も妨害しない回線のクロストークキャンセル深度を徐々に低下させることによって、K個のスペア位置を空けることになる。これらのA−M+K個の最も妨害しない回線は、J個の新たに加入した回線のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0021】
請求項6によって定義される本発明のさらなる態様によれば、クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−Aよりも大きい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、クロストークキャンセルデバイスは、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のうちのM−A個をリストに加え、障害側通信回線においてリストのうちのK個の最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を徐々に低下させ、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のうちの別のK個をリストに加え、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線がリストに加えられるまで最後の2つのステップを繰り返すように、構成されている。
【0022】
したがって、新たに起動されつつある回線の数量Jが、リスト内での利用可能な位置を超えた場合(すなわち、J>M−A)、M−A個の新たに起動されつつある回線がリストに加えられることになり、本発明によるクロストークキャンセラは、これらのM−A個の回線の起動を遅延させずに、障害側においてこれらのM−A個の新しい妨害側によって誘発されたクロストークノイズをキャンセルすることになる。これ以降、本発明によるクロストークキャンセラは、リストの中でK個のスペア位置を空けるために、K個の最も妨害しないキャンセルされる回線をシームレスにフェーズアウトすることになる。これが行われると、クロストークキャンセラは、J個の新たに起動されつつある回線のうちのK個の追加的な回線が、リストに加入し、起動するのを許可することになる。クロストークキャンセラはやはり、K個の追加的な回線によって誘発されたクロストークをキャンセルすることになる。ショータイム(showtime)に入ると、クロストークキャンセラは、K個の最も妨害しない回線を繰り返しフェーズアウトし、別の組のK個の回線が加入するのを許可することになる。これは、すべてのJ個の回線が加入するまで繰り返されることになる。最後の反復では、場合によって、K個よりも少ない回線が加入してもよい。
【0023】
あるいは、請求項7によって定義されるように、クロストークノイズ変動の結果として、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のクロストークが障害側回線においてキャンセルされなければならず、Jが、M−Aよりも大きい正の整数を表し、Aが、そのクロストークが障害側回線において実際にキャンセルされる妨害側通信回線の数を表す場合に、本発明によるクロストークキャンセルデバイスは、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線のうちのM−A個をリストに加え、Kを増加させ、前記障害側通信回線においてリストのうちのK個の最も妨害しない通信回線のキャンセル深度を反復して徐々に低下させ、J個のまだキャンセルされていない妨害側通信回線がリストに加えられるまでK個のまだキャンセルされていない妨害側回線をリストに加え、Kを再設定するように構成されてよい。
【0024】
したがって、次の反復のためのスペア位置を作り出すために、K個の回線の加入、およびK個の回線のシームレスなフェーズアウトを反復して許可する代わりに、動的に調整可能なパラメータKを備えた本発明によるクロストークキャンセラの実施形態は、パラメータKを一時的に増加させてJ−M+Aに等しくすることができる。このようにして、十分なスペア位置がリストの中に作り出されて、すべての起動されつつある回線が、第2の反復に(すなわち、さらなる遅延なしに)加入するのを可能にすることになる。あるいは、たとえば、JがMよりも大きいとき、またはベクトル化グループのすべての回線がクラッシュ後に同時に起動しているとき、Kは、一時的に増加されて、最も支配的な妨害側のリストを調整するために必要な反復の数量を低下させることができる。このようにして、回線を起動するための平均遅延が最少化されることになる。
【0025】
任意選択で、請求項8によって定義されるように、本発明によるクロストークキャンセルデバイスは、ゼロに向けて、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて、すべての離散マルチトーン(DMT)のトーンに対する妨害側通信回線のクロストークチャネル係数を徐々に下げることを通して、妨害側通信回線のキャンセル深度を徐々に低下させるように構成されてよい。
【0026】
実際に、振幅次元において妨害側を徐々にフェーズアウトする1つのやり方は、段階的にゼロに向けて、プリコーダ(ダウンストリーム方向について)および/またはポストコーダ(アップストリーム方向について)によって使用されるクロストークチャネル係数を減少させることにある。DMTベースのDSL回線などのマルチトーンシステムでは、すべてのトーンのクロストーク係数は、同時に減少されてよい。
【0027】
シームレスなフェーズアウトは、ソフトウェアにおいて、たとえば、ベクトル制御エンティティ(VCE)において実装されてよく、または代替として、プリコーダおよびポストコーダハードウェアにおいて実装されてもよいことに留意されたい。
【0028】
あるいは、請求項9によって定義されるように、本発明によるクロストークキャンセルデバイスは、DMTのトーンごとに、またはDMTのトーングループごとに、徐々に、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて妨害側通信回線のクロストークチャネル係数を消去することを通して、妨害側通信回線のキャンセル深度を徐々に低下させるように構成されてもよい。
【0029】
したがって、マルチトーンシステムの場合、妨害側のシームレスなフェーズアウトはまた、次々とゼロに等しく、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて使用される異なるDMTトーンのクロストークチャネル係数を設定することによって、周波数次元で達成されてもよい。場合によっては、DMTトーンは、サブセットにおいて組み合わされてもよく、クロストークチャネル係数は、サブセットによってゼロサブセットに設定されることになる。
【0030】
請求項10によって定義されるさらに別の代替実施形態によれば、本発明によるクロストークキャンセルデバイスは、障害側通信回線に仮想ノイズを注入することを通して、妨害側通信回線のクロストークノイズを増加させるように構成されてもよく、仮想ノイズのレベルは、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて使用されるクロストークチャネル係数から直接引き出され、その後、プリコーダおよび/またはポストコーダにおいて妨害側通信回線のすべてのクロストークチャネル係数を消去する。
【0031】
実際に、障害側通信回線に仮想ノイズを注入することによって、障害側通信回線は、ビットスワップまたはSRAなどの従来のメカニズムを使用して、そのビットレートを、より高く想定されたノイズを伴う状況に適応させることになる。仮想ノイズを使用する利点は、ノイズが仮想なので、障害側通信回線に不安定な状態を引き起こすことなく、それが直ちに適用され得ることである。障害側回線が、フェーズアウトのために選択された妨害側によって誘発されたクロストークノイズに対応する仮想ノイズのレベルに適応すると、プリコーダおよび/またはポストコーダによって使用される妨害側のクロストークチャネル係数は、一斉にゼロに設定されてよい。この仮想ノイズの手順が十分に迅速であれば、それは、ゼロに等しいKを扱うこと、および、すべての他の回線がその仮想ノイズを考慮に入れるまで回線の起動を常に遅延させることの代替策となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】障害側回線Vにおけるクロストークのキャンセルのために、本発明によるクロストークキャンセラの実施形態においてキャンセルされる妨害側のリスト101を示す図である。
図2】J個の新しい妨害側が並行して加入している第1の状況において、図1から既知の、障害側回線Vについてキャンセルされる妨害側のリストの展開を示す図である。
図3】J個の新しい妨害側が並行して加入している第2の状況において、図1から既知の、障害側回線Vについてキャンセルされる妨害側のリストの展開を示す図である。
図4】J個の新しい妨害側が並行して加入している第3の状況において、図1から既知の、障害側回線Vについてキャンセルされる妨害側のリストの展開を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、ベクトル化に基づいた本発明によるクロストークキャンセラにおける、障害側回線Vについての妨害側の順序付きリスト101を示す。このリストでは、最も支配的な妨害側が最下位に挙げられ、最も支配的ではない妨害側が最上位に挙げられている。したがって、回線Aが、障害側回線Vにとって最も支配的な妨害側である。回線Vは、減少する妨害順に、回線A、回線B、回線C、回線D、回線E、回線F、回線G、回線H、回線I、回線J、回線K、回線L、回線M、回線N、回線O、回線P、および回線Qによって誘発されたクロストークノイズの障害側である。回線Vが一部を形成するベクトル化グループは、N個の回線を含み、たとえば、N=100である。これらの回線のうちのいずれかが、すべての他の回線に対する障害側回線とみなされ、任意の回線がすべての他の回線の中にクロストークノイズを誘発する妨害側とみなされる。障害側回線につき、キャンセルされ得る妨害側の最大数は、Mである。図1によって示された実施形態において、障害側Vについて、M=16である。図1は、すべての障害側について支配的な妨害側リストの中のスペア位置の数Kをさらに示し、ここで、Kは3とされている。結果として、障害側Vにおいてそのクロストークが有効にキャンセルされることになる妨害側の数は、C=M−K=15−3=12である。
【0034】
図2図3、および図4は、ベクトル化グループ内のJ個の新しい妨害側が同時に起動することを望む場合の異なる状況において、障害側Vについての妨害側のリストの時間における展開を示す。J個の新しい回線が起動することを望む時間点において、障害側Vについてキャンセルされる回線の実際の数Aに応じて、本発明によるクロストークキャンセラによって異なるアプローチが取られる。
【0035】
図2は、J≦M−K−Aである状況を示す。図2において、J=3は、3つの新しい回線、すなわち、時間点「加入前」において起動することを望む回線J、回線K、および回線Lを表し、ここで、その時間点においてキャンセルされる回線の実際の数は、A=9である。障害側Vにおいて、時間点「加入前」において実際にキャンセルされる9つの回線は、妨害の減少する順に、以下である:回線A、回線B、回線C、回線D、回線E、回線F、回線G、回線H、および回線I。したがって、加入前に障害側回線Vについてキャンセルされる妨害側のリストが、図2の201によって示される。3つの加入回線はすべてキャンセルされ得るので、それらは、支配的な妨害側のリストに加えられ、リストは、減少する妨害順に再び順序付けされる。これらの3つの回線によって障害側Vの中に誘発されたクロストークがキャンセルされ得るので、3つの加入回線の起動が障害側Vのために遅延される必要はない。時間点「加入後」において、障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側のリストが、図2の202によって表される。このリストの中で新たに加入した回線が網掛けされている。実際にキャンセルされる妨害側の数Aは、9から12に増加される。リスト202は、依然K=3よりも多いスペア位置を有しているため、この状況において、妨害側のうちのいずれかをシームレスにフェーズアウトする必要はない。
【0036】
図3は、時間点「加入前」において、J>M−K−AおよびJ≦M−Aである状況を示す。図3において、J=6回線が、時間点「加入前」において同時に加入することを望んでいる。これらの回線は、図3において、回線J、回線K、回線L、回線M、回線N、および回線Oによって参照される。図3の301によって表される加入前リストの最初の状況は、図2の最初の状況に等しいものとされ、すなわち、9つの回線が、障害側Vにおいて実際にキャンセルされる:減少する妨害順に、回線A、回線B、回線C、回線D、回線、回線F、回線G、回線H、および回線I。6つの加入回線がすべてキャンセルされ得るので、それらは、支配的な妨害側のリストに加えられ、リストは、減少する妨害順に再び順序付けされる。これらの6つの回線によって障害側Vの中に誘発されたクロストークノイズがキャンセルされ得るので、6つの加入回線の起動が障害側Vのために遅延される必要はない:A+J≦M。時間点「加入後」において、障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側のリストが、図3の302によって表される。ここで、新たに加入した回線が網掛けされている。障害側回線Vにおいてキャンセルされる妨害側の数Aは、自動的に9から15に増加される。新たに加入した回線がショータイムに入ると、A−(M−K)=A−M+K=15−16+3=2回線のシームレスなフェーズアウトが行われて、リストの中のスペア位置の数をK=3に戻す。そこへ、最も支配的ではないキャンセルされる妨害側、すなわち、回線Kおよび回線Iが選択され、障害側Vにおけるこれらの2つの妨害側のキャンセル深度が、たとえば1分間の時間間隔にわたって、時間点「フェーズアウト後」まで徐々に減少され、ここで、これらの2つの妨害側のクロストークは、もはや障害側Vにおいてキャンセルされない。障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側の数Aは、リスト303によって示されるように、13に調整される。
【0037】
図4は、J>M−Aである状況を示す。図4において、時間点「加入前」おいて同時に加入することを望む回線の数Jは、8であるものとされ、ここで、障害側Vにおいて実際にキャンセルされる妨害側のリスト401は、9つの回線を含む:減少する妨害順に、回線A、回線B、回線C、回線D、回線E、回線F、回線G、回線H、および回線I。同時に加入することを望む8つの回線は、回線J、回線K、回線L、回線M、回線N、回線O、回線P、および回線Qによって参照される。J>M−Aであるので、すべての新しい加入回線がキャンセルされることが可能なわけではない。したがって、リスト402によって示される第1のステップにおいて、M−A=16−9=7回線がキャンセルされることになる。これらの7つの回線は、加入することを望む8つの回線からランダムに選択される。回線J、回線K、回線L、回線M、回線N、回線O、および回線Pが支配的な妨害側のリストに加えられ、リストは、減少する妨害順に再び順序付けされる。障害側Vにおいてこれらの7つの回線によって誘発されたクロストークは、リストの中のすべてのスペア位置を使用して即座にキャンセルされ得るので、したがって、7つの加入回線の起動が障害側Vのために遅延される必要はない。時間点「加入後1」において、障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側のリストが、図4の402によって表される。この中で7つの新たに加入した回線が網掛けされている。その時間点において、回線Qは、依然加入を待っている。障害側回線Vにおいてキャンセルされる妨害側の数Aは、最大数量の16まで増加される。7つの回線がショータイムに入ると、K=3回線のシームレスなフェーズアウトが行われて、リストの中のスペア位置の数をK=3に戻すことになる。そこへ、最も支配的ではないキャンセルされる妨害側、すなわち、回線I、回線K、および回線Pが選択され、障害側Vの中へのこれらの3つの妨害側のキャンセル深度が、たとえば1分間の時間間隔にわたって、時間点「フェーズアウト後1」まで徐々に減少され、ここで、これらの3つの妨害側のクロストークノイズは、もはや障害側Vにおいてキャンセルされない。障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側の数Aは、リスト403によって示されるように、13に調整される。以下のステップで、クロストークキャンセラは、加入を待っている次のグループのK個の回線を許可することになる。図4によって示されるケースでは、回線Qのみが依然加入を待っている。したがって、回線Qが支配的な妨害側のリストに加えられ、リストは、減少する妨害順に再び順序付けされる。回線Qも起動した時間点「加入後2」において、障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側のリストが、図4の404によって表される。そこでは新たに加入した回線Qが網掛けされている。障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側の実際の数Aは、再び14まで増加される。回線Qがショータイムに入ると、1つの回線のシームレスなフェーズアウトが行われて、リストの中のスペア位置の数をK=3に戻すことになる。そこへ、最も支配的ではないキャンセルされる妨害側、すなわち、回線Hが選択され、障害側Vにおけるこの妨害側のキャンセル深度が、たとえば1分間の時間間隔にわたって、時間点「フェーズアウト後2」まで徐々に減少され、ここで、この妨害側のクロストークは、もはや障害側Vにおいてキャンセルされない。障害側Vにおいてキャンセルされる妨害側の数Aは、リスト405によって示されるように、再び13に調整される。より多い数の回線が同時に加入する場合、加入することを望むすべての回線がショータイムに入るまで、後者2つのステップが繰り返される、すなわち、加入するK個の回線のランダムな選択、およびK個の最も支配的ではないキャンセルされる妨害側のスムーズなフェーズアウトを反復して許可する。最後の反復は、明らかに、図4の404および405によって示されるように、K個よりも少ない回線によって実施されてよい。
【0038】
加入を許可される回線は加入のための候補回線の中からランダムに選択されてよいことが、本明細書の上記で言及されたが、連続する反復において加入することになる回線の選択は、代替的に、ベクトル化に基づいて決定されてもよい。典型的に、すべての障害側を考慮に入れてどの回線が加入できるかを決めることになるのは、ベクトル制御エンティティ(VCE)である。
【0039】
新しい回線の加入は、単一の障害側回線の観点から本明細書の上記で説明されてきたことに留意されたい。明らかに、ベクトル化グループにおけるすべての障害側回線は、新しい回線が起動を許可される前に、新しい回線の加入に備えなければならない。結果として、同時に加入することを望む回線の数Jは、ベクトル化グループにおけるすべての障害側にわたって、実際にキャンセルされる妨害側の数Aの最大数と比較されなければならない。この最大数は、Max−Aによって参照されてよい。本明細書の上記では、本発明の説明を簡単にするために、すべてのA値は、Max−AがAに等しく設定された結果と同じであるものとされている。これはまた、実際において最も確率の高い状況でもある。
【0040】
新しい回線の加入について定義された上記のメカニズムはまた、ベクトル化の追跡中に、すなわち、その伝送PSDを増加させる妨害側から生じた、またはクロストークチャネルの変化から生じたクロストークノイズ変動に適応するようにショータイムに入る調整中に、使用されてもよいことにさらに留意されたい。クロストークノイズ変動のために、まだキャンセルされていない妨害側が、最も支配的ではないキャンセルされる妨害側に比べて妨害するようになる場合、本発明の原理に従って、すなわち、障害側回線において新しい回線を最初にキャンセルし、次いで最も支配的ではないキャンセルされる妨害側のシームレスなフェーズアウトを行うことによって、それらの回線のスワップが行われてよい。
【0041】
本発明が特定の実施形態への参照によって示されてきたが、当業者には、本発明が上述の説明的な実施形態の詳細に限定されないこと、および本発明がその範囲から逸脱せずに、さまざまな変更形態または修正形態によって具体化されてよいことが明らかであろう。したがって、本実施形態は、すべての点において、例示的としてみなされ、限定的としてみなされるべきでなく、本発明の範囲は、上述の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示されており、特許請求の範囲の均等物の意味および範囲内に入るすべての変更形態は、したがって、その中に含まれるように意図される。言い換えれば、基本的な根底にある原理の範囲内に入る任意およびすべての修正形態、変形形態、または均等物を含むことが企図されており、その本質的属性が、本特許出願において特許請求される。さらに、単語「含む(comprisingまたはcomprise)」は、他の要素またはステップを排除しないこと、単語「a」または「an」は、複数形を排除しないこと、およびコンピュータシステム、プロセッサ、または別の統合されたユニットなどの単一の要素が、特許請求の範囲で列挙されるいくつかの手段の機能を果たすことができることが、本特許出願の読者によって理解されるだろう。特許請求の範囲におけるあらゆる参照記号は、関係するそれぞれの特許請求項を限定するものとして解釈されない。用語「第1の」、「第2の」、「第3の」、「a」、「b」、「c」などは、本明細書または特許請求の範囲で使用されるとき、これらは類似した要素またはステップを区別するために導入されており、必ずしも連続的または時系列な順序を表してはいない。同様に、用語「上部」、「底部」、「の上」、「の下」などは、記述的な目的で導入されており、必ずしも相対的な位置を表してはいない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であること、および本発明の実施形態は、上記で説明された、もしくは図示されたものとは他の順序において、または異なる方向づけにおいて、本発明による動作が可能であることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4