特許第5775238号(P5775238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

<>
  • 特許5775238-高耐食性銅管 図000004
  • 特許5775238-高耐食性銅管 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775238
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】高耐食性銅管
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20150820BHJP
   F25B 39/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C22C9/00
   F25B39/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-504804(P2015-504804)
(86)(22)【出願日】2014年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2014052418
(87)【国際公開番号】WO2014148127
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-55963(P2013-55963)
(32)【優先日】2013年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩三
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 忍
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−221344(JP,A)
【文献】 特開2008−304170(JP,A)
【文献】 特開2001−247923(JP,A)
【文献】 特開2009−235428(JP,A)
【文献】 特開平06−088177(JP,A)
【文献】 特開平06−122932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機器において湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる伝熱管にして、Pを0.10〜1.0重量%の割合で含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる、蟻の巣状腐食に対する高耐食性銅管からなることを特徴とする空調機器における伝熱管。
【請求項2】
前記Pの含有量が、0.15重量%以上である請求項1に記載の空調機器における伝熱管
【請求項3】
前記Pの含有量が、0.8重量%以下である請求項1又は請求項2に記載の空調機器における伝熱管
【請求項4】
前記Pの含有量が、0.5重量%以下である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空調機器における伝熱管
【請求項5】
前記不可避的不純物の含有量が、合計量で0.05重量%以下である請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の空調機器における伝熱管
【請求項6】
冷凍機器において湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる冷媒管にして、Pを0.10〜1.0重量%の割合で含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる、蟻の巣状腐食に対する高耐食性銅管からなることを特徴とする冷凍機器における冷媒管。
【請求項7】
前記Pの含有量が、0.15重量%以上である請求項6に記載の冷凍機器における冷媒管
【請求項8】
前記Pの含有量が、0.8重量%以下である請求項6又は請求項7に記載の冷凍機器における冷媒管
【請求項9】
前記Pの含有量が、0.5重量%以下である請求項6乃至請求項8の何れか1項に記載の冷凍機器における冷媒管
【請求項10】
前記不可避的不純物の含有量が、合計量で0.05重量%以下である請求項6乃至請求項9の何れか1項に記載の冷凍機器における冷媒管
【請求項11】
空調機器や冷凍機に用いられて、湿潤環境下に配置される銅管において、その表面から惹起される、低級カルボン酸を腐食媒として湿潤環境中で発生する蟻の巣状腐食に対する耐食性を向上せしめる方法にして、かかる銅管を、P含有量が0.10〜1.0重量%であり、残部がCuと不可避的不純物からなる材質にて構成することを特徴とする耐食性向上方法。
【請求項12】
前記P含有量が、0.3〜1.0重量%である請求項11に記載の耐食性向上方法。
【請求項13】
前記不可避的不純物の含有量が、合計量で0.05重量%以下である請求項11又は請求項12に記載の耐食性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食性銅管に係り、特に、空調機器や冷凍機器における伝熱管、冷媒配管等に好適に用いられる銅管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調機器の伝熱管や冷凍機器の冷媒配管等には、耐食性、ろう付け性、熱伝導性及び曲げ加工性等において優れた特徴を発揮する、りん(P)脱酸銅管(JIS−H3300−C1220T)が、主として用いられてきている。
【0003】
しかしながら、そのような空調機器や冷凍機器に使用されるりん脱酸銅管には、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する異常な腐食、所謂蟻の巣状腐食が発生することがあることが認められている。この蟻の巣状腐食は、蟻酸や酢酸等といった低級カルボン酸を腐食媒として、湿潤環境中で発生するとされ、また1,1,1−トリクロロエタン等の塩素系有機溶剤や、ある種の潤滑油、ホルムアルデヒド等が存在する環境下においても、同様な腐食の発生が確認されている。特に、空調機器や冷凍機器における結露が惹起される管路として用いられた場合には、その発生が顕著となることが知られている。そして、そのような蟻の巣状腐食は、それが発生すると、腐食の進行速度が早く、短期間で銅管を貫通するまでに進行し、機器が使用出来なくなってしまうという問題を惹起する。
【0004】
このため、特開平6−122932号公報においては、P:0.0025〜0.01wt%を含み、残部がCuと通常の不純物とからなるか、又は、更に酸素濃度が20wtppm以下である耐食性高強度銅管が提案され、それによって、蟻の巣状腐食に対する耐食性が向上せしめられ得ることが、明らかにされている。即ち、そこでは、Pの含有量が極めて少ない無酸素銅管では、蟻の巣状腐食が抑制されるものであるところから、りん脱酸銅管におけるPの含有量を低減せしめて、りん脱酸銅管よりも蟻の巣状腐食に対する耐食性の向上を図ろうとしているのである。
【0005】
しかして、そのようなPの含有量を低減せしめてなる銅管には、未だ、無酸素銅管に比肩し得る程の、蟻の巣状腐食に対する耐食性を得ることは望むべくもなかったのである。このため、厳しい腐食環境下においても、従来から公知の銅管よりも、蟻の巣状腐食に対する耐腐食性のより高い銅管の開発が、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−122932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、蟻の巣状腐食に対して、より高い耐食性を発揮することの出来る、空調機器や冷凍機器に好適に用いられ得る防食性に優れた銅管を提供することにあり、またそのような銅管を用いて構成される機器の寿命を有利に向上せしめることにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、空調機器や冷凍機器等において用いられる銅管における蟻の巣状腐食について鋭意検討を重ねた結果、従来のりん脱酸銅からなる管材よりも、P含有量の大なる領域において、蟻の巣状腐食に対する耐食性をより一層向上せしめ得る銅管を、実用的に有利に得ることが出来る事実を見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、かくの如き知見に基づき、空調機器において湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる伝熱管にして、P(りん)を0.10〜1.0重量%の割合で含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる、蟻の巣状腐食に対する高耐食性銅管からなることを特徴とする空調機器における伝熱管を、その要旨とするものである。また、本発明は、冷凍機器において湿潤環境下に配置されて、低級カルボン酸からなる腐食媒により、管表面から管肉厚方向に蟻の巣状に進行する腐食作用にさらされる冷媒管にして、Pを0.10〜1.0重量%の割合で含有し、残部がCuと不可避的不純物からなる、蟻の巣状腐食に対する高耐食性銅管からなることを特徴とする冷凍機器における冷媒管をも、その要旨とするものである。
【0010】
要するに、本発明にあっては、従来のりん脱酸銅管が、0.015〜0.040重量%程度のP含有量であるのに対して、それよりも所定量多い、0.10〜1.0重量%のP含有量の銅管を構成し、かかるP含有量の多い銅管を、空調機器における伝熱管及び冷凍機器における冷媒管として採用することによって、蟻の巣状腐食に対する耐食性を著しく向上せしめ得たのであり、特に、そのような耐食性が、従来の無酸素銅管よりも更に優れていることは、驚くべきことである。
【0011】
なお、かかる本発明に従う空調機器における伝熱管及び冷凍機器における冷媒管の各々にあっては、望ましくは、前記Pの含有量は、0.15重量%以上とされることとなる。
【0012】
また、本発明に従う空調機器における伝熱管及び冷凍機器における冷媒管の各々の、好ましい態様の一つによれば、前記Pの含有量は、0.8重量%以下とされ、そして別の好ましい態様の一つによれば、前記Pの含有量は、0.5重量%以下とされる。
【0013】
さらに、本発明に従う空調機器における伝熱管及び冷凍機器における冷媒管の各々の、望ましい態様の別の一つにあっては、前記不可避的不純物の含有量は、合計量で0.05重量%以下とされることとなる。
【0014】
加えて、本発明にあっては、空調機器や冷凍機に用いられて、湿潤環境下に配置される銅管において、その表面から惹起される、低級カルボン酸を腐食媒として湿潤環境中で発生する蟻の巣状腐食に対する耐食性を向上せしめる方法にして、かかる銅管を、P含有量が0.10〜1.0重量%であり、残部がCuと不可避的不純物からなる材質にて構成することを特徴とする耐食性向上方法をも、その要旨とするものである。なお、本発明に従う耐食性向上方法においては、好ましくは、前記P含有量が、0.3〜1.0重量%である。また、かかる耐食性向上方法においては、望ましくは、前記不可避的不純物の含有量が、合計量で0.05重量%以下である。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明によれば、蟻の巣状腐食に対する耐食性において、従来から公知の銅管よりも優れた防食性を発揮し得る実用的な銅管が提供され得ることとなったのであり、またそのような銅管を、空調機器の伝熱管や冷凍機器の冷媒配管等として用いることにより、それら機器の寿命が更に高められ得ることとなったのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例で用いた耐食性試験装置の概要を示す断面説明図である。
図2】実施例において得られた銅管のP含有量と最大腐食深さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ところで、本発明に従う高耐食性銅管においては、そのP含有量が0.05〜1.0重量%となるように構成して、従来の銅管よりもP(りん)が高濃度で含有せしめられているところに、大きな特徴を有しているのである。そして、そのような高濃度のPの含有によって、銅管の腐食形態が、管軸垂直方向(管肉厚貫通方向)に進行する選択的腐食形態から、管軸水平方向(管表面に広がる方向)に進行する表面腐食形態に移行するものと考えられ、特に、Pの含有量を0.10重量%以上、更には0.15重量%以上とすることにより、かかる選択的腐食形態の発生が、効果的に抑制乃至は阻止され、且つ従来の銅管よりも著しい耐食性が発揮され得ることとなるのである。
【0018】
もっとも、かかる銅管におけるP含有量を0.05重量%まで少なくすると、選択的腐食形態が惹起されるようになるものの、その腐食速度は、従来の銅管よりも効果的に抑制され得て、蟻の巣状腐食に対する耐食性が認められるところから、本発明にあっては、P含有量は、0.05重量%以上とされている。一方、P含有量が1.0重量%を超えるようになっても、蟻の巣状腐食に対する耐食性には殆ど変化がなく、むしろ銅管の製造に際して、加工性が低下して、割れ等の問題を惹起するようになるところから、P含有量の上限は、1.0重量%に止める必要があるのである。また、かかるP含有量は、好ましくは0.8重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下とするのが、銅管の実用的な製造上において好ましいと言うことが出来る。
【0019】
なお、本発明に従う高耐食性銅管は、上述の如きP含有量の他、残部がCu(銅)と不可避的不純物からなる材質にて、構成されるものであって、そこで、Fe,Pb,Sn等の不可避的不純物は、一般に、合計量で0.05重量%以下となるように調整されることとなる。
【0020】
また、かくの如き本発明に従う組成を有するCu材料を用いて、目的とする銅管を製造するに際しては、従来と同様な手法が採用され、例えば、インゴットやビレットの鋳造、管の押し出し、管の抽伸等の工程を経て、製造されることとなる。なお、そのようにして得られる銅管の外径や肉厚等のサイズは、銅管の用途に応じて適宜に選定されるものである。さらに、本発明に従う銅管が伝熱管として用いられる場合にあっては、平坦な内面が採用される他、よく知られているように、公知の各種の内面加工が施されて、各種形態の内面溝が設けられてなる伝熱管とすることも有効である。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明に従う幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0022】
先ず、下記表1に示されるP含有量と、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有する各種の銅管を、外径:9.52mm、肉厚:0.41mmのサイズにおいて、従来と同様にして作製して、下記の蟻の巣状腐食試験に供した。また、P含有量が1.5重量%で、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu材料を用いて、上記と同様なサイズの銅管を製造しようとしたところ、割れが発生して、目的とする銅管を得ることが出来なかった。更に、比較材として、同寸法のりん脱酸銅管と無酸素銅管とを準備した。
【0023】
【表1】
【0024】
次いで、かかる準備された各種の銅管について、図1に示す試験装置を用いて、蟻の巣状腐食試験を実施した。なお、図1において、2は、キャップ4にて密閉することの出来る2Lのポリ容器であり、そのキャップ4を貫通して取り付けられたシリコン栓6を貫通するように、供試銅管10が、ポリ容器2内に所定深さ差し込まれている一方、供試銅管10の下端開口部は、シリコン栓8にて閉塞せしめられている。また、ポリ容器2内には、所定濃度の蟻酸水溶液の100mlが、供試銅管10に接触しない形態において収容されている。
【0025】
また、蟻の巣状腐食試験においては、蟻酸水溶液12の濃度を、0.01%、0.1%及び1%の3種類とし、それらの蟻酸水溶液12が収容されたポリ容器2に、所定の供試銅管10をセットした状態において、40℃の恒温槽内に放置すると共に、2時間/日だけ槽外に取り出して、室温(15℃)下において保持することにより、その温度差によって供試銅管10の表面への結露を促した。そして、そのような条件下での腐食試験を、20日間実施した。
【0026】
そして、かかる腐食試験の施された各供試銅管について、それぞれの切断面を調べ、蟻酸水溶液の濃度毎に最大腐食深さを測定し、その結果を、下記表2に示した。また、蟻酸濃度:0.1%の場合における最大腐食深さとP含有量の関係をグラフ化して、図2に示した。
【0027】
【表2】
【0028】
かかる表2の結果から明らかな如く、0.01%濃度の蟻酸水溶液を用いた場合において、P含有量が0.1〜1.0重量%の範囲内の供試銅管No.1〜6や、無酸素銅管からなる供試銅管8においては、蟻の巣状腐食の発生はなく、管表面が軽微に腐食されているのみであることを認めた。一方、0.1%濃度の蟻酸水溶液や1%濃度の蟻酸水溶液を用いた腐食試験においては、りん脱酸銅管である供試銅管7や、無酸素銅管である供試銅管8の何れにも、蟻の巣状腐食が確認されたが、P含有量が0.1〜1.0重量%の範囲内となる供試銅管1〜6においては、腐食は発生するものの、蟻の巣状腐食の形態とはならず、その最大深さは、りん脱酸銅管や無酸素銅管と比較して、浅いものであることを認めた。
【0029】
また、図2に示される結果より、P含有量が0.03重量%のりん脱酸銅管(No.7)の両側において腐食深さが低下しており、特に、リン脱酸銅管(No.7)よりもP含有量が多い本発明に従う銅管(No.1〜No.6)においては、無酸素銅管(No.8)よりも腐食深さに優れた結果が得られていることは注目すべきことである。
【符号の説明】
【0030】
2 ポリ容器
4 キャップ
6 シリコン栓
8 シリコン栓
10 供試銅管
12 蟻酸水溶液
図1
図2