(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、生体由来の細胞から構成される膜状組織について、その原形状を損なうことなく、品質や生物学的活性を保持するとともに、かかる膜状組織の保存及び輸送を簡便に行うことができる膜状組織の保存輸送容器及び保存輸送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、生体由来の細胞からなる膜状組織を保存又は輸送するために使用する膜状組織の保存輸送容器であって、前記膜状組織を原形状の大きさを維持した状態で収容可能な大きさを有する収容部と、前記収容部内に気体層が形成されることがない程度に、前記収容部内に満たされた保存液と、を備え、前記収容部内に満たされた前記保存液中に前記膜状組織が浮遊状態で収容され
ており、前記収容部は、前記膜状組織の平面形状よりも大きく下方に開放した下側開口部を有し、非通液性壁部により前記下側開口部が閉じられていることを特徴とする。
【0009】
上記のような本発明の構成によれば、収容部内を保存液で満たし、当該保存液中に膜状組織を浮遊させたので、保存輸送容器の輸送中に振動が発生し、収容部が振動しても、その内側の保存液が波打ったり流動したりすることがない。これにより、膜状組織に振動が伝わらず、膜状組織の破損を防止できる。
【0010】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、
前記非通液性壁部を構成する底部を有し且つ前記収容部を収容する外側容器をさらに備え
、前記外側容器の
前記底部に前記収容部の下端が当接することで前記下側開口部が閉じられるとよい。
【0011】
上記の構成によれば、膜状組織を取り出す際に、膜状組織及び保存液を別の容器に移し替える必要がなく、迅速に作業を行えるとともに、移し替え作業に伴う膜状組織の破損の可能性を本質的に回避できる。
【0012】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記外側容器内で前記収容部の外側には、前記保存液と同一の又は異なる液体が収容されているとよい。
【0013】
このように、収容部の周囲に液体が存在することにより、下側開口部を介して収容部内に空気が流入することを防止できる。
【0014】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記外側容器内で前記収容部の外側にある前記液体の液面に浮かぶ安定化部材をさらに備えるとよい。
【0015】
このような安定化部材を配置することで、収容部及び液体を安定化でき、激しい振動を受けた場合でも収容部の下端が空気に曝されることを防止でき、収容部内に空気が流入することを防止できる。
【0016】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記外側容器内で前記収容部の外側には、ゲル状体が収容されてもよい。
【0017】
収容部の周囲にゲル状体が存在することにより、下側開口部から収容部に気体が流入することを防止できるとともに、収容部がゲル状体により保持されることで収容部の移動が防止される。
【0018】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記外側容器は、上方に開放した上側開口部を有する容器本体と、前記容器本体の前記上側開口部を閉じ得るように構成された蓋部材とを有し、前記保存輸送容器は、前記容器本体と前記蓋部材とを結合させる結合機構をさらに備え、前記収容部の上部には、前記容器本体が前記蓋部材によって閉じられた状態で前記収容部と前記蓋部材とに挟まれる介在部が設けられるとよい。
【0019】
上記の構成によれば、収容部が容器本体に押圧されることで収容部が安定的に固定される。これにより、外側容器内で収容部がずれることがないとともに、収容部の下端が容器本体の底部から浮くことが防止され、収容部内が保存液で満たされた状態を好適に保持できる。
【0020】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記容器本体が前記蓋部材によって閉じられた状態で、前記介在部の上端は、前記蓋部材と線又は面で接するとよい。
【0021】
これにより、収容部の位置を安定化させる別の部材を収容部の外周面に設けなくても、収容部を安定的に保持できる。
【0022】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記結合機構は、前記容器本体の下面と前記蓋部材の上面とに当接して、前記容器本体及び前記蓋部材を弾性的に挟圧する少なくとも1つのクリップからなるとよい。
【0023】
これにより、外側容器が比較的撓みやすい材料からなる場合でも、外側容器の上面と下面から挟むことで、蓋部材により収容部をしっかりと容器本体に押圧でき、収容部をより安定的に固定できる。
【0024】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記収容部の壁には、当該収容部の内外間を連通する貫通孔が形成され、前記貫通孔が閉塞部材により閉じられてもよい。
【0025】
このような構成により、貫通孔を通して収容部内の空気を排出できるので、収容部内を容易に保存液で満たすことができる。
【0026】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記容器本体の底部には、前記収容部の前記容器本体に対する水平方向の位置決めをする位置規制部が設けられるとよい。
【0027】
これにより収容部が容器本体に対して横方向にずれることが防止され、膜状組織を安定的に保持できる。
【0028】
また、本発明は、生体由来の細胞からなる膜状組織の保存輸送方法であって、前記膜状組織を原形状の大きさを維持した状態で収容可能な大きさを有
し且つ前記膜状組織の平面形状よりも大きく下方に開放した下側開口部を有する収容部を用意し、前記収容部内に気体層が形成されることがない程度に前記収容部内に満たされた保存液中に、前記膜状組織を浮遊状態で収容
し、非通液性壁部により前記下側開口部を閉じることを特徴とする。
【0029】
上記の膜状組織の保存輸送方法において、
前記非通液性壁部を構成する底部を有する外側容器の容器本体に入れられた前記保存液中に前記膜状組織を浮遊させ
、前記収容部を、その下端が、前記保存液内に位置し且つ前記容器本体の底部から離間した状態となるように位置させ、前記収容部の下端と前記容器本体との間を通して、管状部材を用いて前記収容部内の気体を排出することで、前記収容部内を前記保存液で満たし、前記収容部を前記容器本体の
前記底部上に載置することで、前記収容部内の前記保存液中に前記膜状組織を浮遊させ、前記容器本体を蓋部材で閉じて、前記膜状組織を収容した前記収容部を前記外側容器内に密封するとよい。
【0030】
上記の膜状組織の保存輸送方法において、
前記非通液性壁部を構成する底部を有する外側容器の容器本体に入れられた前記保存液中に前記膜状組織を浮遊させ
、壁に形成された貫通
孔を有する前記収容部を前記容器本体の
前記底部上に載置することで、前記収容部内を前記保存液で満たすとともに、前記収容部内の前記保存液中に前記膜状組織を浮遊させ、前記容器本体を蓋部材で閉じて、前記膜状組織を収容した前記収容部を前記外側容器内に密封するとよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の膜状組織の保存輸送容器及び保存輸送方法によれば、膜状組織の原形状を損なうことなく、品質や生物学的活性を保持するとともに、膜状組織の保存及び輸送を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る膜状組織の保存輸送容器及び保存輸送方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0034】
図1は、第1実施形態に係る膜状組織の保存輸送容器10(以下、単に「保存輸送容器10」という)の断面図であり、
図2は、当該保存輸送容器10の分解斜視図である。この保存輸送容器10は、生体由来の細胞からなる膜状組織11を保存又は輸送するために使用するデバイスであり、膜状組織11を収容する収容部12と、容器本体16と蓋部材18とからなり収容部12を収容する外側容器14と、収容部12及び外側容器14に入れられた保存液20と、外側容器14の容器本体16と蓋部材18とを結合する結合機構22とを備える。
【0035】
保存及び輸送対象となる膜状組織11は、心臓、角膜、網膜、血管、神経、表皮、真皮、軟骨、歯などの臓器、組織の一部又は全体、又は複数の臓器の、疾患、疾病、欠損に対し再生、治療、治癒促進を目的として用いられたり、臓器、組織に対する薬品の刺激性、感作性、毒性、薬物の効果、組織への反応などを調べたりするために用いられたりする、ある程度の厚みを有する生体由来構造物であり、例えば、皮膚組織、粘膜上皮組織、角膜上皮組織、培養皮膚、培養真皮、培養表皮、培養上皮組織、培養角膜組織、軟骨組織、網膜組織、神経フィラメント、人工血管、筋芽細胞組織、前述の生体組織由来細胞から作製されたシート状細胞培養物等が挙げられ、好ましくは筋芽細胞からなるシート状細胞培養物が挙げられる。膜状組織11は、細胞や細胞分泌物のみから構成されていもよいし、さらに、支持体などの生体に由来しない物質を含んでもよい。
【0036】
収容部12は、膜状組織11を原形状の大きさを維持した状態で収容可能な大きさを有する容器であり、外側容器14内に収容されて内側容器として機能するものである。このような収容部12は、下方に開放した下側開口部24(
図2参照)を有した筒状体であり、図示例では、円筒体に形成されている。図示例の収容部12は、上部壁26と、この上部壁26の外周縁部から下方に延在する筒状壁部27とを有している。このような収容部12を外側容器14の底部28上に載置すると、下側開口部24が閉じられて、収容部12内に閉空間が形成される。
【0037】
この収容部12には、膜状組織11用の保存液20が、収容部12内に気体層が形成されることがない程度に満たされている。すなわち、収容部12内は、略全体が保存液20で満たされており、上方に空気の層が形成されていない状態である。「保存液20が、収容部12内に気体層が形成されることがない程度に満たされている」とは、収容部12内の上部に多少の気泡が存在すること許容する趣旨である。このような多少の気泡が収容部12内の上部に存在しても、収容部12が振動を受けた際における収容部12内の保存液20の波打ちや流動が発生することはほとんどない。保存液20としては、液体培地、生理食塩水、等張液、緩衝液、ハンクス平衡塩液等が挙げられる。
【0038】
収容部12の上部には、容器本体16が蓋部材18によって閉じられた状態で、収容部12と蓋部材18とに挟まれる介在部30が設けられている。図示例の介在部30は円筒形であるが、非円形の筒形でもよく、あるいは、円形又は非円形の筒形を周方向に複数に分割したような突片であってもよい。あるいは、介在部30の上部を壁で閉じ、蓋部材18の下面と面で接触する構成としてもよい。
【0039】
図示例の介在部30は、収容部12の上部に一体的に形成されている。介在部30の外径は、図示例のように収容部12の外径と同じである必要はなく、収容部12の外径よりも小さくてもよいし、逆に大きくてもよい。
【0040】
外側容器14は、容器本体16と蓋部材18とを有し、収容部12よりも大きい。具体的には、外側容器14は、外側容器14内に収容部12が収容された状態で、収容部12の外周と外側容器14の内周との間に空間(例えば、環状空間)が形成される程度の大きさである。また、外側容器14は、外側容器14から収容部12を取り外して保存液20中に浮遊する膜状組織11を適宜の器具(移植デバイス等)を用いて取り出す際に、十分な作業スペースが確保される程度の大きさであることが好ましい。例えば、外側容器14が円形シャーレである場合、その内径は、30〜300mm程度が好ましく、80〜150mm程度がより好ましい。
【0041】
容器本体16は、底部28と、底部28の外周縁部から上方に延出する側壁部29とを有する高さの低い有底筒状体(図示例では有低円筒状)であり、その上部は、上方が開放した上側開口部(
図2参照)32として開口している。蓋部材18は、容器本体16の上側開口部32を閉じ得るように構成され、天部34と、当該天部34の外周縁部から下方に延出する側壁部36を有する。当該側壁部36の内径は、容器本体16の側壁部の外径と略同じか、それよりも僅かに大きい。天部34の外周部下面には、環状のシール部材37が設けられている。蓋部材18で容器本体16を閉じると、蓋部材18と容器本体16との間がシール部材37によりシールされ、外側容器14が液密に密封される。なお、蓋部材18の天部34の下面にシール部材37を設ける代わりに、容器本体16の側壁部29の上面にシール部材37を設けても、上記と同様の封止効果が得られる。シール部材37としては、液体の漏出を防ぐもので、例えば、シリコン、ブタジエンゴムから形成される。
【0042】
上述した収容部12、容器本体16及び蓋部材18の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂の他、ガラス、セラミックス、金属、合金等が挙げられる。また、収容部12、容器本体16及び蓋部材18の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であるのが好ましい。さらに、構成材料は、細胞の接着を防ぐために細胞非接着性の表面を持つのが好ましい。
【0043】
結合機構22により蓋部材18と容器本体16とが結合し、容器本体16が蓋部材18により閉じられている状態で、収容部12は、容器本体16と蓋部材18との間に挟持され、外側容器14内での移動が制限されている。これにより、収容部12を外側容器14内で安定的に固定することができる。
【0044】
外側容器14内で且つ収容部12の外側には、保存液20が収容されている。収容部12の外側の保存液20の液面の高さは、収容部12内の保存液20の高さよりも低いとよい。こうすることで、大気圧によって収容部12を容器本体16の底部28に押し付ける力が生じるため、収容部12を容器本体16により安定的に固定することができる。また、収容部12の外側の保存液20に代えて、保存液20とは異なる液体を収容してもよい。
【0045】
図示例の結合機構22は、容器本体16の下面と蓋部材18の上面とに当接して、容器本体16及び蓋部材18を弾性的に挟圧する2つのクリップ38により構成されている。各クリップ38は、互いに対向して延在する一対のアーム部40a、40bと、一対のアーム部40a、40bの基端部同士を連結する連結部40cとからなる。各クリップ38は、一対のアーム部40a、40bが外側方向に弾性変形することで拡開可能であり、自然状態(何らの外力も付与されていない状態)で、一対のアーム部40a、40b間の間隔は、蓋部材18で容器本体16を閉じた状態の外側容器14の厚さ(高さ)よりも小さい。このようなクリップ38は、弾性を有する各種金属、合金、樹脂等で構成できる。
【0046】
図1では、外側容器14に対して互いに反対側の位置に2つのクリップ38が取り付けられているが、取り付けるクリップ38の数は、蓋部材18と容器本体16とを適切な保持力でもって結合させることができる範囲で適宜設定すればよく、したがって、1つあるいは3つ以上であってもよい。
【0047】
本実施形態に係る保存輸送容器10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0048】
上記の保存輸送容器10を組み立てるには、まず
図3Aに示すように、容器本体16に保存液20を入れ、その保存液20中に膜状組織11を浮遊させる。次に、
図3Bに示すように、膜状組織11及びその周囲の保存液20を収容部12で覆うとともに、収容部12の下端の全周が保存液20中に位置し、且つ、容器本体16の底部28から収容部12の下端の全周が離間した状態となるように、収容部12を配置する。そして、この状態で、例えば、湾曲したノズル(管状部材)44を有する吸引具(図示例では、シリンジ46)を用いて収容部12内の気体(空気)を排出する。
【0049】
すなわち、収容部12の下端と容器本体16の底部28との間から、湾曲したノズル44を収容部12内に挿入したうえで、シリンジ46の押し子48を引くことで、収容部12内の気体を吸引する。この際、吸引の最終段階で、収容部12内に気泡が残るが、収容部12を傾けて気泡を角部に移動させたうえで、そこにノズル44の先端部を位置させて吸引することで収容部12内から気泡を略完全になくすことができる。収容部12が透明な部材で構成されていると、気泡の存在及び位置を目視で確認しながら上記の操作を行うことができるため、気泡の除去を迅速且つ確実に行うことができる。
【0050】
収容部12内から気体を除去し、収容部12内を保存液20で満たしたら、
図3Cに示すように、収容部12を容器本体16の底部28上に載置する。このとき、収容部12内の保存液20の高さより収容部12の外側の保存液20の液面高さが高い場合には、収容部12の外側の保存液20の量を減らして、収容部12の外側の保存液20の液面高さを収容部12内の保存液20の高さより低くする。
【0051】
そして、容器本体16を蓋部材18で閉じ(
図3D参照)、上述したクリップ38で容器本体16と蓋部材18を結合する。そうすると、介在部30を介して、収容部12が蓋部材18と容器本体16との間で挟持されるため、外側容器14内で収容部12が安定して固定される。以上の操作により、
図1に示した状態の保存輸送容器10が完成する。なお、保存輸送容器10を組み立てる上記の作業工程は、クリーンルーム(無菌環境下)で行われる。
【0052】
上記のように構成された保存輸送容器10によれば、収容部12を保存液20で満たし、当該保存液20中に膜状組織11を浮遊させたので、保存輸送容器10の輸送中に振動が発生し、収容部12が振動しても、その内側の保存液20が波打ったり流動したりすることがない。したがって、膜状組織11に振動が伝わらず、膜状組織11の破損を防止できる。
【0053】
また、本実施形態では、収容部12が下側開口部24を有し、外側容器14の底部28に収容部12の下端が当接することで下側開口部24が閉じられる構成となっているため、膜状組織11を取り出す操作の際には、収容部12を容器本体16に対して持ち上げるだけで、収容部12内に収容されていた膜状組織11が容器本体16側に移動する。このため、膜状組織11及び保存液20を別の容器に移し替える必要がなく、迅速に作業を行えるとともに、移し替え作業に伴う膜状組織11の破損の可能性を本質的に回避できる。
【0054】
本実施形態では、収容部12の外側に保存液20が収容されるので、収容部12の下側開口部24から収容部12内に空気が流入することを防止できる。すなわち、収容部12の外側に保存液20が無い場合、収容部12と容器本体16の底部28との間から収容部12内の保存液20が漏れ出て収容部12内に空気が流入するおそれがあるが、収容部12の周囲に保存液20があることにより、そのような空気の流入が阻止される。
【0055】
なお、収容部12内の空気を排出し、収容部12を容器本体16の底部28上に載置した後、収容部12の外側の保存液20を除去し、代わりにゲル状体を入れてもよい。収容部12の周囲にゲル状体が存在することにより、下側開口部24から収容部12に気体が流入することを防止できるとともに、収容部12がゲル状体により保持されることで収容部12の移動が阻止され、収容部12をより安定的に固定できる。
【0056】
本実施形態では、収容部12の上部に介在部30が設けられ、容器本体16を蓋部材18で閉じてクリップ38で固定すると、蓋部材18が介在部30を介して収容部12を容器本体16に押し付けるので、外側容器14内で収容部12が安定的に固定される。これにより、外側容器14内で収容部12がずれることがないとともに、収容部12の下端と容器本体16の底部28から浮くことが防止され、収容部12内が保存液20で満たされた状態を好適に保持できる。
【0057】
また、本実施形態では、容器本体16が蓋部材18によって閉じられた状態で、介在部30の上端が蓋部材18と点ではなく線(円周)で接するので、収容部12を安定化させる別の部材を収容部12の外周面に設けなくても、収容部12を安定的に保持できる。
【0058】
さらに、本実施形態では、結合機構22がクリップ38からなるので、外側容器14が樹脂材料等の比較的撓みやすい材料からなる場合でも、外側容器14の上面と下面から挟むことで、蓋部材18により収容部12をしっかりと容器本体16に押圧でき、収容部12をより安定的に固定できる。なお、結合機構22がクリップ38である場合、クリップ38のアーム部40a、40bの先端部(外側容器14と接する部位)は、収容部12及び介在部30とが外側容器14に接する部位を挟圧するのがよい。
【0059】
図1の状態の保存輸送容器10から膜状組織11を取り出すには、まず、クリップ38を取り外して蓋部材18と容器本体16との固定状態を解除したうえで、蓋部材18を容器本体16から取り外す。次に、容器本体16に対して収容部12を持ち上げることで、収容部12内の膜状組織11を保存液20ごと容器本体16側に移し替える。なお、容器本体16に対して収容部12を持ち上げる前に、収容部12の外側に保存液20を足して、収容部12の外側の液面高さを収容部12内の保存液20の液面高さよりも高くしておくと、浮力により収容部12を持ち上げやすくなる。
【0060】
上記のような移し替えの方法に代えて、次のような方法を採用してもよい。すなわち、収容部12の下端が容器本体16内の保存液20から完全に出ない程度に収容部12を持ち上げた状態で、収容部12の下端と容器本体16の底部28との間から、
図3Bに示したシリンジ46の湾曲したノズル44を収容部12内に挿入し、収容部12内に空気を入れることで、収容部12から保存液20を排出してもよい。このようにすると、収容部12を容器本体16から取り外す際に保存液20を大きく流動させずに済むので、膜状組織11が保存液20の流動によって破損する可能性をなくすことができる。
【0061】
上述した保存輸送容器10では、外側容器14内で収容部12の外側にある保存液20の上部には空気が存在するため、保存輸送容器10が振動を受けた際には当該保存液20の液面が波打つ等の動きが生じ、その激しさによっては、一時的に収容部12の下端が空気に曝される場合があることが懸念される。そこで、
図4Aに示す第1変形例に係る保存輸送容器50のように、外側容器14内で収容部12の外側にある保存液20の液面に浮かぶ安定化部材52を配置してもよい。このような安定化部材52は、収容部12と外側容器14との間の形状(本実施形態ではドーナツ状)をした発砲スチロール又はフィルムで構成することができる。安定化部材52は、収容部12と外側容器14との間の保存液12を除く空間の形状をとることができる(例えば、厚みのあるドーナツ状)。
【0062】
このような安定化部材52を配置することで、収容部12及び保存液20を安定化でき、激しい振動を受けた場合でも収容部12の下端が空気に曝されることが防止され、収容部12内に空気が流入することを防止できる。
【0063】
上述した介在部30を設けることに代えて、
図4Bに示す第2変形例に係る保存輸送容器60のように、収容部12と蓋部材18との間に弾性部材62を配置してもよい。弾性部材62は、図示例ではコイルばねの形態をした圧縮ばねであるが、スポンジ体やゴム製のバネであってもよい。また弾性部材62は、収容部12の上部又は蓋部材18の下面に固定されるか、収容部12及び蓋部材18とは独立した(分離可能な)部材であってもよい。
【0064】
上述したクリップ38の形態をした結合機構22を設けることに代えて、
図4Cに示す第3変形例に係る保存輸送容器70のように、容器本体16の側壁部29の上端から外側(半径外方向)に突出するフランジ部72を設けるとともに、蓋部材18の側壁部36の下端内周に前記フランジ部72に係合可能な爪部74を設けてもよい。蓋部材18を容器本体16から取り外すには、爪部74を外側に広げて(弾性変形させて)、爪部74とフランジ部72との係合を解除する。蓋部材18の側壁部36の外側に外方に突出する突起部76を設けておくと、突起部76に指を引っ掛けて上方に引っ張ることで爪部74を容易に外側に変位させることができ、蓋部材18の取り外しが容易となる。
【0065】
このように、第3変形例に係る保存輸送容器70では、フランジ部72と爪部74とからなる結合機構78を採用することにより、部品点数を少なくできるとともに、蓋部材18と容器本体16との結合をより簡易に行うことができる。
【0066】
次に、
図5を参照し、第2実施形態に係る膜状組織の保存輸送容器80(以下、「保存輸送容器80」という)について説明する。この保存輸送容器80は、膜状組織11を保存又は輸送するために使用するデバイスであり、膜状組織11を収容する収容部82と、容器本体84と蓋部材86とからなり収容部82を収容する外側容器88と、収容部82及び外側容器88に入れられた保存液20と、外側容器88の容器本体84と蓋部材86とを結合する結合機構90とを備える。以下、第1実施形態と異なる部分を中心に、第2実施形態に係る保存輸送容器80の構成を説明する。
【0067】
収容部82は、上部壁92に貫通孔94が形成され、この貫通孔94が閉塞部材96で閉塞されている点で、上述した第1実施形態における収容部12と異なる。閉塞部材96は、図示例では、例えばゴム材料で構成された円錐台形の栓体である。図示例の貫通孔94及び閉塞部材96の構成に代えて、貫通孔94の上部に上方に突出する円筒状の突起を設けるとともに、下方に開放し上部が閉じた円筒状のキャップの形態とした閉塞部材96を、当該突起に装着して閉塞した構成であってもよい。
【0068】
収容部82内には、保存液20が満たされていて空気や気泡がなく、当該保存液20中に膜状組織11が浮遊状態で収容されている。
【0069】
外側容器88の容器本体84は、底部98に位置規制部100が設けられるとともに、側壁部102に雄ネジ部104が形成されている点で、上述した第1実施形態における容器本体16と異なる。位置規制部100は、収容部82の下端と係合し、収容部82の容器本体84に対する水平方向の位置決めをする機能を有する。図示例の位置規制部100は、収容部82の下端の外径より僅かに大きい内径を有する円形溝である。位置規制部100の構成はこれに限らず、円環状の溝であってもよいし、周方向の複数個所で上方に突出する突起であってもよい。雄ネジ部104は、側壁部102の上部外周部に形成されている。
【0070】
外側容器88の蓋部材86は、側壁部106の内周に、雄ネジ部104に螺合可能な雌ネジ部108が設けられている点で、上述した第1実施形態に係る蓋部材18と異なる。蓋部材86の雌ネジ部108を容器本体84の雄ネジ部104に螺合させると、蓋部材86と容器本体84とがしっかりと結合されるとともに、蓋部材86と容器本体84との間に挟まれたシール部材37により外側容器88が密閉される。このように、本実施形態では、容器本体84に形成された雄ネジ部104と、蓋部材86に形成された雌ネジ部108とにより、結合機構90が構成されている。
【0071】
上記の保存輸送容器80を組み立てるには、まず
図6Aに示すように、容器本体84に保存液20を入れ、その保存液20中に膜状組織11を浮遊させる。
【0072】
次に、
図6Bに示すように、膜状組織11及びその周囲の保存液20を収容部82で覆うように、収容部82を容器本体84の底部98上に載置する。なお、
図6Aの段階で、収容部82を容器本体84の底部98上に載置したときに収容部82の上部壁92よりも保存液20の液面が高くなるように液量を調整して保存液20を入れておく。
【0073】
収容部82を容器本体84内の保存液20中に沈めていく過程で、収容部82の上部壁92には貫通孔94が設けられているために、この貫通孔94から収容部82内の空気が排出され、収容部82内が保存液20で満たされる。このように貫通孔94を通して収容部82内の空気を排出できるので、収容部82内を容易且つ迅速に保存液20で満たすことができる。必要に応じ、収容部82内の空気を管状部材を有する吸引具を用いて排出することができる。
【0074】
次に、
図6Cに示すように、貫通孔94を閉塞部材96で閉じるとともに、収容部82内の保存液20の液面高さよりも容器本体84内で収容部82の外側にある保存液20の液面高さが低くなるように、容器本体84内で収容部82の外側にある保存液20の液量を調整して液面を低くする。介在部30内に入った保存液20は、必要に応じて取り除く。
【0075】
そして、
図6Dに示すように、容器本体84に蓋部材86を螺合させることで、容器本体84と蓋部材86を結合する。本実施形態における結合機構90は、螺合構造により容器本体84と蓋部材86とを結合するので、上述したクリップ38で固定する場合と比べて部品点数を少なくできるとともに簡便且つ迅速に容器本体84と蓋部材86とを結合できる。
【0076】
容器本体84と蓋部材86とが結合されると、介在部30を介して、収容部82が蓋部材86と容器本体84との間で挟持されるため、外側容器88内で収容部82が安定して固定される。また、位置規制部100によって収容部82が容器本体84に対して横方向にずれることが防止され、膜状組織11を安定的に保持できる。
【0077】
以上の操作により、
図5に示した状態の保存輸送容器80が完成する。なお、保存輸送容器80を組み立てる上記の作業工程は、クリーンルーム(無菌環境下)で行われる。
【0078】
図5の状態の保存輸送容器80から膜状組織11を取り出すには、蓋部材86と容器本体84とを相対回転して螺合を解除することで、容器本体84から蓋部材86を取り外す。次に、閉塞部材96を貫通孔94から取り外したうえで、容器本体84に対して収容部82を持ち上げていく。そうすると、収容部82の上昇に伴って貫通孔94から収容部82内に空気が流入するので、収容部82内に収容されていた膜状組織11と保存液20は容器本体84に残される。こうして容器本体84内の保存液20中に膜状組織11を浮遊させた状態としたら、適宜の器具(移植デバイス等)を用いて膜状組織11を保存液20から取り出して、患者へ移植する等の治療に供される。
【0079】
なお、第2実施形態において、第1実施形態と共通する各構成部分については、第1実施形態における当該共通の各構成部分がもたらす作用及び効果と同一又は同様の作用及び効果が得られることは勿論である。
【0080】
図5に示した保存輸送容器80において、
図4Aに示した安定化部材52をさらに備えてもよい。保存輸送容器80において、部分的に第1実施形態の構成と置き換えてもよく、例えば、保存輸送容器80における介在部30を、
図4Bに示した弾性部材62に置き換えてもよい。また、保存輸送容器80における結合機構90を、クリップ38からなる結合機構22(
図1参照)又は爪部74とフランジ部72とからなる結合機構78(
図4C参照)に置き換えてもよい。
【0081】
図5に示した保存輸送容器80において、上述した収容部82及び介在部30に代えて、
図7に示す第2実施形態の第1変形例に係る保存輸送容器110のように、上下が開放した筒状体からなる収容部112と、この収容部112の上部を閉じるように構成された介在部114を設けてもよい。すなわち、収容部112と介在部114は、独立に(別部品として)構成されている。介在部114の底部116は、
図5に示した収容部82の上部壁92に代替する部分であり、貫通孔118が形成され、当該貫通孔118には閉塞部材96が装着されて閉じられる。介在部114の下面には、下方に突出する位置決め用の突起部120が設けられている。
【0082】
上記のように構成された保存輸送容器110を組み立てるには、まず
図6Aと同様に、容器本体84に保存液20を入れ、その保存液20中に膜状組織11を浮遊させる。次に、
図8Aに示すように、膜状組織11を囲むようにして容器本体84の底部98上に収容部112を載置する。なお、
図6Aの段階で、収容部112を容器本体84の底部98上に載置したときに収容部112の上端よりも保存液20の液面が高くなるように液量を調整して保存液20を入れておく。
【0083】
次に、
図8Bに示すように、介在部114を収容部112上に載置する。介在部114を保存液20中に沈めていく過程で、介在部114の底部116には貫通孔118が設けられているために、この貫通孔118を保存液20が通って介在部114材内に保存液20が流入する。
【0084】
次に、貫通孔118を閉塞部材96で閉じるとともに、収容部112内の保存液20の液面高さよりも容器本体84内で収容部112の外側にある保存液20の液面高さが低くなるように、容器本体84内で収容部112の外側にある保存液20の液量を調整して液面を低くする。介在部114内に入った保存液20は、必要に応じて取り除く。
【0085】
そして、
図8Dに示すように、容器本体84に蓋部材86を螺合させることで、容器本体84と蓋部材86を結合する。容器本体84と蓋部材86とが結合されると、介在部114を介して、収容部112が蓋部材86と容器本体84との間で挟持されるため、外側容器88内で収容部112が安定して固定される。以上の操作により、保存輸送容器110が完成する。
【0086】
図5に示した保存輸送容器80において、上述した収容部82及び介在部30に代えて、
図9に示す第2実施形態の第2変形例に係る保存輸送容器130のように、収容部132と介在部134とを分離するとともに、介在部134を蓋部材86の天部87の下面に一体化してもよい。収容部132の上面には、上方に突出する位置決め用の突起部136が設けられている。
【0087】
上記のように構成された保存輸送容器130を組み立てるには、まず
図10Aに示すように、容器本体84に保存液20を入れ、その保存液20中に膜状組織11を浮遊させる。次に、
図10Bに示すように、膜状組織11を囲むようにして容器本体84の底部98上に収容部132を載置する。なお、
図10Aの段階で、収容部132を容器本体84の底部98上に載置したときに収容部132の上部壁92よりも保存液20の液面が高くなるように液量を調整して保存液20を入れておく。
【0088】
収容部132を容器本体84内の保存液20中に沈めていく過程で、収容部132の上部壁92には貫通孔94が設けられているために、この貫通孔94から収容部132内の空気が排出され、収容部132内が保存液20で満たされる。このように貫通孔94を通して収容部132内の空気を排出できるので、収容部132内を容易且つ迅速に保存液20で満たすことができる。
【0089】
次に、
図10Cに示すように、貫通孔94を閉塞部材96で閉じるとともに、収容部132内の保存液20の液面高さよりも容器本体84内で収容部132の外側にある保存液20の液面高さが低くなるように、容器本体84内で収容部132の外側にある保存液20の液量を調整して液面を低くする。
【0090】
そして、
図10Dに示すように、容器本体84に蓋部材86を螺合させることで、容器本体84と蓋部材86を結合する。そうすると、介在部134が蓋部材86と一体となっているので、介在部134により収容部132が容器本体84の底部98に押圧され、外側容器88内で収容部132が安定して固定される。以上の操作により、保存輸送容器130が完成する。
【0091】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。