(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775300
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】カンナビノイド含有植物抽出物の新規な用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20150820BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20150820BHJP
A61K 31/60 20060101ALI20150820BHJP
A61K 36/18 20060101ALI20150820BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20150820BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20150820BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K31/352
A61K31/60
A61K36/18
A61P13/08
A61P35/00
A61P43/00 105
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-503587(P2010-503587)
(86)(22)【出願日】2008年4月17日
(65)【公表番号】特表2010-524912(P2010-524912A)
(43)【公表日】2010年7月22日
(86)【国際出願番号】GB2008001359
(87)【国際公開番号】WO2008129258
(87)【国際公開日】20081030
【審査請求日】2011年1月17日
【審判番号】不服2013-20820(P2013-20820/J1)
【審判請求日】2013年10月25日
(31)【優先権主張番号】0707610.2
(32)【優先日】2007年4月19日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508368987
【氏名又は名称】ジーダブリュー・ファーマ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GW PHARMA LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンチェンツォ・ディ・マルツォ
(72)【発明者】
【氏名】ルチャーノ・デ・ペトロチェリス
(72)【発明者】
【氏名】アニエッロ・スキアーノ・モリエッロ
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
穴吹 智子
【審判官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−512943(JP,A)
【文献】
米国特許第(US,B1)6403126
【文献】
Ligresti,Alessia et al,Antitumor activity of plant cannabinoids with emphasis on the effect of cannabidiol on human breast carcinoma,Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2006年,318(3),pp.1375−1387
【文献】
Harris,L.S.et al ,Antitumor properties of cannabinoids,Pharmacol. Marihuana ,1976年,Volume 2,pp.749−762,(abstract)[online]STN,CAPLUS,AN.1976:553974,DN.85:153974
【文献】
Baek,Seung−Hwa et al,Synthesis and antitumor activity of cannabigerol,Archives of Pharmacal Research ,1996年,19(3),pp.228−230
【文献】
Massi,Paola et al,Antitumor effects of cannabidiol, a nonpsychoactive cannabinoid, on human glioma cell lines,Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics ,2004年,308(3),pp.838−845
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K36/00-36/9068
A61K31/00-31/625
CA
BIOSIS
MEDLINE
EMBASE
JSTPLUS
JMEDPLUS
JST7580
JDREAMII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TRPM8活性がガンの生存にとって必須である前立腺のガンの予防または治療に使用するための医薬の製造における、カンナビジオール(CBD)、カンナビゲロール(CBG)およびカンナビジオール酸(CBDA)から選ばれる、1種以上の、TRPM8アンタゴニストであるカンナビノイドの使用。
【請求項2】
カンナビノイドが、大麻からの抽出物である請求項1に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項3】
カンナビノイドが、単離されるか、または実質的に純粋な植物由来のカンナビノイドである請求項1に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項4】
カンナビノイドが、合成的に生産された化合物である請求項1に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項5】
抽出物が、亜臨界CO2抽出技術を用いて製造される請求項2に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項6】
カンナビノイドが、CBDである請求項1に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項7】
抽出物が、主なカンナビノイドとしてCBDを含む請求項2に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項8】
カンナビノイドが、CBDAである請求項1に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項9】
抽出物が、主なカンナビノイドとしてCBDAを含む請求項2に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項10】
カンナビノイドが、CBGである請求項1に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項11】
抽出物が、主なカンナビノイドとしてCBGを含む請求項2に記載のカンナビノイドの使用。
【請求項12】
カンナビノイドCBDを、さらなるカンナビノイドであるテトラヒドロカンナビノール(THC)と組み合わせる、請求項6に記載のカンナビノイドの組み合わせの使用。
【請求項13】
カンナビノイドが、用量設定可能な投与剤形で、デリバリー用にパッケージ化される前記請求項のいずれかに記載のカンナビノイドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種類以上のTRPチャネルの遮断によって緩和される疾患または病気の予防または治療におけるカンナビノイド含有植物抽出物の使用に関する。遮断されるTRPチャネルのサブセットが、TRPAチャネルであるのが好ましい。TRPAチャネルが、TRPA1チャネルであるのがより好ましい。好ましくは、予防または治療される疾患または病気として、神経障害性疼痛、炎症または血管収縮が挙げられる。
別の態様において、遮断されるTRPチャネルは、TRPMチャネルである。TRPMチャネルが、TRPM8チャネルであるのがより好ましい。予防または治療される疾患または病気が、ガンであるのが好ましい。より好ましくは、治療されるガンとして、前立腺ガン、乳ガン、結腸ガン、肺ガンまたは皮膚ガンが挙げられる。
別の態様において、遮断されるTRPチャネルは、TRPVチャネルである。TRPVチャネルが、TRPV1チャネルであるのがより好ましい。好ましくは、予防または治療される疾患または病気として、神経障害性疼痛、炎症または血管収縮が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
一過性受容体電位(TRP)チャネルは、哺乳類の感覚系の最前部であることが知られており、温度、触感、痛み、モル浸透圧濃度、味覚およびその他の刺激への応答に関与することが見出されている。TRPチャネルは、細胞の内側と外側の両方からの多くの刺激に対して応答することができるので、TRPチャネルの役割は、単純な感覚変換よりもはるかに広いと考えられている。
【0003】
哺乳類は、末梢神経系にある特殊なニューロンで温度を検出することができる。これらのニューロンは、TRPチャネルのサブセットである:バニロイド型チャネル(TRPV)。4種の異なるTRPVチャネル(TRPV1-4)が同定されており、熱感覚に関与している。これらは、温度感受性イオンチャネルであり、正常な痛みおよび温度感覚に対する決定的な貢献者である。そのようなものとして、それらは、痛みの緩和のための有用な標的である。
【0004】
異なるサブセットであるTRPMチャネル(メラスタチン型)、特にTRPM8チャネルは、25℃未満の低温を感じることに関与する。これらのチャネルが検知することができる温度の範囲を合わせると、ほとんどの哺乳類によって感覚される関連する「正常範囲の」温度の大部分を包含する。メンソール、ユーカリプトールおよびイシリン(icilin)などの外部から適用される作用剤は、TRPM8チャネルを活性化することができる。
【0005】
TRPM8チャネルの活性化のアップレギュレーションは、前立腺ガン細胞ガンおよび乳ガン、結腸ガン、肺ガンおよび皮膚ガンなどのその他の非前立腺原発ヒト腫瘍などの腫瘍細胞の存在下で起こる。
【0006】
アンキリン様(TRPA)チャネル、特にTRPA1チャネルとして知られるTRPチャネルのサブセットは、寒冷活性化チャネルである。TRPA1チャネルは、TRPM8チャネルと比較して、より低い活性化温度を有する。TRPA1(ANKTM1としても知られる)チャネルは、TRPM8チャネル,とわずかのアミノ酸相同性しか共有せず、そのようなものとして、TRPチャネルの遠位のファミリーメンバーであると考えられている。
【0007】
TRPA1チャネルは、桂皮油、冬緑油、クローブ油、丁子油、カラシ油、生ニンニク、樟脳およびショウガに見出される化合物などの侵害性の冷および辛味天然化合物によって活性化されることが見出されている。Gタンパク質共役受容体を介して作用する炎症性ペプチドであるブラジキニンは、TRPA1を活性化することが明らかにされている。
【0008】
カラシ油(イソチオシアン酸アリル)などの化合物の局所適用は、感覚神経終末を活性化する;次に、これは、痛み、炎症ならびに熱および機械的刺激に対する過敏性を生み出す。これらの効果は、TRPA1チャネルの活性化によって引き起こされる。桂皮油(桂皮アルデヒド)は、最も特異的なTRPA1活性化因子であることが明らかにされている。それは、マウスにおいて、TRPA1チャネルを興奮させ、侵害行動を誘発することができる。TRPA1の活性化は、痛い感覚を生み出し、したがって、哺乳類における侵害行動の誘発は、なぜ侵害性低温が灼熱痛として知覚されうるのかのためのモデルを提供する(Bandellら、Neuron 2004)。
【0009】
カンナビノイドであるテトラヒドロカンナビノール(THC)は、カラシ油および桂皮アルデヒドと同様の様式で作用して、TRPA1チャネルを活性化することも明らかにされている(Jordtら、Nature 2004)。
【0010】
TRPA1は、催涙ガス、自動車排出ガスおよび化学療法剤の代謝副産物の毒性および炎症性作用の原因となるアクロレインなどの環境刺激物によっても標的にされる。
【0011】
TRPA1欠損マウスの使用により、このチャネルが、カラシ油およびニンニクが一次求心性侵害受容器を活性化させて炎症性痛みを生み出す唯一の標的であることを明らかにされている。TRPA1欠損マウスは、正常な低温感受性および損なわれていない聴覚機能を示し、そのことによって、このチャネルが、侵害性低温または音の初期検出にとって必要ではないことが示唆される。しかし、これらのマウスは、ブラジキニン誘発性侵害受容器興奮および痛み過敏性における明確な欠損を示す。したがって、TRPA1は、環境刺激物および内因性プロアナルゲシック(pro-analgesic)剤が、侵害受容器を脱分極させて、炎症性痛みを誘発する伝達機構の重要な成分であると結論づけることができる(Bautistaら、Cell 2006)。
【0012】
冷痛覚過敏は、痛みに対する増強された感受性であり、炎症性および神経障害性疼痛の十分に立証された症状である;しかし、この状態の発症機序は、ほとんど不明である。一次感覚神経におけるTRPA1の薬理学的遮断は、炎症および神経損傷によって引き起こされた冷痛覚過敏を逆行させることができることが見出されている。したがって、感覚神経においてTRPA1を遮断することは、炎症および神経損傷によって引き起こされる冷痛覚過敏を治療するための有益な方策を提供する(Obataら、J Clin Invest 2005)。
【0013】
細胞内Ca
2+は、EFハンドドメインを介してヒトTRPA1を活性化し、低温感受性は、異種系において冷却中に、増加した[Ca
2+]を介して間接的に(そして非生理的に)起こる(Zurborgら、Nature Neurosci 2007)。
【0014】
TRPA1およびTRPM8発現小型ニューロンの2つの別の集団の活性化が、冷感の根底にあるので、L5脊髄神経結紮(SNL)後の冷痛覚過敏の発生率が検討されている。隣接する無傷のL4(後根神経節(DRG))において、TRPA1 mRNA発現は、L5 SNL後の第1日〜第14日に、trkA発現小径〜中間径ニューロンにおいて増加した。このアップレギュレーションは、後肢の神経損傷誘発性冷痛覚過敏の発症および維持によく対応した。対照的に、L4 DRGにおいて、2週間の実験期間を通して、TRPM8 mRNA/タンパク質の発現に変化はなかった。一方、損傷L5 DRGにおいては、TRPA1およびTRPM8発現の両方が、結紮後の2週間にわたって減少した。さらに、TRPM8ではなくて、TRPA1アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドの髄腔内投与は、L5 SNL誘発性冷痛覚過敏を抑制した。非損傷一次求心性ニューロンにおいて増加したTRPA1は、神経障害性疼痛モデルにおいて観察される、冷たさに対する過剰な反応の一因となる(Katsuraら、Exp Neurol 2006)。
【0015】
神経障害性疼痛は、通常、組織損傷に伴うか、または組織損傷によって引き起こされる慢性疼痛である。神経障害性疼痛に伴って、神経線維が、損傷するか、機能不全に陥るか、または損傷することが多い。これらの損傷した神経線維は、慢性疼痛をもたらす他の痛みセンターに誤ったシグナルを送る。神経線維損傷の衝撃は、損傷部位および損傷の周囲領域の両方における神経機能の変化を含む。
【0016】
神経障害性疼痛の他の例は、幻肢症候群と呼ばれる。これは、病気または傷害のために腕または脚を取り除いたが、まだ脳が、もともと失った肢からの活動電位を運んでいた神経から痛みのメッセージ得る場合に起こる。これらの神経が、誤射し、痛みを引き起こす。
【0017】
神経障害性疼痛は、明らかな原因が無いように見えることが多い;しかし、神経障害性疼痛のいくつかのよくある原因として、多発性硬化症、糖尿病、背部損傷、切断術、脊髄手術、HIV感染、帯状疱疹、アルコール依存症および顔面神経問題が挙げられる。
【0018】
神経障害性疼痛の症状として、電撃および灼熱痛、刺痛およびしびれ感、ならびに接触または冷たさへの感受性増大が挙げられる。
【0019】
現行の治療として、非ステロイド性抗炎症薬およびモルヒネ系薬などの強力な鎮痛剤が挙げられる。抗けいれん薬および抗うつ薬も神経障害性疼痛の治療に用いられることが多い。
【0020】
神経障害性疼痛は、治療が困難であることが非常に多い;この場合、疼痛の専門医は、侵入性または植え込み可能な装置療法を用いて、疼痛を効果的に管理することができる。神経障害性疼痛発生に関与する神経の電気的刺激は、痛みの症状をかなりコントロールすることができる。
【0021】
残念ながら、神経障害性疼痛は、標準的な痛み治療にあまり応答しないことが多く、時間とともに良くなる代わりに悪化することもある。一部の人にとっては、重篤な障害に到る可能性がある。
【0022】
炎症は、感染または刺激に対する免疫系の第1応答である。炎症は、患部の発赤、膨潤、痛みおよび機能不全を引き起こすことが多い。
【0023】
炎症は、発熱、悪寒、けん怠感、エネルギーの損失、頭痛、食欲不振および筋硬直などの他の症状を伴うこともある。
【0024】
炎症は、または外来物質の身体を取り除こうとして、血液または患部組織に放出される白血球細胞からの化学物質によって引き起こされる。この化学物質の放出は、患部への血流を増加させ、発赤および温感をもたらす。化学物質のいくつかは、組織への体液の流出を引き起こし、膨潤をもたらす。炎症過程は、神経を刺激し、痛みを引き起こす。
【0025】
関節の炎症も起こりうるものであり、これは、関節内の細胞数および炎症性物質の増加によって引き起こされ、刺激、軟骨(骨の末端におけるクッション)の摩耗および関節内膜の膨潤をもたらす。
【0026】
炎症は、自己免疫疾患の一部として、臓器に影響を及ぼしうる。たとえば、息切れまたは脚のむくみを引き起こしうる心臓の炎症(心筋炎);喘息発作を引き起こしうる肺に空気を輸送する小管の炎症;高血圧または腎不全を引き起こしうる腎臓の炎症(腎炎);ならびに腹痛および下痢を引き起こしうる大腸の炎症(大腸炎)が挙げられる。
【0027】
多くの臓器は痛みを感じる神経を多く持たないので、痛みは炎症性疾患の一次症状ではない場合がある。臓器炎症の治療は、可能であれば常に、炎症の原因を対象とする。
【0028】
薬物療法、休養および運動、ならびに妥当な関節損傷への外科手術などの炎症性疾患のための多くの治療の選択肢がある。処方される治療の種類は、疾病の種類、人の年齢、彼または彼女が服用している薬物療法の種類、健康全般ならびに病歴および症状の重篤度などのいくつかの因子に応じて変わる。
【0029】
関節痛、膨潤および炎症を緩和し、炎症性疾患の進行を防止または最小化するのに利用可能な多くの薬物療法がある。薬物療法として、非ステロイド性抗炎症薬、コルチコステロイドおよび抗マラリア薬療法が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
TRPA1チャネルの遮断は、冷痛覚過敏を緩和することが明らかにされている。冷痛覚過敏は痛みに対する感受性の増強であり、炎症性および神経障害性疼痛の十分に立証された症状であり、したがって、TRPA1チャネルを遮断することができる作用剤は、神経障害性疼痛および炎症の治療に有用でありうると考えられている。
【0031】
また、TRPA1チャネルの遮断は、血管拡張をもたらし、したがって、このような効果を生み出すことができる作用剤は、血管拡張薬としても有用である。血管拡張薬は、血管を拡張する必要がある低血圧または血液凝固などの状態を治療するために用いることが多い。
【0032】
カンナボビノイドは、細胞においてカンナビノイド受容体を活性化することが知られている化学物質の一群である。大麻に見出されるこれらの化学物質は、ヒトおよび他の動物において内因的にも産生され、内因性カンナビノイドと呼ばれる。合成カンナビノイドは、植物カンナビノイドまたは内因性カンナビノイドに類似した構造をもつ化学物質である。
【0033】
また、植物カンナビノイドは、それらが“本質的に純粋な”化合物であるように単離することもできる。これらの単離されたカンナビノイドは、他の少数派のカンナビノイドおよびテルペンなどの分子などの他の天然に存在する化合物を本質的に含まない。本質的に純粋な化合物は、総重量で少なくとも95%までの純度を有する。
【0034】
カンナビノイドであるテトラヒドロカンナビノール(THC)は、カラシ油および桂皮アルデヒドと同様の様式で作用することによって、TRPA1チャネルを活性化することが明らかにされている(Jordtら、Nature 2004)。この研究に用いるTHCの種類は、合成THCである。合成THCは、使用者において多くの副作用を引き起こしうる。このような副作用として、動悸、頻脈、顔面潮紅、腹痛、吐き気、往路、健忘、不安/神経質、失調、錯乱、離人症、眩暈、多幸感、幻覚、偏執病、傾眠、低血圧、下痢、抑うつ、悪夢および視力困難が挙げられる。
【0035】
驚いたことに、本出願人は、カンナビノイド含有植物抽出物の投与が、TRPV1、TRPM8およびTRPA1チャネルの遮断に有効であることを見出した。特に、主なカンナビノイドとしてテトラヒドロカンナビノール(THC)、テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、カンナビジオール(CBD)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビゲロール(CBG)またはカンナビクロメン(CBC)のいずれかを含むカンナビノイド含有植物抽出物が、特に有効であった。
【0036】
用語“カンナビノイド含有植物抽出物”は、本明細書において、大麻からの1種以上の植物抽出物を意味する。カンナビノイド含有植物抽出物は、1種以上の他のカンナビノイドに加えて、植物素材からカンナビノイドと共抽出される1種以上の非カンナビノイド成分を含む。得られる純度およびカンナビノイド含有植物抽出物中のさらなるカンナビノイドの各範囲は、出発植物素材および使用した抽出方法によって変わる。
【0037】
カンナビノイド含有植物抽出物は、大麻素材の抽出のさまざまな手段によって得られる。このような手段として、熱ガスによる抽出および溶媒による抽出である、CO
2による超臨界または亜臨界抽出が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0038】
(発明の要約)
本発明の第1の態様は、1種以上の種類のTRPチャネルの遮断によって緩和される疾病または状態の予防または治療に使用するための医薬製剤の製造における1種以上のカンナビノイド含有植物抽出物の使用を提供する。
【0039】
遮断されるTRPチャネルのサブセットが、TRPAチャネルであるのが好ましい。
TRPAチャネルが、TRPA1チャネルであるのがより好ましい。
予防または治療される疾患または病気が、神経障害性疼痛、炎症または血管収縮であるのが好ましい。
【0040】
別の態様では、遮断されるTRPチャネルのサブセットは、TRPMチャネルである。
TRPMチャネルが、TRPM8チャネルであるのが好ましい。
予防または治療される疾患または病気が、ガンであるのが好ましい。
ガンが、前立腺のガン、乳房のガン、結腸のガン、肺のガンまたは皮膚のガンであるのがより好ましい。
【0041】
別の態様では、遮断されるTRPチャネルのサブセットは、TRPVチャネルである。
TRPVチャネルが、TRPV1チャネルであるのがより好ましい。
予防または治療される疾患または病気が、神経障害性疼痛、炎症または血管収縮であるのが好ましい。
【0042】
カンナビノイド含有植物抽出物が、1種以上のテトラヒドロカンナビノール(THC);カンナビジオール(CBD)、カンナビゲロール(CBG);カンナビクロメン(CBC);テトラヒドロカンナビジバリン(THCV);テトラヒドロカンナビノール酸(THCA);カンナビジバリン(CBDV)およびカンナビジオール酸(CBDA)を含むのが好ましい。
【0043】
カンナビノイド含有植物抽出物は、本出願人の登録英国特許GB2391865に記載の亜臨界CO
2抽出技術を用いて大麻から抽出することができる。
別の大麻抽出技術は、本出願人の登録英国特許GB2376464に記載の熱ガスによる抽出である。
【0044】
1種以上のカンナビノイド含有植物抽出物が、主なカンナビノイドとしてテトラヒドロカンナビノール(THC)を含むのが好ましい。
1種以上のカンナビノイド含有植物抽出物が、主なカンナビノイドとしてカンナビジオール(CBD)を含むのが好ましい。
1種以上のカンナビノイド含有植物抽出物が、主なカンナビノイドとしてカンナビクロメン(CBC)を含むのが好ましい。
1種以上のカンナビノイド含有植物抽出物が、主なカンナビノイドとしてテトラヒドロカンナビノール酸(THCA)を含むのが好ましい。
1種以上のカンナビノイド含有植物抽出物が、主なカンナビノイドとしてカンナジオール酸(CBDA)を含むのが好ましい。
【0045】
別の態様では、1種以上のカンナビノイド含有植物抽出物は、CBD含有植物抽出物およびTHC含有植物抽出物の組み合わせを含んでもよい。
カンナビノイドが、大麻から作られる医薬抽出物(CBME)として存在するのが好ましい。
CBMEは、大麻からの植物抽出物であり、したがって、使用する抽出技術に応じて、“自然に抽出された”大麻成分のすべてを含むことになる。
【0046】
別の態様では、カンナビノイド含有植物抽出物は、単離されるか、または実質的に純粋である。
単離されるか、または実質的に純粋であるカンナビノイドは、テルペンなどの他の非標的カンナビノイド成分を実質的に含まない。単離されるか、または実質的に純粋であるカンナビノイドは、天然のもの、すなわち、植物由来であってもよく、または合成的に生産された化合物であってもよい。
【0047】
本出願人の登録英国特許GB2393721に開示された方法は、実質的に純粋なカンナビノイドの製造方法を記載する。
【0048】
“実質的に純粋”は、本明細書において、HPLプロフィールの領域正規化によって決定される、95%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上および最も好ましくは99.5%以上のクロマトグラフィー純度を有するカンナビノイド化合物またはその誘導体の製造として定義される。1つの態様において、カンナビノイド含有植物抽出物は、用量設定可能な投与剤形で、デリバリー用にパッケージ化される。
【0049】
用語“用量設定する”は、単位用量よりも少ない用量を服用することができる剤形で患者が薬物療法を受ける意味として定義される。
“単位用量”は、本明細書において、どの時点においても、または3時間などの特定の投与時間内で服用できる薬物療法の最大用量として定義される。
【0050】
用量の設定は、用量を薬物が有効になるまで徐々に増加することができるので、患者にとって有益である。すべての患者が正確に同じ用量の投薬を必要とするとは限らず、たとえば、より大きい体格またはより速い代謝の患者は、より小さい体格の患者よりも多い用量を必要とすることが理解できる。患者が異なると、病状の程度も異なり、したがって、病状を効果的に治療するために、より多いまたはより少ない用量を必要とする。したがって、部分的な用量に分けなければならない標準的投与剤形を越える用量設定可能な投与剤形の利点は、明らかである。
【0051】
カンナビノイド含有植物抽出物の単位用量範囲は、カンナビノイド含量を参考にして決定され、総カンナビノイドの5〜100mgの範囲であるのが好ましい。
【0052】
医薬製剤が、デリバリーが1種以上の次の領域:舌下;バッカル;経口;直腸;鼻;非経口および経肺系;から選ばれる領域を標的とするようにデリバリー用にパッケージ化されるのが好ましい。
【0053】
医薬製剤が、1種以上の次の剤形:ゲル剤;ゲルスプレー剤;錠剤;液剤;カプセル剤、注射用および気化用;から選ばれる剤形であるのがより好ましい。
【0054】
また、医薬製剤は、1種以上の担体溶媒をさらに含む。担体溶媒が、エタノールおよび/またはプロピレングリコールであるのが好ましい。エタノール:プロピレングリコールの比が、4:1〜1:4であるのがより好ましい。該比が、実質的に1:1であるのがより好ましい。
【0055】
カンナビノイド含有植物抽出物は、TRPチャネルの遮断によって緩和される疾患または病気の予防または治療に使用するための医薬製剤の製造に用いられる。
【0056】
RPチャネルの遮断によって緩和される疾患または病気が、神経障害性疼痛;炎症および血管収縮から選ばれるのが好ましい。
【0057】
TRPチャネルの遮断によって緩和される神経障害性疼痛が、多発性硬化症;糖尿病;背部損傷;切断術;脊髄手術;HIV感染;帯状疱疹;アルコール依存症および顔面神経問題から選ばれるのが好ましい。
【0058】
TRPチャネルの遮断によって緩和される炎症が、炎症性疾患;関節リウマチ;心筋症などの自己免疫疾患;肺に空気を輸送する小管の炎症;腎炎および大腸炎から選ばれるのが好ましい。
【0059】
TRPチャネルの遮断によって緩和される血管収縮が、高血圧および血液凝固から選ばれるのが好ましい。
【0060】
本発明のさらなる態様では、医薬的有効量のカンナビノイド含有植物抽出物を、必要とする患者に投与することを含む、1種以上の種類のTRPチャネルの遮断によって緩和される疾患または病気を予防または治療する方法を提供する。
【0061】
本発明の第1の態様についての考察は、本発明のこの態様について準用される。本明細書においてさらに詳細に考察するように、“治療”は、問題になっている状態の少なくとも改善、好ましくは回復を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の特定の態様を、例示のみを目的として、さらに記載する。
(特定の記載)
出願人は、ラット組換えTRPV1、両方がHEK293細胞で安定に発現するTRPM8チャネルおよびTRPA1(別名ANKTM1)チャネルにおいて、カンナビノイド含有植物抽出物を用いて実験を行った。TRPA1チャネルは、カラシ油イソチオシアネートおよび桂皮アルデヒドなどの他の植物天然産物の受容体である。TRPM8チャネルは、メンソールおよびイシリンの受容体である。様々な濃度の試験化合物の添加の前後に、細胞内Ca
2+濃度を測定した。
【0063】
驚いたことに、カンナビノイド含有植物抽出物が、100 nMにおいて、試験されたチャネルを遮断することができ、評価されたEC
50値を生み出すことが発見された。
【実施例1】
【0064】
(細胞内Ca
2+濃度におけるカンナビノイド含有植物抽出物の効果)
材料および方法
(化合物)
TRPA1チャネルを用いる実験のために、カンナビノイド含有植物抽出物から得られる値を比較するポジティブコントロールとして、イソチオシアン酸アリル(カラシ油)および桂皮アルデヒドを用いた。TRPM8チャネルを用いる実験のために、メンソールおよびイシリンを用いてチャネルを活性化した。TRPV1チャネルチャネルを用いる実験のために、イオノマイシンを用いてチャネルを活性化した。本出願人の登録英国特許GB2391865に記載の亜臨界CO
2抽出技術を用いて、大麻からカンナビノイド含有植物抽出物を製造した。本出願人の登録英国特許GB2393721に開示の方法を用いて、カンナビノイドをさらに精製して、実質的に純粋なカンナビノイドを製造した。TRPA1チャネルを用いる実験では、THCおよびCBDの非精製植物抽出物も試験した。
【0065】
(ラットTRPA1、TRPV1またはTRPM8 cDNAを用いるHEK-293細胞の永続的トランスフェクション)
HEK293(ヒト胎児腎臓)細胞を直径100 mmのペトリ皿に置き、使用説明書にしたがって、ラットTRPA1、TRPV1またはTRPM8 cDNAを含むプラスミドを用い、Lipofectamine 2000(Invitrogen)により、約80%集密にてトランスフェクトした。Geneticin G-418(Invitrogen) 600 μg/mlによって、安定にトランスフェクトされたクローンを選択した。定量リアルタイムPCR(RT-PCR)によって、安定なトランスフェクションをチェックした。TRPA1/TRPV1/TRPM8-HEK293細胞からのDNAにおけるPCR分析は、HEK293細胞ゲノム内への遺伝子の完全組込みを実証した(図示せず)。
【0066】
(ラットTRPA1、TRPV1またはTRPM8チャネルを過剰に発現しているHEK293細胞における実験)
TRPA/TRPV1/TRPM8-HEK293細胞を直径100 mmのペトリ皿に置き、3日後に、プルロニック(0.02%、Molecular Probes)を含むタイロード緩衝液(NaCl 145 mM;KCl 2.5 mM;CaCl
2 1.5 mM;MgCl
2 1.2 mM;D-グルコース 10 mM;HEPES 10 mM pH 7.4)に溶解した細胞質カルシウムインジケーターFluo4-AM(4 μM、Molecular Probes)を用い、室温にて1時間ロードした。タイロード緩衝液で細胞を2回洗浄し、再懸濁し、分光蛍光光度計(Perkin -Elmer LS 50B)(λ励起=488 nm;λ放出=516 nm)の石英キュベットに移した。様々な濃度の試験化合物の添加の前後に、細胞内Ca
2+濃度を測定した。細胞内Ca
2+濃度における最大半量の増加を生み出すのに必要な試験物質の濃度としてEC
50値を測定した。Graph Pad Prism(登録商標)を用いて、カーブフィッティングおよびパラメーター評価を行った。非トランスフェクトHEK293細胞においても同じ化合物を試験した。
【0067】
結果
実験から得られた表1および表2の値を考察することによって観察することができるように、試験したカンナビノイドに対するlog EC50%値は、試験したカンナビノイドが、TRPチャネルを遮断することができたことを実証する。
【0068】
表1:TRPA1チャネル
【0069】
カンナビノイドについて得られた値は、カラシ油および桂皮アルデヒドの値に極めて一致し、それらの郷土は、以下のように順位付けることができる:THC extract>CBC>CBD>THC>THCA>CBD extract>CBDA>カラシ油>桂皮アルデヒド。特に、THC抽出物、CBCおよびCBDは、60-100 nMの濃度範囲にEC
50値を示した。これらのデータは、TRPA1が、フィトカンナビノイドの薬理作用の幾つかの根底にある分子標的の1つでありうることを示唆する。
【0070】
現在のところ、神経障害性疼痛、炎症または血管収縮に苦しむ患者のための有用な治療選択肢が少ししかないので、これらのデータは有意であり、このような状態を治療するのに用いることができる医薬製剤の製造におけるカンナビノイドの使用が有用であることがわかる。
【0071】
表2:TRPM8チャネル遮断
【0072】
上記表は、TRPM8チャネルの遮断におけるカンナビノイドの効力を詳述するものである。得られた値は、カンナビノイドが、遮断においてすべて有効であり、したがって、TRPM8アンタゴニストが、TRPM8活性がガン細胞生存に必須であるガンの治療のための新規な治療手段を提供しえたことを実証する。
【0073】
これまでに、カンナビノイド含有植物抽出物が、単独または併用で、様々な疾患および病気を有効に治療するために用いることができるということが明らかにされている。本明細書において提示されるこれらのデータは、TRPチャネルの遮断によって緩和される疾患および病気の治療のためのカンナビノイド含有植物抽出物の使用のための証拠を提供する。本明細書において、試験したすべてのカンナビノイドが、TRPA1チャネルの活性化を生み出し、したがって、TRPA1チャネルの活性化によって緩和される疾患および病気の予防または治療に有用でありうることが実証されている。試験したカンナビノイドが、TRPM8チャネルに拮抗し、したがって、TRPM8チャネルの拮抗作用によって緩和される疾患または病気の予防または治療において潜在的に有用であることも実証されている。
【0074】
表3:TRPV1チャネル遮断
【0075】
上記表は、TRPV1チャネルの遮断におけるカンナビノイドの効力を詳述するものである。得られた値は、カンナビノイドが、遮断においてすべて有効であり、したがって、TRPV1アンタゴニストが、神経障害性疼痛、炎症または血管収縮に苦しむ患者の治療のための新規な治療手段を提供しえたことを実証する。