(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775330
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】溶融塩電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20150820BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20150820BHJP
H01M 10/39 20060101ALI20150820BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20150820BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20150820BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/054
H01M10/39 D
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-45693(P2011-45693)
(22)【出願日】2011年3月2日
(65)【公開番号】特開2012-182087(P2012-182087A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2014年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】新田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】稲澤 信二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将一郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 篤史
(72)【発明者】
【氏名】野平 俊之
(72)【発明者】
【氏名】萩原 理加
【審査官】
宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−067644(JP,A)
【文献】
特開昭55−039124(JP,A)
【文献】
特開昭50−038032(JP,A)
【文献】
特開2007−242631(JP,A)
【文献】
特開2010−225486(JP,A)
【文献】
特開平08−203331(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/036907(WO,A1)
【文献】
特開2012−134126(JP,A)
【文献】
石橋達也ほか,NaTFSA-CsTFSA2元系溶融塩を用いたNa/NaCrO2電池,電気化学会大会講演要旨集,日本,電気化学会電池技術委員会,2009年 3月29日,Vol.76,p.377
【文献】
中山哲理ほか,層状Na(Ni0.5Mn0.5)O2及びNaCrO2の非水二次電池正極特性,電池討論会講演要旨集,日本,電気化学会電池技術委員会,2008年11月 5日,Vol.49,p.107
【文献】
岩立淳一ほか,層状NaMO2(M=Fe,Mn,Ti)の合成と電気化学特性,電池討論会講演要旨集,日本,電気化学会電池技術委員会,2010年11月 8日,Vol.51,p.225
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/39
JSTPlus(JDreamIII)
The ECS Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極を備え、電解質として溶融塩を用いる溶融塩電池であって、
前記溶融塩は、
化学構造式が下記(1)式で表されるアニオン(但し、(1)式中のR1及びR2は、同一又は異なり、夫々フルオロ基又はフルオロアルキル基である)を含み、
【化1】
カチオンとして、Naイオンと、他のアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとを含み、
前記正極は、
活物質として、組成式が
Nax Fey Mn1-y O2 、Nax Fey Ti1-y O2 、又はNax Niy Ti1-y O2 (但し
、xは0<x≦1の数、yは0<y<1の数である)で表される金属酸化物を含むこと
を特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記金属酸化物は、組成式がNa2/3 Fe1/3 Mn2/3 O2 、Na5/6 Fe1/2 Mn1/2 O2 、又はNaFe1/2 Ti1/2 O2 で表される金属酸化物であること
を特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質として溶融塩を用いた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電力の効率的な利用のために、高エネルギー密度・高効率の蓄電池が必要とされている。このような蓄電池として、リチウムイオン二次電池が広く利用されている。また、Li(リチウム)の資源量の少なさを鑑みて、Liよりも資源量が豊富なNa(ナトリウム)を用いた蓄電池が開発されている。このような電池の例として、特許文献1には、ナトリウム−硫黄電池が開示されている。また非特許文献1には、ナトリウムイオン二次電池で利用することを想定した正極の材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−273297号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岩立淳一、薮内直明、駒場慎一、「層状NaMO2 (M=Fe,Mn,Ti)の合成と電気化学特性」、第51回電池討論会講演要旨集、電気化学会電池技術委員会、2010年11月、p.225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたナトリウム−硫黄電池は、280℃以上の高温で動作させる必要があり、動作させるまでに内部の温度を上昇させるための膨大な時間が必要となるという問題がある。また、非特許文献1で想定されているナトリウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池と同様に可燃性の有機溶媒を電解液として使用している。有機溶媒を電池の電解液に用いた場合は、電池の動作範囲の電圧で電解液の分解反応が電池の反応と平行して発生し、電池の劣化が進行するという問題がある。また有機溶媒は揮発性・可燃性があるので、有機溶媒を電解液に用いた電池は、発熱によって発火する危険があり、安全性が低いという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、融点を低下させた不燃性の溶融塩を電解質に用いることにより、動作させるまでの時間が短縮されしかも安全性が高い溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶融塩電池は、正極及び負極を備え、電解質として溶融塩を用いる溶融塩電池であって、前記溶融塩は、化学構造式が下記(1)式で表されるアニオン(但し、(1)式中のR1及びR2は、同一又は異なり、夫々フルオロ基又はフルオロアルキル基である)を含み、
【0008】
【化1】
【0009】
カチオンとして、Naイオンと、他のアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとを含み、前記正極は、活物質として、組成式がNa
x M1
y M2
1−yO
2 (但し、M1はFe又はNi、M2はMn又はTi、xは0<x≦1の数、yは0<y<1の数である)で表される金属酸化物を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明においては、溶融塩電池で電解質として用いる溶融塩は、(1)式で表されるイオンをアニオンとし、Naイオンをカチオンとした塩と、他のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンをカチオンとした塩との混合塩である。また溶融塩電池の正極の活物質は、Na
x M1
y M2
1−yO
2 (但し、M1はFe又はNi、M2はMn又はTi、0<x≦1、0<y<1)で表される金属酸化物である。溶融塩が混合塩であることにより、溶融塩の融点が低下し、溶融塩電池の動作温度が低下する。
【0011】
本発明に係る溶融塩電池は、前記金属酸化物は、組成式がNa
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 、Na
5/6 Fe
1/2 Mn
1/2 O
2 、NaFe
1/2 Ti
1/2 O
2 、又はNaNi
1/2 Mn
1/2 O
2 で表される金属酸化物であることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、正極の活物質をNa
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 、Na
5/6 Fe
1/2 Mn
1/2 O
2 、NaFe
1/2 Ti
1/2 O
2 、又はNaNi
1/2 Mn
1/2 O
2 とすることにより、溶融塩電池を実現する。
【発明の効果】
【0013】
本発明にあっては、溶融塩電池が低温で動作するので、電池の温度を動作温度まで上昇させるために必要な時間及び手間を縮小することができる。また電解質として用いる溶融塩は不揮発性でしかも不燃性であるので、溶融塩電池は安全性が向上している。更に、充放電のサイクル特性に優れ、エネルギー密度の高い溶融塩電池を用いることにより、高エネルギー密度・高効率の蓄電装置を実現することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。
【
図2】生成したNa
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 のXRDの測定結果を示す特性図である。
【
図3】Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 を正極活物質に用いた溶融塩電池の充放電特性を示す特性図である。
【
図4】実施例1における溶融塩電池の作製条件並びに充放電試験の条件及び結果をまとめた図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。
図1には、溶融塩電池を縦に切断した模式的断面図を示している。溶融塩電池は、上面が開口した直方体の箱状の電池容器51内に、矩形板状の正極1、シート状のセパレータ3及び矩形板状の負極2を並べて配置し、電池容器51に蓋部52を冠着して構成されている。電池容器51及び蓋部52はAl(アルミニウム)で形成されている。正極1及び負極2は矩形平板状に形成されており、セパレータ3はシート状に形成されている。セパレータ3は正極1及び負極2の間に介装されている。正極1、セパレータ3及び負極2は、重ねられ、電池容器51の底面に対して縦に配置されている。
【0016】
負極2と電池容器51の内側壁との間には、波板状の金属からなるバネ41が配されている。バネ41は、Al合金からなり非可撓性を有する平板状の押え板42を付勢して負極2をセパレータ3及び正極1側へ押圧させる。正極1は、バネ41の反作用により、バネ41とは逆側の内側壁からセパレータ3及び負極2側へ押圧される。バネ41は、金属製のスプリング等に限定されず、例えばゴム等の弾性体であってもよい。充放電により正極1又は負極2が膨脹又は収縮した場合は、バネ41の伸縮によって正極1又は負極2の体積変化が吸収される。
【0017】
正極1は、Alからなる矩形板状の正極集電体11上に、後述する正極活物質とバインダとを含む正極材12を塗布して形成してある。負極2は、Alからなる矩形板状の負極集電体21上に、Sn(錫)等の負極活物質を含む負極材22をメッキによって形成してある。負極集電体21上に負極材22をメッキする際には、ジンケート処理として下地に亜鉛をメッキした後にSnメッキを施すようにしてある。負極活物質はSnに限定されず、例えば、Snを金属Na、炭素、珪素又はインジウムに置き換えてもよい。負極材22は、例えば負極活物質の粉末に結着剤を含ませて負極集電体21上に塗布することによって形成してもよい。セパレータ3は、ケイ酸ガラス又は樹脂等の絶縁性の材料で、内部に電解質を保持でき、またNaイオンが通過できるような形状に形成されている。セパレータ3は、例えばガラスクロス又は多孔質の形状に形成された樹脂である。
【0018】
電池容器51内では、正極1の正極材12と負極2の負極材22とを向かい合わせにし、正極1と負極2との間にセパレータ3を介装してある。正極1、負極2及びセパレータ3には、溶融塩からなる電解質を含浸させてある。電池容器51の内面は、正極1と負極2との短絡を防止するために、絶縁性の樹脂で被覆する等の方法により絶縁性の構造となっている。蓋部52の外側には、外部に接続するための正極端子53及び負極端子54が設けられている。正極端子53と負極端子54との間は絶縁されており、また蓋部52の電池容器51内に対向する部分も絶縁皮膜等によって絶縁されている。正極集電体11の一端部は、正極端子53にリード線55で接続され、負極集電体21の一端部は、負極端子54にリード線56で接続される。リード線55及びリード線56は、蓋部52から絶縁してある。蓋部52は、溶接によって電池容器51に冠着されている。
【0019】
電解質は、溶融状態で導電性液体となる溶融塩である。溶融塩の融点以上の温度で、溶融塩は溶融して電解液となり、溶融塩電池は二次電池として動作する。なお、
図1に示した溶融塩電池の構成は模式的な構成であり、溶融塩電池内には、内部を加熱するヒータ、又は温度センサ等、図示しないその他の構成物が含まれていてもよい。また、
図1には正極1及び負極2を一対備える形態を示したが、本発明の溶融塩電池は、セパレータ3を間に介して複数の正極1及び負極2を交互に重ねてある形態であってもよい。また、溶融塩電池の形状は直方体の形状に限るものではなく、円柱状等のその他の形状であってもよい。
【0020】
次に、本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩の組成について説明する。溶融塩に含まれるアニオンの化学構造式は、前述の(1)式で表される。(1)式中のR1及びR2の夫々はフルオロ基又はフルオロアルキル基である。R1とR2とは同一であっても相違していてもよい。本発明で使用する(1)式で表されるアニオンは、R1及びR2の夫々がフルオロ基又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基であることが好ましい。R1及びR2が共にフルオロ基である場合は、アニオンはFSA(ビスフルオロスルフォニルアミド)イオンである。R1及びR2が共にトリフルオロメチル基である場合は、アニオンはTFSA(ビストリフルオロメチルスルフォニルアミド)イオンである。R1及びR2の一方がフルオロ基で他方がトリフルオロメチル基である場合は、アニオンはFTA(フルオロトリフルオロメチルスルフォニルアミド)イオンである。溶融塩は、例えば、アニオンとして、FSAイオン、TFSAイオン又はFTAイオンを含む。
【0021】
また溶融塩には、カチオンとして、Naイオンが含まれており、更に、Naイオン以外のアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの少なくとも1種が含まれている。Naイオン以外のアルカリ金属イオンとしては、Li、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)又はCs(セシウム)のイオンを用いることができる。アルカリ土類金属イオンとしては、Be(ベリリウム)、マグネシウム(Mg)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、又はBa(バリウム)のイオンを用いることができる。例えば、溶融塩には、カチオンとして、Naイオン及びKイオンが含まれる。アニオンとしてFSAイオンを用い、カチオンとしてNaイオン及びKイオンを用いた溶融塩は、NaイオンをカチオンとしFSAイオンをアニオンとしたNaFSAと、KイオンをカチオンとしFSAをアニオンとしたKFSAとの混合塩である。
【0022】
以上のように、本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩の組成は、(1)式で表されるアニオンと、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンであるカチオンとからなる。このような組成の溶融塩の融点は、過去の研究により、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも大幅に低いことが明らかとなっている。また、本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩は、複数種類の塩が混合した混合塩であるので、単独の塩からなる溶融塩に比べて、融点が低下する。従って、本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩の融点は、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも著しく低下し、本発明の溶融塩電池は、ナトリウム−硫黄電池よりも著しく低温で動作することができる。
【0023】
次に、正極材の組成について説明する。正極材11に含まれる正極活物質は、組成式が下記の(2)式で表される金属酸化物である。
Na
x M1
y M2
1−yO
2 …(2)
【0024】
(2)式において、M1はFe(鉄)又はNi(ニッケル)のいずれか一方の金属元素を示し、M2はMn(マンガン)又はTi(チタン)のいずれか一方の金属元素を示し、xは0<x≦1の範囲の数であり、yは0<y<1の範囲の数である。非特許文献1では、可燃性の有機溶媒であるプロピレンカーボネートを含む電解液を用いているが、本願の発明者による研究により、組成式が(2)式で表される金属酸化物は、溶融塩を電解質とした溶融塩電池の正極1の正極活物質として利用できることが明らかとなった。金属酸化物は溶融Naよりも反応性が低いので、溶融Naを正極に用いたナトリウム−硫黄電池に比べて、正極活物質に金属酸化物を用いた本発明の溶融塩電池は安全性が向上する。
【0025】
本発明における正極活物質として、例えば、Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 、Na
5/6 Fe
1/2 Mn
1/2 O
2 、NaFe
1/2 Ti
1/2 O
2 、又はNaNi
1/2 Mn
1/2 O
2 の何れか1種を用いることが望ましい。特に、本発明では、正極活物質としてNa
5/6 Fe
1/2 Mn
1/2 O
2 を用いることが望ましい。正極活物質としてNa
5/6 Fe
1/2 Mn
1/2 O
2 を用いた場合は、溶融塩電池は、複数回の充放電を繰り返した後の容量低下が小さい優れたサイクル特性を示す。従って、正極活物質としてNa
5/6 Fe
1/2 Mn
1/2 O
2 を用いることによって、充放電のサイクル特性に優れ、高エネルギー密度の溶融塩電池を得ることができる。
【0026】
また、正極材12には、カーボン等の導電助剤が含まれている。正極材12は、正極活物質、導電助剤及びバインダの粉末が混合してなる。正極1は、正極材12が正極集電体11に固着して形成されている。なお、正極材12には、2種類以上の正極活物質が含まれていてもよい。
【0027】
実施例1
正極活物質としてNa
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 を用いた溶融塩電池の充放電特性を調べる実験を行った。まず、Na
2 O
2 (過酸化ナトリウム)、α−Fe
2 O
3 (α−酸化鉄(III))及びMn
2 O
3 (酸化マンガン(III))を原料として、正極活物質であるNa
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 を作成した。具体的には、2.98gのNa
2 O
2 (和光純薬工業製、純度85%以上)、3.00gのα−Fe
2 O
3 (和光純薬工業製、純度99.9%)及び5.93gのMn
2 O
3 (和光純薬工業製、純度99%)をグローブボックス内で混合し、ペレット状に粉末成型した。複数個作成した夫々のペレットの質量は5g前後であり、粉末成型の圧力は64kg/cm
2 である。次に、作成したペレットを空気中で900℃の温度で12時間焼成することにより、Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 を生成させた。Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 が生成する化学反応式は下記の(3)式で表される。
【0029】
次に、Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 が生成されていることをXRD(X-ray diffraction 、X線回折)により確認した。
図2は、生成したNa
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 のXRDの測定結果を示す特性図である。
図2中の横軸は入射角の二倍を示し、縦軸は回折強度をa.u.(arbitrary unit、任意単位)で示す。Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 に特有のX線回折パターンが発生しており、Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 が生成されていることが確認された。
【0030】
次に、生成したNa
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 を正極活物質に用いた溶融塩電池を作製した。電解質としては、溶融塩であるNaFSAとKFSAとの混合塩を用いた。NaFSAとKFSAとのモル比は、NaFSA:KFSA=45:55とした。この電解質の融点は57℃となった。次に、作製した溶融塩電池の充放電特性を調べた。作製した溶融塩電池について、動作温度80℃、充放電レート12mA/g、充電開始電圧2.0V及び放電開始電圧4.0Vの条件で、充放電試験を行った。
【0031】
図3は、Na
2/3 Fe
1/3 Mn
2/3 O
2 を正極活物質に用いた溶融塩電池の充放電特性を示す特性図である。
図3中の横軸は容量を示し、縦軸は溶融塩電池の電圧を示す。
図3中に示した右上がりの曲線が充電特性であり、右下がりの曲線が放電特性である。
図3中の充電特性及び放電特性は、充放電試験により得られた結果である。充電開始電圧2.0V及び放電開始電圧4.0Vの条件で充放電が実際に行われていることが明らかである。この充放電試験で得られた放電容量の値は153.9mAh/gである。
図4は、実施例1における溶融塩電池の作製条件並びに充放電試験の条件及び結果をまとめた図表である。
図3及び
図4に示すように、実施例1に係る溶融塩電池は、80℃の動作温度で、充放電を行うことが可能であり、電池として十分な能力を有している。
【0032】
以上詳述した如く、本発明の溶融塩電池は、ナトリウム−硫黄電池が動作する280℃以上の温度よりも著しく低温で動作することができる。溶融塩電池が低温で動作するので、電池の温度を動作温度まで上昇させるために必要な時間及び手間を縮小することができる。従って、溶融塩電池の利便性が向上する。また、溶融塩電池を動作させるために投入するエネルギーが小さくなり、電池のエネルギー効率が向上する。また本発明では、正極活物質に溶融Naよりも反応性の低い金属酸化物を用いており、また動作温度が低下するので、溶融塩電池の安全性が向上する。また、本発明の溶融塩電池は、電解質として用いる溶融塩が不揮発性でしかも不燃性であるので、揮発性・可燃性の電解液を用いる従来のリチウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池に比べて安全性が向上している。従って、本発明により、安全性に優れた蓄電装置を実現することが可能となる。更に、本発明の溶融塩電池は、充放電のサイクル特性に優れ、高いエネルギー密度が得られるので、本発明により、高エネルギー密度・高効率の蓄電装置を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1 正極
11 正極集電体
12 正極材
2 負極
21 負極集電体
22 負極材
3 セパレータ