(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の光偏向器は、例えば配光制御を行う車両用ヘッドランプに適している。そこで、これに適用する場合、水平線周りのミラー部の回動角について、
図7を参照して説明する。この場合、光偏向器100の設置高さは地上0.75m、反射光の前方照射距離範囲は5〜100mと設定している。下向き角度βは、光偏向器100から真下を0°、光偏向器100から水平前方を90°と定義する。光偏向器100のミラー部107(
図8)は、βが81.47°〜89.57°の振れ角8.10°の角度範囲を往復回動する。光偏向器100より前方の地点から光偏向器100を仰ぎ見る仰角αを定義すると、光偏向器100から前方へ5m地点及び100m地点でのαはそれぞれ8.53°及び0.43°となる。
【0006】
図8は、
図7で想定したヘッドランプ適用の光偏向器100によりレーザ光源101からのレーザ光102を車両前方へ反射させたときの照射光の走査状況を示す。光偏向器100は、レーザ光源101からのレーザ光102をミラー部107に入射されて、その反射光を車両前方へ照射する。最上層の水平方向走査線103は、前述のβが81.47°〜89.57°である角度範囲の最大角度での水平方向走査線であり、照射領域106における最遠方を照射する水平方向走査線となる。最下層の水平方向走査線104は、最小角度での水平方向走査線であり、照射領域106の最近傍点を照射する水平方向走査線となる。
【0007】
図9は、
図7で想定したヘッドランプ適用の光偏向器100のミラー部107を第2の軸線x2の周りに往復回動させるために、光偏向器100に供給する印加電圧の変化を示している。光偏向器100は、この印加電圧の変化により、ミラー部107からの反射光の水平方向走査線の下向き角度βを変化させる。Tは、この往復回動の周期である。該印加電圧は、いわゆる鋸波と呼ばれるものであり、等速で増大又は減少する。該印加電圧が増大するに連れて、ミラー部107からの反射光の水平方向走査線は下向きになる。
図9の鋸波の印加電圧は、上昇時及び下降時共に直線で変化しているので、下向き角度βは等速で増大したり、減少したりする。
【0008】
鋸波のピークは、各周期の中心点より終点の方へ大きく偏倚している。これは、下向き角度βの減少は、一気に変化することを意味する。下向き角度βの減少に割り当てる時間は短いので、適切な水平方向走査を実施するには支障があるので、この期間は、レーザ光源101が消灯され、左右方向水平方向走査は中断される。
【0009】
図10及び
図11は、
図7で想定したヘッドランプ適用の光偏向器100における水平方向走査線の番号とその照射距離との関係をそれぞれ示す2軸グラフ及び粗密分布図である。光偏向器100では、ミラー部107を、その下向き角度βについての上下方向の半周期の往復回動に対して、左右水平方向へ480周期で往復動させて、左右水平方向走査を行うことを想定している。したがって、βの半周期に対し、計480本の反射光の走査線が光偏向器100から照射される。
【0010】
説明の便宜のため、480本の水平方向走査線に対し、1番から480番の走査番号を付けている。走査番号の1番は、
図8の最上層水平方向走査線103とし、最上層水平方向走査線103から最下層水平方向走査線104の方へ進む順番に走査番号を1ずつ増し、最後の最下層水平方向走査線104の走査番号は480としている。
図10及び
図11における走査番号はこのように付けられたものとなっている。
【0011】
光偏向器100を装備するヘッドランプでは、走査番号が1番である反射光の走査線がヘッドランプより前方100mの地点を照射し、走査番号が480番である反射光の走査線がヘッドランプより前方5mの地点を照射するように、そして、その間を残りの478本の走査線がその間を占める。各走査線の走査時間は同一である。
【0012】
光偏向器100では、ミラー部107は、上下方向の往復回動速度を、その往復回動範囲の両端の死点において方向転換のために、0とするものの、死点間では等速となって、βが等速で変化するために、走査番号の小さい反射光の走査線ほど、すなわち、照射先が遠方となっている走査番号の走査線ほど、ヘッドランプからの距離方向の幅が増大したものになる。
【0013】
図10及び
図11から、ヘッドランプからの距離が大きい、すなわちヘッドランプから遠方の地帯ほど、水平方向走査線の密度が疎になっていることが分かる。20番目の水平方向走査線の照射距離は、光偏向器100の前方、40mであるので、40〜100mの遠くの60m範囲を20本の走査線で照射し、5〜40mの近くの35mを460本の走査線で照射することになる。したがって、ヘッドランプから遠方の地帯は、遠近の明るさの違いが顕著になるとともに、遠方の地域では走査線間の境界としての筋105が見えてしまう。
【0014】
従来の光偏向器では、上記のように照射光の到達距離に応じた照射むらが生じることについて対処していない。
【0015】
本発明の目的は、例えば車両用ヘッドランプ等に適用する際に照射光の照射距離等に起因する照射むらが生ずるという問題に的確に対処できる光偏向器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明の光偏向器は、
光源からの光を反射するミラー部と、前記ミラー部の中心において相互に直交する第1の軸線と第2の軸線のうち、第1の軸線周りの第1の角度範囲で前記ミラー部を往復回動させる第1の圧電アクチュエータと、前記第2の軸線周りの第2の角度範囲で前記ミラー部を往復回動させる第2の圧電アクチュエータとを備え、
前記第2の角度範囲は、前記ミラー部で反射された光が照射光となって、水平前方より下でかつ水平前方に平行な照射領域を照射するように設定され、前記第2の
圧電アクチュエータは、前記ミラー部の回動速度を、
前記照射光が水平前方に対して下向きになる時ほど増大させることを特徴とする。
【0017】
第1発明によれば、第2の角度範囲におけるミラー部の回動速度が一様ではなく、角度に応じて調整されるので、第2の角度範囲における照射むらを抑制することができる。
【0018】
第2発明は、第1発明の光偏向器において、前記光源は、前記第1及び第2の圧電アクチュエータによる前記第1及び第2の軸線の周りの回動周期中、常時、点灯状態に保持されていることを特徴とする。
【0019】
第2発明によれば、光源は常時点灯状態とされるので、光源のオン、オフ切替制御を省略して、制御を簡単化しつつ、照射むらを抑制することができる。
【0020】
第3発明は、第1又は第2発明の光偏向器において、
前記照射領域における照射距離範囲に対し、前記第2の角度範囲の両端角度における反射光の照射点は前記照射距離範囲の最大距離点及び最小距離点にそれぞれ対応付けられていることを特徴とする。
【0021】
第3発明によれば、反射光を遠方に向けているときほど、第2の軸線の周りの回動速度が遅くなるので、光偏向器をヘッドランプ等に装備した場合には、遠近に因る照射のむらを効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
図1〜
図6を参照して、本発明の第1実施形態の光偏向器A1について説明する。この光偏向器A1は、
図1の第1の軸線x1の周りの往復回動では、走査用の往復回動に付随して、微小の並進往復動を実施するようになっている。この並進往復動は、光偏向器A1から反射光をスクリーン上に投影して画像を表示する場合のように、スペックルノイズ(詳細は特許文献1参照)を抑制するときに実施するものであり、スペックルノイズが問題にならないヘッドランプ等への適用では、必ず省略する必要もないが、省略してもかまわないものである。
【0024】
光偏向器A1は、前記光偏向器100(
図8)と同様に、レーザ光源101と共に車両のヘッドライトに装備され、レーザ光源101からのレーザ光102をミラー部1により車両の前方へ反射して、車両前方の照射領域106に光を照射するものである。また、光偏向器A1は、光偏向器100に関連して説明した
図7の照射距離範囲及び下向き角β、並びに走査番号についての定義については、光偏向器100の場合と同一である。
【0025】
光偏向器A1は、入射された光を反射するミラー部1と、ミラー部1に連結されたトーションバー2a,2bと、ミラー部1をそれぞれトーションバー2a,2bを介して駆動する2対の内側の第1の圧電アクチュエータ8a〜8dと、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dを支持する可動枠9と、可動枠9を駆動する1対の外側の第2の圧電アクチュエータ10a,10bと、第2の圧電アクチュエータ10a,10bを支持する支持部11とを備えている。
【0026】
図1に示すように、ミラー部1は円形形状で、その直径線分の両端から外側へ向かって、上記1対のトーションバー2a,2bが延びている。一方のトーションバー2aは、その先端部がミラー部1に連結され、その基端部を挟んで対向した1対の内側の第1の圧電アクチュエータ8a,8cのそれぞれの先端部に連結されている。また、他方のトーションバー2bも、その先端部がミラー部1に連結され、その基端部を挟んで対向した1対の第1の圧電アクチュエータ8b,8dのそれぞれの先端部に連結されている。これらの第1の圧電アクチュエータ8a〜8dは、それぞれ、その基端部が、ミラー部2とこれらの第1の圧電アクチュエータ8a〜8dとを囲むように設けられた可動枠9の内側に連結されて支持されている。
【0027】
可動枠9は矩形形状で、トーションバー2a,2bと直交する方向の1対の両側が、可動枠9を挟んで対向した1対の外側の第2の圧電アクチュエータ10a,10bの先端部にそれぞれ連結されている。また、これらの第2の圧電アクチュエータ10a,10bは、その基端部が、可動枠9とこれらの1対の圧電アクチュエータ10a,10bとを囲むように設けられた矩形枠状の支持部11に連結されて支持されている。
【0028】
第1の圧電アクチュエータ8a〜8dは、それぞれ、1つの圧電カンチレバーから構成される。各圧電カンチレバーは、支持体4a〜4dと下部電極5a〜5dと圧電体6a〜6dと上部電極7a〜7dとを備えている。
【0029】
また、一方の第2の圧電アクチュエータ10aは、4つの圧電カンチレバー(圧電アクチュエータ10aの先端部側から奇数番目の2つの圧電カンチレバー3e,3eと、偶数番目の2つの圧電カンチレバー3f,3f)が連結されて構成されている。また、他方の第2の圧電アクチュエータ10bも、4つの圧電カンチレバー(圧電アクチュエータ10bの先端部側から奇数番目の2つの圧電カンチレバー3g,3gと、偶数番目の2つの圧電カンチレバー3h,3h)が連結されて構成されている。各圧電カンチレバー3e〜3hは、支持体4e〜4hと下部電極5e〜5hと圧電体6e〜6hと上部電極7e〜7hとを備えている。
【0030】
一方の第2の圧電アクチュエータ10aにおいて、4つの圧電カンチレバー3e,3fは、その長さ方向が同じになるように、各圧電カンチレバー3e,3fの両端部が隣り合うように、後述の並進駆動が可能な間隔で並んで配置されている。そして、各圧電カンチレバー3e,3fは、隣り合う圧電カンチレバーに対し折り返すように連結されている。
【0031】
他方の第2の圧電アクチュエータ10bにおいても、4つの圧電カンチレバー3g,3hは、その長さ方向が同じになるように、各圧電カンチレバー3g,3hの両端部が隣り合うように、後述の並進駆動が可能な間隔で並んで配置されている。そして、各圧電カンチレバー3g,3hは、隣り合う圧電カンチレバーに対し折り返すように連結されている。
【0032】
また、光偏向器A1は、一方の対の第1の圧電アクチュエータ8a,8cの上部電極7a,7cと下部電極5a,5cとの間にそれぞれ駆動電圧を印加するための上部電極パッド12a及び下部電極パッド13aと、他方の対の第1の圧電アクチュエータ8b,8dの上部電極7b,7dと下部電極5b,5dとの間にそれぞれ駆動電圧を印加するための上部電極パッド12b及び下部電極パッド13bとを、支持部11上に備えている。また、光偏向器は、1対の第2の圧電アクチュエータ10a,10bの奇数番目の上部電極7e,7gと下部電極5e,5gとの間にそれぞれ駆動電圧を印加するための上部電極パッド12c,12dと、1対の第2の圧電アクチュエータ10a,10bの偶数番目の上部電極7f,7hと下部電極5f,5hとの間にそれぞれ駆動電圧を印加するための上部電極パッド12e,12fと、上部電極パッド12c,12eの共通の下部電極パッド13cと、上部電極パッド12d,12fの共通の下部電極パッド13dとを、支持部11上に備えている。
【0033】
下部電極5a〜5hと下部電極パッド13a〜13dとは、シリコン基板上の金属薄膜(光偏向器A1では2層の金属薄膜、以下、下部電極層ともいう)を、半導体プレーナプロセスを用いて形状加工することにより形成される。この金属薄膜の材料としては、例えば、1層目(下層)にはチタン(Ti)を用い、2層目(上層)には白金(Pt)を用いる。
【0034】
詳細には、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dの圧電カンチレバーの下部電極5a〜5dは、支持体4a〜4d上のほぼ全面に形成され、第2の圧電アクチュエータ10a,10bの圧電カンチレバーの下部電極5e〜5hは、それぞれ、支持体(直線部と連結部とを合わせた全体)4e〜4h上のほぼ全面に形成されている。そして、下部電極パッド13a〜13dは、支持部11上及び可動枠9上の下部電極層を介して、下部電極5a〜5hに導通される。
【0035】
圧電体6a〜6hは、半導体プレーナプロセスを用いて下部電極層上の1層の圧電膜(以下、圧電体層ともいう)を形状加工することにより、それぞれ、下部電極5a〜5h上に互いに分離して形成されている。この圧電膜の材料としては、例えば、圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が用いられる。
【0036】
詳細には、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dの圧電カンチレバーの圧電体6a〜6dは、支持体4a〜4d上のほぼ全面に形成されて、第2の圧電アクチュエータ10a,10bの圧電カンチレバーの圧電体6e〜6hは、支持体4e〜4hのうちの直線部上のほぼ全面に形成されている。
【0037】
上部電極7a〜7hと、上部電極パッド12a〜12fと、これらを導通する上部電極配線(図示せず)は、半導体プレーナプロセスを用いて、圧電体層上の金属薄膜(光偏向器A1では1層の金属薄膜、以下、上部電極層ともいう)を形状加工することにより形成されている。この金属薄膜の材料としては、例えば白金(Pt)又は金(Au)が用いられる。
【0038】
詳細には、第1及び第2の圧電アクチュエータ8a〜8d,10a,10bの圧電カンチレバーの上部電極7a〜7hは、圧電体6a〜6h上のほぼ全面に形成されている。そして、上部電極パッド12a,12bは、支持部11上、支持体4e〜4h上の側部、及び可動枠9上に形成された上部電極配線(図示せず)を介して、上部電極7a〜7dに導通される。また、上部電極パッド12c〜12fは、支持部11上及び支持体4e〜4h上の側部に形成された上部電極配線(図示せず)を介して、上部電極7e〜7hに導通される。なお、上部電極配線は、平面的に互いに分離して設けられていると共に、下部電極パッド13a〜13d及び下部電極5a〜5hと層間絶縁されている。
【0039】
ミラー部1は、ミラー部支持体1aと、ミラー部支持体1a上に形成されたミラー面反射膜(反射面)1bとを備えている。ミラー面反射膜1bは、半導体プレーナプロセスを用いて、ミラー部支持体1a上の金属薄膜(光偏向器A1では1層の金属薄膜)を形状加工して形成されている。金属薄膜の材料としては、例えばAu,Pt,銀(Ag),アルミニウム(Al)等が用いられる。
【0040】
また、ミラー部支持体1aと、トーションバー2a,2bと、支持体4a〜4hと、可動枠9と、支持部11とは、複数の層から構成される半導体基板を形状加工することにより一体的に形成されている。シリコン基板を形状加工する手法としては、フォトリソグラフィ技術やドライエッチング技術等を利用した半導体プレーナプロセス及びMEMSプロセスが用いられる。
【0041】
ミラー部1と可動枠9との間には空隙9’が設けられ、ミラー部1が所定角度まで回転可能となっている。また、可動枠9と支持部11との間には空隙11’が設けられ、可動枠9が所定角度まで回転可能となっている。ミラー部1は、一体的に形成することで、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dとトーションバー2a,2bを介して機械的に連結され、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dの駆動に応じて回動する。また、可動枠9は、一体的に形成することで、第2の圧電アクチュエータ10a,10bと機械的に連結され、第2の圧電アクチュエータ10a,10bの駆動に応じて回動及び並進する。
【0042】
さらに、光偏向器A1は、ミラー部1の偏向・走査を制御する制御回路20に接続されている。制御回路20は、その機能として、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dの駆動電圧の位相、周波数、振幅、波形等を制御することで、ミラー部1の第1の軸線x1周りでの偏向・走査(回転駆動)の位相、周波数、偏向角等を制御する第1制御手段21と、第2の圧電アクチュエータ10a,10bへ印加する駆動電圧の位相、周波数、振幅、波形等を制御することで、ミラー部1の第2の軸線x2周りでの偏向・走査(回転駆動)及び並進駆動の位相、周波数、偏向角、変位量等を制御する第2制御手段22とを備えている。なお、第1及び第2の軸線x1,x2は、ミラー部1のほぼ中心において直交する。第2制御手段22は、駆動電圧として、ミラー部1の回転駆動用の電圧成分と並進駆動用の電圧成分とを重畳した電圧を用いる。
【0043】
次に、光偏向器A1の作動を説明する。まず、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dによる第1の軸線周りの回転駆動について説明する。光偏向器A1では、一方の対の第1の圧電アクチュエータ8a,8cに対して、上部電極7a,7cと下部電極5a,5cとの間にそれぞれ第1の電圧、第2の電圧を印加して駆動させると、互いに逆方向に屈曲変形する。なお、第1の電圧と第2の電圧とは、互いに逆位相或いは位相のずれた交流電圧(例えば正弦波)とする。これらの屈曲変形により、トーションバー2aにねじれ変位が生じて、ミラー部1にトーションバー2aを中心とした回転トルクが作用する。同様に、他方の対の第1の圧電アクチュエータ8b,8dにそれぞれ第1の電圧、第2の電圧を印加して駆動させることにより、トーションバー2bに同じ方向にねじれ変位が生じて、ミラー部1にトーションバー2bを中心とした回転トルクが作用する。
【0044】
よって、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dの駆動により、ミラー部1にはトーションバー2a,2bを中心とした回転トルクが作用する。これにより、ミラー部1は、
図1の矢印で示したように、トーションバー2a,2bを中心軸として第1の軸線x1周りで回転する。これにより、ミラー部1を回転させて第1の方向(例えば左右の水平方向)について所定の第1周波数で所定の第1偏向角で光走査することができる。このとき、これらの第1の圧電アクチュエータ8a〜8dでは、駆動電圧としてトーションバー2a,2bを含むミラー部1の機械的な共振周波数付近の周波数の交流電圧を印加して共振駆動させることで、より大きな偏向角で光走査することができる。
【0045】
これと共に、光偏向器A1では、外側の1対の第2の圧電アクチュエータ10a,10bに駆動電圧を印加する。具体的には、第2の圧電アクチュエータ10aでは、上部電極パッド12cと共通の下部電極パッド13cとの間に、第3の電圧を印加して、奇数番目の圧電カンチレバー3eを駆動させる。これと共に、上部電極パッド12eと共通の下部電極パッド13cとの間に、第4の電圧を印加して、偶数番目の圧電カンチレバー3fを駆動させる。同様に、対向した第2の圧電アクチュエータ10bに第5,第6の電圧を印加して圧電カンチレバー3g,3hを駆動させる。
【0046】
このとき、第3,第4の電圧の回転駆動用の電圧成分は、第2の圧電アクチュエータ10aの垂直方向について、奇数番目の圧電カンチレバー3eと偶数番目の圧電カンチレバー3fとの角度変位が逆方向に発生するように印加する。例えば、第2の圧電アクチュエータ10aの先端部を上方向(
図1に示す方向U)に変位させる場合には、奇数番目の圧電カンチレバー3eを上方向に変位させ、偶数番目の圧電カンチレバー3fを下方向に変位させる。第2の圧電アクチュエータ10aの先端部を下方向に変位させるには、その逆にする。第5,第6の電圧の回転駆動用の電圧成分についても同様である。
【0047】
ここで、
図2は、第2の圧電アクチュエータ10a,10bの垂直方向についての駆動状態を模式的に示した図である。
図2では、第2の圧電アクチュエータ10aの先端部を上方向に変位させる場合が例示されている。なお、以下では適宜、可動枠9側からi番目の圧電カンチレバーについて(i)と付記して説明する(i=1〜4)。
【0048】
図2に示すように、第2の圧電アクチュエータ10aに電圧を印加して、可動枠9側(先端部側)から奇数番目の圧電カンチレバー3eを上方向に屈曲変形させると共に、偶数番目の圧電カンチレバー3fを下方向に屈曲変形させる。このとき、圧電カンチレバー3f(4)は、支持部11と連結した基端部を支点として、その先端部に下方向の角度変位が発生している。また、圧電カンチレバー3e(3)は、圧電カンチレバー3f(4)の先端部と連結した基端部を支点として、その先端部に上方向の角度変位が発生している。また、圧電カンチレバー3f(2)は、圧電カンチレバー3e(3)の先端部と連結した基端部を支点として、その先端部に下方向の角度変位が発生している。また、圧電カンチレバー3e(1)は、圧電カンチレバー3f(2)の先端部と連結した基端部を支点として、その先端部(可動枠9と連結している)に上方向の角度変位が発生している。これにより、第2の圧電アクチュエータ10aでは、各圧電カンチレバー3e,3fの屈曲変形の大きさを加算した大きさの角度変位が発生する。
【0049】
また、ミラー部1の並進往復動は、走査中のミラー部1の上下左右の向きに関係なく、ミラー部1の面に沿ってミラー部1と第2の圧電アクチュエータ10a,10bとの配列方向で行われ、第3,第4の電圧の並進駆動用の電圧成分は、この配列方向にミラー部1側から奇数番目の圧電カンチレバー3eと偶数番目の圧電カンチレバー3fとの角度変位が同方向に発生するように印加する。例えば、第2の圧電アクチュエータ10aの先端部を右方向(
図1に示す方向R)に変位させる場合には、奇数番目の圧電カンチレバー3eも、偶数番目の圧電カンチレバー3fも、右方向に変位させる。第2の圧電アクチュエータ10aの先端部を左方向に変位させるには、その逆にする。第5,第6の電圧の並進駆動用の電圧成分についても同様である。
【0050】
ここで、
図3は、第2の圧電アクチュエータ10a,10bによるミラー部1の並進駆動の様子を模式的に示した図である。
図3(a)は、ミラー部1を右方向に並進駆動させた状態を示し、
図3(b)は、ミラー部1を左方向に並進駆動させた状態を示す。
図3(a)の場合、第2の圧電アクチュエータ10aについて、圧電カンチレバー3e,3fは、それぞれ、矢印で示したように、その基端部を支点として、その先端部に右方向の角度変位が発生している。これにより、第2の圧電アクチュエータ10aでは、各圧電カンチレバー3e,3fの屈曲変形の大きさを加算した大きさの右方向の並進変位が発生する。
【0051】
また、第2の圧電アクチュエータ10bについて、圧電カンチレバー3g,3hは、それぞれ、矢印で示したように、その基端部を支点として、その先端部に右方向の角度変位が発生している。これにより、第2の圧電アクチュエータ10bでは、各圧電カンチレバー3g,3hの屈曲変形の大きさを加算した大きさの右方向の並進変位が発生する。これらの並進変位により、図中に白抜き矢印で示したように、ミラー部1とトーションバー2a,2bと第1の圧電アクチュエータ8a〜8dと可動枠9が一体的に右方向に並進する。
【0052】
このように、第3〜第6の電圧の駆動により、第2の圧電アクチュエータ10a,10bが駆動され、それぞれ、先端部に中心軸線が同軸の角度変位を発生すると共に、中心軸線に平行な並進変位を発生する。これらの角度変位により、可動枠9は、
図1の矢印で示したように、第1の軸線x1と直交する第2の軸線x2周りで回転する。これにより、ミラー部1と可動枠9とが互いの動きに干渉することなく独立に回転される。そして、この可動枠9の回転により、ミラー部1と第1の圧電アクチュエータ8a〜8dとが一体的に回転し、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dの駆動による回転とは独立にミラー部1が回転することになる。これにより、ミラー部1を回転させて第2の方向(例えば垂直方向)について所定の第2周波数で所定の第2偏向角で光走査することができる。
【0053】
また、角度変位による回転と同時に、並進変位により、
図1の矢印で示したように、ミラー部1とトーションバー2a,2bと第1の圧電アクチュエータ8a〜8dと可動枠9が一体的に第2の軸線x2に平行に並進する。これにより、ミラー部1を所定の第3周波数で所定の変位量(例えば、50[μm]以上)で並進振動することができる。
【0054】
光偏向器A1によれば、第1及び第2の圧電アクチュエータ8a〜8d,10a,10bの回転駆動により、入射されたレーザ光等の光ビームが2方向(例えば水平方向、垂直方向)で独立に走査されるので、入射された光ビームを水平方向、垂直方向にラスタスキャンしてスクリーン上に投影して画像を表示することができる。これと共に、光偏向器A1によれば、第2の圧電アクチュエータ10a,10bの並進駆動により、ミラー部1を並進振動することができる。これにより、ミラー部1で走査される光の位相を変動させることができる。光偏向器A1を、スクリーンに画像を表示する画像表示に組み込む場合には、ミラー部1を並進振動は、スクリーン上の画像におけるスペックルノイズの低減に寄与する。
【0055】
なお、本発明の光偏向器の適用は、ヘッドランプに限られない。照射距離差に起因する照度むらが問題になっている任意の装置に適用され、もし、そのような照度むらが生じる画像装置があれば、本発明の光偏向器は該画像装置にも装備することができる。
【0056】
図4は、第2の軸線x2(
図1)の周りのミラー部1の往復回動の1周期における第2の圧電アクチュエータ10a,10bへの印加電圧の変化例を示している。前述したように、第2の圧電アクチュエータ10aへは、奇数番目の圧電カンチレバー用の第3の電圧と、偶数番目の圧電カンチレバー用の第4の電圧とを供給し、第2の圧電アクチュエータ10bへは、奇数番目の圧電カンチレバー用の第5の電圧と、偶数番目の圧電カンチレバー用の第6の電圧とを供給することになっている。
【0057】
また、奇数番目の圧電カンチレバーと偶数番目の圧電カンチレバーとは、同方向へ変位すると、変位が相殺されて、可動枠9が第2の軸線x2の周りに回動しないので、逆方向へ変位させる必要がある。
図4の縦軸の印加電圧とは、第3〜第6の電圧を、
図7で定義した下向き角度β(βは真下を0°、水平方向前方を90°と定義していることに注意。βは伏角の余角である。)を減少させる方向(=より下向きになる方向)が増大側となるように増減を整合させた電圧と定義する。
【0058】
図4の縦軸の印加電圧は、ミラー部1の下向き角β(
図7)を規定するので、「下向き角印加電圧」と呼んで、水平方向走査用印加電圧と区別する。なお、光偏向器A1における水平方向走査用印加電圧の変化は、従来の光偏向器と同様に、等速で行われるので、ミラー部1の水平方向走査は、等速で行われ、各走査番号の走査時間は相互に等しい。
【0059】
下向き角印加電圧が小さいときほど、下向き角βは増大、すなわちミラー部1は上向きになって(
図7参照)、照射領域106(
図8)内の遠方の方を照射する。下向き角印加電圧の最小値(
図4の縦軸の目盛りでは最小値は0)は、最上層水平方向走査線103を生成する時の下向き角βに対応し、下向き角印加電圧の最大値(
図4の縦軸の目盛りでは最大値はほぼ20)は、最下層水平方向走査線104を生成する時の下向き角βに対応する。
【0060】
図4の下向き角印加電圧の特徴は、次のとおりである。
(a)印加電圧は、下向き角の往復周期の中心に対して対称となっている。
(b)印加電圧は、それが低いときほど低速で変化し、大きいときほど高速に変化する。
【0061】
上記特徴(b)により、遠方地帯の光走査線の個数が、従来の下向き角βの等速変化よりも大幅に増大する。
図7に関連して前述したように、下向き角βが大きいときほど、すなわち光偏向器A1からの反射光が遠くを照射しているときほど、βの単位量に対する、ヘッドランプからの距離範囲は長くなるので、このことと、遠方地帯の光走査線の個数が従来より増大することとにより、照射領域106(
図8)における走査線密度は、光偏向器100からの距離の方向へ均一化される。こうして、光偏向器100から照射地点までの距離の遠近に起因する光むらが抑制される。
【0062】
上記特徴(a)は次のことを意味する。下向き角βを減少させている期間と下向き角βを増大させている期間とが等しくされるので、左右水平方向走査周期を一定に保持しつつ、下向き角の往復周期の前側の半周期では、1番の走査線から480番の走査線への順番に走査線を照射し、後側の半周期では、480番の走査線から1番の走査線へ逆順に走査線を照射することができる。
【0063】
従来の光偏向器100を装備するヘッドランプでは、下向き角ベータの往復周期では、βの増大期間部分と減少期間部分との長さが異なるので(
図9参照)、もし、βの増大期間部分と減少期間部分との両方で水平方向走査線による照射を実施するのであれば、βの増大期間部分と減少期間部分とで水平方向走査線の走査周期を異ならせる必要があるが、βの往復周期について(a)の特徴のように設定すれば、その必要がなくなる。
【0064】
さらに、ミラー部1の左右水平方向の往復回動周期において、第2の圧電アクチュエータ10a〜10dに供給する第3〜第6の電圧についても、増減の折り返し点を周期中心に設定して、走査番号の奇数番とその次の偶数番とで走査方向へ逆方向にすれば、レーザ光源101を常時点灯状態に維持して、480本の左右水平方向走査を実施することができる。これにより、レーザ光源101をオン、オフする切り替え制御を省略して、制御を簡単化することができる。
【0065】
なお、この実施形態では、レーザ光源101の常時点灯時の前後垂直方向走査周期:左右水平方向走査周期=960:1となっている。すなわち、前後垂直方向走査の半周期は左右水平方向走査周期の480倍(自然数倍)となる。しかしながら、レーザ光源101の常時点灯時に、前後垂直方向走査の半周期を左右水平方向走査周期の自然数倍とすることは必須ではない。前後垂直方向走査の半周期を左右水平方向走査周期のn倍(nは、1より大でかつ1未満の小数部を含む。)としたり、前後垂直方向走査周期の前側の半周期を左右水平方向走査周期のm1倍、前後垂直方向走査周期の後ろ側の半周期を左右水平方向走査周期のm2倍(m1≠m2)としたりすることもできる。
【0066】
図5は第2の圧電アクチュエータ10a,10bへの下向き角印加電圧の別の変化例を示している。
図5における下向き角印加電圧の特徴は、
図4における下向き角印加電圧の特徴(a)に代えて、下向き角印加電圧の変更周期において、増大期間と減少期間との比率が
図9の場合と同じく9:1になっている。
図4における下向き角印加電圧の特徴(b)は、
図5における下向き角印加電圧の特徴としてそのまま適用されている。
【0067】
図5のような印加電圧を採用する場合、ミラー部1からの反射光の水平方向走査では、印加電圧の減少期間、すなわち下向き角を走査番号480のものから走査番号1のものへ戻している期間は、レーザ光源101を消灯状態に維持して、水平方向走査を中断する。
【0068】
なお、第2の圧電アクチュエータ10a,10bへの印加電圧の別の変化例を採用する場合であっても、第1の圧電アクチュエータ8a〜8dへの印加電圧の変化の周期を増大部分と減少部分とを1:1に設定して、奇数番の走査番号の水平方向走査の向きと偶数番の走査番号の水平方向走査の向きとを相互に逆にして、第2の圧電アクチュエータ10a,10bへの印加電圧増大期間(
図5において9:1の9側の期間)は、レーザ光源101を点灯状態に保持して、該期間におけるレーザ光源101の切替制御を省略することができる。
【0069】
[第2実施形態]
次に
図6を参照して、本発明の第2実施形態の光偏向器A2について説明する。なお、光偏向器A2の構造部位について、光偏向器A1に同一の構造部位があるものは、光偏向器A1の同一の構造部位に付けた符号と同一の符号を付して説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【0070】
光偏向器A2では、トーションバー2a,2bは省略され、これに伴い、第2の圧電アクチュエータ10a,10bも省略される。そして、これらに代わり、第1の圧電アクチュエータ40a,40bが設けられる。第1の圧電アクチュエータ40a,40bは、第2の圧電アクチュエータ10a,10bとは、寸法及び向きが異なるのみで、構造は同一となっている。相違点は、第1の圧電アクチュエータ40a,40bは、ミラー部支持体1aを第1の軸線x1の周りに往復回動させるのに対し、第2の圧電アクチュエータ10a,10bは、ミラー部支持体1aを第1の軸線x1の周りに往復回動させることである。
【0071】
光偏向器A1では、水平軸走査が第1の圧電アクチュエータ8a〜8dによる共振駆動、垂直軸走査が第2の圧電アクチュエータ10a,10bによる非共振駆動であるのに対し、光偏向器A1では、第1の圧電アクチュエータ40a,40bの採用により、水平軸走査及び垂直軸走査共に非共振駆動となる。
【0072】
一方の第1の圧電アクチュエータ40aは、4つの圧電カンチレバー(圧電アクチュエータ40aの先端部側から奇数番目の2つの圧電カンチレバー33e,33eと、偶数番目の2つの圧電カンチレバー33f,33f)が連結されて構成されている。また、他方の第1の圧電アクチュエータ40bも、4つの圧電カンチレバー(圧電アクチュエータ40bの先端部側から奇数番目の2つの圧電カンチレバー33g,33gと、偶数番目の2つの圧電カンチレバー33h,33h)が連結されて構成されている。各圧電カンチレバー33e〜33hは、第2の圧電アクチュエータ10a,10bと同様に、支持体と下部電極と圧電体と上部電極とを備えている。
【0073】
支持部11の一方の辺部には、光偏向器A1の上部電極パッド12a及び下部電極パッド13aは省略されて、代わりに、上部電極パッド42c,42e及び下部電極パッド43cが配備され、支持部11の他方の辺部には、光偏向器A1の上部電極パッド12b及び下部電極パッド13bは省略されて、代わりに、上部電極パッド42d,42f及び下部電極パッド43dが配備される。
【0074】
上部電極パッド42c,42e及び下部電極パッド43cは、上部電極パッド12c,12e及び下部電極パッド13cに対応し、上部電極パッド42cと下部電極パッド43cとの間には第7の電圧が印加されて、奇数番目の圧電カンチレバー33eを駆動させる。上部電極パッド42eと下部電極パッド43cとの間には第8の電圧が印加されて、偶数番目の圧電カンチレバー33fを駆動させる。
【0075】
上部電極パッド42d,42f及び下部電極パッド43dは、上部電極パッド12d,12f及び下部電極パッド13dに対応し、上部電極パッド42dと下部電極パッド43dとの間には第9の電圧が印加されて、奇数番目の圧電カンチレバー33gを駆動させ、また、上部電極パッド42fと下部電極パッド43dとの間には第10の電圧が印加されて、偶数番目の圧電カンチレバー33hを駆動させる。
【0076】
こうして、ミラー部1と一体運動するミラー部支持体1aを第1の圧電アクチュエータ40a,40bにより第1の軸線x1の周りに往復回動させて、反射光を水平方向走査線で照射することができる。
【0077】
本発明は、ヘッドランプ以外にも、照射距離差に起因する照度むらが問題になっている機器に装備して、該問題を解決することができる。
【0078】
本発明の実施形態のヘッドランプでは、第2の軸線が水平線となっているが、本発明の適用場所によっては、第2の軸線が水平線以外であることがあり得る。例えば、左端から右端へ手前に近付いているようなスクリーンに画像を表示する表示装置に本発明の光偏向器を装備する場合には、第2の軸線が鉛直線や、その他の傾斜線としてもよい。
【0079】
実施の形態では、第2の軸線の周りの1回の往復回動を第2の圧電アクチュエータの印加電圧の1周期に割り当てているが、第2の圧電アクチュエータの印加電圧の1周期に複数回の往復回動を割り当てて、第2の圧電アクチュエータの印加電圧の1周期辺りの各走査光量の均一化やパターン化を図ることも可能である。