(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775381
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ワイヤソーの加工液ノズル
(51)【国際特許分類】
B24B 57/02 20060101AFI20150820BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20150820BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20150820BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
B24B57/02
B24B27/06 D
H01L21/304 611W
B28D5/04 C
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-143196(P2011-143196)
(22)【出願日】2011年6月28日
(65)【公開番号】特開2013-10152(P2013-10152A)
(43)【公開日】2013年1月17日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】伊東 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博之
【審査官】
大山 健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−141221(JP,A)
【文献】
特開2005−169605(JP,A)
【文献】
特開2004−195555(JP,A)
【文献】
特開平10−329024(JP,A)
【文献】
特開2011−183503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 55/00−57/04
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤソーの加工部の上方にワイヤの配列方向に沿って延長され、ワイヤ上に加工液を供給するための加工液ノズルにおいて、
加工液供給部に連結され、多角形パイプによって構成するとともに、下角部にワイヤ上に加工液を供給するための供給口を自身の延長方向に沿って形成した供給管と、
その供給管内を上下に区画するように供給管内の対向する横角部間に設けられ、自身の延長方向に沿って複数の透孔を配列した区画板と
を備えたことを特徴とするワイヤソーの加工液ノズル。
【請求項2】
前記区画板を供給管の端部から出し入れ可能にしたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤソーの加工液ノズル。
【請求項3】
前記区画板をその幅方向の中央部で屈曲したことを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤソーの加工液ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば半導体材料、磁性材料、セラミックス等の脆性材料よりなるワークをワイヤにより切断加工するワイヤソーにおいて、ワイヤ上に加工液を供給するための加工液ノズルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ワイヤソーにおいては、複数の加工用ローラ間にワイヤが複数回周回されるとともに、そのワイヤ上に加工液ノズルがワイヤの配列方向に沿って延長配置されている。そして、加工用ローラの回転により、ワイヤが加工用ローラ間で延長方向に周回走行されながら、加工液ノズルの下部に設けられた供給口からワイヤ上にクーラントや砥粒を含むスラリ等よりなるスラリ加工液が供給される。この状態で、ワイヤに対してワークが押し付けられることにより、ワークに切断加工が施される。
【0003】
この種のワイヤソーでは、ワークの切断加工時に、加工液が加工液ノズルの下部の供給口からワイヤの配列方向の全域にわたって均一に供給されることが望まれている。このような要望に対処するために、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されるような構成の加工液ノズルが従来から提案されている。
【0004】
この従来構成においては、加工液ノズルが、加工液供給部に連結された小径の内側管と、その内側管の外側に間隔をおいて同心状に配置された大径の外側管とより構成されている。内側管の上部には、複数の透孔が自身の延長方向に沿って配列形成されている。外側管の下部には、スリット状の供給口が自身の延長方向に沿って配列形成されている。そして、加工液供給部から内側管内に導入される加工液が、内側管上の透孔から外側管内に流出された後、外側管の供給口からワイヤに向けて供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−195358号公報
【特許文献2】特開2005-169605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、この従来構成においては、加工液ノズルが小径の内側管と大径の外側管との二重構造になっている。このため、内側管と外側管が互いに両端部で位置決め支持される構造となり、加工液ノズルの構造が複雑で、加工や組み付け、清掃時の取外しなどに手間がかかるという問題があった。
【0007】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、構造が簡単な加工液ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は、ワイヤソーの加工部の上方にワイヤの配列方向に沿って延長され、ワイヤ上に加工液を供給するための加工液ノズルにおいて、加工液供給部に連結され、
多角形パイプによって構成するとともに、下角部にワイヤ上に加工液を供給するための供給口を自身の延長方向に沿って
形成した供給管と、その供給管内を上下に区画するように供給管内
の対向する横角部間に設けられ、自身の延長方向に沿って複数の透孔を配列した区画板とを備えたことを特徴としている。
【0009】
従って、この発明の加工液ノズルにおいては、加工液供給部から供給管の上部室に導入される加工液がその上部室で一旦貯留され、さらに、その貯留室から区画板の透孔を通して供給管の下部室に流入された後、供給管の
下角部の供給口からワイヤに向けて供給される。よって、加工液をワイヤの配列方向の全域にわたって均一に供給することができる。また、加工液ノズルが供給管と板状の区画板とにより構成されているため、内側管と外側管との二重構造よりなる従来構成の加工液ノズルに比較して、構造を簡略化することができて、加工を簡略化することができ、ノズルの組み付けや清掃時の取外しなどを容易にできる。
【0012】
前記の構成において、前記区画板を供給管の端部から出し入れ可能にするとよい
。
【0013】
前記の構成において、前記区画板をその幅方向の中央部で屈曲するとよい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、この発明によれば、加工液ノズルの構造が簡単で加工や組み付け、清掃時の取外しなどが容易になるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】同ワイヤソーの加工液供給部及び加工液ノズルを拡大して示す側面図。
【
図5】
図3の加工液ノズルの一部を拡大して示す部分断面図。
【
図7】加工液ノズルの端部の構成を分解して示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、この発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び
図2に示すように、この実施形態のワイヤソーにおいては、図示しないフレーム上の加工部に複数(実施形態では一対)の加工用ローラ11が一対の支持ブラケット12を介して、横方向へ平行に延びる軸線を中心に回転可能に支持されている。各加工用ローラ11の外周面には複数の環状溝11aが所定のピッチで形成され、両加工用ローラ11の環状溝11a間にはワイヤ13が複数回周回されている。各加工用ローラ11の上方位置においてワイヤ13の配列方向に沿って延長配置されるように、支持ブラケット12間には一対の加工液ノズル14が架設されている。
【0017】
そして、
図1に示すように、加工用ローラ11の回転により、ワイヤ13が加工用ローラ11間で延長方向に周回走行されながら、各加工液ノズル14からワイヤ13に対して砥粒を含む加工液が供給される。この状態で、ワイヤ13にワークWが押し付けられることによって、ワークWに切断加工が施される。
【0018】
図3に示すように、前記両加工液ノズル14に対応して一方の支持ブラケット12には、供給管路等よりなる一対の加工液供給部15が配置されている。
図4に示すように、各加工液供給部15の下端には一次側口金16が固定され、その一次側口金16の端面には接続口16aが開口されている。各加工液ノズル14の一端部には、加工液供給部15の一次側口金16に着脱可能に接続される二次側口金17が固定されている。二次側口金17の端面には、一次側口金16の接続口16aに接続可能な接続口17aが開口されている。
図3及び
図4に示すように、前記一次側口金16の端面には上下方向に延びる凹溝30が形成されている。ノズル14側の二次側口金17の端面には、凹溝30に係合可能な係合部31が設けられている。前記一次側口金16と二次側口金17との間には、ノズル14の装着にともなって二次側口金17を一次側口金16に対する接続方向(
図3の右方向)へ引き込むように移動させるための一対のカム溝34とカム片35とよりなるカム構造33が設けられている。各加工液ノズル14の他端部には、他方の支持ブラケット12上の長孔よりなる係止部18に係脱可能なピン19が突設されている。この他端部を決めた状態でノズル14の一端部を上方からゆるやかに曲線を描くように加工液供給部に装着する。この時、まず、凹溝30と係合部31との係合によって口径方向の横位置が決まり、次に一対のカム溝34とカム片35とにより、二次側口金17が一次側口金16に対して接続方向及び上下方向に位置決めされて両口金16,17の接続口16a,17aが密着状態に接続される。
【0019】
図5及び
図6に示すように、前記加工液ノズル14には、供給管20と、その供給管20の上面に沿って一端部から中間部にかけて接合固定された導入管21と、供給管20内を上部室20Aと下部室20Bとに区画するように供給管20内に配置された区画板22とが備えられている。供給管20は断面四角形状の角パイプによって構成され、各角部を上下及び両側に位置させた状態で配置されている。供給管20の下角部には、ワイヤ13上に加工液を供給するためのスリット状の供給口20aが自身の延長方向に沿って延びるように形成されている。
【0020】
図3及び
図5に示すように、前記導入管21は断面円形状の丸パイプにより構成され、その導入管21の一端部が二次側口金17の接続口17aに連通されるとともに、他端部が供給管20の上面中間部に接続されている。
図5〜
図7に示すように、前記区画板22はその幅方向の中央において屈曲されて断面ほぼ山形状に形成され、供給管20の他端側の開口端部20bから供給管20内の対向する横角部間に出し入れ可能に挿入されて、横角部の内側面によって保持されている。区画板22の両翼の側板部には、複数の透孔22aが自身の延長方向に沿って所定間隔おきに配列形成されている。供給管20の開口端部20bにはキャップ23が着脱可能に嵌着され、そのキャップ23の外面に前記ピン19が突設されている。
【0021】
図3及び
図6に示すように、前記供給管20の下部両側の外面には、供給口20aを外気流やゴミ等から保護するための一対の遮へい板24が、供給管20の外面に固着された複数のスペーサブロック25と、両側からの複数のボルト26とにより取り付けられている。そして、この遮へい板24の取り付けによって、供給管20の下部の供給口20a付近の供給空間に対し、外気流やゴミ等の侵入を防止している。
【0022】
次に、前記のように構成されたワイヤソーの加工液ノズルについて作用を説明する。
このワイヤソーにおいて、ワイヤ13によりワークWの切断加工が行われる際には、加工液が加工液供給部15から加工液ノズル14の導入管21を介して供給管20の上部室20A内に導入される。この場合、区画板22が邪魔板になり、加工液は上部室20A内の全体に行き渡る。そして、この加工液が上部室20A内から区画板22の各透孔22aをほぼ均等量ずつ通って供給管20の下部室20Bに流入される。このため、加工液が供給管20の下部の供給口20aからワイヤ13に向けて供給口20aの長さ方向においてほぼ均一な厚さのカーテン状をなすように、かつほぼ均一な落下速度で供給される。
【0023】
すなわち、供給管20内が区画板22により上部室20Aと下部室20Bとに区画されている。このため、供給管20内に導入される加工液が供給口20aに向かって一気に流れることなく、上部室20A内に一時的に貯留される。次いで、加工液は区画板22の各透孔22aを介して下部室20B内に流入されて、加工液供給管20の供給口20aからワイヤ13に対して、その配列方向の全域にわたって均一に供給される。また、供給口20aが角パイプよりなる供給管20の下角部に設けられているため、加工液が供給管20の下部室20B内において滞留することなく、供給管20の両側内面に沿って供給口20aに向かって円滑に導かれる。
【0024】
加工液ノズル14の清掃を行う場合には、
図3に示す状態から加工液供給部15の一次側口金16に対する加工液ノズル14の二次側口金17の接続を解き離すとともに、加工液ノズル14の端部のピン19をワイヤソーフレームの係止部18から外して、加工液ノズル14を加工液供給部15から取り外す。その後、
図7に示すように、供給管20の開口端部20bからキャップ23を取り外して、その開口端部20bから供給管20内の区画板22を引き出せば、供給管20の内部及び区画板22を容易に清掃することができる。
【0025】
そして、供給管20及び区画板22の清掃後には、供給管20の開口端部20bから供給管20の内部に区画板22を挿入した後、開口端部20bにキャップ23を嵌着する。この場合、供給管20が角パイプより構成されているため、区画板22を供給管20内に挿入した状態で、供給管20内の対向する横角部間に支持することができる。その後、
図2及び
図3に示すように、加工液ノズル14の二次側口金17を加工液供給部15の一次側口金16に接続すればよい。このようにすれば、加工液ノズル14が各加工用ローラ11の上方位置においてワイヤ13の配列方向に沿って延長配置させることができる。
【0026】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この加工液ノズルにおいては、供給管20内を上下に区画するように区画板22を設け、その区画板22には、自身の延長方向に沿って複数の透孔22aを配列している。このため、加工液供給部15から供給管20の上部室20Aに導入された加工液が、一旦上部室20A内に貯留された後に、区画板22の透孔22aを通して供給管20の下部室20Bに流入され、供給管20の下部の供給口20aからワイヤ13に向けて均一に供給される。そして、加工液ノズル14が供給管20内に板状の区画板22を設けて構成されているだけであるため、内側管と外側管との二重構造よりなる従来構成の加工液ノズルに比較して、構造を簡略化することができて、加工液ノズル14の加工の手間の低減を図ることができる。
【0027】
(2) この加工液ノズルにおいては、前記供給管20が角パイプによって構成されている。そして、供給管20の下角部に供給口20aが形成されるとともに、供給管20内の対向する横角部間に区画板22が設けられている。このため、供給管20内に区画板22のための特別の支持構造を設けることなく、横角部間に区画板22を保持することができる。また、供給口20aが角パイプよりなる供給管20の下角部に設けられているため、加工液を供給管20の両側内面に沿って供給口20aに円滑に導くことができる。
【0028】
(3) この加工液ノズルにおいては、前記区画板22が供給管20の開口端部20bから出し入れ可能に構成されている。このため、加工液ノズル14を加工液供給部15から取り外して清掃する際に、区画板22を供給管20内から抜き出して、供給管20の内部及び区画板22の清掃を容易に行うことができる。
【0029】
(4) この加工液ノズルにおいては、前記供給管20の下部両側の外面には、供給口20aを外気流やゴミ等から保護するための遮へい板24が設けられている。このため、供給口20aから供給される加工液の流れを安定させ、穴づまり等を防止することができて、高精度加工に寄与できる。
【0030】
(5) この加工液ノズルにおいては、区画板22がその幅方向の中央において屈曲されているため、区画板22は厚さが薄くても変形しにくく、高剛性を有する。
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0031】
・ 供給管20の下部の供給口20aをスリット状にかえて、複数の小孔により構成すること。
・ 区画板22をその中央部の屈曲部が谷になるように、前記実施形態とは上下反転した姿勢で使用すること。
【0032】
・ 前記区画板22を屈曲形状ではなく、断面湾曲形状に形成すること。
・ 前記区画板22を屈曲あるいは湾曲させることなく、フラット形状にすること。
・ 前記供給管20を四角形以外の多角形断面とすること。例えば、供給管20を五角形断面に形成して、ひとつの角部に形成した供給口を下にするとともに、対向する横角部間に区画板22を設けること。
【0033】
・ キャップ23と区画板22とを固定すること。このようにすれば、キャップ23を外すことによってそのキャップ23の取り外しとともに区画板22を供給管20内から抜き出すことができる。
【0034】
・ 複数の加工液ノズル14を平行に設置して、複数連構成とすること。
・
図7に2点鎖線で示すように、区画板22の透孔22aに代えて、区画板22の側縁に加工液を通すための複数の凹部42を所定間隔で形成すること。このようにすれば、各凹部42を同時に形成することができて、区画板22の加工効率が向上する。
【符号の説明】
【0035】
11…加工用ローラ、13…ワイヤ、14…加工液ノズル、15…加工液供給部、20…供給管、20A…上部室、20B…下部室、20a…供給口、20b…開口端部、22…区画板、22a…透孔、23…キャップ、24…遮へい板。