特許第5775476号(P5775476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5775476高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法及び吹き込みランス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775476
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法及び吹き込みランス
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20150820BHJP
   C21B 7/16 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C21B5/00 321
   C21B7/16 305
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-49672(P2012-49672)
(22)【出願日】2012年3月6日
(65)【公開番号】特開2013-185180(P2013-185180A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年2月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠竹 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】松崎 眞六
(72)【発明者】
【氏名】樋口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 公児
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−209807(JP,A)
【文献】 特開2009−235482(JP,A)
【文献】 特開2011−174171(JP,A)
【文献】 特開2011−168886(JP,A)
【文献】 米国特許第05403378(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00−7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉羽口から3重ランスを用いて還元性ガスを吹き込む方法であって、前記3重管ランスの先端が羽口とすりあわされて接続されており、
中心部管から還元性ガス、中間部管から窒素ガス、さらにその外側の外周部管から酸素富化した空気を吹き込むことを特徴とする高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法。
【請求項2】
前記3重ランスの外周部管に合流する微粉炭吹き込み単管から微粉炭を吹き込むことを特徴とする請求項1に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法。
【請求項3】
前記還元性ガスに対する前記窒素ガスの体積流量比率が1.25以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法。
【請求項4】
高炉羽口から還元性ガスを吹き込む3重ランスであって、前記3重管ランスの先端が羽口とすりあわされて接続されており、
中心部管から還元性ガス、中間部管から窒素ガス、さらにその外側の外周部管から酸素富化した空気を吹き込むことを特徴とする高炉羽口からの還元性ガス吹き込みランス。
【請求項5】
前記還元性ガス吹き込みランスの外周部管内に微粉炭吹き込み用ノズルを合流させることを特徴とする請求項4に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込みランス。
【請求項6】
前記還元性ガスに対する前記窒素ガスの体積流量比率が1.25以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込みランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法及び吹き込みランスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製鉄所の高炉においては、燃料として、主にコークスを使用してきたが、コークスの原料である高粘結炭の枯渇に対応し、微粉炭(以下、PCと記す。)の使用量を増加させてきた。高炉へのPC吹き込み方法は、高炉への熱風吹き込み管であるブローパイプにPC吹き込みパイプを挿入し、高炉羽口に吹き込み、羽口前レースウェイでPCを燃焼させる方法が一般的である。
【0003】
一方、近年、地球環境保護の観点から、二酸化炭素の排出低減の必要性が増大し、高炉における二酸化炭素の削減策が、検討されている。高炉で燃焼されるコークス及びPCは、主成分である炭素が燃焼し、羽口前レースウェイ内で一酸化炭素となり、高炉内を上昇する際に鉄鉱石を還元し、二酸化炭素となって炉頂より排出される。
ここで、炭素が主成分であるコークス及びPCに替わり、水素とメタンを大量に含むコークス炉ガス(以下、COGと記す。)、天然ガス(以下、LNGと記す。)、又は、COGを改質した水素ガス等を高炉に吹き込むことにより、高炉から排出される二酸化炭素の低減が期待できる。
【0004】
従来、製鉄所における冶金炉にPC及びLNG等を吹き込む技術としては、転炉の上吹き及び底吹きランスがある(特許文献1)。
転炉における上吹きランスは、多重ランスから酸素、PC及びLNG等を転炉内の溶湯表面に吹き付けるものであり、底吹きランスは、多重ランスから酸素、PC及びLNG等を転炉内の溶湯内に吹き込むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−213577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記転炉において吹き込まれた酸素、PC及びLNG等は、燃焼による発熱と同時に溶湯内の炭素を燃焼して銑鉄を鋼に精錬することを目的としている。
これに対し、本発明が課題とする高炉へのCOG、LNG、又は、水素ガスの吹き込みは、高炉への熱風吹き込み管であるブローパイプに還元性ガス吹き込みパイプを挿入し、狭い羽口、およびレースウェイを通してCOG、LNG、又は、水素ガス等を還元ガスとして炉内に吹き込むことを目的とする。従って、高炉へのCOG、LNG、又は、水素ガスの吹き込みは、前記転炉における酸素、PC及びLNG等の吹き込みとは、産業上の利用分野が相違し、解決すべき課題も相違する。
【0007】
COG、LNG、又は、水素ガス等の還元性ガスを高炉に吹き込む場合、高炉への熱風吹き込み管であるブローパイプに還元性ガス吹き込みパイプを挿入し、高炉羽口を通して炉内に吹き込む方法が考えられる。還元性ガスが送風空気中の酸素と接触するとガスは燃焼し、COやHOに酸化されて還元性を失う。炭化水素系のガスは羽口先からレースウェイ内ではCOとHまでの部分燃焼にとどめ、高炉炉内で酸化鉄を還元させる還元性を保つことが期待される。そこで、吹き込まれた還元性ガスと送風空気中の酸素との接触をできるだけ避けて、ガスはできるだけ燃焼させないで還元性を保ったままレースウェイを抜けて高炉炉内に入ることを可能にするランス構造が望ましい。
又、高炉羽口からPCと共にCHやHなどの還元性ガスを吹き込む場合、還元性ガス、送風空気中の酸素と接触すると、ガス−ガス反応となるため微粉炭に先行して燃焼してしまい、ガスはCOやHOに酸化されて還元性を失う。一方、微粉炭はガスの方に酸素を取られて燃焼不足となり未燃チャーが残るなどの現象が起こる。そこで、吹き込まれた還元性ガスと送風中の酸素との接触をできるだけ避けて、送風中の酸素は、微粉炭との燃焼に優先させ、還元性ガスは、燃焼することなく還元性を保ったままレースウェイを抜けて高炉炉内に入ることが可能なランス構造が望ましい。
本発明の目的は、還元性ガスの還元性を保ったまま高炉炉内に入ることを可能にする高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法及び吹き込みランスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ランスの中心部から還元性ガスを吹き込み、その外側から窒素を吹き込むことにより、還元性ガスの先行燃焼を抑制し、還元性を保ったまま高炉内に還元性ガスを吹き込むことができることを見出した。本発明は、この知見に基づいて上記の課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは、以下のとおりである。
【0009】
(1)高炉羽口から3重ランスを用いて還元性ガスを吹き込む方法であって、前記3重管ランスの先端が羽口とすりあわされて接続されており、
中心部管から還元性ガス、中間部管から窒素ガス、さらにその外側の外周部管から酸素富化した空気を吹き込むことを特徴とする高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法。
(2)前記3重ランスの外周部管に合流する微粉炭吹き込み単管から微粉炭を吹き込むことを特徴とする(1)に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法。
(3)前記還元性ガスに対する前記窒素ガスの体積流量比率が1.25以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法。
(4)高炉羽口から還元性ガスを吹き込む3重ランスであって、前記3重管ランスの先端が羽口とすりあわされて接続されており、
中心部管から還元性ガス、中間部管から窒素ガス、さらにその外側の外周部管から酸素富化した空気を吹き込むことを特徴とする高炉羽口からの還元性ガス吹き込みランス。
(5)前記還元性ガス吹き込み用ランスの外周部管内に微粉炭吹き込みノズルを合流させることを特徴とする(4)に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込みランス。
(6)前記還元性ガスに対する前記窒素ガスの体積流量比率が1.25以上であることを特徴とする(4)又は(5)に記載の高炉羽口からの還元性ガス吹き込みランス。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、還元性ガスの還元性を保ったまま高炉炉内に入ることを可能にする高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法及び吹き込みランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】還元性ガス吹き込みの3重ランスを示す図。
図2】微粉炭及び還元性ガス吹き込みの3重ランスを示す図。
図3】レースウェイ模擬燃焼実験装置を示す図。
図4】レースウェイ模擬燃焼実験装置の温度計の配置を示す図。(A)は側面図、(B)は平面図を示す。
図5】還元性ガス吹き込み時のレースウェイ温度を示す図。
図6】微粉炭及び還元性ガス吹き込み時のレースウェイ温度を示す図。
図7】微粉炭及び還元性ガス吹き込み時の未燃チャーの炉芯内残留量を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第一の実施形態]
高炉羽口から3重ランスを用いて還元性ガスを吹き込む実施形態である。中心部から還元性ガス、中間部から窒素、さらにその外側(外周部)から酸素富化した空気を吹き込む。還元性ガスとしては、COG、LNG、水素ガス又はメタンガス等がある。
図1に還元性ガス吹き込みの3重ランスの一例を示す。還元性ガスは、中心部管1から吹き込まれ、窒素は、中間部管2から吹き込まれ、酸素富化した送風は、外周部管3から高炉内に吹き込まれる。中心部管1から吹き込まれた還元性ガスと、酸素富化した送風は、中間部管2から吹き込まれた窒素により遮断されているため、還元性ガスが早期に燃焼することは無い。そこで、還元性ガスは還元性を保ったままレースウェイを抜けて高炉炉内に入ることが可能となる。
[第二の実施形態]
高炉羽口から3重ランスを用いて還元性ガスとPCを吹き込む実施形態である。中心部から還元性ガス、その中間部から窒素、さらにその外側(外周部)から酸素富化した空気を吹き込み、PCは、別の単管から吹き込む。PCの吹き込み量が多い場合は、PC吹き込み単管は、複数本になる。
図2にPC及び還元性ガス吹き込みの3重ランスの一例を示す。還元性ガスは、中心部管1から吹き込まれ、窒素は、中間部管2から吹き込まれ、酸素富化した送風は、外周部管3から高炉内に吹き込まれ、PCは、PC吹き込み単管4から吹き込まれる。中心部管1から吹き込まれた還元性ガスと、酸素富化した送風は、中間部管2から吹き込まれた窒素により遮断されているため、還元性ガスが早期に燃焼することは無い。還元性ガスは還元性を保ったままレースウェイを抜けて高炉炉内に入ることが可能となる。そして、PCの燃焼は、酸素濃度が高い雰囲気で行われ、その結果、微粉炭のCが燃え残って炉芯に蓄積する量が減少する。
【実施例】
【0013】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これに限られるものではない。
【0014】
図3にレースウェイ模擬燃焼実験装置を示す。炉は、下部炉5と中部炉6からなり、試験終了後の下部炉5の炉内容物のサンプリングの便宜のため、中部炉6は、取り外し可能である。コークスは、中部炉6の上部より装入される。コークスと、下部炉の羽口7から吹き込まれたCOG、LNG、又は、水素ガス等の還元性ガスは、羽口前レースウェイ8で燃焼する。燃焼試験中は、羽口前レースウェイ8の温度を測定し、試験終了後は、レースウェイの解体調査を行い、微粉炭の未燃チャーを調べる。
図4にレースウェイ模擬燃焼実験装置の温度計の配置を示す。(A)は側面図、(B)は平面図を示す。温度計9は、上下2段の合計10箇所を測定する。
(実施例1)
メタン及び水素から成る還元性ガスを羽口から吹き込む実験を行った。吹き込みの条件を表1に示す。比較例1(A)は、送風のみで、還元性ガス吹き込みが無い場合である。比較例2(B)は、送風ブローパイプの中にあるガス吹き込み単管から還元性ガスを吹き込む場合である。実施例1(C)は、本願請求項1に係る発明の3重管により、還元性ガスを吹き込む場合である。
実施例1(C)では、図2に示す還元性ガス吹き込みの3重ランスを用いた。中心部管1から還元性ガス、中間部管2から窒素、外周部管3から酸素富化した空気を吹き込んだ。
【0015】
【表1】
【0016】
図5に羽口前レースウェイの温度を示す。
まず、比較例1(A)について述べる。比較例1(A)で、酸素富化した送風によりコークスだけを燃焼させる場合は、次の反応が起きる。
C+O→CO (1)
CO+C→2CO (2)
コークスは、(1)式の発熱反応により燃焼し、燃焼による発熱でレースウェイ内のガス温度が上昇する。Oがほとんどなくなると(2)式の吸熱反応が起こって温度が低下するが、この反応は、比較的緩やかに起こる。その結果、図5のAに示すレースウェイ内の温度が測定された。
【0017】
次に、比較例2(B)について述べる。比較例2(B)の、還元性ガス(CH,H)をガス吹き込み単管により羽口先端位置に吹き込んだ場合、前記(1)式、(2)式の他に、次の反応が起きる。
CH+2O→CO+2HO (4)
+1/2O→HO (5)
O+C→H+CO (3)
CH+CO→ CO+2H(6)
吹き込まれたCH、Hガスは、コークスの燃焼に先行して、(4)式、(5)式の反応により燃焼発熱し、その後、(1)式によるコークスの燃焼も加速して高温になる。レースウェイ内の最高温部は、早期に燃焼する還元性ガスにより、比較例1(A)の場合よりも羽口側に移動する。最高温部より先のレースウェイ奥側では、(2)式、(3)式の吸熱反応が開始する。(2)式、(3)式の反応で生成した還元性ガス(CO,H)およびレースウェイで昇温されたNガスは、(2)式、(3)式が吸熱反応であること、燃焼生成ガスから周囲のコークスに伝熱すること及び炉壁からの熱損失によりガス温度は低下していく。その結果、図5のBに示すレースウェイ内の温度が測定された。
【0018】
次に、実施例1(C)について述べる。本発明の3重管(図2参照)を使って還元性ガスを吹き込み、送風した。3重管の中間部管2から窒素ガスを10NM/HR吹いているため、送風中のNが10NM/HR少なくなるように送風量を調整し、送風中のO量がA,Bと同じになるように酸素富化率を調整した。また、3重管ランスの中央管から吹き込んでいる窒素ガスは常温のため、送風顕熱を維持するように送風温度を高めた。
中心部管1から吹き込まれた還元性ガス(CH,H)は、中間部管2から吹き込まれた窒素ガスにより、外周部管3から吹き込まれた酸素富化空気(熱風)との接触が妨げられ燃焼が遅れる。その結果、コークスと酸素富化空気(熱風)の燃焼が先行し、比較例1(A)に近い温度分布となる。一部の吹き込みガスが酸素富化空気と反応するのでわずかに比較例1(A)から比較例2(B)のパターンに近づくが、比較例2(B)に比べると最高温部はかなり奥側に戻り、レースウェイ奥での温度降下も緩和されている。したがって、吹き込まれたHは多くが(5)式から(3)式の反応経路を経ることなく未反応のHのまま昇温し、CHは(4)式から(2)式、(3)式の経路を経ることなくレースウェイ奥側で(6)式の反応により還元性ガスになっていると考えられる。
このためガスからのヒートロスが少なくなり、ボッシュガス((2)式(6)式の反応で生成した還元性ガス(CO,H)および吹き込まれたHガスおよびレースウェイで昇温されたN)の顕熱が多く確保できる。以上のことより、図5のCに示すレースウェイ内の温度が測定された。
【0019】
(実施例2)
メタン及び水素から成る還元性ガスとPCを羽口から吹き込む実験を行った。吹き込みの条件を表2に示す。比較例3(D)は、PCのみの吹き込みであり、還元性ガス吹き込みが無い場合である。比較例4(E)は、送風ブローパイプの中にある2重管の内管からPCを、外管から還元性ガスを吹き込む場合である。実施例2(F)は、本願請求項2に係る発明の3重管により、還元性ガスを吹き込む場合である。図2に示すPC及び還元性ガス吹き込みの3重ランスを用いた。中心部管1から還元性ガス、中間部管2から窒素、さらに外周部管3から酸素富化した空気を吹き込み、PCは、別のPC吹き込み単管から吹き込む。中心部管1から吹き込まれた還元性ガスは、外周部管3から吹き込まれた酸素富化した送風と、中間部管2から吹き込まれた窒素により遮断されているため、還元性ガスが早期に燃焼することは無い。従って、PCの燃焼は、還元性ガスにより送風中の酸素がとられることが無いため、還元性ガスに先行して行われると考えられる。
【0020】
【表2】
【0021】
図6に微粉炭及び還元性ガス吹き込み時のレースウェイ温度を示す。
【0022】
まず、比較例3(D)について述べる。比較例3(D)の微粉炭のみ吹き込んだ場合は、次の反応が起きる。
PC+XO→YCO+ZHO (7)
CO+C→2CO (8)
O+C→H+CO (9)
まずPCは、(7)式の反応で燃焼し、発熱によりガス温度が上昇する。Oがほとんどなくなると(8)式(9)式の吸熱反応が起こって温度が低下するが、この反応は、比較的緩やかに起こる。その結果、図6のDに示すレースウェイ内の温度が測定された。
【0023】
次に、比較例4(E)について述べる。PCおよび還元性ガス(CH,H)を、2重管ランスで吹き込んだ場合、下記式の反応が起こる。
CH+2O→CO+2HO (10)
+(1/2)O→HO (11)
吹き込まれた還元性ガス(CH、H)は、(10)式、(11)式の発熱反応で先行的に燃焼発熱し、(7)式によるPCの燃焼も加速して高温になる。レースウェイ内の最高温部は、比較例3(D)の場合よりも羽口側に移動する。最高温部より先のレースウェイ奥側では、(8)式、(9)式の吸熱反応が開始する。(8)式、(9)式の反応で生成した還元性ガス(CO,H)およびレースウェイで昇温されたNガスは、(8)式、(9)式が吸熱反応であること、燃焼生成ガスから周囲のコークスに伝熱すること及び炉壁からの熱損失によりガス温度は低下していく。羽口からの距離が遠いレースウェイ奥側では比較例3(D)より温度が下がってしまう。その結果、図6のEに示すレースウェイ内の温度が測定された。
また、実験終了後に装置を解体してレースウェイ奥(炉芯)のコークス部位に残っていた未燃チャーを採取した。図7に微粉炭及び還元性ガス吹き込み時の未燃チャーの炉芯内残留量を示す。
比較例4(E)では、比較例3(D)に比べて多量の未燃チャーが残存していた。これは(10)式、(11)式の反応で酸素がガスの燃焼に先に消費されため、PCを燃やすための酸素が不足し、続いて起こる(8)式、(9)式の反応では、PC中のCより高温のコークスのCが先行して使われるため、PCのCが燃え残って炉芯に蓄積したものと推定される。
【0024】
次に、実施例2(F)について述べる。3重管ランスの中心部管1から窒素ガスを10NM/HR吹いているため、送風中のNが10NM/HR少なくなるように送風量を調整し、送風中のO量が比較例3(D)、比較例4(E)と同じになるように酸素富化率を調整した。また、3重管ランスの中心部管1から吹き込んでいる窒素ガスは常温のため、送風顕熱を維持するように送風温度を高めた。PC吹き込み単管4は、図2に示すように2本を使用して3重管の外周部管3を通して吹き込んだ。この吹き込みを行った結果、図6のFに示すレースウェイ内の温度が測定された。還元性ガス(CH,H)と酸素富化空気(熱風)は、間にある不活性な窒素により接触が妨げられて、PCは、外周部管3の酸素富化空気(熱風)と還元性ガスに先行して反応し、比較例3(D)に近い温度分布と成った。一部のガスが酸素富化空気と反応するのでわずかに比較例3(D)から比較例4(E)のパターンに近づくが、比較例4(E)に比べると最高温部はかなり奥側に戻り、レースウェイ奥での温度降下も緩和されている。
実験終了後に装置を解体してレースウェイ奥(炉芯)のコークス部位に残っていた未燃チャーを採取した。図7に示す実施例2(F)のFに示す未燃チャーは、比較例4(E)のEに比べて少なく、ほぼ比較例3(D)のDに近い量であった。微粉炭の燃焼が還元性ガスに酸素を取られて妨げられることなく、燃焼できたことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0025】
還元性ガスの還元性を保ったまま高炉炉内に入ることを可能にする高炉羽口からの還元性ガス吹き込み方法及び吹き込みランスを提供することができる。
【符号の説明】
【0026】
1…中心部管、2…中間部管、3…外周部管、4…PC吹き込み単管、5…下部炉、6…中部炉、7…羽口、8…レースウェイ、9…温度計。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7