(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
内燃機関等に使用される点火プラグは、例えば、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、軸孔の先端側に挿設された中心電極と、絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、主体金具の先端部に固定された接地電極とを備えている。
【0003】
また、点火プラグとしては、接地電極の先端部と中心電極の先端部との間に間隙が形成されており、当該間隙に電圧を印加することで、気中にて放電を生じさせるタイプ(いわゆる平行電極タイプや斜め放電タイプ)や、接地電極の先端面が中心電極の先端側外周面に対向するように配置され、放電経路の一部が絶縁体の表面を這う経路となるタイプ(いわゆる沿面放電タイプ)が知られている。また近年では、中心電極の先端が絶縁体の先端よりも後端側に位置し、両電極間で放電を生じさせた上で両電極間に電力を投入することにより、プラズマを生成するプラズマジェット点火プラグが提案されている。
【0004】
ところで、一般に絶縁体は、良好な耐熱性や耐電圧特性、機械的強度を得るべく、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする絶縁材料を焼成することで得られたアルミナ基焼結体により形成されている。さらに、絶縁体を形成するにあたっては、焼成温度の低減や、焼結性の向上(絶縁体の緻密化)を図るべく、例えば、酸化ケイ素(SiO
2)や酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)が焼結助剤として用いられる。
【0005】
加えて、高温下においても良好な耐電圧特性を確保すべく、絶縁体に希土類元素〔例えば、スカンジウム(Sc)やY(イットリウム)、ランタン(La)等〕を含有する技術が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。当該技術によれば、アルミナ粒子における粒界相の高融点化を図ることができ、絶縁体が高温となった際における粒界相の軟化を抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した沿面放電タイプの点火プラグにおいては、絶縁体の表面を這うようにして放電が発生し、また、プラズマジェット点火プラグにおいても、多くの場合、絶縁体の表面(内周面)を這うようにして放電が生じる。さらに、上述した平行電極タイプや斜め放電タイプの点火プラグにおいては、絶縁体の表面にカーボン等の導電性物質が付着した場合や燃焼室内の圧力が高い場合などに、中心電極と主体金具との間において絶縁体の表面を這う放電が生じることがある。
【0008】
絶縁体の表面を這う放電が生じると、放電に伴い発生するエネルギー(熱)により、放電経路上に位置する絶縁体の表面が削れてしまい、最終的には、絶縁体に筋状の溝が形成されてしまう(いわゆるチャンネリングが発生してしまう)おそれがある。チャンネリングが生じてしまうと、絶縁体の一部が局所的に薄肉となるため、耐電圧特性や機械的強度の低下を招いてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みなされたものであり、その目的は、良好な耐電圧特性を確保しつつ、チャンネリングの発生を効果的に抑制し、耐電圧特性や機械的強度の低下をより確実に防止することができる点火プラグ用絶縁体及び点火プラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0011】
構成1.本構成の点火プラグ用絶縁体は、アルミナを主成分とし、ケイ素を含有する点火プラグ用絶縁体であって、
アルミナ粒子間に位置する粒界相は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及び、バリウムからなる2A族元素群から選択される少なくとも一種の元素と、ランタン、ネオジム、プラセオジム、イットリウム、イッテルビウム、及び、セリウムからなる希土類元素群から選択される少なくとも一種の元素と、ジルコニウム、チタン、クロム、ニオブ、マンガン、及び、鉄からなる第1の元素群から選択される少なくとも一種の元素とを含み、
任意の断面における180μm×250μmの視野において、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により、酸化物換算にて元素定量を行ったとき、
前記希土類元素群から選択された元素の総量をX(質量%)とし、前記2A族元素群から選択された元素の総量をY(質量%)とし、前記第1の元素群から選択された元素の総量をZ(質量%)としたとき、
0.40≦Y/X≦2.00
0.10≦Z/X≦0.40
を満たすことを特徴とする。
【0012】
上記構成1によれば、絶縁体を焼成する際に、2A族元素群から選択される元素とアルミナとの共晶反応により、低融点の液相を形成することができる。従って、絶縁体の緻密化を図ることができ、耐電圧特性の向上を図ることができる。
【0013】
一方で、2A族元素群から選択された元素は、粒界相において低融点ガラス相として存在する。そのため、高温下(例えば、700℃以上)において、低融点ガラス相が軟化して耐電圧特性が低下してしまうおそれがある。
【0014】
この点、上記構成1によれば、粒界相には、希土類元素群から選択される元素が含有されている。従って、粒界相に、Si成分と希土類元素群から選択された元素とからなる高融点ガラス相(結晶)を形成することができる。これにより、高温下における粒界相の軟化を抑制することができ、良好な耐電圧特性をより確実に維持することができる。
【0015】
尚、希土類元素群から選択された元素の総量をX(質量%)とし、2A族元素群から選択された元素の総量をY(質量%)としたときにおいて、0.40>Y/Xとした場合には、低融点の液相を十分に形成することができないおそれがある。そして、このような場合には、絶縁体の緻密性を十分に向上させることができず、耐電圧特性が不十分となってしまうおそれがある。また、Y/X>2.00とした場合には、粒界相の高融点化が不十分となってしまい、高温下において耐電圧特性の低下を招いてしまうおそれがある。これらの点を考慮して、上記構成1では、0.40≦Y/X≦2.00を満たすように構成されている。
【0016】
さらに、絶縁体の表面を這う放電は、主として粒界相の表面を這うようにして生じるが、上記構成1によれば、粒界相には、第1の元素群から選択された元素(すなわち、導電性を有する元素)が含有されており、粒界相が導電性を有するものとされている。これにより、粒界相の絶縁抵抗を低くすることができ、絶縁体の表面を這う放電が生じた際において、放電に伴い発生するエネルギー(熱)を小さくすることができる。従って、放電経路上に位置する絶縁体が削れにくくなり、チャンネリングの発生をより確実に抑制することができる。その結果、耐電圧性能や機械的強度の低下をより確実に防止することができる。
【0017】
尚、粒界相における絶縁抵抗が過度に低いと、耐電圧特性が不十分となってしまうおそれがある。また、第1の元素群から選択された元素の総量をZ(質量%)としたときにおいて、前記総量Zが大きいほど粒界相における絶縁抵抗が低下し、一方で、前記総量Yが大きいほど粒界相に高融点ガラス相(結晶)が多く形成され、粒界相における絶縁抵抗が増大する。これらの点を踏まえて、上記構成1によれば、0.10≦Z/X≦0.40を満たすように構成されている。従って、粒界相に導電性を付与しつつ、粒界相の絶縁抵抗が過度に低下してしまうことをより確実に防止できる。その結果、チャンネリングの発生抑制を効果的に図りつつ、良好な耐電圧特性をより確実に維持することができる。すなわち、上記構成1によれば、耐チャンネリング性の向上を図るために、耐電圧特性の面では不利に働く導電性の元素をあえて含有させつつ、Z/Xを上記数値範囲内とすることで、良好な耐電圧特性を維持可能となっている。
【0018】
構成2.本構成の点火プラグ用絶縁体は、上記構成1において、前記視野において、前記アルミナ粒子が占める面積に対する、前記粒界相が占める面積の割合が0.020以上0.060以下であることを特徴とする。
【0019】
アルミナ粒子が占める面積に対する、粒界相の占める面積の割合(面積比)が過度に大きいと、絶縁体を這う放電が生じた際には、アルミナ成分と粒界相を構成する成分とが反応しやすくなってしまい、絶縁体の脆化が生じてしまうことがある。このように絶縁体が脆化してしまうと、放電に伴い発生するエネルギーがさほど大きくなくても、絶縁体の削れ量が比較的大きくなり、チャンネリングが生じやすくなってしまうおそれがある。
【0020】
この点、上記構成2によれば、前記面積比が0.060以下とされているため、放電時における、アルミナ成分と粒界相を構成する成分との反応を抑制することができる。従って、絶縁体の脆化を効果的に防止することができ、チャンネリングの抑制効果を一層高めることができる。
【0021】
また、上記構成2によれば、前記面積比が0.020以上とされており、粒界相が十分に形成されるように構成されている。従って、絶縁体の緻密性をより高めることができ、耐電圧特性を一層向上させることができる。
【0022】
構成3.本構成の点火プラグ用絶縁体は、上記構成1又は2において、前記第1の元素群から選択された元素が二種以上存在することを特徴とする。
【0023】
絶縁体の表面を這った放電が生じる際において、導電性元素が含まれる粒界相は導電経路として機能する。ここで、第1の元素群から選択された元素(導電性元素)が一種のみの場合には、粒界相において導電経路が局所的に形成されてしまうことがある。導電経路が局所的に形成されてしまうと、放電に伴う発生するエネルギー(熱)が大きくなってしまい、チャンネリングがより生じやすくなってしまうおそれがある。
【0024】
この点、上記構成3によれば、第1の元素群から選択される元素が二種以上存在するため、粒界相において導電経路をより分散した状態で形成することができる。従って、放電時に生じるエネルギー(熱)を一層効果的に低減させることができ、耐チャンネリング性の更なる向上を図ることができる。
【0025】
構成4.本構成の点火プラグ用絶縁体は、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記視野において、前記アルミナ粒子の平均粒径が2.0μm以上4.5μm以下であることを特徴とする。
【0026】
放電の始点から放電の終点までの間には多数の導電経路が存在するが、アルミナ粒子の平均粒径が比較的大きい場合には、導電経路の長さにバラツキが生じてしまいやすい。より詳しくは、1の絶縁体は導電経路の長さがほぼ均等であるのに対して、その他の1の絶縁体は一部の導電経路が比較的長くなってしまうといった事態が生じてしまいやすい。一部の導電経路が長い絶縁体は、放電に伴い発生するエネルギーが大きなものとなりやすいため、チャンネリングが生じてしまいやすい。すなわち、アルミナ粒子の平均粒径が比較的大きい場合には、複数の絶縁体において、耐電圧特性にバラツキが生じてしまうおそれがある。
【0027】
この点、上記構成4によれば、アルミナ粒子の平均粒径が4.5μm以下とされている。従って、複数の絶縁体において、導電経路の長さをより確実にほぼ均等なものとすることができる。その結果、複数の絶縁体において耐電圧特性にバラツキが生じてしまうことを効果的に抑制でき、良好な耐電圧特性を安定的に発揮させることができる。
【0028】
尚、絶縁体の製造工程は、通常、アルミナ粒子等を含む原料粉末を成形し、成形体を得た上で、所定の砥石により、前記成形体の外周形状を整える整形工程を含む。アルミナ粒子の平均粒径が過度に小さいと、前記整形工程において、前記砥石の研磨面にアルミナ粒子が入り込みやすくなってしまう(砥石の目詰まりが生じてやすくなってしまう)。そのため、整形工程に支障が生じてしまい、生産性の低下を招いてしまうおそれがある。
【0029】
この点、上記構成4によれば、アルミナ粒子の平均粒径が2.0μm以上とされているため、製造時における砥石の目詰まりを効果的に防止することができる。その結果、生産性の低下をより確実に防止することができる。
【0030】
構成5.本構成の点火プラグは、上記構成1乃至4のいずれかに記載の点火プラグ用絶縁体を有することを特徴とする。
【0031】
上記構成5によれば、上記構成1等と同様の作用効果が奏されることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、
図1では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0034】
点火プラグ1は、筒状をなす点火プラグ用絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0035】
絶縁碍子2は、アルミナを主成分とし、ケイ素(Si)を含有する絶縁性セラミックによって形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0036】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿通されている。中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部が絶縁碍子2の先端から突出している。
【0037】
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0038】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0039】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面には点火プラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15よりも後端側には座部16が外周側に向けて突出形成されており、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19と、径方向内側に向けて屈曲する加締め部20とが設けられている。尚、本実施形態では、点火プラグ1の小型化(小径化)を図るべく、主体金具3が小径化されており、ねじ部15のねじ径が比較的小さなもの(例えば、M12以下)とされている。また、主体金具3の小径化に伴い、絶縁碍子2の肉厚は比較的小さなものとなっている。
【0040】
さらに、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0041】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間には滑石(タルク)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及び滑石25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0042】
また、主体金具3の先端部26には、自身の中間部分にて曲げ返されて、自身の先端側側面が中心電極5の先端部と対向する棒状の接地電極27が接合されている。そして、中心電極5の先端部と接地電極27の先端部との間には火花放電間隙28が形成されており、当該火花放電間隙28において軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0043】
さらに、本実施形態において、絶縁碍子2は、所定の電子線マイクロアナライザにより、酸化物換算にて元素定量を行った際に、アルミナを所定値(例えば、94質量%99質量%以下)含有するとともに、Siを所定値(例えば、0.5質量%以上3.5質量%以下)含有している。また、絶縁碍子2は、
図2及び
図3に示すように、アルミナ粒子31と、当該アルミナ粒子31間に位置する粒界相32とを備えている。
【0044】
アルミナ粒子31は、主としてアルミナにより形成されており、優れた絶縁性を有している。
【0045】
粒界相32は、アルミナ粒子31間を埋めるようにして存在している。また、粒界相32は、2A族元素群から選択される少なくとも一種の元素と、希土類元素群から選択される少なくとも一種の元素と、第1の元素群から選択される少なくとも一種の元素とを含んでいる。尚、2A族元素群は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)と、バリウム(Ba)とからなる群である。また、希土類元素群は、ランタン(La)と、ネオジム(Nd)と、プラセオジム(Pr)と、イットリウム(Y)と、イッテルビウム(Yb)と、セリウム(Ce)とからなる群である。さらに、第1の元素群は、ジルコニウム(Zr)と、チタン(Ti)と、クロム(Cr)と、ニオブ(Nb)と、マンガン(Mn)と、鉄(Fe)とからなる群である。
【0046】
さらに、絶縁碍子2(本実施形態では、脚長部13)の任意の断面における180μm×250μmの視野において、前記EPMAにより、酸化物換算にて元素定量を行う。このときにおいて、前記希土類元素群から選択された元素の総量をX(質量%)とし、前記2A族元素群から選択された元素の総量をY(質量%)とし、前記第1の元素群から選択された元素の総量をZ(質量%)としたとき、0.4≦Y/X≦2.0、及び、0.1≦Z/X≦0.4を満たすように構成されている。尚、本実施形態において、元素定量は、絶縁碍子2の断面を鏡面研磨した上で行われる。また、絶縁碍子2における耐電圧特性や耐チャンネリング性の向上をより確実に図るという観点から、総量Xは、0.3質量%以上2.5質量%以下とすることが好ましく、総量Yは、0.05質量%以上0.8質量%以下とすることが好ましく、総量Zは、0.05質量%以上1.0質量%以下とすることが好ましい。さらに、耐電圧特性や耐チャンネリング性のより一層確実な向上という観点から、総量Xは、0.5質量%以上1.5質量%以下とすることがより好ましく、総量Yは、0.1質量%以上0.8質量%以下とすることがより好ましく、総量Zは、0.1質量%以上0.3質量%以下とすることがより好ましい。
【0047】
加えて、前記断面における180μm×250μmの視野において、アルミナ粒子31が占める面積に対する、粒界相32が占める面積の割合(面積比)が0.02以上0.06以下とされている。尚、前記面積比は、次のようにして得ることができる。すなわち、絶縁碍子2の切断面に対して鏡面研磨を施し、この研磨面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察(例えば、加速電圧20kV、スポットサイズ50、COMPO像、組成像)して研磨面全体が写された画像を取得する。そして、所定の画像解析ソフト(例えば、Soft Imaging System GmbH社製のAnalysis Five等)により、得られた画像を解析することで、アルミナ粒子31の占める面積、及び、粒界相32の占める面積を測定する。その上で、粒界相32の占める面積を、アルミナ粒子31の占める面積で除算することにより、前記面積比を得ることができる。尚、前記面積比は、絶縁碍子2における各成分の含有量を変更することで調節することができる。
【0048】
また、絶縁碍子2には、前記第1の元素群から選択された元素が二種以上存在するように構成されている。尚、本実施形態では、第1の元素群から選択された元素の総量Zが0.50質量%以下とされている。
【0049】
さらに、前記視野において、アルミナ粒子31の平均粒径が2.0μm以上4.5μm以下とされている。尚、アルミナ粒子31の平均粒径は、次の手法により得ることができる。すなわち、絶縁碍子2の断面を、絶縁碍子2の焼結温度よりも100℃低い温度にて10分に亘ってサーマルエッチング処理した上で、前記断面をSEMで観察し、各アルミナ粒子31の粒径をインターセプト法により求める。そして、求められた各アルミナ粒子31の粒径の平均値を算出することで、アルミナ粒子31の平均粒径を得ることができる。
【0050】
尚、絶縁碍子2は、筒状のゴム型を有するラバープレス成型機(図示せず)を用いて作製される。より詳しくは、アルミナ粉末を主成分とする原料粉末を前記ゴム型内に充填するとともに、ゴム型から原料粉末に対して径方向に沿った力を加え、原料粉末を圧縮・成形することで、成形体を得る。そして、所定の砥石により前記成形体の外周を整形するとともに、整形されたものを焼成することで、絶縁碍子2を得ることができる。尚、アルミナ粒子31の平均粒径は、原料粉末に含まれるアルミナ粉末の粒径や、前記焼成加工時における成形体の加熱温度を変更することで調節することができる。
【0051】
以上詳述したように、本実施形態によれば、0.40≦Y/X≦2.00を満たすように構成されている。従って、絶縁碍子2を得る際に、2A族元素群から選択される元素とアルミナとの共晶反応により、低融点の液相を十分に形成することができるとともに、Si成分と希土類元素群から選択された元素とからなる高融点ガラス相(結晶)を十分に形成することができる。従って、絶縁碍子2の緻密化を図ることができるとともに、粒界相32の高融点化を図ることができる。その結果、高温下においても良好な耐電圧特性を維持することができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、0.10≦Z/X≦0.40を満たすように構成されている。従って、粒界相32に導電性を付与しつつ、粒界相32の絶縁抵抗が過度に低下してしまうことをより確実に防止できる。その結果、チャンネリングの発生を効果的に抑制しつつ、良好な耐電圧特性をより確実に維持することができる。
【0053】
特に本実施形態のように、ねじ部15のねじ径が比較的小さく(例えば、M12以下であり)、絶縁碍子2の肉厚が小さい場合には、チャンネリングの発生による耐電圧特性の低下が特に懸念されるが、上記実施形態によれば、チャンネリングの発生を効果的に抑制でき、耐電圧特性の低下をより確実に抑制することができる。換言すれば、上述の構成は、ねじ部15のねじ径が比較的小さく(つまり、絶縁碍子2の肉厚が小さく)、チャンネリングの発生による耐電圧特性の低下が特に懸念される場合において特に有効である。
【0054】
加えて、アルミナ粒子31が占める面積に対する、粒界相32の占める面積の割合(面積比)が0.060以下とされているため、放電時における、アルミナ成分と粒界相32を構成する成分との反応を抑制することができる。その結果、絶縁碍子2の脆化を効果的に防止することができ、チャンネリングの抑制効果を一層高めることができる。また、前記面積比が0.020以上とされているため、絶縁碍子2の緻密性をより高めることができる。これにより、耐電圧特性を一層向上させることができる。
【0055】
また、絶縁碍子2には、第1の元素群から選択される元素が二種以上存在するため、粒界相32において導電経路をより分散した状態で形成することができる。従って、放電時に生じるエネルギー(熱)を一層効果的に低減させることができ、耐チャンネリング性の更なる向上を図ることができる。
【0056】
さらに、アルミナ粒子31の平均粒径が4.5μm以下とされているため、複数の絶縁碍子2において、導電経路の長さをより確実にほぼ均等なものとすることができる。その結果、耐電圧特性にバラツキが生じてしまうことを効果的に抑制でき、良好な耐電圧特性を安定的に発揮させることができる。
【0057】
また、アルミナ粒子31の平均粒径が2.0μm以上とされているため、製造時における砥石の目詰まりを効果的に防止することができる。その結果、生産性の低下をより確実に防止することができる。
【0058】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、希土類元素群から選択された元素の総量X(質量%)、2A族元素群から選択された元素の総量Y(質量%)、第1の元素群から選択された元素の総量Z(質量%)、アルミナ粒子の占める面積に対する粒界相の占める面積の割合(面積比)、及び、アルミナ粒子の平均粒径を種々変更した複数の試験片(サンプル)を作製し、各試験片について、耐電圧特性評価試験、及び、耐チャンネリング性評価試験を行った。尚、総量X,Y,Zは、試験片の任意の断面における180μm×250μmの視野において、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により酸化物換算にて元素定量を行うことで特定した。
【0059】
耐電圧特性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、
図4に示すように、加熱用ボックス101内において、試験片100を棒状の電極102,103の端部同士で挟み込むとともに、アルミナ製碍筒104,105及び封着ガラス106で固定した。次いで、電熱ヒータ107,108により加熱ボックス101内を700℃又は800℃に加熱した上で、所定の高電圧発生装置109により両電極102,103間に高電圧を印加し、電極102,103間において試験片100を貫通する放電が生じた際の電圧を測定した。そして、測定された電圧を試験片100の厚さ(試験片の厚さは0.65mm)で除算することにより、厚さ1mm当たりの耐電圧(kV/mm)を求めるとともに、総量X等を同一とした試験片100における耐電圧の平均値(Ave)と標準偏差(σ)とを算出した。また、加熱温度を700℃とした際における耐電圧の平均値から加熱温度を800℃とした際における耐電圧の平均値を減算した値を、加熱温度を700℃とした際における耐電圧の平均値で除算することにより、耐電圧の低下率(耐電圧低下率)を算出した。尚、耐電圧低下率が小さいほど、より高温下に配置された際でも耐電圧特性が低下しにくく、高温下において良好な耐電圧特性をより確実に維持可能であるといえる。
【0060】
また、耐チャンネリング性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、
図5(a),に示すように、10mm×10mm×3mmの試験片110を、棒状(針状)の電極111,112の端部同士で挟み込んだ(電極111,112は試験片110に接触する)。この状態で、両電極111,112間に10kV又は20kVの電圧を印加することにより、両電極111,112間で試験片110の表面を這った放電(
図5中、太線にて示す)を生じさせることを20時間に亘った繰り返し行った〔尚、放電を繰り返し生じさせることによって、
図5(b)に示すように、試験片110のうち放電経路上に位置する部位は削られることとなる〕。そして、20時間経過後に、試験片110の重量を測定し、試験前の試験片110の重量に対する減少量(削れ量)を測定した。尚、削れ量が少ないほど、放電に伴う絶縁碍子の損耗が少なく、チャンネリングがより生じにくいといえる。
【0061】
表1に、両試験の結果を示す。尚、各試験片は、アルミナを主成分とし、Siを含有するものとした。
【0063】
表1に示すように、Y/Xを0.40未満としたサンプル(サンプル1)は、耐電圧特性に劣ることが確認された。これは、焼成時において、低融点の液相を十分に形成することができず、緻密性が低下した(粒界相に比較的多くの気孔が形成された)ことによると考えられる。
【0064】
また、Y/Xを2.00よりも大きくしたサンプル(サンプル5)も、耐電圧特性に劣ることが分かった。これは、粒界相の高融点化が不十分であったためと考えられる。
【0065】
さらに、Z/Xを0.10未満としたサンプル(サンプル1〜6)は、耐チャンネリング性試験において、削れ量が多くなってしまい、チャンネリングが生じやすいことが明らかとなった。これは、粒界相の絶縁抵抗が大きく、放電に伴い発生するエネルギーが大きかったためであると考えられる。
【0066】
加えて、Z/Xを0.40よりも大きくしたサンプル(サンプル7)は、耐電圧特性に劣ることが分かった。これは、粒界相の導電性が過度に高くなったことに起因すると考えられる。
【0067】
これに対して、0.40≦Y/X≦2.00、及び、0.10≦Z/X≦0.40を満たすサンプル(サンプル8〜34)は、良好な耐電圧特性を有する(具体的には、加熱温度700℃において耐電圧の平均値が90kV/mmを上回り、加熱温度800℃において耐電圧の平均値が79kV/mm以上となる)とともに、良好な耐チャンネリング性を有する(具体的には、印加電圧10kVにおいて削れ量が4.0mgを下回り、印加電圧20kVにおいて削れ量が8.0mgを下回る)ことが分かった。これは、0.40≦Y/X≦2.00としたことで耐電圧特性の向上が図られるとともに、0.10≦Z/X≦0.40としたことで、良好な耐電圧特性を維持しつつ、放電に伴い発生するエネルギーの低下が図られたためであると考えらえる。
【0068】
さらに、耐チャンネリング性の面で作用するZ/Xの値を同一とした上で、面積比を変更したサンプル(サンプル8,25)を比較したところ、面積比を0.060以下としたサンプル(サンプル25)は、一層優れた耐チャンネリング性を有することが確認された。これは、放電に伴うアルミナ粒子と粒界相との反応が抑制され、試験片(サンプル)の脆化が効果的に抑制されたためであると考えられる。
【0069】
加えて、耐電圧特性の面で作用するY/Xの値を同一とした上で、面積比を変更したサンプル(20〜22)を比較したところ、面積比を0.020以上としたサンプル(サンプル20)は、耐電圧特性がより向上することが分かった。これは、粒界相が十分に形成され、試験片(サンプル)の緻密性がより高まったためであると考えられる。
【0070】
また、第1の元素群から選択される元素を二種以上含有するサンプル(サンプル29〜34)は、加熱温度700℃における削れ量が3.0mgを大きく下回るとともに、加熱温度800℃における削れ量が6.0mgを下回り、非常に優れた耐チャンネリング性を有することが明らかとなった。これは、粒界相に形成される導電経路がより分散し、放電に伴い生じるエネルギー(熱)をさらに小さくなったためであると考えられる。
【0071】
さらに、アルミナ粒子の平均粒径を4.5μm以下としたサンプル(サンプル32〜34)は、耐電圧の標準偏差(σ)が著しく小さなものとなり、良好な耐電圧特性が安定的に実現されることが分かった。これは、各試験片(サンプル)において、放電の始点から放電の終点までの間における放電経路の長さがほぼ均等なものとなったことによると考えられる。
【0072】
尚、生産性の低下を防止するという観点から、アルミナ粒子の平均粒径を2.0μm以上とすることが好ましい。
【0073】
上記試験の結果より、耐電圧特性、及び、耐チャンネリング性の双方において、優れた性能を実現すべく、0.40≦Y/X≦2.00、及び、0.10≦Z/X≦0.40を満たすように絶縁碍子を構成することが好ましいといえる。
【0074】
また、耐チャンネリング性の一層の向上を図るという観点から、アルミナ粒子が占める面積に対する粒界相が占める面積の割合を0.060以下とすることがより好ましいといえる。
【0075】
さらに、耐チャンネリング性の更なる向上を図るべく、第1の元素群から選択される元素が二種以上存在するように絶縁碍子を構成することがより好ましいといえる。
【0076】
加えて、耐電圧特性を一層向上させるべく、アルミナ粒子が占める面積に対する粒界相が占める面積の割合を0.020以上とすることがより好ましいといえる。
【0077】
また、良好な耐電圧特性を安定的に実現可能とすべく、アルミナ粒子の平均粒径を4.5μm以下とすることがより好ましいといえる。
【0078】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0079】
(a)上記実施形態において、点火プラグ1は、通常、火花放電間隙28において気中にて放電を生じさせるタイプ(いわゆる平行電極タイプ)であるが、本発明を適用可能な点火プラグはこれに限定されるものではない。従って、例えば、
図6に示すように、中心電極5の先端側外周面に接地電極36の先端面が対向し、放電経路の一部が絶縁碍子2の表面を這うタイプ(いわゆる沿面放電タイプ)の点火プラグ35に、本発明の技術的思想を適用してもよい。また、例えば、
図7に示すように、中心電極38の先端が絶縁碍子2の先端よりも後端側に位置し、中心電極38と接地電極39との間で放電を生じさせた上で、両電極38,39間に電力を投入することによりプラズマを生じさせるプラズマジェット点火プラグ37に、本発明の技術的思想を適用してもよい。本発明の技術的思想を適用することで、前記点火プラグ35,37においても、チャンネリングの発生をより確実に抑制することができ、耐電圧特性や機械的強度の低下を効果的に防止することができる。
【0080】
(b)上記実施形態において、ねじ部15のねじ径は比較的小さなもの(例えば、M12以下)とされているが、ねじ部15のねじ径は特に限定されるものではない。
【0081】
(c)上記実施形態では、主体金具3の先端部26に、接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0082】
(d)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。