特許第5775552号(P5775552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775552
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】燃料組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/16 20060101AFI20150820BHJP
   C10L 1/182 20060101ALI20150820BHJP
   C10L 1/185 20060101ALI20150820BHJP
   C10L 1/12 20060101ALI20150820BHJP
   C10L 1/02 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C10L1/16
   C10L1/182
   C10L1/185
   C10L1/12
   C10L1/02
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-204109(P2013-204109)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2014-214310(P2014-214310A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2013年9月30日
(31)【優先権主張番号】102114174
(32)【優先日】2013年4月22日
(33)【優先権主張国】TW
(31)【優先権主張番号】201310199267.3
(32)【優先日】2013年5月24日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507321266
【氏名又は名称】碧▲気▼科技開發股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100123618
【弁理士】
【氏名又は名称】雨宮 康仁
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】雷 敏宏
(72)【発明者】
【氏名】高 玉玲
(72)【発明者】
【氏名】葉 冠廷
【審査官】 平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−342589(JP,A)
【文献】 特開平10−088516(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02433265(GB,A)
【文献】 米国特許第02365009(US,A)
【文献】 特開2006−008966(JP,A)
【文献】 特開2002−080867(JP,A)
【文献】 特開2001−089774(JP,A)
【文献】 特開2000−026871(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101082002(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1227864(CN,A)
【文献】 特開2001−311087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00 − 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1−4のアルコール、炭素数5−12の炭化水素、又はこれらの混合物であり、30から180℃の沸点を有する液体燃料、
前記液体燃料よりも低い沸点及び高い揮発性を有する高揮発性炭化水素である点火促進剤、
ケトン、エーテル、分子量5000ダルトン未満のポリマー、又はこれらの混合物である安定剤、並びに
前記液体燃料中に可溶で0.20から0.65W/(m・K)の熱伝導率を有する熱交換促進剤
を含み、
前記液体燃料の重量基準で、前記点火促進剤の含有量は少なくとも1重量%、前記安定剤の含有量は0.5から5重量%、及び、前記熱交換促進剤の含有量は0から15重量%であることを特徴とする、燃料組成物。
【請求項2】
前記液体燃料は、炭素数1−4のアルコール、炭素数5−9のアルカン、又はこれらの混合物である、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項3】
前記液体燃料はメタノールである、請求項1に記載の燃料組成物。
【請求項4】
前記点火促進剤は、液化石油ガス(LPG)、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、石油、灯油、ディーゼル油、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項5】
前記点火促進剤は、LPG、ブタン、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項6】
前記点火促進剤の含有量が前記液体燃料の重量基準で1重量%から8重量%である、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項7】
前記点火促進剤の含有量が前記液体燃料の重量基準で4重量%から8重量%である、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項8】
前記安定剤は、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルエーテル(DME)、ジエチレングリコール(DEG)、分子量5000ダルトン未満のポリエチレングリコール(PEG)、分子量5000ダルトン未満で1つ以上の親水性官能基を主鎖に有するポリマー、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から7のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項9】
前記分子量5000ダルトン未満で1つ以上の親水性官能基を主鎖に有するポリマーにおいて、前記親水性官能基は、それぞれ独立して、エーテル基、エステル基、アミノ基、カルボキシル基(−COOH)、又はチオール基(−SH)である、請求項8に記載の燃料組成物。
【請求項10】
前記分子量5000ダルトン未満で1つ以上の親水性官能基を主鎖に有するポリマーは、ポリプロピレングリコール(PPG)である、請求項8に記載の燃料組成物。
【請求項11】
前記安定剤の含有量が前記液体燃料の重量基準で1重量%から3重量%である、請求項1から10のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項12】
前記熱交換促進剤は、エチレングリコール、グリセロール、エチレンジアミン、水、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から11のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項13】
前記熱交換促進剤は水である、請求項1から11のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項14】
前記熱交換促進剤の含有量が前記液体燃料の重量基準で1重量%から15重量%である、請求項1から13のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【請求項15】
前記熱交換促進剤の含有量が前記液体燃料の重量基準で3重量%から10重量%である、請求項14に記載の燃料組成物。
【請求項16】
前記液体燃料の重量基準で、前記点火促進剤としてLPGを4重量%から6重量%、前記安定剤としてメチルエチルケトンを1重量%から3重量%、及び前記熱交換促進剤として水を3重量%から10重量%含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料組成物に関し、特に、電気式点火器を備えるストーブで用いることのできる易着火性の低炭素燃料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料として、石油や天然ガスの他に、洗浄用ナフサや軽油等の炭化水素が用いられてきた。また、近年、石油や天然ガス等の燃料の代わりとなり得るエネルギーが徐々に出現してきている。メタノールは、溶剤として用いたり、プラスチック、塗料、爆薬、及び紡織品を製造するために用いる他に、石油や天然ガス等の代わりとなる便利で安全な自動車用燃料としても知られている。他の気体燃料や液体燃料と比べて、メタノールの燃焼による二酸化炭素やNOxの発生量は少ないため、メタノールはきれいな燃料として一般に認識されている。さらに、メタノールは、蒸気圧が低く、比重が高いため、引火の危険性が低い。メタノール分子は酸素原子を含んでおり、これにより、十分な燃焼が促進されるのみならず、高密度エネルギーがもたらされる。具体的には、メタノールのエネルギー密度は最大で15746kJ/Lであり、一方、天然ガス及び気体LPG(Liquiefied Petroleum Gas、液化石油ガス)のエネルギー密度は、それぞれ、僅か、36kJ/L及び91kJ/Lに過ぎない。そのため、インディアナポリスレース(インディ500)では1964年から車両の内燃機関を駆動するため液体メタノール燃料が広く用いられている。
【0003】
メタノール燃料を使用する場合、燃料のコストを減らすため水分が添加され、発熱量(ある物質1kg又は1Lを完全に燃焼するときに発生するエネルギー)を増やすため油類が添加される。上述のように水分や油類を添加することで、メタノール燃料自体に独自性を持たせることができる。例えば、中国では、4%のジャトロファ油(ナンヨウアブラギリ油)をメタノールに添加して発熱量を増やすことが試みられてきた。しかし、これは、燃焼中には異臭が生じ、燃焼後には人体や環境に有害な廃棄物及び白煙が生じてしまうものであった。また、メタノール中に油類を添加して用いる場合、通常、燃焼中に生じる炎は、不完全燃焼や黒色残渣を呈する赤や黄である。
【0004】
この他に、液体メタノールを燃料として家庭用ストーブで用いる場合、点火しづらいので、火種などの発火式点火器が必要となり、使用に不便な上、発火式点火器を用いても、点火に30秒から50秒又はそれ以上の時間を要することとなる。
【0005】
上記を鑑み、安定で連続した炎を提供するとともに完全燃焼を進めることのできる液体メタノール燃料の開発が望まれていた。発明者は、点火促進剤を液体メタノールに添加することで、火種を用いることなく、素早く点火し、順調な燃焼を進めることができることを発見した。この性質は、特に、電気式点火器を備えるストーブでの使用に適している。
【0006】
上述の点火促進剤は、液体メタノールに添加する他に、他の液体低炭素アルコール及び/又は炭化水素(洗浄用ナフサや軽油等)に添加することでも、同様に、点火時間を短縮することができ、また、可搬式液体輸送系に用いることもできる。このようにして、液体メタノール以外の選択肢も提供される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、炭素数1−4のアルコール、炭素数5−12の炭化水素、又はこれらの混合物であり、30から180℃の沸点を有する液体燃料、液体燃料よりも低い沸点及び高い揮発性を有する高揮発性炭化水素である点火促進剤、ケトン、エーテル、分子量5000ダルトン未満のポリマー、又はこれらの混合物である安定剤、並びに液体燃料中に可溶で0.20から0.65W/(m・K)の熱伝導率を有する熱交換促進剤を含むことを特徴とする燃料組成物を提供することである。
【0008】
本発明に係る燃料組成物では、液体燃料は、好ましくは、炭素数1−4のアルコール、炭素数5−9のアルカン、又はこれらの混合物であり、特に好ましくは、メタノールである。
【0009】
本発明に係る燃料組成物では、液体燃料の重量基準で、点火促進剤の含有量は少なくとも1重量%、安定剤の含有量は0から5重量%、及び、熱交換促進剤の含有量は0から15重量%である。点火促進剤は、LPG、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、石油、灯油、ディーゼル油、及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0010】
本発明に係る燃料組成物では、安定剤が存在する場合、持続してより安定した燃焼が提供される。こうした安定剤は、ケトン、エーテル、分子量5000ダルトン未満のポリマー、又はこれらの混合物である。好ましくは、安定剤の含有量は、液体燃料の重量基準で、0.5から5重量%である。また、本願発明に係る燃料組成物では、熱交換促進剤が存在する場合、炎中の気体流体の正味の熱伝導性を高め、液体燃料の熱効率を改善することができる。こうした熱交換促進剤は、液体燃料中に可溶で0.20から0.65W/(m・K)の熱伝導率を有する高熱伝導物質である。好ましくは、熱交換促進剤の含有量は、液体燃料の重量基準で、1から15重量%である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の上記課題、技術的特徴、及び利点をより明瞭にするため、以下では、実施形態を参照しつつ本発明について詳細に説明する。
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。しかし、本発明は明細書及び図面に記載の実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施形態が可能である。明示しない限り、本願明細書中の用語(特に、特許請求の範囲中の用語)は単数及び複数の両方を指すものとする。
【0013】
本発明は、液体燃料の重量基準で少なくとも1重量%の高揮発性炭化水素からなる少なくとも1種の点火促進剤を液体燃料中にさらに添加することを特徴とする燃料組成物を提供する。
【0014】
燃料に点火するためには、燃料の気相濃度が、可燃性下限界(Lower Flammability Limit,LFL)より高く、可燃性上限界(Upper Flammability Limit,UFL)より低い必要があることが知られていた。この濃度範囲であれば、気体燃料の温度が自発発火温度を超えるような点火エネルギーが提供され、結果として、この高温環境下で燃焼が持続することとなる。例えば、メタノールは、沸点が64.5℃で常温では液体であり、液体メタノールを気体メタノールに変化させるために必要なエネルギー(即ち、気化熱)が1180kJ/kgである。十分な気化エネルギーの存在下では、メタノールの気相濃度がそのLFL(即ち、7.3%、C.L.Yaws著の『Chemical Properties Handbook』の563頁を参照)よりも高いとき、最小点火エネルギー(即ち、0.13mJ)で、メタノールを点火することができる。気体メタノールの燃焼中に放出される燃焼熱は液体メタノールの気化に必要な熱量を供給できる。これにより、益々多くの気体メタノールが産生されるとともに、益々多くの酸素原子が持続的に活性化され酸素遊離基を形成する。この酸素遊離基は燃焼連鎖反応中の酸化反応に供され、結果として、炎が持続的に産生されることとなる。
【0015】
しかし、メタノールの引火点(可燃性液体から揮発した蒸気が、空気と混ざり合い可燃性混合物を形成し一定の濃度に到達した後、火源と接触したときに一瞬閃光を放ち発火する最低温度)は11℃である。周囲の温度が比較的低い又は引火点に近いときは、メタノールを揮発させLFLに到達させることは困難である。さらに、室温で使用したとしても、液体メタノールがストーブの燃焼ヘッドに流れ込む際、通常、メタノールが揮発しLFLに到達するためのエネルギーを吸収する十分な時間はない。そのため、18℃の操作環境では、通常、メタノールの気相濃度を十分に高め、LFLに到達させ、持続的な燃焼を生じさせるためには、30から50秒の時間がかかる。
【0016】
発明者は、少量の高揮発性炭化水素を点火促進剤として液体燃料に添加することで、液体燃料の点火の困難さを改善し、点火時間を短縮できることを発見した。本願明細書中では、『高揮発性炭化水素』は、通常、標準状態(20℃、1気圧)下で蒸気圧が15キロパスカルより高い炭化水素のことを意味する。さらに言えば、本願発明で用いる『高揮発性炭化水素』は、本願発明で用いる液体燃料と比較すると、当該液体燃料よりも低い沸点と高い揮発性とを有する。液体燃料が液体メタノールである場合、当該液体メタノールと比較すると、『高揮発性炭化水素』の引火点、気化熱、及び/又は、LFLは相対的に低い。
【0017】
この理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明に係る燃料組成物で用いられる点火促進剤は、少量が液体燃料中に溶解し、均一な混合物を形成する。このように溶解している高揮発性炭化水素は、燃料組成物がストーブの燃焼ヘッドに流れ込む際、低沸点で高揮発性であるため、容易に揮発しLFLに到達する。これにより、電気式点火器を用いて点火エネルギーを供給して、液体燃料の揮発及び所定気相濃度への到達を待つことなく、燃料組成物に容易に点火し持続的に燃焼させることが可能となる。また、本発明で用いる点火促進剤は、高揮発性炭化水素なので、本発明に係る燃料組成物が保存されている容器(例えば、貯蔵タンク)内に部分圧力を提供するため、本燃料組成物のストーブへの送り出しの助けとなり得る。
【0018】
従来、不溶性気体(例えば、空気、アルゴン、又は、水素等)は、液体燃料の貯蔵タンク内に部分圧力を提供するものの、本発明の点火促進剤とは異なり、液体燃料中に極僅かしか溶解せず、液体燃料の点火を促進することができないものと考えられていた。さらに、不溶性気体を用いて部分圧力を提供する態様では、液体燃料の輸送に伴い、貯蔵タンク内の燃料の液面が下がり、液面上の容積が増えるため、液面上の不溶性気体により提供される圧力が漸次減少することとなる(P=nRT/V)。しかし、本発明では、点火促進剤は液体燃料中に部分的に溶解し蓄えられ均一な燃料組成物溶液を形成しているため、燃料組成物が貯蔵タンクから流れ出し液面上の空間が増えても、部分的に溶解して液体燃料中に存在する点火促進剤が揮発するので、液面上では一定の圧力が維持され、その結果、貯蔵タンク内での漸次的圧力減少は生じない。
【0019】
本発明に係る燃料組成物では、含有される液体燃料は、炭素数1−4のアルコール、炭素数5−12の炭化水素、又はこれらの混合物であり、30から180℃の沸点を有する。液体燃料は、好ましくは、炭素数1−4のアルコール、炭素数5−9のアルカン、又はこれらの混合物である。例えば、液体燃料は、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、3−エチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、n−オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、3−エチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,4−ジメチルヘキサン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,2,3,3−テトラメチルブタン、n−ノナン、2−メチルオクタン、3−メチルオクタン、4−メチルオクタン、2,2−ジメチルヘプタン、3,3−ジメチルヘプタン、3−エチルヘプタン、2,3−ジメチルヘプタン、2,4−ジメチルヘプタン、2,5−ジメチルヘプタン、3,4−ジメチルヘプタン、2,3,4−トリメチルヘキサン、2,2,3−トリメチルヘキサン、2,2,4−トリメチルヘキサン、2,3,3−トリメチルヘキサン、2−メチル−3−エチルヘキサン、3−メチル−3−エチルヘキサン、2,2,3,3−テトラメチルペンタン、2−エチルヘプタン、3−エチルヘプタン、4−エチルヘプタン、2−メチル−2−エチルヘキサン、3−メチル−3−エチルヘキサン、3−プロピルヘキサン、2−メチル−3−エチルヘキサン、2−エチル−3−メチルヘキサン、2−メチル−4−エチルヘキサン、2−エチル−4−メチルヘキサン、2−メチル−5−エチルヘキサン、2−エチル−5−メチルヘキサン、3−メチル−4−エチルヘキサン、3−エチル−4−メチルヘキサン、2,3−ジメチル4−エチルペンタン、2,4−ジメチル−3−エチルペンタン、3,4−ジメチル−2−エチルペンタン、2,2−ジメチル−3−エチルペンタン、2,3−ジメチル−2−エチルペンタン、2,2−ジメチル−4−エチルペンタン、2,4−ジメチル−2−エチルペンタン、2,3−ジメチル−3−エチルペンタン、3,3−ジメチル−2−エチルペンタン、2,3−ジエチルペンタン、3,3−ジエチルペンタン、2,2,3−トリメチル−3−エチルブタン、2,3,3−トリメチル−2−エチルブタン、又はこれらの組み合わせであってもよい。液体燃料は、最も好ましくは、メタノールである。
【0020】
本発明に係る燃料組成物では、低LFL、低引火点、及び/又は、低気化熱を有する高揮発性炭化水素を点火促進剤として用い、通常液体燃料中に少なくとも1重量%(燃料の重量基準、以下同様)溶解している化合物、例えば、液化石油ガス(LPG)、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、石油、灯油、ディーゼル油、及びこれらの混合物からなる群より選択される化合物、を選んで用いる。好ましくは、本発明に係る燃料組成物では、LPG、ブタン、及び/又は、これらの混合物を点火促進剤として用いる。なお、標準状態下では、LPGの蒸気圧は1400キロパスカル、引火点は−60℃、LFLは1.9%、気化熱は415kJ/kgであり、ブタンの蒸気圧は172.3キロパスカル、引火点は−60℃、LFLは1.9%、気化熱は387kJ/kgである。
【0021】
本発明に係る燃料組成物では、液体燃料中の点火促進剤の使用量は、点火促進剤の種類、液体燃料の操作圧力、及び環境温度等の種々の要因に依存する。例えば、メタノール燃料ストーブの操作圧力は、通常、0.5から2atmのゲージ圧力に制御される。用いる点火促進剤の沸点が比較的低い又は環境温度が比較的高い場合、比較的少ない量の点火促進剤が添加される。また、低温環境下(例えば、亜熱帯又は寒帯の国々)で操作する場合は、点火促進剤の添加量を増やす。
【0022】
本発明に係る燃料組成物では、添加する点火促進剤の量が少なすぎると、素早く点火できるという効果を得ることができない。一方、添加量が高すぎると、製造コストが増え、また、不完全燃焼により赤や黄の炎が生じる虞がある(完全燃焼ならば青い炎を呈する)。そこで、点火促進剤の添加量は、液体燃料の重量基準で、少なくとも1重量%であり、また、1重量%から8重量%であってもよい。本発明のある実施形態では、点火促進剤の含有量は、液体燃料の含有量の4重量%から8重量%である。
【0023】
点火促進剤の他に、本発明に係る燃料組成物は、液体燃料及び点火促進剤の中間の極性(即ち、液体燃料より高く、点火促進剤より低い極性)を備える安定剤を選択的に含んでもよく、これにより、燃焼の質をさらに高めることができる。例えば、本発明に係る燃料組成物では、安定剤として、ケトン、エーテル、分子量5000ダルトン未満のポリマー、又はこれらの混合物を用いることができる。本発明のある実施形態では、安定剤として、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルエーテル(DME)、ジエチレングリコール(DEG)、分子量5000ダルトン未満のポリエチレングリコール(PEG)、分子量5000ダルトン未満で1つ以上の親水性官能基を主鎖に有するポリマー(例えば、ポリプロピレングリコール(PPG))、又はこれらの混合物を用いる。親水性官能基は、それぞれ独立して、エーテル基、エステル基、アミノ基、カルボキシル基(−COOH)、又はチオール基(−SH)である。本発明のある実施形態では、安定剤としてアセトン及び/又はMEKを用いる。
【0024】
特に、本発明に係る燃料組成物では、液体燃料としてメタノールを用いる場合、点火促進剤の「高揮発性炭化水素」の引火点、気化熱、及び/又は、LFLは、メタノールのものよりも低い。そのため、本発明に係る燃料組成物が燃焼ヘッドに流れ込む際、特に高温の操作環境下では、メタノールの気化速度が点火促進剤の気化速度より遅いため、発生した炎が不安定であったり突然拡大したりする虞がある。この問題点について、発明者は、点火促進剤を安定化するため少量の安定剤をメタノール中に添加することで、上述の炎が不安定であるという欠点を克服し、順調に燃焼を進めることができることを発見した。理論に拘束されることを意図するものではないが、用いられるメタノールより低い電子的極性を有する安定剤の使用は、点火促進剤(非極性炭化水素)及びメタノール(極性物質)の間で溶解のための橋渡し又は助剤として働き、点火促進剤が周囲温度又は圧力下で失われることを防ぎ、その結果、燃えている炎が突然拡大したり又は不安定な状態になったりすることを防ぐことができる。例えば、室温で、5重量%のLPG(点火促進剤)をメタノールに添加すると、1.5kg/cmのLPG蒸気圧のゲージ圧力(絶対圧力2.5kg/cm)が生じるものの、適量のアセトン(安定剤)を添加すると、ゲージ圧力は1.25kg/cmにまで減少する。アセトンの添加は、メタノール中のLPGを安定化するのみならず、メタノール中に溶解するLPGの量を若干増加させることで、さらに、燃料組成物の点火を助ける。
【0025】
本発明に係る燃料組成物では、安定剤の含有量が少なすぎると、安定化効果を得ることができず、逆に、含有量が多すぎると、コストが嵩み無駄となり、さらに、点火促進剤自体の助燃効果に影響を与える虞がある。そこで、本発明に係る燃料組成物で安定剤を用いる場合、液体燃料の重量基準で、安定剤の含有量は、0.5重量%から5重量%であり、好ましくは、1重量%から3重量%である。低気温の操作環境(例えば、寒帯)下では、点火促進剤の減少は比較的少ないため、安定剤の含有量を選択的に減らすことが可能となる。
【0026】
本発明に係る燃料組成物は、熱交換促進剤を選択的に含んでもよい。メタノールを液体燃料として用いる際、メタノールが燃えて炎が形成されるとき、炎の大部分が水蒸気及び二酸化炭素であり、少量が未燃焼メタノールである。このメタノール燃料が湯沸かしの加熱に用いられる場合、炎中の気体流体は湯沸かしの底にそって薄層を形成する。薄層の熱伝導性は炎から湯沸かしへの熱伝導に影響を与える。薄層の熱伝導性が高くなると、加熱物への燃料の熱効率も高くなる。発明者は、熱交換促進剤を燃料組成物中に添加することで、炎中の気体流体の正味の熱伝導性を高め、燃料組成物の熱効率を高めることができることを発見した。
【0027】
本発明に係る燃料組成物では、任意の適切な熱交換促進剤を用いることができる。本発明に適用可能な熱交換促進剤は、通常、液体燃料と相溶性である、揮発しやすい、熱伝導係数が高い、並びに、ストーブ及び湯沸かしに残留しづらいといった特定の性質を有する物質から選択される。用途に応じて、熱交換促進剤として、液体燃料に可溶であり、且つ、熱伝導係数が0.20から0.65W/(m・K)である高熱伝導性物質を用いることが望ましい。好ましくは、熱交換促進剤は、エチレングリコール、グリセロール、エチレンジアミン、水、及びこれらの混合物からなる群より選択される。
【0028】
本発明に係る燃料組成物中に添加される熱交換促進剤の量は、熱交換促進剤が燃料組成物中で実際に使用される際、燃料の燃焼に伴い放出される熱を過剰に消費して燃焼効率を低下させてしまわないよう制御される必要がある。この点を、熱交換促進剤として水を、燃料としてメタノールを用いる場合で説明する。水を水蒸気に変化させるための気化熱は2367kJ/kg(300Kのとき)であり、メタノールの気化熱(300Kで1180kJ/kg)のおよそ2倍である。そのため、水の気化作用がメタノールの燃焼により放出される熱の大部分を占め、かえって燃焼効率を低下させてしまう。そこで、本発明に係る燃料組成物で熱交換促進剤を用いる場合、液体燃料の重量基準で、熱交換促進剤の量は、通常、1重量%から15重量%であり、好ましくは、3重量%から10重量%である。上述の用量の範囲であれば、熱交換促進剤が気化作用において多量の熱を浪費してしまうことを避けつつ、炎及び湯沸かしの間で高効率の熱交換を実現することができる。
【0029】
さらに、発明者は、熱交換促進剤として、グリセロール、エチレングリコール、又は水等の高熱伝導性液体を用いる場合、熱交換促進剤の添加は点火時間を短縮するという効果を有することを発見した。理論に拘束されることを意図するものではないが、この効果は、水を含む燃料中ではLPG等の点火促進剤の溶解度が低下することに起因するものと考えられる。具体的には、溶解度の低下により、燃料組成物貯蔵タンク内で同量の点火促進剤が液体燃料に溶け込む量が減少し、気体の圧力が増加する。その結果、燃料組成物が燃料ヘッドに流れ込む際、点火促進剤の溶解度が減少しているため、点火促進剤は速やかに揮発するため、点火促進剤の分圧による点火能力が高まり、比較的多くの燃料に速やかに点火し燃焼させ、点火時間を短縮することが可能となる。
【0030】
本発明によれば、点火促進剤、並びに、選択的に、安定剤及び熱交換促進剤を液体燃料に用いることで、素早く点火でき順調に燃える燃料組成物がもたらされる。この組成物は、あらゆる種類のストーブに適しており、特に、家庭用ガスストーブなどの電気式点火器を備えるストーブに適している。本発明の好ましい実施形態では、家庭用ガスストーブで以下の成分及び量の燃料組成物を用いる:メタノール、以下メタノールの重量基準で、点火促進剤としてLPGを4重量%から6重量%、安定剤としてメチルエチルケトンを1重量%から3重量%、及び熱交換促進剤として水を3重量%から10重量%。
【0031】
以下、実施例を参照しながら本発明について説明する。実施例は例示を目的とするものに過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明の保護範囲は特許請求の範囲に示されている。
【0032】
(実施例1)
表1から5に示した量に従って、メタノール、及び/又は、安定剤、熱交換促進剤を混ぜ、混合物を得た。混合物を貯蔵タンクに収めた後、点火促進剤を貯蔵タンクに添加して、貯蔵タンク内の圧力を0.2から1.5kg/cm(ゲージ圧力)に調節した。次に、水の入った湯沸かしをストーブの上に置き、ストーブを上述の貯蔵タンクに接続した。正式な実験を始める前に、流量調節弁を調整して、貯蔵タンクから流出する液体燃料組成物の流速(F)を設定した(10から20g/分に制御した)。
【0033】
貯蔵タンクの放出口を開けた。流量調節弁を開け、同時に、電気式点火器を点けて、電気火花を発生させた。燃料調節弁を開けてから点火して炎が現れるまでの時間θ(単位:秒)を記録した。
【0034】
重量W(W=2kg)の水を95℃まで温めるために消費された燃料組成物由来の実際の燃焼エネルギーQc(単位:kJ)を下式により求めた:
Qc=F×φ×ΔH
ただし、Fは燃料組成物の流速(単位:kg/秒)、φは室温RT(単位:℃)から95℃まで水を暖めるために掛かった時間(単位:秒)(具体的には、炎が安定した後、水の入った湯沸かしをストーブの上に置いてから、計測を開始した)、ΔHは燃料組成物の燃焼熱(単位:kJ/kg)である。
なお、各物質及び燃料組成物の燃焼熱は以下のとおり:
LPG:46100
ブタン:49600
MEK:33890
メタノール:19940
4重量%のLPGを溶かしたメタノール:20980
8重量%のLPGを溶かしたメタノール:22030
4重量%のブタンを溶かしたメタノール:21126
2重量%の水及び4重量%のLPGを溶かしたメタノール:20560
4重量%の水及び4重量%のLPGを溶かしたメタノール:20140
8重量%の水及び4重量%のLPGを溶かしたメタノール:19300
1重量%のMEK及び4重量%のLPGを溶かしたメタノール:20277
【0035】
重量Wの水を初期温度Tから95℃まで温めるために必要とされる理論的な燃焼熱Qt(単位:kJ)を下式により求めた:
Qt=Cp×(95−T)×W
ただし、Cp=4.1868kJ/kg・K、Wは水の重量(単位:kg)、Tは水の初期温度。
【0036】
続いて、QtをQcで割って熱効率を計算した。得られた結果を以下の表1から6に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
表1から5の結果から、少量の点火促進剤を液体メタノール燃料に添加することで、燃料組成物を素早く点火することができること、さらに、少量の安定剤を添加することで、メタノール中に点火促進剤が安定化され、順調な燃焼(規則的で安定した炎)が助けられることが分かる。さらに、少量の熱交換促進剤をメタノール燃料に添加することで、燃料の熱効率が改善される。
【0043】
続いて、貯蔵タンク内の気体LPGの圧力への安定剤メチルエチルケトンの変動データを測定した。結果を表6に示す。
【0044】
【表6】
【0045】
表6の結果から、メタノール燃料の消費に伴って、貯蔵タンク内での点火促進剤LPGの圧力が徐々に減少し、2重量%の安定剤メチルエチルケトンを添加した後、LPGの圧力の減少幅が緩やかになったことが分かる。これは、安定剤が点火促進剤の圧力を安定化することに役立ち、これによって、メタノール燃料中の点火促進剤が燃焼の促進に役立つ程の高濃度に維持できることを示している。
【0046】
さらに、メタノール及びメチルエチルケトン中に溶解したLPGの圧力及び溶解度を測定した。また、気体LPGの安定性へのメチルエチルケトンの影響を観察した。結果を表7に示す。
【0047】
【表7】
【0048】
表7の結果から、同一圧力下では、メチルエチルケトン中のLPGの溶解度が比較的高いことが分かる。このことも、メチルエチルケトンが安定化効果を有することを示している。
【0049】
表8に示した安定剤の種類及び量に従って、燃料組成物を準備し、点火時間及びメタノール中のLPGへの各安定剤の影響を観察した。
【0050】
【表8】
【0051】
(実施例2)
200gの液体燃料(洗浄用ナフサ又はディーゼル油)を貯蔵タンクに収めた後、点火促進剤LPGを添加した。異なる量(又は重量%)のLPGにおける貯蔵タンクの圧力を記録した。結果を表9に示す。
【0052】
【表9】
【0053】
表9に示すように、LPGが洗浄用ナフサ又はディーゼル油中に溶解している場合、低い重量%(15重量%以内)でストーブに必要な圧力(3atmg以内)を提供することが可能となる。
【0054】
実施例1の燃焼実験を繰り返した。LPG混合洗浄用ナフサをストーブの燃料投入口に繋いだ後、ストーブを開き、安定するまで予熱を加えた。その後、水を室温から95℃まで加熱した。点火時間θを記録し、仕事率及び熱効率を計算した。結果を表10に示す。
【0055】
【表10】
【0056】
ストーブの液体燃料として洗浄用ナフサを用いて燃焼した結果を表10に示す。点火時間について、LPG添加洗浄用ナフサはLPG無添加洗浄用ナフサよりも素早く点火できたことから、少量の点火促進剤を洗浄用ナフサ燃料に添加することで、燃料組成物に素早く点火できることが分かる。このようにして、本発明の所望の効果が得られる。
【0057】
上記開示では、詳細な技術的説明及びその発明としての特徴を説明した。当業者であれば、本発明の趣旨を離れることなく、本発明の開示及び教示に基づいて種々の変形例及び代替例を容易に達成できるものである。こうした変形例及び代替例は上記の記載に完全には記載されていないものの、本発明に含まれる。