特許第5775579号(P5775579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775579
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   C23C14/24 T
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-522480(P2013-522480)
(86)(22)【出願日】2012年7月6日
(86)【国際出願番号】JP2012004413
(87)【国際公開番号】WO2013005448
(87)【国際公開日】20130110
【審査請求日】2013年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-151044(P2011-151044)
(32)【優先日】2011年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100121692
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100125221
【弁理士】
【氏名又は名称】水田 愼一
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】宮川 展幸
(72)【発明者】
【氏名】西森 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】安食 高志
(72)【発明者】
【氏名】北村 一樹
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−057160(JP,A)
【文献】 特開2011−026684(JP,A)
【文献】 特開2007−227359(JP,A)
【文献】 特開2008−169457(JP,A)
【文献】 特開2008−248301(JP,A)
【文献】 特開2004−059980(JP,A)
【文献】 特開2005−060757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被蒸着体に複数種類の材料を蒸着するための複数の蒸発源と、前記複数の蒸発源及び前記被蒸着体の間の空間を囲い、前記被蒸着体側に開口面を有する筒状体と、前記被蒸着体、前記蒸発源及び前記筒状体が配置される空間を真空状態とする真空チャンバと、を備えた真空蒸着装置であって、
前記筒状体の内部に配される仕切り板を備え、
前記仕切り板は、開口部を有し、該開口部は前記仕切り板の平面視形状における重心を中心とする直径Dの円周の範囲内に少なくとも1つ以上設けられており、前記直径Dは、前記仕切り板の外周上における2点間距離のうち最大の値の2/3であり、前記開口部の口径は、前記仕切り板の外周上における2点間距離のうち最大の値の1/10を直径とする円周よりも大きいことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記開口部は、幾何学形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
【請求項3】
前記仕切り板は、該仕切り板の平面視形状における外周位置に、前記開口部よりも開口面積が小さい補助開口部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真空蒸着装置。
【請求項4】
前記開口部は、前記仕切り板の重心に対して点対称となるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
前記仕切り板を複数備え、
前記複数の仕切り板は、互いに形状が異なる開口部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
【請求項6】
前記仕切り板は、加熱機構及び温度調節機構を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板等の被蒸着体に蒸着材料を蒸着させて、薄膜を形成する真空蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着装置は、真空チャンバ内に蒸着材料を含む蒸発源と、基板等の被蒸着体とを配置し、真空チャンバ内を減圧させた状態で、蒸発源を加熱して、蒸発源を気化させ、この気化させた蒸着材料を被蒸着体の表面に堆積させて、薄膜を形成するものである。しかし、蒸発源から気化された蒸着材料の一部は、被蒸着体へ向かって進行せず、被蒸着体の表面に付着しないことがある。このような被蒸着体に付着しない蒸着材料が多くなると、材料の使用効率の低下及び蒸着速度の低下の原因となる。
【0003】
そこで、蒸発源と複蒸着体とが対向する空間を筒状体で囲み、この筒状体を蒸着材料が再蒸発される温度で加熱し、気化された蒸着材料を筒状体内を通して被蒸着体の表面に蒸着させるようにした真空蒸着装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、薄膜を複数種類の材料で形成するために複数の蒸発源を用いた場合、それら蒸発源の配置位置が異なると、筒状体内における気化された材料が均一に分布せず、被蒸着体に蒸着された蒸着材料がムラになることがある。そこで、複数の蒸発源から放出された蒸着材料の蒸気の流路に、蒸着材料の分布及び流れを調える多孔板シャッタを設けた真空蒸着機が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−272703号公報
【特許文献2】特開2005−213570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に記載された蒸着装置のように、蒸着材料の流路に多孔板シャッタを設けると、この多孔板シャッタに蒸着材料が付着して目詰まりを起こす虞がある。多孔板シャッタが目詰まりを起こすと、被蒸着体における蒸着ムラが発生することがあり、また、蒸着速度を正確に制御することができず、所望の膜厚の蒸着膜を形成することができない虞がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、複数の蒸発源を用いたときに、被蒸着体に形成された蒸着膜のムラが発生し難く、所望の膜厚の蒸着膜を形成することができる真空蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る真空蒸着装置は、被蒸着体に複数種類の材料を蒸着するための複数の蒸発源と、前記複数の蒸発源及び前記被蒸着体の間の空間を囲い、前記被蒸着体側に開口面を有する筒状体と、前記被蒸着体、前記蒸発源及び前記筒状体が配置される空間を真空状態とする真空チャンバと、を備えた真空蒸着装置であって、前記筒状体の内部に配される仕切り板を備え、前記仕切り板は、開口部を有し、該開口部は前記仕切り板の平面視形状における重心を中心とする直径Dの円周の範囲内に少なくとも1つ以上設けられており、前記直径Dは、前記仕切り板の外周上における2点間距離のうち最大の値の2/3であり、前記開口部の口径は、前記仕切り板の外周上における2点間距離のうち最大の値の1/10を直径とする円周よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
上記真空蒸着装置において、前記開口部は、幾何学形状に形成されていることが好ましい。
【0010】
上記真空蒸着装置において、前記仕切り板は、該仕切り板の平面視形状における外周位置に、前記開口部よりも開口面積が小さい補助開口部を有することが好ましい。
【0011】
上記真空蒸着装置において、
前記開口部は、前記仕切り板の重心に対して点対称となるように形成されていることが好ましい。
【0012】
上記真空蒸着装置において、前記仕切り板を複数備え、前記複数の仕切り板は、互いに形状が異なる開口部を有することが好ましい。
【0013】
上記真空蒸着装置において、前記仕切り板は、加熱機構及び温度調節機構を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、仕切り板の開口部が、仕切り板の平面視形状における重心を中心とする直径Dの円周の範囲内に設けられ、この直径Dが仕切り板の外周上における2点間距離のうち最大の値の2/3である。そのため、被蒸着体側への気化材料の流束分布を一様とすることができ、複数の蒸発源を用いたときに、被蒸着体に形成された蒸着膜のムラが発生し難く、所望の膜厚の蒸着膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係る真空蒸着装置の側断面図。
図2】(a)(b)は夫々同装置に用いられる仕切り板の形状を示す上面図。
図3】(a)乃至(e)は夫々上記仕切り板の変形例を示す上面図。
図4】仕切り板を備えていない比較例の真空蒸着装置における、膜厚分布のシミュレーション結果を示す図。
図5】開口部の口径が仕切り板の直径の3/4であるときの比較例の真空蒸着装置における、膜厚分布のシミュレーション結果を示す図。
図6】開口部の口径が仕切り板の直径の2/3であるときの比較例の真空蒸着装置における、膜厚分布のシミュレーション結果を示す図。
図7】開口部の口径が仕切り板の直径の1/2であるときの実施例の真空蒸着装置における、膜厚分布のシミュレーション結果を示す図。
図8】開口部の口径が仕切り板の直径の3/20であるときの実施例の真空蒸着装置における、膜厚分布のシミュレーション結果を示す図。
図9】上記実施形態の変形例に係る真空蒸着装置の側断面図。
図10】本発明の第2の実施形態に係る真空蒸着装置の側断面図。
図11】同装置に用いられる仕切り板の形状を示す上面図。
図12】同実施例の各構成の位置関係を説明するための斜視図。
図13】補助開口部を設けた仕切り板を用いたときの実施例の真空蒸着装置における、膜厚分布のシミュレーション結果を示す図。
図14】本発明の第3の実施形態に係る真空蒸着装置の側断面図。
図15】(a)(b)は同装置に用いられる仕切り板の形状を示す上面図。
図16】同装置に用いられる仕切り板と蒸発源の位置関係の形状を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の実施形態に係る真空蒸着装置について、図1乃至図3を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態の真空蒸着装置1は、被蒸着体2に複数種類の材料を蒸着するための複数の蒸発源3と、これら複数の蒸発源3及び被蒸着体2の間の空間を囲い、被蒸着体側2に開口面を有する筒状体4と、を備える。また、これら被蒸着体2、蒸発源3及び筒状体4が配置される空間を真空状態とする真空チャンバ5と、を備える。真空チャンバ5は、真空ポンプ6で排気することによって真空状態に減圧することができるように構成されている。
【0017】
筒状体4は、その一端に開口面41を有し、その開口面41に後述の流量制御用の補正板48が設けられ、これに対向するように基板等の被蒸着体2が配置される。筒状体4の他端には、複数の蒸発源3が夫々異なる位置に配置され、蒸発源3の配置されていない部分は底部42によって連接されている。
【0018】
筒状体4の内部には、少なくとも1箇所以上の開口部70を有する仕切り板7が配されている。筒状体4の内壁には、仕切り板7を水平に係止するための係止部(不図示)が形成されている。この係止部は、筒状体4の底部42から開口面41に亘って、所定間隔で複数設けられており、仕切り板7を、筒状体4内の適宜の高さに設けることができる。仕切り板7の設置高さは、筒状体4の筒径等によって異なるが、好ましくは開口面41側よりも底部42寄りの位置に設けられる。こうすれば、筒状体4内における仕切り板7と開口面41との間の空間が十分に確保されるので、気化材料を被蒸着体2に均一に付着させることができる。一方、仕切り板7が、開口面41寄りの位置に設けられると、仕切り板7の開口部70と被蒸着体2との距離が近くなり、被蒸着体2の中央領域に集中的に蒸着材料が付着し易い。そこで、仕切り板7は、それによって区分けされる筒状体4内において、蒸発源3側の空間と被蒸着体2側の空間との比が、例えば、1:2〜1:5となるように設けられることが好ましい。
【0019】
仕切り板7の開口部70は、仕切り板7の平面視形状における重心P(図2参照)を中心とする直径Dの円周の範囲内に少なくとも1つ以上設けられている。また、この直径Dは、仕切り板7の外周上における2点間距離のうち最大の値の2/3である。
【0020】
筒状体4の外周には、シーズヒータ等から構成される筒状体ヒータ(以下、ヒータ43)が巻き付けられている。このヒータ43は、電源44に接続されて給電を受けることにより、筒状体4内を加熱する。また、筒状体4の底部42には、筒状体4内の温度を測定するための温度センサ45が設けられ、温度センサ45の測定情報は、CPUやメモリー等から構成される筒状体温度制御器46に出力される。筒状体温度制御器46は、温度センサ45の測定情報を受けて電源44からヒータ43に供給される電力量を制御することにより、筒状体4内の温度を調節することができる。このとき、ヒータ43によって、筒状体4内の仕切り板7も加熱されるように構成されていてもよい。
【0021】
筒状体4は、その側壁に側面開口部47を有し、この側面開口部47に面するように膜厚計8が取り付けられている。膜厚計8は、水晶振動子膜厚計等から構成され、その表面に、蒸着によって付着した膜の膜厚を自動計測する。膜厚計8はそれによる膜厚データを蒸着速度制御器37に出力する。開口面41には、筒状体4から被蒸着体2への気化した蒸着材料の流量を制御するための補正板48が設けられている。補正板48は、開閉自在な複数の開口が設けられている。これらの開口は、補正板48の重心を中心とする点対照な位置に形成されている。
【0022】
蒸発源3は、堆塙等の加熱容器31内に蒸着材料32が保持されたものである。加熱容器31は、その開口側が筒状体4の底部42と同じ高さになるように、筒状体4に埋め込まれている。本実施形態の真空蒸着装置1においては、複数の蒸発源3が、筒状体4の底部42の異なる位置に夫々配されている。蒸着材料32には、任意の材料が用いられるが、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる有機半導体材料等の有機材料が好適に用いられる。加熱容器31の周辺部には、蒸発源ヒータ33が配されている。この蒸発源ヒータ33は、電源34に接続されて給電されることにより、加熱容器31及び蒸着材料32を加熱する。加熱容器31には、その温度を測定するための温度計35が設けられ、温度計35の測定情報は、蒸発源温度制御器36に出力される。この蒸発源温度制御器36は、蒸着速度制御器37に接続される。蒸着速度制御器37は、温度計35の測定情報を受けて電源34から蒸発源ヒータ33に供給する電力量を制御することにより、加熱容器31内の温度を調節し、膜厚系8の膜厚データを計測しながら、蒸着速度を制御する。
【0023】
図2(a)(b)に示すように、仕切り板7の開口部70は、仕切り板7の平面視形状における重心Pを中心とする直径Dの円周の範囲内に設けられ、この直径Dは、仕切り板7の外周上における2点間距離のうち最大の値の2/3である。言い換えると、上記仕切り板7の2点間距離の最大の値は、直径Dの3/2である。つまり、開口部70の口径を上述した範囲にすれば、開口部70から被蒸着体2側へ放出される気化材料の流束分布を一様とすることができる。仕切り板7の開口部70が1つである場合には、この開口部70の口径は、仕切り板7の外周上における2点間距離のうち最大の値の1/10を直径とする円周よりも大きいことが好ましい。開口部70の口径が、上記の範囲であれば、蒸発源3から気化した蒸着材料32は、仕切り板7によって大きく妨げられることなく被蒸着体2側へ進行することができる。
【0024】
また、仕切り板7の開口部70が仕切り板7の重心Pに対して点対称となるように設けられていることが好ましい。こうすれば、被蒸着体2に均一に蒸着材料32を付着させることができる。仕切り板7の開口部70は、幾何学形状に形成されている。図2(a)(b)に示したような正円形状に限らず、例えば、図3(a)乃至(d)に示すように、楕円、正方形、長方形、又は正多角形(図例では正六角形)のいずれかであってもよい。更に、図3(e)に示すように、正方形と正円形状の複数の開口部70を組み合わせてもよい。仕切り板7の開口部40の形状は、蒸発源3の位置や蒸着速度等に応じて好適なものが選択される。
【0025】
このように構成された真空蒸着装置1において、被蒸着体2に蒸着材料32を蒸着させるとき、まず、各蒸発源3の加熱容器31にそれぞれ蒸着材料32が収容され、真空ポンプ6を作動させて真空チャンバ5内が真空状態に減圧される。次に、各蒸発源3の蒸発源ヒータ33を発熱させて、各蒸着材料32を加熱すると共に、筒状体4と仕切り板7とが、ヒータ43等によって全ての蒸着材料32を気化させ、且つ分解等させない程度の温度に加熱される。そして、各蒸発源3の蒸発源ヒータ33による加熱によって、各蒸着材料32が溶融から蒸発、又は昇華によって気化すると、気化された蒸着材料は、直接又は蒸着材料32が気化される温度に設定された筒状体4の内壁面及び仕切り板7の両面で反射しながら、筒状体4の開口面41方向へと進行し、補正板48の開口から放出されて、被蒸着体2の表面に堆積する。
【0026】
このとき、各蒸発源3から気化された蒸着材料32は、被蒸着体2と蒸発源3の位置関係や、蒸発源3の形状や傾き等に依らず、仕切り板7の開口部70を通過して、筒状体4の仕切り板7よりも被蒸着体2側の領域へと進行する。そのため、筒状体4の被蒸着体2側の開口面41付近においては、各気化材料の流束分布が一様となり、各蒸着材料32の混合比を、被蒸着体2の全面に渡って均一にすることができる。
【0027】
また、仕切り板7の開口部70が、仕切り板7の重心Pに対して点対称となるように設けられている場合は、各気化材料の流束分布が、筒状体4の開口面41の重心を中心として点対称に整えられる。そして、点対称な流束分布を基に、形状を定められた補正板48によって、被蒸着体2に堆積される膜厚分布を均一にすることができる。
【0028】
本実施形態の真空蒸着装置1を用いてどのような蒸着膜が形成されるかについて、直接シミュレーションモンテカルロ法を用いてシミュレーションを行った。筒状体4として、内壁の幅200mm、奥行き100mm、高さ200mmの直方体状の角筒を用い、筒状体4の加熱温度は300℃とした。また、筒状体4内には2つの蒸発源3が夫々異なる位置に配置されているものとした。一方の蒸発源3(第1の蒸発源)は、筒状体4の底部42の重心に位置し、開口直径30mmの加熱容器31の開口面が筒状体4の底部42の高さにあるものとした。その一方の蒸発源3は、筒状体4の底部42の重心に配置され、開口直径30mmの加熱容器31の開口面が筒状体4の底部42の高さにあるものとした。他方の蒸発源3(第2の蒸発源)は、筒状体4の底部42の重心から筒状体4の幅方向に65mm移動した点を中心とする位置に配置され、開口直径30mmの加熱容器31の開口面が筒状体4の底部42の高さにあるものとした。
【0029】
第1及び第2の蒸発源の各加熱容器31には、いずれもトリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq)が収容されているものと想定し、このAlqの分子量、分子サイズ、蒸発温度等を基にシミュレーションにおける計算条件を定めた。まず、基準として、上記の場合について、被蒸着体2における第1の蒸発源3と第2の蒸発源3の蒸着速度比が1:0.1となるように、各蒸発源3の蒸着速度を定めてシミュレーションを行った。
【0030】
図4は、仕切り板7を備えていない真空蒸着装置、すなわち比較例1の真空蒸着装置を用いたときの、被蒸着体2上に形成された蒸着膜の膜厚分布のシミュレーション結果を示す。同図に示されるように、第1の蒸発源からの気化材料の膜厚分布(△)と第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)とは一致しておらず、特に、第2の蒸発源については、膜厚分布に偏りが生じていることが分かる。このとき、被蒸着体2上の位置によって2つの蒸着材料の混合比に10%程度の差が生じた。
【0031】
図5は、筒状体4の底部42から50mmの高さに仕切り板7を設けた真空蒸着装置(比較例2)を用いたときの膜厚分布のシミュレーション結果を示す。この仕切り板7は、筒状体4内において、蒸発源3側の空間と被蒸着体2側の空間との比が1:3となるように区分けしている。この仕切り板7の開口部70の口径が150mmであり、筒状体4の内壁の幅(200mm)に対して開口部70の口径が3/4となっている。同図に示されるように、上記図4に示した比較例よりは、第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)が均一化されているが、依然として第1の蒸発源からの気化材料の膜厚分布(△)と第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)とは一致していないことが分かる。このとき、被蒸着体2上の位置によって2つの蒸着材料の混合比に8%程度の差が生じた。
【0032】
図6は、仕切り板7の開口部70の口径が133mmであり、筒状体4の内壁の幅(200mm)に対して開口部70の口径が2/3である真空蒸着装置(実施例1)を用いたときの、膜厚分布のシミュレーション結果を示す。同図に示されるように、上記図4及び図5に示した比較例1,2より、第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)が均一化され、第1の蒸発源からの気化材料の膜厚分布(△)と第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)とが一致していることが分かる。このとき、被蒸着体2上の位置によって2つの蒸着材料の混合比に5%程度の差が生じた。つまり、蒸着膜が、被蒸着体2の全面に渡って均一に形成されることが分かる。
【0033】
図7は、仕切り板7の開口部70の口径が100mmであり、筒状体4の内壁の幅(200mm)に対して開口部70の口径が1/2である真空蒸着装置(実施例2)を用いたときの、膜厚分布のシミュレーション結果を示す。同図に示されるように、上記実施例1より、第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)が均一化され、第1の蒸発源からの気化材料の膜厚分布(△)と第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)とが一致していることが分かる。このとき、被蒸着体2上の位置によって2つの蒸着材料の混合比に4%程度の差が生じた。
【0034】
図8は、仕切り板7の開口部70の口径が30mmであり、筒状体4の内壁の幅(200mm)に対して、開口部70の口径が3/20である真空蒸着装置(実施例3)を用いたときの、膜厚分布のシミュレーション結果を示す。同図に示されるように、上記図実施例1,2より更に、第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)が更に均一化され、第1の蒸発源からの気化材料の膜厚分布(△)と第2の蒸発源からの膜厚分布(◇)とが、より一致していることが分かる。このとき、被蒸着体2上の位置によって2つの蒸着材料の混合比に3%程度の差が生じた。
【0035】
これらのシミュレーションの結果は、仕切り板7の開口部70が、重心Pを中心とする直径Dの円周の範囲内に設けられ、直径Dが仕切り板7の外周上における2点間距離のうち最大の値の2/3であることによって、開口部70から被蒸着体2側へ放出される気化材料の流束分布を一様とすることができることを示す。従って、本実施形態の真空蒸着装置によれば、複数の蒸発源を用いた場合においても、被蒸着体2に形成された蒸着膜のムラが発生し難く、所望の膜厚の蒸着膜を形成することができる。
【0036】
上記実施形態の変形例に係る真空蒸着装置について、図9を参照して説明する。この変形例に係る真空蒸着装置1は、仕切り板7が、加熱機構としてヒータ71を有するものである。ヒータ71は、仕切り板7にシーズヒータが埋め込まれる等によって構成される。このヒータ71も、筒状体4等と同様に、電源72に接続されて給電されることにより、仕切り板7を加熱することができる。また、仕切り板7には、仕切り板7自体の温度を測定するための温度センサ73が設けられ、温度センサ73の測定情報は、仕切り板温度制御器74に出力される。仕切り板温度制御器74は、電源72からヒータ71に供給される電力量を制御することにより、仕切り板7の温度を調節することができる。なお、仕切り板温度制御器74は、筒状体温度制御器46に電気的に接続され、仕切り板7の温度が筒状体4と等しくなるように、仕切り板7の温度を調節するように構成されていてもよい。
【0037】
筒状体4の筒径が小さければ、仕切り板7の大きさも小さいので、筒状体4がヒータ43によって加熱されれば、筒状体4の内壁に取り付けられた仕切り板7にも、筒状体4の熱が伝熱される。しかし、筒状体4の筒径が大きくなると、ヒータ43で仕切り板7全体を加熱することができない。そこで、仕切り板7自体にヒータ71を内装させることにより、仕切り板7に蒸着材料32が付着することを抑制することができ、また、開口部70が蒸着材料32によって目詰まり等することを防止することができる。
【0038】
本発明の第2の実施形態に係る真空蒸着装置について、図10乃至図13を参照して説明する。図10及び図11に示すように、本実施形態の真空蒸着装置1は、仕切り板7の平面視形状における外周位置に、開口部70よりも開口面積が小さい補助開口部75を有するものである。
【0039】
蒸発源3が、筒状体4の平面視における中心から離れて配置されていると、仕切り板7の開口部70による均一化の効果が得られ難くなる。そこで、本実施形態においては、仕切り板7の外周位置に補助開口部75を設けることにより、上記中心から離れて配置された蒸発源3からの蒸着材料32が、補助開口部75を介して筒状体4内に分散され、被蒸着体2に付着する膜厚の分布を最適化できる。また、補助開口部75の開口面積を開口部70よりも小さくしているので、他の蒸発源3による膜厚分布に対する影響を少なくすることができる。
【0040】
これら蒸発源3と、仕切り板の開口部70及び補助開口部75との位置関係、及び仕切り板7における補助開口部75の有無よる夫々の膜厚分布について、図12及び図13を参照して説明する。ここでは、図12に示すように、第1の蒸発源3aが筒状体4の平面視における中心に配置され、第2の蒸発源3bが第1の蒸発源3aよりも外周側へ150mmは離れた位置に配置されているものとする。また、筒状体4は、内壁の幅350mm、奥行き100mm、高さ250mmの直方体状の角筒であり、筒状体4の底面42から100mmの位置に仕切り板7が設けられている。仕切り板7の開口部70の開口面積は50cmであり、補助開口部75の開口面積は5cmである。
【0041】
図13に示すように、仕切り板7に補助開口部75が無い場合(□)、第2の蒸発源3bによる膜厚分布に偏りが生じ、幅方向±100mmの範囲で膜厚分布レンジが9.5%となった。これに対して、仕切り板7外周位置に補助開口部75を設けた場合(◇)、膜厚分布レンジは3.4%に改善された。また、補助開口部75の開口面積を、開口部70の1/10にしたので、第1の蒸発源3aによる膜厚分布への影響も少なくすることができた。
【0042】
本発明の第3の実施形態に係る真空蒸着装置について、図14乃至図16を参照して説明する。図14に示すように、本実施形態の真空蒸着装置1は、仕切り板を複数備え、これらの仕切り板は、互いに形状が異なる開口部を有するものである。なお、開口部の形状の相違として、仕切り板における開口部の位置や開口部の個数が相違することも含まれる。ここでは、第1の仕切り板7と、この第1の仕切り板7よりも蒸発源3側に、所定の間隔を空けて設けられた第2の仕切り板9と、を備えた構成に基づいて説明する。第1の仕切り板7は、図15(a)に示すように、仕切り板7の平面視形状における重心Pを中心とする開口部70を有する。また、第2の仕切り板9は、図15(b)に示すように、重心Pに対称な2つの開口部90を有する。これら開口部70、90は、いずれも重心Pを中心とする直径Dの円周の範囲内に設けられ、この直径Dは、仕切り板7の外周上における2点間距離のうち最大の値の2/3である。第1の仕切り板7と第2の仕切り板9との間隔や、各開口部70,90の位置は、例えば、図16に示すように、第1の仕切り板7の開口部70と各蒸発源3とを夫々結ぶ直線上に干渉しない範囲に、第2の仕切り板9の開口部90が配置されるように、設定される。
【0043】
上述したように、筒状体4を平面視したときの中心から離れて配置された蒸発源3ほど、第1の仕切り板7による膜厚分布の均一化の効果が得られ難い。その場合に、例えば、第1の仕切り板7の中心に対し対称に2個の開口部90が設けられた第2の仕切り板9を、第1の仕切り板7の下部に、第1の仕切り板7の開口部70と各蒸発源3とを夫々結ぶ直線上に干渉しない範囲に配置することにより、開口部90が仮想的な蒸発面となり、膜厚分布の均一化の効果を高めることができる。
【0044】
なお、本発明は、上述した実施形態に限らず種々の変形が可能である。例えば、筒状体4内における仕切り板7の設置高さを可変とする駆動機構が設けられてもよい。
【0045】
本願は日本国特許出願2011−151044号に基づいており、その内容は上記特許出願の明細書及び図面を参照することによって本願発明に組み込まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 真空蒸着装置
2 被蒸着体
3 蒸発源
4 筒状体
41 開口面
5 真空チャンバ
7 仕切り板
70 開口部
71 ヒータ(加熱機構)
73 温度センサ(温度調節機構)
75 補助開口部
9 仕切り板
90 開口部
P 仕切り板の平面視形状における重心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
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図16