【実施例】
【0082】
実施例I
縮重ONの特徴付け
図1Aは、カラムに一緒に同時注入された2つのオリゴヌクレオチド調製物のHPLC(疎水性カラムを使用)による分離を詳述する。これらのうちの最初のものは内部標準と呼ばれ、特定の規定された配列を有する21マーホスホロチオエートオリゴヌクレオチドであり、第2はREP 2006(40マー縮重ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド)である。これらの種のどちらも、それらの生理化学的特性(すなわち、サイズおよび疎水性)にのみに基づいて明確な規定されたピークに分離され;これらのONの各々中に存在するヌクレオチドの配列は、それらの生理化学的特性に対し重要な影響を有さず、よって、それらの分離に影響を有さない。したがって、内部標準は、REP 2006に比べ、これら2つのONポリマのサイズの違いによってのみ、より少ない保持時間で明確に規定されたピークとしてカラムから溶離する。REP 2006ピークの両側の肩は、より長いオリゴヌクレオチドの生成において典型的な失敗配列によることに注意されたい。REP 2006の不均一な配列の性質にもかかわらず、非常に多くの異なる配列が存在するが、HPLCにより、REP 2006調製における全ての種の共通の生理化学的特性を示す21マー特定配列と同様に明確に規定されたピークに分離される。REP 2006および21マーピークのHPLC分離後、これらは質量分析(MS)に供することができ、これらの規定されたピーク内に存在する種が特定される(
図1Bおよび1C)。
【0083】
図1Bでは、21マーは、7402.6DaのMWを有する単一種に分解され、規定された配列を有するこのPS−ONと一致する。しかしながら、REP 2006(
図1C)のMS分析は、質量範囲がほとんど完全な正規分布を有する非常に多くの種が存在することを明らかにし、その完全な縮重特性と一致する。この質量範囲はC
40(最小種)〜A
40(最大種)であり、これらの種の出現率は非常に小さく、それらの質量が質量範囲の中心に到達するにつれ、種の数が増加する(ピーク強度)。これは、次第に多くの異なる配列が、同様の質量となるからである。REP 2006中に存在する異なるON種の全てが、HPLC分離中疎水性カラム上で同じ保持時間を有するという事実は、同じサイズの、同じ化学修飾(すなわちホスホロチオエート化)を有するONはすべて、類似性の高い(全く同じではないにしても)生理化学的特性を有し、したがって、特定のON分子中に存在するヌクレオチドの配列に依存しない任意の適用または特性において機能的に類似すると考えることができることを明確に証明する。よって、いかなる特定の縮重ON(例えばREP 2003、REP 2004)を用いて観察された任意のONキレート錯体形成も、存在するオリゴヌクレオチド上の配列に依存することはあり得ず、任意のONの保存された生理化学的特性に依存するはずである。
【0084】
(表1)実施例
IIで使用したON
N=縮重配列(A、G、CまたはTの無作為組み込み)
PS=各結合でのホスホロチオエート化
2'OMe=各リボースでの2'Oメチル化
【0085】
(表1)実施例1で使用したON
N=縮重配列(A、G、CまたはTの無作為組み込み)
PS=各結合でのホスホロチオエート化
2'OMe=各リボースでの2'Oメチル化
【0086】
使用した3'FITC標識オリゴヌクレオチドはREP 2032−FL(6マーホスホロチオエート化縮重オリゴデオキシヌクレオチド)、REP 2003−FL(10マーホスホロチオエート化縮重オリゴデオキシヌクレオチド)、REP 2004−FL(20マーホスホロチオエート化縮重オリゴデオキシヌクレオチド)、REP 2006−FL(40マーホスホロチオエート化縮重オリゴデオキシヌクレオチド)、REP 2031−FL(40マーポリシトシンホスホロチオエート化オリゴデオキシヌクレオチド;配列番号:4)、REP 2107−FL(各リボースが2'Oメチル化により修飾された40マーホスホロチオエート化縮重オリゴヌクレオチド)およびREP 2086−FL(各リボースが2'Oメチル化により修飾された40マー縮重ホスホジエステルオリゴヌクレオチド)であった。これらのONの各々を、1mM TRIS(pH7.2)中の0.5mMストックとして調製した。これらのストックを使用して、FP緩衝液(10mM TRIS、80mM NaCl、1mM EDTA、10mM β−メルカプトエタノールおよび0.1% Tween(登録商標)−20)中3nM蛍光ON溶液を調製した。EDTAが、FP測定前に溶液中に存在する全ての二価金属を除去するために存在した。これらの緩衝溶液の各々はまた、モル過剰の一価カチオンの存在下でのON錯体形成を評価するために80mMのNaClを含んだ(
図1〜12の各グラフにおいて、これは0mM金属塩化物濃度として報告されている)。溶液中の各蛍光ONに様々な量の二価(2+)金属のACSグレード塩化物塩を添加した。これらの塩は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化コバルト、塩化鉄、塩化マンガン、塩化バリウム、塩化ニッケル、塩化銅、塩化亜鉛、塩化カドミウム、塩化水銀よび塩化鉛を含んだ。ダイマーまたはより高次のONキレート錯体の形成を、蛍光偏光の増加によりモニタし(無次元単位「mP」により定量化)、よってONキレート錯体の形成が増加すると、質量のより大きな変化がもたらされるようにした。得られた、溶液中でのこれらのONキレート錯体のより遅いタンブリングは、放射される蛍光の偏光の増加につながる(
図16を参照されたい)。これらの実験の結果を
図2〜13に示す。いずれの場合も、全てのONで、すべての二価カチオンの存在下で蛍光偏光の著しい増加が見られたが、高モル過剰のNa+(NaClとして補給)の存在下では見られず、、これは二価金属カチオンのみとONキレート錯体が形成されることを示す。これらの結果は以下を証明する:
・80mMのNaClの存在下でのONは、ダイマーまたは他のより高次のON錯体のいかなる検出可能な形成をも示さない。
・ONは、下記二価金属カチオンの存在下で、それらが2+荷電状態で存在する場合、ダイマーおよびより高次の錯体を形成する:カルシウム、マグネシウム、コバルト、鉄、マンガン、バリウム、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、水銀および鉛。これらのON錯体の形成は、ONのこれらの二価金属カチオンとの相互作用を含む。
・ON錯体の形成は、試験したONの縮重特性のために、従来のWatson−Crick相互作用を介する窒素塩基間のハイブリダイゼーションによるものではあり得ない。さらに、REP 2031(配列番号:4)は、使用した実験条件下でセルフハイブリダイズすることができない。
・ON錯体の形成は水溶液中で安定であり、可溶であり、これらの錯体は、問題の二価金属を形成された錯体の一部として組み込むと考えられるので、これらのON錯体は、ON錯体が形成された溶液から問題の二価金属をキレートする効果を有する。
・これらの金属のキレート化およびONキレート錯体の形成は縮重オリゴヌクレオチドで観察されるキレート化により証明されるように、特定のヌクレオチド配列に依存せず、また、ホスホジエステル結合または2'リボース部分の修飾を含むヌクレオチド修飾に依存しない。
・これらの金属のキレート化は、6〜40のヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドにより起こる。
・これらの金属のキレート化は、ホスホロチオエート化または2'リボース修飾の有無にかかわらず起こる。
【0087】
この実施例における多くの二価金属カチオンの全てのONとのONキレート錯体の拡張形成はまた、以下を強く示唆する:
・二価カチオンは、ON錯体形成を触媒するが、一価カチオンは触媒しないので、またON錯体形成は、上記で記載されるように塩基ハイブリダイゼーションを介して起こらないので、ONキレート錯体形成は、2つのON間の、カチオン中の空の電子軌道を満たすことができる電子を容易に共有する位置でのいくつかの形態の「金属イオン架橋」が関与するはずである。この「電子共有」を最も受けやすい位置は、ホスホジエステル結合における非架橋酸素(またはホスホロチオエート化の場合硫黄)原子である(
図14Bを参照されたい)。
・二本鎖ONは、DNAまたはRNAに関係なく、同じキレート錯体形成を示すことが予期され、よって、溶液から金属カチオンをキレートする同じ傾向を有する。
・これらの金属架橋は、分子内相互作用は蛍光偏光の有意の増加を引き起こさないので分子間相互作用が関与するはずである(
図15A〜Cおよび16を参照されたい)。
・可溶性ONキレート錯体は、キレート錯体沈殿を形成しないONおよび二価カチオンの任意の濃度で存在する(
図14Dを参照されたい)。
・ONは、二価金属カチオンと塩を形成することはできず、水溶液中で塩として挙動しない。これは、ONと塩を形成し、溶液中塩(電解質)として挙動する一価カチオンとは対照的である(この実施例ではナトリウムにより例示されるが、他の一価カチオン、例えばカリウム、リチウムまたはアンモニウムにも当てはまる)。さらに、この実施例で使用した全てのONは水溶液でアンモニウム塩であったが、アンモニウムイオンはONから解離する可能性があり(塩で予測されるように)、二価カチオンによるONキレート錯体の形成を阻止しない。これは、追加の一価塩(この場合80mMのNaCl)は二価カチオンとのONキレート錯体の形成を妨害しないと考えられるという観察によりさらに強化される。
・ONキレート錯体の形成は2+荷電状態を有する任意の金属、遷移金属、ランタニドまたはアクチニド元素と共に起きることが予測でき、また、3+またはそれ以上の荷電状態で存在することができる金属イオン(例えば、クロム)と共に起こる可能性も高い。
・長さが40マーよりも大きい、または他の修飾を有する、または任意の特定の規定されたヌクレオチド配列を有するONもまた、従来のホスホジエステル結合中の非架橋酸素(硫黄)原子と同じ様に電子を共有することができる結合を含む限り、二価金属カチオンとのONキレート錯体を形成すると予測することができる。
・ON塩(例えば、ナトリウム塩)は、ヒトまたは非ヒト患者内で、例えば限定はされないが以下の二価金属をキレートするのに有用であり得る:カドミウム、水銀、鉛。さらに、ナトリウム塩オリゴヌクレオチドによるいずれの特定の二価金属カチオン(例えば、鉄)のキレート化も、ONナトリウム塩を別の二価金属カチオン(例えば、カルシウム)とのONキレート錯体として調製することにより抑制され得る。
・塩化物塩以外の金属塩もまた、ONキレート錯体の形成を可能にし得る。カルシウム塩を例にとると、ONキレート錯体形成と適合する他のカルシウム塩としては、限定はされないが、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、アスパラギン酸カルシウム、フマル酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、エリソルビン酸カルシウム、および/またはプロピオン酸カルシウムが挙げられる。
【0088】
実施例III
ONは、カルシウムおよびマグネシウムの異なる塩とキレート錯体を形成する
ONキレート錯体形成の普遍的な性質をさらに証明するために、および、ONキレート錯体の形成における二価金属カチオンの異なる塩の有用性をも証明するために、2つの異なる形態のカルシウムおよびマグネシウム塩を使用して、異なる特定配列のONとの様々なONキレート錯体を調製した。使用した塩は、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マグネシウムおよび硫酸マグネシウムであった。使用したONを以下の表2に列挙する。FP反応条件は、EDTA媒介効果なしでのONキレート錯体の形成を証明するためにEDTAを省略したことを除き、実施例1のものと同一であった。
【0089】
(表2)実施例
IIIで使用したON
N=縮重配列(A、G、CまたはTの無作為組み込み)
PS=各結合でのホスホロチオエート化
2'OMe=各リボースでの2'Oメチル化
NA=不適用(配列は縮重)
【0090】
これらの実験の結果を
図17〜24に示し、試験したONは全て、カルシウムおよびマグネシウムの異なる塩とON錯体を形成することができることが証明される。一般的な所見に対する2つの例外はREP 2028−FL(40マーポリG、配列番号:1;
図18Aおよび22A)およびREP 2029−FL(40マーポリA、配列番号:2;
図17Bおよび21B)である。これらのONはどちらもポリプリンであり、とりわけポリGの場合、熱力学的に安定な分子内相互作用(ポリGトラクトの場合「G−カルテット」と呼ばれる)を形成することが知られており、これによって、これらのONはタイトな分子内錯体を形成し、この場合、ホスホジエステルバックボーンはこの錯体内で部分的に折りたたまれる可能性が高く、あるいはもはや、溶液相互作用に参加することができない(同様のキレート錯体形成)。REP 2029−FL(配列番号:2)は、キレート錯体を形成することができることが弱く、これは、おそらく、このONで生じる弱い「A−カルテット」相互作用のためである。よって、ポリAおよびポリGのみを含むONおよび熱力学的に安定な分子内相互作用を形成するアプタマーは本明細書では含まれない。本明細書で含まれるONは完全ポリAまたはポリG ONおよび/またはハプタマーではない。
【0091】
実施例IIの結果はマグネシウムおよびカルシウムの異なる塩形態を使用して、ONキレート錯体を調製することができることを示し、さらに、下記を説明する:
・実施例IIのONは全て(REP 2006−FLを除く)は特定の配列を含み、これらはヘアピンを形成することができる回文構造配列を含まず、これらの配列のいずれも自己相補的ではない。よって、観察されるONキレート錯体形成はいずれも、ハイブリダイゼーションイベントに起因しない。
・REP 2028−FL (配列番号:1)およびREP 2029−FL (配列番号:2)のONキレート錯体を形成する能力の悪さから、ほどけたホスホジエステルバックボーンが、キレート錯体を形成するための2つ以上のONの結合に必要とされるON上の化学的特徴としてホスホジエステルバックボーンを再び示すONキレート錯体形成のためには必要とされることが示唆される。
・ホスホジエステルバックボーンを含むいかなるONも、他の存在する修飾、例えばホスホロチオエート化、2'リボース修飾またはロックド核酸修飾に関係なく、キレート錯体を形成することができると予測される。
・ONキレート錯体は80マー長もの大きさのONおよび80マー長を超えるONと形成させることができ、また、二価金属カチオンの存在下、同じ挙動を示す。
【0092】
実施例IV
二本鎖ONとのONキレート錯体の形成
二本鎖オリゴヌクレオチドは2つの一本鎖相補オリゴヌクレオチドから形成され、これらは水溶液中で、互いにWatson−Crick相互作用を介してハイブリダイズする。二本鎖ONは依然として形成されるDNAへリックスの外側で暴露されたホスホジエステルバックボーンを有するので、二価カチオンの存在下でキレート錯体を形成することができるはずである。この仮説を試験するために、2つの異なる二本鎖DNAオリゴヌクレオチドを、REP 2055−FL(40マーポリAC;配列番号:6)をREP 2033−FL(40マーポリTG; 配列番号:5)と、REP 2057−FL(40マーポリAG;配列番号:8)をREP 2056−FL(40マーポリTC;配列番号:7)とハイブリダイズさせることにより調製した。ONハイブリダイゼーションにより、二本鎖が得られるので、得られた質量の増加は、錯体を調製するために使用した一本鎖ONに対する蛍光偏光の増加により検出することができる。一本鎖ON(REP 2055−FL(配列番号:6)、Rep 2033−FL(配列番号:5)、Rep 2057−FL(配列番号:8)およびREP 2056−FL(配列番号:7))をそれぞれ、1XFP緩衝液中で20nMまで希釈した。上で特定された2つの相補対のハイブリダイゼーションもまた、1X FP緩衝液(10nMの各ON)中で実施し、ハイブリダイゼーションは、蛍光偏光の増加により確認した。二本鎖コンストラクトを次いで、100mM CaCl
2または100mM MgCl
2に暴露させた。Onキレート錯体形成を蛍光偏光のさらなる増加によりモニタした(
図25を参照されたい)。この実験結果により、蛍光偏光の増加により証明されるように、ONの両方の相補対の二本鎖ONへのハイブリダイゼーションの成功が確認された。さらに、CaCl
2またはMgCl
2のいずれかをこれらの二本鎖ONに添加すると、蛍光偏光のさらなる増加が得られ、これらの二本鎖ONはまた、二価金属カチオンの存在下でキレート錯体を形成することができることが示される。これらの結果から、二本鎖ONは任意の二価カチオンとONキレート錯体を形成することができ、前記二価カチオンを溶液から隔離する効果を有することも予測されることが強く示唆される。
【0093】
実施例V
様々な一価カチオンはONとキレート錯体を形成しない
ONキレート錯体の形成は、一価カチオンの存在下で起こり得ず、それらの形成には二価カチオンを明確に必要とすることをより具体的に証明するために、多くのON(実施例2を参照されたい)を用いたON錯体形成を、1つのカチオン源のみを含むFP緩衝液中で観察した。下記塩のうちの1つのみを含み、FP緩衝液中のカチオン濃度は同等であるように、1XFP緩衝液を調製した:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム(全て80mM濃度)。実施例2で記載される蛍光標識されたONを、異なるFP緩衝液中10nMまで希釈し、ONキレート錯体形成を蛍光偏光によりモニタした(
図26を参照されたい)。試験した各ONの場合、キレート錯体形成は、Mg
2+およびCa
2+カチオンのみで観察され、試験した一価カチオン(Na
+、K
+またはNH
4+)のいずれでも観察されなかった。実施例IIIで観察されるように、REP 2029−FL(配列番号:2)およびREP 2028−FL(配列番号:1)は、それぞれ、カルシウムまたはマグネシウムの存在下でわずかな錯体形成を示し、または錯体形成を示さなかった。これにより、さらに、ONは二価カチオンとのみキレート錯体を形成することができ、ONは一価塩と、塩としてのみ存在することができることが確認される。
【0094】
実施例VI
WFIにおいて調製したONキレート錯体中の金属量の評価
ONキレート錯体調製の全てのONへの広い適用性を証明するために、いくつかの異なるONキレート錯体を、表3に示されるようにONおよび
2+金属塩化物塩を用いて調製した。これらの調製において使用した全てのONは、ナトリウム塩であり、これらは、脱塩されてNaCl由来のナトリウムが除去され、最終の凍結乾燥ON中でのON塩形成に不可欠なナトリウムのみが残されていた。ONキレート錯体を注射用水(WFI)中、最初に、処方量のONナトリウム塩を溶解して50mg/ml濃度とし、処方量の二価金属塩化物塩をON溶液に添加することにより調製した。二価金属塩化物添加/ONキレート形成前のON溶液を、ナトリウムおよび関連金属に対し、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)により分析した。ONキレート錯体形成後、試料を限外濾過により5000MWCO再生セルロースフィルタを通して脱塩した。このフィルタは前に遊離塩を透過させるが、ONまたはONに付着されたカチオンは透過しないことが確認されている。残余分溶液(ONキレート錯体を含む)を、ナトリウムおよび金属量に対してICP−OESにより、塩化物量に対しイオンクロマトグラフィーにより分析し、存在する二価金属はON上でキレートされ、残余分溶液中に存在する二価金属塩に由来しないことを確認した(表4)。
【0095】
(表3)
様々なONキレート錯体の調製
N=縮重塩基(A、G、TまたはCの無作為分布である)
PS=ホスホロチオエート
2'OMe=2'Oメチル化リボース
5MeC=5'メチルシチジン
【0096】
(表4)
様々なONキレート錯体溶液中の金属量の確認
【0097】
これらの結果から、20〜60マーの様々な長さ、完全縮重ONから3つの特定配列(ポリC、ポリACおよびポリAG)の配列の変動を有するONにおいて、ホスホロチオエート修飾を有するまたは有さない、2'リボース修飾を有するまたは有さない、およびホスホロチオエートおよび2'リボース修飾を含むONにおいてナトリウムのカルシウム、マグネシウムまたは鉄(2+)による部分置換が確認される。2'Oメチルリボース修飾ONをキレート錯体として製剤化する能力は、任意の他の2'リボース修飾、例えば限定はされないが2'フルオロおよび2'Oメトキシエチルを含むONに拡張することが予測される。さらに、それらは二価金属量の最小増加により、著しいナトリウム置換が達成されることを証明し、
図15で記載されるONキレート錯体構造と一致する。これらの結果はまた、ONキレート錯体を調製するために使用することができる、カルシウム、マグネシウム、鉄(2+)およびカルシウム/マグネシウム混合の塩溶液の様々な組み合わせを証明し、任意の二価金属塩溶液または二価金属塩溶液の混合物を、ONキレート錯体を調製するために同様に使用でき得ることを示す。
【0098】
よって、ONキレート錯体は、完全にホスホロチオエート化されており、またはされておらず、任意の数のホスホロチオエート化結合を含み、少なくとも1つの2'リボース修飾を含むかまたは完全に2'リボース修飾され、あるいは2'リボース修飾を含まないONから調製することができる。ONは、RNAまたはDNAあるいはRNAおよびDNAを含むハイブリッドとすることができる。ONキレート錯体の調製において使用される金属塩としては、限定はされないが、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、任意の他の二価金属塩が挙げられる。
【0099】
実施例VII
生理食塩水中で安定なONキレート錯体の調製
実施例IIおよびIIIにおいて異なる二価金属とのONキレート錯体形成および調製の広く保存される性質について証明してきたが、安定な、可溶性ONカルシウムキレート錯体の調製を、対象にONキレート錯体を投与するためのより適切な賦形剤である生理食塩水中で調べた。この実験のために、生理食塩水に溶解した200mg/mlのREP 2006のナトリウム塩の溶液をON源として使用した。カルシウム源は、WFIに溶解したCaCl
2の10%溶液であった(100mg/ml CaCl
2)。異なるカルシウムおよびREP 2006濃度を使用した様々なREP 2006カルシウムキレート錯体を下記プロトコルに従い、1ml溶液中、室温で調製した(表5を参照されたい):(1)REP 2006をバイアルに添加する、(2)生理食塩水を添加し、混合する、および(3)CaCl
2を添加し、混合する。これらのREP 2006カルシウムキレート溶液を、36日にわたり、沈殿の出現について観察した(表6を参照されたい)。
【0100】
(表5)
様々なREP 2006カルシウムキレート錯体の調製のための条件
【0101】
(表6)
様々なONおよびカルシウム濃度でのREP 2006カルシウムキレート錯体における沈殿の形成
- 澄んだ、透明溶液
+ バイアルの底に非常に少量の白色沈殿
++ 微細なコロイド沈殿、半透明
+++ 微細なコロイド沈殿、不透明
++++ 主に管の底に沈殿、しかし、残留コロイドが存在
+++++ 管の底に沈殿、残りの溶液は澄んでおり、透明である
【0102】
全ての場合において、REP 2006 カルシウムキレートの溶液は、バイアルを静かにひっくり返した場合のバイアルおよび粘性溶液挙動におけるより顕著なメニスカスにより証明されるように、カルシウムが存在しないREP 2006溶液に比べ(試験した全ての濃度)、表面張力の減少および粘度の増加を示した。この溶液挙動は、
図15A〜Cにおいて示される大きな可溶性多量体錯体(キレート錯体)の形成と一致する。沈殿が形成されるそれらのバイアルにおいてさえ、残りの溶液は依然としてこの特徴的な表面張力および粘度増加を示した。これらの溶液中で形成した沈殿は、
図15Dで示されるように、飽和(不溶)ONキレート構造をとり、残りの沈殿していないONおよびカルシウムは溶液中で依然として可溶性キレートを形成することが可能である。これらの挙動は、ON長、化学、構造(一本鎖もしくは二本鎖)または存在する二価金属に関係なく、任意のONキレート錯体の挙動を一般に表すことが予測される。さらに、これらの実験はまた、ONおよびカルシウムの濃度が高くなると、最初に、完全な可溶性錯体を形成することができるが、これらは動的に不安定であり、徐々に可溶性キレート錯体(
図15A〜C)から不溶性キレート錯体(
図15D)に移行する可能性があることを示す。よって、溶液中で安定な可溶性ONキレート錯体を有する表5で示されるものなどのONおよび金属濃度でONキレート錯体を調製することが望ましい。異なるONおよび金属の組み合わせに対し、時間と共に溶液中で可溶なままである可溶性ONキレート錯体が得られる最適ONおよび金属濃度は、表5でREP 2006およびカルシウムに対して示されるそれらの濃度から変動する可能性がある。
【0103】
実施例VIおよびVIIはONキレート錯体の調製において有用であり得る異なる賦形剤中のONおよび二価金属塩濃度の様々な組み合わせを記載し、生理食塩水中で、すぐに沈殿する、徐々に沈殿する、または長期間にわたり完全に可溶性のままであるONキレート錯体溶液が得られる、ONおよび二価金属塩または二価金属塩混合物の組み合わせを記載する。これらの安定性特徴のいずれかを有するONキレート溶液を使用することが有利であり得る。
【0104】
よって、ONキレート錯体は任意のON塩、例えば、限定はされないがONナトリウム塩またはONアンモニウム塩またはナトリウム/アンモニウム混合ON塩を使用して調製することができる。理想的には、ON塩は水性賦形剤、例えば、限定はされないが注射用水または生理食塩水に溶解される。ONキレート形成のために使用される二価金属源は、塩化物塩、硫酸塩または任意の他の薬学的に許容される塩、例えば、限定はされないがグルコン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、アスパラギン酸塩、フマル酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、エリソルビン酸塩、および/またはプロピオン酸塩とすることができる。塩は下記二価金属カチオンのいずれかを含むことができる:カルシウム、マグネシウム、鉄(2+)、マンガン、銅および/または亜鉛。さらに2以上の金属塩の混合物を使用することができる。前記金属塩は粉末形態で直接使用することができるが、好ましくは、ONが溶解されるものと同じ賦形剤中の水溶液として調製される。金属塩は、前記賦形剤中での前記金属塩に対する溶解度の限界までの任意の濃度で調製することができる。ONキレート錯体は好ましくは、塩溶液の添加中にONキレート沈殿物が蓄積するのを防止するために常に混合しながら、金属塩溶液をON溶液に徐々に添加することにより調製される。使用されるONおよび金属塩の濃度に依存して、ONキレート溶液は時間と共に徐々にONキレート沈殿を形成し、または完全に可溶性のままとすることができる(実施例VIIを参照されたい)。
【0105】
実施例VIII
ONによる血清カルシウムのキレート化は血液の抗凝固を引き起こす
特定のONの抗凝固効果については前に記載されているが、本開示におけるONキレート錯体の抗凝固効果を証明するために、非FITC標識ONを、生物学的に適合可能なものとするために高純度ナトリウム塩として調製した。これらのONはREP 2004、REP 2006、REP 2107およびREP 2031(配列番号:4)であり、これらは、実施例1で記載されるそれらのONの非標識バージョンである。様々な濃度のこれらのON(500μlの生理食塩水中)を、クエン酸管中に収集した新5mlの鮮ヒト全血に添加した。これらのONの存在下でのプロトロンビン時間(血液の凝固状態に対して一般に認められている測定値)を一般に認められている臨床検査方法を用いて評価し、等量の生理食塩水の存在下のプロトロンビン時間と比較した。凝固に対する相対効果を比(PTT
オリゴ:PTT
生理食塩水)として表し、正規化比(NR)として報告した。NR=1は通常の凝固状態を示し、NR>1は抗凝固処理された血液を示す。これらの実験の結果を
図27に示す。評価した全てのONに対し、抗凝固の用量依存増加が存在した。
【0106】
REP 2055(配列番号:6)は配列(AC)
20を有する40マーホスホロチオエート化ONである。2.5mMのREP 2055のナトリウム塩の添加の血液凝固状態に対する効果を、上記のように評価した。抗凝固効果が血液からのカルシウムのキレート化によるものであるかを決定するために、REP 2055(配列番号:6)誘導抗凝固に対する様々な量のカルシウム補給(塩化カルシウムの形態)の効果を観察した。この実験の結果を
図28に示す。
図27の結果から予測されるように、2.5mMのREP 2055(配列番号:6)は、血液の顕著な抗凝固を誘導した。この抗凝固は、カルシウムの補給により効果的に抑制され、2.25mMを超える塩化カルシウム濃度では完全に逆転させることができた。これらの結果から、オリゴヌクレオチドの抗凝固効果は、ON投与後血液中でONキレート錯体が形成し、上記実施例で記載されるカルシウムキレート化が得られることにより媒介されることが強く示唆される。さらに、これらの結果は、ONをカルシウムキレート錯体として調製することにより投与されるONのキレート効果を無効にする、ONによる血液の抗凝固を防止するための方法を特定する。カルシウムキレート化の無効化はまた、下記を含むがこれらに限定されない別の二価金属の塩を用いて調製されるONキレート錯体によっても達成され得る:マグネシウム、マンガン、鉄(2+)、銅、および/または亜鉛。オリゴヌクレオチド媒介抗凝固を抑制するこれらの方法は、IVまたは他の投与経路によりヒトまたは非ヒト対象に投与されるオリゴヌクレオチドで有効であると予測することができる。
【0107】
この実験の結果はまた、ONの血清タンパク質との相互作用の性質に関して疑問を投げかける。ON抗凝固の性質の前の仮定は、ONは、凝固カスケードのタンパク質と直接相互作用するというものであったが、我々はこれらのタンパク質の大部分がカルシウム結合タンパク質またはカルシウム依存凝固カスケード(Sheerhan and Lan, 1998, Blood 92: 1617)に関係するタンパク質であることに注目した。ONの血液の抗凝固が、カルシウムを添加することにより無効化することができるという事実、およびONはカルシウムキレート剤として作用するという事実は、以下を示唆する:
・抗凝固に関与するONタンパク質結合は抗凝固にとって必要であるが、十分ではない可能性がある。カルシウム依存タンパク質からのONによるそのキレート化を介するカルシウムの除去が、ONが抗凝固活性を発揮するメカニズムであり得る。
・凝固カスケードの成分とのONタンパク質の相互作用はそれ自体、カルシウム依存性であり得る。
【0108】
主要な血液タンパク質であるアルブミンはまた、カルシウムに結合し、血清カルシウム調節機序の一部である。アルブミンはまた、ONと相互作用することが知られており、血液中でのONの循環半減期において大きな役割を果たす可能性がある。上記抗凝固実験の結果から、血液中でのタンパク質との相互作用のほとんどは、主にONのカルシウムキレート機能により触媒され得ると考えられる。よって、血清タンパク質との相互作用を減少させるために(これはまた、ONの循環半減期を減少させる、およびそれらの非経口投与との耐容性を改善する効果を有する可能性がある)、ONは対象にONキレート錯体として投与することができ得る。これらの錯体は、カルシウム塩から調製することができ得るが、投与された時にカルシウムをキレートするONの傾向を無効にするために他の適切な金属塩からも調製することができる。そのような錯体は、すでにそれらのキレート化活性が無効化されており、よって、血清タンパク質との相互作用が著しく減少されていることが予測される。この血清タンパク質との相互作用の減少の利点は、投与されたON(キレート錯体として)の耐容性の改善、および血液中での遊離ONの半減期の短縮であろう。
【0109】
実施例IX
慢性ON治療による対象における低カルシウム血症の発症および防止
上記実施例で記載されるONによる二価金属カチオンのキレート化がヒト対象において生物学的関連性を有するかをさらに調べるために、慢性ON投与の血清カルシウムに対する効果を、慢性肝疾患を有する患者において調べた。これらの対象は特に、ONキレート化の生物学的効果(もしあれば)を調べるのによく適しており、それは、ビタミンD欠乏を患っていることが示されているからであり、これは典型的には無機質代謝障害および骨密度低下を伴う(Arteh et al., 2010, Dig. Dis. Sci., 55: 2624-2628 and George et al., 2009 World J Gasteroenterol., 15: 3516-3522)。よって、慢性投与されるONのキレート化がヒト対象において二価金属恒常性(例えばカルシウム)を変化させるならば、この変化の効果はこれらの患者において最も容易に観察されるであろう。それは、もし起きた場合、そのような患者はいかなる血清金属の不均衡にも対抗することがあまりできないからである。慢性B型肝炎感染を有する患者(診断された慢性肝疾患を有する)を、1週間に1度ON REP 2055(配列番号:6)(GMPグレードナトリウム塩として)を用いて生理食塩水中の遅いIV注射により処置した。総血清カルシウムレベルを、一般に認められている臨床検査方法により、対象においてモニタした。ON治療を受けた最初の2人の対象は、治療12週以内で著しい低カルシウム血症を発症した(
図29A)。この低カルシウム血症はその重篤度が変化したが、治療後の13週中持続した。REP 2055(配列番号:6)による慢性ON治療を受けた後の対象に、ミネラルサプリメントを与え(カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛を与える)、ON治療のキレート化効果に対抗させた。ミネラルサプリメントを摂取した対象はいずれも低カルシウム血症をON治療中に発症しなかった(
図29B)。これらの結果から、ONのキレート化活動がヒト対象において起こることが証明される。これは、血清カルシウムにより直接観察されたが、他の生物学的に関連する二価金属カチオン、例えばマグネシウム、亜鉛および銅でも起こりえる。さらに、ONキレート化効果により引き起こされる金属欠乏は、ミネラル補給により修正することができ、また、ONをキレート錯体として投与することにより低減させることができる。
【0110】
ONは、ヒト対象中で二価金属カチオンをキレートすることが示されているので、キレートされていないONの投与は、対象における有害重金属、例えば水銀、カドミウム、鉛またはクロム(6+)キレート化に有用であり得る。そのような方法は薬学的に許容されるON塩の適切な賦形剤中での投与を含むこととなり、ONは、配列依存的機能性を有さないように設計され(例えば、限定はされないが、実施例IIIで記載される特定配列ON)好ましくはIV投与によるが、他の非経口経路にもよるであろう。正常な肝機能を有する患者は、起こるであろうカルシウムキレート化に対抗することができると予測されるであろうが、生物学的に重要な二価カチオンの血清欠乏が確実に防止されるようにミネラル補給が提供され得る(実施例IXのように)。そのようなキレートされていないONは、血液中に存在する重金属を隔離し、これらの金属の有害効果を直ちに低減または排除し、また、問題の対象からの排除を加速する可能性もあるであろう。
【0111】
二本鎖ONはまた、ONキレート錯体を形成する(よって、また、二価金属を隔離する)ことも証明されているので、任意の二本鎖核酸(例えば、siRNA)の投与はまた、上記実施例において一本鎖ONに対し記載されるキレート化効果の少なくともいくらかを有するであろうと予測される。よって、二本鎖ONを投与前にキレート錯体として調製することが有利であり得る。
【0112】
実施例X
ONキレート錯体は皮下投与されるオリゴヌクレオチドの注射部位反応を抑制することができる
ヒト患者における皮下投与されたオリゴヌクレオチドによる注射部位反応(ISR)は一般的であり、それらの免疫賦活性を最小に抑えるにように高度に修飾されたオリゴヌクレオチドによってさえもそうである。皮下投与は高濃度オリゴヌクレオチド(典型的には100mg/ml超)の注射を含み、注射部位の周囲に局在するキレート化効果(たいがい、カルシウムであるが、他の二価金属、例えばマグネシウムも可能性がある)はかなりのものであるに違いなく、通常観察されるISRの一因となるであろう。この仮説を試験するために、REP 2055(配列番号:6)またはREP 2139(配列番号:13、全てのリボースが2'O−メチル化され、すべてのシトシン塩基が5'メチル化されているREP 2055類似体)を、皮下投与によりヒト患者に投与した。両方の溶液を無菌的に生理食塩水中で、ナトリウム塩またはカルシウムキレート錯体のいずれかとして調製した(表7および8を参照されたい、実施例VIIIの手順に従う)。患者間の変動を制御するために、各ONの両方の製剤を、同じヒト対象において注射反応性について評価した。対象を、ISRに対し、各注射部位でREP 2055 (配列番号:6)投与後12時間およびREP 2139(配列番号:13)投与後72時間の間モニタした。この実験の結果を表7および8において示す。
【0113】
(表7)
カルシウムキレート錯体としての調製によるREP 2055(配列番号:6)の注射部位反応性の抑制(1ccボーラス注射、20mgCaCl
2/100mg ON)
【0114】
(表8)
カルシウムキレート錯体としての調製によるREP 2139(配列番号:13)の注射部位反応性の抑制(2ccボーラス注射、30mgCaCl
2/100mg ON)
【0115】
これらの結果から、ONをカルシウムキレート錯体として投与すると、2つの異なる皮下投与されたONによるISRが実質的に低減または排除されることが示される。これらの結果から、カルシウム(および潜在的に他の二価金属)のONによるキレート化は、典型的にはONの皮下投与に伴うISRの徴候に影響することがさらに示される。さらに、これらの結果は、任意の皮下投与されたONによるISRを、前記ONをキレート錯体として投与することにより防止するための方法を特定する。これらの実施例において、カルシウムをキレート錯体形成のためのビヒクルとして使用したが、ISRの緩和は、カルシウム以外の別の適切な二価金属を用いて調製されたONキレート錯体でも起こることが予測される。いかなるON金属キレート錯体も、中和されたカルシウムをキレートする傾向を有すると予測され、これは、キレート錯体として投与された場合のONのSC耐容性の改善のための基本的なメカニズムであろう。ONキレート錯体が、オリゴヌクレオチド誘導ISRを抑制する能力は、本明細書における実施例で開示されるONキレート錯体形成の広く保存される性質を考慮すると、任意の特定の配列および/または修飾の任意のONあるいは一本鎖または二本鎖ONに対し有効であると予測される。この実施例では、カルシウムを例示的な二価金属として使用しているが、ONキレート錯体の調製において他のカルシウム塩を使用することができ、皮下投与によるオリゴヌクレオチド媒介ISRに対し同じ抑制効果を有するONキレート錯体が得られることが予測され、例えば、限定はされないがグルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、アスパラギン酸カルシウム、フマル酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、エリソルビン酸カルシウム、および/またはプロピオン酸カルシウムが挙げられる。ONキレート錯体は、他の二価金属カチオン、例えば限定はされないが、マグネシウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛の塩を用いて調製することができる。
【0116】
ONキレート錯体の調製では、二価原子ではないが、同様にオリゴヌクレオチドのキレート化効果を防止することができる他のカチオンを使用することが望ましい可能性がある。これらのカチオンを使用して調製したONキレート錯体はまた、ONによる抗凝固を抑制するため、または皮下投与した場合のONによる注射部位反応を抑制するため、またはON投与後の生物学的に重要な二価金属の隔離を防止するために製剤中で使用することができ得る。そのような対イオンとしては、限定はされないが以下が挙げられる:3+以上の荷電状態の原子または有機カチオン。
【0117】
ONキレート錯体の調製では、二価カチオンの混合物を用いて(すなわち、カルシウムおよびマグネシウム塩を用いて)ONキレートを調製することが好ましい可能性がある。そのような混合ONキレートは、単一の二価カチオンを用いて調製されるキレートよりも製造がより容易であり、より大きな溶解度を有し得、よって、高濃度用途に対しより良好に適合されるであろう。
【0118】
様々なON配列を使用する、様々な修飾を有する、および一本鎖または二本鎖状態にある、および様々な二価金属を使用する上記実施例を考慮すると、ONキレート錯体の形成は、他の修飾に関係なく、ホスホジエステルバックボーン(ホスホロチオエート化されているかどうかに関係なく)を有する任意のおよび全てのONの普遍的な特徴であると考えることができる。したがって、血液または皮下空間中でのONキレート錯体の形成は、ONが塩(典型的にはナトリウム塩)として投与された場合の任意のON投与の通常の特徴であり、このキレート化の二次効果は、問題のONを摂取する特定の対象集団において無症候性であり得るが、二価金属カチオンの隔離が得られるが。重要なことに、ONについて、(ナトリウム塩としての)皮下投与によるISR反応を明確に示すいくつかの例が存在し(PRO-051 / GSK2402968 - Goemans et al., 2011 New England J. Med., 364: 1513-1522 and ISIS 301012 (mipomersen) - Viser et al., 2010, Curr. Opin. Lipidol. 21: 319-323)、これらは実施例IXで観察されるISRに類似し、よって、投与後のONキレート錯体形成の診断となる。これらのONはどちらも異なる配列および2'リボース修飾を有するが、それらはどちらもホスホジエステルバックボーン(どちらもの場合もホスホロチオエート化)を有し、そのため、ONキレート錯体を形成することができ、局所環境から二価金属を隔離することができる(この場合、皮下空間)。さらに、これらのONはどちらも、ONキレート化が起きているが、生物学的効果を行使することができることが示されおり、よって、生物系におけるONキレート錯体は、ONの生物活性を妨害しない。
【0119】
全てのホスホロチオエート化ON(ヌクレオチド配列に関係なく)は、典型的には腎臓および肝臓内で最高薬物濃度を達成することが当技術分野において、広く認められ、よく証明されている。歴史的に、多くの異なるホスホロチオエート化ONの慢性投与は、軽度の肝または腎機能障害を伴っている。これらの機能障害の原因は明確には解明されていないが、一般的にONのキレート化効果が保存されていることを考慮すると、肝臓および腎臓における二価金属のキレート化は、慢性ON投与で顕著となる可能性があり、というのも、キレート化活性は、存在する高濃度のONのためにこれらの器官で最も顕著となり得るからである。ONのキレート錯体としての投与は、器官体内分布を変化させない(または、上記で示されるように生物活性に影響しない)が、肝臓および腎臓における、これらの器官の正常機能に影響する金属欠乏を防止するように作用し得る。
【0120】
ONキレート錯体が溶液中で多量体ON錯体を形成することを考慮すると、これらの錯体はヌクレアーゼ分解に対し、おそらく加水分解に対しずっと大きな抵抗性を有する可能性が高く、ホスホロチオエートONはまた、酸化に対しより抵抗性であり得る。よって、任意のONのキレート錯体としての貯蔵は、水溶液中でのその安定性を著しく増加させ、対象に投与された場合にその生物活性を著しく変化させることがない可能性がある。