特許第5775602号(P5775602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5775602ブレーキアシスト装置およびこのような装置を含む自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775602
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】ブレーキアシスト装置およびこのような装置を含む自動車
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20150820BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   B60T13/74 D
   B60T8/00 C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-543676(P2013-543676)
(86)(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公表番号】特表2013-545672(P2013-545672A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】EP2011072422
(87)【国際公開番号】WO2012080157
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2013年6月12日
(31)【優先権主張番号】1004900
(32)【優先日】2010年12月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ギャフ
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン・カニャック
【審査官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/006996(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/069740(WO,A1)
【文献】 特表2012−512780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
B60T 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用のブレーキアシスト装置であって、倍力装置(1)を含み、
−前記倍力装置(1)が、プランジャピストン(12)と、可動部(8)と、プランジャピストン(12)に対して可動部(8)を所定の位置に固定する手段とを含み、
−前記倍力装置(1)が、制御ロッド(15)により作動され、制御ロッド(15)が、プランジャピストン(12)に当接する第1の端部(14)と、自動車の運転者により移動されるように構成されたブレーキペダルにより及ぼされる応力を受容する第2の端部(22)とを含み、
−前記倍力装置(1)が、プランジャピストン(12)とリアクションディスク(21)との間に介在してプランジャピストン(12)に付与される力をリアクションディスク(21)に伝えるセンサ(18)と、プランジャピストン(12)と可動部(8)との間で圧縮されるスプリング(31)とを含み、
−前記倍力装置(1)が、センサ(18)とリアクションディスク(21)との間の隙間増減させる手段を含む装置において、
前記センサ(18)とリアクションディスク(21)との間の隙間増減させる手段が、前記スプリング(31)に付与される圧縮応力を運転モードに応じて変化させることで、反応型の運転モードにおいて制動が開始される踏力を、穏やかな運転モードにおいて制動が開始される踏力より高くする、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
反応型のブレーキモードから穏やかなブレーキモードに移行するにしたがって、少なくとも50%の著しい差がプラスされる
ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記スプリング(31)は、電気モータ(3)のロータの回転運動をねじ(7)の並進運動に変換する機構により前記圧縮応力を付与されており、前記ねじ(7)が可動部(8)を移動させ、前記スプリング(31)が、プランジャピストン(12)と可動部(8)との接近を妨げる
ことを特徴とする請求項1またはに記載の装置。
【請求項4】
前記スプリング(31)の長手方向の一端に配置された応力センサ(39)を含んでいる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
動は前記反応型の運転モードよりも前記穏やかな運転モードの方が強い増幅を伴って行われる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記スプリング(31)の剛性が11〜22N/mmである
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記スプリング(31)の剛性が、30N/mm以上である
ことを特徴とする請求項1かのいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
可動部(8)に対するプランジャピストン(12)の移動を検知する手段(38)を含んでいる
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記センサ(18)とリアクションディスク(21)との間の隙間を増減させる手段、平衡位置への可動部(8)の戻り遅延するヒステリシスサイクル生じさせる、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
求項1からのいずれか一項に記載のブレーキアシスト装置を含んでいる
ことを特徴とする自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキアシスト装置に関する。本発明は、特に、自動車のブレーキアシスト電動倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、ブレーキアシスト装置が電動倍力装置を含み、この倍力装置が、電気モータのロータをなすナットの回転運動をねじの並進運動に変換して可動部をマスタシリンダに向かって移動させるねじナット機構を含んでいる。倍力装置は、ブレーキペダルによって移動される制御ロッドにより作動される。応力センサは、運転者によりブレーキペダルを介して制御ロッドに付与され得る応力を測定する。
【0003】
マスタシリンダ内の圧力は、ブレーキペダルに及ぼされる応力、いわゆる制動力に応じて変化する。
【0004】
最初に、制動力は、休止位置へのプランジャピストンのリターンスプリングの予備圧縮応力より強くなるように構成されている。倍力装置が休止位置にとどまると、マスタシリンダ内の圧力は一定であり続ける。制動力が増加すると、プランジャピストンのリターンスプリングの予備圧縮応力より強くなって倍力装置が作動される。ところで、倍力装置が休止位置にある場合、単独のプランジャピストンあるいはセンサを備えたプランジャピストンと、可動部との間に軸方向の隙間が存在する。このため、倍力装置の作動によって、一定の応力下でマスタシリンダ内の圧力が急上昇する。したがって、マスタシリンダ内の圧力の急上昇が大きければ大きいほど、運転者にとって、ブレーキペダルへの作用がいっそう有効なものとして感じ取られることが分かる。
【0005】
制御ロッドに付与されるストローク情報は、制御ユニットに伝送され、制御ユニットが、この情報に基づいて電気モータに制御命令を発生し、制御ロッドに及ぼされる応力に対応して可動部を移動させるようにする。
【0006】
そのため、公知の装置は、運転者の運転モードに応じて可動部に対するプランジャピストンのストローク差を変化させることにより、軸方向の隙間の調整を実施することができる。
【0007】
実際には、運転者には複数のカテゴリーがある。なぜなら、運転者の中には、かなり積極的な運転をする人もいれば(これは、スポーツタイプの運転モードと呼ばれる)、かなり穏やかな運転をする人もいるからである(これは、コンフォートタイプの運転モードと呼ばれる)。しかし、従来技術に記載された装置では、スポーツタイプの運転モードを好む運転者によってブレーキペダルに付与される制動力を、コンフォートタイプの運転モードを好む運転者に対して区別することができない。こうした不都合は、コンフォートタイプの運転モードを好む運転者が、車両の制動を開始するためにスポーツタイプの運転モードを好む運転者と同様の応力をブレーキペダルに及ぼさなければならず、またその逆もあることから、ますます好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、従来技術による上記の不都合を解消することを目的とする。このため、本発明は、自動車の速度に対して運転者の運転モードを予め選択または決定し、この運転モードに応じて踏力値を変える手段を提案する。従来式または電動式の制動力増幅装置において、運転者がペダルで感じ取るのは、まず踏力である。ペダルにかかる踏力は、いわゆる制動力の急上昇段階に対応する値までは制動なしに増加する。制動力の急上昇段階が開始されると、制動力増幅装置の使用が開始される。この使用開始により、制動力増幅装置のプランジャが、センサを介してこの増幅装置のリアクションディスクと接する。次いで、ブレーキペダルを追加的に微小移動させるために、制動力増幅装置がマスタシリンダのプッシュロッドを移動させ、それによって制動力を生じさせる。このような制動力の急上昇は、制動力増幅装置のプランジャの位置とマスタシリンダのプッシュロッドとの間の差を補正することによって実施される。その場合、この段階で運転者が感じ取る力は、単に、プッシュロッドからプランジャを離隔するリターンスプリングを圧縮するのに必要な力である。そのため、本発明によれば、コンフォートタイプの運転モードを好む運転者に対する特別な踏力値と、スポーツタイプの運転モードを好む運転者に対する異なる踏力値とを決定することができる。さらに、本発明による装置を装備した車両の場合、同一の制動段階の間に踏力値をダイナミックに変化させることができるので、運転者が感じ取るブレーキペダル位置におけるフィーリングを改善することができる。特に、ジャンプイン段階(「jump in」)のヒステリシスが改善される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、自動車用のブレーキアシスト装置を目的とし、この装置は、倍力装置を含み、
−倍力装置が、プランジャピストンと、可動部と、プランジャピストンに対して可動部を所定の位置に固定する手段とを含み、
−倍力装置が、制御ロッドにより作動され、制御ロッドが、プランジャピストンに当接する第1の端部と、自動車の運転者により移動されるように構成されたブレーキペダルにより及ぼされる応力を受容する第2の端部とを含み、
−倍力装置が、プランジャピストンと可動部との間の接触スペースに挿入されるセンサと、プランジャピストンと可動部との間で圧縮されるスプリングとを含み、
−倍力装置が、運転モードに応じて接触スペース内でプランジャピストンを移動させる手段を含む装置において、
−スプリングが十分に高い剛性を有し、穏やかな運転モードの場合よりも反応型の運転モードの場合の方が著しく高い踏力に対してのみ、制動を開始するようにされていることを特徴とする。
【0010】
本発明は、また、以下の特徴の任意の1つを含んでいる。
−反応型のブレーキモードから穏やかなブレーキモードに移行するにしたがって、少なくとも50%の著しい差がプラスされる。
−圧縮スプリングは、電気モータのロータをなすナットの回転運動をねじの並進運動に変換するねじナット機構により予備圧縮応力を付与されており、ねじが可動部を移動させ、スプリングが、プランジャピストンと可動部との接近を妨げる。
−スプリングの長手方向の一端に配置された応力センサを含む。
−制動開始は、より少ない踏力で行われるが、しかし、反応型のモードよりも穏やかなモードの方が強い増幅を伴って行われる。
−スプリングの剛性が30N/mm以上であり、または11〜22N/mmである。
−運転モードに応じた接触スペース内のセンサの移動手段が、スプリングの予備圧縮応力を変化させる手段と、制御ユニットとを含み、この制御ユニットが、データメモリを介した運転モードの選択に応じてスプリングに付与すべき予備圧縮応力を決定するプログラムを実行可能なマイクロプロセッサを備えている。
−可動部に対するプランジャピストンの移動を検知する手段を含んでいる。
−センサがフローティング式である。
−制御ユニットが、ブレーキペダルの平衡位置または解放位置への可動部の戻りを遅延させるプログラムを含んでいる。
【0011】
本発明は、また、ブレーキペダルにより作動されるマスタシリンダと、マスタシリンダと制御ロッドとの間に配置されるブレーキアシスト電動倍力装置と、この倍力装置の制御ユニットと、マスタシリンダに油圧式に接続されるブレーキとを含み、上記特徴の任意の1つによるアシスト装置を含んでいることを特徴とする自動車を目的とする。
本発明は、添付図面に関して以下の説明を読めば、いっそう明らかになるであろう。これらは、少しも限定的ではなく例としてのみ本発明を示している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1a】本発明による装置を示す概略図である。
図1b】本発明による可動部の細部を示す図である。
図2図2a(Fig2a)及び図2b(Fig2b)は、本発明による装置を備えた車両の運転者の運転モードに応じて、可動部に対するプランジャピストンの位置を示す概略図であり、図2c(Fig2c)は、入力で本発明による装置の制御ロッドに付与される応力に応じて、マスタシリンダの出力における圧力をグラフで示す図である。
図3図3a(Fig3a)及び図3b(Fig3b)は、本発明による装置を備えた車両の運転者の運転モードに応じて、可動部に対するプランジャピストンの位置を示す概略図であり、図3c(Fig3c)は、入力で本発明による装置の制御ロッドに付与される応力に応じて、マスタシリンダの出力における圧力をグラフで示す図である。
図4図4a(Fig4a)及び図4b(Fig4b)は、本発明による装置を備えた車両の運転者の運転モードに応じて、可動部に対するプランジャピストンの位置を示す概略図であり、図4c(Fig4c)は、入力で本発明による装置の制御ロッドに付与される応力に応じて、マスタシリンダの出力における圧力をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
各図において、同じ部材には、同じ参照符号を付している。
【0014】
図1は、本発明によるブレーキアシスト電動倍力装置を示しており、電気モータのステータ3とロータ4とを形成する本体2を内部に含んでいる。倍力装置の本体2は、自動車の乗員室のエンジン区画からの分離カバープレート5に固定されている。
【0015】
ロータ4は、ねじナット機構のナットを形成するように構成され、軸線Xを中心として回転する。ロータ4は、コイル6を含んでおり、ロータは、その回転時に環状リング7からなるねじを並進駆動することができる。
【0016】
倍力装置1は、また、リング7の内部に結合して取り付けられた、軸線Xを有する可動部8を含んでいる。可動部8は、リング7に近い第1の端部9と、このリング7から遠い第2の端部10とを含んでいる。可動部8には長手方向の通路11が貫通し、この通路内でプランジャピストン12が摺動する。
【0017】
プランジャピストン12は、第1の後方端部13で制御ロッド15の第1の前方端部14を収容し、第2の前方端部16によってセンサ18の第1の後方端部17と接触することができる。センサ18は、第2の前方端部19によって、リアクションディスク21の第1の面20と接することができる。リアクションディスク21は、エラストマー等の弾性変形可能かつ圧縮不能な材料から構成される。
【0018】
制御ロッド15は、ブレーキペダル(図示せず)に接続される長手方向の第2の後方端部22を含む。本発明によるブレーキアシスト装置を備えた自動車の運転者は、このブレーキペダルを移動させることができる。
【0019】
リアクションディスク21は、面20の周辺部によって可動部8に当接するように、可動部8の前面24に設けられたハウジング23内に配置される。リアクションディスク21の第2の面25は、プッシュロッド27の第1の後方端部26に当接する。プッシュロッド27は、倍力装置1の応力を伝達するように構成されており、この応力は、運転者がブレーキペダルに付与する応力の増加関数、たとえばアフィン増加関数である。プッシュロッド27から送られる応力は、第2の前方端部30によりマスタシリンダ29のピストン28に伝達される。
【0020】
倍力装置1の休止位置で、センサ18とリアクションディスク21の面20の中央部分との間に軸方向の隙間が設けられている。この隙間は、倍力装置1の圧力の急上昇の高さを決定することができる。さらに、こうした急上昇については、電動倍力装置の制御プログラムによって修正可能である。
【0021】
本発明において、休止位置とは、倍力装置1の非作動位置を意味し、すなわち、運転者がブレーキペダルを付勢していない状態を意味する。
【0022】
倍力装置1は、また、弾性手段31を含んでおり、本発明の好適な実施例では、この弾性手段が、円筒形のリターンスプリングである。リターンスプリング31は、可動部8とプランジャピストン12との間で予備圧縮応力を付与されている。予備圧縮応力という用語は、プランジャピストン12および可動部8によってスプリング31に付与される最初の緊張力に相当する。このようにして、スプリング31は、可動部8にプランジャピストン12が接近しないようにしている。
【0023】
図1bは、本発明による可動部8の細部を示す図である。この図は、可動部8が、軸線Xに対して同心の2個の円筒部32、33から形成されていることを示しており、いわば外側にある第1の円筒部32が、可動部8の本体を形成している。円筒部32は、プランジャピストン12を全体として通過させるのに十分な内径を有している。いわば内側にある第2の円筒部33は、プランジャピストン12のヘッド34を通過可能にするのに十分な内径を有している。本発明において、プランジャピストン12のヘッド34とは、可動部8のシリンダ33に挿入可能なプランジャピストン12の部分を意味する。可動部8の内側の円筒部33と外側の円筒部32は、2個の円筒部32、33に同心の円形リング35を介して、互いに結合されている。円筒部32、33の間に画定されるスペースが、スプリング31を収容するためのハウジングを形成する。円筒部33は、その内面に円形リング36を含んでいる。円形リング36は、センサ18の末端部37を通過させることが可能な中央穴を含む。センサ18は、リアクションディスク21と、センサ18の行程終了ストッパを形成するリング36との間で移動する。
【0024】
本発明では、可動部8とプランジャピストン12との移動を検知する手段38が設けられている。こうした検知により、制御ユニット40を介して電気モータ3の作動を制御し、プランジャピストン12に対して可動部8を移動させることができる。
【0025】
倍力装置1は、さらに、スプリング31の長手方向の一端に配置された応力センサ39を含む。応力センサ39は、可動部8に対してスプリング31により付与される応力の値を、たとえば休止位置で検知することができる。応力センサ39により取り出された応力値は、制御ユニット40に伝達されて基準値Vrefの役割を果たす。
【0026】
本発明では、ねじナット機構のねじのピッチを可逆式にすることができる。換言すれば、ねじのピッチによって、マスタシリンダ29に含まれる圧力と、倍力装置のリターンスプリング(図示せず)との作用だけで、ねじを休止位置に戻すことができる。したがって、リング7と可動部8をマスタシリンダ29に向かって移動させる回転方向とは反対の回転方向にロータ4を回転させる必要はない。そのため、電気モータ3を作動させなくても可動部8を休止位置に戻すことができる。
【0027】
本発明において、可動部8とリング7とからなる機構は、電気モータ3または制御ユニット40の故障時に、ねじナット機構の部品の1つにより形成される障害物に遭遇することなくマスタシリンダ29に伝達される制動力を運転者が及ぼすことができるように形成される。
【0028】
制御ユニット40は、通信バス44を介してマイクロプロセッサ43に接続されるプログラムメモリ41とデータメモリ42とを含んでいる。制御ユニット40は、別の通信バス45を介して倍力装置の各部材に接続される。2個の通信バスは、入力/出力インターフェース46を介して相互接続されている。1つの実施形態では、車両は、反応型の運転モードMRまたは穏やかな運転モードMCに運転者の運転モードを選択可能にする外部セレクタ47を備えている。別の実施形態では、制御ユニット自体が、以前に行われた制動のタイプおよび/または同様の制動のタイプの予め決められた期間にわたる車両の速度に応じて、車両の運転モードを決定する。制御ユニット40により実施される作動は、マイクロプロセッサ43により命令される。マイクロプロセッサは、プログラムメモリ41に記録された命令コードに対する応答として、本発明による倍力装置1の各部材に対する命令を発生する。部材とは、電気モータ3と、倍力装置1に接続されるセンサ38、39からなる機構であると理解されたい。
【0029】
次に、車両の運転者がブレーキペダルを付勢する場合の、本発明による倍力装置1の動作について説明する。
【0030】
第1の段階では、運転者が車両のブレーキペダルに付勢することを望む。運転者は、まずペダルに応力をかけ始め、この応力が、制御ロッド15によりプランジャピストン12に、次いでセンサ18に伝えられる。この第1の段階の間、マスタシリンダ29には、いかなる圧力も生じない。
【0031】
第2の段階では、制御ロッド15の応力がスプリング31の負荷と等しくなり、その場合、ストロークセンサは、基準値Vrefに対する制御ロッド15とプッシュロッドとの相対位置の変化を検知する。相対位置の変化に関する情報は、制御ユニット40に伝達される。そこで、制御ユニット40は、命令を出して電気モータ3を制御し、ねじナット機構を介して可動部8を移動させ、それによって、可動部8とプランジャピストン12とが、それらの互いの休止位置、いわば平衡位置に配置されるようにする。この第2の段階は、センサ18がリアクションディスク21と接すると終了する。
【0032】
第3の段階では、リアクションディスクに接するセンサ18のスラストによって、ブレーキペダルに付与される入力時の応力に比例する圧力を倍力装置1の出力で得る。
【0033】
第4の段階では、リング7が、ロータ4に対して軸方向の最大位置に到達する。このような場合、可動部8は、もはや前進することができず、運転者により制御ロッド15に供給される追加応力だけをマスタシリンダ29に伝達することができる。
【0034】
第5の最終段階では、運転者がブレーキペダルを一部または全部解放する。この場合、制御ロッド15は、後方に向かってその休止位置に押し戻される。スプリング31は、その休止位置に対してゆるめられる。ストロークセンサ39は、基準値Vrefに対するプッシュロッドおよび制御ロッドの相対的な位置変化を検知する。制御ユニット40は、この相対位置の値を分析し、この値が基準値Vref未満であると判断して、状況が休止位置または制動減少位置における倍力装置1の戻り段階に関与すると結論し、可動部8を後退させて、プランジャピストン12に対して可動部が平衡位置に戻れるようにすることができる。ねじのピッチが可逆式であるので、マスタシリンダおよびリターンスプリングにおける圧力は、リング7と可動部8とをそれらの後方休止位置に戻すのに十分である。その場合、電気モータ3は、可動部の後退を妨げるトルクを及ぼして、制動力を保持する。
【0035】
制御ユニット40は、運転者の運転モードの選択に応じて圧力急上昇値のダイナミック調整48を実施可能である。実際、車両の速度または運転者によりなされる事前選択に応じて、制御ユニット40は、予め決められた期間について、運転者の運転モードを決定する(49)。運転者が、穏やかなタイプすなわちコンフォートタイプの運転モードを有する場合(図2a)、制御ユニット40は、可動部8がマスタシリンダ29に向かって移動する方向にロータ4の回転を制御する命令を出す。運転者が、反応型すなわちスポーツタイプの運転モードを有する場合(図2b)、制御ユニット40は、可動部8が制御ロッド15に向かって移動する方向にロータ4の回転を制御する命令を出す。リアクションディスク21とセンサ18との間またはセンサ18とプランジャピストン12との間に存在する軸方向の残留隙間は、可動部8とプランジャピストン12との移動の検知手段38により取り出された値に応じて、制御ユニット40により調節される。図2cは、車両の運転者の運転モード(反応型または穏やかな運転モード)に応じた圧力の急上昇値Vsautのダイナミック調整プログラム48をグラフで示す図である。このグラフは、運転者により制御ロッド15に及ぼされる応力の関数としてマスタシリンダ29の出力における圧力を示している。このグラフでは、制御ユニット40が、プランジャピストン12に対する可動部の位置制御、したがってセンサ18の位置制御を実施し、運転モードに応じて、センサ18とリアクションディスク21との間に存在する軸方向の残留隙間の値を決定することが分かる。軸方向の残留隙間の値を調節することによって、運転者の運転モードに応じて圧力の急上昇Vsautr、Vsautcの高さをダイナミック調整することができる。そのため、ブレーキペダルに付与される応力が同じである場合、曲線48aの穏やかなタイプの運転モードの運転者がマスタシリンダ29の出力で有する圧力急上昇値Vsautcは、曲線48bの反応型タイプの運転モードの運転者のための圧力急上昇値Vsautrよりも高い。
【0036】
制御ユニット40は、また、車両の運転モードに応じた踏力値のダイナミック調整を実施可能である。換言すれば、予め決められた期間にわたる車両の速度または事前の選択に応じて、制御ユニット40は、マスタシリンダ29の出力で圧力の開始を得るためにブレーキペダルに付与すべき入力時の応力を修正する(50)。そのため、本発明は、運転者によるブレーキペダルの付勢が開始されるとすぐに、可動部に対するプランジャピストンのストローク差を修正して、スプリング31の予備圧縮応力を調節することを推奨するものである。
【0037】
従来技術では、使用されるリターンスプリング31の剛性が非常に小さかった。その剛性は、約3N/mmであった。従来技術では、調整の問題によって可動部に対するセンサのストロークが変化した場合、ジャンプイン段階の間は、応力変化を小さくしなければならなかった。
【0038】
本発明は、従来技術でもともと使用されていたスプリング31の代わりに、十分に高い剛性を有するスプリング31を使用し、穏やかな運転モードの場合よりも反応型の運転モードの場合の方が著しく高い踏力に対してのみ、制動を開始するようにすることからなる。スプリングの剛性は、反応型の制動モード(図3b)から穏やかな制動モード(図3a)に移行するのに応じて、少なくとも50%の著しい差が追加されるようなものとされる。本発明によるスプリング31により、制動開始は、より少ない踏力で行われるが、しかし、反応型のモードよりも穏やかなモードの方が強い増幅を伴って行われる。本発明では、スプリング31の剛性が、有利には、30N/mm以上である。
【0039】
この点に関して、本発明は、リアクションディスク21とプランジャピストン12との間に形成される接触スペース内で、運転モードに応じてセンサ18を移動させる手段を含む。これらの移動手段は、スプリング31の予備圧縮応力を変える手段と、制御ユニット40とを含む。制御ユニット40は、データメモリ42を介した運転モードの選択に応じてスプリングに付与すべき予備圧縮応力を決定するプログラムを実行する。図3cは、車両の運転モードに応じた踏力のダイナミック調整プログラム50をグラフで示す図である。この調整は、運転モードに応じてスプリング31に付与される予備圧縮応力を決定することによって得られる。
【0040】
その結果、スプリングの剛性が高いので、リアクションディスクとセンサ部材との間の隙間が運転者の運転モードに応じて増加または減少すると、これは、踏力がそれに比例して著しく変化することを意味する。そのため、本発明によるスプリングによって、アシスト性を高めた期間、言い換えれば有効な制動段階が行われる期間を、ブレーキペダル位置の踏力と結合することが可能である。図3aに関連する曲線50aは、ブレーキペダルに付与される応力が図3bに関連する曲線50bの半分未満で踏力に達することを示している。
【0041】
本発明は、また、高い剛性のスプリングを使用することにより、運転者によりブレーキペダルに付与される応力が周期的に変化する場合のヒステリシスサイクル(図4c)を決定することができる。実際、スプリング31の剛性は、より大きな応力変化を発生する。換言すれば、倍力装置1が、ブレーキアシスト段階にあって(図4a)、運転者がブレーキペダルを部分的に解放する場合(図4b)、プランジャピストン12に対して可動部8がその平衡位置に移動すると、制御ユニット40が遅延を発生する。その場合、スプリング31は、その剛性のためにわずかにゆるんで、入力で付与される応力を減少し、それによってヒステリシスサイクルを形成する。このようにして、本発明は、ジャンプイン段階の間、ブレーキペダルでよりよいフィーリングを得られるようにしている。
図1a
図1b
図2
図3
図4