【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の側面は、FMステレオ電波受信機のオーディオ信号を改善する装置に関する。本装置はステレオ・オーディオ信号を生成する。改善されるべきオーディオ信号はL/R表現でのオーディオ信号、すなわちL/Rオーディオ信号であってもよいし、あるいは代替的な実施形態ではM/S表現でのオーディオ信号、すなわちM/Sオーディオ信号であってもよい。通常のFM電波受信機はL/R出力を使うので、典型的には、改善されるべきオーディオ信号はL/R表現でのオーディオ信号である。
【0010】
本発明の例示的な実施形態として、本装置は、中央信号およびサイド信号を含むFM電波信号を受信するよう構成されたFMステレオ電波受信機のためのものである。
【0011】
本装置は、パラメトリック・ステレオ(PS)パラメータ推定段を有する。パラメータ推定段は、周波数によって変わるまたは周波数不変な仕方でL/RまたはM/Sオーディオ信号に基づいて一つまたは複数のPSパラメータを決定するよう構成されている。前記一つまたは複数のパラメータは、チャンネル間強度差(IID[inter-channel intensity differences]、あるいはCLD[channel level differences チャンネル・レベル差]とも呼ばれる)を示すパラメータおよび/またはチャンネル間相互相関(ICC[inter-channel cross-correlation])を示すパラメータを含んでいてもよい。好ましくは、これらのPSパラメータは時間および周波数によって変わる。
【0012】
さらに、本装置は、アップミックス段を有する。アップミックス段は、第一のオーディオ信号および前記一つまたは複数のPSパラメータに基づいて前記ステレオ信号を生成するよう構成されている。
【0013】
第一のオーディオ信号は、L/RまたはM/Sオーディオ信号から、たとえばダウンミックス段におけるダウンミックス動作によって得られる。第一のオーディオ信号は、L/R表現の場合、公式DM=(L+R)/aに従ったダウンミックス動作によってオーディオ信号から得られてもよい。ここで、DMが第一のオーディオ信号に対応する。たとえば、パラメータaは2であるよう選択される。DM=(L+R)/aの場合、第一のオーディオ信号は本質的には受信された中央信号Mに対応する。より進んだ適応ダウンミックス方式では、公式DM=L/a
1+R/a
2に従って二つのチャンネルを組み合わせるための二つのパラメータa
1、a
2が異なっていてもよく、および/またはPSパラメータおよび/または他の信号属性に依存してもよい。
【0014】
FMステレオ電波受信機の出力におけるM/S表現の場合、第一のオーディオ信号は単に該出力におけるM/Sオーディオ信号のM信号に対応していてもよい。
【0015】
PSパラメータ推定段は、PSエンコーダの一部であることができる。アップミックス段はPSデコーダの一部であることができる。
【0016】
本装置は、ノイズのため、受信されるサイド信号が、単に受信される中央およびサイド信号を組み合わせることによってステレオ信号を再構成するには十分良好でないことがありうるが、それでも、この場合、サイド信号またはL/R信号中のサイド信号の成分はPSパラメータ推定段におけるステレオ・パラメータ解析のためには十分良好であることがありうるという発想に基づいている。すると、これらのPSパラメータはステレオ信号を再構成するために使用されることができる。
【0017】
このように、本装置は、サイド信号における中間的なまたさらには大きなノイズの条件のもとで、改善されたステレオ受信を可能にする。本明細書では、用語「ノイズ」は通例、(放送されている実際のオーディオ信号に由来するノイズ様の信号成分ではなく)電波伝送チャンネルの制限から導入されるノイズを指すことを注意しておくべきである。
【0018】
ステレオ・オーディオ信号を生成するために受信されたノイズのあるサイド信号を使う代わりに、受信機において生成される改善されたサイド信号が使用されてもよい。改善されたサイド信号は、PS符号化からの技法を援用して生成されてもよい。そうした技法は、たとえば、入力としての第一のオーディオ信号に対して作用する脱相関器によって改善されたサイド信号の諸成分を生成することを含む。受信条件についてのデータおよび/または受信されるステレオ信号の解析が、改善されたサイド信号の生成やオーディオ出力信号の生成を適応的に制御するために使用されることができる。
【0019】
もう一つの実施形態によれば、本装置はさらに、第一のオーディオ信号に基づいて脱相関された信号を生成するよう構成された脱相関器を有する。アップミックス段は、前記第一のオーディオ信号、前記一つまたは複数のPSパラメータおよび前記脱相関された信号または少なくとも前記脱相関された信号の周波数帯に基づいて前記ステレオ信号を生成してもよい。
【0020】
たとえば受信されたサイド信号のノイズが低い良好な受信条件の場合には、脱相関された信号を使う代わりに、アップミックス段は、受信されたサイド信号をアップミックスのために使ってもよい。したがって、ある実施形態によれば、アップミックのために、選択的に、受信されたサイド信号または脱相関された信号が使われる。より好ましくは、選択は周波数によって変わる。たとえば、アップミックス段は、より低い周波数については受信されたサイド信号を使ってもよく、より高い周波数については擬似サイド信号として脱相関された信号を使ってもよい。周波数が高いほどノイズ密度が大きくなるからである。これは、電波チャンネル上の加法性(白色)雑音の場合のFM復調の典型的な属性である。このことは、本明細書でのちに詳しく説明する。
【0021】
受信されたサイド信号またはその少なくとも一つまたは複数の周波数成分は、第一の信号が中央信号に対応する場合、アップミックスのために使用されてもよい。(第一のオーディオ信号を生成するための(L+R)/aとは異なる)異なるダウンミックス方式の場合、受信されたサイド信号を使う代わりにアップミックスのために残差信号が使用されてもよい。そのような残差信号は、もとのチャンネルをそのダウンミックスおよびPSパラメータによって表現することに関わる誤差を示し、しばしばPSエンコード方式において使われる。受信されたサイド信号の使用に対する上記のコメントは、残差信号にも当てはまる。
【0022】
アップミックスのための受信されたサイド信号と脱相関されたサイド信号との間の選択は、信号に依存していてもよい、あるいは換言すれば信号適応性であってもよい。
【0023】
さらにもう一つの実施形態によれば、選択は、信号強度のような電波受信インジケータによって示される受信条件および/または受信されたサイド信号の品質を示すインジケータに依存する。良好な受信条件(すなわち高い強度)の場合、好ましくは受信されたサイド信号がアップミックスのために使用されることができる(場合によっては、最も高い諸周波数については除く)。一方、中間的な受信条件(すなわち、より低い強度)の場合、脱相関された信号がアップミックスのために使用されることができる。
【0024】
サイド信号上のノイズのレベルが高い非常に悪い受信条件では、FM受信機は、オーディオ信号のノイズを低下させるために、モノ出力モードに切り換えてもよい。FM受信機の出力におけるL/Rステレオ・オーディオ信号の場合、出力における両チャンネルはモノ再生では同じ信号をもつ。FM受信機の出力におけるM/Sステレオ信号の場合、出力におけるSチャンネルはミュートされる。モノ出力モードでは、FM受信機のオーディオ信号においてステレオ情報が欠けている。よって、PSパラメータ推定段は、アップミックス段において真のステレオ信号を生成するのに好適なPSパラメータを決定することができない。非常に悪い受信条件においてFM受信機がモノ出力モードに切り換えない場合でも、FM受信機の出力におけるオーディオ信号は、意味のあるPSパラメータの推定のためには悪すぎることがある。
【0025】
本装置は、FM受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したかどうかを検出するよう構成されることができ、および/またはそのような貧弱な受信条件(意味のあるPSパラメータの推定には貧弱すぎる受信条件)に気づくよう構成されることができる。モノ出力を検出する場合またはそのような貧弱な受信条件を検出する場合、アップミックス段は擬似ステレオ信号を生成してもよい。アップミックス段は、上記で論じたように、推定されたパラメータの代わりに盲目的なアップミックスのための一つまたは複数のアップミックス・パラメータを使う。このモードは、擬似ステレオ動作または盲目的アップミックス動作と称される。
【0026】
盲目的アップミックス動作は、この場合、貧弱な受信条件を検出またはモノ出力を検出し、よって盲目的なアップミックス動作を開始したのち、FM受信機の出力信号における空間的な音響情報が――そもそも存在していれば――アップミックス・パラメータを決定するために使用されず、よってアップミックスのために考慮されないことを規定する(FM受信機の出力においてすでにモノ出力がある場合には、空間的音響情報は存在せず、よって全く考慮できない)。アップミックス段の出力信号におけるサイド信号を再構成するためにPSパラメータが決定される、上記で論じたPS動作モードとは対照的に、盲目的アップミックス動作では、本装置は、アップミックス段の出力信号におけるサイド信号を再構成することは目指さない。
【0027】
しかしながら、盲目的アップミックスというのは、本装置が、アップミックス・パラメータが必ずFM受信機の出力信号と独立であるという意味で「盲目である」ことを意味するのではない。たとえば、FM受信機の出力信号は、音楽であるか発話であるかモニタリングされてもよく、それに依存して、適切なアップミックス・パラメータが選択されてもよい。
【0028】
盲目的アップミックスのための一つの実施形態は、事前設定されたアップミックス・パラメータを使うものである。事前設定されたアップミックス・パラメータは、デフォルトのまたは記憶されたアップミックス・パラメータであってもよい。
【0029】
にもかかわらず、使用されるアップミックス・パラメータは、信号に依存していてもよい。たとえば、発話のためのアップミックス・パラメータと音楽のためのアップミックス・パラメータといった具合に。この場合、本装置はさらに、オーディオ信号が主として発話であるか音楽であるかを検出する発話検出器(たとえば、発話/音楽弁別器)を有する。たとえば、純粋な音楽の場合、アップミックス・パラメータは、ダウンミックス信号およびその脱相関されたバージョンが混合されるよう選択されてもよい。一方、純粋な発話の場合には、アップミックス・パラメータは、ダウンミックス信号の脱相関されたバージョンが使われず、ダウンミックス信号だけが「モノ」の左/右信号のために使用されるよう、選択されてもよい。発話と音楽の混合であるオーディオ信号の場合には、純粋な発話のためのアップミックス・パラメータと純粋な音楽のためのアップミックス・パラメータとの間である盲目的アップミックス・パラメータが使われてもよい。さらに、中間のあらゆる状態についての補間されたアップミックス・パラメータを使うこともできる。
【0030】
モノ信号のさらに一層高度な解析が実行され、それが「人工的に生成された」または「合成的な」PSパラメータを導出するために基礎として使われる、擬似ステレオに対する進んだ盲目的アップミックス方式が構想されることができる。
【0031】
実際上ノイズのみをもつサイド信号については、本装置は好ましくは、上記で論じたように擬似ステレオ・モードに切り換わる。上記のように、ここでの用語「ノイズ」は、FM放送送信機に送られたもとの信号に含まれているノイズではなく、劣悪な電波受信(すなわち、電波チャンネル上での低い信号対雑音比)によって導入されるノイズを指す。
【0032】
しかしながら、ほとんどノイズのない、すなわちFM電波伝送に由来するノイズがほとんどないサイド信号については、本装置は好ましくは、パラメトリック・ステレオ・モードではなく通常ステレオ・モードに切り換わる。通常ステレオ・モードでは、本装置の信号改善機能は本質的には非アクティブ化される。非アクティブ化のために、装置の入力における左/右オーディオ信号が本質的には本装置の出力にフィードスルーされてもよい。
【0033】
あるいはまた、非アクティブ化のために、(脱相関された信号ではなく)受信されたサイド信号のみがアップミックス段で第一のオーディオ信号と混合される。アップミックス段におけるアップミックス・パラメータを適切に選択するとき、アップミックス段の出力信号はFM送信機の出力信号に対応する。たとえば、第一のオーディオ信号DMと受信されたサイド信号S
0を
DM=(L+R)/2およびS
0=(L−R)/2の場合、L'=DM+S
0 および R'=DM−S
0
に従って組み合わせるときである。
【0034】
より好ましくは、いくつかの場合には、通常のステレオ・モードまたはパラメトリック・ステレオ・モードが周波数によって変わる仕方で選択されてもよい。すなわち、異なる周波数帯について選択が異なっていてもよい。受信されるサイド信号についての信号対雑音比は特徴的にはより高い周波数についてより悪くなるので、これは有用である。上記で論じたように、これはFM復調の典型的な属性である。
【0035】
本発明の第二の側面は、FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいてステレオ信号を生成する装置に関する。本装置は、FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したことに気づくよう構成されている、あるいは本装置は、貧弱な電波受信に気づくよう構成されている。本装置は、ステレオ・アップミックス段を有する。アップミックス段は、本装置がFMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したことに気づく場合または本装置が貧弱な受信に気づく場合に、第一のオーディオ信号および盲目的アップミックスのための一つまたは複数のアップミックス・パラメータに基づいてステレオ信号を生成するよう構成されている。第一のオーディオ信号は、左/右または中央/サイド・オーディオ信号から得られる。
【0036】
盲目的アップミックスのためのアップミックス・パラメータは、デフォルトのまたは記憶されたパラメータのような、事前設定されたパラメータであってもよい。
【0037】
本装置は、サイド信号に対するノイズのレベルが高い非常に劣悪な受信条件の場合に、低レベルのノイズをもつ擬似ステレオ信号の生成を許容する。そのような受信条件では、FM受信機はオーディオ信号のノイズを減らすためにモノ・モードに切り換わってもよい。さもなければ、L/RまたはM/Sオーディオ信号は、意味のあるPSパラメータの推定のためには劣悪すぎることがありうる。このことが検出され、するとアップミックス・パラメータ盲目的アップミックスが、擬似ステレオ信号を生成するために使われる。これは、本発明の第一の側面との関連ですでに論じた。
【0038】
これも本発明の第一の側面との関連で論じてあるが、本装置は、FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したかどうかを検出するための検出段を有していてもよい。
【0039】
ある例示的な実施形態によれば、本装置はさらに、FM送信機の出力におけるオーディオ信号が主として発話であるか否かを示す発話検出器のようなオーディオ型検出器を有する。この場合、アップミックス・パラメータは、発話検出器の指示に依存する。たとえば、本装置は、本発明の第一の側面との関連で詳細に論じたように、発話の場合にはアップミックス・パラメータを使い、音楽の場合には異なるアップミックス・パラメータを使う。
【0040】
本発明の第二の側面に基づく本装置はさらに、本発明の第一の側面に基づく装置の特徴を含んでいてもよいし、逆に、本発明の第一の側面に基づく装置が本発明の第二の側面に基づく装置の特徴を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の第三の側面は、中央信号およびサイド信号を含むFM電波信号を受信するよう構成されたFMステレオ電波受信機に関する。本FMステレオ電波受信機は、本発明の第一および第二の側面に基づくオーディオ信号を改善する装置を含む。
【0042】
本発明の第四の側面は、携帯電話のようなモバイル通信装置に関する。本モバイル通信装置は、FM電波信号を受信するよう構成されたFMステレオ受信機を有する。さらに、本モバイル通信装置は、本発明の第一および第二の側面に基づくオーディオ信号を改善する装置を有する。
【0043】
本発明の第五の側面は、FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・オーディオ信号を改善する方法に関する。第五の側面に基づく方法の特徴は、第一の側面に基づく装置の特徴に対応する。一つまたは複数のPSパラメータが、周波数によって変わるまたは周波数不変な仕方で左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいて決定される。ステレオ信号は、前記第一のオーディオ信号および前記一つまたは複数のPSパラメータに基づいて、アップミックス動作によって生成される。
【0044】
本発明の第一の側面に対するコメントは、本発明の第五の側面にも当てはまる。
【0045】
本発明の第六の側面は、FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいてステレオ信号を生成する方法に関する。第六の側面に基づく方法の特徴は、第二の側面に基づく装置の特徴に対応する。FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したことが感知される、あるいは代替的な実施形態では、貧弱な電波受信が感知される。FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択した場合または貧弱な電波受信の場合、ステレオ信号は、第一のオーディオ信号および事前設定されたアップミックス・パラメータのような盲目的アップミックスのための一つまたは複数のアップミックス・パラメータに基づいて生成される。
【0046】
本発明の第二の側面に対するコメントは、本発明の第六の側面にも当てはまる。
【0047】
本発明のさらにもう一つの側面は、改善されたFMステレオ電波受信機を効率的に実装するために、標準的なHE-AAC v2エンコーダおよびデコーダのコンポーネントを利用することを含む。
【0048】
さらなる有用なおよび好ましい実施形態が従属請求項において記載される。