特許第5775637号(P5775637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5775637パラメトリック・ステレオを使った改善されたFMステレオ電波受信機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775637
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】パラメトリック・ステレオを使った改善されたFMステレオ電波受信機
(51)【国際特許分類】
   G10L 19/008 20130101AFI20150820BHJP
   G10L 19/00 20130101ALI20150820BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   G10L19/008 100
   G10L19/00 400Z
   H04B1/10 L
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-523278(P2014-523278)
(86)(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公表番号】特表2014-527197(P2014-527197A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】EP2012064258
(87)【国際公開番号】WO2013017435
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2014年1月31日
(31)【優先権主張番号】11176523.6
(32)【優先日】2011年8月4日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/551,103
(32)【優先日】2011年10月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510185767
【氏名又は名称】ドルビー・インターナショナル・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】テシン,ロビン
(72)【発明者】
【氏名】ベーア,ミヒャエル
【審査官】 上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/029570(WO,A1)
【文献】 特表2008−511849(JP,A)
【文献】 特表2010−504017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10L 19/00−19/26
H04B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・ステレオ・オーディオ信号を改善する装置であって、前記FMステレオ電波受信機は中央信号およびサイド信号を含むFM電波信号を受信するよう構成されており、当該装置は:
周波数によって変わるまたは周波数不変な仕方で前記左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいて一つまたは複数のパラメトリック・ステレオ・パラメータを決定するよう構成されているパラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段と;
第一のオーディオ信号および前記一つまたは複数のパラメトリック・ステレオ・パラメータに基づいてステレオ信号を生成するよう構成されているアップミックス段であって、前記第一のオーディオ信号は、左/右または中央/サイド・オーディオ信号から得られる、アップミックス段と;
前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段を前記アップミックス段に動作上接続する量子化器ユニットとを有しており、
前記アップミックス段は標準的なHE AAC v2デコーダを含む、
装置。
【請求項2】
前記量子化器ユニットが、量子化器ユニット入力パラメータとして、前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段によって決定された前記パラメトリック・ステレオ・パラメータまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータを受領する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記量子化器ユニットが、一様な量子化、非一様な量子化、固定小数点量子化および浮動小数点量子化のうちのいずれかを使って前記量子化器入力パラメータを量子化するよう構成されている、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記量子化器ユニットが、中央遷移型または中央平坦型の量子化器として具現されている、請求項1ないし3のうちいずれか一項記載の装置。
【請求項5】
前記アップミックス段が、量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータをルックアップテーブルを使って量子化解除するよう構成されており、前記量子化器ユニットは、前記入力パラメトリック・ステレオ・パラメータを、前記ルックアップテーブルを使った量子化解除のために調整する、請求項2ないし4のうちいずれか一項記載の装置。
【請求項6】
量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータが、量子化されてパラメトリック・ステレオ・パラメータを表わす以外には符号化および/または圧縮されない、請求項2ないし5のうちいずれか一項記載の装置。
【請求項7】
前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段が標準的なHE AAC v2エンコーダを含む、請求項1ないし6のうちいずれか一項記載の装置。
【請求項8】
前記第一のオーディオ信号が、左/右または中央/サイド・オーディオ信号から生成されるモノ・ダウンミックス信号であり、前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段が、決定されたパラメトリック・ステレオ・パラメータまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータおよび前記モノ・ダウンミックス信号に符号化および/または圧縮方式を適用しない、請求項2ないし7のうちいずれか一項記載の装置。
【請求項9】
FMステレオ電波受信機において使用される標準的なHE AAC v2デコーダであって、
量子化解除のためのルックアップテーブルを使って前記HE AAC v2デコーダに入力された量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータからパラメトリック・ステレオ・パラメータを復元し、
復元されたパラメトリック・ステレオ・パラメータおよび前記HE AAC v2デコーダに入力されたモノ・ダウンミックス信号からステレオ信号を復元する、
デコーダ
【請求項10】
前記モノ・ダウンミックス信号および量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータが、パラメトリック・ステレオ符号化方式のモノ・ダウンミックス信号およびパラメトリック・ステレオ・パラメータを表わす以外にはエンコードおよび/または圧縮されない、請求項9記載のデコーダ
【請求項11】
FMステレオ電波受信機において使用される標準的なHE AAC v2エンコーダであって、
左/右または中央/サイド・オーディオ信号からパラメトリック・ステレオ・パラメータを決定し、
前記左/右または中央/サイド・オーディオ信号からオーディオ信号からモノ・ダウンミックス信号を生成し、
少なくとも決定されたパラメトリック・ステレオ・パラメータを量子化し、
前記標準的なHE AAC v2エンコーダが、パラメトリック・ステレオ符号化以外には前記左/右または中央/サイド信号に符号化および/または圧縮方式を適用しない、
エンコーダ
【請求項12】
FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・ステレオ・オーディオ信号を改善する装置であって、前記FMステレオ電波受信機は中央信号およびサイド信号を含むFM電波信号を受信するよう構成されており、当該装置は:
周波数によって変わるまたは周波数不変な仕方で前記左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいて一つまたは複数のパラメトリック・ステレオ・パラメータを決定するよう構成されているパラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段と;
第一のオーディオ信号および前記一つまたは複数のパラメトリック・ステレオ・パラメータに基づいてステレオ信号を生成するよう構成されているアップミックス段であって、前記第一のオーディオ信号は、左/右または中央/サイド・オーディオ信号から得られる、アップミックス段と;
前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段を前記アップミックス段に動作上接続する量子化器ユニットとを有しており、
前記アップミックス段は標準的なHE AAC v2デコーダを含み、
前記量子化器ユニットが、量子化器ユニット入力パラメータとして、前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段によって決定された前記パラメトリック・ステレオ・パラメータまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータを受領し、
量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータが、量子化されてパラメトリック・ステレオ・パラメータを表わす以外には符号化および/または圧縮されず、
前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段が標準的なHE AAC v2エンコーダを含み、
前記第一のオーディオ信号が、左/右または中央/サイド・オーディオ信号から生成されるモノ・ダウンミックス信号であり、
前記標準的なHE AAC v2エンコーダが、決定されたパラメトリック・ステレオ・パラメータまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータおよび前記モノ・ダウンミックス信号に符号化および/または圧縮方式を適用しない、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2011年8月4日に出願された欧州特許出願第11176523.6号および2011年10月25日に出願された米国仮特許出願第61/551,103号の優先権を主張するものである。これらの各出願はここにその全体において参照によって組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、オーディオ信号処理に、特にFMステレオ電波受信機のオーディオ信号を改善するための装置および対応する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
PCT/EP2010/005481は、パラメトリック・ステレオを利用するFMステレオ電波受信機をさまざまな実施形態において開示している。その開示はここに参照によってその全体において組み込まれる。
【0004】
アナログFM(frequency modulation[周波数変調])ステレオ電波システムでは、オーディオ信号の左チャンネル(L)および右チャンネル(R)は中央・サイド(M/S: mid-side)表現において、すなわち中央チャンネル(M)とサイド・チャンネル(S)として伝達される。中央チャンネルMは、LとRの和信号、たとえばM=(L+R)/2に対応し、サイド・チャンネルSはLとRの差信号、たとえばS=(L−R)/2に対応する。送信のためには、サイド・チャンネルSは38kHzの抑制された搬送波上に変調されて、ベースバンドの中央信号Mに加えられて、上位互換のステレオ多重信号を形成する。次いで、この多重信号が、典型的には87.5から108MHzまでの間の範囲で動作するFM送信機のHF(high frequency[高周波数])搬送波を変調するために使われる。
【0005】
受信品質が低下するとき(すなわち、電波チャンネル上の信号対雑音比が低下するとき)、典型的にはSチャンネルのほうがMチャンネルより大きな影響を受ける。多くのFM受信機実装では、受信条件のノイズが多すぎる場合にはSチャンネルはミュートされる。これは、貧弱なHF無線信号の場合には受信機がステレオからモノに後退することを意味する。
【0006】
パラメトリック・ステレオ(PS: Parametric Stereo)は、非常に低ビットレートのオーディオ符号化の分野からの技法である。PSは、二チャンネル・ステレオ・オーディオ信号を、モノ・ダウンミックス信号に追加的なPSサイド情報、すなわちPSパラメータを組み合わせたものとしてエンコードすることを許容する。モノ・ダウンミックス信号は、ステレオ信号の両チャンネルの組み合わせとして得られる。PSパラメータは、PSデコーダがモノ・ダウンミックス信号およびPSサイド情報からステレオ信号を再構成できるようにする。典型的には、PSパラメータは時間および周波数によって変わり、PSデコーダにおけるPS処理は典型的にはQMFバンクを組み込むハイブリッド・フィルタバンク領域において実行される。非特許文献1はMPEG-4についての例示的なPS符号化システムを記載している。そのパラメトリック・ステレオの議論は、ここに参照によって組み込まれる。パラメトリック・ステレオはMPEG-4オーディオによってサポートされている。パラメトリック・ステレオはMPEG-4標準化文書ISO/IEC14496-3:2005(MPEG-4オーディオ、第3版)のセクション8.6.4および付属書8.Aおよび8.Cにおいて論じられている。標準化文書のこれらの部分は、あらゆる目的についてここに参照によって組み込まれる。パラメトリック・ステレオはMPEGサラウンド標準でも使われる(文書ISO/IEC23003-1:2007、MPEGサラウンド 参照)。この文書もあらゆる目的についてここに参照によって組み込まれる。パラメトリック・ステレオ符号化システムのさらなる例は、非特許文献2および非特許文献3において論じられている。非特許文献2、3では、「バイノーラル・キュー符号化(binaural cue coding)」という用語が使われており、これはパラメトリック・ステレオ符号化の例である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Heiko Purnhagen, "Low Complexity Parametric Stereo Coding in MPEG-4", Proc. Digital Audio Effects Workshop (DAFx), pp.163-168, Naples, IT, Oct. 2004
【非特許文献2】Frank Baumgarte and Christof Faller, "Binaural Cue Coding- Part I: Psychoacoustic Fundamentals and Design Principles", IEEE Transactions on Speech and Audio Processing, vol 11, no 6, pages 509-519, November 2003
【非特許文献3】Christof Faller and Frank Baumgarte, "Binaural Cue Coding- Part II: Schemes and Applications", IEEE Transactions on Speech and Audio Processing, vol 11, no 6, pages 520-531, November 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
受け入れ可能な品質の中央信号Mの場合でも、サイド信号Sは非常にノイズが大きいことがあり、よって出力信号の左右のチャンネル(これらはたとえばL=M+SおよびR=M−Sに従って導出される)において組み合わされるときに全体的なオーディオ品質をひどく劣化させることがある。サイド信号Sが貧弱ないし中程度の品質しかもたない場合、二つのオプションがある:受信機がサイド信号Sに関連するノイズを受け入れることを選び真のステレオを出力するか、受信機はサイド信号Sを捨ててモノに後退するかである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の側面は、FMステレオ電波受信機のオーディオ信号を改善する装置に関する。本装置はステレオ・オーディオ信号を生成する。改善されるべきオーディオ信号はL/R表現でのオーディオ信号、すなわちL/Rオーディオ信号であってもよいし、あるいは代替的な実施形態ではM/S表現でのオーディオ信号、すなわちM/Sオーディオ信号であってもよい。通常のFM電波受信機はL/R出力を使うので、典型的には、改善されるべきオーディオ信号はL/R表現でのオーディオ信号である。
【0010】
本発明の例示的な実施形態として、本装置は、中央信号およびサイド信号を含むFM電波信号を受信するよう構成されたFMステレオ電波受信機のためのものである。
【0011】
本装置は、パラメトリック・ステレオ(PS)パラメータ推定段を有する。パラメータ推定段は、周波数によって変わるまたは周波数不変な仕方でL/RまたはM/Sオーディオ信号に基づいて一つまたは複数のPSパラメータを決定するよう構成されている。前記一つまたは複数のパラメータは、チャンネル間強度差(IID[inter-channel intensity differences]、あるいはCLD[channel level differences チャンネル・レベル差]とも呼ばれる)を示すパラメータおよび/またはチャンネル間相互相関(ICC[inter-channel cross-correlation])を示すパラメータを含んでいてもよい。好ましくは、これらのPSパラメータは時間および周波数によって変わる。
【0012】
さらに、本装置は、アップミックス段を有する。アップミックス段は、第一のオーディオ信号および前記一つまたは複数のPSパラメータに基づいて前記ステレオ信号を生成するよう構成されている。
【0013】
第一のオーディオ信号は、L/RまたはM/Sオーディオ信号から、たとえばダウンミックス段におけるダウンミックス動作によって得られる。第一のオーディオ信号は、L/R表現の場合、公式DM=(L+R)/aに従ったダウンミックス動作によってオーディオ信号から得られてもよい。ここで、DMが第一のオーディオ信号に対応する。たとえば、パラメータaは2であるよう選択される。DM=(L+R)/aの場合、第一のオーディオ信号は本質的には受信された中央信号Mに対応する。より進んだ適応ダウンミックス方式では、公式DM=L/a1+R/a2に従って二つのチャンネルを組み合わせるための二つのパラメータa1、a2が異なっていてもよく、および/またはPSパラメータおよび/または他の信号属性に依存してもよい。
【0014】
FMステレオ電波受信機の出力におけるM/S表現の場合、第一のオーディオ信号は単に該出力におけるM/Sオーディオ信号のM信号に対応していてもよい。
【0015】
PSパラメータ推定段は、PSエンコーダの一部であることができる。アップミックス段はPSデコーダの一部であることができる。
【0016】
本装置は、ノイズのため、受信されるサイド信号が、単に受信される中央およびサイド信号を組み合わせることによってステレオ信号を再構成するには十分良好でないことがありうるが、それでも、この場合、サイド信号またはL/R信号中のサイド信号の成分はPSパラメータ推定段におけるステレオ・パラメータ解析のためには十分良好であることがありうるという発想に基づいている。すると、これらのPSパラメータはステレオ信号を再構成するために使用されることができる。
【0017】
このように、本装置は、サイド信号における中間的なまたさらには大きなノイズの条件のもとで、改善されたステレオ受信を可能にする。本明細書では、用語「ノイズ」は通例、(放送されている実際のオーディオ信号に由来するノイズ様の信号成分ではなく)電波伝送チャンネルの制限から導入されるノイズを指すことを注意しておくべきである。
【0018】
ステレオ・オーディオ信号を生成するために受信されたノイズのあるサイド信号を使う代わりに、受信機において生成される改善されたサイド信号が使用されてもよい。改善されたサイド信号は、PS符号化からの技法を援用して生成されてもよい。そうした技法は、たとえば、入力としての第一のオーディオ信号に対して作用する脱相関器によって改善されたサイド信号の諸成分を生成することを含む。受信条件についてのデータおよび/または受信されるステレオ信号の解析が、改善されたサイド信号の生成やオーディオ出力信号の生成を適応的に制御するために使用されることができる。
【0019】
もう一つの実施形態によれば、本装置はさらに、第一のオーディオ信号に基づいて脱相関された信号を生成するよう構成された脱相関器を有する。アップミックス段は、前記第一のオーディオ信号、前記一つまたは複数のPSパラメータおよび前記脱相関された信号または少なくとも前記脱相関された信号の周波数帯に基づいて前記ステレオ信号を生成してもよい。
【0020】
たとえば受信されたサイド信号のノイズが低い良好な受信条件の場合には、脱相関された信号を使う代わりに、アップミックス段は、受信されたサイド信号をアップミックスのために使ってもよい。したがって、ある実施形態によれば、アップミックのために、選択的に、受信されたサイド信号または脱相関された信号が使われる。より好ましくは、選択は周波数によって変わる。たとえば、アップミックス段は、より低い周波数については受信されたサイド信号を使ってもよく、より高い周波数については擬似サイド信号として脱相関された信号を使ってもよい。周波数が高いほどノイズ密度が大きくなるからである。これは、電波チャンネル上の加法性(白色)雑音の場合のFM復調の典型的な属性である。このことは、本明細書でのちに詳しく説明する。
【0021】
受信されたサイド信号またはその少なくとも一つまたは複数の周波数成分は、第一の信号が中央信号に対応する場合、アップミックスのために使用されてもよい。(第一のオーディオ信号を生成するための(L+R)/aとは異なる)異なるダウンミックス方式の場合、受信されたサイド信号を使う代わりにアップミックスのために残差信号が使用されてもよい。そのような残差信号は、もとのチャンネルをそのダウンミックスおよびPSパラメータによって表現することに関わる誤差を示し、しばしばPSエンコード方式において使われる。受信されたサイド信号の使用に対する上記のコメントは、残差信号にも当てはまる。
【0022】
アップミックスのための受信されたサイド信号と脱相関されたサイド信号との間の選択は、信号に依存していてもよい、あるいは換言すれば信号適応性であってもよい。
【0023】
さらにもう一つの実施形態によれば、選択は、信号強度のような電波受信インジケータによって示される受信条件および/または受信されたサイド信号の品質を示すインジケータに依存する。良好な受信条件(すなわち高い強度)の場合、好ましくは受信されたサイド信号がアップミックスのために使用されることができる(場合によっては、最も高い諸周波数については除く)。一方、中間的な受信条件(すなわち、より低い強度)の場合、脱相関された信号がアップミックスのために使用されることができる。
【0024】
サイド信号上のノイズのレベルが高い非常に悪い受信条件では、FM受信機は、オーディオ信号のノイズを低下させるために、モノ出力モードに切り換えてもよい。FM受信機の出力におけるL/Rステレオ・オーディオ信号の場合、出力における両チャンネルはモノ再生では同じ信号をもつ。FM受信機の出力におけるM/Sステレオ信号の場合、出力におけるSチャンネルはミュートされる。モノ出力モードでは、FM受信機のオーディオ信号においてステレオ情報が欠けている。よって、PSパラメータ推定段は、アップミックス段において真のステレオ信号を生成するのに好適なPSパラメータを決定することができない。非常に悪い受信条件においてFM受信機がモノ出力モードに切り換えない場合でも、FM受信機の出力におけるオーディオ信号は、意味のあるPSパラメータの推定のためには悪すぎることがある。
【0025】
本装置は、FM受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したかどうかを検出するよう構成されることができ、および/またはそのような貧弱な受信条件(意味のあるPSパラメータの推定には貧弱すぎる受信条件)に気づくよう構成されることができる。モノ出力を検出する場合またはそのような貧弱な受信条件を検出する場合、アップミックス段は擬似ステレオ信号を生成してもよい。アップミックス段は、上記で論じたように、推定されたパラメータの代わりに盲目的なアップミックスのための一つまたは複数のアップミックス・パラメータを使う。このモードは、擬似ステレオ動作または盲目的アップミックス動作と称される。
【0026】
盲目的アップミックス動作は、この場合、貧弱な受信条件を検出またはモノ出力を検出し、よって盲目的なアップミックス動作を開始したのち、FM受信機の出力信号における空間的な音響情報が――そもそも存在していれば――アップミックス・パラメータを決定するために使用されず、よってアップミックスのために考慮されないことを規定する(FM受信機の出力においてすでにモノ出力がある場合には、空間的音響情報は存在せず、よって全く考慮できない)。アップミックス段の出力信号におけるサイド信号を再構成するためにPSパラメータが決定される、上記で論じたPS動作モードとは対照的に、盲目的アップミックス動作では、本装置は、アップミックス段の出力信号におけるサイド信号を再構成することは目指さない。
【0027】
しかしながら、盲目的アップミックスというのは、本装置が、アップミックス・パラメータが必ずFM受信機の出力信号と独立であるという意味で「盲目である」ことを意味するのではない。たとえば、FM受信機の出力信号は、音楽であるか発話であるかモニタリングされてもよく、それに依存して、適切なアップミックス・パラメータが選択されてもよい。
【0028】
盲目的アップミックスのための一つの実施形態は、事前設定されたアップミックス・パラメータを使うものである。事前設定されたアップミックス・パラメータは、デフォルトのまたは記憶されたアップミックス・パラメータであってもよい。
【0029】
にもかかわらず、使用されるアップミックス・パラメータは、信号に依存していてもよい。たとえば、発話のためのアップミックス・パラメータと音楽のためのアップミックス・パラメータといった具合に。この場合、本装置はさらに、オーディオ信号が主として発話であるか音楽であるかを検出する発話検出器(たとえば、発話/音楽弁別器)を有する。たとえば、純粋な音楽の場合、アップミックス・パラメータは、ダウンミックス信号およびその脱相関されたバージョンが混合されるよう選択されてもよい。一方、純粋な発話の場合には、アップミックス・パラメータは、ダウンミックス信号の脱相関されたバージョンが使われず、ダウンミックス信号だけが「モノ」の左/右信号のために使用されるよう、選択されてもよい。発話と音楽の混合であるオーディオ信号の場合には、純粋な発話のためのアップミックス・パラメータと純粋な音楽のためのアップミックス・パラメータとの間である盲目的アップミックス・パラメータが使われてもよい。さらに、中間のあらゆる状態についての補間されたアップミックス・パラメータを使うこともできる。
【0030】
モノ信号のさらに一層高度な解析が実行され、それが「人工的に生成された」または「合成的な」PSパラメータを導出するために基礎として使われる、擬似ステレオに対する進んだ盲目的アップミックス方式が構想されることができる。
【0031】
実際上ノイズのみをもつサイド信号については、本装置は好ましくは、上記で論じたように擬似ステレオ・モードに切り換わる。上記のように、ここでの用語「ノイズ」は、FM放送送信機に送られたもとの信号に含まれているノイズではなく、劣悪な電波受信(すなわち、電波チャンネル上での低い信号対雑音比)によって導入されるノイズを指す。
【0032】
しかしながら、ほとんどノイズのない、すなわちFM電波伝送に由来するノイズがほとんどないサイド信号については、本装置は好ましくは、パラメトリック・ステレオ・モードではなく通常ステレオ・モードに切り換わる。通常ステレオ・モードでは、本装置の信号改善機能は本質的には非アクティブ化される。非アクティブ化のために、装置の入力における左/右オーディオ信号が本質的には本装置の出力にフィードスルーされてもよい。
【0033】
あるいはまた、非アクティブ化のために、(脱相関された信号ではなく)受信されたサイド信号のみがアップミックス段で第一のオーディオ信号と混合される。アップミックス段におけるアップミックス・パラメータを適切に選択するとき、アップミックス段の出力信号はFM送信機の出力信号に対応する。たとえば、第一のオーディオ信号DMと受信されたサイド信号S0
DM=(L+R)/2およびS0=(L−R)/2の場合、L'=DM+S0 および R'=DM−S0
に従って組み合わせるときである。
【0034】
より好ましくは、いくつかの場合には、通常のステレオ・モードまたはパラメトリック・ステレオ・モードが周波数によって変わる仕方で選択されてもよい。すなわち、異なる周波数帯について選択が異なっていてもよい。受信されるサイド信号についての信号対雑音比は特徴的にはより高い周波数についてより悪くなるので、これは有用である。上記で論じたように、これはFM復調の典型的な属性である。
【0035】
本発明の第二の側面は、FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいてステレオ信号を生成する装置に関する。本装置は、FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したことに気づくよう構成されている、あるいは本装置は、貧弱な電波受信に気づくよう構成されている。本装置は、ステレオ・アップミックス段を有する。アップミックス段は、本装置がFMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したことに気づく場合または本装置が貧弱な受信に気づく場合に、第一のオーディオ信号および盲目的アップミックスのための一つまたは複数のアップミックス・パラメータに基づいてステレオ信号を生成するよう構成されている。第一のオーディオ信号は、左/右または中央/サイド・オーディオ信号から得られる。
【0036】
盲目的アップミックスのためのアップミックス・パラメータは、デフォルトのまたは記憶されたパラメータのような、事前設定されたパラメータであってもよい。
【0037】
本装置は、サイド信号に対するノイズのレベルが高い非常に劣悪な受信条件の場合に、低レベルのノイズをもつ擬似ステレオ信号の生成を許容する。そのような受信条件では、FM受信機はオーディオ信号のノイズを減らすためにモノ・モードに切り換わってもよい。さもなければ、L/RまたはM/Sオーディオ信号は、意味のあるPSパラメータの推定のためには劣悪すぎることがありうる。このことが検出され、するとアップミックス・パラメータ盲目的アップミックスが、擬似ステレオ信号を生成するために使われる。これは、本発明の第一の側面との関連ですでに論じた。
【0038】
これも本発明の第一の側面との関連で論じてあるが、本装置は、FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したかどうかを検出するための検出段を有していてもよい。
【0039】
ある例示的な実施形態によれば、本装置はさらに、FM送信機の出力におけるオーディオ信号が主として発話であるか否かを示す発話検出器のようなオーディオ型検出器を有する。この場合、アップミックス・パラメータは、発話検出器の指示に依存する。たとえば、本装置は、本発明の第一の側面との関連で詳細に論じたように、発話の場合にはアップミックス・パラメータを使い、音楽の場合には異なるアップミックス・パラメータを使う。
【0040】
本発明の第二の側面に基づく本装置はさらに、本発明の第一の側面に基づく装置の特徴を含んでいてもよいし、逆に、本発明の第一の側面に基づく装置が本発明の第二の側面に基づく装置の特徴を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の第三の側面は、中央信号およびサイド信号を含むFM電波信号を受信するよう構成されたFMステレオ電波受信機に関する。本FMステレオ電波受信機は、本発明の第一および第二の側面に基づくオーディオ信号を改善する装置を含む。
【0042】
本発明の第四の側面は、携帯電話のようなモバイル通信装置に関する。本モバイル通信装置は、FM電波信号を受信するよう構成されたFMステレオ受信機を有する。さらに、本モバイル通信装置は、本発明の第一および第二の側面に基づくオーディオ信号を改善する装置を有する。
【0043】
本発明の第五の側面は、FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・オーディオ信号を改善する方法に関する。第五の側面に基づく方法の特徴は、第一の側面に基づく装置の特徴に対応する。一つまたは複数のPSパラメータが、周波数によって変わるまたは周波数不変な仕方で左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいて決定される。ステレオ信号は、前記第一のオーディオ信号および前記一つまたは複数のPSパラメータに基づいて、アップミックス動作によって生成される。
【0044】
本発明の第一の側面に対するコメントは、本発明の第五の側面にも当てはまる。
【0045】
本発明の第六の側面は、FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいてステレオ信号を生成する方法に関する。第六の側面に基づく方法の特徴は、第二の側面に基づく装置の特徴に対応する。FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択したことが感知される、あるいは代替的な実施形態では、貧弱な電波受信が感知される。FMステレオ受信機がステレオ電波信号のモノ出力を選択した場合または貧弱な電波受信の場合、ステレオ信号は、第一のオーディオ信号および事前設定されたアップミックス・パラメータのような盲目的アップミックスのための一つまたは複数のアップミックス・パラメータに基づいて生成される。
【0046】
本発明の第二の側面に対するコメントは、本発明の第六の側面にも当てはまる。
【0047】
本発明のさらにもう一つの側面は、改善されたFMステレオ電波受信機を効率的に実装するために、標準的なHE-AAC v2エンコーダおよびデコーダのコンポーネントを利用することを含む。
【0048】
さらなる有用なおよび好ましい実施形態が従属請求項において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
以下では、HE-ACC v2エンコーダおよびデコーダのコンポーネントの使用に焦点を当てて、本発明の例示的な実施形態が概説される。
図1】本発明に基づく改善されたFMステレオ電波受信機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1は、受信されたFM電波信号からステレオL/Rまたは中央/サイドM/S出力を生成することのできるFMステレオ電波受信機10を含む改善されたFMステレオ電波受信機100を描いている。したがって、FMステレオ電波受信機10は、通常のステレオFMラジオと見なされることもできる。本発明に基づく改善されたステレオ電波受信機100は、好ましくは、携帯電話、PDA、スマートフォン、タブレットPC、自動車無線機などのようなモバイル装置中に統合される。
【0051】
主としてモバイル装置について典型的である不安定なFM信号受信条件のため、通常のFMステレオ電波受信機10は――少なくとも一時的に――劣悪なステレオ信号再生品質を示す傾向がある。したがって、本発明は、改善されたFM受信品質のために、さらなる信号処理コンポーネントを加えることを提案する。
【0052】
左/右L、Rまたは中央/サイドM、S信号に基づいて一つまたは複数のパラメトリック・ステレオ・パラメータ15および第一のオーディオ信号25――好ましくはダウンミックス・ユニット30によって生成されるモノ・ダウンミックス信号――を決定するために、パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段5が設けられる。
【0053】
決定されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ15のさらなる調整ための前処理ユニット50が任意的に供給されることができる。現在の信号受信属性に依存して、そのような前処理ユニット50はアクティブ化されるまたはバイパスされることができる。
【0054】
さらに、決定されたとおりのまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ15を量子化器ユニット入力値45として受け取る量子化器ユニット35が設けられる。量子化器ユニット35は、一様量子化、非一様量子化、固定小数点量子化および浮動小数点量子化といった量子化器規則に基づいて、量子化器ユニット入力値45から離散的な値を生成する。ここで、量子化器はさらに、中央遷移〔ミッドライズ〕型または中央平坦〔ミッドトレッド〕型量子化器として具現されてもよい。
【0055】
次いで、量子化された(任意的に前処理された)パラメトリック・ステレオ・パラメータ55は、該パラメータを復元するために複雑な数学的演算を適用する必要なしに、量子化解除を実行するためのルックアップテーブル60を使って、アップミックス段によって簡単に復元されることができる。
【0056】
アップミックス段20は、第一のオーディオ信号25(モノ・ダウンミックス信号)および量子化解除されたパラメトリック・ステレオ・パラメータに基づいて改善されたL'/R'ステレオ出力信号を生成する。
【0057】
量子化器ユニット35および/または前処理ユニット50は好ましくは、パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段5または標準的なHE AAC v2エンコーダ(65)コンポーネントに含まれる。
【0058】
本発明の一つの重要な側面は、限られた伝送機能をもつ典型的な伝送チャネルがないにもかかわらず、パラメトリック・ステレオ符号化およびその後の復号を、通常のFM電波受信機10のステレオ出力とともに使うという発想である。
【0059】
通常、パラメトリック・ステレオ符号化(PS)は、ビットレート、帯域幅などに関して制限のあるチャンネルを通じて伝送されるべきステレオ信号に適用される。次いで、チャンネルの受信機側で、エンコードされたPS信号が復号されてステレオ信号が復元される。
【0060】
対照的に、本発明は、中間的な伝送チャンネルなしにステレオ・オーディオ左/右または中央/サイド信号のPSエンコードおよびデコードを直接組み合わせ、好ましくは、信号処理チェーン全体を携帯電話、PDA、スマートフォン、タブレットPC、自動車無線機などのような一つの(モバイル)装置に統合することを提案する。
【0061】
この発想は、たとえ伝送チャンネルが制限されていたり歪められていたりしたとしてもステレオ信号の再生を改善するPS符号化に関する知識に基づく。
【0062】
本発明では、(通常の)伝送チャンネルはなく、(通常の)FMステレオ電波受信機によって生成される潜在的に制限されている/歪められているオーディオ信号がある。そのようなオーディオ信号が次いでさらにPS符号化および復号を使って処理される場合、多くの状況において、(通常の)FMステレオ電波受信機の信号出力に比べて、出力信号(L',R')品質を改善することが可能となる。それは、たとえば、(量子化解除された)パラメトリック・ステレオ・パラメータに関する信号属性に依存して、アップミックス段20によってステレオ・アップミックス行列を選択的に生成して適用することによる。
【0063】
そのようなステレオ・アップミックス行列の要素は、良好な品質のステレオ出力信号に対応する値から単なるモノ信号までの――そして中間のどんなものでもよい――範囲のいかなる値をも含みうる。
【0064】
現状技術のエンコーダおよびデコーダにおいて実装されるようなパラメトリック・ステレオ(PS)エンコードおよびその後のデコード・アルゴリズムが、FMステレオ電波受信機と一緒に使われるときに再生される信号品質を改善することが認識されるとすぐに、HE ACC v2のような標準的なコーデックの(少なくともPSに関係する)コンポーネントが、通常はそのようなコンポーネントの再設計や適応を必要とすることなく、本発明を実行するために有利に使用できることも明らかとなった。具体的には、量子化器ユニット35の主たる目的は、決定されたパラメトリック・ステレオ・パラメータを調整して、量子化解除のための単純なルックアップテーブルを含む標準的なHE ACC v2デコーダによって直接処理されうるようにすることである。したがって、標準的なHE ACC v2デコーダによって直接処理されることのできる標準的なビットストリーム・フォーマットと同様のデータ・フォーマットを提供することは、量子化が面倒を見てくれる。PS符号化以外のさらなる符号化が実装されない限り、ここでの復号は単に、ルックアップテーブルを使った「逆量子化」を必要とするだけである。
【0065】
本発明に基づく改善されたステレオFM電波受信機100は、PSエンコーダとデコーダの間の中間的な伝送チャンネルなしに、通常のステレオFM電波受信機に後続のパラメトリック・ステレオ・エンコードおよびデコードをもたせたものとして記述されてもよい。
【0066】
現状技術に基づく標準的なHE ACC v2コーデックの観点からは、本発明は、FMステレオ電波受信機10と一緒の、標準的なHE AAC v2デコーダ40コンポーネントの新規かつ有用な用途を生ぜしめる。そうした用途は、量子化解除のためのルックアップテーブル60を使って、HE AAC v2デコーダ40にフィードされた量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ55からパラメトリック・ステレオ・パラメータ15を復元することならびにHE AAC v2デコーダ40にフィードされた復元されたパラメトリック・ステレオ・パラメータおよびモノ・ダウンミックス25信号からステレオ信号(+',R')を復元することを含む。
【0067】
本発明はさらに、FMステレオ電波受信機をもつ標準的なHE AAC v2エンコーダ65の諸コンポーネントの新規かつ有用な用途であって、左/右L、Rまたは中央/サイドM、Sオーディオ信号からパラメトリック・ステレオ・パラメータ15を決定することと、左/右L、Rまたは中央/サイドM、Sオーディオ信号からモノ・ダウンミックス信号25を生成することを含むものを生じさせる。
【0068】
特に、パラメトリック・ステレオ・エンコーダ5/65とデコーダ20/40との間のリンクが、パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段5/65から得られる厳密な値の代わりに量子化されたPSデータ(すなわち、パラメトリック・ステレオ・パラメータ)を使うことによって非常に効率的に確立されることができる。
【0069】
通常のHE-AAC v2ビットストリームについて、エンコーダはPSパラメータを決定し、テーブルに従ってそれらを量子化する。その後、該テーブルへのハフマン符号化されたインデックスがビットストリームに書き込まれる。次いでデコーダは、ビットストリームから前記データを抽出し、ルックアップテーブルを使って量子化解除を実行してもよい。
【0070】
量子化されたPSパラメータおよびルックアップテーブルなしでは、ステレオ信号を再び得るためにデコーダにおいてモノ・ダウンミックス信号に適用されねばならない相関解除および/またはアップミックス行列を再構成するために、大量の超越的な数学が必要とされていた。
【0071】
本発明との関連では、ハフマン符号化/復号は脱落させることができる。限られた能力をもつ伝送チャネルが存在しないときにはビットレート効率は問題ではないからである。
【0072】
本発明のハイライトは次のようにまとめることができる。
【0073】
本発明は、FMステレオ電波受信機のステレオ・オーディオ信号を改善するための装置に関する。
【0074】
そのような装置において、良好な信号品質を示しながらステレオ・オーディオ信号を効率的に復元するために標準的なHE-ACC v2コーダの諸コンポーネントを用いることが提案される。その目的に向け、パラメトリック・ステレオ・パラメータが量子化され、モノ・ダウンミックス信号とともにそのようなデコーダに提出される。すると、デコーダは簡単にパラメトリック・ステレオ・パラメータを復元し、単純なルックアップテーブルを介して量子化解除して、最後に量子化解除されたパラメトリック・ステレオ・パラメータおよびモノ・ダウンミックス信号からステレオ出力信号を生成することができる。
【0075】
本装置はさらに、やはり標準的なHE-ACC v2エンコーダのコンポーネントに基づいて具現されてもよいパラメータ推定段を含む。ステレオ・パラメータを推定し、モノ・ダウンミックス信号を生成したのち、該エンコーダは、すでに実行されたPS符号化以外のさらなるエンコードは使わない。
【0076】
したがって、本発明に基づく装置は、有利には、標準的なHE-ACC v2コーデックのデコーダおよび/またはエンコーダ・コンポーネントを含み、そのパラメトリック・ステレオ・パラメータ処理機能を利用する。
【0077】
本発明およびそのさまざまな実施形態に関し、計算量の削減が、事前計算された値のテーブルへのインデックスとして量子化されたパラメータを使うことによって達成される。
【0078】
テーブル中の値の事前計算は、計算上高価なarccos()またはarcsin()およびexp()のような数学的関数の計算に関わる。
【0079】
単なる逆量子化であればテーブル内の値であった「量子化解除された」値を使うことで、こうした高価な計算を、コンパイル時に事前に行ない、事前計算された値を代わりにテーブルに記憶することになる。これは、もはやランタイムではこうした計算を行なう必要がないことを意味する。
【0080】
他方、該計算を行なう対象とする有限個の可能な入力値があるときにのみこれを行なうこともできる。これが量子化を用いる理由である。よって、PSパラメータを「量子化解除」することに加えて、本発明は、ルックアップテーブルを使うときは、アップミックス行列計算の有意な部分をすでに実行することを含意する。
いくつかの態様を記載しておく。
〔態様1〕
FMステレオ電波受信機の左/右または中央/サイド・ステレオ・オーディオ信号を改善する装置であって、前記FMステレオ電波受信機は中央信号およびサイド信号を含むFM電波信号を受信するよう構成されており、当該装置は:
周波数によって変わるまたは周波数不変な仕方で前記左/右または中央/サイド・オーディオ信号に基づいて一つまたは複数のパラメトリック・ステレオ・パラメータを決定するよう構成されているパラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段と;
第一のオーディオ信号および前記一つまたは複数のパラメトリック・ステレオ・パラメータに基づいてステレオ信号(L',R')を生成するよう構成されているアップミックス段であって、前記第一のオーディオ信号は、左/右(L,R)または中央/サイド(M,S)・オーディオ信号から得られる、アップミックス段と;
前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段を前記アップミックス段に動作上接続する量子化器ユニットとを有しており、
前記アップミックス段は標準的なHE AAC v2デコーダに基づいて具現されている、
装置。
〔態様2〕
前記量子化器ユニットが、量子化器ユニット入力パラメータ(45)として、前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段によって決定された前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ(15)または前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータを受領する、態様1記載の装置。
〔態様3〕
前記量子化器ユニットが、一様な量子化、非一様な量子化、固定小数点量子化および浮動小数点量子化のうちのいずれかを使って前記量子化器入力パラメータを量子化するよう構成されている、態様2記載の装置。
〔態様4〕
前記量子化器ユニットが、中央遷移型または中央平坦型の量子化器として具現されている、態様1ないし3のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様5〕
前記アップミックス段が、量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ(55)または前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ(55)をルックアップテーブルを使って量子化解除するよう構成されている、態様2ないし4のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様6〕
量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ(55)または前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ(55)が、量子化されてパラメトリック・ステレオ・パラメータを表わす以外には符号化および/または圧縮されない、態様2ないし5のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様7〕
前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段が標準的なHE AAC v2エンコーダに基づいて具現されている、態様1ないし6のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様8〕
前記第一のオーディオ信号が、左/右または中央/サイド・オーディオ信号から生成されるモノ・ダウンミックス信号であり、前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段が、決定されたパラメトリック・ステレオ・パラメータまたは前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータおよび前記モノ・ダウンミックス信号に符号化および/または圧縮方式を適用しない、態様2ないし7のうちいずれか一項記載の装置。
〔態様9〕
前記アップミックス段が、前記モノ・ダウンミックス信号および量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ(55)または前処理されたパラメトリック・ステレオ・パラメータから前記ステレオ信号(L',R')を復元するよう構成された標準的なHE AAC v2デコーダのコンポーネントを含んでいる、態様8記載の装置。
〔態様10〕
前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ推定段が、前記パラメトリック・ステレオ・パラメータ(15)および前記モノ・ダウンミックス信号を生成するよう構成された標準的なHE AAC v2エンコーダのコンポーネントを含んでいる、態様8または9記載の装置。
〔態様11〕
FMステレオ電波受信機と一緒の標準的なHE AAC v2デコーダのコンポーネントの使用であって、
量子化解除のためのルックアップテーブルを使って前記HE AAC v2デコーダに入力された量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータからパラメトリック・ステレオ・パラメータを復元し、
復元されたパラメトリック・ステレオ・パラメータおよび前記HE AAC v2デコーダに入力されたモノ・ダウンミックス信号からステレオ信号(L',R')を復元する、
使用。
〔態様12〕
前記モノ・ダウンミックス信号および量子化されたパラメトリック・ステレオ・パラメータが、パラメトリック・ステレオ符号化方式の成分を表わす以外にはエンコードおよび/または圧縮されない、態様11記載の使用。
〔態様13〕
FMステレオ電波受信機と一緒の標準的なHE AAC v2エンコーダのコンポーネントの使用であって、
左/右または中央/サイド・オーディオ信号からパラメトリック・ステレオ・パラメータを決定し、
前記左/右または中央/サイド・オーディオ信号からオーディオ信号からモノ・ダウンミックス信号を生成する、
使用。
〔態様14〕
前記標準的なHE AAC v2エンコーダがさらに、少なくとも決定されたパラメトリック・ステレオ・パラメータ(15)を量子化するために使われる、態様13記載の使用。
〔態様15〕
前記標準的なHE AAC v2エンコーダが、パラメトリック・ステレオ符号化以外には前記左/右または中央/サイド信号に符号化および/または圧縮方式を適用しない、態様13または14記載の使用。
図1