(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775654
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】コンクリート用微粉砂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 14/06 20060101AFI20150820BHJP
B02C 17/00 20060101ALI20150820BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20150820BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
C04B14/06 Z
C04B14/06 B
B02C17/00 C
C04B14/02 C
C04B20/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2008-275904(P2008-275904)
(22)【出願日】2008年10月27日
(65)【公開番号】特開2010-100504(P2010-100504A)
(43)【公開日】2010年5月6日
【審査請求日】2011年9月26日
【審判番号】不服2014-11314(P2014-11314/J1)
【審判請求日】2014年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100139000
【弁理士】
【氏名又は名称】城戸 博兒
(74)【代理人】
【識別番号】100152191
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 正人
(72)【発明者】
【氏名】松永 篤
(72)【発明者】
【氏名】加来 正治
(72)【発明者】
【氏名】三上 浩
【合議体】
【審判長】
河原 英雄
【審判官】
真々田 忠博
【審判官】
中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】
特開平2−102748(JP,A)
【文献】
特開昭63−303839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-32/02, 40/00-40/06, 103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が40〜80μm及びn値が2.0〜5.0であることを特徴とするコンクリート用微粉砂。
【請求項2】
BET比表面積が3〜9m2/gであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート用微粉砂。
【請求項3】
ゆるみ見掛け密度が0.85〜1.10g/cm3であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート用微粉砂。
【請求項4】
分散度が36.0〜40.0%であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート用微粉砂。
【請求項5】
ブレーン比表面積が500〜2000cm2/gであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のコンクリート用微粉砂。
【請求項6】
原料砂と水とを粉砕媒体が収容された円筒状ドラムに供給し、該円筒状ドラムを回転させることにより原料砂を粉砕・研磨し砕砂を得る工程と、
砕砂を分級し、分級された微粉を回収し、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート用微粉砂を得る工程とを含むことを特徴とするコンクリート用微粉砂の製造方法。
【請求項7】
分級する粒度が10〜150μmであることを特徴とする請求項6に記載のコンクリート用微粉砂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート細骨材の一部として使用しても、流動性や圧縮強さが低下しないコンクリート用微粉砂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、良質なコンクリート用骨材である川砂の枯欠に伴い、砕砂製造装置を用いて山砂、海砂等を破砕することより、コンクリート用砕砂を得る方法が一般的となってきている(例えば、特許文献1等)。しかしながら、この砕砂製造装置を用いる方法では、粉砕工程で発生する微粉砕砂を含んだ泥水の処理に苦慮し、土等を混ぜて粘度を調整して原料砕石採掘場所に埋め戻すなどの処理を施す必要があった。この埋戻し処理を行なわない方法として、微粉砕砂を含んだ泥水を法面緑化工法における植物生育材の原料として使用する方法が開示されている(例えば、特許文献2等)。
【0003】
【特許文献1】特開平2−102748号公報
【特許文献2】特開2006−132186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この微粉砕砂を含んだ泥水を法面緑化工法における植物生育材の原料として使用する方法では、法面緑化工事の需要量と、泥水発生量が合致すれば良いが、合致しないケースが多く、処理出来ない泥水は結局、埋め戻し処理されることになる。そこで、本発明は、砕砂製造装置を用いる方法を使用した場合に、微粉砕砂を含んだ泥水の処理を有効活用するコンクリート用微粉砂及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、処理に苦慮している微粉砕砂の平均粒子径、粒度分布等の特性を調整しコンクリート用細骨材として使用することにより、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、平均粒子径が30〜80μmであるコンクリート用微粉砂に関する。
また、本発明は、n値が2.0〜5.0であるコンクリート用微粉砂に関する。
また、本発明は、原料砂と水とを粉砕媒体が収容された円筒状ドラムに供給し、該円筒状ドラムを回転させることにより原料砂を粉砕・研磨し砕砂を得る工程と、砕砂を分級し、分級された微粉を回収し、上記のコンクリート用微粉砂を得る工程とを含むコンクリート用微粉砂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンクリート用微粉砂は、処理に苦慮している微粉砕砂の粒子径、粒度分布等の特性を調整しコンクリート用細骨材として利用することにより、従来の良質な細骨材、例えば石灰石骨材と比較しても流動性や圧縮強さの面で遜色の少ないコンクリートを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係るコンクリート用微粉砂およびその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0009】
<コンクリート用微粉砂>
本発明のコンクリート用微粉砂は、コンクリートの流動性、材料分離抵抗性向上のために一般に石灰石微粉末が用いるのと同じ用途で使用出来る。具体的には細骨材の一部として使用する。
【0010】
コンクリート用微粉砂の平均粒子径は30〜80μm、好ましくは35〜75μm、更に好ましくは40〜70μm、特に好ましくは45〜66μmである。これらの範囲内であれば、コンクリートの微粉砂として使用した場合に、材料分離が起こらず、流動性も良好で、強度も十分に得られる。
【0011】
コンクリート用微粉砂のn値は2.0〜5.0、好ましくは2.5〜4.5、更に好ましくは3.0〜4.0、特に好ましくは3.5〜3.9である。このn値は「粉体工学会編、粉体工学便覧、初版、日刊工業新聞社、昭和61年2月28日、p7−11」に記載のRosin−Rammler線図におけるn値であり粒度分布を示す指標である。これらの範囲内であれば、コンクリートの微粉砂として使用した場合に、材料分離が起こらず、流動性も良好で、強度も十分に得られる。
【0012】
コンクリート用微粉砂のBET比表面積は3〜9m
2/g、好ましくは4〜8m
2/g、更に好ましくは5〜7m
2/gである。
ゆるみ見掛け密度は0.85〜1.10g/cm
3、好ましくは0.90〜1.00g/cm
3m、更に好ましくは0.92〜0.98g/cm
3である。
分散度は36.0〜40.0%、好ましくは36.5〜39.0%、更に好ましくは36.8〜38.0%である。
ブレーン比表面積は500〜3000cm
2/g、好ましくは800〜2000cm
2/g、更に好ましくは1000〜1500cm
2/gである。
密度は1.5〜3.5g/cm
3、好ましくは2.0〜3.0g/cm
3、更に好ましくは2.5〜2.8g/cm
3である。
BET比表面積、ゆるみ見掛け密度、分散度、ブレーン比表面積、密度が上記範囲内であれば、コンクリートの微粉砂として使用した場合に、材料分離が起こらず、流動性も良好で、強度も十分に得られる。
【0013】
<コンクリート用微粉砂の製造方法>
次に本発明のコンクリート用微粉砂の製造方法の好適な実施形態について説明する。
コンクリート用微粉砂の原料砂は砕砂、山砂、海砂、川砂などが使用出来る。これらの原料砂を円筒状の回転式粉砕機に水と共に投入する。回転式粉砕機の内部は粉砕媒体で充填されており、この粉砕媒体としては鉄のボールや岩石、玉石が使用可能である。特に玉石を使用すると粉砕だけでなく研磨も行われ、粒度分布が狭くBET比表面積の小さい微粉砂を得ることが可能であり、本発明のコンクリート用微粉砂の製造に好適である。原料砂と水は連続式、バッチ式の何れの方式で投入しても良いが、生産性の点から連続式が好ましい。
【0014】
原料砂と水の投入量の割合は、原料砂100質量部に対して水10〜500質量部、好ましくは50〜400質量部、更に好ましくは100〜300質量部である。これらの範囲であれば本発明の範囲の平均粒子系、BET比表面積、ゆるみ見掛け密度、分散度、ブレーン比表面積を持ったコンクリート用微粉砂を得ることが可能である。
【0015】
回転式粉砕機で粉砕・研磨された微粉砂は、分級機や篩で分級する。分級によって粗粉と微粉に分かれるが、粗粉は一般のコンクリート細骨材として使用可能である。分級する粒度は10〜150μm、好ましくは20〜100μm、更に好ましくは30〜80μmである。微粉は水と微粉砂を含んだ泥水となっており、濃度は1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%、更に好ましくは3〜8質量%である。これらの範囲であれば、微粉砂の回収率も高く、本発明の範囲の平均粒子系、BET比表面積、ゆるみ見掛け密度、分散度を持ったコンクリート用微粉砂を得ることが可能である。
【0016】
上記工程で分級された泥水は、乾燥機や天日などで乾燥したり、単に水を切って微粉砂とする。この微粉砂、あるいは泥水をそのまま、更に分級機や篩で分級し、微粉を回収する。分級する粒度は10〜150μm、好ましくは20〜100μm、更に好ましくは30〜80μmである。更にこの微粉を分級機や篩で分級し、特定範囲の粒度の微粉を採取するとより単一粒度の微粉砂が得られ好ましい。特定範囲の粒度とは、下限が10μm、好ましくは15μm、更に好ましくは30μm、上限が150μm、好ましくは130μm、更に好ましくは80μmである。粒度範囲はこれらの範囲に100質量%入る必要はなく、90〜80質量%程度入ればよい。
【0017】
回収した微粉砂は、単独でコンクリート用微粉砂として用いても良いし、他の方法で製造した微粉砂と一部置換しても良く、その場合は、本発明の平均粒子系、BET比表面積、ゆるみ見掛け密度、分散度、ブレーン比表面積の範囲になるように調整することが必要である。
【実施例】
【0018】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
[1.微粉砂の調製]
(1)コンクリート用微粉砂(S1)
水100質量部に対して、砕砂200質量部を、粉砕用の砂を充填した円筒状の回転式粉砕装置に連続的に投入することにより、湿式粉砕し、分級機により約40μmで大よそ粗粉と微粉が分離出来るように分級した。分級した
微粉を含む泥水を、105±5℃で24時間乾燥し、更に0.075mmの篩を通過させ、コンクリート用微粉砂を調整した。
(2)湿式砕砂ダスト(S2)
砕石をクラッシャーで乾式粉砕し、振動篩機で篩って製造した砕砂を水と共にボールミルに連続的に投入することにより、湿式粉砕し、分級機で分級した。分級した微粉を含む泥水(5質量%濃度)を105±5℃で24時間乾燥し、更に0.075mm篩を通過させ湿式砕砕ダストを調製した。
(3)乾式砕砂ダスト(S3)
砕石をクラッシャーで乾式粉砕し、振動篩機で篩った微粉をバッグフィルターで回収し、0.075mmの篩を通過させ乾式砕砂ダストを調製した。
(4)湿式砕砂ダスト網ふるい分級品(S4)
湿式砕砂ダスト(S2)を目開き32〜75μmの水篩で分級し、105±5℃で24時間乾燥し、更に0.075mmの篩を通過させ、湿式砕砂ダスト網ふるい分級品を調製した。
(5)コンクリート用微粉砂分級品A(S5)
湿式砕砂ダスト(S2)を製造する際に発生した泥水(5質量%濃度)100質量部に対して、砕砂200質量部を、粉砕用の砂を充填した円筒状の回転式粉砕装置に連続的に投入することにより、砕砂を湿式粉砕し、分級機により分級した。分級した微粉を含む泥水を、105±5℃で24時間乾燥し、更に0.075mmの篩を通過させ、コンクリート用微粉砂分級品Aを調製した。
(6)コンクリート用微粉砂分級品B(S6)
コンクリート用微粉砂分級品A(S5)を分級機で分級し、得られた40μm以上の粗粉を回収しコンクリート用微粉砂分級品Bを調製した。
(7)石灰石微粉末(S7)
比較用としてコンクリート用微粉末に良く使用される石灰石微粉末(宇部マテリアル株式会社製)を用いた。
【0020】
[2.物性評価]
S1〜S7の砂の各種物性を評価した。
固め見掛け密度、分散度は、「早川総八郎編、粉体物性測定法、株式会社朝倉書店、1973年刊、p110〜117」に記載のCarr法により測定した。測定装置はホソカワミクロン株式会社製パウダーテスターPT-E型を使用した。
【0021】
密度、ブレーン比表面積は、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。なお、ブレーン比表面積を測定する際のポロシティーは、0.400から0.700の範囲において、ポロシティーを0.010変化させた場合のブレーン比表面積の変化が2%以内となる値とし、S1は0.480、S2は0.530、S3は0.550に設定した。
【0022】
BET比表面積は、JIS R 1626「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準拠して測定した。具体的には、日本ベル製BELSORPminiを使用し、吸着ガスとして窒素を用い、定容法により測定した吸着等温線にBET式を適用し多点法により測定した。なお、試料の前処理は、窒素雰囲気下で200℃に加熱した。
【0023】
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置[セイシン企業製、LMS−30(レーザー・マイクロ・サイザー)]を用いて測定した粒度分布より、粒子径―積算篩上質量%曲線を作成し算出し、粒子径―積算篩上質量%曲線より積算質量%が50%となる粒子径を求めた。試料分散溶媒はエタノールを用い、測定前の超音波による試料分散時間を60秒、測定時間を30秒、測定繰り返し回数は2回とした。レーザー回折方式はFraunhofer回析とMie散乱を併用した。光源は半導体レーザーで波長670nm,出力2mWとした。相対屈折率(粒子屈折率/溶媒屈折率)は1.330とした。
【0024】
n値は、「粉体工学会編、粉体工学便覧、初版、日刊工業新聞社、昭和61年2月28日、p7−11」に記載のRosin−Rammler線図におけるn値であり粒度分布を示す指標である。測定は平均粒子径と同様にして行った。測定結果はRosin−Rammler線図にし、その傾きであるn値を求めた。なお、Rosin−Rammler線図は全粒子径の各測定値を最小二乗法により求めた。各種物性評価結果を表1に、粒度分布の結果を表2に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
[2.流動性の評価]
(1)使用材料
(a)セメント
普通ポルトランドセメント
(b)微粉砂
上述したS1〜S6の微粉砂、比較用として石灰石微粉末を使用した。
(c)混和剤
高性能AE減水剤(株式会社フローリック社製SF500S)を水で薄めて10倍液とした。
(d)水
上水道水
(2)練り混ぜ
練混ぜはJIS R 5201「セメントの物理試験方法」で規定されるホバートミキサを用いて、全材料を投入して、低速で60秒練混ぜた。ミキサを停止し、さじで練り鉢パドルに付着したペーストを掻き落とし、練り鉢の底のペーストを掻きあげるようにして3回かき混ぜた。その後、中速で60秒練混ぜた。
(3)セメントペーストの配合
配合を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
(4)流動性評価結果
コンクリートの流動性を図る簡易試験方法として、JASS15M−13「セルフレベリング材の品質基準」によって、流動性の評価を行った。具体的にはペーストをフローコーンに詰め、フローコーンを上方に取り去ってから広がりが停止するのを待って0打フローをノギスで測定した。2回の測定し平均値を求めた。この流動性の評価結果を表4に示す。表4に示すように、平均粒子径が30〜80μm、n値が2.0〜5.0の範囲にあるコンクリート用微粉砂(実施例1〜3)はフロー値が150mm以上あり、石灰石微粉末(参考例1)と比べ同等以上の流動性を示した。
【0030】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】コンクリート用微粉砂(S1)の粒度分布を示す図である。
【
図2】湿式砕砂ダスト(S2)の粒度分布を示す図である。
【
図3】乾式砕砂ダスト(S3)の粒度分布を示す図である。
【
図4】湿式砕砂ダスト網ふるい分級品(S4)の粒度分布を示す図である。
【
図5】コンクリート用微粉砂分級品A(S5)の粒度分布を示す図である。
【
図6】コンクリート用微粉砂分級品B(S6)の粒度分布を示す図である。
【
図7】石灰石微粉末(S7)の粒度分布を示す図である。