(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
皮膚は人間の体内と体外を仕切る器官であり、細菌類などの外敵に対する免疫機能や、体内の水分の保持作用など多岐にわたる機能を有している。また皮膚は大きく分けて表皮・真皮・皮下組織の3層の構造をとっている。表皮はさらに体の内側から順に、基底層、有棘層、顆粒層、角質層という4つの層で構成されている。基底層に存在する細胞はおおよそ14日間をかけ角質層直下まで移動し、さらに扁平な形態に変化しつつ14日間で角質層中を外側に向かって移動し、最終的には垢などの形となって剥離する。このターンオーバーを継続する事で多岐にわたる皮膚の機能を支えている。
【0003】
ところで皮膚中には真皮・表皮のいずれにもヒアルロン酸があることが知られている。ヒアルロン酸はグルクロン酸とN―アセチルグルコサミンが交互に結合した高分子で、その分子量は数百万にもおよび、多くの水分を保持できる事が明らかとなっている。このヒアルロン酸は真皮から表皮にいたるまで発現しており、真皮と表皮では異なるヒアルロン酸合成酵素によって産生されている。(非特許文献1)
【0004】
しかしながらこのヒアルロン酸は加齢と共に減少する事が報告されており(非特許文献2)、これにより老化に伴う皮膚の保水力の減少を引き起こし、乾燥肌などの原因となると考えられている。また関節リウマチ患者の場合、関節中のヒアルロン酸が減少することが明らかとなっている。(非特許文献3)
【0005】
リウマチ以外にも化膿性関節炎や通風性関節炎などでも関節リウマチ同様ヒアルロン酸含量の低下が起こることが知られている。(非特許文献4)
【0006】
関節炎の治療法としては、例えば患部にヒアルロン酸を注入する方法もとられているが、医療行為のため病院で処置が必要となるうえに、ヒアルロン酸の代謝と共に改善効果が薄れ、また一回あたりの費用がかかるため、患者に対して多くの心身的、経済的な負担となっている。(非特許文献5)
【0007】
これらの背景より、経口摂取又は経皮吸収によるヒアルロン酸量の増加効果がある物質が求められている。従来から知られたヒアルロン酸合成促進剤としては、アロエ抽出物、オクラ抽出物、水溶性β−1,3−グルカン誘導体、酵母抽出物(特許文献1)ラベンダー抽出物(特許文献2)などが知られ、ヒアルロン酸合成酵素の発現を促進する物質としてはホスフェート誘導体(特許文献3)、N−アセチル−D−グルコサミン含有糖ベンジル誘導体(特許文献4)が知られている。しかしながら、前記抽出物は効果を発揮させるのに大量の投与が必要であり、誘導体は大量に使用すると体内に分解されず蓄積するなど、安全に十分な効果を奏する化合物は知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。最初に第一の本発明であるヒアルロン酸合成促進剤について説明する。クリプトキサンチンはカロテノイドの1種である。本発明で用いられるクリプトキサンチンは、α型でもβ型でもよく、特に限定されるものではない。また、本発明で用いられるクリプトキサンチンの誘導体としては、クリプトキサンチンから誘導される化合物であれば特に限定されず、例えばクリプトキサンチンの脂肪酸エステルなどが挙げられ、具体的には、ステアリルエステル、パルミトイルエステル、ミリストリルエステル、ラウリルエステルなどの誘導体も含まれる。
【0018】
本発明で用いられるクリプトキサンチン及び/又はその誘導体は、その由来については特に限定されないが、中でもカンキツ類由来のものが好ましい。本発明におけるカンキツ類とは、ミカン科などに属する植物を挙げることができる。より具体的には、温州みかん、イヨカン、夏みかん、オレンジ、カボス、カワバタ、キシュウミカン、清見、キンカン、グレープフルーツ、ゲッキツ、三宝柑、シイクワサー、ジャバラ、スウィーティー、スダチ、ダイダイ、タチバナ、デコポン、ナツダイダイ、ハッサク、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、晩白柚、ヒュウガナツ、ブンタン、ポンカン、マンダリンオレンジ、ヤツシロ、ユズ、ライム、レモン、カラタチ(これらと同等又は類似の品種のものも含む)などを例示することができる。その中でも温州みかんがクリプトキサンチン及び/又はその誘導体の含有率が高く望ましい。
【0019】
本発明のヒアルロン酸合成促進剤においては、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する限りはその比率については限定されないが、例えばクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を0.00001質量%以上100質量%以下、好ましくは0.0001質量%以上80質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上50質量%以下の割合で含有しておればよい。
【0020】
本発明のヒアルロン酸合成促進剤は、上記クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有していることにより、ヒアルロン酸の合成を促進することができる。本発明のヒアルロン酸合成促進剤は、他のヒアルロン酸合成促進作用を有する物質と混合して
用いることもでき、副作用を起こさない範囲内で、例えば、合成レチノイドや他のカロテノイド、オールトランスレチノイン酸などを適宜
混合して用いることができる。またその他の成分を添加
して用いることもでき、特に限定されるものではないが、例えば、ビタミンCなどの各種ビタミン類や、アミノ酸およびオリゴ糖、ミネラル等などが適宜
混合して用いることができる。
【0021】
本発明のヒアルロン酸合成促進剤は、体内に取り込むことでヒアルロン酸の合成の促進作用を発揮するものであるため、体内への取り込み方法は限定されるものではなく、例えば経口摂取でも経皮吸収でもよい。
【0022】
本発明のヒアルロン酸合成促進剤を摂取する方法としては
、液体、乳化剤、ペースト、ゲル、粉末、錠剤、顆粒、ペレット、カプセル、シロップ、懸濁液、ドリンク、スティック、固形状などに加工して摂取してもよい。
【0023】
次に、上記したヒアルロン酸合成促進剤の製造方法について説明する。製造方法としては、カンキツ類植物を搾汁しその残さから、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を得る方法、カンキツ類植物に酵素を添加して酵素処理して、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体とを含有する組成物を得る方法、及びカンキツ類植物に有機溶剤を添加し該有機溶剤中に、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体とを含有する組成物を抽出する方法が挙げられる。以下、順次これらの方法について説明する。なお、得られた組成物中にクリプトキサンチン及び/又はその誘導体が存在することは、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等により定量的に確認することができる(実施例参照)。
【0024】
カンキツ類植物を搾汁した残さ、すなわち搾汁粕は、例えば、カンキツ類の果実をインライン搾汁機、チョッパーヘルパー搾汁機、ブラウン搾汁機などにより搾汁した後、パドル型又はスクリュー型のフィニシャーなどでろ過又は篩別、または遠心分離によって果汁を調製した搾汁残渣を集めることにより調製される。
【0025】
酵素処理は、カンキツ類植物の果実そのまま、あるいはすりつぶし、破砕、粉砕、加熱、脱水、乾燥などの物理的処理を行なったもの、さらに上記のようにして得られる搾汁残さに対して酵素を添加することにより行なわれる。
【0026】
酵素処理に使用する酵素としては、カンキツ類植物に含まれる有機物、特に細胞壁などを構成する生体高分子などを分解できることが出来るものであれば、特に限定されず、例えば、ミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、キシラーゼ、プロテアーゼ、ペプチターゼ、リパーゼ、マレーションエンザイム(細胞壁崩壊酵素)などが用いられる。これらの中でも、糖質加水分解酵素であるセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、キシラーゼ、マレーションエンザイムが、有効成分であるクリプトキサンチン及び/又はその誘導体含有量を高める効率が高く望ましい。
【0027】
添加する酵素剤は、これらの精製酵素を用いても良いし、これらの活性を示す微生物菌体や培養物、これらの粗精製物を用いても良い。これらの酵素は単独で用いても良いし、2種類以上の酵素を混合して用いてもよい。添加する酵素の量は特に限定されず、酵素の反応性に応じて添加すればよい。例えば、ペクチナーゼを用いる場合であれば、被処理物100gに対して1〜100,000ユニットであることが好ましく、更に10〜10,000ユニットであることがより好ましい。
【0028】
上記酵素を添加した後、攪拌などにより酵素と被処理物を均一に混合して酵素反応を進行させる。このときの反応温度としては酵素が失活せず、かつ腐敗の起こりにくい条件、またクリプトキサンチン及び/又はその誘導体が喪失しない条件下で行うことが望ましい。具体的には、温度としては0〜90℃、好ましくは0〜80℃、更に好ましくは0〜70℃である。反応のpHとしては酵素の至適条件下で行うのが望ましいことは言うまでもなく、pH2〜12、好ましくはpH2.5〜8である。反応時間としては使用する搾汁残渣と酵素の量に依存するが、通常1〜48時間に設定するのが作業上好ましい。反応の際、この反応物を攪拌しながら反応を行っても良いし、静置反応でも良い。
【0029】
酵素処理終了後、酵素処理された反応物をそのまま本発明のヒアルロン酸合成促進剤として用いてもよいし、何らかの加工を行ってもよい。具体的には、反応物を固液分離した残さ、あるいはその残さを乾燥させたもの、固液分離せず反応物をそのまま乾燥させたものなどを用いてもよい。また溶剤や水、超臨界二酸化炭素などを用いて成分などを抽出したものを用いてもよい。更に、引き続いて不純物類を取り除いてもよい。不純物の除去方法としては、例えば水洗浄、有機溶媒洗浄、シリカゲルカラムや樹脂カラム、逆相カラムなどを通す方法、活性炭処理、極性の異なる溶媒による分配、再結晶法、真空蒸留法などが挙げられる。特に酵素処理反応物を固液分離した後、固形分に再度水を添加・攪拌した後に固液分離する水洗浄は、酵素処理で生成した糖などの反応生成物を容易に除去できるため好ましい方法である。
【0030】
カンキツ類植物及び/又は上述したカンキツ類植物の酵素処理物に、有機溶剤を添加し該有機溶剤中に、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を抽出する方法において用いられる溶剤としては、原料であるカンキツ類又はその加工品からヒアルロン酸合成促進作用を持つ画分が得られるものであれば、本発明の効果を損なわない範囲でいかなるものでもよい。また、一種類の溶剤を単独で用いても複数の溶剤を混合して用いてもよい。そのような溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、へキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、ピリジン類等が使用できる。これらのうち、エタノールは抽出されるクリプトキサンチン及び/又はその誘導体の抽出効率が高く好ましい。また、これらの有機溶媒で抽出する際には抽出効率を上げるために、例えば水、界面活性剤等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で加えることが出来る。さらに、上記有機溶媒による抽出のほか、超臨界抽出法も利用することができる。
【0031】
本発明の別の発明は、上記したような
ヒアルロン酸合成促進剤を含有するヒアルロン酸合成促進用医薬品である。
【0032】
ヒアルロン酸合成促進剤を配合した皮膚外用剤の例としては、乳液、クリーム、化粧水(ローション)、パック、洗浄剤、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品、分散液、軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、オイル、リップ、口紅、ファンデーション、アイライナー、頬紅、マスカラ、アイシャドー、マニキュア・ペディキュア(及び除去剤)、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、パーマネント剤、染毛料、ひげ剃り剤、石けん(ハンドソープ、ボディソープ、洗顔料)、歯磨き剤、洗口料などが挙げられる。
該皮膚外用剤においては、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する限りはその比率については限定されないが、例えばクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を0.00001質量%以上100質量%以下、好ましくは0.0001質量%以上80質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上50質量%以下の割合で含有しておればよく、上記範囲であれば、十分にヒアルロン酸合成促進作用が得られる。
該ヒアルロン酸合成促進剤を配合した皮膚外用剤は、対象の年齢や肌の状態により異なるが、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体としての摂取量が、1日あたり、約0.000001〜100gであることが好ましい。
【0033】
該ヒアルロン酸合成促進剤を配合した飲食品の例としては、一般飲食品に加えて、サプリメント、食品添加物、特定保健用食品、健康食品、機能性食品、医薬部外品など、すべての食品及び/又は飲料が含まれる。該食品及び/又は飲料は特に限定されるものではなく、例えば上記の医薬品的な形態のものに加え、パン、うどん、そば、ご飯等、主食となるもの、チーズ、ウインナー、ソーセージ、ハム、魚肉加工品等の食品類、アイスクリーム、クッキー、ケーキ、ゼリー、プリン、キャンディー、チューインガム、ヨーグルト、グミ、チョコレート、ビスケットなどの菓子類、ジャムなどの調味料類、果汁飲料、清涼飲料水、酒類、栄養ドリンク、コーヒー飲料、茶、牛乳などの飲料が挙げられる。
該ヒアルロン酸合成促進剤を配合した飲食品においては、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する限りはその比率については限定されないが、例えばクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を0.00001質量%以上100質量%以下、好ましくは0.0001質量%以上80質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上50質量%以下の割合で含有しておればよく、上記範囲であれば、十分にヒアルロン酸合成促進作用が得られる。
該ヒアルロン酸合成促進剤を配合した飲食品は、摂取者の体重や年齢や肌の状態により異なるが、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体としての摂取量が、1日あたり、約0.000001〜100gであることが好ましい。
【0034】
本発明の
ヒアルロン酸合成促進用医薬品としては、注射剤、輸液、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、腸溶剤、懸濁剤、シロップ剤、内服液剤、トローチ剤、乳剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、座剤、経腸栄養剤などの形態で摂取することが出来る。
本発明の
ヒアルロン酸合成促進用医薬品においては、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する限りはその比率については限定されないが、例えばクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を0.00001質量%以上100質量%以下、好ましくは0.0001質量%以上80質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上50質量%以下の割合で含有しておればよく、上記範囲であれば、十分にヒアルロン酸合成促進作用が得られる。
本発明の
ヒアルロン酸合成促進用医薬品は、対象の年齢や肌の状態により異なるが、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体としての投与量が、1日あたり、約0.000001〜100gであることが好ましい。
【0035】
該ヒアルロン酸合成促進剤を配合した飼料の例としては、該ヒアルロン酸合成促進剤に、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦などの穀類、ふすま、米ぬかなどのぬか類、コーングルテンミール、コーンジャムミールなどの粕類、脱脂粉乳、ホエー、魚類、骨粉などの動物性飼料類、ビール酵母などの酵母類、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどのカルシウム類、ビタミン類、油脂類、アミノ酸類、糖類などを配合することにより製造することができる。
飼料の形態としては、ペットフード、家畜飼料、養殖魚用飼料などに用いることができる。
またペットフードとして用いる場合には、上記飲食品と同じ形態のものを用いても何ら問題がない。
該ヒアルロン酸合成促進剤を配合した飼料においては、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する限りはその比率については限定されないが、例えばクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を0.00001質量%以上100質量%以下、好ましくは0.0001質量%以上80質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上50質量%以下の割合で含有しておればよく、上記範囲であれば、十分にヒアルロン酸合成促進作用が得られる。
該ヒアルロン酸合成促進剤を配合した飼料においては、、対象の種や肌の状態により異なるが、例えば体重約60kgとすると、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体としての摂取量が、1日あたり、約0.000001〜100gであることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に示す。本発明はこの実施例によりその範囲を限定するものではない。なお、実施例中、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ意味する。
実施例中、β−クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の含量の測定は、その粉体、濃縮残存物をサンプルとして用い(β―クリプトキサンチンの定量)又はその粉体、濃縮残存物を80℃、1Nの水酸化カリウム水溶液で60分処理することで全てβ―クリプトキサンチン単体に変換したものをサンプルとして用い(β―クリプトキサンチン及びその誘導体をβ―クリプトキサンチンのフリー体として定量)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行なった。すなわち、HPLC装置として、LC−10A(島津製作所製)を用い、ResolveC18(φ3.9×150mm、ウォーターズ社製)カラムを接続し、メタノールを等量加えた試料を導入した。移動相には、メタノール:酢酸エチル=7:3、カラム温度30℃、流速1.0ml/min、検出波長450nmで分析した。
【0037】
実施例1
温州みかんから果汁を絞った後の残さ(みかんジュース粕、水分率約90%)800gに飲食品加工用のペクチナーゼ酵素剤であるスミチームPX(新日本化学工業株式会社製、ペクチナーゼ5,000ユニット/g、アラバナーゼ90ユニット/g)1gとセルラーゼ/ヘミセルラーゼ酵素剤であるセルラーゼY−NC(ヤクルト薬品工業株式会社製セルラーゼ30,000ユニット/g)1gを添加し、よくかき混ぜて室温8時間静置反応を行った。この反応液を遠心分離して上清を除去した後、水を添加して攪拌し、再度遠心分離により上清を除去した。この沈殿物を凍結乾燥機により乾燥し、ミキサー型粉砕機で粉砕・粉末化した。本粉末中にはβ−クリプトキサンチン及びその誘導体(β―クリプトキサンチンのフリー体換算)が0.5質量%(β―クリプトキサンチン:0.1質量%、その誘導体:0.4質量%)含まれていた。
得られた温州みかん粉末を重量の3倍量のエタノールで抽出し、得られた抽出液をエバポレーターで減圧濃縮した。濃縮後の残存物を本発明の
ヒアルロン酸合成促進剤とした。この
ヒアルロン酸合成促進剤にはβ−クリプトキサンチン及びその誘導体(β―クリプトキサンチンのフリー体として換算)が2質量%(β―クリプトキサンチン:0.4質量%、その誘導体:1.6質量%)含まれていた。
【0038】
実施例2
β‐クリプトキサンチン(標準サンプル)を使用して正常ヒト表皮角化細胞(ヒアルロン酸合成酵素3)と正常ヒト皮膚繊維芽細胞(ヒアルロン酸合成酵素2)に対するヒアルロン酸合成酵素の発現作用を確認した。以下にその詳細を示す。
正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ株式会社製)と正常ヒト皮膚繊維芽細胞(クラボウ株式会社製)とをそれぞれで24ウェルプレート(IWAKI社製)に播種後、37℃で5%CO2インキュベーター(ESPEC社製)で培養を行い、3日に一度専用の培地(クラボウ株式会社製)交換を行いながら60%コンフレントになるまで培養を継続した。その後、β−クリプトキサンチン(標準サンプル、四国八洲社製)を、培地に添加したときの濃度が、それぞれ0(溶媒コントロール)、5、10、50μMとなるようにDMSO(和光純薬社製)に溶解し、培地に添加させ、培地を交換することで細胞に作用させた。対照群としては、すでにヒアルロン酸の合成促進作用が報告されているN−アセチルグルコサミンを、培地に添加したときの濃度が、それぞれ0(溶媒コントロール)、5、10、50μMとなるように精製水に溶解し、培地に添加させ、同様の培養実験を行った。培地交換後24時間培養を行い、時間経過後培地をプレートから除去し、PBSで洗浄後、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を各ウェル500μLずつ添加し、懸濁することで細胞中のRNAを溶解させた。その後、RNAを抽出し、逆転写酵素(タカラバイオ社製)でcDNAを作成した。
作成したcDNAを用いてリアルタイムPCR(アプライドバイオシステムズジャパン社製)を使用してヒアルロン酸合成酵素2、3の遺伝子量の定量を行った。なお、それぞれの酵素に対するPrimerをPrimer Express(アプライドバイオシステムズジャパン社製)を基に設計し、シグマアルドリッチジャパンにて合成を行った。
またPCR反応用の酵素はSYBR Premix Ex−tag II(タカラバイオ社製)を使用し、反応時間は95℃15秒×1サイクル、95℃15秒・60℃1分×40サイクルを行うことで遺伝子量を相対的に測定した。
【0039】
ヒアルロン酸合成酵素3の発現
β−クリプトキサンチン又はN−アセチルグルコサミンを添加し培養した時のヒアルロン酸合成酵素3の発現結果を
図1に示す。正常ヒト表皮角化細胞ではβ−クリプトキサンチン添加量が5μM以上の場合、ヒアルロン酸合成酵素3の発現量が溶媒コントロールに比べて有意に上昇した。またN−アセチルグルコサミンを添加した場合も添加量が10μM以上で有意に上昇したが、β−クリプトキサンチンよりも発現上昇は低かった。
【0040】
ヒアルロン酸合成酵素2の発現
β−クリプトキサンチン又はN−アセチルグルコサミンを添加し培養した時のヒアルロン酸合成酵素2の発現結果を
図2に示す。正常ヒト皮膚繊維芽細胞ではβ−クリプトキサンチン添加量が10μM以上の場合、ヒアルロン酸合成酵素2の発現量が溶媒コントロールに比べて有意に上昇した。N−アセチルグルコサミンを添加した場合も添加量が50μM以上で有意に上昇したが、β−クリプトキサンチンよりも発現上昇は低かった。
【0041】
実施例3
実施例1で得た
ヒアルロン酸合成促進剤を基に実施例2と同様の実験を行った。すなわち誘導体を含むβ−クリプトキサンチン濃度2質量%(β―クリプトキサンチンのフリー体として換算)を、培地に添加したときの濃度が、それぞれ0(溶媒コントロール)、5、10、50μMとなるように試料を培地に添加した。対照群としては、すでにヒアルロン酸の合成促進作用が報告されているN−アセチルグルコサミンを精製水に溶解し、培地に添加したときの濃度が、それぞれ、0(溶媒コントロール)、5、10、50μMとなるように試料を添加し、同様の培養実験を行った。この培養液を使用してヒアルロン酸合成酵素2,3の量の測定を行った。培養・測定方法は実施例2と同様である。
【0042】
ヒアルロン酸合成酵素3の発現 実施例1で作成した
ヒアルロン酸合成促進剤又はN−アセチルグルコサミンを添加し培養した時のヒアルロン酸合成酵素3の発現の結果を
図3に示す。誘導体を含むβ−クリプトキサンチンで培養した場合も、N―アセチルグルコサミンで培養した
図1と同様に、ヒアルロン酸合成酵素3の発現が上昇していた。N―アセチルグルコサミンと誘導体を含む皮膚外用剤による培養の間にはヒアルロン酸合成酵素3の発現量の有意な差は見られず、
ヒアルロン酸合成促進剤中に含有される誘導体もフリー体と同様にヒアルロン酸合成酵素3の発現量を上昇させた。
【0043】
ヒアルロン酸合成酵素2の発現
実施例1で作成した
ヒアルロン酸合成促進剤又はN−アセチルグルコサミンを添加し培養した時のヒアルロン酸合成酵素2の発現の結果を
図4に示す。誘導体を含むβ−クリプトキサンチンで培養した場合も、N―アセチルグルコサミンで培養した
図2と同様に、ヒアルロン酸合成酵素2の発現が上昇していた。N―アセチルグルコサミンと誘導体を含む皮膚外用剤による培養の間にはヒアルロン酸合成酵素2の発現量の有意な差は見られず、
ヒアルロン酸合成促進剤中に含有される誘導体もフリー体と同様にヒアルロン酸合成酵素2の発現量を上昇させた。
【0044】
実施例4
実施例2で培養した正常ヒト表皮角化細胞の培養上清を回収し、分泌されたヒアルロン酸をヒアルロン酸のELIZAキット(コスモ・バイオ社製)を用いて定量した結果を
図5に示す。その結果β−クリプトキサンチン含有培地で培養した細胞ではいずれの濃度でもN−アセチルグルコサミンよりもヒアルロン酸量が上昇していた。
【0045】
実施例5
実施例3で培養した正常ヒト表皮角化細胞の培養上清を回収し、分泌されたヒアルロン酸を実施例4と同様の方法にて定量した結果を
図6に示す。その結果、誘導体を含むβ−クリプトキサンチン含有培地で培養した細胞では、いずれの濃度でも、βークリプトキサンチン(標準サンプル)を用いた実施例4と同様に、N−アセチルグルコサミンよりもヒアルロン酸量が上昇していた。
【0046】
実施例6
実施例1で得られた抽出物を使用して以下の処方例を作成したが、本発明はこの処方によって限定されるものではない。
処方例1 保湿クリーム
抽出物 1.00%
脱イオン水 67.80%
乳化安定剤 0.80%
グリセリン 2.00%
界面活性剤 5.00%
キサンタガム 0.20%
ジノナン酸 6.00%
ミリスチン酸オクタドデシル 3.00%
イソステアリン酸イソステアリル 4.00%
イソノナン酸イソノニル 5.00%
防腐剤 0.50%
セトステアリルアルコール 0.50%
シクロペンタシロキサン 2.00%
小麦粉エキス 2.00%
香料 0.20%
【0047】
実施例7
処方例1の保湿クリームと、保湿クリームから抽出物を除いたプラセボを用いて二重盲検試験を実施した。女性33人(43〜54才)を対象に2週間の二重盲検法を用いた使用試験を行った。試験期間中温州みかん、柿、マンゴーなどβ−クリプトキサンチンを多く含む食品の摂取は禁止し、塗布は夜間に0.5g/日を上腕内側に行うこととした。試用期間終了後、キュートメーター(CK社製)を使用して塗布部分の肌弾力性の変化を試験の前後で測定を行った。また塗布部分の張りや感触が良くなったかどうかをVASスケールによってアンケートを実施した。
【0048】
実施例7の肌弾力性の変化率の結果を
図7に示す。処方例1を使用した試験群は抽出物なしのプラセボ品を使用した群よりも肌弾力性が改善しており、培養細胞で得られたヒアルロン酸合成促進作用がヒトでも得られている示唆を得た。
【0049】
実施例7のVASスケールによるアンケートの結果を表1に示す。処方例1を使用した試験群の数値はプラセボ群に比べて高く、2週間の試験によって皮膚の張りや感触が良くなることが分かった。
【0050】
【表1】