特許第5775667号(P5775667)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5775667臍帯血幹細胞の増殖および成長因子産生のリチウム刺激の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775667
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】臍帯血幹細胞の増殖および成長因子産生のリチウム刺激の方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20150820BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20150820BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20150820BHJP
   A61K 33/14 20060101ALI20150820BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20150820BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150820BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20150820BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C12N5/00 202Q
   A61K35/14 A
   A61L27/00 V
   A61K33/14
   A61K33/00
   A61P43/00 105
   A61P43/00 107
   A61P25/00
   A61P37/06
【請求項の数】24
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2009-535449(P2009-535449)
(86)(22)【出願日】2007年10月31日
(65)【公表番号】特表2010-508045(P2010-508045A)
(43)【公表日】2010年3月18日
(86)【国際出願番号】US2007083210
(87)【国際公開番号】WO2008055224
(87)【国際公開日】20080508
【審査請求日】2010年10月27日
(31)【優先権主張番号】60/856,071
(32)【優先日】2006年11月1日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】309033390
【氏名又は名称】ラトガース, ザ ステイト ユニバーシティー オブ ニュージャージー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】サン ドンミン
(72)【発明者】
【氏名】ヤング ワイズ
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0001826(US,A1)
【文献】 J.Cell.Physiol.,1992年,Vol.151,p.276-286
【文献】 J.Hematotherapy,1993年,Vol.2,p.201-202
【文献】 医学のあゆみ,2000年,Vol.194, No.4,p.1143-1147
【文献】 Bone Marrow Transplant.,1997年,Vol.19,p.1079-1084
【文献】 日本医科大学雑誌,1990年,Vol,.57, No.5,p.408-415
【文献】 Bone,2004年,Vol.34,p.818-826
【文献】 Int.J.Hematol.,2005年,Vol.81,p.126-130
【文献】 Exp.Hematol.,1981年,Vol.9, No.7,p.804-810
【文献】 Stem Cells,2006年 8月,Vol.24,p.1892-1903
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト臍帯血細胞による成長因子産生を刺激するための方法であって、
リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階であって、該細胞が幹細胞および/または単核細胞を含む段階
を含み、該成長因子が、ニューロトロフィン-3(NT-3)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)、白血病抑制因子(LIF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、前記方法。
【請求項2】
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リチウム塩が塩化リチウムである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
リチウム塩が培地中に0.5〜5mMの濃度で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
リチウム塩が培地中に3mMの濃度で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ヒト臍帯血細胞を増やすためのインビトロでの方法であって、
リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階であって、該細胞が幹細胞および/または単核細胞を含む段階
を含む、方法。
【請求項7】
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
リチウム塩が塩化リチウムである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
リチウム塩が培地中に0.5〜5mMの濃度で存在する、請求項6記載の方法。
【請求項10】
リチウム塩が培地中に3mMの濃度で存在する、請求項6記載の方法。
【請求項11】
対象における移植されたヒト臍帯血細胞の生存および成長を強化するための医薬の製造におけるリチウム塩の使用であって、該リチウム塩が、該細胞の増殖を促進し且つ該細胞の成長因子の発現を刺激し、該細胞が幹細胞および/または単核細胞を含み、該成長因子が、ニューロトロフィン-3(NT-3)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)、白血病抑制因子(LIF)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、前記使用。
【請求項12】
細胞が、移植前にリチウム塩を含む培地中で培養される、請求項11記載の使用。
【請求項13】
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、請求項12記載の使用。
【請求項14】
リチウム塩が塩化リチウムである、請求項12記載の使用。
【請求項15】
リチウム塩が培地中に0.5〜5mMの濃度で存在する、請求項12記載の使用。
【請求項16】
リチウム塩が培地中に3mMの濃度で存在する、請求項12記載の使用。
【請求項17】
対象がヒトである、請求項11記載の使用。
【請求項18】
対象が脊髄損傷と診断されている、請求項11記載の使用。
【請求項19】
細胞が脊髄内に投与される、請求項11記載の使用。
【請求項20】
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、請求項11記載の使用。
【請求項21】
リチウム塩が塩化リチウムである、請求項11記載の使用。
【請求項22】
リチウム塩が、経口、髄腔内、脳室内、皮下、腹腔内、静脈内および筋肉内からなる群より選択される経路によって投与される、請求項11記載の使用。
【請求項23】
リチウム塩が1mg/kg〜150mg/kgの用量で投与される、請求項11記載の使用。
【請求項24】
リチウム塩が10mg/kgの用量で投与される、請求項11記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月1日に提出された米国特許仮出願第60/856,071号に対する優先権を主張し、その開示内容はすべての目的に関してその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒト幹細胞の同定、単離および作製には大いに関心が寄せられている。ヒト幹細胞は典型的には、自己再生および種々の成熟ヒト細胞系譜を生成する能力のある全能性または多能性の前駆細胞である。この能力は、臓器および組織の発生のために必要な細胞の分化および特殊化の基盤としての役割を果たす。近年の幹細胞の移植の成功は、疾患、有毒な化学物質に対する曝露、および/または放射線照射に起因する骨髄破壊の後に、骨髄を再構成および/または補充するための、新たな臨床ツールをもたらした。組織のすべてではないにしても多くを再定着させ、生理的および解剖学的な機能を回復させるために幹細胞を使用しうることを示す証拠はほかにも存在する。
【0003】
多くの異なるタイプの哺乳動物幹細胞が特徴づけられている。例えば、胚性幹細胞、胚性生殖細胞、成体幹細胞および他の単分化能幹細胞または始原細胞が知られている。実際には、ある種の幹細胞は単離され特徴づけられているだけでなく、限定的な度合いの分化を可能にする条件下で培養されてもいる。集団内のHLA型に関して可能性のある組み合わせは数千万種に上るため、個々の患者に対してHLAを適合させることが可能な、あらゆる細胞種に分化しうる、十分な数量、総数およびHLA型多様性を有するヒト幹細胞を入手することは極めて困難であるという点で基本的な問題が残されている。各種のHLA型を有する幹細胞は極めて供給不足である。悪性腫瘍、先天性代謝異常、異常ヘモグロビン症および免疫不全症を含む、非常にさまざまな疾患および病状の治療におけるその重要性のため、さまざまなHLA型を有する幹細胞の十分な供給源があれば非常に有益であると考えられる。
【0004】
十分な数のヒト幹細胞を入手することには、いくつかの理由から問題があった。第1に、成体組織中に天然に存在する幹細胞の集団の単離は技術的に困難であってコストもかかり、これは一部には、血液または組織中に認められる数量が極めて限られるためである。第2に、中絶された胎児を含む、胚または胎児組織からのこれらの細胞の調達に対して倫理的懸念が高まっている。このため、胚組織または胎児組織から調達される細胞の使用を必要としない代替的な供給源が、幹細胞の臨床的使用のさらなる進展のためには不可欠である。しかし、幹細胞、特にヒト幹細胞の実用的な代替的供給源はほとんどなく、それ故に供給も限られている。さらに、治療および研究を目的として代替的供給源から幹細胞を十分な量で採取することには一般に困難である。
【0005】
例えば、米国特許第5,486,359号(特許文献1)は、骨髄に由来するヒト間葉系幹細胞(HMSC)組成物を開示している。均一なHMSC組成物は、造血細胞および分化した間葉細胞のいずれに関連するマーカーも含まない付着性の骨髄細胞または骨膜細胞の陽性選択によって得られる。単離された間葉細胞集団は、間葉系幹細胞に付随する特性を示し、培養下で分化せずに再生する能力を有し、かつ、インビトロで誘導されるかインビボで傷害組織の部位に置かれた場合に特定の間葉系譜に分化する能力を有する。しかし、このような方法の欠点は、それらが、HMSCを後に単離するために、ヒトのドナーからの骨髄細胞または骨膜細胞の侵襲的かつ疼痛を伴う採取をまず必要とすることにある。
【0006】
臍帯血は、間葉系幹細胞ならびに造血幹細胞および始原細胞の公知の代替的な供給源である。臍帯血からの細胞は、骨髄移植および他の関連した移植において用いられる治療手順である造血系再構成のために慣例的に凍結保存される(例えば、米国特許第5,004,681号(特許文献2)および第5,192,553号(特許文献3)を参照)。臍帯血の採取のための従来の手法は、胎盤から臍帯血を抜き取るために重量の助けを借りて用いられる、針またはカニューレの使用に基づいている(例えば、米国特許第5,004,681号(特許文献2)、第5,192,553号(特許文献3)、第5,372,581号(特許文献4)および第5,415,665号(特許文献5)を参照)。針またはカニューレは通常は臍帯静脈内に配置され、胎盤から臍帯血を抜き取るのを援助するために胎盤を穏やかにマッサージする。しかし、臍帯血からの幹細胞調達の主な限界は、得られる臍帯血の容積が往々にして不十分であり、その結果、移植後に骨髄を効果的に再構成するには細胞数が不十分となることである。
【0007】
幹細胞は、神経系外傷(例えば、脊髄損傷)、悪性腫瘍、遺伝性疾患、異常ヘモグロビン症および免疫不全症を含む、非常にさまざまな疾患および傷害の治療に用いられる可能性がある。しかし、幹臍帯血からの細胞は、その採取に関する制約、臍帯血から典型的に採取される細胞数が特に成体患者を治療するために用いられる場合に不十分であること、および大規模な在庫を成立させるための莫大なコストのために、供給が極めて不足している。このため、幹細胞を移植のために十分な数に増やすことのできる細胞培養系において臍帯血幹細胞を培養する方法に対しては、当技術分野において強い需要が存在する。また、移植された幹細胞の成長および生存を強化し、レシピエントにおける幹細胞拒絶反応を軽減または遅延させる方法に対しても需要がある。本発明はこれらおよび他の需要に応える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,486,359号
【特許文献2】米国特許第5,004,681号
【特許文献3】米国特許第5,192,553号
【特許文献4】米国特許第5,372,581号
【特許文献5】米国特許第5,415,665号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、リチウム塩を含むインビトロ細胞培養系を用いて、ヒト臍帯血幹細胞による成長因子産生を刺激するための方法、および臍帯血幹細胞を増やすための方法を提供する。本発明はまた、移植された臍帯血幹細胞の生存および成長を、移植前に細胞をリチウム塩で処理することによって強化するためのインビボでの方法も提供する。本発明はさらに、移植後にリチウム塩を投与することによって、移植された臍帯血幹細胞の拒絶反応を軽減するためのインビボでの方法を提供する。
【0010】
本発明は、部分的に、リチウムが幹細胞による成長因子の産生または発現を刺激するという驚くべき発見に基づく。いかなる特定の理論にも拘束されることはないが、幹細胞の増殖、生存および免疫拒絶に対するリチウムの作用は、リチウム塩に反応して幹細胞が産生または発現する成長因子の量によって媒介される。
【0011】
このため、1つの局面において、本発明は、ヒト臍帯血細胞による成長因子産生を刺激するための方法であって、リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階を含む、方法を提供する。
【0012】
リチウムは典型的には、細胞生存因子、抗分化因子およびそれらの組み合わせといった成長因子の産生または発現を刺激する。細胞生存因子の例には、ニューロトロフィン、サイトカイン、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HB-EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、色素上皮由来因子(PEDF)、シュワノーマ由来成長因子(SDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、骨誘導タンパク質(例えば、BMP1〜BMP15)、増殖分化因子-9(GDF-9)、顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ミオスタチン(GDF-8)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)およびそれらの組み合わせが非限定的に含まれる。白血病抑制因子(LIF)が好ましい抗分化因子である。
【0013】
ニューロトロフィンの例には、ニューロトロフィン-1(NT-1)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4(NT-4)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)およびそれらの組み合わせが非限定的に含まれる。
【0014】
サイトカインの非限定的な例には、
およびそれらの組み合わせが含まれる。
【0015】
本発明の方法に用いるために適したリチウム塩の例には、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムが非限定的に含まれる。好ましくは、リチウム塩は塩化リチウムである。いくつかの態様において、リチウム塩、例えば塩化リチウムは、細胞培養基中に約0.5〜約5mM、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、4、4.5または5mMの濃度で存在する。1つの好ましい態様において、リチウム塩は細胞培養基中に約3mMの濃度で存在する。
【0016】
ある場合には、臍帯血細胞をリチウム模倣化合物とともに培養することができる(例えば、Gould et al., Neuropsychopharmacology, 30:1223-1237 (2005);およびGould, Expert Opin. Ther. Targets, 10:377-392 (2006)を参照)。また別のある場合には、臍帯血を、例えば、バルプロ酸(例えば、Hahn et al., J Psychiatr. Res., 39:355-363 (2005);Shao et al., Biol. Psychiatry, 58:879-884 (2005);およびDokucu et al., Neuropsychopharmacology, 30:2216-2224 (2005)を参照)、バルプロ酸二ナトリウム(disodium valproate)(例えば、Calabrese et al., Am. J. Psychiatry, 162:2152-2161 (2005)を参照)およびカルバマゼピン(例えば、Bazinet et al., Biol. Psychiatry, 59:401-407 (2006)を参照)といった、リチウムに類似した向精神薬とともに培養することができる。
【0017】
いくつかの態様においては、採取した臍帯血ユニットからまず血漿を実質的に除去し、続いて、血漿が除去された臍帯血ユニット中に存在する幹細胞をリチウム塩とともに培養する。他の態様においては、採取した臍帯血ユニットからまず赤血球を実質的に除去し、続いて、赤血球が除去された臍帯血ユニット中に存在する幹細胞をリチウム塩とともに培養する。臍帯血幹細胞は、血漿が除去された、または赤血球が除去された臍帯血ユニットの凍結保存の前または後に、リチウム塩を含む培地中で、当業者に公知の任意のインビトロ培養手法を用いて培養することができる。
【0018】
もう1つの局面において、本発明は、ヒト臍帯血細胞を増やすための方法であって、リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階を含む、方法を提供する。
【0019】
適したリチウム塩の例には、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムが非限定的に含まれる。好ましくは、リチウム塩は塩化リチウムである。いくつかの態様において、リチウム塩、例えば塩化リチウムは、細胞培養基中に、約0.5〜約5mM、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、4、4.5または5mMの濃度で存在する。1つの好ましい態様において、リチウム塩は細胞培養基中に約3mMの濃度で存在する。
【0020】
ある場合には、臍帯血細胞をリチウム模倣化合物とともに培養することができる。また別のある場合には、臍帯血細胞を、バルプロ酸、バルプロ酸二ナトリウム、カルバマゼピンおよびそれらの組み合わせといった、リチウムに類似した向精神薬とともに培養することができる。
【0021】
上述したように、採取した臍帯血ユニットから血漿を実質的に除去し、続いて、血漿が除去された臍帯血ユニット中に存在する幹細胞をリチウム塩とともに培養することができる。または、採取した臍帯血ユニットから赤血球を実質的に除去し、続いて、赤血球が除去された臍帯血ユニット中に存在する幹細胞をリチウム塩とともに培養することもできる。臍帯血幹細胞は、血漿が除去された、または赤血球が除去された臍帯血ユニットの凍結保存の前または後に、リチウム塩を含む培地中で、当業者に公知の任意のインビトロ培養手法を用いて培養することができる。
【0022】
さらにもう1つの局面において、本発明は、対象における、移植されたヒト臍帯血細胞の生存および成長を強化するための方法であって、(a)リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階;および(b)段階(a)の細胞を対象に投与する段階を含む、方法を提供する。
【0023】
移植された臍帯血細胞の生存および成長を強化するための本発明の方法に用いるために適したリチウム塩には、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムが非限定的に含まれる。好ましくは、リチウム塩は塩化リチウムである。いくつかの態様において、リチウム塩、例えば塩化リチウムは、細胞培養基中に、約0.5〜約5mM、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、4、4.5または5mMの濃度で存在する。1つの好ましい態様において、リチウム塩は細胞培養基中に約3mMの濃度で存在する。
【0024】
ある場合には、臍帯血細胞をリチウム模倣化合物とともに培養することができる。または、臍帯血細胞を、バルプロ酸、バルプロ酸二ナトリウム、カルバマゼピンおよびそれらの組み合わせといった、リチウムに類似した向精神薬とともに培養することもできる。
【0025】
上述したように、採取した臍帯血ユニットから血漿を実質的に除去し、続いて、血漿が除去された臍帯血ユニット中に存在する幹細胞をリチウム塩とともに培養することができる。または、採取した臍帯血ユニットから赤血球を実質的に除去し、続いて、赤血球が除去された臍帯血ユニット中に存在する幹細胞をリチウム塩とともに培養することもできる。臍帯血幹細胞は、血漿が除去された、または赤血球が除去された臍帯血ユニットの凍結保存の前または後に、リチウム塩を含む培地中で、当業者に公知の任意のインビトロ培養手法を用いて培養することができる。
【0026】
対象は典型的には、ヒトなどの哺乳動物である。対象が脊髄損傷などの損傷と診断されている場合には、培養細胞は好ましくは脊髄内に投与される。
【0027】
ある場合には、本方法は、塩化リチウムなどのリチウム塩を、対象、例えばヒトなどの哺乳動物に投与する段階をさらに含む。リチウム塩、例えば塩化リチウムは通常、経口、髄腔内、脳室内、皮下、腹腔内、静脈内および筋肉内を非限定的に含む経路によって投与される。いくつかの態様において、リチウム塩は、約1mg/kg〜約150mg/kg、例えば、約1、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、50、75、100、125または150mg/kgの用量で対象に投与される。1つの好ましい態様において、リチウム塩は約10mg/kgの用量で投与される。
【0028】
本発明の培養細胞およびリチウム塩は、単独で、または投与の経路および標準的な薬学的慣行に従って選択される、薬学的に許容される担体との混合物中にある状態で、投与することができる。非限定的な一例として、規定平衡食塩水(例えば、約135〜150mM NaCl)を薬学的に許容される担体として用いることができる。他の適した担体には、水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシンなどが非限定的に含まれる。本発明の培養幹細胞およびリチウム塩の送達に用いるために適したそのほかの担体は、例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, Mack Publishing Co., Philadelphia, PA, 18th ed. (1995)に記載されている。
【0029】
1つのさらなる局面において、本発明は、対象における、移植されたヒト臍帯血細胞の拒絶反応を軽減するための方法であって、細胞移植後に対象にリチウム塩を投与する段階を含む、方法を提供する。
【0030】
対象は典型的には、ヒトなどの哺乳動物である。対象が脊髄損傷などの損傷と診断されている場合には、培養細胞は好ましくは脊髄内に投与される。
【0031】
本発明の方法に用いるために適したリチウム塩の非限定的な例には、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムが含まれる。好ましくは、リチウム塩は塩化リチウムである。ある場合には、臍帯血幹細胞を、細胞移植の前に、リチウム塩を含む培地中でのインビトロ培養手法を用いて増やすことができる。臍帯血幹細胞は、血漿および/または赤血球が実質的に除去された、採取した臍帯血ユニットから得ることができる。
【0032】
リチウム塩、例えば塩化リチウムは通常、経口、髄腔内、脳室内、皮下、腹腔内、静脈内および筋肉内を非限定的に含む経路によって投与される。いくつかの態様において、リチウム塩は、約1mg/kg〜約150mg/kg、例えば、約1、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、50、75、100、125または150mg/kgの用量で対象に投与される。1つの好ましい態様において、リチウム塩は約10mg/kgの用量で投与される。ある場合には、リチウム模倣化合物、またはリチウムに類似した向精神薬(例えば、バルプロ酸、バルプロ酸二ナトリウム、および/またはカルバマゼピン)を、移植された臍帯血幹細胞の拒絶反応を軽減するために対象に投与することができる。
【0033】
本明細書に記載したリチウム塩は、単独で、または投与の経路および標準的な薬学的慣行に従って選択される、薬学的に許容される担体との混合物中にある状態で、投与することができる。非限定的な一例として、規定平衡食塩水(例えば、約135〜150mM NaCl)を薬学的に許容される担体として用いることができる。他の適した担体には、水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシンなどが非限定的に含まれる。本発明の培養幹細胞およびリチウム塩の送達に用いるために適したそのほかの担体は、例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, Mack Publishing Co., Philadelphia, PA, 18th ed. (1995)に記載されている。
【0034】
リチウム塩は、細胞移植から数分、数時間、数日、数週、数カ月および/または数年の後に投与することができる。いくつかの態様において、対象は、細胞移植後に、同じまたは異なるリチウム塩の2度目の、3度目の、4度目の、5度目の、6度目の、7度目の、8度目の、9度目の、10度目のまたはそれ以上の投薬による治療を受けることができる。ある場合には、細胞移植の前および/または後に、リチウム塩の1回または複数回の投薬を対象に行うこともできる。
【0035】
本発明のその他の特徴、目的および利点、ならびにその好ましい態様は、以下の詳細な説明、実施例および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
[本発明1001]
ヒト臍帯血細胞による成長因子産生を刺激するための方法であって、
リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階を含む、方法。
[本発明1002]
成長因子が、細胞生存因子、抗分化因子およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
成長因子が、ニューロトロフィン、サイトカイン、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)およびそれらの組み合わせからなる群より選択される細胞生存因子である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
細胞生存因子が、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4(NT-4)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)およびそれらの組み合わせからなる群より選択されるニューロトロフィンである、本発明1003の方法。
[本発明1005]
成長因子が抗分化因子であり、該抗分化因子が白血病抑制因子(LIF)である、本発明1002の方法。
[本発明1006]
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1007]
リチウム塩が塩化リチウムである、本発明1001の方法。
[本発明1008]
リチウム塩が培地中に約0.5〜約5mMの濃度で存在する、本発明1001の方法。
[本発明1009]
リチウム塩が培地中に約3mMの濃度で存在する、本発明1001の方法。
[本発明1010]
ヒト臍帯血細胞を増やすためのインビトロでの方法であって、
リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階を含む、方法。
[本発明1011]
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、本発明1010の方法。
[本発明1012]
リチウム塩が塩化リチウムである、本発明1010の方法。
[本発明1013]
リチウム塩が培地中に約0.5〜約5mMの濃度で存在する、本発明1010の方法。
[本発明1014]
リチウム塩が培地中に約3mMの濃度で存在する、本発明1010の方法。
[本発明1015]
対象における、移植されたヒト臍帯血細胞の生存および成長を強化するための方法であって、
(a)リチウム塩を含む培地中で該細胞を培養する段階;および
(b)段階(a)の細胞を対象に投与する段階
を含む、方法。
[本発明1016]
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、本発明1015の方法。
[本発明1017]
リチウム塩が塩化リチウムである、本発明1015の方法。
[本発明1018]
リチウム塩が培地中に約0.5〜約5mMの濃度で存在する、本発明1015の方法。
[本発明1019]
リチウム塩が培地中に約3mMの濃度で存在する、本発明1015の方法。
[本発明1020]
対象がヒトである、本発明1015の方法。
[本発明1021]
対象が脊髄損傷と診断されている、本発明1015の方法。
[本発明1022]
細胞が脊髄内に投与される、本発明1015の方法。
[本発明1023]
(c)リチウム塩を対象に投与する段階をさらに含む、本発明1015の方法。
[本発明1024]
対象がヒトである、本発明1023の方法。
[本発明1025]
リチウム塩が塩化リチウムである、本発明1023の方法。
[本発明1026]
リチウム塩が、経口、髄腔内、脳室内、皮下、腹腔内、静脈内および筋肉内からなる群より選択される経路によって投与される、本発明1023の方法。
[本発明1027]
リチウム塩が約1mg/kg〜約150mg/kgの用量で投与される、本発明1023の方法。
[本発明1028]
リチウム塩が約10mg/kgの用量で投与される、本発明1023の方法。
[本発明1029]
対象における、移植されたヒト臍帯血細胞の拒絶反応を軽減するための方法であって、
細胞移植後に対象にリチウム塩を投与する段階を含む、方法。
[本発明1030]
対象がヒトである、本発明1029の方法。
[本発明1031]
対象が脊髄損傷と診断されている、本発明1029の方法。
[本発明1032]
リチウム塩が、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウムからなる群より選択される、本発明1029の方法。
[本発明1033]
リチウム塩が塩化リチウムである、本発明1029の方法。
[本発明1034]
リチウム塩が経口、髄腔内、脳室内、皮下、腹腔内、静脈内および筋肉内からなる群より選択される経路によって投与される、本発明1029の方法。
[本発明1035]
リチウム塩が約1mg/kg〜約150mg/kgの用量で投与される、本発明1029の方法。
[本発明1036]
リチウム塩が約10mg/kgの用量で投与される、本発明1029の方法。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】リチウムがインビトロでのN01.1細胞の増殖を促進することを示すデータを図示している。
図2】リチウムがインビトロでのN01.1細胞の成長因子産生を刺激することを示すデータを図示している。
図3】定量的リアルタイムPCRによって評価した、リチウムがインビボでのN01.1細胞の増殖を促進することを示すデータを図示している。
図4】ゲノムPCRによって評価した、リチウムがインビボでのN01.1細胞の増殖を促進することを示すデータを図示している。
図5】組織学的分析によって評価した、リチウムがインビボでのN01.1細胞の生存を促進することを示すデータを図示している。左、頭側;右、尾側。スケール=1mm。
図6】リチウムがインビボでのN01.1細胞の成長因子産生を刺激することを示すデータを図示している。
図7】脊髄損傷後の神経保護に対するリチウムの作用を示すデータを図示している。
図8】リチウムがインビトロでのヒト臍帯血細胞の増殖を促進することを示すデータを図示している。
図9】リチウムがインビトロでのヒト臍帯血細胞の成長因子産生を刺激することを示すデータを図示している。
図10】リチウムがインビトロでのヒト臍帯血細胞の成長因子産生を刺激することを示す、さらなるデータを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
I.序論
リチウムは、双極性障害および他の神経学的病状を治療するために50年以上にわたり用いられている(例えば、Manji et al., Biol. Psychiatry, 46:929-940 (1999)を参照)。躁鬱病の人々は往々にしてリチウムを生涯にわたって服用し、治療血中濃度は約1mMである。このような高い濃度にもかかわらず、リチウムは比較的毒性が少ない。リチウムの細胞に対する作用機序として考えられるものは数多くある(Jope, Mol. Psychiatry, 4:117-128 (1999))。例えば、リチウムは、GSK-3、Akt、cAMP依存性キナーゼおよびプロテインCを含む複数の酵素、ならびにそれらに付随する二次メッセンジャーおよび転写因子の活性をモジュレートする。
【0038】
神経細胞に対するリチウムの作用に関する研究により、リチウムは、神経再生(Bustuoabad et al., Medicina, 40:547-552 (1980))および神経始原細胞の増殖(Hashimoto et al., Neuroscience, 117:55-61(2003))を刺激し、脳卒中モデルにおける損傷部位付近の神経細胞およびアストログリア細胞の増殖を誘導し(Chuang, Crit. Rev. Neurobiol., 16:83-90 (2004))、下垂体におけるグリア細胞の増殖を強化し(Levine et al., Cell Prolif, 35:167-172 (2002);Levine et al., Cell Prolif, 33:203-207 (2000))、白血球細胞が遊走する能力を刺激し(Azzara et al., Haematologica, 72:121-127 (1987);Azzara et al., Acta Haematol., 85:100-102 (1991))、海馬神経始原細胞の神経分化を高め(Kim et al., J. Neurochem., 89:324-336 (2004))、かつ、マウス海馬における神経発生を強化する(Laeng et al., J. Neurochem., 91:238-251(2004))という可能性が示されている。しかし、これらの参考文献のうち、ヒト臍帯血幹細胞による成長因子産生に対するリチウムのインビトロおよびインビボでの作用について考慮しているものはない。同様に、これらの参考文献は、ヒト臍帯血幹細胞の増殖および生存に対するリチウムのインビトロおよびインビボでの作用を正しく認識することができていない。
【0039】
さらに、骨髄に対するリチウムの作用に関する研究により、リチウムはコロニー刺激活性の産生を増加させ、顆粒球生成および赤血球生成の速度を増大させ(Labedzki et al., Klin. Wochenschr., 58:211-218 (1980))、化学療法により誘発される顆粒球生成および赤血球生成の抑制を軽減し(Korycka et al., Arch. Immunol. Ther. Exp., 39:501-509 (1991))、全身照射後の骨髄回復の速度を増大させ(Johnke et al., Int. J. Cell Cloning, 9:78-88 (1991))、シクロペンチルプロピオン酸エストラジオールおよびジエチルスチルベストロールによって引き起こされる骨髄形成不全および汎血球減少症を好転させ(Hall, J. Am. Vet. Med. Assoc., 200:814-816 (1992))、かつ、クロザピンにより誘発される顆粒球減少症を有する患者における正常血球数を回復させる(Papetti et al., Encephale., 30:578-582 (2004))という可能性も示されている。しかし、これらの参考文献のうち、ヒト臍帯血幹細胞による成長因子産生に対するリチウムのインビトロおよびインビボでの作用について考慮しているものはない。同様に、これらの参考文献は、ヒト臍帯血幹細胞の増殖および生存に対するリチウムのインビトロおよびインビボでの作用を正しく認識することができていない。
【0040】
したがって、本発明は、一部には、塩化リチウムなどのリチウム塩を含む培地中でヒト臍帯血幹細胞を培養することが、これらの幹細胞による成長因子の産生を刺激し、それによってそれらの増殖および生存を促進するという驚くべき発見に基づく。実際に、臍帯血幹細胞を本発明の方法に従って培養することは、成長因子の発現の量および幹細胞の数を数倍(例えば、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍)に増加させる。本発明はまた、臍帯血幹細胞を移植の前にリチウム塩で処理することが、移植された幹細胞の生存および成長を強化し、かつ、臍帯血幹細胞移植後にリチウム塩を投与することが、移植された幹細胞の免疫拒絶を軽減するという驚くべき発見にも基づく。このため、本明細書に記載した方法は、臍帯血中に認められる幹細胞の限られた供給量の大幅な拡大を可能にするだけでなく、例えば、移植された幹細胞の生存および成長を増加させること、ならびに/または移植された幹細胞の免疫拒絶を低下させることにより、移植レシピエントの臨床転帰の有意な改善ももたらす。
【0041】
II.定義
本明細書で用いる場合、以下の用語は、特記する場合を除き、それらに属する意味を有する。
【0042】
「幹細胞」という用語は、無期限に分裂して、特殊化した細胞を生み出す能力を有する、任意の細胞のことを指す。幹細胞はすべての胚層(すなわち、外胚葉、中胚葉および内胚葉)から生じる。幹細胞の典型的な供給源には、胚、骨髄、末梢血、臍帯血、胎盤血、筋組織および脂肪組織が含まれる。幹細胞は全能性であってよく、これはそれらが体内のあらゆる細胞へと成長して分化することができることを意味する。哺乳動物では、接合子および初期胚細胞のみが全能性である。または、幹細胞は多能性であってもよく、これはそれらが生物体におけるほとんどの組織を生成しうることを意味する。例えば、多能性幹細胞は、神経系、皮膚、肝臓、腎臓、血液、筋肉、骨などを生み出すことができる。多能性幹細胞の例には、臍帯血幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、脂肪由来幹細胞、間葉系幹細胞、胎盤由来幹細胞、脱落歯由来幹細胞および毛包幹細胞が非限定的に含まれる。これとは対照的に、多分化能幹細胞または成体幹細胞は典型的には、限られた種類の細胞を生み出す。幹細胞という用語は、本明細書で用いる場合、別に指摘する場合を除き、始原細胞を含む。
【0043】
「始原細胞」という用語は、系譜が拘束されている細胞、すなわち、個々の細胞が単一の系譜に限定された子孫を生み出すことのできる細胞のことを指す。始原細胞の非限定的な例には、神経性、肝臓性、腎形成性、脂肪生成性、造骨性、破骨性、肺胞性(alveolar)、心臓性、腸性または内皮性の系譜に対する前駆細胞が含まれる。
【0044】
「培養すること」という用語は、本明細書で用いる場合、幹細胞を、それらが増殖して老化を回避することのできる条件下に維持することを指す。例えば、本発明において、幹細胞は、リチウム塩および任意で1つまたは複数の成長因子、すなわち成長因子カクテルを含む培地中で培養される。
【0045】
「成長因子産生を刺激すること」という用語は、幹細胞からの1つまたは複数の成長因子の発現(例えば、mRNA、タンパク質)を増加させるためのリチウム塩の使用のことを指す。典型的には、成長因子の発現の増加を、リチウム塩の非存在下で培養した対照幹細胞と比較する。実施例1および2に記載されているように、本発明の方法は、すなわちリチウム塩を含む培地中で幹細胞を培養した場合に、幹細胞からの成長因子の産生を有意に刺激することができる。幹細胞をリチウム塩とともに培養することによって刺激されうる成長因子の例には、細胞生存因子(例えば、ニューロトロフィン、サイトカイン、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)など)、抗分化因子(例えば、白血病抑制因子(LIF)など)およびそれらの組み合わせが非限定的に含まれる。ニューロトロフィンの非限定的な例には、ニューロトロフィン-1(NT-1)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4(NT-4)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)(例えば、NGFα、NGFβおよびNGFγ)ならびにそれらの組み合わせが含まれる。サイトカインの例には、上記のもののようなインターロイキンまたはインターフェロンのサブファミリーに属するものが含まれる。
【0046】
「インビトロでの増殖」という用語は、実験室での幹細胞の培養のことを指す。そのような細胞を、哺乳動物から抽出して、適切な環境内、例えばリチウム塩を含む培地中での培養によってさらなる量の細胞を生成させることができる。可能であれば、細胞の継続的増殖を可能にするための安定な細胞系を樹立する。実施例1および2に記載されているように、すなわちリチウム塩を含む培地中で幹細胞を培養した場合に、本発明の方法はインビトロでの幹細胞増殖を有意に促進することができる。
【0047】
「生存および成長を強化すること」という用語は、移植された幹細胞の生存性および増殖を促進するためのリチウム塩の使用のことを指す。典型的には、移植された幹細胞の生存および成長の強化を、リチウム塩の非存在下で培養されて移植された対照幹細胞と比較する。実施例1に記載されているように、すなわちリチウムで処理した幹細胞を哺乳動物に投与した場合に、本発明の方法は移植された幹細胞の生存および成長を有意に強化することができる。生存能力のある細胞とは、生きていて、成長および分裂を高頻度で行うことのできる細胞のことである。当業者は、例えばトリパンブルー色素を排出する能力によって、細胞の生存能力を判定するための方法を承知している。
【0048】
「拒絶反応を軽減すること」という用語は、移植された幹細胞の免疫拒絶を軽減するため、遅らせるため、または抑止するためのリチウム塩の使用のことを指す。典型的には、移植された幹細胞の、拒絶反応における軽減を、リチウム塩の非存在下で培養されて移植された対照幹細胞と比較する。非限定的な一例として、本発明の方法は、塩化リチウムなどのリチウム塩が幹細胞レシピエントに投与された場合に、移植された幹細胞の免疫拒絶の開始を有意に遅らせることができる。
【0049】
「臍帯血」という用語は、出生後に残される臍帯の血液から得られる多能性および多分化能の幹細胞の供給源のことを指す。臍帯血中に認められる幹細胞には、間葉系幹細胞、造血幹細胞および始原細胞が非限定的に含まれる。間葉系幹細胞および始原細胞は典型的には、神経細胞、骨髄間質細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、腱細胞および靱帯細胞に分化することができる。造血幹細胞は典型的には、リンパ系、骨髄性および赤芽球性の系譜の細胞を生み出すことができる。臍帯血を採取して処理するための方法の詳細な説明は以下に提示されている。
【0050】
「臍帯血ユニット」という用語は、本明細書で用いる場合、単一のドナーから採取されたある容積の臍帯血のことを指す。単一の臍帯血ユニットが典型的には本発明の方法に用いられるが、複数の臍帯血ユニット、例えば、2臍帯血ユニットを、幹細胞数を増加させるために用いることもできる。
【0051】
本明細書で用いる場合、「血漿が実質的に除去された」および「血漿が除去された」という用語は、血漿の容積のうち約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%を上回る分が取り除かれている、処理された臍帯血ユニットのことを指す。例えば、血漿は、臍帯血を遠心分離することおよび細胞画分を血漿画分から分離することによって実質的に除去することができる。実質的な除去の後に残っている血漿の容積は、典型的には容積比で約0%〜約30%、好ましくは容積比で約10%〜約30%である。
【0052】
「赤血球が除去されていない(non-red blood cell depleted)」および「赤血球が除去されていない(red blood cells are not depleted)」という用語は、本明細書で用いる場合、赤血球の容積のうち約30%、25%、20%、15%、10%、5%、4%、3%、2%または1%を下回る分が取り除かれている、処理された臍帯血ユニットのことを指す。
【0053】
本明細書で用いる場合、「赤血球が実質的に除去された」および「赤血球が除去された」という用語は、赤血球の容積のうち約30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%を上回る分が取り除かれている、処理された臍帯血ユニットのことを指す。
【0054】
「有核細胞」とは、核、すなわち染色体DNAを含むオルガネラを有する細胞のことを指す。有核細胞には、例えば、白血球および幹細胞が含まれる。「無核細胞」には、例えば、成体赤血球が含まれる。
【0055】
「リチウム塩」という用語は、任意の、リチウムの薬学的に許容される塩のことを指す。本発明の方法に用いるために適したリチウム塩の例には、塩化リチウム、炭酸リチウムおよび硫酸リチウム、クエン酸リチウム、オキシ酪酸リチウム(lithium oxybutyrate)、オロト酸リチウム、酢酸リチウム、アルミン酸リチウム、水酸化アルミニウムリチウム、リチウムアミド、ホウ酸リチウム、臭化リチウム、リチウムジイソプロピルアミド、フッ化リチウム、水素化リチウム、水酸化リチウム、ヨウ化リチウム、メタホウ酸リチウム、モリブデン酸リチウム、ニオブ酸リチウム、硝酸リチウム、窒化リチウム、酸化リチウム、過塩素酸リチウム、過酸化リチウム、硫化リチウム、タンタル酸リチウム、γ-リノレン酸リチウム(lithium gamma-linolenate)およびそれらの組み合わせが非限定的に含まれる。好ましくは、リチウム塩は塩化リチウムである。
【0056】
「対象」という用語は、ヒトなどの哺乳動物のことを指す。
【0057】
本明細書で用いる場合、「投与すること」という用語は、経口、鼻腔内、静脈内、眼内、静脈内、骨内、腹腔内、脊髄内、筋肉内、関節内、脳室内、頭蓋内、病変内、気管内、髄腔内、皮下、皮内、経皮的または経粘膜的な投与を非限定的に含む任意の経路による、ヒト臍帯血細胞などの幹細胞または塩化リチウムなどのリチウム塩の送達のことを指す。リチウム塩は典型的には、経口、髄腔内、脳室内、皮下、腹腔内、静脈内または筋肉内の経路を介して投与される。ある場合には、リチウム塩は、対象に植え込まれた浸透ポンプによって、例えば、Alza Corp.(Mountain View, CA)から販売されているDUROS(登録商標)インプラントを用いて投与される。また別のある場合には、リチウム塩は、徐放性デポー剤注射によって投与される。幹細胞は例えば、疾患部位、損傷部位(例えば、脊髄損傷の治療のための脊髄内投与)または臓器などの他の標的部位への直接的な注射または注入によって投与することができる。幹細胞およびリチウム塩は、一度に(例えば、同時に)または逐次的に(例えば、数分、数時間または数日の間に)、投与することができる。
【0058】
III.臍帯血幹細胞
A.臍帯血の採取
臍帯血は幹細胞の豊富な供給源であり、容易に、かつドナーに対する外傷を伴わずに入手することができる。対照的に、移植のための骨髄細胞の採取は、入院のための時間および金銭の点でコストがかかる外傷性の経験である。好ましくは、臍帯血は臍帯からの直接ドレナージによって採取される。このため、乳児の分娩に続いて、臍帯を二重にクロスクランプで挟み、クランプで押し潰された部分のすぐ上を横切して、その結果生じた臍血管からの胎児血液の流れを採取容器に捕えることができる。通常は臍帯を絞らずとも十分な採取が得られ、これは胎盤剥離が起こる前におよそ2分間で完了する。母体血液、尿または分娩領域内の他の液体による混入を避けるために注意を払う必要がある。臍帯血は、当技術分野で公知の任意の他の方法によって入手することもできる。
【0059】
本発明の目的におけるドナーには、供与に関するインフォームドコンセントを目的とするドナーである母体ドナーを含めることができ、これは実際の新生児ドナーの管理権を有する母親であり、この場合、臍帯血の実際のドナーは新生児である。母体ドナーは、全般的な健康状態が良好で年齢が約16〜約50歳の間である個体である。臍帯血の供与の前または後に、ドナーの適合性、ならびに輸血によって伝染する感染症、遺伝性疾患および造血系の癌が存在しないことを判定するために、母体ドナーから特定の情報を収集することができる。例えば、母体ドナーに医療質問票を渡して記入してもらってもよい。本発明の1つの態様において、母体ドナーは供与の前に医学的検査を受けると考えられる。
【0060】
臍帯血の採取は無菌条件下で行われるべきである。いくつかの態様においては、臍帯血を、採取の直後に抗凝固剤と混合することができる。一般に、約23ml〜約35mlの抗凝固剤を最大で約255mlの臍帯血(すなわち、1臍帯血ユニット)と混合する。適した抗凝固剤には、当技術分野で公知の任意のもの、例えば、CPDA(クエン酸-リン酸-デキストロース-アデノシン)、CPD(クエン酸-リン酸-デキストロース)、ACD(酸-クエン酸-デキストロース)、Alsever液(Alsever et al., N. Y. St. J. Med., 41:126 (1941))、De Gowin液(De Gowin et al., J. Am. Med. Assoc., 114:850 (1940))、Edglugate-Mg(Smith et al., J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 38: 573 (1959))、Rous-Turner液(Rous et al., J. Exp. Med., 23: 219 (1916))、他のグルコース混合物、ヘパリン、ビスクマ酢酸エチルなどが含まれる。
【0061】
臍帯血の処理を補助するため、および安全性を向上させるために、種々の血液成分用の処理バッグは、無菌血液バッグシステムの部分であってもよい。1つの態様においては、血漿保存溶液を処理バッグの1つに組み入れることができる。さらに、採取バッグおよび処理バッグの両方に口および遮断コネクタを備えることもできる。口は、バッグの中への、またはバッグの中からの、材料の添加または抽出のために用いることができる。遮断コネクタは、チューブまたはバッグの入口を一時的に閉鎖するために用いることができる。
【0062】
臍帯血は典型的には、例えば約0℃〜約42℃または約15℃〜約26℃の温度で、最長で約48時間にわたって保存することができる。
【0063】
臍帯血に加えて、胎盤血または胎児血を、培養および/または移植のために適した幹細胞を入手するために用いることもできる。胎盤血または胎児血は、当技術分野で公知の任意の方法によって入手することができる。例えば、胎児血は、超音波に誘導された針の使用、胎盤穿刺術または胎児鏡検査によって胎盤の付け根で胎児循環から入手することができる。胎盤血は、例えば、分娩した胎盤の付け根および拡張した静脈の箇所から針吸引によって入手することができる。
【0064】
いくつかの態様においては、出産直後の女性に対して、臍帯血および胎盤血を供与するように依頼する。病院と連絡をとり、臍帯/胎盤血採取プロジェクトに参加するように依頼する。潜在的なドナーは、分娩中であって、自然分娩または帝王切開によって新生児を出産しようとしている女性である。米国特許第5,993,387号には、出産直後の女性から臍帯血および胎盤血を入手する1つの方法が記載されており、これは例えば、子供が生まれる前に家族をバンクに登録すること、ならびに出生後に採取しようとする臍帯血幹細胞の採取および保存に対する謝礼を集めることによる。
【0065】
1つの態様においては、分娩後に、臍帯血および/または胎盤を採取して検査する。いくつかの態様において、検査は、臍帯血または胎盤血がそれ以後の処理に適することを保証するものである。検査には、胎盤が無傷であって大量の胎便または膿性分泌物を伴わないことを確かめるために、胎盤を検査することが含まれうる。臍帯が無傷であって2本の動脈および1本の静脈を有し、真結節または他の異常がないことを明らかにするために、臍帯を検査することもできる。上記のように、採取は、任意でクエン酸-リン酸-デキストロース-アデノシン(CPDA)溶液などの抗凝固剤を含むバッグ内へ行うことができる。
【0066】
B.血漿除去処理
いくつかの態様においては、採取した臍帯血の容積を、例えば米国特許公開第20060275271号に記載された工程に従って減らすことができる。非限定的な一例として、採取した臍帯血の容積の減少は、まず混合物を約0℃〜約42℃、好ましくは約15℃〜約26℃の温度で遠心分離することによって行うことができる。遠心分離は、混合物から、液体、例えば血漿のかなりの容積を取り除くために行われる。遠心分離は、好ましくは、約1,000×g〜約2,500×gで約5〜約20分間にわたり、細胞損傷を引き起こさずに細胞の大部分の沈降を引き起こすのに十分な遠心力および遠心分離時間で行われる。遠心分離の後に、臍帯血混合物の容積を減らすために血漿のかなりの容積を取り除いて、赤血球が除去されていない、血漿が除去された臍帯血ユニットを作製する。実質的な除去の後に残る血漿容積は、典型的には容積比で約0%〜約30%、好ましくは容積比で約10%〜約30%である。ある場合には、少なくとも約10mlの血漿が、血漿が除去された臍帯血ユニット中に残される。好ましくは、上清を取り除いた時に失われるのは、上清血漿中の細胞の計数によって実証されるように、有核細胞の約5%未満(例えば、約5%未満、4%未満、3%未満、2%未満または1%未満)である。
【0067】
いくつかの態様においては、血漿が除去されたユニットを凍結容器、例えばCryocyte(登録商標)バッグに移して、約2℃〜約8℃の間に約30〜約60分間冷却する。許容される容積は、用いる特定のCryoCyte(登録商標)バッグの保持容積、凍結保存しようとする細胞の数、および凍結保存溶液の濃度によって決まる。血漿が除去された臍帯血ユニットの容積が、約60または約75mlの容積を超えるほどに大きい場合は、より大きなCryoCyte(登録商標)バッグを用いることもでき、または試料を2つもしくはそれ以上のCryoCyte(登録商標)バッグに分けることもできる。
【0068】
C.臍帯血幹細胞の培養
臍帯血ユニット中に存在する幹細胞を、凍結保存の前または後に、リチウム塩を含む培地中でのインビトロ培養方法を用いて培養することができる。培養下での臍帯血幹細胞の成長に関しては、さまざまなプロトコールが記載されている(例えば、Smith et al., Br. J. Haematol., 63:29-34 (1986);Dexter et al., J. Cell. Physiol., 91: 335 (1977);Witlock et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 79:3608-3612 (1982)を参照)。当業者は、臍帯血細胞の集団をインビトロで培養するための他の手順を承知しているであろう。
【0069】
培養下にある臍帯血幹細胞の増殖を刺激するために、さまざまな因子をリチウム塩とともに用いることもできる。非限定的な例としては、種々のサイトカイン、およびインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-6(IL-6)、顆粒球-マクロファージ(GM)-コロニー刺激因子(CSF)などの成長因子を、臍帯血ユニット中に存在する幹細胞のエクスビボでの増殖を刺激するために、リチウム塩と組み合わせて用いることができる。
【0070】
本発明の方法によって培養された臍帯血幹細胞は、さらなる精製を伴うことなく用いることができる。または、培養幹細胞の特定の集団または部分集団を、当技術分野で公知のさまざまな手法、例えば免疫アフィニティークロマトグラフィー、免疫吸着、FACS分取などによって単離することもできる。非限定的な一例として、臍帯血幹細胞を、CD34、c-kitおよび/またはCXCR-4といった細胞表面マーカーの発現に基づいて単離することができる。
【0071】
本発明は、細胞培養の分野における慣例的な手法に依拠している。適した細胞培養の方法および条件は、公知の方法を用いて当業者によって決定されうる(例えば、Freshney et al., CULTURE OF ANIMAL CELLS, 3rd ed. (1994)を参照)。一般に、細胞培養環境には、細胞成長のための基質、細胞密度および細胞収縮(cell contract)、気相、培地ならびに温度といった要因の検討が含まれる。
【0072】
インキュベーションは一般に、細胞成長のために至適であることが公知である条件下で行われる。そのような条件には、例えば、約37℃の温度、および約5% CO2を含む加湿大気が含まれうる。インキュベーションの持続時間は、所望の結果に応じて非常にさまざまでありうる。増殖は3Hチミジン取り込みまたはBrdU標識を用いて決定することが好都合である。
【0073】
プラスチックシャーレ、フラスコ、ローラーボトル、または懸濁状態にあるマイクロキャリアを、本発明の方法に従って臍帯血幹細胞を培養するために用いることができる。適した培養容器には、例えば、マルチウェルプレート、ペトリ皿、組織培養管、フラスコ、ローラーボトルなどが含まれる。臍帯血幹細胞を典型的には、細胞種に基づいて経験的に決定される至適密度で成長させて、細胞密度が至適値を上回った時に継代する。
【0074】
培養臍帯血幹細胞は通常、適した温度、例えば、温度の部位格差を加味した上での細胞を入手した動物の体温を与えるインキュベーター内で成長させる。一般に、37℃が細胞培養のために好ましい温度である。ほとんどのインキュベーターはほぼ大気条件になるように加湿されている。
【0075】
気相の重要な成分は酸素および二酸化炭素である。典型的には、大気中の酸素分圧が細胞培養物に対して用いられる。培養容器には通常、ガス透過性蓋を用いることによって、または培養容器の密閉を防ぐことによってガス交換が可能となるように、インキュベーター内の大気への通気口がある。二酸化炭素は、細胞培地中の緩衝剤とともにpH安定化に役割を果たし、典型的にはインキュベーター内に約1%〜約10%の濃度で存在する。好ましいCO2濃度は、典型的には約5%である。
【0076】
規定細胞培地は、包装され、あらかじめ混合された粉末またはあらかじめ滅菌された溶液として入手可能である。一般に用いられる培地の例には、Dulbecco変法Eagle培地(DMEM)、DME、RPMI 1640、Iscove完全培地およびMcCoy培地が非限定的に含まれる(例えば、GibcoBRL/Life Technologies社のカタログおよび参照手引き;Sigma社のカタログを参照)。規定細胞培養基に、リチウム塩、例えば塩化リチウムを、約0.5〜5mM、例えば約0.5、1、1.5、2、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、4、4.5または5mMの濃度で加える。いくつかの態様において、リチウム塩は約3mMで存在する。また、規定細胞培養基に約5〜20%の血清、典型的には熱非働化血清、例えばヒト、ウマ、仔ウシおよびウシ胎仔血清を加えることもできる。典型的には、10%ウシ胎仔血清(FBS)またはヒト血清(HS)が本発明の方法に用いられる。培養基は通常、pH 約7.2〜7.4に細胞を維持するために緩衝化される。培地への他の補給物には、例えば、抗生物質、アミノ酸、糖(例えば、約5.5〜16.7mMのグルコース)および成長因子(例えば、EGF、FGFなど)が含まれる。
【0077】
IV.培養幹細胞およびリチウム塩の投与
本発明の方法に従って培養されたリチウム塩および幹細胞は、当技術分野で公知の手段によって対象に投与することができる。適した投与手段には、例えば、静脈内もしくは皮下投与または局所送達、例えば、疾患部位、損傷部位または臓器などの他の標的部位への直接的な注射または注入が含まれる。
【0078】
本明細書に記載された培養幹細胞およびリチウム塩は、単独で、または薬学的に許容される担体との混合物中にある状態で、投与することができる。薬学的に許容される担体は、一部には、投与される具体的な組成物(例えば、細胞、塩など)、ならびに組成物を投与するために用いられる具体的な方法によって決定される。したがって、本発明の培養細胞およびリチウム塩を投与するために適した、多種多様な薬学的製剤がある。非限定的な一例としては、規定平衡食塩水(例えば、約135〜150mM NaCl)を、薬学的に許容される担体として用いることができる。他の適した担体には、水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシンなどが非限定的に含まれる。そのほかの適した担体は、例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, Mack Publishing Co., Philadelphia, PA, 18th ed. (1995)に記載されている。本明細書で用いる場合、「担体」という用語には、任意のおよびすべての溶媒、分散媒、媒体、コーティング剤、希釈剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。「薬学的に許容される」という語句は、ヒトなどの哺乳動物に投与された時にアレルギー性または類似の望ましくない反応を生じさせない分子的実体および組成物のことを指す。
【0079】
本発明の幹細胞およびリチウム塩は、投与のために適した製剤の中、例えば、抗酸化薬、緩衝剤、静菌薬、および製剤を目的となるレシピエントの血液と等張になるようにする溶質を含みうる水性および非水性の等張性滅菌注射液、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤および保存料を含みうる水性および非水性の滅菌懸濁液の中にあってよい。
【0080】
注射用の溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。対象に投与される用量は、本発明の文脈において、対象における有益な治療応答を経時的に生じさせるのに十分であるべきである。培養幹細胞に関して、用量は、用いる具体的な幹細胞の有効性および対象の状態、ならびに治療しようとする対象の体重または体表面積によって決まると考えられる。用量のサイズは、特定の対象における特定の細胞種の投与に随伴する有害な副作用の存在、性質および程度によっても決まると考えられる。リチウム塩に関して、用量は、用いる具体的なリチウム塩および対象の状態、ならびに治療しようとする対象の体重または体表面積によって決まると考えられる。用量のサイズは、特定の対象における特定のリチウム塩の投与に随伴する有害な副作用の存在、性質および程度によっても決まると考えられる。
【0081】
本明細書に記載された疾患または損傷の治療において投与しようとする培養幹細胞の有効量の決定に当たっては、医師が、細胞毒性、移植反応、疾患の進行および抗細胞抗体の産生を評価する。投与に関しては、本発明の培養幹細胞を、対象の全体的および全般的な健康状態に対して適用されるような、さまざまな濃度での細胞種の副作用を考慮した上で、疾患または損傷に伴う1つまたは複数の症状を減少または緩和させるために有効な量で投与することができる。投与は単回投薬または分割投薬を介して達成することができる。
【0082】
いくつかの態様において、本発明は、疾患または能力障害(例えば、脊髄損傷)に罹患した対象を治療するための方法であって、本明細書に記載された方法に従って採取、処理および/または培養された幹細胞を対象に投与する段階を含む、方法を提供する。非限定的な一例として、疾患または損傷が原因で失われた細胞を補充するために、リチウムにより刺激された幹細胞を対象に投与することができる。
【0083】
ある場合には、疾病または疾患を理由として置き換えようとする細胞は血液細胞である。または、癌に対する化学療法または放射線療法を受けている対象がそのような治療法によって骨髄細胞を破壊され、それ故にさまざまな感染症を発症する感受性が増大している場合もある。これらの対象も、本発明の方法によって導き出される幹細胞によって治療することができる。また別のある場合には、幹細胞を、脊髄損傷、外傷性脳損傷、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病、熱傷、心疾患、糖尿病、骨関節炎、関節リウマチなどに罹患した対象を治療するために用いることもできる。また、幹細胞を、白血病、リンパ腫、貧血、多発性骨髄腫、遺伝性血液障害、および免疫不全症(例えば、AIDS)をもたらす疾患または治療を治療するために用いることもできる。
【0084】
幹細胞は、単独で、または他の治療レジメンとともに、対象に投与することができる。ある場合には、追加的な治療レジメンは化学療法および/または放射線照射療法を含む。また別のある場合には、追加的な治療レジメンは、例えば、GM-CSF、G-CSF、M-CSF、IL-3、IL-7、EPO、TPO、IL-5、または本明細書に記載された他の成長因子のいずれかといった、少なくとも1つの成長因子を含む。治療は一度に、または逐次的に投与することができる。
【0085】
V.幹細胞移植
いくつかの態様において、幹細胞はHLA型判定を伴わずに移植される。他の態様において、幹細胞は、レシピエントとの適合性を保証するためにHLA型判定を受ける。HLAマーカーの一致の数は、利用者の必要性および幹細胞の供給源に依存する。例えば、臍帯血を含む胚組織または胎児組織から単離された幹細胞は、6つのマーカーのうち4つ、6つのマーカーのうち5つ、または6つのマーカーのうち6つの一致があるものに用いることができる。成体からの幹細胞は、6つのHLAマーカーのうち6つが適合する場合に用いることが好ましい。ある種の免疫力低下対象においては、移植片対宿主反応が減弱している可能性があり、完全には一致しない幹細胞を用いることができる。
【0086】
典型的には、対象に存在する通常の幹細胞集団を、治療用幹細胞ユニットの移植の前に消失または減少させる。化学療法、放射線照射、または例えば米国特許第6,217,867号に記載された手法を、移植片の適切な生着のために骨髄の状態を整える目的で用いることができる。最後に、治療用幹細胞ユニットを、標準的な方法を用いて患者に移植することができる。
【0087】
いくつかの態様において、幹細胞は、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体とともに移植される。種々の水性担体、例えば緩衝食塩水などを用いることができる。これらの溶液は無菌であり、不要な物質を一般に含まない。治療用幹細胞ユニットは、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム、アルブミン、デキストラン、DMSO、それらの組み合わせなどといった、生理的条件に近づけるために必要な薬学的に許容される補助物質を含んでもよい。補助物質の濃度は非常にさまざまであってよく、選択される具体的な投与の様式および対象の必要性に従い、主として流体の容積、粘度、体重などに基づいて選択されると考えられる。
【0088】
VI.実施例
本発明を、以下の実施例によってさらに詳細に説明する。以下の実施例は例証を目的として提供されるものであり、いかなる形でも本発明を限定することは意図していない。当業者は、変更または修正しても本質的に同じ結果を得ることのできる種々の決定的でないパラメーターを容易に認識するであろう。
【0089】
実施例1.ラット新生仔血液細胞の成長および成長因子産生の、リチウム刺激
本実施例は、リチウムが、新生仔ラット血液から単離された幹細胞(N01.1細胞)の増殖および成長因子産生を促進することを例証する。リチウムはまた、移植されたN01.1細胞の生存および成長も強化する。
【0090】
結果
インビトロ
図1は、リチウムがインビトロでのN01.1細胞の増殖を促進することを示している。N01.1細胞を、3mM塩化リチウムを含む増殖培地中で7日間培養した。細胞数を両群について算定した。塩化リチウム群における細胞の数は、対照群よりも359%の多さであった。リチウム処理したN01.1細胞は依然としてネスチン陽性であった。
【0091】
図2は、リチウムが、インビトロでのN01.1細胞の成長因子産生を刺激することを示している。3mM塩化リチウムの存在下または非存在下のN01.1細胞におけるLIF、BDNF、GDNF、NGFγおよびNGFβなどの成長因子のmRNAレベルを、定量的リアルタイムPCRを用いて決定した。LIFおよびNGFβのmRNAレベルは対照群よりも有意に高かった。NGFγ、BDNFおよびGDNFのmRNAレベルに関しては有意差はみられなかった。
【0092】
インビボ
GFP-陽性N01.1細胞を、縦幅25mmの落錘挫傷後に直ちに移植した。ラットには100mg/kgの塩化リチウムを毎日、2週間にわたって腹腔内に注射した。対照群には食塩水を毎日、2週間にわたって注射した。ラットを2週時点でRT-PCRおよび組織学的分析のために殺処理した。
【0093】
図3および4は、リチウムがインビボでのN01.1細胞の増殖を促進することを示している。図3では、食塩水またはリチウムの処理を伴うN01.1細胞の移植から2週後の脊髄におけるGFP mRNAのレベルを定量的リアルタイムPCRによって決定した。食塩水で処置したラットでは、GFP mRNAの量は検出可能ではあったが極めて少なかった。しかし、リチウムで処置したラットでは、GFP mRNAの量は、食塩水で処置したラットで観察されたものよりも1000倍多かった。図4では、移植された脊髄組織のゲノムDNAを単離し、GFPプライマーセットを用いてゲノムPCR分析を行った。リチウムで処置した組織では、増幅されたGFP DNAの量は対照群で観察されたものよりも有意に多かった。
【0094】
図5は、リチウムがインビボでのN01.1細胞の生存を促進することを示している。GFP陽性N01.1細胞を、損傷させたラット脊髄に移植した。2週後に、ラットに灌流処置を行い、脊髄をZeiss Stemi解剖顕微鏡で観察した。食塩水で処置したラットでは、GFP蛍光強度は低くかつ散在性であった(図5A〜B)。しかし、リチウムで処置したラットでは、GFP蛍光強度は高く、2つの大きな領域を占めていた(図5C〜D)。GFP-N01.1細胞の分布をさらに評価するために、同じ脊髄を矢状方向に切片化した。食塩水で処置したラットでは、GFP陽性N01.1細胞は乏しかった(図5E)。これに対して、リチウムで処置したラットは、挫傷中心に多数のGFP陽性N01.1細胞を有していた(図5F)。
【0095】
図6は、リチウムが、インビボでのN01.1細胞の成長因子産生を刺激することを示している。成長因子産生に対するリチウムの作用を調べるために、4つの群の脊髄を定量的リアルタイムPCRによって分析した。「損傷」群および「損傷/LiC1」群では、成長因子mRNAレベルの有意な変化はみられなかった。「損傷/N01.1」群では、BDNF、NT3およびNGFγのmRNAレベルが上昇していた。「損傷/N01.1/LiCl」群では、GDNF、LIF、BDNF、NT-3、NGFβおよびNGFγmRNAレベルの有意な上昇がみられた。これらの結果は、リチウムがN01.1細胞の存在下での成長因子産生を刺激することを実証している。
【0096】
図7は、脊髄損傷後の神経保護に対するリチウムの作用を示している。脊髄損傷後間もなく塩化リチウムまたは食塩水を注射した(腹腔内)。病変体積を損傷の24時間後に測定した。リチウム処置ラットと食塩水処置ラットとの間に有意差は観察されなかった。
【0097】
考察
脊髄損傷後の幹細胞の増殖、遺伝子発現および組織保護に対するリチウムの作用について検討した。緑色蛍光タンパク質(GFP)をトランスフェクトした、新生仔ラット血液から単離されたネスチン発現性の細胞系(N01.1)を用いて、培養下でのN01.1細胞の増殖および損傷脊髄に移植したN01.1細胞に対するリチウムの作用を評価した。N01.1細胞を3mMリチウム中でインキュベートしたところ、1週後の細胞数の359%の増加がもたらされた。25mm挫傷損傷後のラット脊髄にN01.1細胞を移植したところ、それらは制御を失って成長することはなく、脊髄の灰白質-白質境界を侵犯しなかった。移植から2週後に、移植部位をGFP mRNAレベルに関してアッセイした。食塩水で処置したラットでは、GFP mRNAは検出可能ではあったが極めて少なかった。しかし、リチウムで処置したラットでは、GFP mRNAの量は、食塩水で処置したラットで観察されたものよりも1000倍多かった。組織検査からも、リチウムで処置した損傷脊髄の方がGFP陽性細胞が多いことが示された。GDNF、LIF、BDNF、NT-3、NGFβおよびNGFγといった成長因子のmRNAの量も、リチウム処置ラットの方が多かった。このため、本実施例は、リチウムが、インビボでの細胞増殖を促進することおよび成長因子発現を刺激することによって、移植された幹細胞の生存および成長を強化するために有用であることを実証している。これはしたがって、幹細胞移植片を投与された患者の併用療法における典型である。
【0098】
方法
細胞の特徴
N01細胞を野生型新生(P0)Sprague-Dawley(SD)ラットの血液から単離して、DMEM、10% FBS、EGFおよびbFGFとともに培養した。6週時点で、N01細胞の60%がネスチン陽性であった。クローンアッセイ後に、100%ネスチン陽性であったN01.1と命名されたサブクローンを選択した。N01.1細胞は形態およびネスチンマーカーの変化を伴わずに長期間培養することができる。血清を増殖培地から取り除いたところ、N01.1細胞は、神経幹細胞によって形成されるニューロスフェアに類似した球状構造を形成した(Sun, 1st Annual Scientific Meeting on Stem Cell Research in New Jersey, 2004)。
【0099】
インビトロでの培養
N01.1細胞を、DMEM、10% FBS、bFGFおよびEGF中にて、37℃、5%CO2の加湿チャンバー中で、3mM塩化リチウムにより7日間処理した。
【0100】
インビボでの脊髄損傷/細胞移植
N01.1細胞に緑色蛍光タンパク質(GFP)をトランスフェクトした。77+1日齢のSDラットを用いた。挫傷(MASCIS impactor、縦幅25mm)を加え、その少し後に、挫傷部位から2mm隔てた2つの部位に、Hamiltonシリンジに接続したガラス製マイクロピペットを用いて、合計200,000個の細胞を脊髄内に注射した(100,000個/μl)。
【0101】
インビボでのリチウム処置
塩化リチウムを注射/日当たり100mg/kgで、毎日2週間にわたって腹腔内に投与した。
【0102】
定量的リアルタイムPCR
移植されたGFP陽性N01.1細胞の細胞生存を移植2週後に評価するために、GFP mRNAを、Applied Biosystems 7900HTリアルタイムPCRシステム(Foster City, CA)でのSYBR緑色蛍光によって測定した。N01.1細胞移植後の脊髄におけるLIF、BDNF、NT3、GDNF、NGFγおよびNGFβのmRNAレベルを測定した。
【0103】
病変体積(LV)
組織保護に対するリチウムの作用を評価するために、損傷24時間後の病変体積を以下の式に従って測定した:LV =0.75−([K]t-4)/120×体重(Constantini et al., J. Neurosurg., 80:97-111(1994))。
【0104】
実施例2.ヒト臍帯血細胞の増殖および成長因子産生のリチウム刺激
本実施例は、リチウムが、ヒト臍帯血から単離された幹細胞の増殖および成長因子産生を促進することを例証する。
【0105】
図8は、リチウムが、インビトロでのヒト臍帯血細胞の増殖を促進することを示している。ヒト単核細胞を新鮮なヒト臍帯血から単離し、3mM塩化リチウムの存在下または非存在下で、ウシ胎仔血清(FBS)を含む増殖培地中で培養した。リチウムで処理した培養物では、8週間の試験期間を通じて、対照培養物よりも細胞数が多かった。総細胞数はリチウムで処理した培養物および対照培養物のいずれにおいても5週後に減少したが、第8週時点ではリチウム処理培養物の方が細胞が有意に多かった。
【0106】
図9は、リチウムが、インビトロでの成長因子産生を刺激することを示している。ヒト単核細胞を新鮮なヒト臍帯血から単離した。細胞を、3mM塩化リチウムの存在下または非存在下で、FBSを含む増殖培地中で培養した。成長因子mRNAレベルを評価するために、2週および4週の時点で定量的リアルタイムPCRを行った。4週時点で、リチウムで処理した培養物は、対照培養物と比べて、成長因子mRNAレベル(例えば、GDNF、LIF、BDNF、NT-3、NGFβおよびCNTF)が2〜5倍の高さであった。
【0107】
図10は、リチウムが、インビトロでの成長因子産生を刺激することを示している。ヒト単核細胞を新鮮なヒト臍帯血から単離した。細胞を、3mM塩化リチウム(Li)の存在下または非存在下で、成人血清(HS)を含む増殖培地中で培養した。成長因子mRNAレベルを評価するために、1週および2週の時点で定量的リアルタイムPCRを行った。いずれの時点でも、リチウムで処理した培養物は、対照培養物と比べて、成長因子mRNAレベル(例えば、BDNF、CNTF、GDNF、LIF、NGFβおよびNT-3)の有意な上昇を示した。
【0108】
以上の説明は例証的であることを意図しており、限定的ではないことが理解されるべきである。以上の説明を読むことにより、当業者には多くの態様が明らかになるであろう。したがって、本発明の範囲は、以上の説明を参照することによって判断されるべきではなく、添付する特許請求の範囲を、この種の請求を標題とする等価物の完全な範囲とともに参照することによって判断されるべきである。特許出願、特許およびPCT公報を含む、すべての論文および参考文献の開示内容は、すべての目的に関して参照により本発明に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10