【実施例】
【0041】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
【0042】
(細胞株及びマウス)
C3H/HeNマウス由来のSchmitt−Ruppinラウス肉腫ウイルス誘導悪性星状細胞腫細胞株、RSV−M細胞は、文献(Kumanishi, T., Ikuta, F., and Yamamoto, T. Brain tumors induced by Rous sarcoma virus, Schmidt-Ruppin strain III. Morphology of brain tumors induced in adult mice. J Natl Cancer Inst. 1973 Jan;50(1):95-109.)に記載のとおり作製し維持した。レトロウイルスを作製するために使用したG3T−hiヒト胎児腎臓由来細胞株はタカラバイオ株式会社(滋賀、日本)から購入した。これらの細胞株は、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Biowest、ニュアイエ、フランス)、100U/mlペニシリン、及び0.1mg/mlストレプトマイシン(ペニシリン−ストレプトマイシン混合溶液)(ナカライテスク株式会社)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ナカライテスク株式会社)中で維持した。細胞は、95%空気及び5%CO
2の加湿雰囲気中、37℃にてインキュベートした。5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスは日本クレア株式会社(東京、日本)から購入し、温度制御された無菌室内で維持した。全ての動物は、承認されたプロトコール及び大阪大学の動物委員会の指針に従って扱った。
【0043】
(統計学的解析)
生存期間については、カプラン・マイヤー法を用いて統計学的解析を行った。生存分布に関する有意差はログランク検定により評価した。他の実験については、統計学的解析は、分散分析(ANOVA)、及びそれに続いてTukeyのpost hocテストを行うことにより行った。P<0.05を統計的に有意なものと考えた。
【0044】
実施例1
本実施例に、IL−2遺伝子等を封入したHVJ−Eの調製について説明する。
HVJ−Eに封入するプラスミドDNAは、以下のように構築した。
pVAX−mGM−CSFは、pORF−mGMCSF v.21(InvivoGen、サンディエゴ、CA)からのmGM−CSF遺伝子を、pVAX1(3.0kb)(Invitrogen、カールスバッド、CA)のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−mIFN−βは、pORF−mIFNb v.11(InvivoGen)からのmIFN−β遺伝子を、pVAX1のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−mIL−2は、pORF−mIL−2(InvivoGen)からのmIL−2遺伝子を、pVAX1のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−mIL−12は、生物学的に活性な一本鎖マウスIL−12(scmIL−12)遺伝子(最初の22アミノ酸を欠失させたp35サブユニットに、(Gly
4Ser)
3リンカーを介して結合させたp40サブユニットを含む)(Nat Biotechnol. 1997 Jan;15(1):35-40)を、pVAX1のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−luciferase−GL3(pVAX−Luc)は、pGL3−Basic Vector(Promega、マディソン、WI)のHindIII−XbaI断片をpVAX1へと挿入することにより作製した。pVAX−Lucは、実験中、陰性対照ベクターとして使用した。pVAX−EGFPは、pEGFP−N1(Clontech、パロアルト、CA)からのEGFP遺伝子を、pVAX1のHindIII及びXbaI部位にクローニングすることにより構築した。
【0045】
上記プラスミドDNAを以下の方法により、HVJ−Eに封入した。
HVJ(VR−105パラインフルエンザ1センダイ/52、Z株)は、Mol Ther. 2002 Aug;6(2):219-26に記載した通り、American Type Culture Collection(ATCC;マナサス、VA)から購入し、生後10から14日の鶏卵の漿尿液中で増殖させ、遠心により精製し、UV照射(99mJ/cm
2)により不活性化した。不活性化ウイルスは複製することはできないが、ウイルス融合能は保持している。一定分量の不活性化HVJ(3×10
10粒子)を4℃にて15分間遠心(18,500×g)し、その後ウイルスのペレットを15μl硫酸プロタミン(1mg/ml)中に懸濁し、氷上で15分間インキュベートした。次いで、ウイルス懸濁液を、3%ツイーン80(終濃度0.2%)と共に、上記プラスミドDNA(200μg)と混合した。混合物を4℃にて5分間遠心(18,500×g)した。界面活性剤及び封入されなかったDNAを除去するために、ペレットを1ml平衡塩類溶液(BSS;10mM Tris−Cl、pH7.5、137mM NaCl、及び5.4mM KCl)で洗浄した後、pDNA含有HVJ−Eベクターを40μlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に懸濁した。
【0046】
なお、実施例3及び4において対照として使用したレトロウイルスベクターは、以下のように調製した。
pMSCVpuro(Clontech、パロアルト、CA)をゲートウェイベクター、pMSCVpuro−HpaI−Gatewayへ変換した。mIL−2の完全なオープンリーディングフレームをpENTR/D−TOPO(Invitrogen)へとサブクローニングした。次いで、エントリークローンを、LRクローナーゼを用いて、デスティネーションベクター、pMSCVpuro−HpaI−Gatewayと組換えさせた。その結果得られたプラスミドをpMSCVpuro−mIL2と呼ぶ。mIL−2含有レトロウイルスを作製するために、G3T−hi細胞を、FuGENE HD(Roche、インディアナポリス、IN)を使用して、pMSCVpuro−mIL−2、pGP、及びpE−ampho(タカラバイオ株式会社)でコトランスフェクションした。トランスフェクトした細胞を24時間培養した後、トランスフェクション培地を10%FBSを含む新鮮DMEMで置換した。24時間後、パッケージされたレトロウイルス粒子を含む馴化培養液を集め、0.45μmフィルターに通した。
【0047】
実施例2
本実施例に、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が、皮内腫瘍モデルにおいて、GM−CSF、IFN−β、又はIL−12を使用する場合よりも強く腫瘍増殖を阻害することを説明する。
【0048】
最初に、GM−CSF、IFN−β、IL−2、及びIL−12の中から、HVJ−Eを使用する免疫遺伝子治療に最も適したサイトカインを決定するために、皮内腫瘍モデルにおいて、HVJ−Eにより導入されるこれらのサイトカインの抗腫瘍効果を直接比較した。
5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスをイソフルランの吸入により麻酔した。生存可能な5×10
6RSV−M細胞を100μl PBSに再懸濁し、マウスの背中の皮内空間へと注射した。腫瘍が直径およそ6〜8mmまで増殖したとき(移植5日後)、マウスを無作為に6治療群へと分け、治療効果を調べた。腫瘍移植5、8、及び11日後に、100μl(6×10
9粒子)のpVAX−mGM−CSF含有HVJ−E、pVAX−mIFN−β含有HVJ−E、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、pVAX−mIL−12含有HVJ−E、若しくは陰性対照ベクターとしてpVAX−Luc含有HVJ−E、又は100μlのPBSを腫瘍内へ注射した。腫瘍サイズを週2回、ノギスを用いて測定し、腫瘍体積を以下の式に従って計算した:腫瘍体積(mm
3)=長さ×(幅)
2/2。
【0049】
それらの群の中で、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いた治療において最も劇的な腫瘍増殖阻害が見られた(
図1)。さらに、完全な反応を示すマウスの割合を比較した場合、HVJ−Eに封入された治療遺伝子に依存して顕著な差異が現れた。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いた治療後には70%の腫瘍が消失し、一方PBS又はpVAX−Luc含有HVJ−Eを用いた治療後には腫瘍の消失は見られず、pVAX−mIFN−β含有HVJ−E、pVAX−mGM−CSF含有HVJ−E、及びpVAX−mIL−12含有HVJ−Eを用いた治療後には、それぞれ20%、30%、及び40%の腫瘍が消失したのみであった。HVJ−Eを使用する免疫遺伝子治療のためのIL−2が有用であることが示された。
【0050】
実施例3
本実施例に、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が、頭蓋内グリオーマ異種移植片に対して抗腫瘍効果を示すことを説明する。
HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が脳内のグリオーマに対して抗腫瘍活性を示すか否かを、頭蓋内RSV−M腫瘍モデルを用いて調べた。
5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスをペントバルビタール(60mg/kg)の腹腔内注射により麻酔し、マウス用定位固定装置(SR−5M、ナリシゲ、東京、日本)に設置した。頭皮切開後、正中線の3mm横、ブレグマの4mm後ろに穿頭孔を開けた。次いで4μl PBS中の5×10
5個のRSV−M細胞を、26ゲージ針を装着した無菌ハミルトンシリンジを使用して皮質表面の下、2mmの深さに3分間かけて定位的に注射した。針はさらに2分間その場所に残し、その後ゆっくりと引き抜いた。腫瘍を移植したマウスを、無作為に3治療群(各5マウス)に分け、治療効果を調べた。移植7日後、4μl(3×10
9粒子)のpVAX−mIL−2含有HVJ−E、4μlのpVAX−Luc含有HVJ−E、又は4μlのPBSの注射によりマウスを治療した。これらは、定位固定枠上の同じ座標を使用して腫瘍部位へと注射した。いずれのマウスについても体重減少などの、毒性の兆候は見られなかった。治療から7日後、マウスを安楽死させ、4%パラホルムアルデヒドを用いて経心的に潅流した。脳組織を一晩、後固定し、Tissue-Tek OCT Compound(サクラファインテック、東京、日本)中に包埋し、ドライアイス中で凍結し、次いでクライオスタット(ライカマイクロシステムズ AG、ヴェッツラー、ドイツ)を用いて10μmの冠状切片に薄切した。切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、次いでおよその腫瘍体積を、次の式に従って計算した:腫瘍体積(mm
3)=長径×(短径)
2/2。長径及び短径は、各腫瘍の最大面積を示す冠状切片において測定した。
【0051】
3治療群の間の腫瘍体積の差異を
図2aに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療したマウスにおいては腫瘍増殖は大幅に抑制されたのに対し、他の治療群においては比較的大きな腫瘍が観察された(P<0.05)。
また、同様に治療したマウスの生存率を、腫瘍移植後40日間記録した。3治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を
図2bに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療したマウスの生存期間は、他の治療群と比較して有意に延長された(P<0.05)。
【0052】
さらに、同様の方法により、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療の効果を、HVJ−Eを使用しないIL−2遺伝子治療の効果と比較した。腫瘍細胞を移植して7日後、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、mIL−2含有MSCVベクター、又はPBSを腫瘍部位内に注射し、その後、31日間にわたって生存率を記録した。3治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を
図2cに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療したマウスの生存期間は、mIL−2含有MSCVベクターと比較しても有意に延長された(P<0.05)。
【0053】
実施例4
本実施例に、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が、CD4
+及びCD8
+T細胞の腫瘍内への侵入を増加させる一方、レギュラトリーT細胞の増殖を抑制することを説明する。
【0054】
HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療の抗腫瘍活性の潜在的機序を理解するために、頭蓋内RSV−M腫瘍モデルにおいて、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、pVAX−Luc含有HVJ−E、又はPBSを用いて実施例3と同様に治療を行い、治療の7日後に免疫組織化学的染色を実施した。各治療群中の1マウスを治療の7日後に安楽死させた。連続冠状切片を実施例3のように得、切片を30分間、80%メタノール中0.3%H
2O
2中でクエンチした。次いで切片をVectastain Elite ABC kit(Vector Laboratories、バーリンゲーム、CA)を使用して処理した後、3,3’−ジアミノベンジジン(ペルオキシダーゼ用DAB基質キット;Vector Laboratories)により処理した。続いて切片を、ブラウンジアミノベンジジン反応を有するVectastain Elite ABC kitを使用して、CD4(ラット抗マウスCD4、1:25;BD Pharmingen、サンディエゴ、CA)、CD8a(ラット抗マウスCD8a、1:25;BD Pharmingen)、TregマーカーFoxp3(ラット抗マウスFoxp3、1:25;Biolegend、サンディエゴ、CA)、樹状細胞(DC)マーカーCD11c(マウス抗マウスCD11c、1:25;Abcam、ケンブリッジ、UK)、又はNK細胞マーカーインテグリンα2(マウス抗マウスインテグリンα2、1:25;Santa Cruz Biotechnology、サンタクルーズ、CA)に対する一次抗体中でインキュベートした。
【0055】
染色結果を
図3aに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍由来の切片においては、CD4
+T細胞及びCD8
+T細胞の顕著な侵入が見られたのに対して、pVAX−Luc含有HVJ−E又はPBSを用いて治療した腫瘍においてはわずかな侵入がみられたのみだった。pVAX−Luc含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍では、PBSを用いて治療した腫瘍と比較して、Tregの侵入は減少した。一方、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍におけるTregの侵入は、PBSを用いて治療した腫瘍よりもわずかに増加した。DCの侵入については、3治療群の中で明らかな差異は見られなかった。NK細胞の侵入は、HVJ−Eを用いて治療した場合、大幅に増加した。
【0056】
さらに、免疫細胞の侵入を定量的に評価するために、治療の7日後、3治療群からの腫瘍における免疫細胞のmRNA発現を測定した。全RNAは、摘出した頭蓋内腫瘍から、RNeasy Mini Kit(キアゲン、東京、日本)を使用して製造者の使用説明書に従って抽出した。5μgの全RNAを、SuperScriptIII First-Strand synthesis system for qRT-PCR(Invitrogen)を使用して逆転写した。CD4、CD8a、インテグリンαX(CD11c)、インテグリンα2、Foxp3、及びGAPDH遺伝子(内部標準)に特異的なプローブ及びプライマー対は、アプライドバイオシステムズ(フォスターシティー、CA)から購入した。リアルタイムPCRを実施し、生成物を、SDS2.2ソフトウェアを使用するABI PRISM 7900HT Sequence Detection System(アプライドバイオシステムズ)により分析した。トランス遺伝子の発現をGAPDHに対して標準化した。
【0057】
定量結果を
図4aに示す。CD4及びCD8の発現は、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍において、他の治療群と比較して有意に増加した(P<0.05)。pVAX−Luc含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍において、Foxp3発現は減少する傾向が見られたが、この差異は統計的に有意ではなかった。同様に、HVJ−Eを用いて治療した腫瘍のインテグリンα2発現が増加する傾向についても、差異は統計的に有意ではなかった。
【0058】
このように、IL−2遺伝子の導入により、エフェクターT細胞の顕著な増殖が誘導された。しかし現在では、IL−2は、エフェクターT細胞を増殖及び活性化させる機能の他に、Tregを増加させ維持する機能を有することが理解されている(Malek TR, Bayer AL. Nat Rev Immunol. 2004 Sep;4(9):665-74、Furtado GC, Curotto de Lafaille MA, Kutchukhidze N, Lafaille JJ. J Exp Med. 2002 Sep 16;196(6):851-7.)。IL−2遺伝子治療用ベクターとして使用する場合に、HVJ−EがエフェクターT細胞のTreg媒介免疫抑制を阻害し得るか否かを評価するために、免疫細胞の腫瘍内への侵入について、レトロウイルスベクターを使用するIL−2遺伝子治療との比較を行なった。頭蓋内RSV−M腫瘍モデルにおいて、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、mIL−2含有MSCVベクター、又はPBSを用いて実施例3と同様に治療を行い、治療の7日後に、3治療群からの脳切片について、腫瘍に侵入している免疫細胞の免疫組織化学的染色を実施した。
【0059】
染色結果を
図3bに示す。mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍由来の切片においてTregの著しい侵入が見られたが、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍における侵入はより少なかった。さらに、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍においてCD4
+T細胞及びCD8
+T細胞の深い侵入が検出されたが、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍においてはさらにより顕著な侵入が見られた。
【0060】
治療7日後の、3治療群からの腫瘍における免疫細胞のmRNA発現も測定した(
図4b)。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍におけるFoxp3発現は、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍と比較して有意に減少した(P<0.05)。また、CD4及びCD8の発現は、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍において、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍と比較して有意に増加したが(P<0.05)、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍のCD4及びCD8の発現は、PBSを用いて治療した腫瘍よりも増加した(P<0.05)。したがって、IL−2遺伝子治療に使用するHVJ−EベクターはTreg増加を阻害し、その結果エフェクターT細胞の増殖を促進することが明らかとなった。
【0061】
実施例5
本実施例に、腫瘍摘出後の腔内へのpVAX−mIL−2含有HVJ−Eの投与が、残存腫瘍に対して抗腫瘍効果を示すことを説明する。
実際の臨床治療を再現した状況において、HVJ−Eベクターを使用するIL−2遺伝子治療の抗腫瘍効果を評価するために、マウスにおけるグリオーマの腫瘍摘出モデルを開発した。
まず、皮質表面の近くに移植した腫瘍塊を摘出するのに適した時期を決定するために、周囲の正常脳組織への腫瘍細胞浸潤の程度を経時的に評価した。腫瘍を移植したマウスからの脳切片を、移植4、6、及び8日後に調べた場合、8日後には腫瘍塊の周囲において正常脳組織へと浸潤している腫瘍細胞が見られたが、4及び6日後には腫瘍は比較的明確な境界を持って存在しており、周囲の正常脳組織へと浸潤している腫瘍細胞も見られなかった。したがって、腫瘍細胞植え付けの8日後に腫瘍摘出を実施することを決定し、以下のように腫瘍の移植、摘出、及び治療を行った。
【0062】
5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスをペントバルビタール(60mg/kg)の腹腔内注射により麻酔し、マウス用定位固定装置(SR−5M、ナリシゲ)に設置した。頭皮切開後、ハンドドリルを使用して、頭骨頭頂部において開頭術を施した。次いで2μl PBS中の2×10
5個のRSV−M細胞を、26ゲージ針を装着した無菌ハミルトンシリンジを使用して、3分間かけて皮質表面近くに注射した。針はさらに2分間その場所に残し、その後ゆっくりと引き抜いた。腫瘍を植え付けたマウスを、無作為に4治療群に分け、治療効果を調べた。植え付けの8日後、無治療群以外について、顕微鏡下手術により腫瘍塊を肉眼的に完全に摘出した。摘出は、手術腔の外周全てについて正常脳組織が見えるまで続行した。摘出後、4μl(3×10
9粒子)のpVAX−mIL−2含有HVJ−E、4μlのpVAX−Luc含有HVJ−E、又は4μlのPBSを、手術腔内へと投与した。
【0063】
この治療方法によるHVJ−Eの腔内投与によって、残存する浸潤腫瘍細胞へと遺伝子が送達され得ることを確認するために、pVAX−EGFP含有HVJ−Eを、腫瘍摘出直後に手術腔へと投与した。投与の24時間後に、マウスを安楽死させ、実施例3と同様に冠状切片を得た。切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、次いでNikon Eclipse TE300倒立顕微鏡(Nikon Instruments;メルビル、NY)を使用して、光学像及び蛍光像を記録した。
図5aに示すように、残存する腫瘍細胞におけるGFPの発現が検出され、腔内投与によるトランスフェクションの実現可能性を確認した。
【0064】
次いで、腫瘍摘出後のpVAX−mIL−2含有HVJ−Eの投与、摘出後のpVAX−Luc含有HVJ−Eの投与、若しくは腫瘍摘出のみにより治療したマウス、又は治療しないマウスの生存率を、移植後70日間にわたり測定した。4治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を
図5bに示す。摘出後のpVAX−mIL−2含有HVJ−Eの投与により治療したマウスの生存期間は、他の治療群と比較して有意に延長された(P<0.05)。