特許第5775673号(P5775673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5775673IL−2含有HVJ−Eベクター及びそれを含む脳腫瘍治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775673
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】IL−2含有HVJ−Eベクター及びそれを含む脳腫瘍治療剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150820BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20150820BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150820BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   A61K35/76
   A61P35/00
   A61P37/04
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2010-24286(P2010-24286)
(22)【出願日】2010年2月5日
(65)【公開番号】特開2011-160683(P2011-160683A)
(43)【公開日】2011年8月25日
【審査請求日】2013年2月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、「関西広域バイオメディカルクラスター構想(大阪北部(彩都)地域)に伴う研究委託業務」に係る再委託契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】302060281
【氏名又は名称】ジェノミディア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】金田 安史
(72)【発明者】
【氏名】松田 真秀
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/037265(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/035779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
A61K 35/76
A61P 35/00
A61P 37/04
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳腫瘍治療用である、IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクターを有効成分として含む医薬組成物。
【請求項2】
CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進し、且つレギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制することを特徴とする、請求項記載の医薬組成物。
【請求項3】
IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクターを含む脳腫瘍治療剤。
【請求項4】
CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進し、且つレギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制することを特徴とする、請求項記載の治療剤。
【請求項5】
脳腫瘍摘出後に投与されることを特徴とする、請求項又は記載の治療剤。
【請求項6】
脳腫瘍内に投与されることを特徴とする、請求項又はに記載の治療剤。
【請求項7】
脳腫瘍がグリオーマである、請求項のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項8】
IL−2がヒトIL−2である、請求項のいずれか1項に記載の治療剤。
【請求項9】
脳腫瘍治療用である、IL−12をコードする遺伝子をIL−12を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクターを有効成分として含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IL−2又はIL−2をコードする遺伝子を封入したHVJ−Eベクターを含む医薬組成物及び脳腫瘍治療剤に関し、より具体的には、IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクターを含み、CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進し、且つレギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制する医薬組成物及び脳腫瘍治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性グリオーマは成人における最も一般的な種類の原発性脳腫瘍であり、ヒト癌の最も破壊的な形態のひとつを構成する。手術、放射線治療、及び化学療法を含む集学的治療の進歩にも関わらず、悪性グリオーマの予後は、依然として極度に悪いままである。特に、神経膠芽腫(最も悪性度の高い種類の悪性グリオーマ)を有する患者は、生存期間中央値が15ヶ月未満である。悪性グリオーマのびまん性浸潤性により、全ての腫瘍細胞を除去することは一般的には不可能であり、したがって生存率は、術後治療が、浸潤している腫瘍細胞(正常脳組織に浸潤する)を除去することができるか否かに依存している。放射線治療や化学療法などの現在の術後治療の効果は、悪性グリオーマの根本的な進行を改変することにおいて限定的である。したがって、別の治療手段が緊急に必要とされており、それは浸潤している腫瘍細胞を標的とすることができなければならない。
【0003】
別の治療手段の1つとして、腫瘍細胞に対する免疫反応を誘導することが挙げられる。リンパ排出の欠如、血液脳関門(BBB)による末梢循環からの隔離、及び主要組織適合遺伝子複合体(MHC)抗原の低い発現等から、脳は免疫学的に特異な組織であると伝統的にみなされてきた。しかし、最近の研究により、中枢神経系(CNS)における求心性及び遠心性免疫経路の両方が存在していることが明らかになりつつある。病的状態下では、MHC抗原の発現は、ミクログリア細胞、星状膠細胞、内皮細胞、周皮細胞において誘導され得、このことはそれらの細胞がCNSにおいて抗原提示細胞(APC)として機能することを示唆する。免疫細胞を含む脳脊髄液の深頸リンパ節への効率的な排出が存在し、T細胞は、リンパ節で活性化されると、無傷のBBBを通じて脳へ速やかに移行し、局所のAPCによって提示される標的抗原と遭遇すると再び刺激される。かくして、免疫治療手段を脳腫瘍の治療において使用することが可能となる。しかし、現在までの報告では、レギュラトリーT細胞(Treg)(エフェクターT細胞の活性化及び増殖を強く阻害する)の発生頻度が増加することが報告されており(非特許文献1及び2)、グリオーマに対する有望な免疫治療を開発するためには、腫瘍により引き起こされる免疫抑制を克服すること、及び存在する抗腫瘍免疫反応を促進することが必要である。
【0004】
本発明者らは以前、不活性化センダイウイルス由来センダイウイルスエンベロープ(HVJ−E)が、直接的腫瘍内注射の後、腫瘍を有するマウスにおいて、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)及びナチュラルキラー(NK)細胞の活性化などの強い抗腫瘍免疫反応を誘導することを報告した(非特許文献3及び4)。本発明者らはまた、HVJ−Eが成熟樹状細胞(DC)からのIL−6分泌を通じてTreg媒介免疫抑制を阻害することも報告している(非特許文献3)。HVJ−Eはもともと送達ベクターとして開発され(非特許文献7〜9)、遺伝子、siRNA、タンパク質、及び抗癌剤等を包含し得、それらをインビトロ及びインビボの両方で細胞へと送達し得る(非特許文献7、10、及び11;特許文献1〜3)。実際、悪性メラノーマの治療においてHVJ−Eの実用化のための試験が行われている。
【0005】
しかしながら、HVJ−Eによって誘導される抗腫瘍免疫反応では、エフェクターT細胞の活性化が間接的であり数段階の反応を必要とする(非特許文献4)ため、効果的な免疫反応を促進するためには、HVJ−Eの複数回の注射が必要となる(非特許文献3〜6)。
【0006】
一方、悪性グリオーマに対する魅力的な手段の一つとして、サイトカイン遺伝子治療が試みられている。局所の免疫反応を促進し得るこの手段は、いくつかの免疫刺激サイトカイン(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、IFN−β、インターロイキン−2(IL−2)、及びインターロイキン−12(IL−12)の遺伝子導入により為され、しばしば好ましい結果を伴うことが報告されている。しかし、それらの活性はTregによって抑制されるため、それにより腫瘍の進行が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2005/094878号公報
【特許文献2】国際公開01/57204号公報
【特許文献3】国際公開2004/039406号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】El Andaloussi A, Lesniak MS. Neuro Oncol. 2006 Jul;8(3):234-43.
【非特許文献2】Grauer OM, Nierkens S, Bennink E, Toonen LW, Boon L, Wesseling P, et al. Int J Cancer. 2007 Jul 1;121(1):95-105.
【非特許文献3】Kurooka M, Kaneda Y. Cancer Res. 2007 Jan 1;67(1):227-36.
【非特許文献4】Fujihara A, Kurooka M, Miki T, Kaneda Y. Cancer Immunol Immunother. 2008 Jan;57(1):73-84.
【非特許文献5】Kawano H, Komaba S, Kanamori T, Kaneda Y. BMC Med. 2007;5:28.
【非特許文献6】Kawano H, Komaba S, Yamasaki T, Maeda M, Kimura Y, Maeda A, et al. Cancer Chemother Pharmacol. 2008 May;61(6):973-8.
【非特許文献7】Kaneda Y, Nakajima T, Nishikawa T, Yamamoto S, Ikegami H, Suzuki N, et al. Mol Ther. 2002 Aug;6(2):219-26.
【非特許文献8】Kaneda Y. Curr Drug Targets. 2003 Nov;4(8):599-602.
【非特許文献9】Kaneda Y, Yamamoto S, Nakajima T. Adv Genet. 2005;53:307-32.
【非特許文献10】Ito M, Yamamoto S, Nimura K, Hiraoka K, Tamai K, Kaneda Y. J Gene Med. 2005 Aug;7(8):1044-52.
【非特許文献11】Mima H, Yamamoto S, Ito M, Tomoshige R, Tabata Y, Tamai K, et al. Mol Cancer Ther. 2006 Apr;5(4):1021-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、CD4T細胞及びCD8T細胞といったエフェクターT細胞の活性化は促進しレギュラトリーT細胞(Treg)の活性化/増殖は抑制する様な、腫瘍、特に脳腫瘍に対する免疫療法を可能にする医薬組成物及び脳腫瘍治療剤、並びにそのためのベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題に鑑み、鋭意検討した結果、免疫刺激サイトカインとしてIL−2を採用し、それをHVJ−Eベクターを用いて投与した場合に、他のサイトカインを用いた場合よりも、悪性グリオーマに対して特に強い抗腫瘍効果を示すことを見出した。さらにこの効果が、CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への著しい侵入の誘導、並びにTreg媒介免疫抑制の阻害に起因することを見出した。以上の知見を得て、本発明者らは本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
[1]IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクター。
[2][1]に記載のベクターを有効成分として含む医薬組成物。
[3]脳腫瘍治療用である、[2]に記載の医薬組成物。
[4]CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進し、且つレギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制することを特徴とする、[3]に記載の医薬組成物。
[5]IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクターを含む脳腫瘍治療剤。
[6]CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進し、且つレギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制することを特徴とする、[5]に記載の治療剤。
[7]脳腫瘍摘出後に投与されることを特徴とする、[5]又は[6]に記載の治療剤。
[8]脳腫瘍内に投与されることを特徴とする、[5]又は[6]に記載の治療剤。
[9]脳腫瘍がグリオーマである、[5]〜[8]のいずれかに記載の治療剤。
[10]IL−2がヒトIL−2である、[5]〜[9]のいずれかに記載の治療剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の、IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクター、該ベクターを含む医薬組成物及び脳腫瘍治療剤は、脳腫瘍に対して強い抗腫瘍効果を示し、さらにTregの活性化を起こすことなくエフェクターT細胞の活性化を誘導することができる。したがって、本発明のベクター、医薬組成物及び脳腫瘍治療剤は、ヒトを含む哺乳動物における脳腫瘍の治療に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、皮内腫瘍モデルにおける種々のサイトカイン遺伝子を含むHVJ−Eの腫瘍内注射を介した腫瘍増殖阻害を示すグラフである。pVAX−mGM−CSF含有HVJ−E(GM−CSF)、pVAX−mIFN−β含有HVJ−E(IFNβ)、pVAX−mIL−2含有HVJ−E(IL−2)、pVAX−mIL−12含有HVJ−E(IL−12)、pVAX−Luc含有HVJ−E(Luc)又はPBSを、3回(腫瘍移植後5、8、及び11日)腫瘍内に注射した。皮内RSV−M腫瘍増殖をグラフとして表した。全てのデータを、平均+SEMとして示した(各治療群につきn=5)。
図2図2は、頭蓋内腫瘍におけるHVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療の治療効果を示すグラフである。腫瘍移植7日後に、pVAX−mIL−2含有HVJ−E(HVJ−E/mIL−2)、pVAX−Luc含有HVJ−E(HVJ−E/Luc)又はPBSを用いて、頭蓋内腫瘍を治療した(図2a,b)。同様にして、pVAX−mIL−2含有HVJ−E(HVJ−E/mIL−2)、mIL−2含有MSCV(MSCV/mIL−2)又はPBSを用いて、頭蓋内腫瘍を治療した(図2c)。図2aは、治療7日後の、各治療群における腫瘍体積を評価した結果を示す。各治療群について平均腫瘍体積+SEM(各治療群につきn=5)を示す。*P<0.05。図2bは、各治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を示す。40日間にわたり生存率を評価した(各治療群につきn=5)。図2cは、カプラン・マイヤー生存曲線を示す。31日間にわたり生存率を評価した(各治療群につきn=5)。
図3a図3aは、腫瘍床内への免疫細胞侵入の免疫組織化学解析の結果を示す図である。HVJ−Eを使用したIL−2遺伝子治療後の頭蓋内腫瘍における免疫反応の結果を反映している。pVAX−mIL−2を含むHVJ−E(HVJ−E/mIL−2)、pVAX−Lucを含むHVJ−E(HVJ−E/Luc)又はPBSを用いて腫瘍内(注射)の治療を施したマウスから、治療7日後に脳を採取し、切片を作製した。連続切片について、CD4+T細胞、CD8+T細胞、Treg、樹状細胞又はNK細胞を観察した。CD4+T細胞についてはCD4の発現を、CD8+T細胞についてはCD8aの発現を、TregについてはFoxp3の発現を、樹状細胞についてはCD11cの発現を、そしてNK細胞についてはインテグリンα2の発現を免疫組織染色により確認した。
図3b図3bは、腫瘍床内への免疫細胞侵入の免疫組織化学解析の結果を示す図である。頭蓋内腫瘍における、HVJ−Eベクター又はレトロウイルスベクターを使用するIL−2遺伝子治療による免疫反応の結果を反映している。pVAX−mIL−2を含むHVJ−E(HVJ−E/mIL−2)、mIL−2を保持するMSCVベクター(MSCV/mIL−2)又はPBSを用いた腫瘍内注射により治療したマウスから、治療7日後に脳を採取し、切片を作製した。連続切片について、CD4+T細胞、CD8+T細胞、及びTregを観察した。CD4+T細胞についてはCD4の発現を、CD8+T細胞についてはCD8aの発現を、TregについてはFoxp3の発現を免疫組織染色により確認した。
図4a図4aは、リアルタイムRT−PCRにより定量された、頭蓋内腫瘍における各免疫細胞に特異的な遺伝子のmRNA発現量を示すグラフである。HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療後の頭蓋内腫瘍における結果を示す。pVAX−mIL−2を含むHVJ−E(HVJ−E/mIL−2)、pVAX−Lucを含むHVJ−E(HVJ−E/Luc)又はPBSを用いて治療した頭蓋内腫瘍を、治療7日後に採取し、全RNAを抽出した。CD4+T細胞についてはCD4のmRNA発現を、CD8+T細胞についてはCD8aのmRNA発現を、及びTregについてはFoxp3のmRNA発現を、定量リアルタイムRT−PCRにより測定した。内部標準としてはGAPDHのmRNA発現を用いた。三連の試料からの平均値+SEMを示す。*P<0.05。
図4b図4bは、リアルタイムRT−PCRにより定量された、頭蓋内腫瘍における各免疫細胞に特異的な遺伝子のmRNA発現量を示すグラフである。頭蓋内腫瘍における、HVJ−Eベクター又はレトロウイルスベクターを使用するIL−2遺伝子治療による免疫反応の結果を反映している。pVAX−mIL−2を含むHVJ−E(HVJ−E/mIL−2)、mIL−2を保持するMSCVベクター(MSCV/mIL−2)又はPBSを用いて治療した頭蓋内腫瘍を、治療7日後に採取し、全RNAを抽出した。CD4+T細胞についてはCD4のmRNA発現を、CD8+T細胞についてはCD8aのmRNA発現を、及びTregについてはFoxp3のmRNA発現を、定量リアルタイムRT−PCRにより測定した。内部標準としてはGAPDHのmRNA発現を用いた。三連の試料からの平均値+SEMを示す。*P<0.05。
図5図5は、腫瘍除去後の腔内投与による、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療の延命効果を示す。図5aにおいては、pVAX−EGFPを含むHVJ−Eを、腫瘍除去直後に手術腔内へ投与した。上パネル内の囲み部分を拡大して、下パネルに示す。図5bは、8日目に、腫瘍除去後にpVAX−mIL−2を含むHVJ−Eの投与(Removal+HVJ−E/mIL−2)、腫瘍除去後にpVAX−Lucを含むHVJ−Eの投与(Removal+HVJ−E/Luc)、若しくは腫瘍除去のみにより(Removal)治療したマウス、又は治療していない(PBS)マウスの、カプラン・マイヤー生存曲線を示す。生存率を70日間にわたり評価した(無治療群についてn=4、他の治療群についてn=5)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
文中で特に断らない限り、本明細書で用いる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を持つ。本明細書に記載されたものと同様又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用することができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及した全ての刊行物及び特許は、例えば、記載された発明に関連して使用され得る刊行物に記載されている、構築物及び方法論を記載及び開示する目的で、参照として本明細書に組み入れられる。
【0015】
本発明は、IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクター(本明細書中、便宜上IL−2含有HVJ−Eベクターとも称する)を提供する。HVJ−Eベクターは、センダイウイルス(Hemagglutinating Virus of Japan、以下HVJともいう)由来のウイルスエンベロープベクターである。ここでウイルスエンベロープとは、ウイルスからRNA又はDNAを不活性化したウイルス外被膜であり、ウイルスの複製能が消失されているため、通常は遺伝子、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、プラスミド等を封入してトランスフェクション用のベクターとして安全に利用される。本発明におけるウイルスエンベロープは、リポソームの形態であっても、リポソーム以外の形態であってもよいが、好ましくはリポソーム以外の形態である。
【0016】
HVJは、マウス肺炎ウイルスの一つである。HVJとして具体的には、例えばVR−105、VR−907等が挙げられるが、VR−105パラインフルエンザ1センダイ/52、Z株が好ましい。これらのHVJはAmerican Type Culture Collection(ATCC;マナサス、VA)から購入することができる。またHVJ−Eベクターの調製のために使用されるHVJは、野生型ウイルスであっても、組み換え型ウイルスであっても良い。
【0017】
ウイルスエンベロープベクターについてより詳しくは、例えば特開2001−286282号公報(WO01/57204号公報)、特開2002−065278号公報、WO03/014338号公報等に記載されており、具体的には例えば特開2001−286282号公報の実施例8などに従って調製することができる。
【0018】
本発明に用いられるウイルスエンベロープとして、不活化ウイルスを用いてもよい。不活化ウイルスは、ウイルスゲノムを不活化処理することにより得ることができる。不活化処理としては、例えばUV処理やアルキル化処理を挙げることができる。このウイルスゲノムの不活化処理により、ゲノムDNAまたはRNAが、ウイルスエンベロープ内で変性または断片化されてその活性を喪失し、ウイルスとしての複製能が失われる。
【0019】
本発明は、IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をHVJ−Eベクターに封入したベクターに関する。IL−2(インターロイキン2)は、サイトカインの一種であり、主に活性化されたT細胞によって分泌され、CTLやNK細胞などの免疫細胞の増殖及び活性化に関与するタンパク質である。IL−2は、エフェクターT細胞の顕著な増殖を誘導し、活性化することができることが知られており(Glick RP, Lichtor T, de Zoeten E, Deshmukh P, Cohen EP. Neurosurgery. 1999 Oct;45(4):867-74.、Nakamura K, Ito Y, Kawano Y, Kurozumi K, Kobune M, Tsuda H, et al. Gene Ther. 2004 Jul;11(14):1155-64.、Iwadate Y, Inoue M, Saegusa T, Tokusumi Y, Kinoh H, Hasegawa M, et al. Clin Cancer Res. 2005 May 15;11(10):3821-7.)、抗腫瘍治療への使用に適している。
【0020】
本発明におけるIL−2は、哺乳動物由来の任意のIL−2であるが、投与される動物種に由来するIL−2が好ましく選択される。ヒトへの臨床応用に鑑みた場合、ヒトのIL−2を用いることが好ましい。IL−2としては、具体的には、ヒトIL−2(アクセション番号:AAA59140.1)、マウスIL−2(アクセション番号:AAI16874.1)などが挙げられる。本発明で使用するIL−2は前述のものに限定されず、前記配列を有するIL−2と実質的に同じ作用を有するタンパク質である限り、本明細書中のIL−2に包含される。すなわち、免疫細胞の増殖及び活性化に関する機能を保持する限り、そのアミノ酸配列において、1〜数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加を有するものであってもよい。これらのIL−2は公知の方法によって調製することができる。例えば前述のアミノ酸配列に基づき化学合成によって調製することもできる。あるいは後述のIL−2をコードする遺伝子を用いて組換えDNA技術によりインビトロで生産することにより取得することもできる。また、商業的に入手可能なものもある。
【0021】
本発明で使用するIL−2をコードする遺伝子(IL−2遺伝子とも言う)とは、前記IL−2をコードするポリヌクレオチドを意味し、DNA、RNAのいずれであっても良いが、好ましくはDNAである。IL−2遺伝子としては、具体的には、ヒトIL−2をコードする遺伝子(例えばアクセション番号:M22005.1)、マウスIL−2(本明細書においてmIL−2と言うこともある)をコードする遺伝子(例えばアクセション番号:BC116873.1)などが挙げられる。これらの配列情報に基づき適当なDNA部分をPCRプライマーとして用いてRT−PCR反応を行うことなどにより、IL−2のcDNAをクローニングすることができる。これらのクローニングは、例えばMolecular Cloning 2nd Edit., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)などの基本書に従い、当業者であれば容易に実施することができる。本発明で使用するIL−2遺伝子は、前述の配列を有するものに限定されず、発現されるタンパク質が、IL−2と実質的に同じ作用、即ち、免疫細胞の増殖及び活性化に関する機能を保持する限り、本発明においてIL−2遺伝子として使用できる。即ち、1)前記cDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAや、2)前記cDNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列において、1〜数個(1〜10個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加を有するアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであってもよい。
【0022】
前記の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、前記の塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning 2nd Edit., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
このような前記1)及び2)のDNAは、例えば部位特異的突然変異誘発法、PCR法、又は通常のハイブリダイゼーション法などにより容易に得ることができ、具体的には前記Molecular Cloning等の基本書を参考にして実施することができる。
【0023】
IL−2遺伝子は、標的部位にて発現し得る形態でHVJ−Eベクターに封入される。この目的のために、IL−2遺伝子は適切な遺伝子導入ベクターに連結された形でHVJ−Eベクターに封入される。導入されたIL−2遺伝子が生体内において発現するために適切な調節配列(例えば、転写に必要なプロモーター、エンハンサー、ターミネーター、及びポリA付加シグナル、並びに翻訳に必要なリボゾーム結合部位など)と作動可能に連結される。
遺伝子導入に用いられるベクターとしては、連結されたIL−2をコードする遺伝子が発現可能なものであれば任意のものでよく、例えば、プラスミドが挙げられる。該プラスミドは、動物細胞、特に腫瘍細胞内で導入遺伝子が発現可能なものであれば特に限定されないがpVAX1(インビトロゲン)、pCDNA3.1(インビトロゲン)等が好ましく用いられる。外来遺伝子が生体内において発現するための適切な調節配列は、いずれも当分野でよく知られており、様々なものが用いられている。
【0024】
このようなIL−2又はベクターに連結されたIL−2をコードする遺伝子は、適切な界面活性剤(例えばツイーン(Tween)80、トリトン(Triton)X100、CHAPS、デオキシコール酸又はその塩、コール酸又はその塩、オクチルグルコシド、ドデシールマルトシド、など)の存在下で、HVJ−Eとインキュベートすることにより、HVJ−Eに封入することができる。具体的には国際公開WO01/57204号公報などに記載の方法を用いて、あるいはそれに準じた方法によって実施することができる。
例えば、IL−2又はIL−2遺伝子のHVJ−Eへの封入は、IL−2又はIL−2遺伝子を緩衝液に溶解し、界面活性剤の存在下にHVJ−Eと混合することによって簡便に行うことができる。IL−2遺伝子を封入する場合にはHVJ−Eとの混合前に硫酸プロタミンで処理しておくことも好ましい。
【0025】
本発明は、IL−2含有HVJ−Eベクターを有効成分として含む医薬組成物を提供する。該医薬組成物に含められるIL−2含有HVJ−Eベクターは、前記したものと同様なものが用いられる。IL−2含有HVJ−Eベクター及び該ベクターを含む医薬組成物は、IL−2の有する免疫刺激活性、免疫細胞の腫瘍内への侵入を促進する作用等の種々の生理活性に加え、HVJ−Eベクターが有する抗腫瘍活性、Tregの腫瘍内への侵入を抑制する作用を併せ持つことから、抗腫瘍免疫において優れた効果を発揮することができる。従って、該医薬組成物には、IL−2含有HVJ−Eベクター以外に、抗腫瘍免疫に有利な他の成分が添加され得る。抗腫瘍免疫に有利な他の成分としては、抗腫瘍作用を有する活性成分、製剤化に必要な/あるいは望ましい非活性成分が挙げられる。
【0026】
活性成分としては、化学療法剤や免疫促進剤等が挙げられる。化学療法剤は、抗腫瘍作用を有する限り特に限定されず、具体的には例えば、ブレオマイシン類、アドリアマイシン(ドキソルビシン)、ダウノマイシン(ダウノルビシン)、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、ミトキサントロン等のアントラキノン(アントラサイクリン)系制癌剤、マイトマイシン類、アクチノマイシン類、イリノテカン等のカンプトテシン類、シスプラチン類、ストレプトゾトシン、5−フルオロウラシル(5−FU)及びその誘導体、ビラルビシン、ダカルバジン及びそれらの薬理学的に許容される塩などが挙げられる。免疫促進剤は、免疫作用を高める作用を有する限り特に限定されず、例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を含むタンパク質などが挙げられる。
【0027】
非活性成分としては、製剤上の必要に応じて添加される成分であり、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤などが挙げられる。賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトールなどの糖類、でんぷん類、結晶セルロースなどのセルロース類などの有機系賦形剤、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機系賦形剤などが、結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D−マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが、滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩などの脂肪酸塩、タルク、珪酸塩類などが、溶剤としては、精製水、生理的食塩水などが、崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、化学修飾されたセルロースやデンプン類などが、溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが、懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが、等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン、尿素などが、安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、その他のアミノ酸類などが、無痛化剤としては、ブドウ糖、グルコン酸カルシウム、塩酸プロカインなどが、防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが、抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが、矯味矯臭剤としては、医薬分野において通常に使用される甘味料、香料などが、着色剤としては、医薬分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
【0028】
本発明の医薬組成物の投与形態・剤型は、経口投与、非経口投与のいずれでもよく、経口投与剤としては、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル剤などの固形剤、溶液剤、シロップ剤などの液剤が、また、非経口投与剤としては、注射剤、軟膏、スプレー剤などが挙げられる。好ましくは非経口投与、さらに好ましくは注射剤である。
【0029】
ヒト以外の動物としては、家畜、家禽類のほか、実験動物が含まれる。前記医薬組成物の投与量は、対象患者の年齢・体重・病態、投与方法、投与部位、対象疾患などによっても異なるが、成人当たりの1日量として、IL−2を封入した場合であれば、1腫瘍箇所当たり、IL-2を常法で封入したHVJ-Eを、1×10以上、好ましくは1×10〜1011粒子、例えば1〜10×10粒子を投与すればよく、単回投与でもよく、また複数回投与してもよい。またHVJ−Eとして通常は、40〜400,000HAUを、好ましくは1,200〜120,000HAUを、さらに好ましくは4,000〜40,000HAUを投与する。
【0030】
一態様において、本発明の医薬組成物は脳腫瘍治療用である。本発明において脳腫瘍とは、頭蓋内組織に発生する腫瘍を意味し、例えば、グリオーマ及び髄芽腫などの神経上皮由来腫瘍、髄膜腫、神経鞘腫、先天性腫瘍、その他の腫瘍などが挙げられる。本発明の組成物は、これらの腫瘍を治療するために使用され、腫瘍の増殖を抑制し得、又は腫瘍の大きさを縮小させ得る。
本明細書中、「治療」とは、対象とする脳腫瘍に対して、その腫瘍の進行を遅らせるか、またはその腫瘍組織を縮小もしくは消失させることをいう。すなわち、腫瘍細胞を完全にまたは一部を殺傷することのほか、腫瘍細胞の増殖を完全にまたは部分的に抑制または遅らせることも包含する。
【0031】
一態様において、本発明の医薬組成物は、エフェクターT細胞であるCD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進し、且つレギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制することを特徴とする。
【0032】
抗腫瘍免疫において、CD8T細胞(CD8陽性細胞障害性T細胞(CTL)とも言う)及びCD4T細胞(CD4陽性ヘルパーT細胞とも言う)が非常に重要な役割を果たしていることが知られている。また、抗腫瘍免疫においては、レギュラトリーT細胞の割合が上昇すると、続いて起こる抗腫瘍免疫作用が抑制されることが報告されている(Casares N.et al.,J Immunol.2003 Dec 1;171(11):5931-9.、Takahashi T. et al.,Int Immunol.1998 Dec;10(12):1969-80.)。HVJ−Eは、後述の実施例において示すように、レギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制する効果を有する。このようなHVJ−Eの効果は、前記のような効果を有するIL−2の存在下でも影響を受けず、むしろHVJ−EとIL−2の使用を組み合わせることで、相乗効果が得られる。そのため本発明の医薬組成物は抗腫瘍免疫において非常に有用である。
【0033】
さらに本発明は、IL−2含有HVJ−Eベクターを含む脳腫瘍治療剤を提供する。脳腫瘍治療剤とは、脳腫瘍の治療において用いられる剤である。該脳腫瘍治療剤に含められるIL−2含有HVJ−Eベクターは、前記したものと同様なものが用いられる。IL−2含有HVJ−Eベクターを含む脳腫瘍治療剤は、IL−2の有する免疫刺激活性、免疫細胞の腫瘍内への侵入を促進する作用等の種々の生理活性に加え、HVJ−Eベクターが有する抗腫瘍活性、Tregの腫瘍内への侵入を抑制する作用を併せ持つことから、抗腫瘍免疫において優れた効果を発揮することができ、後述の実施例にて示されるように、脳腫瘍に対して優れた抗腫瘍免疫活性を有する。ここで脳腫瘍とは、頭蓋内組織に発生する腫瘍を意味し、例えば、グリオーマ及び髄芽腫などの神経上皮由来腫瘍、髄膜腫、神経鞘腫、先天性腫瘍、その他の腫瘍などが挙げられる。本発明の脳腫瘍治療剤は、このような種々の脳腫瘍を標的とし得るが、好ましい標的はグリオーマである。
本発明の脳腫瘍治療剤には、IL−2含有HVJ−Eベクター以外に、脳腫瘍の治療に有利な他の成分が含まれていても、あるいは製剤化に必要な/あるいは望ましい非活性成分が含まれていてもよい。活性成分及び非活性成分としては、前記本発明の医薬組成物に含められるものと同様なものが用いられる。
【0034】
本発明の脳腫瘍治療剤の投与に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、溶解補助剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。
抗酸化剤、等張化剤、懸濁剤、安定化剤、溶解補助剤及び防腐剤としては、前記、本発明の医薬組成物に含められてもよい成分として例示されたものが、それぞれ挙げられる。緩衝液としては、例えば、TE緩衝液(10mMトリス、1mM EDTA[pH8.0])、PBS(リン酸緩衝液)等を適宜選択し使用できるが、pHが6〜9の緩衝液が好ましい。制菌剤としては、オキソリン酸、オルメトプリム、トリメトプリム、サルファ剤、ホスホマイシン、ペニシリン系抗菌剤、セファロスポリン系抗菌剤、バンコマイシン、テトラサイクリン系抗菌剤、リファンピシン、フルオロキノン系抗菌剤などが挙げられ、増粘剤としてはアラビアゴム、リピオドール、ポリアクリル酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどが挙げられる。
【0035】
本発明の脳腫瘍治療剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容可能な担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0036】
本発明の脳腫瘍治療剤の投与量及び投与回数は、前記、本発明の医薬組成物、特に脳腫瘍治療用の医薬組成物と同様であり、治療対象の年齢・体重・病態、投与方法などによっても異なるが、例えば、通常、1腫瘍箇所当たり、IL−2を常法で封入したHVJ−Eを、1×10以上、好ましくは1×10〜1011粒子、例えば1〜10×10粒子を投与すればよく、単回投与でもよく、また複数回投与してもよい。
【0037】
また本発明の一態様において、本脳腫瘍治療剤は、CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進し、且つレギュラトリーT細胞の腫瘍内への侵入を抑制することを特徴とするが、これに関しては前記の本発明の医薬組成物に関する説明を適用することができる。
【0038】
一態様において、本発明の脳腫瘍治療剤は、脳腫瘍摘出後に投与されることを特徴とする。手術による腫瘍の摘出は、腫瘍の治療における一般的な手段である。脳腫瘍を含む全ての臓器腫瘍に対して手術が可能であるが、脳腫瘍においては、腫瘍の発生部位によっては、麻痺などの後遺症が生じる恐れから手術することができない場合や、腫瘍と正常組織の境界が不明瞭なため、全摘出が困難である場合もあり得る。本発明の脳腫瘍治療剤は、CD4T細胞及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を促進することから、腫瘍摘出後の投与により、残存する腫瘍を治療することができる。
【0039】
投与方法としては、適切な緩衝液(例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)など)に懸濁した本発明の脳腫瘍治療剤を、手術腔へ注射により投与する方法、手術腔に挿入したオンマヤ槽(脳室カテーテルに連結して、髄液を一時的に貯留させるドーム型をしたシリコン製の貯留槽)を通じて投与する方法などが挙げられる。オンマヤ槽の使用は、該治療剤の複数回投与を可能にするため好ましい。
【0040】
別の態様において、本発明の脳腫瘍治療剤は、脳腫瘍内に投与されることを特徴とする。これは前記のような腫瘍摘出手術を行なうことのできない状況下において特に有効である。この場合、該治療剤は、注射によって腫瘍内に投与され得るが、これに限定されない。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明において使用する試薬や装置、材料は特に言及されない限り、商業的に入手可能である。
【0042】
(細胞株及びマウス)
C3H/HeNマウス由来のSchmitt−Ruppinラウス肉腫ウイルス誘導悪性星状細胞腫細胞株、RSV−M細胞は、文献(Kumanishi, T., Ikuta, F., and Yamamoto, T. Brain tumors induced by Rous sarcoma virus, Schmidt-Ruppin strain III. Morphology of brain tumors induced in adult mice. J Natl Cancer Inst. 1973 Jan;50(1):95-109.)に記載のとおり作製し維持した。レトロウイルスを作製するために使用したG3T−hiヒト胎児腎臓由来細胞株はタカラバイオ株式会社(滋賀、日本)から購入した。これらの細胞株は、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Biowest、ニュアイエ、フランス)、100U/mlペニシリン、及び0.1mg/mlストレプトマイシン(ペニシリン−ストレプトマイシン混合溶液)(ナカライテスク株式会社)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ナカライテスク株式会社)中で維持した。細胞は、95%空気及び5%COの加湿雰囲気中、37℃にてインキュベートした。5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスは日本クレア株式会社(東京、日本)から購入し、温度制御された無菌室内で維持した。全ての動物は、承認されたプロトコール及び大阪大学の動物委員会の指針に従って扱った。
【0043】
(統計学的解析)
生存期間については、カプラン・マイヤー法を用いて統計学的解析を行った。生存分布に関する有意差はログランク検定により評価した。他の実験については、統計学的解析は、分散分析(ANOVA)、及びそれに続いてTukeyのpost hocテストを行うことにより行った。P<0.05を統計的に有意なものと考えた。
【0044】
実施例1
本実施例に、IL−2遺伝子等を封入したHVJ−Eの調製について説明する。
HVJ−Eに封入するプラスミドDNAは、以下のように構築した。
pVAX−mGM−CSFは、pORF−mGMCSF v.21(InvivoGen、サンディエゴ、CA)からのmGM−CSF遺伝子を、pVAX1(3.0kb)(Invitrogen、カールスバッド、CA)のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−mIFN−βは、pORF−mIFNb v.11(InvivoGen)からのmIFN−β遺伝子を、pVAX1のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−mIL−2は、pORF−mIL−2(InvivoGen)からのmIL−2遺伝子を、pVAX1のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−mIL−12は、生物学的に活性な一本鎖マウスIL−12(scmIL−12)遺伝子(最初の22アミノ酸を欠失させたp35サブユニットに、(GlySer)リンカーを介して結合させたp40サブユニットを含む)(Nat Biotechnol. 1997 Jan;15(1):35-40)を、pVAX1のEcoRI及びXhoI部位にクローニングすることにより構築した。pVAX−luciferase−GL3(pVAX−Luc)は、pGL3−Basic Vector(Promega、マディソン、WI)のHindIII−XbaI断片をpVAX1へと挿入することにより作製した。pVAX−Lucは、実験中、陰性対照ベクターとして使用した。pVAX−EGFPは、pEGFP−N1(Clontech、パロアルト、CA)からのEGFP遺伝子を、pVAX1のHindIII及びXbaI部位にクローニングすることにより構築した。
【0045】
上記プラスミドDNAを以下の方法により、HVJ−Eに封入した。
HVJ(VR−105パラインフルエンザ1センダイ/52、Z株)は、Mol Ther. 2002 Aug;6(2):219-26に記載した通り、American Type Culture Collection(ATCC;マナサス、VA)から購入し、生後10から14日の鶏卵の漿尿液中で増殖させ、遠心により精製し、UV照射(99mJ/cm)により不活性化した。不活性化ウイルスは複製することはできないが、ウイルス融合能は保持している。一定分量の不活性化HVJ(3×1010粒子)を4℃にて15分間遠心(18,500×g)し、その後ウイルスのペレットを15μl硫酸プロタミン(1mg/ml)中に懸濁し、氷上で15分間インキュベートした。次いで、ウイルス懸濁液を、3%ツイーン80(終濃度0.2%)と共に、上記プラスミドDNA(200μg)と混合した。混合物を4℃にて5分間遠心(18,500×g)した。界面活性剤及び封入されなかったDNAを除去するために、ペレットを1ml平衡塩類溶液(BSS;10mM Tris−Cl、pH7.5、137mM NaCl、及び5.4mM KCl)で洗浄した後、pDNA含有HVJ−Eベクターを40μlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に懸濁した。
【0046】
なお、実施例3及び4において対照として使用したレトロウイルスベクターは、以下のように調製した。
pMSCVpuro(Clontech、パロアルト、CA)をゲートウェイベクター、pMSCVpuro−HpaI−Gatewayへ変換した。mIL−2の完全なオープンリーディングフレームをpENTR/D−TOPO(Invitrogen)へとサブクローニングした。次いで、エントリークローンを、LRクローナーゼを用いて、デスティネーションベクター、pMSCVpuro−HpaI−Gatewayと組換えさせた。その結果得られたプラスミドをpMSCVpuro−mIL2と呼ぶ。mIL−2含有レトロウイルスを作製するために、G3T−hi細胞を、FuGENE HD(Roche、インディアナポリス、IN)を使用して、pMSCVpuro−mIL−2、pGP、及びpE−ampho(タカラバイオ株式会社)でコトランスフェクションした。トランスフェクトした細胞を24時間培養した後、トランスフェクション培地を10%FBSを含む新鮮DMEMで置換した。24時間後、パッケージされたレトロウイルス粒子を含む馴化培養液を集め、0.45μmフィルターに通した。
【0047】
実施例2
本実施例に、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が、皮内腫瘍モデルにおいて、GM−CSF、IFN−β、又はIL−12を使用する場合よりも強く腫瘍増殖を阻害することを説明する。
【0048】
最初に、GM−CSF、IFN−β、IL−2、及びIL−12の中から、HVJ−Eを使用する免疫遺伝子治療に最も適したサイトカインを決定するために、皮内腫瘍モデルにおいて、HVJ−Eにより導入されるこれらのサイトカインの抗腫瘍効果を直接比較した。
5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスをイソフルランの吸入により麻酔した。生存可能な5×10RSV−M細胞を100μl PBSに再懸濁し、マウスの背中の皮内空間へと注射した。腫瘍が直径およそ6〜8mmまで増殖したとき(移植5日後)、マウスを無作為に6治療群へと分け、治療効果を調べた。腫瘍移植5、8、及び11日後に、100μl(6×10粒子)のpVAX−mGM−CSF含有HVJ−E、pVAX−mIFN−β含有HVJ−E、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、pVAX−mIL−12含有HVJ−E、若しくは陰性対照ベクターとしてpVAX−Luc含有HVJ−E、又は100μlのPBSを腫瘍内へ注射した。腫瘍サイズを週2回、ノギスを用いて測定し、腫瘍体積を以下の式に従って計算した:腫瘍体積(mm)=長さ×(幅)/2。
【0049】
それらの群の中で、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いた治療において最も劇的な腫瘍増殖阻害が見られた(図1)。さらに、完全な反応を示すマウスの割合を比較した場合、HVJ−Eに封入された治療遺伝子に依存して顕著な差異が現れた。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いた治療後には70%の腫瘍が消失し、一方PBS又はpVAX−Luc含有HVJ−Eを用いた治療後には腫瘍の消失は見られず、pVAX−mIFN−β含有HVJ−E、pVAX−mGM−CSF含有HVJ−E、及びpVAX−mIL−12含有HVJ−Eを用いた治療後には、それぞれ20%、30%、及び40%の腫瘍が消失したのみであった。HVJ−Eを使用する免疫遺伝子治療のためのIL−2が有用であることが示された。
【0050】
実施例3
本実施例に、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が、頭蓋内グリオーマ異種移植片に対して抗腫瘍効果を示すことを説明する。
HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が脳内のグリオーマに対して抗腫瘍活性を示すか否かを、頭蓋内RSV−M腫瘍モデルを用いて調べた。
5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスをペントバルビタール(60mg/kg)の腹腔内注射により麻酔し、マウス用定位固定装置(SR−5M、ナリシゲ、東京、日本)に設置した。頭皮切開後、正中線の3mm横、ブレグマの4mm後ろに穿頭孔を開けた。次いで4μl PBS中の5×10個のRSV−M細胞を、26ゲージ針を装着した無菌ハミルトンシリンジを使用して皮質表面の下、2mmの深さに3分間かけて定位的に注射した。針はさらに2分間その場所に残し、その後ゆっくりと引き抜いた。腫瘍を移植したマウスを、無作為に3治療群(各5マウス)に分け、治療効果を調べた。移植7日後、4μl(3×10粒子)のpVAX−mIL−2含有HVJ−E、4μlのpVAX−Luc含有HVJ−E、又は4μlのPBSの注射によりマウスを治療した。これらは、定位固定枠上の同じ座標を使用して腫瘍部位へと注射した。いずれのマウスについても体重減少などの、毒性の兆候は見られなかった。治療から7日後、マウスを安楽死させ、4%パラホルムアルデヒドを用いて経心的に潅流した。脳組織を一晩、後固定し、Tissue-Tek OCT Compound(サクラファインテック、東京、日本)中に包埋し、ドライアイス中で凍結し、次いでクライオスタット(ライカマイクロシステムズ AG、ヴェッツラー、ドイツ)を用いて10μmの冠状切片に薄切した。切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、次いでおよその腫瘍体積を、次の式に従って計算した:腫瘍体積(mm)=長径×(短径)/2。長径及び短径は、各腫瘍の最大面積を示す冠状切片において測定した。
【0051】
3治療群の間の腫瘍体積の差異を図2aに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療したマウスにおいては腫瘍増殖は大幅に抑制されたのに対し、他の治療群においては比較的大きな腫瘍が観察された(P<0.05)。
また、同様に治療したマウスの生存率を、腫瘍移植後40日間記録した。3治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を図2bに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療したマウスの生存期間は、他の治療群と比較して有意に延長された(P<0.05)。
【0052】
さらに、同様の方法により、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療の効果を、HVJ−Eを使用しないIL−2遺伝子治療の効果と比較した。腫瘍細胞を移植して7日後、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、mIL−2含有MSCVベクター、又はPBSを腫瘍部位内に注射し、その後、31日間にわたって生存率を記録した。3治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を図2cに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療したマウスの生存期間は、mIL−2含有MSCVベクターと比較しても有意に延長された(P<0.05)。
【0053】
実施例4
本実施例に、HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療が、CD4及びCD8T細胞の腫瘍内への侵入を増加させる一方、レギュラトリーT細胞の増殖を抑制することを説明する。
【0054】
HVJ−Eを使用するIL−2遺伝子治療の抗腫瘍活性の潜在的機序を理解するために、頭蓋内RSV−M腫瘍モデルにおいて、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、pVAX−Luc含有HVJ−E、又はPBSを用いて実施例3と同様に治療を行い、治療の7日後に免疫組織化学的染色を実施した。各治療群中の1マウスを治療の7日後に安楽死させた。連続冠状切片を実施例3のように得、切片を30分間、80%メタノール中0.3%H中でクエンチした。次いで切片をVectastain Elite ABC kit(Vector Laboratories、バーリンゲーム、CA)を使用して処理した後、3,3’−ジアミノベンジジン(ペルオキシダーゼ用DAB基質キット;Vector Laboratories)により処理した。続いて切片を、ブラウンジアミノベンジジン反応を有するVectastain Elite ABC kitを使用して、CD4(ラット抗マウスCD4、1:25;BD Pharmingen、サンディエゴ、CA)、CD8a(ラット抗マウスCD8a、1:25;BD Pharmingen)、TregマーカーFoxp3(ラット抗マウスFoxp3、1:25;Biolegend、サンディエゴ、CA)、樹状細胞(DC)マーカーCD11c(マウス抗マウスCD11c、1:25;Abcam、ケンブリッジ、UK)、又はNK細胞マーカーインテグリンα2(マウス抗マウスインテグリンα2、1:25;Santa Cruz Biotechnology、サンタクルーズ、CA)に対する一次抗体中でインキュベートした。
【0055】
染色結果を図3aに示す。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍由来の切片においては、CD4T細胞及びCD8T細胞の顕著な侵入が見られたのに対して、pVAX−Luc含有HVJ−E又はPBSを用いて治療した腫瘍においてはわずかな侵入がみられたのみだった。pVAX−Luc含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍では、PBSを用いて治療した腫瘍と比較して、Tregの侵入は減少した。一方、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍におけるTregの侵入は、PBSを用いて治療した腫瘍よりもわずかに増加した。DCの侵入については、3治療群の中で明らかな差異は見られなかった。NK細胞の侵入は、HVJ−Eを用いて治療した場合、大幅に増加した。
【0056】
さらに、免疫細胞の侵入を定量的に評価するために、治療の7日後、3治療群からの腫瘍における免疫細胞のmRNA発現を測定した。全RNAは、摘出した頭蓋内腫瘍から、RNeasy Mini Kit(キアゲン、東京、日本)を使用して製造者の使用説明書に従って抽出した。5μgの全RNAを、SuperScriptIII First-Strand synthesis system for qRT-PCR(Invitrogen)を使用して逆転写した。CD4、CD8a、インテグリンαX(CD11c)、インテグリンα2、Foxp3、及びGAPDH遺伝子(内部標準)に特異的なプローブ及びプライマー対は、アプライドバイオシステムズ(フォスターシティー、CA)から購入した。リアルタイムPCRを実施し、生成物を、SDS2.2ソフトウェアを使用するABI PRISM 7900HT Sequence Detection System(アプライドバイオシステムズ)により分析した。トランス遺伝子の発現をGAPDHに対して標準化した。
【0057】
定量結果を図4aに示す。CD4及びCD8の発現は、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍において、他の治療群と比較して有意に増加した(P<0.05)。pVAX−Luc含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍において、Foxp3発現は減少する傾向が見られたが、この差異は統計的に有意ではなかった。同様に、HVJ−Eを用いて治療した腫瘍のインテグリンα2発現が増加する傾向についても、差異は統計的に有意ではなかった。
【0058】
このように、IL−2遺伝子の導入により、エフェクターT細胞の顕著な増殖が誘導された。しかし現在では、IL−2は、エフェクターT細胞を増殖及び活性化させる機能の他に、Tregを増加させ維持する機能を有することが理解されている(Malek TR, Bayer AL. Nat Rev Immunol. 2004 Sep;4(9):665-74、Furtado GC, Curotto de Lafaille MA, Kutchukhidze N, Lafaille JJ. J Exp Med. 2002 Sep 16;196(6):851-7.)。IL−2遺伝子治療用ベクターとして使用する場合に、HVJ−EがエフェクターT細胞のTreg媒介免疫抑制を阻害し得るか否かを評価するために、免疫細胞の腫瘍内への侵入について、レトロウイルスベクターを使用するIL−2遺伝子治療との比較を行なった。頭蓋内RSV−M腫瘍モデルにおいて、pVAX−mIL−2含有HVJ−E、mIL−2含有MSCVベクター、又はPBSを用いて実施例3と同様に治療を行い、治療の7日後に、3治療群からの脳切片について、腫瘍に侵入している免疫細胞の免疫組織化学的染色を実施した。
【0059】
染色結果を図3bに示す。mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍由来の切片においてTregの著しい侵入が見られたが、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍における侵入はより少なかった。さらに、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍においてCD4T細胞及びCD8T細胞の深い侵入が検出されたが、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍においてはさらにより顕著な侵入が見られた。
【0060】
治療7日後の、3治療群からの腫瘍における免疫細胞のmRNA発現も測定した(図4b)。pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍におけるFoxp3発現は、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍と比較して有意に減少した(P<0.05)。また、CD4及びCD8の発現は、pVAX−mIL−2含有HVJ−Eを用いて治療した腫瘍において、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍と比較して有意に増加したが(P<0.05)、mIL−2含有MSCVベクターを用いて治療した腫瘍のCD4及びCD8の発現は、PBSを用いて治療した腫瘍よりも増加した(P<0.05)。したがって、IL−2遺伝子治療に使用するHVJ−EベクターはTreg増加を阻害し、その結果エフェクターT細胞の増殖を促進することが明らかとなった。
【0061】
実施例5
本実施例に、腫瘍摘出後の腔内へのpVAX−mIL−2含有HVJ−Eの投与が、残存腫瘍に対して抗腫瘍効果を示すことを説明する。
実際の臨床治療を再現した状況において、HVJ−Eベクターを使用するIL−2遺伝子治療の抗腫瘍効果を評価するために、マウスにおけるグリオーマの腫瘍摘出モデルを開発した。
まず、皮質表面の近くに移植した腫瘍塊を摘出するのに適した時期を決定するために、周囲の正常脳組織への腫瘍細胞浸潤の程度を経時的に評価した。腫瘍を移植したマウスからの脳切片を、移植4、6、及び8日後に調べた場合、8日後には腫瘍塊の周囲において正常脳組織へと浸潤している腫瘍細胞が見られたが、4及び6日後には腫瘍は比較的明確な境界を持って存在しており、周囲の正常脳組織へと浸潤している腫瘍細胞も見られなかった。したがって、腫瘍細胞植え付けの8日後に腫瘍摘出を実施することを決定し、以下のように腫瘍の移植、摘出、及び治療を行った。
【0062】
5〜6週齢のメスC3H/HeNJclマウスをペントバルビタール(60mg/kg)の腹腔内注射により麻酔し、マウス用定位固定装置(SR−5M、ナリシゲ)に設置した。頭皮切開後、ハンドドリルを使用して、頭骨頭頂部において開頭術を施した。次いで2μl PBS中の2×10個のRSV−M細胞を、26ゲージ針を装着した無菌ハミルトンシリンジを使用して、3分間かけて皮質表面近くに注射した。針はさらに2分間その場所に残し、その後ゆっくりと引き抜いた。腫瘍を植え付けたマウスを、無作為に4治療群に分け、治療効果を調べた。植え付けの8日後、無治療群以外について、顕微鏡下手術により腫瘍塊を肉眼的に完全に摘出した。摘出は、手術腔の外周全てについて正常脳組織が見えるまで続行した。摘出後、4μl(3×10粒子)のpVAX−mIL−2含有HVJ−E、4μlのpVAX−Luc含有HVJ−E、又は4μlのPBSを、手術腔内へと投与した。
【0063】
この治療方法によるHVJ−Eの腔内投与によって、残存する浸潤腫瘍細胞へと遺伝子が送達され得ることを確認するために、pVAX−EGFP含有HVJ−Eを、腫瘍摘出直後に手術腔へと投与した。投与の24時間後に、マウスを安楽死させ、実施例3と同様に冠状切片を得た。切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色し、次いでNikon Eclipse TE300倒立顕微鏡(Nikon Instruments;メルビル、NY)を使用して、光学像及び蛍光像を記録した。図5aに示すように、残存する腫瘍細胞におけるGFPの発現が検出され、腔内投与によるトランスフェクションの実現可能性を確認した。
【0064】
次いで、腫瘍摘出後のpVAX−mIL−2含有HVJ−Eの投与、摘出後のpVAX−Luc含有HVJ−Eの投与、若しくは腫瘍摘出のみにより治療したマウス、又は治療しないマウスの生存率を、移植後70日間にわたり測定した。4治療群のカプラン・マイヤー生存曲線を図5bに示す。摘出後のpVAX−mIL−2含有HVJ−Eの投与により治療したマウスの生存期間は、他の治療群と比較して有意に延長された(P<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の、IL−2又はIL−2をコードする遺伝子をIL−2を発現し得る形態で封入したHVJ−Eベクターは、本発明の医薬組成物及び脳腫瘍治療剤の調製に使用することができる。該医薬組成物及び該脳腫瘍治療剤は、脳腫瘍に対して強い抗腫瘍効果を示すことから、ヒトを含む哺乳動物の種々の脳腫瘍の治療において新たな治療手段となり得る。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5