特許第5775688号(P5775688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775688
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】安全弁用可溶栓
(51)【国際特許分類】
   F16K 17/38 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   F16K17/38 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-282540(P2010-282540)
(22)【出願日】2010年12月20日
(65)【公開番号】特開2012-132475(P2012-132475A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100083149
【弁理士】
【氏名又は名称】日比 紀彦
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】大道 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】松岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博恒
【審査官】 関 義彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−2353(JP,A)
【文献】 特開2005−282764(JP,A)
【文献】 実開平3−65072(JP,U)
【文献】 特開昭64−30977(JP,A)
【文献】 米国特許第5577740(US,A)
【文献】 特開平2−159356(JP,A)
【文献】 特開昭59−39461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温時に移動部材が移動することで流体通路が開放または閉鎖される安全弁で使用され、通常時は、固定部材として移動部材の移動を阻止し、高温時は、溶融することで移動部材の移動を可能とする安全弁用可溶栓であって、
第1の可溶体と、これとは素材が異なる第2の可溶体とから一体的に形成されており、軸部およびこれを囲む外筒部からなる円柱状をなし、外筒部が第1および第2の可溶体のうちの相対的に強度の高い方で形成されていることを特徴とする安全弁用可溶栓。
【請求項2】
外筒部を形成する可溶体が金属製可溶体とされ、軸部を形成する可溶体が非金属製可溶体とされていることを特徴とする請求項の安全弁用可溶栓。
【請求項3】
軸部を形成する相対的に強度の低い可溶体は、外筒部を形成する相対的に強度の高い可溶体に比べて、その融点が高いことを特徴とする請求項またはの安全弁用可溶栓。
【請求項4】
相対的に強度の高い可溶体に、ばねを受ける面が形成されていることを特徴とする請求項からまでのいずれかに記載の安全弁用可溶栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高温時に移動部材が移動することで流体通路が開放または閉鎖される安全弁で使用される安全弁用可溶栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火災発生時または内部の流体温度が設定以上の高温となった時等に容器内圧力が上昇し過ぎることを防止するために、高温時に移動部材が移動することで流体通路が開放される安全弁が知られており、このような安全弁においては、通常時は、固定部材として移動部材の移動を阻止し、高温時は、溶融することで移動部材の移動を可能とする円筒状可溶栓が使用されている(特許文献1)。
【0003】
可溶栓の形状としては、円筒状のものの他、円柱状のものも知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−263786号公報
【特許文献2】特開2009−275862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安全弁で使用される可溶栓は、移動部材の移動を阻止する機能が必要であり、強度が不十分であると、通常時の誤作動の可能性が増すことから、可溶栓の材料としては、強度確保の点で、インジウム合金(In67%、Bi33%)が好適とされている。しかしながら、インジウムは高価なものであり、その使用量を減少して、材料コストを低減することが望まれている。
【0006】
この発明の目的は、通常時の誤作動の可能性を増加させることなく、材料コストを低減することができる安全弁用可溶栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による安全弁用可溶栓は、高温時に移動部材が移動することで流体通路が開放または閉鎖される安全弁で使用され、通常時は、固定部材として移動部材の移動を阻止し、高温時は、溶融することで移動部材の移動を可能とする安全弁用可溶栓であって、第1の可溶体と、これとは素材が異なる第2の可溶体とから一体的に形成されており、軸部およびこれを囲む外筒部からなる円柱状をなし、外筒部が第1および第2の可溶体のうちの相対的に強度の高い方で形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
安全弁は、非常時閉(常時開)のものとされることがあり、また、非常時開(常時閉)のものとされることがある。非常時閉のものでは、弾性部材(例えば圧縮コイルばね)によって移動部材が流体通路を閉鎖する方向に付勢された状態で、流体通路を開放した状態で移動部材が固定されており、高温時には、可溶栓が溶融することで、弾性部材の弾性力によって移動部材が流体通路を閉鎖する方向に移動させられる。非常時開のものでは、弾性部材(例えば圧縮コイルばね)によって移動部材が流体通路を開放する方向に付勢された状態で、流体通路を閉鎖した状態で移動部材が固定されており、高温時には、可溶栓が溶融することで、弾性部材の弾性力によって移動部材が流体通路を開放する方向に移動させられる。
【0009】
第1の可溶体は、例えば、インジウム合金とされ、第2の可溶体は、例えば、これに対して、強度は劣るがコストが低い素材(例えばロウまたはワックス)とされる。
【0010】
第1の可溶体と第2の可溶体とは、両者が密着するように一体的に形成される。このようにすることで、相対的に強度が低くかつ材料コストが低い可溶体を使用することに伴う強度の低下を抑えることができる。
【0011】
好ましくは、第1の可溶体(相対的に強度の高い可溶体)は、金属製とされ、第2の可溶体(相対的に強度の低い可溶体)は、非金属製とされる。金属製の可溶体としては、ガリウム/インジウム系の共晶合金や、ビスマス/インジウム系の合金(ビスマス/インジウム、ビスマス/インジウム/銀系、ビスマス/インジウム/錫系など)等が好ましく、また、はんだや、鉛をベースとした共晶系の合金を使用することもできる。非金属製の可溶体としては、重合度を適度に調整した高分子材料(樹脂)や、所定の融点を備えた各種ワックス(ロウを含む)が好ましい。
【0012】
第1の可溶体の融点と第2の可溶体の融点とは、ほぼ同じに設定され、例えば、110℃程度とされる。好ましくは、相対的に強度の低い可溶体の融点は、相対的に強度の高い可溶体の融点よりも、若干(1〜5℃程度)高いものとされる。
【0013】
可溶栓は、全体として、円柱状または円筒状に形成され、異なる素材の可溶体の二層構造とされる。二層構造は、内側と外側の二層であってもよく、上側と下側の二層であってもよい。ここで、相対的に強度の高い可溶体は、弾性部材を受ける部分など、強度がより必要な部分に配置され、相対的に強度の低い可溶体と一体的に形成されることで、これに密着するように配置される。
【0014】
安全弁用可溶栓は、軸部およびこれを囲む外筒部からなる円柱状をなしており、外筒部が第1および第2の可溶体のうちの相対的に強度の高い方で形成されていることが好ましい。ただし、内側の層が弾性部材を受けるような構成の場合は、内側を相対的に強度の高い方で形成してもよい。
【0015】
相対的に強度の高い方の可溶体だけで円筒状に形成された安全弁用可溶栓は、その中空部分が強度に影響しないため、強度的に弱い(変形しやすい)ものとなり、この中空部分(軸部)が相対的に強度の低い方の可溶体で埋められることによって、強度が大幅に高められる。軸部が相対的に強度の低い可溶体で形成された円柱状可溶栓は、全体が相対的に強度の高い可溶体だけで形成された円柱状可溶栓に比べて、強度が低下することになるが、強度への寄与が大きい外筒部が同じ素材であるため、強度の低下量は少なく、通常時の誤作動の可能性を増加させる程の強度の低下とはならない。
【0016】
上記において、外筒部を形成する可溶体が金属製可溶体とされ、軸部を形成する可溶体が非金属製可溶体とされていることがより好ましい。このような組み合わせとすることで、通常時の誤作動の可能性を増加させることなく、材料コストを低減することが容易なものとなる。
【0017】
このような円柱状可溶栓を得るには、例えば、円筒状可溶栓を製造するのと同様にして、第1の成形型を使用して外筒部を形成した後、第2の成形型を使用して、外筒部の内部に軸部を形成する第2の可溶体を充填すればよい。
【0018】
軸部を形成する相対的に強度の低い可溶体は、外筒部を形成する相対的に強度の高い可溶体に比べて、その融点が高いことが好ましい。
【0019】
相対的に強度の低い可溶体の融点と相対的に強度の高い可溶体の融点とは、基本的には、等しいものとされるが、相対的に強度の低い可溶体の融点の方を若干高くすることにより、強度の低下を補うことができるので、より好ましい。
【0020】
相対的に強度の高い可溶体に、ばねを受ける面が形成されていることがある。安全弁用可溶栓に、圧縮コイルばね等の弾性部材が直接当たる場合、ばねを受ける部分の強度が必要となるが、この部分が相対的に強度の高い可溶体で形成されていることで、通常時の誤作動の可能性を低下させることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明の安全弁用可溶栓によると、第1の可溶体とこれとは素材が異なる第2の可溶体とから一体的に形成されているので、相対的に強度が低くかつ材料コストが低い可溶体を使用することに伴う強度の低下が抑えられ、通常時の誤作動の可能性を増加させることなく、材料コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明による安全弁用可溶栓を使用した安全弁の1実施形態を示す正面断面図である。
図2】この発明による安全弁用可溶栓の斜視図である。
図3】この発明による安全弁用可溶栓を使用した安全弁の他の実施形態を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。以下の説明において、上下は、図1の上下をいうものとする。
【0024】
図1は、この発明による安全弁用可溶栓(11)が使用される安全弁(1)を模式的に示すもので、安全弁(1)は、容器(2)の開口に取り付けられて温度が上昇した場合に容器(2)内のガスを開放することによって、容器(2)内の圧力が上昇し過ぎることを防止するためのもので、頂壁(3a)および周壁(3b)からなりその周壁(3b)の下端部が容器(2)の開口縁部に固定される円筒状本体(3)と、本体(3)内に移動可能に配置されたフランジ付き円柱状の移動部材(4)と、移動部材(4)を上向きに付勢する圧縮コイルばね(弾性部材)(5)と、本体(3)の頂壁(3a)下面と移動部材(4)の上面との間に介在させられた短円柱状安全弁用可溶栓(11)とを備えている。
【0025】
本体(3)の周壁(3b)の上端部(頂壁(3a)でもよい)には、可溶栓(11)が溶融した場合に、これを外部に溶出させる溶融可溶栓通路(6)が設けられており、本体(3)の周壁(3b)の下端部には、移動部材(4)が上方に移動した場合に、容器(2)内に連通する容器内ガス開放通路(7)が設けられている。
【0026】
移動部材(4)は、通常時に、本体(3)の下端の開口を閉鎖するもので、これにより、容器(2)の開口が閉鎖されている。
【0027】
安全弁用可溶栓(11)は、通常時には、固定部材として移動部材(4)の上方への移動を阻止しており、高温異常が生じない限り、安全弁(1)は、図1に示した状態に維持される。安全弁用可溶栓(11)は、高温時は、溶融することで移動部材(4)の移動を可能とするもので、高温時には、安全弁用可溶栓(11)が溶融して、本体(3)の溶融可溶栓通路(6)から溶出し、これに伴って、移動部材(4)の移動可能空間が形成され、圧縮コイルばね(5)によって上向きに付勢された移動部材(4)が上方に移動する。これにより、本体(3)の容器内ガス開放通路(7)と容器(2)内とが連通し、容器(2)内の圧力の上昇が防止される。
【0028】
この発明による安全弁用可溶栓(11)は、図2にも示すように、軸部(12)とこれを囲む外筒部(13)とが一体的に形成された円柱状をなし、その上面および下面が面一とされている。
【0029】
この安全弁用可溶栓(11)は、外筒部(13)が第1の可溶体製とされ、軸部(12)が第1の可溶体とは素材が異なる第2の可溶体製とされている点に特徴がある。第1の可溶体は、例えばインジウム合金からなる金属製可溶体とされており、第2の可溶体は、例えば所定の融点を備えたワックスからなる非金属製可溶体とされている。こうして、外筒部(13)は、相対的に強度の高い金属製可溶体で形成され、軸部(12)は、相対的に強度の低い非金属製可溶体で形成されている。
【0030】
具体的には、外筒部(13)を形成する金属製可溶体は、In67%、Bi33%の合金で、その融点が109℃であり、軸部(12)を形成する非金属製可溶体は、融点が110℃のワックスとされている。
【0031】
上記において、安全弁用可溶栓(11)は、軸部(12)および外筒部(13)の内外二層とされているが、使用用途によっては、第1の可溶体および第2の可溶体からなる上下二層とすることもできる。
【0032】
図3には、安全弁(1)の異なる構成を示している。同図において、図1と異なる構成として、移動部材(4)の上面と安全弁用可溶栓(11)との間に、第2の圧縮コイルばね(8)が設けられており、安全弁用可溶栓(11)には、この圧縮コイルばね(8)を受ける面が必要とされている。ここで、ばね受け面(13a)は、外筒部(13)の下面とされている。すなわち、相対的に強度の高い可溶体に、ばねを受ける面(13a)が形成されている。
【0033】
図3の安全弁(1)では、安全弁用可溶栓(11)に第2の圧縮コイルばね(8)が直接当たることで、ばねを受ける部分である外筒部(13)の強度が必要となるが、この部分が相対的に強度の高い可溶体で形成されていることで、通常時の誤作動の可能性を低下させることができるという内外二層構造の利点をより生かすことができる。
【0034】
安全弁(1)の構成は、図示したものに限られるものではなく、例えば、上記に示した安全弁(1)は、いずれも、高温時には、可溶栓(11)が溶融することで、圧縮コイルばね(5)の弾性力によって移動部材(4)が容器内ガス開放通路(流体通路)(7)を開放する方向に移動させられる非常時開(常時閉)のものとされているが、この発明による安全弁用可溶栓(11)は、圧縮コイルばねによって移動部材が流体通路を閉鎖する方向に付勢された状態で、流体通路が開放されており、高温時には、可溶栓が溶融することで、弾性部材の弾性力によって移動部材が流体通路を閉鎖する方向に移動させられる非常時閉(常時開)のものにも適用することができ、その他種々の形態のものに適用することができる。また、溶融した可溶体を外部に排出することができない場合は、溶融可溶栓通路(6)を外部に向けて開口するのではなく、内部の別の場所に連通して溶出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
(1) 安全弁
(4) 移動部材
(11) 安全弁用可溶栓
(12) 軸部(第2の可溶体)
(13) 外筒部(第1の可溶体)
図1
図2
図3