特許第5775708号(P5775708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5775708多目的進化型アルゴリズムに基づく工学設計最適化を実現する改良方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775708
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】多目的進化型アルゴリズムに基づく工学設計最適化を実現する改良方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20150820BHJP
   G06F 19/00 20110101ALI20150820BHJP
【FI】
   G06F17/50 604A
   G06F19/00 120
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-44809(P2011-44809)
(22)【出願日】2011年3月2日
(65)【公開番号】特開2011-187056(P2011-187056A)
(43)【公開日】2011年9月22日
【審査請求日】2014年1月9日
(31)【優先権主張番号】12/719,764
(32)【優先日】2010年3月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509059893
【氏名又は名称】リバーモア ソフトウェア テクノロジー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】トゥーシャー ゴエル
【審査官】 合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−102681(JP,A)
【文献】 廣安 知之, 西岡 雅史, 三木 光範, 横内 久猛,多目的遺伝的アルゴリズムによるSVM学習データ選択手法,情報処理学会研究報告 ,日本,社団法人情報処理学会,2008年12月17日,第2008巻/第126号,第77-80頁
【文献】 吉井 健吾, 廣安 知之, 三木 光範,グリッド環境における並列多目的遺伝的アルゴリズムの検討,情報処理学会研究報告,日本,社団法人情報処理学会,2006年 8月 2日,第2006巻/第87号,第227-232頁
【文献】 Thorsten Schnier, Xin Yao and Pin Liu,Digital Filter Design Using Multiple Pareto Fronts,Evolvable Hardware, 2001. Proceedings. The Third NASA/DoD Workshop on ,2001年 7月,pages 136-145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
G06F 19/00
IEEE Xplore
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多目的進化型アルゴリズム(MOEA)に基づいた製品の工学設計最適化において1セットの多様なパレート最適解を求めるためにコンピュータによって実現される方法であって、
コンピュータシステムにおいて、最適化される製品の記述を受け取るステップと、
前記製品に対し、MOEAに基づいた複数の工学設計最適化を独立して行なうステップであって、該複数の工学設計最適化は1セットの共通の設計変数および1セットの共通の設計目的関数を用いるように構成されており、初期世代の設計選択肢や非優越ソート遺伝的アルゴリズム(Non−dominated Sorting Genetic Algorithm (NSGA−II))および強化パレート進化型アルゴリズム(strength Pareto evolutionary algorithm (SPEA))からなる進化スキームによって該複数の工学設計最適化のそれぞれは他の工学設計最適化とは異なっているステップと、
工学最適化の前記それぞれから得られるパレート最適解を組み合わせることにより、1つ以上の予め定義されたチェックポイントにおいて組み合わされた1セットのパレート最適解を求めるステップと、
いずれか1つあるいはすべての工学設計最適化が拡散および均一性測定に基づいて収束したとき、前記組み合わされた1セットのパレート最適解をグローバルパレート最適解として指定するステップであって、該グローバルパレート最適解が記憶装置に記憶されユーザの指示に応じてモニタに図表によって表示されるステップと、
を備えるコンピュータによって実現される方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンピュータによって実現される方法であって、さらに、初期世代の前記設計選択肢を工学設計最適化の前記それぞれに対してランダムに生成するステップを備える、コンピュータによって実現される方法。
【請求項3】
請求項1に記載のコンピュータによって実現される方法であって、前記予め定義された1つ以上のチェックポイントは世により判断される、コンピュータによって実現される方法。
【請求項4】
請求項1に記載のコンピュータによって実現される方法であって、前記予め定義された1つ以上のチェックポイントは目的関数評価の総数により判断される、コンピュータによって実現される方法。
【請求項5】
請求項1に記載のコンピュータによって実現される方法であって、組み合わされた1セットのパレート最適解のそれぞれは、他の最適解に対して非優勢である、コンピュータによって実現される方法。
【請求項6】
方法によって、製品の多目的進化型アルゴリズム(MOEA)に基づいた工学設計最適化において1セットの多様なパレート最適解を求めるコンピュータシステムを制御するための命令を有するコンピュータ可読媒体であって、該方法は、
コンピュータシステムにおいて、最適化される製品の記述を受け取るステップと、
前記製品に対し、複数のMOEAに基づいた工学設計最適化を独立して行なうステップであって、該複数の工学設計最適化は1セットの共通の設計変数および1セットの共通の設計目的関数を用いるように構成されており、初期世代の設計選択肢や非優越ソート遺伝的アルゴリズム(Non−dominated Sorting Genetic Algorithm (NSGA−II))および強化パレート進化型アルゴリズム(strength Pareto evolutionary algorithm (SPEA))からなる進化スキームによって該複数の工学設計最適化のそれぞれは他の工学設計最適化とは異なっているステップと、
工学最適化の前記それぞれから得られるパレート最適解を組み合わせることにより、1つ以上の予め定義されたチェックポイントにおいて組み合わされた1セットのパレート最適解を求めるステップと、
いずれか1つあるいはすべての工学設計最適化が拡散および均一性測定に基づいて収束したとき、前記組み合わされた1セットのパレート最適解をグローバルパレート最適解として指定するステップであって、該グローバルパレート最適解が記憶装置に記憶されユーザの指示に応じてモニタに図表によって表示されるステップと、
を備えている、コンピュータ可読媒体。
【請求項7】
請求項6のコンピュータ可読媒体であって、前記方法がさらに、前記初期世代の設計選択肢を工学設計最適化の前記それぞれに対してランダムに生成するステップを備えているコンピュータ可読媒体。
【請求項8】
多目的進化型アルゴリズム(MOEA)に基づいた製品の工学設計最適化において1セットの多様なパレート最適解を求めるシステムであって、
少なくとも1つのアプリケーションモジュールに関するコンピュータ読取り可能なコードを記憶しているメインメモリと、
前記メインメモリに連結される少なくとも1つのプロセッサであって、該少なくとも1つのプロセッサがメインメモリ内のコンピュータが読み取り可能なコードを実行して、前記少なくとも1つのアプリケーションモジュールに、次の方法に基づいてオペレーションを実行させる少なくとも1つのプロセッサと、を備えるシステムであって、
該方法が、
最適化される製品の記述を受け取るステップと、
前記製品に対し、複数のMOEAに基づいた工学設計最適化を独立して行なうステップであって、該複数の工学設計最適化は1セットの共通の設計変数および1セットの共通の設計目的関数を用いるように構成されており、初期世代の設計選択肢や非優越ソート遺伝的アルゴリズム(Non−dominated Sorting Genetic Algorithm (NSGA−II))および強化パレート進化型アルゴリズム(strength Pareto evolutionary algorithm (SPEA))からなる進化スキームよって該複数の工学設計最適化のそれぞれは他の工学設計最適化とは異なっているステップと、
工学最適化の前記それぞれから得られるパレート最適解を組み合わせることにより、1つ以上の予め定義されたチェックポイントにおいて組み合わされた1セットのパレート最適解を求めるステップと、
いずれか1つあるいはすべての工学設計最適化が拡散および均一性測定に基づいて収束したとき、前記組み合わされた1セットのパレート最適解をグローバルパレート最適解として指定するステップであって、該グローバルパレート最適解が記憶装置に記憶されユーザの指示に応じてモニタに図表によって表示されるステップと、
を備えているシステム。
【請求項9】
請求項8のシステムであって、前記方法がさらに、前記初期世代の設計選択肢を工学設計最適化の前記それぞれに対してランダムに生成するステップを備えているシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工学設計最適化に関し、特に、多目的進化型アルゴリズム(MOEA)に基づく工学設計最適化において、1セットのより収束しかつより多様なグローバルパレート最適解を求める改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、コンピュータ支援工学(Computer Aided Engineering(CAE))は、解析、シミュレーション、設計、製造などのタスクにおいて技術者を援助するために用いられている。従来の工学設計手順においては、CAE解析(例えば有限要素解析法(Finite Element Analysis(FEA))、有限差分解析(Finite Difference Analysis)、メッシュレス(meshless)解析、計算流体力学(CFD)解析、ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス(Noise−Vibration−Harshness(NVH))を低減するためモード解析等)が、応答(例えば応力、変位など)を評価するために使用されている。例として自動車の設計を用いて、自動車の特定のバージョンあるいは設計においてFEAを用いて解析して、ある荷重条件による応答を求める。そしてその後で、技術者は、特定の目的および制約に基づいて、あるパラメータあるいは設計変数(例えば鋼シェルの厚さ、フレームの位置等)の変更により、自動車の設計の改善を試みることになる。さらに他のFEAが、「最善」設計が達成されるまで、これらの変形を反映するように行なわれる。しかしながら、このアプローチは、一般的に、技術者の知識に依存しあるいは試行錯誤に基づいている。
【0003】
また、多くの技術課題あるいはプロジェクトにおいて、その目的および制約は、概して相反し、互いに影響し合い、かつ設計変数は非線形に相互作用する。このように、「最善」設計あるいは二律背反(トレードオフ)関係を達成するにはそれらをどのように変更するべきかはあまり明らかではない。この状況は、1セットの相反する目標を満たすには、いくつかの異なるCAE解析(例えばFEA、CFDおよびNVH)を必要とする数種類の分野にまたがる最適化においては、さらにより複雑になる。この問題を解くために、「最善」設計を特定する設計最適化と呼ばれる体系的なアプローチが用いられる。
【0004】
1つを超える目的関数を有するそのようなシステムの最適化は、多目的最適化と呼ばれている。単目的最適化問題(SOP)と違って、多目的最適化問題(MOP)は単一の最適解が求められない。代わりに、複数の目的の中の異なる二律背反を表わす1セットの最適解に帰着する。これらの解は、パレート(Pareto)最適解あるいはパレート最適解セットと呼ばれている。パレート最適解セットの設計目的関数空間表現は、パレート最適前線(Pareto optimal front(POF))として知られている。パレート最適解を見つける最も一般的なストラテジーのうちの1つは、多目的最適化問題を単目的最適化問題に変換し、次に、単一のトレードオフ解を見つけることである。MOPをSOPに変換するにはいくつかの方法があり、詳細には、重み付け和ストラテジー(weighted sum strategy)、反転ユーティリティー関数(inverted utility functions)、ゴールプログラミング(goal programming)、ε−制約ストラテジー(ε−constraint strategy)等がある。MOPをSOPに変換するこの従来技術アプローチの欠点は、それぞれの最適化シミュレーションが単一のトレードオフに帰着するということであり、複数のシミュレーションは十分に異なったトレードオフ解が得られないこともある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、工学設計最適化方法論のうちの1つは、遺伝的アルゴリズム(GA)あるいは進化型アルゴリズムに基づいている。遺伝的アルゴリズムが効率的に多目的最適化問題を解くことは実証されている。遺伝的アルゴリズムが、単一の数値シミュレーションにおいて異なるセットのトレードオフ解が得られるからである。GAは、一般に、初期世代としてランダムに生成された母集団からスタートする。その後、乗換えおよび/または突然変異など進化スキームが、将来世代を生成するのに用いられる。MOEAにおける問題のうちの1つは、求められたパレート最適解が多様化しない(つまり、拡散および均一性が不十分である)、あるいは収束が不適当となるおそれがあるということにある。
【0006】
したがって、MOEAに基づいた工学最適化におけるクオリティ、特にPOFの多様性を改善するために、MOEAに基づいた工学設計最適化において1セットの多様なグローバルパレート最適解を達成する改善方法およびシステムが望まれよう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
製品(例えば自動車、携帯電話など)の工学設計最適化において、1セットのより収束しかつより多様なパレート最適解を求めるシステムおよび方法を開示する。本発明の一の面では、一つの製品に対し、MOEAに基づいた複数の工学最適化が独立して行なわれる。初期世代や進化型アルゴリズムなどのあるパラメータによって、複数の工学設計最適化のそれぞれは他の工学設計最適化と異なっている。例えば、初期世代の母集団(設計選択肢)は、乱数あるいは擬似乱数発生器の異なるシード(seed)からランダムに生成することができる。他では、それぞれの進化型アルゴリズムは、限定されないが、ノンドミネーテッド・ソーティング・ジェネティック・アルゴリズム(Non−dominated Sorting Genetic Algorithm(NSGA−II))およびストレングス・パレート進化型アルゴリズム(strength Pareto evolutionary algorithm(SPEA))などを含む特定の進化型アルゴリズムを用いる。
【0008】
本発明の他の面では、独立して行われるそれぞれの最適化のパレート最適解を、1セットのより収束しかつより多様な解を生成するよう、組み合わせる。組み合わせは、最適化の進化プロセスの際に、1つ以上の予め定義されたチェックポイントで行なうことができる。
【0009】
さらに他の面では、MOEAに基づいた工学最適化は、コンピュータシステムにおいて行なわれる。例えば、設計目的関数の評価は、コンピュータ支援工学解析(例えば有限要素解析法、メッシュフリー解析等)を用いて行なわれる。ランダムに生成された母集団は、コンピュータシステムにおいて実現された乱数あるいは擬似乱数発生器に基づいている。
【0010】
本発明の他の目的、特徴および利点は、添付した図面を参照し、以下の本発明の実施の形態の詳細な説明を考察することによって明らかとなろう。
【0011】
本発明のこれらおよび他の特徴、面および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲および添付した図面を考慮してより理解されよう。図面は次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】設計変数としての厚さを用いて最適化される管状の部材(例示的な工学製品)を示す図である。
図1B】多目的関数空間におけるパレート最適解を含んでいる例示的な解を示す図である。
図1C】本発明の一の実施形態を実行するのに用いられる、非優勢解基準を判断する例示的なプロセスを示すフローチャートである。
図2】パレート前線における解の混雑距離の定義をグラフで示す図である。
図3A】本発明の実施形態にかかる、独立して行なわれたMOEAに基づいた2つの最適化から、解を組み合わせる例を示す図である。
図3B】本発明の実施形態にかかる、独立して行なわれたMOEAに基づいた2つの最適化から、解を組み合わせる例を示す図である。
図4】MOEAに基づいた複数の最適化を組み合わせてより収束しかつより多様な1セットの解を形成する例を示す図である。
図5】本発明の実施形態にかかる、独立して行なわれたMOEAに基づいた複数の工学設計最適化から得られるパレート最適解を組み合わせることによって、より収束しかつより多様な1セットの解を求める例示的なプロセスを示すフローチャートである。
図6】遺伝アルゴリズムすなわち進化型アルゴリズムを用いて、工学最適化を行なう例示的なプロセスを示すフローチャートである。
図7】本発明の実施形態を実現可能である演算処理装置の主要な部品を示す機能図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず図1Aを参照して、管状の構造部材102(つまり例示的な工学製品)が、ある設計荷重条件の下で、設計目的が与えられた材料(例えば通常の強さ鋼)の重さの最小化、したがって、コストの最小化である工学最適化において、最適化される。厚さ104が薄いほど、構造物の重量が小さくなることは明らかである。しかしながら、ある点では、その構造物が設計荷重に耐えるには弱くなりすぎることになる(例えば、材料降伏および/または座屈による構造的な破壊)。したがって、この管状の構造体の工学最適化は、強さを最大限にし、その結果より安全な構造体とする他の設計目的を必要とする。この例示的なケースにおいて、厚さ104は、設計空間としての範囲(例えば8分の1インチから0.5インチ)を有することができる設計変数である。あらゆる設計選択肢がこの空間から選択される。多目的進化型アルゴリズムにおいて、それぞれの世代における母集団すなわち設計選択肢は設計空間から選択される。
【0014】
1つの設計変数だけである場合、設計空間は一次元(例えば線)である。2つの変数に対しては、設計空間は二次元領域になる、などである。3つを超える設計変数に対しては、設計空間は図示することができない超空間(ハイパースペース(hyperspace))である。
【0015】
図1Bは、2つの相反する設計目的に基づく、例示的な設計最適化の結果を示すX−Y図である。2つの軸は、相関的要素f1,f2の態様の2つの異なる目的を表わす。多目的最適化においては、一つの最適な解がないが、その代わりに、目的間のトレードオフ関係を反映する1セットの解がある。それぞれの解を区別するために、非優勢基準と呼ばれる概念が、解の比較のために用いられる。
【0016】
図1Cは、非優勢基準を判断する例示的なプロセスを示すフローチャートである。2つの設計選択肢が、複数の設計目的(つまり多目的)関数に応じてそれぞれの解XおよびYを求めるよう評価される。以下の3つの条件のうちのいずれかが真(true)の場合、解XはYより優勢である(ステップ172)。
1. Xは実行可能であり、Yは実行不可能である。(ステップ154および156)
2. XおよびYの両方とも実行不可能である(ステップ160)が、XはYほど実行不可能ではない(ステップ162)。
3. XおよびYの両方とも実行可能な場合(ステップ164)、以下の2つの条件が満たされる必要がある(ステップ170および172)。
a. Xは、すべての設計目的においてYより悪くなく、かつ
b. Xは少なくとも1つの設計目的においてYより厳密によい。
さらに、解YがXより優勢である場合を判断することができる(ステップ175および176)。最後に、どちらの解も他方より優勢でない場合、XおよびYは互いに対して非優勢である(ステップ178)。
【0017】
図1Bは、2つの目的の、制約されていない最小化の例を示す。それぞれのドットは、領域116内の設計選択肢の評価された解(例えばMOEAのある世代における母集団のうちの1つ)を表わす。非優勢基準に応じて、それぞれの菱形122に対して、少なくとも1つの目的においてその菱形122よりよく、他の目的において劣ることのない、少なくとも1つの三角形124がある。このように、菱形122におけるすべての個々の解よりも、三角形124の方が優勢である。同様に、すべての三角形124よりも、正方形126の方が優勢であり、また、正方形よりも円128の方が優勢である。三角形124によって表わされる解は、三角形124によって表わされる他のどの解よりもよいものはないと言うことができ、したがって、三角形124によって表わされる解は、互いに対して非優勢である。円128によって表わされるすべての個々の解は他のどの個々の解に対しても非優勢であり、したがって、円128によって表わされるすべての個々の解は、最善すなわち最も高いランク(例えばランク1)を有する。もし仮に円によって表わされるすべての点が図1Bから除去されると、正方形126によって表わされる個々の解は、すべての他の解に対して非優勢である。したがって、正方形128には、次の最善のランク(例えばランク2)などが割り当てられる。
【0018】
図1Bに示す例において、円128は1セットのパレート最適解を表わす。また、すべての円128を接続するライン130を、パレート最適前線という。一般的に、同じランクを有する1つを超える個々のものすなわち解があるであろうことを付言しておく。
【0019】
パレート最適解の一の面は、2つの測定(拡散と均一性)を用いて定量化される多様性という。拡散は、N次元関数空間における1セットのパレート最適解によって形成される最大の超立方体(hypercube)の最大対角線長さとして定義される。拡散は、また、最大超立方体体積として定義することもできる。均一性は、1セットのパレート最適解において解がどのくらい均一に分布しているかとして定義される。数学的に、均一性Δは次のように表現することができる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、diは関数空間における解の混雑距離(Crowding Distance)(図2にグラフで示した例を参照)として定義され、「n」は、1セットのパレート最適解における解の総数である。混雑距離は、他の解によって取り囲まれていない解の周囲の最大超立方体の周長の半分として定義される。境界点すなわち境界解(例えば210aおよび210n)には、最も近い隣接解との距離の2倍の混雑距離が割り当てられる。均一性測定は、混雑距離の標準偏差と同様であり、したがって、均一性計量は小さい値が望ましく、小さい値のとき解はよく分散されている。
【0022】
図2は、2つの関数によって表わされる設計目的関数空間(つまり2つの軸としてのf1およびf2を用いる二次元関数空間)における例示的な1セットのパレート最適解(ドットとして示す)210a〜nを示す。パレート最適前線を、点線230によって表す。2つの極値端解210a、210nの間の距離240は、1セットのパレート最適解の拡散という。解210iの混雑距離diは、距離ai+biと等しい。
【0023】
図示および説明の簡単化のために、2つの設計目的関数のみを図2において例示する。他の多数の目的関数が現実世界のプロジェクトにおいて行われる最適化において用いられることは、当業者には理解されよう。
【0024】
MOEAに基づいた工学設計最適化における目標は、完全なグローバルパレート最適解のセットを求めることである。しかしながら、グローバルパレート最適解のセットは、現実世界の製品では未知であり、したがって、「多様な(diversified)」解を取り囲む1セットの解が望まれる。
【0025】
そのような目標を達成する手段のうちの1つを、図3A乃至図3Bに示す例で説明する。図3Aにおいて、製品のMOEAに基づいた2つの最適化(つまり第1および第2最適化302a〜b)が、独立して行なわれる。それぞれの最適化は、ランダムに生成された初期世代の母集団(つまり設計選択肢)で始まる。これら2つの最適化の差は、初期世代における母集団が異なるということにある。一の態様において、乱数あるいは擬似乱数発生器の異なるシードが用いられる。その結果、異なる一連の乱数あるいは擬似乱数により、異なる母集団が生成される。そして、設計選択肢(母集団)は、目的関数空間において評価されランク付けられる。図3Aに示す初期世代のパレート最適解の第1および第2セット304a〜bは、それぞれ、第1および第2最適化302a〜bに対するものである。最適化は、矢印「EA」305として示す進化型アルゴリズム(例えばNSGA−II)によってN世代にわたって実行される。パレート最適解のそれぞれのセット306a〜bは、N番目の世代の終了時に得られる。そしてセット306a〜bは、組み合わせられて、組み合わされた1セットのパレート最適解308となる。組み合わされたセット308が、セット306a〜bのどちらよりも広く拡散しており、したがって、より収束しかつより多様であることは視覚的に明白である。セット306a〜bを組み合わせるとき、非優勢な解のみが保持される(優勢な解を決定する例示的なプロセスは図1Cを参照)。例えば、解309bは解309aよりも優勢であり、したがって、解309bは最終的に組み合わされたセット310には含まれない。
【0026】
2つの最適化312a〜bが、また、図3Bに示す例において独立して行なわれる。この例において、最適化312a〜bは、初期世代として、同じセットの設計選択肢(つまり母集団)からスタートする。設計目的関数を評価しランク付けした後、パレート最適解の第1および第2セット314a〜bは同一である。独立最適化が、矢印「EA−1」315aおよび矢印「EA−2」315bによって示す2つの異なる進化型アルゴリズムを用いて実行される。例えば、「EA−1」はNSGA−IIであり、一方、「EA−2」はSPEAである。N世代の進化の後に、パレート最適解の2つのセット316a〜bが得られ、そして組み合わされて、組み合わされたセット318となる。この例において、組み合わされたセット318の均一性は第2セット316bよりもはるかによく、また組み合わされたセット318の拡散は第1セット316aよりもよい。前の例と同様、最終的に組み合わされたセット320は、セット318において非優勢な解のみを含んでいる。
【0027】
次に、図4を参照して、本発明の実施形態にかかる、MOEAに基づいた工学設計最適化において、より多様なセットのパレート最適解を求めるより一般化した例を示す。多くのMOEAに基づいた最適化(第1から第M番目402a〜m)が、任意の初期世代の設計選択肢を用いて独立して行なわれる。進化は、同じあるいは異なる進化型アルゴリズム(つまり、「EA−1」405a・・・「EA−M」405m)を用いて実行される。N世代の後に、Mセットのパレート解406a〜mが組み合わせられて、組み合わされたセット408となる。なお、MとNは正の整数あるいは全整数であり、組み合わされたセット408は、それぞれの独立した最適化と比較してより収束しかつより多様な解を含むことになろう。最後に、優勢な解がセット408から取り除かれて、最終的に組み合わされたセット420が形成される。
【0028】
図5は、本発明の実施形態にかかる、独立して行なわれたMOEAに基づいた複数の工学設計最適化から得られるパレート最適解を組み合わせることによって、多様なこのようなセットの解を求める例示的なプロセス500を示すフローチャートである。プロセス500は、好ましくはソフトウェアで実行される。
【0029】
プロセス500は、ステップ502において、最適化される製品(例えば家電、車、飛行機など)の記述を受け取ることによってスタートする。ステップ504においては、製品の設計空間が、1セットの設計変数を選択することによって定義される(非常に単純な例に関する図1Aを参照)。また、目的関数空間は、MOEAに基づいた最適化において複数の設計目的関数を特定することによって定義される。次に、ステップ506において、複数の独立したMOEAに基づいた工学設計最適化が行なわれる(図4に示す例を参照)。最適化のそれぞれは、ある異なる特徴あるいはパラメータを、例えば初期世代における設計選択肢および/または進化型アルゴリズム(NSGA−II、SPEAなど)を有するよう構成される。そして、ステップ508において、最適化のそれぞれにおいて求められたパレート最適解が、所定のチェックポイントで(例えばN番目の世代の進化後)組み合わされて、組み合わされた1セットの解となる。チェックポイントを、多くの基準、例えば、目的関数評価の総数、世代の数、あるいは組み合わされた1セットの解がグローバルパレート最適解のセットに達成したか否かを決定するのに適している他の同等な条件によって定義することができる。プロセス500は、MOEAに基づいた最適化の全体停止基準あるいは全体終了基準が満たされたか否かを決定する判断510に移行する。全体停止基準は、多くの条件において実現することができる。例えば、それは独立して行なわれた最適化のうちのいずれか1つが収束したときとして、あるいは独立した最適化のすべてが収束したときとして、定義することができる。また、すべての以前のチェックポイントで組み合わされたすべてのセットを試験してパレート最適解が収束したか否かを判断することもできる。
【0030】
「no」の場合、プロセス500は、ステップ512に移行し、次のチェックポイントで複数のMOEAに基づいた最適化を実行し続ける。そして、判断510が真になるまで、ステップ508および判断510が繰り返される。プロセス500は、「yes」の分岐によって終了する。
【0031】
図6に示すフローチャートは、製品の工学設計最適化において用いられる進化型アルゴリズムを実行する例示的なプロセス600を示す。プロセス600は、好ましくはソフトウェアで実行される。
【0032】
プロセス600は、ステップ602において設計空間から母集団(例えば、製品の設計選択肢)の初期世代を生成することによってスタートする。設計空間は、「n」個の設計変数によって定義されたn次元超空間である。初期世代の母集団は、一般にランダムに生成され、乱数あるいは擬似乱数の発生器を用いるコンピュータシステム(例えば図7のコンピュータ700)においてシミュレートすることができる。次に、ステップ604において、それぞれの設計選択肢が評価される。評価は、一般に、コンピュータ支援工学解析(例えば有限要素解析法、メッシュフリー解析、境界要素解析(boundary element analysis)、数値流体力学(computational fluid dynamics)等)を用いて行なわれる。コンピュータ支援の解析の解は、目的関数空間内に配置される。次に、判断606において、所定の停止基準が満たされたか否かが判断される。「no」の場合、プロセス600は、ステップ608に移行し、解をランク付ける(例えば図1Bに示す非優勢な解)。他の同等な方法も用いることができる。
【0033】
ステップ610において、次世代の母集団あるいは設計選択肢が、乗換えや突然変異などの進化スキームを用いて先の世代から生成される。そして、プロセス600は、ステップ604に戻り、判断606が真になるまで繰り返される。そして、プロセス600は、終了する。
【0034】
一の側面において、本発明は、ここに説明した機能を実行可能な1つ以上のコンピュータシステムに対してなされたものである。コンピュータシステム700の一例を、図7に示す。コンピュータシステム700は、プロセッサ704など1つ以上のプロセッサを有する。プロセッサ704は、コンピュータシステム内部通信バス702に接続されている。種々のソフトウェアの実施形態を、この例示的なコンピュータシステムの点から説明する。この説明を読むと、いかにして、他のコンピュータシステムおよび/またはコンピューターアーキテクチャーを用いて、本発明を実行するかが、関連する技術分野に習熟している者には明らかになるであろう。
【0035】
コンピュータシステム700は、また、メインメモリ708好ましくはランダムアクセスメモリ(RAM)を有しており、そして二次メモリ710を有することもできる。二次メモリ710は、例えば、1つ以上のハードディスクドライブ712、および/またはフレキシブルディスクドライブ、磁気テープドライブ、光ディスクドライブなどを表わす1つ以上のリムーバブルストレージドライブ714を有することができる。リムーバブルストレージドライブ714は、よく知られている方法で、リムーバブルストレージユニット718を読み取りおよび/またはリムーバブルストレージユニット718に書き込む。リムーバブルストレージユニット718は、リムーバブルストレージドライブ714によって読み取り・書き込みされるフレキシブルディスク、磁気テープ、光ディスクなどを表わす。以下にわかるように、リムーバブルストレージユニット718は、コンピューターソフトウェアおよび/またはデータを内部に記憶しているコンピュータで使用可能な記憶媒体を有している。
【0036】
代替的な実施形態において、二次メモリ710は、コンピュータプログラムあるいは他の命令をコンピュータシステム700にロードすることを可能にする他の同様な手段を有することもできる。そのような手段は、例えば、リムーバブルストレージユニット722とインタフェース720とを有することができる。そのようなものの例には、プログラムカートリッジおよびカートリッジのインタフェース(ビデオゲーム機に見られるようなものなど)と、リムーバブルメモリチップ(消去可能なプログラマブルROM(EPROM)、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュメモリ、あるいはPROMなど)および関連するソケットと、ソフトウェアおよびデータをリムーバブルストレージユニット722からコンピュータシステム700に転送することを可能にする他のリムーバブルストレージユニット722およびインタフェース720と、が含まれうる。一般に、コンピュータシステム700は、プロセススケジューリング、メモリ管理、ネットワーキングおよびI/Oサービスなどのタスクを行なうオペレーティングシステム(OS)ソフトウェアによって、制御され連係される。
【0037】
通信用インタフェース724も、また、バス702に接続することができる。通信用インタフェース724は、ソフトウェアおよびデータをコンピュータシステム700と外部装置との間で転送することを可能にする。通信用インターフェース724の例には、モデム、ネットワークインターフェイス(イーサネット(登録商標)・カードなど)、コミュニケーションポート、PCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)スロットおよびカードなど、が含まれうる。ソフトウェアおよびデータは通信インタフェース724を介して転送される。コンピュータ700は、専用のセットの規則(つまりプロトコル)を実行してデータを送受信する。一般的なプロトコルのうちの1つは、インターネットにおいて一般的に用いられているTCP/IP(伝送コントロール・プロトコル/インターネット・プロトコル)である。一般的に、通信インタフェース724は、データファイルをデータネットワーク上で伝達される小さいパケットへ分割し、あるいは受信したパケット元のデータファイルへと再アセンブルする。さらに、通信インタフェース724は、正しい宛先に届くようそれぞれのパケットのアドレス部分に対処し、あるいはコンピュータ700が宛先となっているパケットを他に向かわせることなく受信する。この書類において、「コンピュータプログラム媒体」、「コンピュータが読取り可能な媒体」、「コンピュータが記録可能な媒体」および「コンピュータが使用可能な媒体」という用語は、リムーバブルストレージドライブ714(例えば、フラッシュストレージドライブ)および/またはハードディスクドライブ712に組み込まれたハードディスクなどの媒体を概して意味して用いられている。これらのコンピュータプログラム製品は、コンピュータシステム700にソフトウェアを提供する手段である。本発明は、このようなコンピュータプログラム製品に対してなされたものである。
【0038】
コンピュータシステム700は、また、コンピュータシステム700をアクセスモニタ、キーボード、マウス、プリンタ、スキャナ、プロッタなどに提供する入出力(I/O)インタフェース730を有することができる。
【0039】
コンピュータプログラム(コンピュータ制御ロジックともいう)は、メインメモリ708および/または二次メモリ710にアプリケーションモジュール706として記憶される。コンピュータプログラムを、通信用インタフェース724を介して受け取ることもできる。このようなコンピュータプログラムが実行された時、コンピュータプログラムによって、コンピュータシステム700がここに説明した本発明の特徴を実行することが可能になる。詳細には、コンピュータプログラムが実行された時、コンピュータプログラムによって、プロセッサ704が本発明の特徴を実行することが可能になる。したがって、このようなコンピュータプログラムは、コンピュータシステム700のコントローラを表わしている。
【0040】
ソフトウェアを用いて発明が実行されるある実施形態において、当該ソフトウェアはコンピュータプログラム製品に記憶され、リムーバブルストレージドライブ714、ハードドライブ712あるいは通信用インタフェース724を用いてコンピュータシステム700へとロードすることができる。アプリケーションモジュール706は、プロセッサ704によって実行された時、アプリケーションモジュール706によって、プロセッサ704がここに説明した本発明の機能を実行する。
【0041】
所望のタスクを達成するために、I/Oインタフェース730を介したユーザ入力によってあるいはよることなしに、1つ以上のプロセッサ704によって実行することができる1つ以上のアプリケーションモジュール706を、メインメモリ708に、ロードすることもできる。動作においては、少なくとも1つのプロセッサ704がアプリケーションモジュール706のうちの1つが実行されると、結果が演算されて二次メモリ710(つまりハードディスクドライブ712)に記憶される。CAE解析あるいは工学設計最適化の状況(例えば組み合わせ前後のパレート最適解)は、テキストあるいはグラフィック表現で、I/Oインタフェース730を介してユーザに報告される。
【0042】
本発明を具体的な実施形態を参照しながら説明したが、これらの実施形態は単なる例示であって、本発明を限定するものではない。開示した例示的な実施形態に対する種々の変更あるいは変形を、当業者は思いつくであろう。例えば、設計目的関数の数を2として示したが、実際には、非常に多数の設計目的が用いられている。更に、それぞれの世代における母集団あるいは設計選択肢のサイズを少数で図示し説明したが、他のサイズあるいは数を代わりに用いることができる。つまり、発明の範囲は、ここで開示した具体的で例示的な実施形態に限定されず、当業者が容易に想到するあらゆる変更が、本願の精神および認識範囲そして添付の特許請求の範囲の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
102 管状構造部材
104 厚さ
130 パレート最適前線
210a〜n 境界解
230 パレート最適前線
240 極値端解距離
700 コンピュータシステム
702 バス
704 プロセッサ
706 アプリケーションモジュール
708 メインメモリ
710 二次メモリ
712 ハードディスクドライブ
714 リムーバブルストレージドライブ
718 リムーバブルストレージユニット
720 インタフェース
722 リムーバブルストレージユニット
724 通信インタフェース
730 I/Oインターフェース
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7