【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年1月1日 財団法人研友社 国立事業所発行の「RRR 2011年1月号 第68巻第1号」に発行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のブレーキディスクは、ディスク裏面に形成された放熱用フィンによって摩擦面が間接的に冷却されるものの、摩擦面を直接的に冷却する手段を備えていない。従って、特に高速走行時に摩擦面が高温まで加熱された場合、放熱用フィンだけでは摩擦面の冷却が不十分となり、摩擦面に亀裂や変形が生じるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、高速走行時におけるブレーキ環境下においても、ブレーキディスクの摩擦面に亀裂や変形が生じることを確実に抑制することを可能にする手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係るブレーキディスクは、回転駆動される車軸と一体的に回転する回転体に取り付けられ、ブレーキパッドが押圧されることにより前記車軸の回転を制動するブレーキディスクであって、前記ブレーキパッドが押圧される摩擦面を有し、前記回転体に取り付けられるディスク本体と、前記ディスク本体から前記車軸の側へ突出するとともに、前記車軸の軸線方向に向かって前記摩擦面より突出して設けられた冷却フィンと、を備えることを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、車軸の回転に伴って車輪が回転すると、ディスク本体の摩擦面上では周方向に沿った空気の流れが発生する。ここで、径方向内側から摩擦面上に流れ込む空気は、摩擦面の径方向内側に突出して設けられた冷却フィンに衝突することにより、その流れが乱流化する。そして、摩擦面上の空気の流れが乱流化すると、冷却フィンの無い場合と比較して空気の対流冷却効果が高まって摩擦面の熱伝達率が高くなることにより、摩擦面の温度が低くなる。これにより、ブレーキパッドとの摺動によって生じる熱の影響で摩擦面に亀裂や変形が生じることを抑制することができる。
【0008】
また、冷却フィンによって乱流化された空気の流れは、ブレーキディスクの摩擦面だけでなくブレーキパッドも冷却する。これにより、ブレーキパッドについても摩擦面との摺動によって生じる熱の影響で亀裂や変形が生じることを抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係るブレーキディスクは、前記ディスク本体が断面略円環形状を有し、前記冷却フィンが、前記ディスク本体の内周面に周方向に所定間隔で複数設けられていることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、周方向に所定間隔で設けられた複数の冷却フィンによって、略円環形状の摩擦面の全体を均一に冷却することができる。
【0011】
また、本発明に係る制動装置は、回転駆動される車軸と一体的に回転する回転体と、ブレーキパッドが押圧される摩擦面を有し、前記回転体に取り付けられるブレーキディスクと、前記ブレーキディスクと前記車軸との間に、前記車軸の軸線方向に向かって前記摩擦面より突出して設けられた冷却フィンと、を備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、車軸の回転に伴って車輪が回転すると、ブレーキディスクの摩擦面上では周方向に沿った空気の流れが発生する。ここで、径方向内側から摩擦面上に流れ込む空気は、摩擦面の径方向内側に突出して設けられた冷却フィンに衝突することにより、その流れが乱流化する。そして、摩擦面上の空気の流れが乱流化すると、冷却フィンの無い場合と比較して空気の対流冷却効果が高まって摩擦面の熱伝達率が高くなることにより、摩擦面の温度が低くなる。これにより、ブレーキパッドとの摺動によって生じる熱の影響で摩擦面に亀裂や変形が生じることを抑制することができる。
【0013】
また、冷却フィンによって乱流化された空気の流れは、ブレーキディスクの摩擦面だけでなくブレーキパッドも冷却する。これにより、ブレーキパッドについても摩擦面との摺動によって生じる熱の影響で亀裂や変形が生じることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るブレーキディスクによれば、高速走行時におけるブレーキ環境下においても、摩擦面に亀裂や変形が生じることを確実に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態の一例について説明する。まず、本発明の第一実施形態に係る新幹線用制動装置の構成について説明する。
図1は、第一実施形態に係る新幹線用制動装置10を示す概略正面図である。また
図2は、
図1におけるA−A線断面を示す概略断面図である。
【0018】
新幹線用制動装置10は、
図1に示すように、略円形の車輪11(回転体)と、この車輪11に挿通された車軸12と、車輪11の端面に取り付けられたブレーキディスク13と、ブレーキディスク13に近接して配置されたブレーキパッド14と、を備えるものである。
【0019】
車輪11は、
図1及び
図2に示すように、軸方向に一定の厚みを有する平板部111と、この平板部111の径方向外縁部が軸方向に突出してなるリム部112と、平板部111の径方向中心部が軸方向に突出してなるボス部113と、このボス部113を貫通して形成された軸挿通孔114とを有している。
【0020】
車軸12は、
図1及び
図2に示すように、車輪11の軸挿通孔114に挿通されて固定されている。そして、この車軸12が不図示のモータ等によって回転駆動されることにより、車軸12の回転に伴って車輪11が一体的に回転するようになっている。
【0021】
ブレーキディスク13は、ブレーキパッド14が押圧されることで制動力を得る役割を果たすものである。ここで、
図3から
図5は、ブレーキディスク13の構成を示す六面図であり、
図3(a)は平面図、
図3(b)は底面図、
図4(a)は正面図、
図4(b)は背面図、
図5(a)は左側面図、
図5(b)は右側面図である。
【0022】
ブレーキディスク13は、
図3から
図5に示すように、断面略円環形状を有するディスク本体15と、このディスク本体の内周面に突出して設けられた複数の冷却フィン16とを有している。
【0023】
ディスク本体15は、
図2に示すように、その外径が車輪11のリム部112の内径より若干小さく形成されるとともに、その内径は車輪11のボス部113の外径より大きく形成されている。また、ディスク本体15の厚みは、車輪11の平板部111に対するリム部112の突出高さと略等しい大きさに形成されている。更に、
図2及び
図3に示すように、ディスク本体15には周方向に沿って所定間隔で複数のボルト挿通孔151が形成されている。また、ディスク本体15は、その一端面がブレーキパッド14を押圧するための摩擦面152として構成される。
【0024】
冷却フィン16は、ブレーキディスク13の摩擦面152とブレーキパッド14とを冷却する役割を果たすものである。この冷却フィン16は、
図2及び
図3に示すように、ディスク本体15の内周面から径方向に突出する平板状の基部161と、この基部の上面における中央部から軸方向に起立して設けられた起立部162とを有している。そして、冷却フィン16の最上部である起立部162の先端部は、ディスク本体15の摩擦面152よりも軸方向に突出した状態となっている。このように構成される冷却フィン16は、ディスク本体15の周方向に沿って30°間隔で合計12個が設けられている。
【0025】
そして、このように構成されるブレーキディスク13は、
図2に示すように、車輪11の表裏両側における平板部111にそれぞれ配置され、ボルト挿通孔151を挿通させた固定ボルト17Bの軸部にナット17Nを螺合させることにより、車輪11に対してそれぞれ固定される。
【0026】
ブレーキパッド14は、
図1に示すように、車輪11の径方向に向かってブレーキディスク13に対応する位置に設けられている。そしてこのブレーキパッド14は、図に詳細は示さないが、車輪11の軸方向に移動可能に設けられ、ブレーキディスク13の摩擦面152に押圧されることによってそれと一体的に回転する車軸12の回転を制動するとともに、ブレーキパッド14から離間することによって車軸12の回転を許容するものとなっている。
【0027】
次に、本発明の第一実施形態に係る新幹線用制動装置10の作用効果について説明する。ここで、
図6は、車輪11の回転時におけるブレーキディスク13の摩擦面152上での空気の流れをシュミレーションした結果を示す図であって、(a)はブレーキディスク13が冷却フィン16を有する場合を、(b)はブレーキディスク13が冷却フィン16を持たない場合をそれぞれ示している。尚、(b)については、冷却フィン16以外の構成は(a)と同じであるため、(a)と同じ符号を付している。
【0028】
図6(b)に示すように、車軸12の回転に伴って車輪11が回転すると、ブレーキディスク13の摩擦面152上では周方向に沿った空気の流れF1が発生する。ここで、
図6(a)に示すようにブレーキディスク13が冷却フィン16を有する場合、径方向内側から摩擦面152上に流れ込む空気は、摩擦面152の径方向内側に突出して設けられた冷却フィン16の起立部162に衝突することにより、その流れF2が乱流化する。
【0029】
そして、このように摩擦面152上の空気の流れF2が乱流化すると、冷却フィン16の無い場合と比較して空気の対流冷却効果が高まって摩擦面152の熱伝達率が高くなることにより、摩擦面152の温度が低くなる。これにより、高速走行時のブレーキングによって摩擦面152が
図1に示すブレーキパッド14と強く摺動しても、それによって生じる熱の影響が冷却フィン16によって低減されるので、摩擦面152に亀裂や変形が生じることを抑制することができる。具体的には、本実施形態における摩擦面152の熱伝達率は、冷却フィン16の無い場合における摩擦面152の熱伝達率と比較して、約40%高くなった。
【0030】
また、摩擦面152上で乱流化した空気の流れF2は、摩擦面152を冷却するだけでなく、
図1に示すブレーキパッド14の摺動面141も冷却する。従って、摺動面141の熱伝達率が高くなることにより、摺動面141の温度が低くなる。これにより、ブレーキパッド14の摺動面141についても、高速走行時における熱の影響が冷却フィン16によって低減されるので、摺動面141に亀裂や変形が生じることも抑制することができる。
【0031】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る新幹線用制動装置の構成について説明する。
図7は、第二実施形態に係る新幹線用制動装置20を示す概略正面図である。また
図8は、
図7におけるA−A線断面を示す概略断面図である。
【0032】
新幹線用制動装置20は、
図7に示すように、略円形の車輪11(回転体)と、この車輪11に挿通された車軸12と、車輪11の端面に取り付けられたブレーキディスク21と、ブレーキディスク21に近接して配置されたブレーキパッド14と、ブレーキディスク21の径方向内側に設けられた複数の冷却フィン22と、を備えるものである。尚、第一実施形態の新幹線用制動装置10と同じ構成については同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0033】
ブレーキディスク21は、ブレーキパッド14が押圧されることで制動力を得る役割を果たすものである。このブレーキディスク21は、
図7に示すように、断面略円環形状を有する板状の部材であって、その外径は車輪11のリム部112の内径より若干小さく形成され、その内径は車輪11のボス部113の外径より大きく形成されている。また、
図8に示すように、ブレーキディスク21の厚みは、車輪11の平板部111に対するリム部112の突出高さと略等しい大きさに形成されている。更に、
図7及び
図8に示すように、ブレーキディスク21には周方向に沿って所定間隔で複数のボルト挿通孔211が形成されている。また、ブレーキディスク21は、その一端面がブレーキパッド14を押圧するための摩擦面212として構成される。
【0034】
このように構成されるブレーキディスク21は、
図8に示すように、車輪11の表裏両側における平板部111にそれぞれ配置され、ボルト挿通孔211を挿通させた固定ボルト23Bの軸部にナット23Nを螺合させることにより、車輪11に対してそれぞれ固定される。
【0035】
ここで、ブレーキディスク21は、前述のようにその外径がリム部112の内径より若干小さく形成されるとともに、その内径がボス部113の外径より大きく形成されている。従って、
図8に示すように、ブレーキディスク21を車輪11の平板部111に固定した状態で、ブレーキディスク21とボス部113との間には所定幅の隙間24が形成されている。
【0036】
また、ブレーキディスク21の厚みは、前述のように車輪11の平板部111に対するリム部112の突出高さと略等しい大きさに形成されている。従って、
図8に示すように、ブレーキディスク21を車輪11の平板部111に固定した状態で、ブレーキディスク21の摩擦面212がリム部112の最上部と略面一となる。
【0037】
冷却フィン22は、ブレーキディスク21の摩擦面212とブレーキパッド14とを冷却する役割を果たすものである。この冷却フィン22は、
図7及び
図8に示すように、平面視で略矩形の平板である基部221と、この基部221の上面における中央部に起立して設けられた側面視で略矩形の平板である起立部222と、を有している。
【0038】
基部221は、冷却フィン22を車輪11の平板部111に取り付けるためのものである。この基部221には、
図8に示すように、平面視で長手方向一端部にボルト挿通穴221aが形成されるとともに、起立部222の下方を貫通して内周面にネジ溝が切られたネジ穴221bが形成されている。一方、起立部222は、車輪11の回転時に空気の流れを乱流化させるためのものである。この起立部222は、平面視で長手方向両端部が略円弧形状にそれぞれ形成されている。
【0039】
このように構成される冷却フィン22は、
図8に示すように、ブレーキディスク21の径方向内側、すなわちブレーキディスク21とボス部113との間に形成された隙間24に配置され、その基部221が平板部111に固定される。より詳細には、冷却フィン22の裏側から平板部111を挿通された固定ネジ25の先端部が、基部221のネジ穴221bに螺合されるとともに、冷却フィン22の表側から基部221と平板部111とを挿通された固定ボルト26Bの軸部に、ナット26Nが螺合される。このようにして、車輪11の周方向に沿って30°間隔で、合計12個の冷却フィン22が平板部111にそれぞれ取り付けられている。
【0040】
ここで、
図8に示すように、冷却フィン22の高さは、ブレーキディスク21の厚みより大きく設定されている。従って、平板部111に取り付けられた状態における冷却フィン22の最上部、すなわち起立部222の先端部は、同じく平板部111に固定された状態のブレーキディスク21の最上部、すなわち摩擦面212よりも軸方向に突出した状態となっている。
【0041】
尚、冷却フィン22は、その最上部がブレーキディスク21の摩擦面212よりも軸方向に突出していれば足り、その形状や個数や設置位置等は、本実施形態に限定されず適宜設計変更が可能である。
【0042】
尚、本発明の第二実施形態に係る新幹線用制動装置20は、第一実施形態に係る新幹線用制動装置10と同様の作用効果を奏する。すなわち、
図1に示す車軸12の回転に伴って車輪11が回転すると、図に詳細は示さないが、径方向内側から摩擦面212上に流れ込む空気は、冷却フィン22の起立部222に衝突することによって乱流化する。そうすると、空気の対流冷却効果が高まり、ブレーキディスク21の摩擦面212やブレーキパッド14の摺動面141の熱伝達率が高くなる。これにより、ブレーキ時に生じる熱の影響が冷却フィン22によって低減されるため、摩擦面212や摺動面141に亀裂や変形が生じるのを抑制することができる。
【0043】
更に、第二実施形態に係る新幹線用制動装置20では、冷却フィン22がブレーキディスク21とは別部材として構成されている。従って、冷却フィン16がブレーキディスク13の一部として構成される第一実施形態の新幹線用制動装置10と比較すると、ブレーキディスク21の製造用に用いる金型の構成を簡略化することができ、コストダウンを図ることができるという利点がある。
【0044】
尚、本実施形態では、ブレーキディスク13,21を新幹線用制動装置10,20にそれぞれ適用する場合を例に説明したが、これに限られず、新幹線以外の他の鉄道車両の制動装置にも適用することができる。また、鉄道車両以外の他の車両の制動装置に適用することも可能である。また、本発明に係る回転体は、車輪11に限られず、車軸12に固定された不図示のハブであってもよい。
【0045】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。