(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化物超電導積層体の外方に前記第1の安定化層と第2の安定化層を被せる場合、前記第1の安定化層の折り返し部と第2の安定化層の折り返し部を前記酸化物超電導積層体の幅方向異なる側の端部側に配置することを特徴とする請求項3に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
RE−123系酸化物超電導体(REBa
2Cu
3O
7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度で超電導性を示し、電流損失が低いため、これを超電導線材に加工して電力供給用の超電導導体あるいは超電導コイルを製造することがなされている。この酸化物超電導体を線材に加工するための方法として、金属テープの基材上に中間層を介し酸化物超電導層を形成し、この酸化物超電導層の上に安定化層を形成する方法が実施されている。
【0003】
従来一般的な酸化物超電導線材は、酸化物超電導層上に薄い銀の安定化層を形成し、その上に銅などの良導電性金属材料からなる厚い安定化層を設けた2層構造の安定化層を積層する構造が採用されている。前記銅の安定化層は、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、該酸化物超電導層の電流を転流させるバイパスとして機能させるために設けられている。
【0004】
また、RE−123系酸化物超電導体の特定組成のものは水分により劣化しやすく、超電導線材を水分の多い環境に保管した場合、あるいは、超電導線材に水分を付着させたまま放置した場合、酸化物超電導層に水分が浸入すると、超電導特性が低下する要因となるおそれがある。従って、超電導線材の長期的信頼性を確保するためには、超電導層の全周を何らかの層で保護する構造を採用する必要がある。
超電導層の全体を保護した従来構造として、以下の特許文献1に記載のように、寒剤がワイヤに浸透し、超電導特性を劣化させるのを防止する複合セラミック超電導テープであって、その外面を密封して囲む構造が知られている。この複合セラミック超電導テープでは、複合テープの周囲を取り囲むように金属テープを配置し、金属テープの端縁どうしを一部重ね合わせて溶接した構造にされている。
また、高温超電導線材を巻線する際に発生する高温超電導層を金属基板から引き剥がそうとする力に対抗する目的で密封構造を採用した高温超電導線材が以下の特許文献2に開示されている。特許文献2に記載の高温超電導線材は、上下に離間して配置したテープ状の安定化金属層の間にはんだに埋め込まれた状態のテープ状の高温超電導線材部品を配置した構造になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のRE−123系酸化物超電導層を備えた超電導線材は、金属テープの基材上に中間層を介し酸化物超電導層を積層し、その上に薄い銀の安定化層を積層しているが、この銀の安定化層は酸素熱処理時に酸素を超電導層内へ拡散できるように薄く形成されるので、ピンホールが存在している場合がある。また、銀の安定化層はスパッタ法などの成膜法により形成されているため、長尺の超電導線材を製造する場合に剥離や欠けなどを生じ易い問題があり、更に、酸化物超電導層の表面を銀の安定化層で覆ってはいるものの、酸化物超電導層の側面側を何らかの層で覆っている訳ではないので、側面側からの水分の浸入に対策を講じる必要がある。
このため、上述の特許文献1、2に示す如く溶接で接合した金属のテープで基板と高温超電導層を取り囲む構造、あるいは、2枚の金属テープの安定化層の間にはんだで埋め込まれた状態の高温超電導線材を配置した構造が有効であると思われる。
ところが、テープ状の酸化物超電導線材を2枚の金属テープで挟み込み、半田で固定する構造の場合、金属テープと酸化物超電導体の界面のはんだ密着性が問題となり、長尺の超電導線材の全長において、わずかでも隙間が生じているとその隙間部分から水分の浸入を許すおそれがある。
【0007】
図4はこの種の酸化物超電導体を銅テープで取り囲む構造を想定した場合の一例構造を示す。
図4に示す構造では、金属製のテープ状の基材100の一側の面に中間層101を介し酸化物超電導層102と銀の安定化層103を積層してテープ状の酸化物超電導積層体104を構成し、この酸化物超電導積層体104の周囲を銅テープ105で取り囲むことで被覆構造の酸化物超電導導体106が形成されている。この例の酸化物超電導導体106は、例えば銅テープ105の端縁部に半田層107を形成し、基材100の裏面側において端縁部を重ねた銅テープ105を互いに半田付けすることで銅テープ105の端縁どうしが一体化されている。
【0008】
図4に示す構造の銅テープ105で酸化物超電導積層体104を取り囲んだ構造にあっては、銅テープ105の重ね合わせ部分を半田付けしたとして、テープ状の酸化物超電導積層体104の全長に渡りわずかでも半田接合の不良部分が生じていると水分の浸入を許すおそれがあり、水分の浸入を阻止できない構造になっている。
また、
図4に示す構造の酸化物超電導導体106は、銅テープ105どうしが重なった部分で厚みが大幅に変わってしまうので、超電導コイルなどを構成する場合に巻胴に超電導導体106を巻回するにしても、1層巻きでは問題を生じないものの、多層巻きする場合に銅テープ105の重なり部分で巻き乱れが生じ易い問題がある。
【0009】
本発明は、以上のような従来の背景に鑑みなされたもので、水分の浸入を阻止できる構造として内部の酸化物超電導層を水分により劣化させないようにした酸化物超電導線材を提供することを目的とする。また、超電導コイル用などのために酸化物超電導線材をコイル状に巻き付ける場合、巻き乱れを生じない酸化物超電導線材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、テープ状の基材の一方の面の上方に中間層と酸化物超電導層と保護層がこの順に積層されてテープ状の酸化物超電導積層体が構成され、 該酸化物超電導積層体がその周囲を第1の金属テープを折り返して構成された第1の安定化層により囲まれ、該第1の安定化層がその周囲を第2の金属テープを折り返して構成された第2の安定化層により囲まれるとともに、前記酸化物超電導積層体とその周囲の第1の安定化層がそれらの間に充填された第1の低融点金属層により接合され、前記第1の安定化層と前記第2の安定化層がそれらの間に充填された第2の低融点金属層により接合されてなることを特徴とする。
テープ状の酸化物超電導積層体の外方に金属テープを折り返し構造とした第1の安定化層と第2の安定化層を2重に重ねるように低融点金属層を介し接合したので、酸化物超電導積層体を2重に覆った構造であって、水分が浸入し難い構造の酸化物超電導線材を提供できる。
【0011】
本発明において、前記第1の金属テープを折り返して該第1の金属テープの幅方向一側に折り返し部を幅方向他側に開口部を形成して第1の安定化層が形成され、該第1の安定化層の折り返し部の内側に前記酸化物超電導積層体の幅方向一側側面を位置させて前記酸化物超電導積層体が前記第1の安定化層により覆われるとともに、前記第2の金属テープを折り返して該第2の金属テープの幅方向一側に開口部を幅方向他側に折り返し部を形成して第2の安定化層が形成され、該第2の安定化層の折り返し部の内側に前記酸化物超電導積層体を内包した前記第1の安定化層の開口部を位置させて前記第1の安定化層が前記第2の安定化層により覆われた構造とすることができる。
第1の安定化層の折り返し部と第2の安定化層の折り返し部を酸化物超電導積層体の幅方向両側に別々に配置することで、水分が浸入しようとした場合に超電導特性に対し影響を及ぼすおそれの高い酸化物超電導積層体の両側面部分を確実に安定化層で覆うことができ、防水性能の優れた酸化物超電導線材を提供できる。
【0012】
本発明において、前記第2の安定化層の開口端部が前記第1の安定化層の折り返し部分の外側で相互融着されてなる構成とすることができる。
テープ状の酸化物超電導積層体を第1の安定化層と第2の安定化層で2重に覆い、第2の安定化層の開口端部を相互融着することで全周を安定化層で完全に覆った2重密閉構造の酸化物超電導線材を提供できる。
また、酸化物超電導線材の周面に半田層などの低融点金属層が露出していない構造とするならば、半田層を構成する標準電位が負となるスズや鉛などの金属が酸化物超電導線材の表面に存在しないので、隣接する金属同士の電位差に起因して生じるおそれの高い電食を生じない構造にできる。
【0013】
前記課題を解決するため、本発明方法は、テープ状の基材の一方の面の上方に中間層と酸化物超電導層と保護層がこの順に積層されたテープ状の酸化物超電導積層体を用意し、 この酸化物超電導積層体の外方に、第1の金属テープを折り返して該金属テープの幅方向一側に折り返し部を幅方向他側に開口部を形成した第1の安定化層を被せてこれらの間に配した第1の低融点金属層により接合し、この後、前記第1の安定化層の外方に、第2の金属テープを折り返して該金属テープの幅方向一側に開口部を幅方向他側に折り返し部を形成した第2の安定化層を被せてこれらの間に配した第2の低融点金属層により接合することを特徴とする。
本発明方法により、金属テープを折り返し構造とした第1の安定化層と第2の安定化層を2重に重ねて低融点金属層を介し接合した酸化物超電導線材を得ることができるので、酸化物超電導積層体を金属テープで2重に覆った構造であって、水分が浸入し難い構造の酸化物超電導線材を製造できる。
【0014】
本発明方法において、前記酸化物超電導積層体の外方に前記第1の安定化層と第2の安定化層を被せる場合、前記第1の安定化層の折り返し部と第2の安定化層の折り返し部を前記酸化物超電導積層体の幅方向異なる側の端部側に配置できる。
第1の安定化層の折り返し部と第2の安定化層の折り返し部を酸化物超電導積層体の幅方向両側に別々に配置することで、水分が浸入しようとする場合に超電導特性に対し影響を及ぼすおそれの高い酸化物超電導積層体の側面部分を確実に安定化層で覆うことができ、防水性能の優れた酸化物超電導線材を提供できる。
【0015】
本発明において、前記第2の安定化層の開口端部を前記第1の安定化層の折り返し部分の外側で相互融着することができる。
本発明により、テープ状の酸化物超電導積層体を第1の安定化層と第2の安定化層で2重に覆い、第2の安定化層の開口端部を相互融着することで全周を2重に完全に安定化層で覆った構造の酸化物超電導線材を提供できる。
酸化物超電導線材の周面に半田層などの低融点金属層が露出していない構造とするならば、半田層を構成する標準電位が負となるスズや鉛などの金属が表面に存在しないので、隣接する金属同士の電位差に起因して生じるおそれの高い電食を生じることがない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化物超電導積層体の周囲に2重の安定化層をそれぞれ低融点金属層を介し接合した防水性の高い酸化物超電導線材を提供できる。また、第1の安定化層と第2の安定化層は、折り返し部を酸化物超電導積層体の幅方向一側と他側に個別に配置して酸化物超電導積層体を覆う構造とするならば、水分浸入により影響を受けやすい酸化物超電導積層体の側面部分を確実に覆った防水性の高い酸化物超電導線材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材について、図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る第1実施形態の酸化物超電導線材の一部を横断面とした斜視図であり、この実施形態の酸化物超電導線材Aは、内部に設けられたテープ状の酸化物超電導積層体1を銅などの導電性材料製の金属テープからなる第1の安定化層2Aと第2の安定化層2Bで覆って構成されている。
この例の酸化物超電導積層体1は、
図2に示すようにテープ状の基材3の上方に、中間層4と酸化物超電導層5と保護層6をこの順に積層してなる。
前記基材3は、可撓性を有する超電導線材Aとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。各種耐熱性金属の中でも、ニッケル合金からなることが好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適である。基材3の厚さは、通常は、10〜500μmである。また、基材3として、ニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni−W合金テープ基材等を適用することもできる。
【0019】
中間層4は、以下に説明する下地層と配向層とキャップ層からなる構造を一例として適用できる。
下地層を設ける場合は、以下に説明する拡散防止層とベッド層の複層構造あるいは、これらのうちどちらか1層からなる構造とすることができる。
下地層として拡散防止層を設ける場合、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される単層構造あるいは複層構造の層が望ましく、厚さは例えば10〜400nmである。
下地層としてベッド層を設ける場合、ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減し、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y
2O
3)などの希土類酸化物であり、より具体的には、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等を例示することができ、これらの材料からなる単層構造あるいは複層構造を採用できる。ベッド層の厚さは例えば10〜100nmである。また、拡散防止層とベッド層の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すれば良い。
【0020】
配向層は、その上に形成する酸化物超電導層5の結晶配向性を制御するバッファー層として機能し、酸化物超電導層と格子整合性の良い金属酸化物からなることが好ましい。配向層の好ましい材質として具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示できる。配向層は、単層でも良いし、複層構造でも良い。
配向層は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザー蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する。)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。これらの方法の中でも特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO又はZrO
2−Y
2O
3(YSZ)からなる配向層は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0021】
キャップ層は、前記配向層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記配向層よりも高い面内配向度が得られる可能性がある。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が例示できる。キャップ層の材質がCeO
2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
キャップ層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができる。PLD法によるCeO
2層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で成膜することができる。CeO
2のキャップ層5の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、50〜5000nmの範囲とすることができる。
【0022】
酸化物超電導層5は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBa
2Cu
3O
y(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBa
2Cu
3O
y)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
y)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、Bi
2Sr
2Ca
n−1Cu
nO
4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。酸化物超電導層5の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0023】
酸化物超電導層5の上面を覆うように形成されている保護層6は、AgまたはAg合金からなり、DCスパッタ装置やRFスパッタ装置などの成膜装置により成膜されており、その厚さが1〜30μm程度とされている。なお、本実施形態の保護層6は、成膜装置により酸化物超電導層5の上面側に主に形成されているが、成膜装置のチャンバの内部でテープ状の基材3を走行させながら成膜されているので、基材3の両側面と基材3の裏面に対し保護層6の成膜粒子が回り込むことでこれらの面にも保護層6の構成元素粒子が若干堆積されている。
このAg粒子の回り込み堆積が生じている場合、ニッケル合金からなるハステロイ製の基材3の裏面側と側面側に半田層7が密着する。なお、Ag粒子の回り込みによる堆積が無い場合はニッケル合金からなるハステロイ製の基材3に半田層7が満足に密着されなくなるおそれがある。
【0024】
前記酸化物超電導積層体1の外側に設けられている第1の安定化層2Aと第2の安定化層2Bは、一例として良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層5が超電導状態から常電導状態に転移した時に、保護層6とともに、電流を転流するバイパスとして機能する。第1、第2の安定化層2A、2Bを構成する材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、Al、Cu−Al合金等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがら銅からなることが好ましい。なお、酸化物超電導線材Aを超電導限流器用途に使用する場合、第1、第2の安定化層2A、2Bは高抵抗金属材料より構成され、例えば、Ni−Cr等のNi系合金などからなる。第1、第2の安定化層2A、2Bの厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、50〜300μmとすることが好ましい。
【0025】
前記第1の安定化層2Aの表裏面には半田層(低融点金属層)7が形成されている。これらの半田層7は、第1の安定化層2Aの外面を覆っている外部側被覆層7aと第1の安定化層2Aの内面側に密着して酸化物超電導積層体1の周囲を覆っている内部側被覆層7bとからなる。
第1の安定化層2Aと半田層7についてより詳しく説明すると、第1の安定化層2Aは、第1の壁部2aと側壁2bと第2の壁部2cとからなる横断面略C字型(コ字型)に金属テープを折り曲げることで構成され、この第1の安定化層2Aによって酸化物超電導積層体1が覆われている。即ち、第1の壁部2aが基材3側を覆い、側壁2bが基材3の一側面と中間層4の一側面と酸化物超電導層5の一側面と保護層6の一側面を覆い、第2の壁部2cが保護層6を覆っている。半田層7において内部側被覆層7bは、酸化物超電導積層体1の全周面のうち、第1の安定化層2Aが覆っている分の全てを被覆するように設けられ、第1の安定化層2Aと酸化物超電導積層体1の間を埋めるように充填され、酸化物超電導積層体1に第1の安定化層2Aを接合している。
【0026】
次に、第1の安定化層2Aはその全周を外部側被覆層7aを介し第2の安定化層2Bにより覆われている。第2の安定化層2Bは第1の安定化層2Aと同等材料からなる。第2の安定化層2Bは、金属テープを横断面C字型に2つ折りに折り曲げて第1の壁部2dと側壁2eと第2の壁部2fが形成されてなり、更に、側壁2dの反対側の端部を後述する溶接法により溶融一体化して閉じた閉塞部2gが形成されてなる。
【0027】
前記外部側被覆層7aと内部側被覆層7bは、この実施形態では半田から形成されているが、低融点金属層として、融点240〜400℃の金属、例えば、Sn、Sn合金、インジウム等からなるものを適用しても良い。半田を用いる場合、Sn−Pb系、Pb−Sn−Sb系、Sn−Pb−Bi系、Bi−Sn系、Sn−Cu系、Sn−Pb−Cu系、Sn−Ag系などのいずれの半田を用いても良い。なお、被覆層7a、7bの構成材料を溶融させる場合、その融点が高いと、酸化物超電導層5の超電導特性に悪影響を及ぼすので、被覆層7a、7bの構成材料の融点は低い方が好ましく、この点、融点350℃以下、より好ましくは240〜300℃前後の融点を有する材料が望ましい。
【0028】
被覆層7aの厚さは2μm〜6μmの範囲とすることができ、より好ましくは2μm〜4μmの範囲とすることができる。被覆層7aの厚さが2μm未満では、酸化物超電導積層体1と第1の安定化層2Aの間の隙間を完全に充填できずに隙間を生じるおそれがあり、更に、半田を溶融させている間に被覆層7aの構成元素が拡散して第1の安定化層2AあるいはAgの保護層6との間に合金層を生成してしまうおそれがある。逆に、6μmを超える厚さにすると、半田付けする際、第2の安定化層2Bの第1の壁部2dおよび第2の壁部2fの端部側からはみ出す量が多くなる。このはみ出し量が多くなると、
図3を基に後述する製造方法によりこれらの外側に溶接で閉塞部2gを設けた場合、閉塞部2gが膨らんで溶接不良となるおそれがある。被覆層7a、7bは例えば、メッキ法により上述の厚さ範囲に形成できる。
被覆層7bの厚さは2〜10μmの範囲、より好ましくは2〜4μmの範囲とすることができる。
被覆層7bの厚さが2μm未満では、半田不足による貼り合わせ不良のおそれがある。
逆に、10μmを超える厚さにすると、半田がはみ出して異物となるおそれがある。
【0029】
図1に示す構造の酸化物超電導線材Aは、酸化物超電導積層体1の周囲を第1の安定化層2Aと第2の安定化層2Bで2重に覆った構造とされているので、防水性の高い構造とされている。また、酸化物超電導積層体1と第1の安定化層2Aの間に低融点金属の内部側被覆層7aが充填され、第1の安定化層2Aと第2の安定化層2Bとの間に低融点金属の外部側被覆層7bが充填されているので、第1の安定化層2Aと第2の安定化層2Bの間の隙間も閉じられていて、防水性が高い構造とされている。従って
図1に示す酸化物超電導線材Aは、外部から水分が浸入し難い構造となっている。
また、
図1に示す構造の酸化物超電導線材Aは、その全周を第2の安定化層2Bが覆った構造であり、外面に凹凸がないため、酸化物超電導線材Aをコイル巻き加工する場合、大きな段差を生じることがなく、コイル巻き加工時の巻き乱れを生じ難い特徴を有する。
【0030】
次に、
図1に示す酸化物超電導線材Aを製造する方法の一例について、
図3(a)〜
図3(f)を基に以下に説明する。
図3(a)に示すように基材3と中間層4と酸化物超電導層5と保護層6を積層したテープ状の酸化物超電導積層体1を用意するとともに、両面に低融点金属の被覆層8を被覆した金属テープ9を用意する。
図3(a)に示すように被覆層8、8を備えた金属テープ9を幅方向中央側から2つ折りに折り曲げてその内側に酸化物超電導積層体1を挟み込む。
図3(a)に示す例では便宜的に酸化物超電導積層体1の保護層6を下にして金属テープ9に挟み込む場合を例示しているが、酸化物超電導積層体1の保護層6を下に配置するか、上に配置するかは、いずれの向きでも良い。
【0031】
図3(b)に示すように酸化物超電導積層体1を金属テープ9で挟み込み、被覆層8の融点近くの温度に加熱して酸化物超電導積層体1と金属テープ9を溶融した被覆層8で仮接合すると酸化物超電導積層体1の両面を折り曲げ構造の第1の安定化層2Aで覆った構造にできる。
なお、酸化物超電導積層体1の基材3をハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)で形成した場合、ハステロイは半田で接合し難い材料である。しかし、AgまたはAg合金からなる保護層6をDCスパッタ装置やRFスパッタ装置などの成膜装置により形成すると、成膜装置のチャンバの内部でテープ状の基材3を走行させながら成膜するので、基材3の両側面と基材3の裏面に対し保護層6の成膜粒子が回り込むことでこれらの面にも保護層6の構成元素粒子が若干堆積される。基材3に前述のAg粒子の回り込み堆積が生じる場合、半田による基材3と金属テープ9の密着性の良好な接合が可能となる。
【0032】
次に、
図3(c)に示すように金属テープ10を幅方向中央側から2つ折りに折り曲げてその内側に先の第1の安定化層2Aで覆った酸化物超電導積層体1を挟み込む。この場合、第1の安定化層2Aについて、第1の壁部2aと第2の壁部2cの先端側を2つ折りに折り返した金属テープ10の折り返し部10aの内側に配置することが好ましい。
なお、
図3(c)に示す例では便宜的に酸化物超電導積層体1の保護層6を下にして金属テープ10に挟み込む場合を例示しているが、酸化物超電導積層体1の保護層6を下に配置するか、上に配置するかは、いずれの向きでも良い。
図3(d)に示すように第1の安定化層付きの酸化物超電導積層体1を金属テープ10で挟み込み、被覆層7a、7bの融点温度に加熱して酸化物超電導積層体1と金属テープ10を溶融した被覆層7bで接合すると酸化物超電導積層体1を折り曲げ構造の第1の安定化層2Aと第2の安定化層2Bで覆った構造とすることができる。
【0033】
なお、金属テープ10の幅においては第1の安定化層2Aの幅よりも若干幅広のテープとしておくことで、折り返した金属テープ10の開口端側には突出部10aが突き出す状態となり、第1の安定化層2Aの側壁2bの外側に開放部10bが形成されるので、この開放部10bを以下に説明するように閉塞することが好ましい。
【0034】
図3(e)に示すように金属テープ10の突出部10a、10aをレーザー溶接機でレーザービームを照射しつつ溶かしながら接合すると、
図3(f)に示すように金属テープ10の突出部10a、10aを溶融一体化させた閉塞部10cを形成できる。閉塞部10cは金属テープ10の突出部10a、10aをレーザー溶接により溶融させて形成したので、金属テープ10の開放部10bを閉じることができる。
以上の工程を経ることで、
図3(f)に示すように第1の安定化層2Aの全周を第2の安定化層2Bで覆った構造を得ることができ、
図1に示す構造と同等の酸化物超電導線材Aを得ることができる。
【0035】
図3(f)に示す構造であるならば、内側の被覆層8の溶融により形成した内部側被覆層7bが酸化物超電導積層体1と第1の安定化層2Aの間を完全に埋めるように溶融して拡がり、外側の被覆層8の溶融により形成した外部側被覆層7aは第1の安定化層2Aと第2の安定化層2Bの間を埋めるように溶融して拡がっているので、それらの間の間隙を充填した状態となり、密閉性の高い、耐水性の優れた酸化物超電導線材Aを得ることができる。
【0036】
なお、
図3(a)〜(f)に示す例では、第1の安定化層2Aを構成するための金属テープ9の折り返し方向と第2の安定化層2Bを構成するための金属テープ10の折り返し方向を互いに逆向きとして、金属テープ9、10で互い違いに酸化物超電導積層体1を挟んだ構造としたが、金属テープ9、10の折り返し方向は同じ方向であっても良い。
このように構成すると、金属テープ9、10の開放端が酸化物超電導積層体1の同じ端部側となるが、前述した最終工程で行うレーザー溶接により、突出部10a、10aを溶融させて形成する閉塞部10cの形成が完全であるならば、酸化物超電導線材Aの防水性能に不足は生じない。
ただし、酸化物超電導線材Aが長尺の構造である場合、酸化物超電導線材Aの全長にわたり、均一のレーザー溶接を確実にできるか否かが不明な場合がある。この場合は、
図3に示すように金属テープ9、10を互い違いの方向に折り曲げて酸化物超電導積層体1の両側面を安定化層2A、2Bの折り返し部でそれぞれ取り囲む構造とした方が、酸化物超電導積層体1の側面部分をより完全な密封構造とするために好ましい。