(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、めっき処理をする構造ではめっき部に欠陥があるとこの部分から水分が超電導層に侵入するので、多湿環境下では超電導特性が劣化するおそれがある。また、ハンダを重ねて製造する構造では、側面に充分な安定化層が形成されないため、水分が側面より超電導層に侵入するので、多湿環境下では超電導特性が劣化するおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、酸化物超電導積層体を折り曲げた安定化層により酸化物超電導層を包み込む構造として、水分の影響による酸化物超電導層の劣化を無くした酸化物超電導導体とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る酸化物超電導線材
の製造方法は、テープ状の基材と中間層と酸化物超電導層と導電性の保護層をこの順に積層してなる酸化物超電導積層体が、該酸化物超電導積層体の保護層から基材まで積層された一側面を残して周面を覆う横断面コ字状のテープ状安定化層と、前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出したそれぞれの前記テープ状安定化層の延出端部内で前記酸化物超電導積層体の一側面側に位置するともに前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法に対応する径寸法を有して前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出した前記テープ状安定化層の延出端部どうしに接合された安定化材細線と、により囲まれて密閉されてな
り、前記テープ状安定化層の延出端部と、前記安定化材細線とがハンダにより接合されてなる酸化物超電導線材を製造する方法であって、前記テープ状安定化層により前記酸化物超電導積層体の一側面を残して周面を横断面コ字状に覆う工程と、前記安定化材細線を前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出したそれぞれの前記テープ状安定化層の延出端部内に挿入する工程と、前記テープ状安定化層の延出端部と安定化材細線とを加熱・加圧により接合する工程とを有し、挿入する前記安定化材細線の径寸法が前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法より大きく設定されてなることを特徴とする。
本発明の請求項2に係る酸化物超電導線材
の製造方法は、テープ状の基材と中間層と酸化物超電導層と導電性の保護層をこの順に積層してなる酸化物超電導積層体が、該酸化物超電導積層体の保護層から基材まで積層された一側面を残して周面を覆う横断面コ字状のテープ状安定化層と、前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出したそれぞれの前記テープ状安定化層の延出端部内で前記酸化物超電導積層体の一側面側に位置するともに前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法に対応する径寸法を有して前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出した前記テープ状安定化層の延出端部どうしに接合された安定化材細線と、により囲まれて密閉されてな
り、前記テープ状安定化層の延出端部と、前記安定化材細線とがレーザ溶接部により接合されてなる酸化物超電導線材を製造する方法であって、前記テープ状安定化層により前記酸化物超電導積層体の一側面を残して周面を横断面コ字状に覆う工程と、前記安定化材細線を前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出したそれぞれの前記テープ状安定化層の延出端部内に挿入する工程と、前記テープ状安定化層の延出端部と安定化材細線とをレーザ溶接により接合する工程とを有し、挿入する前記安定化材細線の径寸法が前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法より小さく設定されてなることを特徴とする
。
【0009】
本発明の酸化物超電導線材においては、テープ状の基材と中間層と酸化物超電導層と導電性の保護層をこの順に積層してなる酸化物超電導積層体が、該酸化物超電導積層体の保護層から基材まで積層された一側面を残して周面を覆う横断面コ字状のテープ状安定化層と、前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出したそれぞれの前記テープ状安定化層の延出端部内で前記酸化物超電導積層体の一側面側に位置するともに前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法に対応する径寸法を有して前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出した前記テープ状安定化層の延出端部どうしに接合された安定化材細線と、により囲まれて密閉されてなるものであり、この酸化物超電導線材においては、酸化物超電導積層体の周面のうち3面をテープ状安定化層でまた1側面を安定化材細線によって密閉する。これにより、コ字状のテープ状安定化層と、この添付状安定化層の延出端部どうしと安定化材細線とを酸化物超電導積層体のサイド位置において接合することで密閉することになるので、酸化物超電導積層体に悪影響を与えることなく接合をおこなうことが可能となる。
【0010】
本発明の酸化物超電導線材においては、前記テープ状安定化層により前記酸化物超電導積層体の一側面を残して周面を横断面コ字状に覆う工程と、前記安定化材細線を前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出したそれぞれの前記テープ状安定化層の延出端部内に挿入する工程と、前記テープ状安定化層の延出端部と安定化材細線とを加熱・加圧により接合する工程とを有する製造方法によって、前記テープ状安定化層の延出端部と、前記安定化材細線とがハンダにより接合されてなることができ、これにより、少ない作業数で、延出端部と安定化材細線とを加熱・加圧するだけで酸化物超電導積層体への影響を低減しつつ密閉をおこなうことができる。
この際、挿入する前記安定化材細線の径寸法が前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法より大きく設定されてなることで、延出端部と前記安定化材細線とを接触させた状態で接合処理をおこなうことができ、接合における密閉度をより向上させることが可能となる。
なお、本発明において、挿入する前記安定化材細線の径寸法が前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法より「大きい」とは、折り曲げたテープ状安定化層の横断面形状がコ字状を維持できる程度で、延出端部の間に挿入可能な寸法を意味するものとする。
【0011】
本発明の酸化物超電導線材においては、前記テープ状安定化層により前記酸化物超電導積層体の一側面を残して周面を横断面コ字状に覆う工程と、前記安定化材細線を前記酸化物超電導積層体の幅方向外側に突出したそれぞれの前記テープ状安定化層の延出端部内に挿入する工程と、前記テープ状安定化層の延出端部と安定化材細線とをレーザ溶接により接合する工程とを有する製造方法によって、前記テープ状安定化層の延出端部と、前記安定化材細線とがレーザ溶接部により接合されてなることができ、これにより、少ない作業数で、延出端部と安定化材細線とを接合するだけで酸化物超電導積層体への影響を低減しつつ確実に密閉をおこなうことができる。
この際、挿入する前記安定化材細線の径寸法が前記酸化物超電導積層体の積層方向高さ寸法より小さく設定されてなることで、加熱・加圧時に酸化物超電導積層体の3面に接するテープ状安定化層表面等から移動してくるハンダなどに影響をうけることなく延出端部と安定化材細線とを接合し、かつ、接合における密閉度をより向上させることが可能となる。
【0012】
本発明において、前記安定化材細線の内面側にハンダ層が設けられて前記酸化物超電導積層体周面と接合されてなることや、安定テープ状安定化層の内面側にハンダ層が設けられて前記酸化物超電導積層体周面と接合されてなることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テープ状安定化層と安定化材細線とで酸化物超電導積層体の周囲を密閉するので、テープ状安定化層を横断面コ字状に加工するだけでテープ状安定化層のコ字状となる延出端部の加工をそれ以上おこなうことなく接合して作業工数を削減するとともに、密閉加工時における酸化物超電導積層体への影響を低減しつつ酸化物超電導積層体を密閉して超電導特性の劣化を防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における酸化物超電導線材を示す横断面図であり、図において、符号1は、酸化物超電導線材、符号10は、酸化物超電導線材1の一部を構成する超電導積層体であり、
図2は、超電導積層体10の斜視図であり、
図3は、本実施形態における酸化物超電導線材の製造方法の工程を示す横断面図である。
【0016】
本実施形態における酸化物超電導線材1は、
図1に示すように、テープ状の基材11と中間層14と酸化物超電導層16と導電性の保護層17をこの順に積層してなる酸化物超電導積層体10が、その周面を安定化層20により囲まれて密閉されてなる。
【0017】
図1に示すように、テープ状安定化層20は、酸化物超電導積層体10の周面に沿って断面コ字状に折り曲げたテープ状安定化層21と、安定化材細線22とを有している。テープ状安定化層21上には、後述するようにハンダ層23が形成されている。
テープ状の安定化層21は、
図3(a)に示すように、その内側となる片面の全面にハンダ層23が配置され、全体として平坦なシート状に形成されているものである。
テープ状安定化層21は、
図1に示すように、ハンダ層23が内側となるように、その幅方向の中間部を中心に折り曲げられて酸化物超電導積層体10の保護層17から基材11まで積層された一側面10aを残して周面を覆い、この酸化物超電導積層体10に沿った横断面コ字状とされ、酸化物超電導積層体10には、一側面10aよりも幅方向外側に延出された延出端部21a,21aが形成されている。この延出端部21a,21aは、超電導積層体10の他方の一面10aを越えて揃えた形状に幅方向外側に延出されている。
【0018】
安定化材細線22は、
図3(b)に示すように、酸化物超電導積層体10の積層方向高さ寸法に対応する径寸法22tを有し、その全面にハンダ層23が配置されている。
安定化材細線22は、酸化物超電導積層体10の幅方向外側に突出したそれぞれのテープ状安定化層21の延出端部21aに挟まれた内側位置で、かつ、酸化物超電導積層体10の一側面10a側部位置に配置される。
【0019】
安定化層20を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、Cu等の比較的安価なものを用いるのが好ましい。これにより、材料コストを低く抑えながら安定化層20による密閉度を向上することが可能となる。テープ状安定化層21の厚さは、20〜150μmが好ましく、50μm程度がより好ましい。安定化材細線22の径寸法は、後述するように酸化物超電導積層体10の積層方向高さ寸法よりも1割程度大きな径寸法22tを有し、延出端部21aに対して加圧変形により圧着されているとともに、ハンダ層23によって接合され閉塞されている。
ハンダ層23は、たとえば錫(Sn)や、Sn−Pb系、Pb−Sn−Sb系、Sn−Sb系、Sn−Pb−Bi系、Bi−Sn系、Sn−Cu系、Sn−Pb−Cu系、Sn−In系、Sn−Ag系、Sn−Pb−Ag系などのSn合金で形成され、その厚さは、2〜10μmが好ましく、6μm程度がより好ましい。
【0020】
本実施形態の超電導積層体10は、
図2に示すように、テープ状の金属基材11の上に、拡散防止層12、ベッド層13、中間層14、キャップ層15、酸化物超電導層16および保護層17をこの順に積層させて構成されている。
【0021】
本実施形態の超電導積層体10に適用できる金属基材11は、通常の超電導積層体の基材として使用でき、高強度で一定の柔軟性があればよく、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、ステンレス鋼、ハステロイ(登録商標、米国ヘインズ社製商品名)等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。なかでも、市販品であれば、ハステロイが好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。金属基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すればよく、通常は、10〜500μmである。金属基材11としてニッケル合金に集合組織を導入した配向Ni-W合金基材等を適用することもできる。
【0022】
ベッド層13は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層13は、必要に応じて配され、例えば、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3で示される希土類酸化物からなる、材料からなる単層構造あるいは複層構造とされる。このベッド層13の厚さは例えば10〜200nmである。
本実施形態においては、金属基材11とベッド層13との間に拡散防止層12が介在されているが、この拡散防止層12は必須の構成ではない。拡散防止層12は、金属基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、GZO(Gd
2Zr
2O
7)、アモルファス酸化アルミニウムAl
2O
3、イットリア(Y
2O
3)、窒化珪素(Si
3N
4)等からから構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
【0023】
このように金属基材11とベッド層13との間に拡散防止層12を介在させるのは、中間層14やキャップ層15及び酸化物超電導層16等の他の層を形成する際に、加熱されたり、熱処理されたりする結果として熱履歴を受けるが、そのときに金属基材11の構成元素の一部がベッド層13を介して酸化物超電導層16側に拡散することを抑制するためである。本実施形態のように、拡散防止層12とベッド層13の2層構造とすることで、金属基材11側からの元素拡散を効果的に抑制することができる。金属基材11とベッド層13との間に拡散防止層12を介在させる場合の例としては、拡散防止層12としてAl
2O
3、ベッド層13としてY
2O
3を用いる組み合わせを挙げることができる。
【0024】
中間層14は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層される酸化物超電導層16の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層14の好ましい材質として具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示することができる。
この中間層14をイオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、中間層14の上に形成するキャップ層15の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層15の上に成膜する酸化物超電導層16の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できるようにすることができる。
【0025】
中間層14の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.005〜2μmの範囲とすることができる。
中間層14は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された金属酸化物層は結晶配向性が高く、酸化物超電導層16やキャップ層15の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、下地の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO又はZrO
2−Y
2O
3(YSZ)からなる中間層14は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0026】
キャップ層15は、中間層14の表面に対してエピタキシャル成長し、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層15は、前記金属酸化物層からなる中間層14よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層15の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO
2、LMO(LaMnO
3)、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等が例示できる。キャップ層15の材質がCeO
2である場合、キャップ層15は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0027】
このキャップ層15の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、300nm以上であれば更に好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、300〜1000nmとすることが好ましい。
【0028】
酸化物超電導層16は公知のもので良く、具体的には、REBa
2Cu
3Oy(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、Y123(YBa
2Cu
3O
7−X)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
7−X)等、その他の酸化物超電導体、例えば、Bi
2Sr
2Can−1CunO
4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを例示できる。
酸化物超電導層16の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
酸化物超電導層16は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;塗布熱分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属塗布熱分解法)、PLD法又はCVD法を用いることができる。
【0029】
ここで前述のように、良好な配向性を有するキャップ層15上に酸化物超電導層16を形成すると、このキャップ層15上に積層される酸化物超電導層16もキャップ層15の配向性に整合するように結晶化する。よってキャップ層15上に形成された酸化物超電導層16は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層16を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、金属基材11の厚さ方向にc軸が配向し、金属基材11の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って、得られた酸化物超電導層16は、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、金属基材11の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0030】
酸化物超電導層16の上に積層されている保護層17は、Ag等の良電導性を有し、かつ酸化物超電導層16と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。保護層17は、良導電性の金属材料からなり、酸化物超電導層16が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、酸化物超電導層16の電流が転流するバイパスとして機能する。
これまで説明してきた超電導積層体10の各構成のうち、拡散防止層12、ベッド層13及びキャップ層15は必須の要素ではなく、超電導積層体10の設計条件により適宜用いられるものである。
【0031】
次に、本実施形態の酸化物超電導線材1の製造方法について説明する。
図4は、本実施形態の酸化物超電導線材1の製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態の製造方法は、テープ状安定化層21を折り曲げて酸化物超電導積層体10の周面を囲みコ字状とする横断面コ字状に覆う工程S1と、テープ状安定化層21の延出端部20a,20a内側に安定化材細線22を収容する挿入工程S2と、延出端部20a,20aと安定化材細線22とを接合する接合工程S3とを備えている。
【0032】
本実施形態の製造方法は、
図4に示す断面コ字状に覆う工程S1において、
図3(a)に示すように、ハンダ層23を有するテープ状安定化層21に酸化物超電導積層体10を保護層17側が接触するように配置する。ハンダ層23は、スズ(Sn)を含むものとされることができる。
この際、テープ状安定化層21の幅方向端部から後述の延出端部21aに対応する幅寸法ずらして酸化物超電導積層体10を配置して、酸化物超電導積層体10とテープ状安定化層21をハンダ層23の融点より高く加熱することで、線材位置を仮固定する。
図中右側となるテープ状安定化層21の長いほうの部分を仮固定された酸化物超電導積層体10に対して合わせて折り曲げ加工し、
図3(b)に示すように、テープ状安定化層21を酸化物超電導積層体10の周面と接触するようにコ字状にする。これにより、酸化物超電導積層体10の一面10aよりも幅方向に突出した延出端部21a、21aを形成する。
【0033】
次に、
図4に示す挿入工程S2において、
図3(c)に示すように、対向する延出端部21a、21aの間に酸化物超電導積層体10の一面10aと接するように、酸化物超電導積層体10の全長に亘って安定化材細線22を挿入する、安定化材細線22は酸化物超電導積層体10の積層方向寸法よりもすこし太いものを使用する。例えば、酸化物超電導積層体10の厚みに対し、安定化材細線22は1割程度太いものを使用することができる。また、安定化材細線22としては表面にハンダ層23が設けられているものを使用することができる。これにより、
図3(c)に示すように、延出端部21a、21aが互いに離間する方向(図中有上下方向)に微妙に変形する。ハンダ層23のない(Snメッキをしていない)安定化材細線22を使用してもよい。
【0034】
次に、
図4に示す接合工程S3において、このように、
図3(d)に示すように、酸化物超電導積層体10よりも若干太い安定化材細線22が延出端部21a、21aの間に配置された状態で、図示しない加熱ローラによってハンダ層23の融点程度以上に加熱しながら加圧して、安定化材細線22と延出端部21a、21aとを接合する。
この際、安定化材細線22と延出端部21a、21aとの表面にあるハンダ層23が加熱ローラによる加熱によって溶け、同時に、酸化物超電導積層体10の厚さ方向に加圧することで安定化材細線22が変形して延出端部21a,21aを接合するとともに、延出端部21a,21aが酸化物超電導積層体10と密着される。このとき、溶融したハンダ層23により、変形した安定化材細線22と延出端部21a,21aと酸化物超電導積層体10のスキマ部分を埋めるようになる。加熱ローラによる加熱・加圧を解除すると冷却されたハンダ層23は冷えて固まり、変形した安定化材細線22と延出端部21a,21aと酸化物超電導積層体10とハンダ層23とが一体化される。
これにより、酸化物超電導積層体10が1枚のテープ状安定化層21、安定化材細線22、ハンダ層23で密閉される酸化物超電導線材1が製造される。
【0035】
本実施形態によれば、酸化物超電導積層体10の積層方向寸法よりもすこし太い安定化材細線22をつぶしながらハンダ層23によって酸化物超電導積層体10が1枚のテープ状安定化層21、安定化材細線22を接続するので、酸化物超電導積層体10に高い圧力を与えることなく安定化材細線22を変形圧縮して、酸化物超電導積層体10を密閉し、水分の影響により超電導特性が劣化することのない構造を提供できる。
同時に、テープ状安定化層21と安定化材細線22とで酸化物超電導積層体10の周囲を密閉するので、テープ状安定化層21を断面コ字状に加工するだけでテープ状安定化層21の延出端部21aをさらに折り曲げ加工することなく接合して作業工数を削減するとともに、密閉加工時における酸化物超電導積層体10への影響を低減しつつ酸化物超電導積層体10を密閉して超電導特性の劣化を防止することができるという効果を奏する。
【0036】
これにより、テープ状安定化層21をコ字状に折り曲げるだけですむので、簡単な構造とすることができる。また酸化物超電導積層体10の一方の片側はテープ状安定化層21を折り曲げただけの構造なので、他方に位置するテープ状安定化層21のみを加工すればよい。この酸化物超電導積層体10の他方に位置する延出端部21a、21aは、酸化物超電導積層体10の厚さ寸法だけ並行に離間しているので密閉するためには加工が必要である。このような短いテープ状安定化層21である金属を曲げ加工するのは非常に難しいが、酸化物超電導積層体10の積層方向寸法よりもすこし太い安定化材細線22を挿入して接合することで、延出端部21a、21a間の隙間を閉塞する。テープ状安定化層21、および/または、安定化材細線22表面にハンダ層23を設けて、これを加熱・加圧することで、ハンダによりテープ状安定化層21、と安定化材細線22とを接合して密閉構造とすることができる。また、酸化物超電導積層体10表面にハンダ層23を設けることもできる。
また、以上の説明のように、簡単な構造で酸化物超電導積層体10を過度に加圧する必要がなく、超電導特性劣化を防止可能な酸化物超電導線材1を製造可能とすることができる。
【0037】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図5は、本実施形態における酸化物超電導線材を示す横断面図であり、図において、符号1は、酸化物超電導線材、符号10は、酸化物超電導線材1の一部を構成する超電導積層体であり、
図6は、本実施形態における酸化物超電導線材の製造方法の工程を示す横断面図である。
【0038】
本実施形態において、上述の第1実施形態と異なるのは、安定化材細線24、接合工程S3に関する部分のみであるので、それ以外の対応する構成要素には同一の符号を付してその説明を状略する。
【0039】
本実施形態における挿入工程S2においては、第1実施形態で挿入した安定化材細線22が酸化物超電導積層体10の積層方向寸法よりも太く設定されていたのに対し、
図6(b)(c)に示すように、本実施形態の安定化材細線24は、酸化物超電導積層体10の積層方向寸法と同じかそれよりも若干細く設定されている。
具体的には、本実施形態の安定化材細線24は、酸化物超電導積層体10の積層方向寸法に対し、1.0〜0.8程度に設定することができる。
【0040】
本実施形態における接合工程S3においては、ハンダが溶ける程度に加熱ローラによって加熱・加圧して、テープ状安定化層21と酸化物超電導積層体10とを固定する。このとき、
図6(d)に示すように、溶融したハンダ層23により、安定化材細線22と延出端部21a,21aと酸化物超電導積層体10のスキマ部分を埋めるようになる。加熱ローラによる加熱・加圧を解除すると冷却されたハンダ層23は冷えて固まり、安定化材細線22と延出端部21a,21aと酸化物超電導積層体10とハンダ層23とが一体化される。
【0041】
次いで、
図6(e)に示すように、一体化した安定化材細線22が入っている延出端部21a,21aを窒素雰囲気とするとともにレーザ照射して局所加熱をし、テープ状安定化層21と安定化材細線22とをレーザ溶接する。安定化材細線22の寸法設定から、テープ状安定化層21と安定化材細線22との間には隙間が少しあるがレーザ加熱で溶けた安定化材(銅)が隙間を埋めるように変形し一体化される。また、安定化材細線22の周囲のハンダ(Sn)はレーザ加熱で溶けるがテープ状安定化層21、安定化材細線22、酸化物超電導積層体10の隙間部分を埋めるように変形移動するため、テープ状安定化層21と安定化材細線22との溶接には影響しない。
【0042】
本実施形態においては、上述した第1実施形態と同様の効果を奏することができるとともに、さらに、レーザ溶接によりテープ状安定化層21と安定化材細線22とをより確実に密閉することが可能となるため、酸化物超電導積層体10が水分により影響を受けることをより一層防止できる。
【0043】
上述した第1,第2の実施形態においては、安定化材細線22を断面丸形状として説明したが、これ以外にも、
図7に示すように、酸化物超電導積層体10の積層方向寸法に対応する一辺の寸法を有する矩形断面の線材とすることや、同様に、
図8に示すように、酸化物超電導積層体10の積層方向寸法に対応する厚さ寸法を有するとともに、酸化物超電導積層体10の幅方向寸法がこれより大きくされたテープ状の細線を用いることが可能である。
図7に示す矩形断面の線材とした場合には、この線材22とテープ状安定化層21とが接続する面積を増大することにより密閉をより確実にすることができる。また、
図8に示すテープ状の細線22を使用した場合には、加熱ローラによる加工の際このテープ状線材の幅寸法が大きくなることで加圧による酸化物超電導積層体10への影響を低減することが可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
【0045】
<実施例1>
ハステロイC−276(米国ヘインズ社商品名)からなる幅10mm、厚さ100μmのテープ状の基材本体上に、スパッタ法によるAl
2O
3の拡散防止層(厚さ150nm)と、Y
2O
3のベッド層(厚さ30nm)と、IBAD法によるMgOの中間層(厚さ10nm)と、PLD法(パルスレーザー蒸着法)によるCeO
2のキャップ層(厚さ300nm)と、PLD法によるYBa
2Cu
3O
7−xで示される組成の酸化物超電導層(厚さ1.0μm)と、スパッタ法によるAgの保護層(厚さ11μm)を成膜したテープ状の酸化物超電導積層体を用意した。
【0046】
次いで、両面Snメッキとされたハンダ層付きの銅テープ(幅20.5mm、厚み20μm)に超電導積層体を配置する。Snメッキ付きの銅テープ端から0.2mmずらして配置して、超電導積層体と銅テープを加熱(240℃)することで、線材位置を仮固定する。次いで、仮固定された超電導積層体と銅テープの長いほうの銅テープ部分を線材に合わせて、コの字上に折り曲げ加工する。次いで、成型した超電導積層体で銅テープがコの字上になっている箇所に銅細線を入れる。銅細線は超電導積層体よりもすこし太いものを使用する。超電導積層体の厚みが0.11mmであるため、銅細線は110μmよりも太く120〜130μmのものを使用する。銅細線はSnメッキ(2〜4μm)したものを使用した(Snメッキをしていない銅細線を使用してもよい)。超電導積層体よりも若干太い銅細線が配置されたものを加熱ローラにて加熱(240℃)加圧することで、銅テープのSnと銅細線のSnを加熱により溶かし、同時に、銅細線が加熱により変形し、かつコの字状の銅テープが超電導積層体と密着されるように成型される。溶けたSnにより変形した銅細線と銅テープと超電導積層体のスキマ部分を埋める状態となる。加熱ローラを抜けた線材は冷えてSnが固まり、超電導積層体が一体化される。これにより、超電導積層体が1枚の銅テープ、銅細細線、溶けたSnで密閉される構造とした。
作製した線材を121℃、100%、2気圧の雰囲気中で100h保持したあとにIcを測定して、初期値と比較したがIcの劣化は起こらなかった。その結果を
図9に示す。
【0047】
<実施例2>
実施例1と同様に、超電導積層体(超電導線材10mm、ハステロイ基板100μm、Agスパッタ後の厚み11μm)を作製する。次いで、両面Snメッキとされたハンダ層付きの銅テープ(幅20.5mm、厚み20μm)に超電導積層体を配置する。Snメッキ付きの銅テープ端から0.2mmずらして配置して、超電導積層体と銅テープを加熱(240℃)することで、線材位置を仮固定する。次いで、仮固定された超電導積層体と銅テープの長いほうの銅テープ部分を線材に合わせて、コの字上に折り曲げ加工する。次いで、成型した超電導積層体で銅テープがコの字上になっている箇所に銅細線を入れる。銅細線は超電導積層体よりもすこし細いものを使用する。超電導積層体の厚みが0.11mmであるため、銅細線は110μmと同じ太さかそれよりも細い(90〜110μm)ものを使用する。銅細線はSnメッキ(2〜4μm)したものを使用した(Snメッキをしていない銅細線を使用してもよい)。超電導積層体よりも若干細い銅細線が配置されたものを加熱ローラにて加熱(240℃)加圧することで、銅テープのSnと銅細線のSnを加熱により溶かし、加圧により銅テープと超電導積層体を固定する。銅テープは超電導積層体よりも若干細いため、ほぼ変形することなく固定されている。溶けたSnは銅細線と銅テープの固定部分もしくは超電導積層体のスキマ部分を埋めるようになる。加熱ローラを抜けた線材は冷え、Snが固まり超電導積層体が一体化される。
【0048】
一体化した線材の銅細線が入っている端部をファイバーレーザ(波長1065μm、レーザ出力300W、スポット径20μm)を使用して、溶接速度10m/分、レーザ照射箇所を窒素雰囲気として局所加熱をして、銅テープと銅細線を溶接する。銅テープと銅細線箇所は隙間が少しあるがレーザ加熱で溶けた銅が隙間を埋めるように変形し一体化される。また、銅細線の周囲のSnはレーザ加熱で溶けるが銅テープ、銅細線、超電導積層体のスキマ部分を埋めるように変形移動するため、銅テープと銅細線の溶接には影響しない。
これにより、超電導積層体が1枚の銅テープと銅テープと銅細線が溶接された箇所で密閉される構造とした。
作製した線材を121℃、100%、2気圧の雰囲気中で100h保持したあとにIcを測定して、初期値と比較したがIcの劣化は起こらなかったその結果を
図9に示す。
【0049】
<比較例1>
実施例1で作製した超電導積層体に銅テープ(幅10mm,厚み20μm)をSnで貼り合わせた。
作製した線材を121℃、100%、2気圧の雰囲気中で100h保持したあとにIcを測定して、初期値と比較したがIcが劣化した
【0050】
<比較例2>
実施例1と同じように線材を加工し、銅細線を入れない状態で、加熱ローラにて加熱(240℃)、加圧し、成型する。
銅テープのSnと銅細線のSnが加熱ローラで溶け、超電導積層体を加圧することで銅テープと超電導積層体と密着されるように固定される。銅テープがコの字になっているので片側は密閉されているが片側は密閉されていない。
作製した線材を121℃、100%、2気圧の雰囲気中で100h保持したあとにIcを測定して、初期値と比較してIcが劣化した。その結果を
図9に示す。
【0051】
これらの結果から、本発明によれば、酸化物超電導積層体10が劣化せず、密閉されていることがわかる。