(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775887
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】焼結添加剤を用いて透明伝導性コーティングを形成する方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20150820BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20150820BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20150820BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20150820BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20150820BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20150820BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
B05D7/24 303C
B05D5/12 B
C09D5/24
C09D5/02
C09D7/12
H01B13/00 503B
H01B13/00 503C
H01B13/00 503D
H01B1/22 Z
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-556611(P2012-556611)
(86)(22)【出願日】2011年3月9日
(65)【公表番号】特表2013-527791(P2013-527791A)
(43)【公表日】2013年7月4日
(86)【国際出願番号】IB2011000765
(87)【国際公開番号】WO2011110949
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2014年2月26日
(31)【優先権主張番号】61/311,992
(32)【優先日】2010年3月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507082699
【氏名又は名称】シーマ ナノ テック イスラエル リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】イラナ ハイモフ
(72)【発明者】
【氏名】ニコライ ヤフラメンコ
(72)【発明者】
【氏名】ドフ ザミル
(72)【発明者】
【氏名】アルカディ ガーバー
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー レクートマン
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−281056(JP,A)
【文献】
特開2000−196287(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/034019(WO,A1)
【文献】
特表2005−531679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00− 7/26
C09D 1/00− 10/00
C09D 101/00−201/10
H01B 1/22
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、透明伝導性コーティングを基材に形成する方法:
(1)次の(a)及び(b)を共に混合することによってエマルションを形成する工程:
(a)金属ナノ粒子が分散されている、水と混和しない溶媒を含む油相、及び
(b)水又は水と混和する溶媒と、前記ナノ粒子を遅延焼結させるための添加剤とを含む水相、ここで、前記添加剤は、前記ナノ粒子を形成する金属の金属イオンの標準還元電位を、0.1V超であるが前記金属イオンの全還元電位未満の値だけ低下させる;
(2)前記エマルションを基材に適用して、ウェットコーティングを形成する工程;及び
(3)前記コーティングから液体を気化して、光に透明な不規則形状のセルを画定する導電性配線のネットワークを含むドライコーティングを形成する工程。
【請求項2】
前記ドライコーティングが、100Ω/□未満のシート抵抗を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ドライコーティングが、10Ω/□未満のシート抵抗を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記添加剤が、酸、ハロゲン化物、又は他のハロゲン化化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記添加剤を、0.001M〜0.1Mの濃度で前記水相に存在させる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤が、酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記酸が、塩酸、硫酸、酢酸、ギ酸、又はホスホン酸を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記添加剤が、ハロゲン化物である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、又は塩化カリウムを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水相のpHが、前記酸の添加後に3.0未満であり、かつ前記水相の全ての他の構成成分を添加した後に8.0超である、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
以下を含有する、基材に透明伝導性コーティングを形成するための、エマルションの形態である液体コーティング組成物:
(a)金属ナノ粒子が分散されている、水と混和しない溶媒を含む油相、及び
(b)水又は水と混和する溶媒と、前記ナノ粒子を遅延焼結させるための添加剤とを含む水相、ここで、前記添加剤は、前記ナノ粒子を形成する金属の金属イオンの標準還元電位を、0.1V超であるが前記金属イオンの全還元電位未満の値だけ低下させる。
【請求項12】
前記添加剤が、酸、ハロゲン化物、又は他のハロゲン化化合物である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記添加剤が、0.001M〜0.1Mの濃度で前記水相に存在している、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記添加剤が、酸である、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
前記酸が、塩酸、硫酸、ホスホン酸、酢酸、又はギ酸を含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記添加剤が、ハロゲン化物である、請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
前記ハロゲン化物が、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、又は塩化カリウムを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記ハロゲン化化合物が、第4級アンモニウム塩である、請求項12に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明伝導性コーティングの形成方法に関する。ここで、この透明伝導性コーティングは、少なくとも部分的に結合したナノ粒子で形成されている伝導性配線のパターンを有し、且つその伝導性配線が、光に透明な不規則形状のセルを画定している。より詳しくは、本発明は、ナノ粒子が自己組織化することによって、コーティングしたエマルションから伝導性配線に形成される透明伝導性コーティングの形成方法に関するものであり、ここでこの伝導性配線は、光に透明である不規則形状のセルを画定する。透明伝導性コーティングを形成するためのコーティング組成物も記載する。
【背景技術】
【0002】
透明伝導性コーティングは、様々な電子デバイスで有用である。これらのコーティングは、多くの機能、例えば電磁(EMI)遮蔽及び静電気散逸を与え、そしてそれらは、光透過性の伝導性層及び電極として、幅広い様々な用途に使用される。そのような用途としては、限定するものではないが、タッチスクリーンディスプレイ、ワイヤレス電子掲示板、光起電性デバイス、伝導性布地及び伝導性繊維、有機発光ダイオード(OLED)、エレクトロルミネセントデバイス、並びに電気泳動ディスプレイ、例えば電子ペーパーが挙げられる。
【0003】
透明伝導性コーティング、例えば特許文献1〜3に記載された透明伝導性コーティングは、エマルションから基材にコーティングして、そして乾燥させた伝導性ナノ粒子が自己組織化することにより形成される。コーティング工程の後に、このナノ粒子は、光に透明な不規則形状のセルのネットワーク状伝導性パターンに、自己組織化する。
【0004】
100Ω/□以下のオーダーの低いシート抵抗を達成するために、このコーティングは、通常はパターン形成後に焼結を必要とする。このような焼結は、熱処理単独で行うことができるが、その必要温度は、商業的なスケールのロールツーロールプロセスで望ましく用いられるフレキシブルのポリマー基材には、通常高すぎる。焼結を、別個の処理工程で化学的に行うことができる。例えば、形成したパターンを特定の化学洗浄剤又は蒸気に曝露して行うことができる。例としては、特許文献1及び2に開示されるような、酸曝露又はホルムアルデヒドの溶液若しくは蒸気への曝露、又は特許文献4に開示されるような、アセトン若しくは他の有機溶媒への曝露が挙げられる。このような別個の化学的処理工程は、商業スケールでの生産方法においては、コスト的に不利であり、かつ作業者に有毒な可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7566360号
【特許文献2】米国特許第7601406号
【特許文献3】国際公開WO2006/135735号
【特許文献4】国際出願PCT/US2009/046243号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明のプロセス及びコーティングは、ナノ粒子含有エマルションから低抵抗の透明伝導性コーティングを形成する際に、別個の化学的焼結工程の必要性を除外する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の工程を含む、透明伝導性コーティングを基材に形成するための方法が開示される:(1)次の(a)及び(b)を共に混合することによってエマルションを形成する工程:(a)金属ナノ粒子が分散されている、水と混和しない溶媒を含む油相、及び(b)水又は水と混和する溶媒と、上記ナノ粒子を遅延焼結(delayed sintering)させるための添加剤とを含む水相、ここで、この添加剤は、上記ナノ粒子を形成する金属の金属イオンの標準還元電位を、0.1V超であるがその金属イオンの全還元電位(full reduction potential)未満の値だけ低下させる;(2)上記エマルションを基材に適用して、ウェットコーティングを形成する工程;及び(3)上記コーティングから液体を気化して、光に透明な不規則形状のセルを画定する導電性配線のネットワークを含むドライコーティングを形成する工程。
【0008】
このコーティングのシート抵抗は、さらなる化学的焼結がされていない状態で、好ましくは100Ω/□未満であり、最も好ましくは10Ω/□未満である。
【0009】
この方法の好ましい実施態様において、遅延焼結させるための添加剤は、酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、若しくはギ酸;ハロゲン化物、例えば塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、若しくは塩化カリウム;ハロゲン化化合物、例えば第4級アンモニウム塩又はイオン性液体である。
【0010】
好ましい実施態様において、水又は水と混和する溶媒及び上記の遅延性焼結添加剤に加えて他の全ての成分を添加する前の水相のpHは、3.0未満であり、かつ油相と混合したときの水相のpHは、8.0超である。
【0011】
本発明は、透明伝導性コーティングを基材に形成するためのエマルションの形態の液体コーティング組成物も与える。これは、(a)金属ナノ粒子が分散されている、水と混和しない溶媒を含む油相、及び(b)水又は水と混和する溶媒と、上記ナノ粒子を遅延焼結させるための添加剤とを含む水相を含有する。ここで、この添加剤は、上記ナノ粒子を形成する金属の金属イオンの標準還元電位を、0.1V超であるがその金属イオンの全還元電位未満の値だけ低下させる。好ましいコーティング組成物では、上記の遅延焼結させるための添加剤は、酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、若しくはギ酸;ハロゲン化物、例えば塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、若しくは塩化カリウム;又はハロゲン化化合物、例えば第4級アンモニウム塩若しくはイオン性液体である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の方法及びコーティング材料を用いて、基材の表面に、透明伝導性コーティングを形成する。これは、少なくとも部分的に結合した金属ナノ粒子の集合体で形成されている伝導性配線パターンを有する。このような配線は、金属粒子を通常含まないセルを画定し、光に略透明である。そのような透明伝導層を含む物品は、上記の特許文献2に記載されており、この開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0013】
本明細書で用いる場合、用語「ナノ粒子」は、コーティングすることができ、かつ均一なコーティングを形成することができる範囲で液体に分散させるのに十分に小さな微細粒子を指す。この定義は、約3μm未満の平均粒子サイズを有する粒子を含む。例えば、いくつかの実施態様では、この平均粒子サイズは、1μm未満であり、またいくつかの実施態様では、この粒子は、少なくとも1つの寸法で0.1μm未満が測定される。
【0014】
語句「光に透明」とは、多くの場合、約400nm〜700nmの可視波長領域で30〜95%の光透過率を有することを意味する。
【0015】
金属ナノ粒子がその連続相に含まれる液体エマルションを用いて、透明伝導層を形成する。この連続相は、不連続相よりも早く気化し、これは制御された様式でエマルション液滴を合体させることによって、不連続相セルを成長させる。このエマルションを乾燥させることによって、光を透過する個々のセルを含むパターンを生じさせる。このセルは、配線によって取り囲まれており、この配線は、その光を透過させるセルよりも有意に少ない光を透過させる。このセル及び周囲の配線により形成されるパターンは、光学顕微鏡によって観察できるネットワーク状の特徴を有している。
【0016】
本発明による液体エマルションは、油中水型エマルションであり、その連続相は、ナノ粒子が分散された有機溶媒を含み、かつその不連続相は、水又は水と混和する溶媒、及び遅延焼結させるための添加剤を含む。このエマルションを配合するのに適切な溶媒は、特許文献1に開示されており、この開示は、参照により本明細書に組み込まれる。油相に好ましい有機溶媒の例としては、周囲条件で水の揮発速度よりも高い揮発速度を有する特徴のある有機溶媒が挙げられる。その溶媒を、限定しないが少なくとも次の群より選択することができる:石油エーテル、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、ベンゼン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、ジクロロメタン、ニトロメタン、ジブロモメタン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、UV硬化モノマー及び熱硬化モノマー(例えば、アクリレート)又はこれらの混合物。水相は、好ましくは水に基づくが、水と混和する溶媒も、単独で又は水と組合わせて用いてもよい。水と混和する溶媒の例としては、限定されないが、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセロール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン又はこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
このエマルション配合物の油相及び/又は水相に他の添加剤が存在してもよい。例えば、添加剤としては、限定されないが、反応性又は非反応性の希釈剤、酸素スカベンジャー、ハードコート成分、禁止剤、安定剤、着色剤、顔料、IR吸収剤、界面活性剤、湿潤剤、平滑化剤、流動性制御剤、チキソ性変性剤又は他のレオロジー変性剤、滑性化剤、分散助剤、消泡剤、保湿剤、及び防食剤が挙げられる。バインダー又は接着成分が配合剤中に存在してもよく、例えば熱活性若しくはUV活性バインダー又は接着助剤が挙げられる。
【0018】
この金属ナノ粒子を、伝導性金属又は金属の混合物で構成することができ、この金属の混合物としては、限定するものではないが、次の群より選択される金属の合金が挙げられる:銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、銅又はこれらの任意の組合せ。好ましい金属ナノ粒子としては、銀、銀−銅合金、銀パラジウム合金若しくは他の銀合金、又は米国特許第5476535号及び第7544229号に記載されている冶金化学プロセス(Metallurgic Chemical Process:MCP)として知られるプロセスで製造される金属又は金属合金が挙げられる。合金の場合では、「還元電位」とは、ナノ粒子の重量百分率で主たる金属に対応する金属イオンの還元電位を指す。
【0019】
金属ナノ粒子は、多くは伝導性ネットワークの配線の一部となるが、その必要はなくそれだけではない。上記の伝導性粒子に加えて、この配線は、他の追加の伝導性金属、例えば金属酸化物(例えば、ATO又はITO)若しくは伝導性ポリマー又はこれらの組合せを含んでもよい。これらの追加の伝導性材料を、様々な形態で供給してもよく、例えば限定しないが、粒子、溶液又はゲル状粒子の形態で供給してもよい。
【0020】
基本的なエマルション配合物は、特許文献1に記載されるように、エマルションを安定化するための乳化剤又はバインダーを含む。乳化剤の例としては、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤、例えば市販されているスパン−20、スパン−80、グリセリルモノオレエート及びドデシルスルファートが挙げられる。適切なバインダーの例としては、変性セルロース、例えばエチルセルロース(MW100,000〜200,000)、変性ウレア、例えばBYK Chemie Ltdから市販されているBYK−410、Byk−411、及びBYK−420が挙げられる。
【0021】
特許文献1に記載されるような基本的なエマルション配合物は、通常、40〜80%の有機溶媒又は有機溶媒の混合物、0〜3%のバインダー、0〜4%の乳化剤、2〜10%の金属粉体及び15〜55%の水又は水と混和する溶媒を含む。
【0022】
この混合物を、有機溶媒又は有機溶媒の混合物に乳化剤及び/又はバインダーを溶解し、そして金属粉体を添加することによって調製してもよい。この金属粉体を、超音波処理、高剪断攪拌、高速攪拌又は懸濁体の調製に通常用いられる他の任意の方法によって、有機相に分散させる。水相を添加した後、W/Oエマルションを超音波処理、高剪断攪拌、高速攪拌又はエマルションの調製に通常用いられる他の任意の方法によって調製する。
【0023】
本発明によって、この基本的なエマルション配合物を、エマルションの水相に遅延焼結添加剤を添加することによって変える。本明細書で用いる場合、用語「遅延」とは、エマルションを基材に適用した後に、その添加剤の存在に起因して実質的な量の焼結が起こることを意味する。
【0024】
上記の焼結添加剤は、ナノ粒子を形成する金属の金属イオンの標準還元電位を、0.1V超であるがその金属イオンの全還元電位未満の値だけ低下させる化合物又は化合物の混合物である。特定の理論に拘束されることを望まないが、遅延焼結は、少なくとも部分的には、伝導性ネットワークの特定の領域で金属イオン(M+)の形成を増やし、続いて比較的低い濃度のM+イオンを有する伝導性ネットワークの領域にM+イオンを拡散させ、この領域でそのイオンを還元してバルクの金属状態に戻すと考えられる。
【0025】
金属のナノ粒子、例えば銀のナノ粒子は、そのバルク金属とは異なる酸化還元電位を有している。これは化学的添加剤の使用によって、ナノ粒子の金属ネットワークの焼結を行うことを可能とするであろう。
【0026】
金属ナノ粒子の酸化還元電位は、ナノ粒子のサイズ、ナノ粒子の局所的な曲率半径、露出している粒子の特定の結晶相等によって様々となる。(定量的には、標準電位に関連する)中性の原子状態とイオン状態との間の特定のエネルギー障壁の大きさは、対応する金属イオンに換わる平衡状態の金属の度合いを決定づける。酸化によって、金属イオン(M+)は、水性環境に拡散してもよい。比較的多数のM+イオンが、電気的に連結した一連の金属ナノ粒子の一部に局所的に生成した場合、これらは比較的少ない数が生成した領域に拡散するであろう。例えば、非常に小さな半径の金属ナノ粒子の領域では、中性の局所的な化学反応を偏らせて、比較的高い濃度のM+イオンを作るであろうが、大きな半径の金属ナノ粒子の領域は、低い濃度のイオンを作る場合がある。小さな半径領域からのイオンが、比較的大きな半径の領域に拡散するにしたがって、比較的大きな半径領域の局所ポテンシャルは、バルクの金属状態に戻るイオンの続く還元を、不均衡に選好するであろう。この金属の系が、電気的輸送によって、新しい表面で入ってくるM+イオンを中性化する限り、この全体の流動は、小さな曲率半径の領域(鋭利な領域)からの金属のゆっくりとした総消費、及び低い曲率半径の領域(平坦な領域)での金属成長を伴って、無制限に続くことができる。通常、これは粒子間のギャップを埋めるので、弱く結合した金属ナノ粒子により良好な電気的接続をもたらすことができる。
【0027】
この系の酸化還元エネルギーを変更することで、このプロセスを速めることができる。バルク金属に対する系中のイオン種の量を増やすために、様々な化学物質を選択することができる。全体の酸化還元レベルが、非イオン状態となっている金属を強く選好する場合には、イオンは殆ど生成されず、ゆっくりとした焼結が起こるのみである。反対に、全体の酸化還元レベルが、イオンの形成のみに完全に偏らせるならば、最小限のバルク金属の再析出が起こり、かつ下地の金属が消費されるであろう(例えば、金属が事実上完全に消費される程度まで)。
【0028】
商業的に有用な速度での焼結を促進するために、小さな半径の領域で金属イオンの形成を増やし、かつ比較的大きな半径の領域でイオンから金属への酸化を導く焼結添加剤が選択されるべきである。焼結添加剤が、ナノ粒子を形成する金属の金属イオンの標準還元電位を、0.1V超であるがその金属イオンの全還元電位未満の値だけ低下させる場合には、これが通常起こるであろう。例えば、銀の場合、焼結添加剤は、Ag+の標準還元電位を、0.1V超であり、Ag+の全還元電位である0.8V未満の値だけ、低下させる。
【0029】
エマルション調製−供給−コーティング−パターン形成−焼結の全プロセスの間に、このプロセスは、不適当なときに起こる不必要な反応、例えばそのプロセス中の過度に早期の段階で起こる不必要な反応を防止するように調整する必要がある。例えば、意図した表面にコーティングする前に、銀ナノ粒子が、混合容器の内部でコーティング中の連結した凝集に発達が始まることは、望ましくない。ネットワークの形成後に焼結が最も強く起こることが好ましい。その点より前の焼結は、ナノ粒子を、意図するようなパターンの形成を妨げるサイズに成長させる場合がある。
【0030】
それゆえ、基材へのパターンの形成後に焼結をもたらし、かつ不必要な早期の焼結が起こるリスクを低減させる添加剤が選択されるべきである。エマルション調製、保存、輸送及びネットワーク形成段階を通じて、焼結が盛んに起こる場合には、ネットワーク形成前に金属ナノ粒子は成長して、凝集体又はマクロ粒子を形成するであろう。そして、エマルション環境中では比較的大きなサイズの粒子は異なって拡散及び移動することになるため、ネットワーク形成を妨げる場合がある。さらに、焼結を促進する添加剤は、エマルションを不安定化することによってパターン形成を乱す場合がある。良好なパターン形成には、表面張力、揮発性、粘度の様々なバランスが必要とされ、また化学的活性成分の添加が、パターン形成を悪化させる場合がある。最終的に、生産を容易にするために、添加剤は、このプロセスの間に(例えば、高い蒸気圧を有する)腐食性の副生成物が発生することによって生産設備又は人員にダメージを与えるリスクを、最小化させるべきである。
【0031】
好ましい焼結添加剤には、水相を有機相と混合する前に水相に添加される、非常に少ない量の酸、又はハロゲン化物若しくはハロゲン化化合物が含まれることを見出した。これらの材料を添加して得られるエマルションから形成し、続いて熱焼結したコーティングのシート抵抗は、Loresta MCP T610四端子プローブによって測定した場合、上記添加した酸、ハロゲン化物又はハロゲン化化合物を含まない水相を用いて調製したエマルションからのコーティングのシート抵抗よりも実質的に低い。多数の実験において、水相に酸、ハロゲン化物又はハロゲン化化合物を添加した場合に得られるシート抵抗は、この成分を含まないコーティングで得られるものよりも、約2桁小さくなることを見出した。この添加した成分が存在しない場合、約150℃で2〜3分の熱焼結の後のコーティングのシート抵抗は、100〜1000Ω/□のオーダーのシート抵抗となる。従来、続く化学物質の曝露工程又は続く一連の化学物質の曝露工程、例えば酸若しくはホルムアルデヒドの溶液又は蒸気への曝露工程、又はアセトン若しくは他の有機溶媒への曝露工程が、このようなコーティングのシート抵抗を10Ω/□以下のオーダーの値に低下させるために必要となる。本発明においては、後の化学物質の曝露工程の必要性がなく、これらの種類のエマルションを用いて、10Ω/□以下のオーダーのシート抵抗が通常に達成される。
【0032】
酸、ハロゲン化物又はハロゲン化化合物を、水相に存在する他の成分に対して、任意の順番で水相に添加することができる。適切な酸の例としては、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸及びギ酸が挙げられる。適切なハロゲン化物の例としては、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、及び塩化カリウムが挙げられる。適切なハロゲン化化合物の例としては、第4級アンモニウム塩及びイオン液体が挙げられる。水相に添加する酸、ハロゲン化物又はハロゲン化化合物の濃度は、好ましくは水相に対して0.001M〜0.1Mの範囲である。
【0033】
好ましい実施態様では、酸、ハロゲン化物又はハロゲン化化合物を、他の成分を水相に添加する前に、水相に添加する。他の好ましい実施態様では、この添加剤は、約0.008Mの濃度で水相に添加される酸であり、又は水相への他の成分の添加の前に水相のpHが3未満になるような濃度で添加される酸である。他の1つの好ましい実施態様では、この酸は、HClである。
【0034】
このエマルションがコーティングされる基材は、柔軟であっても硬くてもよく、ポリマー材料、ガラス、シリコン若しくは他の半導体材料、セラミック、紙又は布地等の材料で構成されていてよい。基材は、好ましくはポリマー材料、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、コポリマー、又はこれらの混合物である。基材は、平面を有していても曲面を有していてもよく、その表面は、滑面であっても粗面であってもよい。
【0035】
基材を直接用いてもよく、あるいは基材を前処理して用いてもよい。前処理は、例えば表面を清浄化するために、又は他の場合には接着性、適切な表面張力若しくは他の特性を改良する目的で変性するために行ってもよい。前処理を、物理的手段で行ってもよく、化学的手段で行ってもよい。物理的手段としては、限定されないが、コロナ処理、プラズマ処理、UV照射処理、熱処理、赤外若しくは他の放射処理、又は火炎処理が挙げられる。化学的前処理を、例えば酸、プライマー、又は他の予備コーティング、例えばハードコートコーティングを用いて行うことができる。例えば、基材は、スクラッチ及びダメージに対する力学的抵抗を与えるために適用されるハードコート層を有してもよい。基材を前処理する方法のより詳細な開示は、PCT.US2009/046243で見つけられる。
【0036】
前処理工程を、後のコーティング工程、印刷工程、及び堆積工程の直前に、非直結式で又は直結式で行うことができる。そのような基材の物理的処理を、バッチ式プロセス装置又は連続式コーティング装置によって行うことができる。これは、ロールツーロールプロセスを含む、小さな実験室スケール又はより大きな産業的スケールで行うことができる。
【0037】
コーティング、スプレー、又は他の堆積方法によって、エマルションを基材に堆積させることができる。バッチ式のコーティング装置又は連続式のコーティング装置によって、ロールツーロールプロセスを含む、小さな実験室スケール又はより大きな産業的スケールで、コーティングを実行することができる。このコーティング器具は、本分野で知られる任意の様々な接触式コーター又は非接触式コーターで行うことができ、例えばコンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター、ナイフコーター、ロッドコーター、押出コーター、カーテンコーター又は任意の他のコーティング機器若しくは計測機器によるコーティングで行うことができる。コーティングは、シングルパスプロセス又はマルチパスプロセスを含んでもよい。本発明の1つの実施態様によれば、表面にエマルションをコーティングする工程は、1〜200μmのウェットのエマルション膜厚を与える。
【0038】
エマルションを基材に適用した後、熱を適用して又は熱を適用しないで、溶媒を気化する。液体をエマルションから除去するとき、ナノ粒子は、光に透明な不規則形状のセルを画定している伝導性配線のネットワーク状のパターンに自己組織化する。このパターンの基材への接着性を向上させるために、約150℃での2分程の熱処理が多くの場合で用いられる。
【0039】
この改良した方法及び組成物は、限定しないが、EMI遮蔽、静電気散逸、透明電極、タッチスクリーン、ワイヤレス電子掲示板、光起電性デバイス、伝導性布地及び伝導性繊維、ディスプレイのスクリーン、有機発光ダイオード、エレクトロルミネセントデバイス、並びに電子ペーパー等の用途で有用となる場合がある。
【実施例】
【0040】
例1
比較例として、酸、ハロゲン化物又はハロゲン化化合物を水性相に添加していない、以下の配合を有するエマルションを調製した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
この配合物は、5重量%の合計金属含有量に相当する。PET基材(SH34、SKC Corp.)に、40μmのウェットのコーティング膜厚でこのエマルションをコーティングした後、空気中で乾燥させ、2分間150℃で熱処理したところ、得られたコーティングの抵抗は、ESP−型の四端子プローブを備えたLoresta GP抵抗計で測定した場合に、270Ω/□であった。このようなフィルムを、1MのHCl溶液に30〜60秒間浸漬させ、続いて約30秒、水で濯ぐことでさらに処理した場合、シート抵抗は、2〜10Ω/□の範囲の値に低下する。
【0044】
例2
例1と同じ有機層を有するエマルションを調製した。塩酸(HCl)を水に0.008Mの濃度で添加することで、水性相を例1から変えた。
【0045】
【表3】
【0046】
酸を添加した水のpHは、2.25であった。続いて、SDS及び2−アミノブタノールと混合した後、水性相のpHは10.0となった。そして、水性相を有機層と混合して、エマルションを形成した。光学グレードのPET基材(Skyrol SH34、SKC Corp.、韓国)に、40μmのウェットのコーティング膜厚でこのエマルションをコーティングした後、空気中で乾燥させ、2分間150℃で熱処理したところ、得られたコーティングの抵抗は、例1と同じLoresta GP抵抗計で測定した場合に、3.5〜4Ω/□であった。透過率は、Cary 300 UV−Vis分光光度計で370〜770nmの範囲で測定した場合に、70.5%であった。基材にプライマー層は必要ではなく、基材への良好な接着性が得られた。
【0047】
例3
ロールツーロールのコーティング装置を用いた産業規模のパイロットランにおいて、上記の例2の配合物は、縦方向(MD:machine direction)及び横方向(TD:transverse direction)でそれぞれ3.6Ω/□及び3.5Ω/□の平均シート抵抗を有するフィルムを与えた。このプロセスでは、6m/分の速度で動く入手したままのSH34 PET基材に、コーティングダイから62ml/分の割合でエマルション配合物を供給した。コーティングしたフィルム中の有機溶媒を気化させる5mのゾーンにさらした後、コーティングしたフィルムを、共に4.5mの2つの連続した加熱ゾーンを有する直結式の連続オーブンに自動的に供給した。第一の加熱ゾーンの温度を130℃に調整し、第二の加熱ゾーンの温度を140℃に調整した。同じ直結プロセスの一部として、得られるフィルムをロールに自動的に捲回した。
【0048】
このフィルムの次の試験では、光透過率が68%であることを示した。Image−Pro Plus 4.1画像ソフトウェアを補助で用いて測定した場合に、コーティングしたパターン中の不規則セルの平均セル直径は、143μmであり、平均線幅は、15.8μmであった。基材へのコーティングの接着性を、人差し指でフィルムを擦って確認したところ、接着性は良好であることが分かった。この方法は、基材への予備的なプライマーコーティング、又は基材の他のプレコート処理を必要とせず、また非常に低いシート抵抗を得るためのコーティング後の化学的洗浄処理工程も必要としない。それゆえ、このコーティングを適用するための方法は、非常に効果的なワンパスワンコーティングプロセスである。
【0049】
同じ装置及び同じエマルション配合物を用いて、入手したままのSKC SH34 PET基材の他の1つのサンプルをコーティングした。このランでは、80ml/分の割合でエマルションをコーティングダイに供給し、かつ装置のライン速度を10m/分にした。続いて、上述したものと同じ気化ゾーン及びオーブンゾーンにさらし、仕上げロールへと直結式のロール化をした後、得られたフィルムは、MD及びTDで、それぞれ5.9Ω/□及び5.5Ω/□の平均シート抵抗を有していた。得られたコーティングパターンの平均セル直径は、107μmであり、セルの平均線幅は、13.4μmであった。
【0050】
例4
酸がHClの代わりにH
2SO
4であったこと、及び添加した酸の量が、水と酸との溶液のpHが2.25となるような量であったことを除いて、例2と同様にエマルションを調製した。最終の水性相のpHは、9.2であった。上述の例1及び2と同じコーティング処理、乾燥処理、及び熱処理の後に、コーティングしたフィルムの抵抗は、33Ω/□であった。
【0051】
例5
酸がHClの代わりにH
3PO
4であったこと、及び添加した酸の量が、水と酸との溶液のpHが2.25となるような量であったことを除いて、例2と同様にエマルションを調製した。最終の水性相のpHは、8.3であった。上述の例1及び2と同じコーティング処理、乾燥処理、及び熱処理の後に、コーティングしたフィルムの抵抗は、23Ω/□であった。
【0052】
例6
添加した酸の量が、水と酸との溶液のpHが2.0となるような量であったことを除いて、HClを水相に含有させて例2と同様にエマルションを調製した。最終の水性相のpHは、8.9であった。上述の例1及び2と同じコーティング処理、乾燥処理、及び熱処理の後に、コーティングしたフィルムの抵抗は、9〜12Ω/□であり、透過率は73%であった。
【0053】
例7
HClの代わりに、NaClハロゲン化物塩を0.008Mの水準で水相に添加したことを除いて、例2と同様にエマルションを調製した。水性相の最終のpHは、10.0であった。上述の例1及び2と同じコーティング処理、乾燥処理、及び熱処理の後に、コーティングしたフィルムの抵抗は、25Ω/□であり、透過率は69%であった。エマルションを0.01Mの水中のNaCl濃度で調製した場合、例1及び2と同様に行った乾燥処理及び熱処理によって得られるフィルムの抵抗は、3.5〜4Ω/□であり、透過率は67%であった。
【0054】
例8
HClの代わりに、NH
4Clハロゲン化物塩を0.008Mの水準で水相に添加したことを除いて、例2と同様にエマルションを調製した。水性相の最終のpHは、9.6であった。上述の例1及び2と同じコーティング処理、乾燥処理、及び熱処理の後に、コーティングしたフィルムの抵抗は、2.5Ω/□であり、透過率は70%であった。
【0055】
例9
HClの代わりに、KClハロゲン化物塩を0.008Mの水準で水相に添加したことを除いて、例2と同様にエマルションを調製した。水性相の最終のpHは、9.5であった。上述の例1及び2と同じコーティング処理、乾燥処理、及び熱処理の後に、コーティングしたフィルムの抵抗は、5Ω/□であり、透過率は67%であった。