(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(OLED)をベースとするディスプレイは、その特定の性質の故に、液晶(LCD)の確立された技術に代わるものである。この新しい技術は、特に、電源プラグに接続しない携帯装置、例えば携帯電話、ポケットベルおよびおもちゃを含む用途において特に有利である。
OLEDの利点は、非常にフラットな構成、光自体を発生させる性質、即ち液晶ディスプレイ(LCD)のような追加の光源を必要としない性質、高い発光効率および視角の自由を含む。
【0003】
しかしながらディスプレイに加えてOLEDは、採光目的のために、例えば大領域放射エミッターにおいて使用することもできる。その非常にフラットな構成の故にそれらを、従来不可能であった非常に薄い発光要素を構成するために使用することができる。OLEDの発光効率は、今や、熱放射エミッター、例えば白熱電球のものを超え、発光スペクトルは、原則、エミッター物質の適切な選択により望ましいように変えることができる。
OLEDディスプレイまたはOLED採光要素のいずれも、フラットな硬質構成に限定されない。柔軟な、またはあらゆる様式で曲げられる装置も、有機機能層の柔軟性の故に実現することができる。
【0004】
有機発光ダイオードの1つの利点は、その単純な構造にある。この構造物は、通常以下のように製造される:透明電極が、透明キャリヤ、例えばガラスまたはプラスチックフィルムに適用される。この後に、少なくとも1つの有機層(エミッター層)または積み重ねの有機層が連続して適用される。金属電極が最後に適用される。
有機太陽電池(OSC)は、基本的に同じ構造を有するが(Halls ら, Nature 1995, 376, 498)、ここでは反対に、光が電気エネルギーに変換される。
【0005】
これらの新しい電気光学構造物の経済的成功は、技術的要求の実現だけでなく、実質上製造コストに依存する。それゆえ製造の複雑さおよび製造コストを減少させる単純な加工工程が、非常に重要である。
TCO(透明導電性酸化物)層、例えばインジウム-スズ酸化物(ITO)またはアンチモン-スズ酸化物(ATO)の層、または金属の薄層は、従来、OLEDまたはOSCにおける透明電極として伝統的に使用された。これらの無機層の付着は、減圧下での無機物質のスパッタリング、反応性表面噴霧(反応スパッタリング)、または熱蒸着によるものであり、それゆえ複雑で費用がかかった。
【0006】
ITO層は、OLEDまたはOSCの製造における重要なコスト要因である。ITO層は、その高い導電率および高い透過率の故に使用される。しかしながらITOは、以下の無視できない欠点を有する:
a)ITOは、複雑で費用のかかる減圧法(反応スパッタリング)でしか付着させることができない。
b)T>400℃の温度が、高導電率を達成させるために、付着法の際に要求される。特に柔軟なディスプレイに重要なポリマー基材は、この温度に耐えることができない。
c)ITOはもろく、造形中に亀裂を生ずる。
d)インジウム金属は、限定された量でしか生産されない原料であり、消費量が増大するにつれ欠乏が予想される。
e)重金属のインジウムを含有する電気光学構造物の環境的に許容できる廃棄の問題は、まだ解決されていない。
【0007】
これらの欠点にも関わらずITO層はまだ、その光吸収に対する導電率の有利な比、および特に適当な代替物の不存在を理由に使用されている。高導電率は、電動構造物の透明電極に対する低い電圧降下を維持するために要求される。
電極物質のためのITOの代替物は、これまでも議論されてきたが、上記欠点を有さず、同時に同等に良好な性質を電気光学構造物にもたらす代替物は、まだ見出されていない。
【0008】
例えば、モノマーを基材上にインサイチューで重合させて導電層を形成したポリマーITO代替品、例えばインサイチュー重合されたポリ(3,4-エチレンジオキシ)チオフェン(専門家によりインサイチューPEDTとも略される。)が記載されている(国際公開第96/08047号)。しかしながら、基材上への加工が困難であると同時に、これらのインサイチューPEDT層は、特にOLED用途において、第1に該物質が強烈な固有の色を有し、第2に実現できる発光効率が低いという欠点を有する。
【0009】
また、ポリエチレンジオキシチオフェンおよびポリスチレンスルホン酸の錯体(専門家により、PEDT/PSAまたはPEDT:PSAとも略される。)は、ポリマーITO代替品として提案されている(欧州特許出願公開第686 662号、Inganaes ら, Adv. Mater. 2002, 14, 662-665、Lee ら, Thin Solid Films 2000, 363, 225-228、W. H. Kim ら, Appl. Phys. Lett. 2002, 第80巻, 第20号, 3844-3846)。しかしながら、1:2.5のようなPEDT:PSA(重量%)比を有する組成物から製造されたPEDT:PSA層の導電率は、特に高くはなく、例えば、水性PEDT:PSA分散体(H. C. StarckからBaytron(登録商標)Pとして商業的に入手可能)については約0.1S/cmであり、ITOの5,000〜10,000S/cmに対する望ましい値からは程遠い。例えば、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ソルビトール、エチレングリコールまたはグリセロールのような添加剤を、水性PEDT/PSA分散体に添加することによって、導電率を約50S/cmまで上昇させることができるが、ITOの値よりはなお低い。更に、これらの組成物がその粗い粒子構造の故に比較的粗い層表面を生ずるという事実が、多くの電気光学用途におけるITO代替品としてのこれらの層の使用を妨げる。従って、特に表面粗さによる短絡に敏感な用途、例えばOLEDおよびOSCにおいて、これらの層は適当ではない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般式(I)は、x個の置換基Rが、アルキレン基Aと結合することができることを意味すると理解されるべきである。
【0017】
一般式(I)で示される反復単位を有するポリチオフェンは、好ましくは、一般式(Ia):
【化2】
[式中、Rおよびxは、上で示した意味を有する。]
で示される反復単位を有するものである。
【0018】
ポリチオフェンは、特に好ましくは、一般式(Iaa):
【化3】
で示される反復単位を有するものである。
【0019】
本発明の好ましい実施態様において、ポリチオフェンは、一般式(I)、好ましくは一般式(Ia)、特に好ましくは一般式(Iaa)で示される反復単位を有するものである。
【0020】
本発明において接頭辞ポリは、1つよりも多い同じまたは異なる反復単位が、ポリマーまたはポリチオフェン中に含有されることを意味すると理解される。ポリチオフェンは、一般式(I)で示されるn個の反復単位合計を含有し、特にnは、2〜2,000、好ましくは2〜100の整数であり得る。一般式(I)で示される反復単位は、ポリチオフェン中において同じまたは異なり得る。一般式(I)、好ましくは一般式(Ia)、特に好ましくは一般式(Iaa)で示される同じ反復単位を有するポリチオフェンが好ましい。
【0021】
末端基でポリチオフェンは、それぞれ好ましくはHを有する。
特に好ましい実施態様において、一般式(I)で示される反復単位を有するポリチオフェンは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、即ち式(Iaa)で示される反復単位を含むホモポリチオフェンである。
【0022】
第1層を製造するための分散体は、好適には、その粒子の50重量%が40nm未満、好ましくは30nm未満のものである。
【0023】
粒度分布は、H. G. Mueller; Progr. Colloid Polym. Sci. 127 (2004) 9-13 に記載されているように、分析用超遠心器を用いて測定される。
【0024】
導電率を増加させる添加剤を1種以上、特に好ましくは、第1層を製造するための分散剤に添加する。その例を以下に記載する:例えばテトラヒドロフランのようなエーテル基含有化合物、例えばγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンのようなラクトン基含有化合物、例えばカプロラクタム、N-メチルカプロラクタム、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルホルムアミド、N-メチルホルムアニリド、N-メチルピロリドン(NMP)、N-オクチルピロリドン、ピロリドンのようなアミドまたはラクタム基含有化合物、例えばスルホラン(テトラメチレンスルホン)、ジメチルスルホキシド(DMSO)のようなスルホンおよびスルホキシド、例えばスクロース、グルコース、フルクトース、ラクトースのような糖または糖誘導体、例えばソルビトール、マンニトールのような糖アルコール、例えば2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸のようなフラン誘導体、および/または例えばエチレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコールまたはトリエチレングリコールのようなジアルコールまたはポリアルコール。テトラヒドロフラン、N-メチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドまたはソルビトールが、導電率増加添加剤として、好ましくは使用される。ジメチルスルホキシドが特に好ましい。該添加剤は、好ましくは、第1層を製造するための分散体に、分散体の総重量に基づいて、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%、特に好ましくは少なくとも1重量%の量で添加される。
【0025】
有機正孔注入物質は、ポリマー物質または低分子量物質であり得、後者は、専門家には小分子物質とも称されている。ポリマー正孔注入材料の適当な例は、下記化合物を含む:ポリチオフェン、ポリアニリン、例えばポリアニリン/カンファースルホン酸(PANI-CAS)(G. Gustafsson ら, Nature 357 (1992) 477)、ポリフェニルアミン、例えばテトラフェニルジアミンを含みトリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネートでドープされたポリ(アリーレンエーテルスルホン)(PTPDES:TBPAH)(A. Fukase ら, Polym. Adv. Technol. 13 (2002) 601)またはポリ(2,7-(9,9-ジ-n-オクチルフルオレン)-アルト-(1,4-フェニレン-((4-sec-ブチルフェニル)イミノ)-1,4-フェニレン))(TFB)(J. S. Kim ら, Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 23506)、フッ素化ポリマー(L. S. Hung, Appl. Phys. Lett. 78 (2001) 673)およびこれら化合物の混合物。
【0026】
好ましいポリマー正孔注入材料は、一般式(II-a)および/または(II-b):
【化4】
[式中、
Aは、任意に置換されていてよいC
1〜C
5アルキレン基、好ましくは任意に置換されていてよいC
2〜C
3アルキレン基を表し、
Yは、OまたはSを表し、
Rは、直鎖または分枝の任意に置換されていてよいC
1〜C
18アルキル基、任意に置換されていてよいC
5〜C
12シクロアルキル基、任意に置換されていてよいC
6〜C
14アリール基、任意に置換されていてよいC
7〜C
18アラルキル基、任意に置換されていてよいC
1〜C
4ヒドロキシアルキル基またはヒドロキシル基を表し、
xは、0〜8の整数、好ましくは0または1を表し、
複数のR基がAと結合している場合、それらは、同じまたは異なるものであり得る。]
で示される反復単位を有する任意に置換されていてよいポリチオフェンであり、場合により少なくとも1種のポリマーアニオンも含む。
【0027】
一般式(II-a)で示される反復単位を有するポリチオフェンは、好ましくは、一般式(II-a-1)および/または(II-a-2):
【化5】
[式中、Rおよびxは、上で示した意味を有する。]
で示される反復単位を有するものである。
【0028】
これらは、特に好ましくは、一般式(II-aa-1)および/または(II-aa-2):
【化6】
で示される反復単位を有するポリチオフェンである。
【0029】
特に好ましい実施態様において、一般式(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有するポリチオフェンは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンオキシチアチオフェン)またはポリ(チエノ[3,4-b]チオフェン)、換言すれば、式(II-aa-1)、(II-aa-2)または(II-b)で示される反復単位を有するホモポリチオフェンである。
【0030】
更に好ましい実施態様において、一般式(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有するポリチオフェンは、式(II-aa-1)と(II-aa-2)、式(II-aa-1)と(II-b)、式(II-aa-2)と(II-b)、または式(II-aa-1)と(II-aa-2)と(II-b)で示される反復単位からなるコポリマーであり、式(II-aa-1)と(II-aa-2)、並びに式(II-aa-1)と(II-b)で示される反復単位からなるコポリマーが好ましい。
【0031】
本発明の範囲内においてC
1〜C
5アルキレン基Aは、メチレン、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレンまたはn-ペンチレンである。本発明においてC
1〜C
18アルキルは、直鎖または分枝C
1〜C
18アルキル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル若しくはイソプロピル、n-、イソ-、sec-若しくはt-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1-エチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルへキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシルまたはn-オクタデシルを表し、C
5〜C
12シクロアルキルは、C
5〜C
12シクロアルキル基、例えばシクロペンチル、シクロへキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルを表し、C
5〜C
14アリールは、C
6〜C
14アリール基、例えばフェニルまたはナフチルを表し、C
7〜C
18アラルキルは、C
7〜C
18アラルキル基、例えばベンジル、o-、m-、p-トリル、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、3,5-キシリルまたはメシチルを表す。前記のリストは、例として本発明を説明するために使用され、決定的なものとみなされるべきではない。
【0032】
多くの有機基、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、ハロゲン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホネート、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、カーボネート、カルボン酸塩、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシラン基並びにカルボキシアミド基が、C
1〜C
5アルキレン基Aのための任意の更なる置換基として適当である。
【0033】
好ましいポリマーアニオンの例は、ポリマーカルボン酸、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸若しくはポリマレイン酸、またはポリマースルホン酸、例えばポリスチレンスルホン酸およびポリビニルスルホン酸のアニオンである。これらのポリカルボン酸およびポリスルホン酸はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸と、他の重合性モノマー、例えばアクリル酸エステルおよびスチレンとのコポリマーであり得る。
対イオンとしてポリスチレンスルホン酸(PSA)のアニオンが、ポリマーアニオンとして特に好ましい。
【0034】
上記したものに加えて、SO
3-M
+またはCOO
-M
+基を含む特にフッ素化またはパーフッ素化されたポリマーも、特に一般式(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有するポリチオフェンと組み合わると、第2電極層のためのポリマーアニオンとして適当である。このようなSO
3-M
+またはCOO
-M
+基を含む特にフッ素化またはパーフッ素化されたポリマーは、例えば、商業的に入手可能なNafion(登録商標)であり得る。ポリスチレンスルホン酸(PSA)のアニオンとNafion(登録商標)の混合物は、第2電極層のためのポリマーアニオンとしても適している。
【0035】
ポリアニオンを与えるポリ酸の分子量は、好ましくは1,000〜2,000,000、特に好ましくは2,000〜500,000である。ポリ酸またはそのアルカリ塩は、市販されている、例えばポリスチレンスルホン酸およびポリアクリル酸であるか、または既知の方法により製造することができる(例えばHouben Weyl, Methoden der organischen Chemie, 第E20巻 Makromolekulare Stoffe, 第2部, (1987), 第1141頁を参照)。
【0036】
ポリチオフェンは、中性またはカチオン性であり得る。好ましい実施態様において、それらはカチオン性である。「カチオン性」は、単にポリチオフェン主鎖上に位置する電荷を指す。R基上の置換基に応じて、ポリチオフェンは、正および負の電荷を構造単位中に帯びることができ、正電荷は、ポリチオフェン主鎖上に位置し、負電荷は、任意に、スルホネートまたはカルボキシレートの基により置換されているR基上に位置する。この場合にポリチオフェン主鎖の正電荷を、部分的または全体的に、R基上に任意に存在するアニオン性基により補うことができる。全体的に見て、これらの場合のポリチオフェンは、カチオン性、中性、またはアニオン性でさえあり得る。それにもかかわらずそれらは、全て、本発明の範囲内においてカチオン性ポリチオフェンとして考察される。なぜならポリチオフェン主鎖上の正電荷が重要だからである。正電荷は、式中に示されていない。なぜならそれらの正確な数および位置を、完全に確定することができないからである。しかしながら正電荷数は、少なくとも1および多くてnであり、nは、ポリチオフェン中における全ての反復単位(同じまたは異なるもの)の総数である。
【0037】
正電荷を補うために、これが、任意にスルホネートまたはカルボキシレートで置換され、そのために負に帯電したR基の結果として既になされていない場合に、カチオン性ポリチオフェンは、対イオンとしてアニオンを必要とする。
対イオンは、モノマーまたはポリマーアニオンであり得、後者は以下でポリアニオンとも呼ばれる。
【0038】
ポリマーアニオンは、上で列挙したものを含む。適当なモノマーアニオンは、例えばC
1〜C
20アルカンスルホン酸、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン若しくは高級スルホン酸、例えばドデカンスルホン酸のアニオン、脂肪族パーフルオロスルホン酸、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸若しくはパーフルオロオクタンスルホン酸のアニオン、脂肪族C
1〜C
20カルボン酸、例えば2-エチルへキシルカルボン酸のアニオン、脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸若しくはパーフルオロオクタン酸のアニオン、任意にC
1〜C
20アルキル基により置換されている芳香族スルホン酸、例えばベンゼンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはドデシルベンゼンスルホン酸のアニオン、およびシクロアルカンスルホン酸、例えばカンファースルホン酸のアニオン、またはテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、パークロレート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセナート若しくはヘキサクロロアンチモネートを含む。
【0039】
p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸またはカンファースルホン酸のアニオンが、特に好ましい。
電荷補償のために対イオンとしてアニオンを含有するカチオン性ポリチオフェンは、しばしば専門家により、ポリチオフェン/(ポリ)アニオン錯体とも称される。
【0040】
ポリマーアニオンは、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(I)または(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含有する層中で、対イオンとして作用し得る。しかしながら追加の対イオンも、この層中に含有され得る。しかしながら好ましくは、ポリマーアニオンがこの層中の対イオンとして作用する。
【0041】
ポリマーアニオンおよびポリチオフェンは、第1層中に、0.5:1〜20:1、好ましくは1:1〜5:1の重量比で存在し得る。ポリマーアニオンおよびポリチオフェンは、第2層中に、0.5:1〜50:1、好ましくは1:1〜30:1、特に好ましくは2:1〜20:1の重量比で存在し得る。ここでポリチオフェンの重量は、重合中に完全な転化があることを想定して、使用モノマーの計量部分に対応する。
【0042】
好ましい実施態様において、第1層は、ポリアニオンおよび一般式(I)[式中、R、Aおよびxは、上記した意味を有する。]で示される反復単位を有するポリチオフェンを含む分散体から製造され、この層に、ポリマーアニオンおよび一般式(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有するポリチオフェンを含む分散体から第2層が塗布される。
【0043】
最も好ましい実施態様において、第1層は、ポリスチレンスルホン酸およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む分散体から製造され、この層に、ポリスチレンスルホン酸およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む分散体(これは、専門家によりPEDT/PSAまたはPEDT:PSAとも称される。)から第2層が塗布される。
【0044】
第1電極層および第2電極層の両方を製造するための分散体は、1種以上の溶媒も含み得る。適当な溶媒の例は、下記化合物である:脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、i-プロパノールおよびブタノール、脂肪族ケトン、例えばアセトンおよびメチルエチルケトン、脂肪族カルボン酸エステル、例えば酢酸エチルエステルおよび酢酸ブチルエステル、芳香族炭化水素、例えばトルエンおよびキシレン、脂肪族炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサン、塩素化炭化水素、例えばジクロロメタンおよびジクロロエタン、脂肪族ニトリル、例えばアセトニトリル、脂肪族スルホキシドおよびスルホン、例えばジメチルスルホキシドおよびスルホラン、脂肪族カルボン酸アミド、例えばメチルアセトアミド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミド、脂肪族および芳香脂肪族エーテル、例えばジエチルエーテルおよびアニソール。水、または水と上記有機溶剤との混合物も、溶媒として使用し得る。好ましい溶媒は、水またはアルコールのような他のプロトン性溶媒、例えば、メタノール、エタノール、i-プロパノールおよびブタノール、並びに水とこれらアルコールとの混合物であり、特に好ましい溶媒は水である。
【0045】
分散体が1種以上の溶媒を含む場合、分散体中の固形分は、分散体の総重量に基づいて、好ましくは0.01%〜20%、特に好ましくは0.1%〜10%である。
【0046】
第1電極層を製造するための分散体は、好適には、5〜300mPas、好ましくは10〜100mPasの粘度を有する。第2電極層を製造するための分散体は、好適には、2〜300mPas、好ましくは5〜100mPasの粘度を有する。
【0047】
本発明で検討される溶液の粘度を、サーモスタットを備えたHaake RV 1レオメーターを用いて測定する。清潔かつ乾燥した測定用ビーカーで、13.5g±0.3gの測定溶液を測定スリットに量り入れ、20.0℃で100/sの剪断速度で測定する。
【0048】
更なる成分、例えば有機溶媒に溶解性の1種またはそれ以上の有機結合剤、例えばポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエーテル、ポリエステル、シリコーン、スチレン/アクリル酸エステルコポリマー、酢酸ビニル/アクリル酸エステルコポリマーおよびエチレン/酢酸ビニルコポリマー、または水溶性結合剤、例えばポリビニルアルコール、架橋剤、例えばポリウレタンまたはポリウレタン分散体、ポリアクリレート、ポリオレフィン分散体、エポキシシラン、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシランを、第2電極層を製造するための分散体に添加することもできる。
【0049】
分散体は、適当な基材または第1層に既知の方法により、例えばスピン塗布、含浸、流し込、滴下適用、噴射、吹付け、ナイフ塗布、はけ塗り、または印刷、例えばインクジェット、グラビア、スクリーン、フレキソ若しくはパッド印刷により適用される。
【0050】
少なくとも1種のポリマーアニオン、および一般式(I)または(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有する少なくとも1種のポリチオフェンを含む、第1層および第2層の塗布に続いて、例えば乾燥による凝固後、例えば洗浄による層の清浄を行い得る。
【0051】
一般式(II)で示されるチオフェンからの分散体の製造は、例えば欧州特許出願公開第440 957号に挙げられた条件に類似した方法で製造される。これらの粒子サイズを得るため、分散体を、好ましくは、第1層を製造するため当業者に知られているような方法を用い、場合により高圧下で、1回以上均質化する。固形分は、場合により存在する溶媒の量を選択することによって、或いは後に既知の方法で希釈して低下させるかまたは濃縮して上昇させることによって、所望の方法で予め調節することができる。
【0052】
ポリチオフェン/ポリアニオン錯体の製造、および1種以上の溶媒中におけるその後の分散または再分散も可能である。
【0053】
第2層を塗布する前に、第1層を、溶媒含有分散体の場合は、特に溶媒除去または酸化架橋によって、好ましくは分散体層を(周囲)酸素に暴露することによって、凝固する。
【0054】
任意に存在する溶媒を、溶液適用後に、単純に室温で蒸発させることにより除去することができる。しかしながらより高い処理速度を達成するために溶媒を、高温で、例えば20〜300℃、好ましくは40〜200℃の温度で除去することがより有利である。第1電極層を製造するための分散体中の添加剤に依存して、その乾燥温度は、特に好ましくは100〜150℃から選択され得る。溶媒の除去に関連する、熱による後処理を、被膜製造後直ちにまたはしばらくしてから行うことができる。熱処理の継続時間は、被覆に使用するポリマー種に応じて、5秒〜数時間であり得る。異なる温度および滞留時間を有する温度プロフィルも、熱処理のために使用し得る。
【0055】
例えば選択温度での所望の滞留時間が達成されるような速度で、被覆基材が、所望の温度で加熱室を通して移動させるか、またはホットプレートと、所望の温度で所望の滞留時間で接触させるように、熱処理を行うことができる。熱処理を、例えば1つの加熱炉、またはそれぞれ異なる温度を有する複数の加熱炉で行うこともできる。
【0056】
基材は、例えばガラス、超薄ガラス(フレキシブルガラス)またはプラスチック物質であり得る。基材を、少なくとも1種の導電性ポリマーを含有する層の適用前に接着促進剤で処理することができる。この処理を、例えばスピン塗布、含浸、流し込、滴下適用、噴射、吹付け、ナイフ塗布、はけ塗り、または印刷、例えばインクジェット、グラビア、スクリーン、フレキソ若しくはパッド印刷により行うことができる。
【0057】
基材のために特に適当なプラスチックは、ポリカーボネート、ポリエステル、例えばPETおよびPEN(各々、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレンジカルボキシレート)、コポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、または環式ポリオレフィン若しくは環式オレフィンコポリマー(COC)、水添スチレンポリマーまたは水添スチレンコポリマーを含む。
適当なポリマー基材は、例えば住友製のポリエステルフィルム、PESフィルム、またはBayer AG製のポリカーボネートフィルム(Makrofol(登録商標))のようなフィルムを含む。
【0058】
好ましい低分子量正孔注入物質は、任意に置換されていてよいフタロシアニン、例えば銅フタロシアニン(S. A. Van Slyke ら, Appl. Phys. Lett. 69 (1996) 2160)、或いは任意に置換されていてよいフェニルアミン、例えば4,4'-ビス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)ビフェニル(TPD)または4,4',4"-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)(Y. Shirota ら, Appl. Phys. Lett. 65 (1994) 807)であり、これらは場合により、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)或いは他の供与体または受容体(M. Pfeiffer ら, Adv. Mat. 14 (2002) 1633)でドープされていてもよい。
【0059】
正孔注入物質に依存して、本発明の第2電極層は、溶液、分散体または気相から適用され得る。第2層は好ましくは溶液又は分散体から製造される。本発明の方法の好ましい実施態様において、第2層は、少なくとも1種のポリマーアニオンおよび一般式(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有する少なくとも1種の任意に置換されていてよいポリチオフェンを含有する分散体から製造される。
【0060】
従って、本発明の方法は、好ましくは、複雑で費用のかかる物理蒸着またはスパッタリング法を用いずに実施することができる。これは、とりわけ、広範な表面への適用を可能にする。更に、ポリチオフェン/ポリアニオン層は、低温、好ましくは室温で適用され得る。従って、本発明の方法は、一般に低温法にしか許容されずITO蒸着温度に耐えられない、ポリマーフレキシブル基材への適用にも適している。
【0061】
本発明の電極は、好ましくは透明電極である。本発明における透明とは、可視光に対する透明を意味する。
【0062】
本発明の第1電極層の標準明度Yは、好ましくは少なくともY(D65/10°)=50、特に好ましくは少なくともY(D65/10°)=70である。
【0063】
視感透過率をASTM D 1003に従った方法で測定し、ASTM E308に従って標準明度Y(しばしば明るさとも称される)を算出するために使用する。完全に透明な試料のYは100であり、不透明な試料のYは0である。光工学用語では、Y(D65/10°)は、角度10°で測定され、標準光型D65を用いて算出された標準明度であることを意味する(ASTM E308参照)。規定の標準明度は、純粋な層、即ち対照としても測定される被覆されていない基材に対するものである。
【0064】
本発明の第1電極層は、好ましくは少なくとも300S/cm、特に好ましくは少なくとも400S/cmの導電率を有する。
【0065】
導電率は、比抵抗の逆数であると理解される。これは、導電性ポリマー層の表面抵抗と膜厚との積から算出される。導電性ポリマーの表面抵抗をDIN EN ISO 3915に従って測定し、ポリマー層の厚さを触針式表面粗さ計を用いて測定する。
【0066】
また、本発明の第1電極層は、好ましくは2.5nm未満、より好ましくは1.5nm未満の表面粗さ値Raを示す。
【0067】
表面粗さ値Raは、走査型力顕微鏡(Digital Instruments)を用いて、ガラス基材上にある約150nm厚のポリマー層の1μm四方の面積を走査することによって測定される。
【0068】
本発明の第1電極層の表面粗さは、例えば欧州特許出願公開第686 662号から既知の電極の表面粗さより有利には著しく小さく、それ故、OLEDおよびOSCにおける短絡の確率は本発明の電極によって低減される。
【0069】
本発明の第1電極層は、好ましくは10〜500nm、特に好ましくは20〜200nm、最も好ましくは50〜200nmの乾燥膜厚を有する。本発明の第2電極層は、好ましくは5〜300nm、より好ましくは10〜200nm、特に好ましくは50〜150nmの乾燥膜厚を有する。
【0070】
好ましい実施態様において、電極は、ポリアニオンおよび一般式(I)[式中、R、Aおよびxは、上で示した意味を有する。]で示される反復単位を有するポリチオフェンを含む第1層を含有し、そこには、ポリマーアニオンおよび一般式(II-a)および/または(II-b)で示される反復単位を有するポリチオフェンを含む第2層が適用される。
【0071】
最も好ましい実施態様において、電極は、ポリスチレンスルホン酸およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む第1層を含有し、そこには、専門家の間ではPEDT/PSAまたはPEDT:PSAとも称されるポリスチレンスルホン酸およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含む第2層が適用される。
【0072】
本発明の電極は、電気、好ましくは電気光学構造物中、特に有機発光ダイオード(OLED)、有機太陽電池(OSC)、電気泳動ディスプレイまたは液晶ディスプレイ(LCD)および光センサーにおける電極として優れて適している。
【0073】
電気光学構造物は、一般に、少なくとも1つは透明である2つの電極を有し、電気光学活性被膜系が中間にある。OLEDの場合に電気光学構造物は、エレクトロルミネセンス層装置であり、これは、以下でエレクトロルミネセンス装置またはEL装置とも略される。
【0074】
そのようなEL装置の最も単純な場合は、少なくとも1つは透明である2つの電極、およびこれら2つの電極の間の電気光学活性層からなる。しかしながら更なる機能層、例えば電荷注入、電荷移動または電荷遮蔽の中間層が、そのようなエレクトロルミネセンス層構造物中に更に含有され得る。この種の層構造物は、当業者に良く知られており、例えば J. R. Sheats ら, Science 273 (1996), 884 に記載されている。層は、複数の機能も
有し得る。上記したEL装置の最も単純な場合において、電気光学活性である、即ち一般に光を放射する層は、他の層の機能も有し得る。いずれかの電極または両方の電極を、適当な基材、即ち適当なキャリヤに適用することができる。次いで層構造物は、適切な接点を供給され、任意に外装および/またはカプセル封入される。
【0075】
多層系の構造物を、層が連続に気相から適用される物理蒸着(PVD)により、または流し込法により適用することができる。物理蒸着は、エミッターとして有機分子を用いる構造化LEDを製造するために、シャドーマスク技術と共に行われる。流し込法が、より速い加工速度およびより少量の産出廃棄物、並びにそれに関連するコスト節約の理由により、一般に好ましい。
【0076】
既に記載したように本発明の電極を、有利には、溶液/分散体から製造することができる。
従って本発明は、少なくとも1つの電極は透明電極である2つの電極、および該電極の間に電気光学活性層を含み、本発明の電極を透明電極として有することを特徴とするエレクトロルミネセンス装置にも関する。
【0077】
本発明の好ましいエレクトロルミネセンス装置は、適当な基材に適用された本発明の電極を有するもの、即ち第1層および第2層、エミッター層および金属カソードを有するものである。そのようなEL装置では、例えば少なくとも1種の有機正孔注入物質、好ましくは少なくとも1種のポリマーアニオン、および一般式(II-a)または(II-b)で示される少なくとも1種のポリチオフェンを含む層は、正孔注入中間層として機能し得る。上で挙げた別の機能層が、任意に含有され得る。
【0078】
特に、導電層は、アノードとしての様々な高導電性の金属線と接触している。
以下の順序で層を含むEL装置が、本発明の好ましい実施態様である:
基材//(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)層(第1層)//(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)層(第2層)//エミッター層//金属カソード。
更なる機能層が、任意に含有され得る。
【0079】
本発明の電極を有する対応構造物は、逆OLEDまたはOSC構造物において、即ち層構造物が反対の順序である場合にも有利である。逆OLEDの対応する好ましい実施態様は、以下のようなものである:
基材//金属カソード//エミッター層//(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)層(第2層)//(ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸)層(第1層)。
特に活性マトリックス基材と組み合わせた逆OLEDが、非常に重要である。活性マトリックス基材は、一般にSiの非透明層であり、この中でトランジスタが、それぞれの光画素の下に加工されている。
【0080】
本発明の電極が逆OLEDに使用される場合、既に先で記載したように、一般にはまず第2層をエミッター層に塗布し、次いでこの第2層を凝固させ、既に先で記載したように、第1層をエミッター層に塗布する。
【0081】
適当なエミッター物質および金属カソードのための物質は、電気光学構造物のために一般に使用され、当業者に良く知られているものである。低仕事関数を有する金属、例えばMg、Ca、Ba、Csまたは金属塩、例えばLiFから製造される金属カソードが好ましい。共役ポリマー、例えばポリフェニレンビニレン若しくはポリフルオレン、または専門家により小さい分子としても知られている低分子量エミッターの範疇からのエミッター、例えばトリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq
3)が、エミッター物質として好ましい。
【0082】
本発明の電極は、電気光学構造物において、既知の電極に対する多くの利点を有する:
a)TCO層、例えばITO、または金属製薄層を、例えばOLEDおよびOSCにおいて省略することができる。
b)柔軟基材の場合、これらポリマー層が非常にしなやかで柔軟であるので、基材を曲げることによって、もろいTCO層に亀裂は発生せず、電気光学構造物は損なわれない。
c)有機層は、無機層、例えばITOよりも容易に構造化することができる。有機層は、溶媒、光照射(UV)または熱暴露(レーザーアブレーション)により再び除去することができる。
【0083】
第1層および第2層を含む本発明の2層電極は、既知のポリマー電極より明らかな利点を示す。特に、微粒子構造および低表面粗さの結果、OLEDおよびOSCにおける短絡の確率は、本発明の電極によって著しく低下する。第1電極層の著しい導電性増加は意外なことであった。なぜなら、粒度を減少させると得られる層の表面抵抗が増加することが、文献から知られていたからである(A. Elschner et al., Asia Display IDW 2001, OEL 3-3, 第1429頁)。導電性増加添加剤の添加によって粒子改良の導電性への悪影響が補われることが予想されていたとしても、それ以上に導電性は増加する。OLEDにおけるエレクトロルミネセンス効率は、本発明の電極の使用によって著しく増加し得る。特に、第1電極層および第2電極層の両方がPEDT:PSAを含む本発明の特に好ましい実施態様に従った本発明の電極を使用することによって、同じデバイス電流を有する単層電極と比較して、1〜3オーダーの程度のエレクトロルミネセンス効率の増加が実現できる。
【0084】
ポリマーアニオンは電気不活性であり、主として重合の際の溶液中における導電性ポリマーまたはポリチオフェンを維持するために役立ち、導電性増加添加剤は120℃超の乾燥温度で実質上揮発するのに対して、両方の層中における唯一の電気活性成分が、導電性チオフェンであるので、見出された効果は予期しないものである。
【0085】
例えば金属から作られ、「母線」として知られている高導電率供給線を、アノード接点およびOLEDアノードの間の電圧降下を特に低く維持するために使用することができる。
【0086】
受動マトリックスOLEDディスプレイの場合にITOアドレス線を、本発明により省略することができる。その代わりに、本発明の電極と組み合わせる金属供給線(母線)が、アノード側のアドレッシングを行う(
図1参照)。高導電率の電気供給線2aおよび画素フレーム2bが、透明キャリヤ1、例えばガラス板に適用される。それらを、例えば金属の蒸着により、または安価に金属ペーストでの印刷により適用することができる。次いでポリマー電極層3が、フレーム中に付着させられる。接着促進剤が任意にまず適用され、次いで第1電極層、最後に第2電極層が適用される。これらの層は、好ましくはスピン塗布、印刷およびインクジェット印刷により適用される。構造物の残りのものは、標準的な受動マトリックスOLEDのものに相当し、それは当業者に良く知られている。
【0087】
均一照明OLED(OLEDランプ)の場合にITO電極を、本発明により省略することができる。その代わりに、本発明の電極と組み合わせる金属供給線(母線)が、全面アノードの機能を引き受ける(
図2参照)。高導電率の電気供給線2が、例えば前の段落に記載したように、透明キャリヤ1、例えばガラス板に適用される。次いでポリマー電極層3が、前の段落に記載した順序でその上に付着させられる。該構造物の残りのものは、標準的なOLEDランプのものに相当する。
【0088】
第1電極層の製造に特に適している分散体は、同様に、文献から知られておらず、従って、本発明によって提供される。
以下の実施例は、例によって本発明を説明するために提供し、制限として解釈されるべきではない。
【実施例】
【0089】
下記の粒度分布は、H. G. Mueller; Progr. Colloid Polym. Sci. 127 (2004) 9-13に記載されているように、分析用超遠心器を用いて測定した。
【0090】
視感透過率をASTM D 1003に従った方法で測定し、ASTM E308に従って標準明度Yを算出するために使用する。完全に透明な試料のYは100であり、不透明な試料のYは0である。光工学用語では、Y(D65/10°)は、角度10°で測定された標準光型D65を用いて算出された標準明度であることを意味する(ASTM E308参照)。透過度を、制御ビーム路にコートされていないガラス基材を備えたUV/VIS分光計(光積分球を備えたPerkinElmer 900)を用いて測定する。
【0091】
本発明で検討される溶液の粘度を、サーモスタットを備えたHaake RV 1レオメーターを用いて測定する。清潔かつ乾燥した測定用ビーカーで、13.5g±0.3gの測定溶液を測定スリットに量り入れ、20.0℃で100/sの剪断速度で測定する。
【0092】
導電率は、比抵抗の逆数であると理解される。これは、導電性ポリマー層の表面抵抗と膜厚との積から算出される。導電性ポリマーの表面抵抗をDIN EN ISO 3915に従って測定し、ポリマー層の厚さを触針式表面粗さ計を用いて測定する。
【0093】
表面粗さ値Raは、走査型力顕微鏡(Digital Instruments)を用いて、ガラス基材上にある約150nm厚のポリマー層の1μm四方の面積を走査することによって測定される。
【0094】
実施例1
第1電極層を製造するためのPEDT:PSA分散体の調製
a)(本発明に従った例)
ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸重量比1:2.5、固形分約1重量%、および20℃、剪断速度100/sでの粘度約300mPasを有する商業的に入手可能な水性ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸分散体(PEDT:PSA分散体)(H. C. Starck GmbHから販売のBaytron(登録商標)PHC V4)において、25nmのd50値を有する粒度分布(即ち50重量%の粒子が25nm未満)を均質化によって実現した。次いで、分散体を約1重量%から1.7重量%の固形分に濃縮し、濾過し(Pall、膜孔サイズ:0.2μm)、その後、5重量%のジメチルスルホキシド(DMSO)と混合した。この溶液の粘度は、20℃、剪断速度100/sで約45mPasであった。
b)(比較例)
d50値243nmの粒度分布を有し、ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸重量比1:2.5、固形分約1重量%、および20℃、剪断速度100/sでの粘度約300mPasを有する商業的に入手可能な水性PEDT:PSA分散体(H. C. Starck GmbHから販売のBaytron(登録商標)PHC V4)を濾過した。その粗い特性によって、この分散体は、10μmフィルターでしか濾過できなかった。
c)(比較例)
PEDT:PSA分散体を、1b)に記載したように製造し、次いで、5重量%のジメチルスルホキシドと混合した。この分散体も、その粗い特性の故に、10μmフィルターでしか濾過できなかった。
【0095】
実施例2
第1電極層の製造および特性
a)(本発明に従った例)
ガラス基材を50×50mm
2のサイズにカットし、洗浄し、UV/オゾンで15分間活性化した。次いで、実施例1a)の分散体を、30秒間、規定スピン速度および加速度500rpm/秒でスピン塗布器によってガラス基材に適用した。シャドーマスクを用いて平行した銀接点を蒸着し、表面抵抗を測定した。触針式表面粗さ計(Tencor 500)を用いて膜厚を測定し、走査型力顕微鏡(Digital Instruments)を用いて表面粗さを測定した。
b)(比較例)
実施例1b)の分散体で被覆されたガラス基材を2a)に記載されているように製造し、その標準明度、表面抵抗、膜厚および表面粗さを測定した。
c)(比較例)
実施例1c)の分散体で被覆されたガラス基材を2a)に記載されているように製造し、その標準明度、表面抵抗、膜厚および表面粗さを測定した。
【0096】
【表1】
【0097】
実施例2a)〜2c)からの第1電極層の比較は、同程度の膜厚および標準明度であると、実施例2a)からの第1電極層の導電率が最も高く、同時に表面抵抗が最も低いことを示している。
【0098】
比較例3
第2電極層を有さないOLEDの製造
1.金属製フィンガーを有する基材
ガラス基材を50×50mm
2のサイズにカットし、洗浄した。次いで、シャドーマスクを用いて、銀製の金属フィンガーを基材上に蒸着した。1mm幅、5mm間隔の平行な金属線を、それらと直角で高さ170nmを有する中央のバーによって接続した。被覆直前に基材表面を洗浄し、UV/オゾン(UVP Inc., PR-100)を用いて15分間活性化した。
2.本発明のPEDT:PSA分散体を用いた第1電極層の塗布
実施例1a)からの分散体約2mlを基材上に注ぎ、次いで、30秒間、1000rpmおよび加速度500rpm/秒でスピン塗布器を用いて金属フィンガーを有するガラス基材に適用した。その後、まだ湿っている電極層を有する基材をホットプレート上に置き、ペトリ皿で覆い、200℃で5分間乾燥した。電極層は、厚さ約170nmであり、356S/cmの導電率を有していた。
3.エミッター層の塗布
エミッターGreen 1300 LUMATION(登録商標)(以後、DGPとも略される。Dow Chemical Company 製。)の1重量%キシレン溶液約2mlを濾過し(Millipore HV, 0.45μm)、乾燥した第1電極層に適用した。30秒間、500rpmおよび加速度200rpm/秒でディスクを回転することによって、エミッターの上澄み液を除去した。次いで、このように被覆した基材を、ホットプレート上で110℃で5分間乾燥した。合計被膜厚は250nmであった。
【0099】
4.金属カソードの形成
金属電極をエミッター層上に蒸着した。この工程のために使用した蒸着系(Edwards)を、不活性ガスグローブボックス(Braun)内に組み入れた。エミッター層を下にした基材をシャドーマスク上に置いた。マスクの孔は直径2.0mmであり、0.5mm間隔であった。その孔が金属フィンガーのちょうど間になるようにマスクを置いた。p=10
-3Paの圧力下、5nm厚のBa層、次いで200nm厚のAg層を2つの蒸着ボートから次々と蒸着した。蒸着速度は、Baが10Å/秒、Agが20Å/秒であった。
5.OLEDの評価
電気光学評価のために、OLEDの2つの電極を導線で電源に接続した。正極を金属フィンガーに接続し、負極を蒸着した円形金属電極の1つに接続した。
電圧に対するOLED電流およびエレクトロルミネセンス強度(EL)の依存性を記録した(Keithley 2400電流/電圧源)。これと接続された電位計(Keithley 6514)を備え、その輝度が輝度計(Minolta LS-100)で調整されるフォトダイオード(EG&G C30809E)を用いて、ELを検出した。
【0100】
実施例4
第1電極層および第2電極層を有する本発明に従ったOLEDの製造
工程2と3との間に、PEDT:PSAを含んでなる第2電極層を塗布した以外は、実施例3と同様に行った。このため、水性PEDT:PSA分散体(H. C. Starck GmbH 製 Baytron(登録商標)P CH8000、PEDT:PSA重量比1:20、固形分約2.5重量%、20℃、700/sでの粘度約12mPas)2mlを、まず濾過し(Millipore HV、0.45μm)、30秒間、1000rpmおよび加速度200rpm/秒でスピン塗布器を用いて乾燥した第1電極層に適用した。次いで、まだ湿っている第2電極層を有する基材をホットプレート上に置き、ペトリ皿で覆い、200℃で5分間乾燥した。2つの電極層は、合わせて270nmの膜圧を有していた。
【0101】
【表2】
【0102】
適切な電圧範囲において、2層の電極層を有する実施例4の本発明のOLEDが、1層しか電極層を有さない比較例3のOLEDより、著しく高い輝度Lおよび効率ηを意外にも有することを、この比較は示している。
【0103】
比較例5
膜厚を以下のように変更した以外は、実施例3に記載したように行った:
デバイス構造:
金属フィンガー//第1電極層(75nm)//DGP(80nm)//Ba//Ag
【0104】
実施例6(本発明に従う)
膜厚を以下のように変更した以外は、実施例4に記載したように行った:
デバイス構造:
金属フィンガー//第1電極層(75nm)//第2電極層(80nm)//DGP(80nm)//Ba//Ag
【0105】
比較例7
実施例1a)の分散体に代えて実施例1b)の分散体を第1電極層を製造するために用いた以外は、実施例5のように行った:
デバイス構造:
金属フィンガー//第1電極層(80nm)//DGP(80nm)//Ba//Ag
【0106】
比較例8
実施例1a)の分散体に代えて実施例1b)の分散体を第1電極層を製造するために用いた以外は、実施例6のように行った:
デバイス構造:
金属フィンガー//第1電極層(80nm)//第2電極層(80nm)//DGP(80nm)//Ba//Ag
【0107】
OLEDの評価は実施例3および4に記載したように行った。
【表3】
【0108】
適切な電圧範囲において、2層の電極層を有する実施例6の本発明のOLEDが、1層しか電極層を有さない比較例5および7のOLEDより、著しく高い輝度Lおよび効率ηを意外にも有することを、この比較は示している。また、本発明の分散体で製造した2層の電極層を有する実施例6の本発明のOLEDが、比較例8の2層の電極層を有するOLEDより、非常に高い整流比(I+/I-)を有することを、この比較は示している。