特許第5775904号(P5775904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5775904
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】エアモータ及び医療用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
   F01C 1/344 20060101AFI20150820BHJP
   A61C 1/05 20060101ALI20150820BHJP
   F01C 13/02 20060101ALN20150820BHJP
【FI】
   F01C1/344 F
   A61C1/05 A
   !F01C13/02
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-126731(P2013-126731)
(22)【出願日】2013年6月17日
(62)【分割の表示】特願2010-42025(P2010-42025)の分割
【原出願日】2010年2月26日
(65)【公開番号】特開2013-224664(P2013-224664A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2013年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(72)【発明者】
【氏名】高志 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中山 照三
【審査官】 安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−068375(JP,A)
【文献】 特公昭62−011858(JP,B2)
【文献】 特開平03−249391(JP,A)
【文献】 特開昭61−272491(JP,A)
【文献】 実開昭57−023310(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01C 1/344
F01C 13/02
A61C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有するハウジング内に、
上記中心軸を中心に回転可能に支持されたシャフトと該シャフトに固定されたロータ本体を備えたロータと、
上記ロータ本体に外装され、上記中心軸に平行で且つ上記中心軸から離れた偏心軸を中心とする内周面を備えているロータケースを備えており、
上記ロータ本体は、上記ロータに取り付けられた複数のベーンであって、上記中心軸を中心に周方向に所定の間隔をあけて配置されるとともに、上記中心軸を中心に径方向に進退可能に且つ径方向外側に向けて付勢されて上記ロータケースの内周面に接触させた状態で上記ロータ本体に支持されており、上記ロータ本体の回転に伴って上記中心軸の周方向に移動しながら上記径方向に移動し、各隣接するベーンの間に空間を形成する複数のベーンを備えており、
上記空間に圧力流体が供給されたときに隣接する2つのベーンが受ける周方向の圧力の差に基づいて上記ロータを回転するエアモータであって、
上記エアモータは、
上記中心軸の方向に関して上記ロータ本体の基端側と末端側に配置されて上記ハウジングにそれぞれ固定された基端側と末端側の固定部材を有し、
上記ロータ本体の基端側と末端側において上記ロータ本体に隣接し且つ上記ロータ本体と上記固定部材との間にそれぞれ配置され、上記複数のベーンの基端側及び末端側から漏れる圧力流体を遮断する基端側と末端側の軸受シートとを有し、
上記中心軸に平行なスラスト方向に関して、上記軸受シートの基端側及び末端側にあるスラスト方向端面部分と、上記スラスト方向端面部分に対向する上記固定部材のスラスト方向端面部分との間にスラストギャップが形成されており、
上記中心軸から離れるラジアル方向に関して、上記軸受シートの基端側及び末端側にあるラジアル方向外周部分と、上記ラジアル方向外周部分に対向する上記固定部材のラジアル方向端面部分との間にラジアルギャップが形成されており、
上記ラジアルギャップは上記スラストギャップよりも小さいことを特徴とするエアモータ。
【請求項2】
上記ハウジングに、請求項1に係るエアモータにおけるロータの回転を、上記ハウジングに着脱自在に且つ回転可能に装着される回転部品に伝達する機構を備えた医療用ハンドピース。
【請求項3】
上記ラジアルギャップと上記スラストギャップは、上記隣接するベーンの間の空間に対して、上記ロータ本体の基端側では上記スラストギャップが上記ラジアルギャップの基端側に配置され、上記ロータ本体の末端側では上記スラストギャップが上記ラジアルギャップの末端側に配置されていることを特徴とする請求項1のエアモータ。
【請求項4】
上記ラジアルギャップと上記スラストギャップは、上記隣接するベーンの間の空間に対して、上記ロータ本体の基端側では上記スラストギャップが上記ラジアルギャップの基端側に配置され、上記ロータ本体の末端側では上記スラストギャップが上記ラジアルギャップの末端側に配置されていることを特徴とする請求項2の医療用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアモータ、及びこのエアモータを組み付けた医療用ハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーン型エアモータ(以下、「エアモータ」という。)とこのエアモータを内蔵した医療(歯科)用ハンドピースの一つが特許文献1に開示されている。このエアモータは、筒状のハウジング(筐体)を有する。ハウジングの内側には、ハウジングの中心軸を中心に回転可能に支持されたロータと、ロータの周囲に固定され且つ中心軸と平行に且つ該中心軸から偏心した偏心軸を中心とする内周面を備えたロータケースが配置されている。ロータの外周には、周方向に所定の間隔をあけて、中心軸方向に伸びる複数の溝が形成されている。各溝は、板状のベーンを、径方向に進退可能に収容している。また、各ベーンは、溝の底部に配置されたばねによって径方向外側に付勢されており、径方向外側の端部がロータケースの内周面に接触している。中心軸方向に関してロータの基端側には、ロータを支持するシャフトの基端側端部を回転可能に支持する軸受と、この軸受を支持する軸受ケースが固定されている。軸受ケースは、軸受ケースの基端側(ハンドピース基端側)端面と末端側(ハンドピース末端側)端面を貫通する給気路と排気路が形成されている。軸受けケースの基端側には弁部材が配置されている。弁部材は、弁部材の基端側端面と末端側端面を貫通する給気路と排気路が形成されており、中心軸を中心に回転できるようにハウジングに支持されている。
【0003】
このように構成されたエアモータでは、駆動時、弁部材の給気路から軸受ケースの給気路を介してロータに圧力空気が供給され、隣接するベーンが受ける周方向の圧力差によって、ロータが所定の方向に回転し、その回転がハンドピースに先端に伝達されて、切削工具を回転する。切削工具の回転数を低下させる場合、弁部材は中心軸を中心に回転される。これにより、弁部材の給気路と軸受ケースの給気路の対向面積が減少し、ロータに供給される圧力空気の量を絞る。
【0004】
ところが、上述のエアモータでは、軸受ケースの基端側端面とこれに対向する弁部材の末端側端面との間は両者の接触のみによってシールされているため、それら対向端面の間を通じて多少の圧力空気が漏れることは避けられなかった。そのため、特にロータへの給気量を絞ったとき、弁部材の給気路から軸受ケースの給気路に十分な量の圧力空気が供給できず、切削工具に十分な回転トルクが得られない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−11858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、圧力流体の漏れを防止し、低速時にあっても十分な回転トルクが得られるエアモータ及び該エアモータを備えた医療用ハンドピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、本発明に係るエアモータ及び該エアモータを組み付けた医療用ハンドピースは、
中心軸を有するハウジング内に、
上記中心軸を中心に回転可能に支持されたシャフトと該シャフトに固定されたロータ本体を備えたロータと、
上記ロータ本体に外装され、上記中心軸に平行で且つ上記中心軸から離れた偏心軸を中心とする内周面を備えているロータケースを備えており、
上記ロータ本体は、上記ロータに取り付けられた複数のベーンであって、上記中心軸を中心に周方向に所定の間隔をあけて配置されるとともに、上記中心軸を中心に径方向に進退可能に且つ径方向外側に向けて付勢されて上記ロータケースの内周面に接触させた状態で上記ロータ本体に支持されており、上記ロータ本体の回転に伴って上記中心軸の周方向に移動しながら上記径方向に移動し、各隣接するベーンの間に空間を形成する複数のベーンを備えており、
上記空間に圧力流体が供給されたときに隣接する2つのベーンが受ける周方向の圧力の差に基づいて上記ロータを回転するエアモータであって、
上記エアモータは、
上記中心軸の方向に関して上記ロータ本体の基端側と末端側に配置されて上記ハウジングにそれぞれ固定された基端側と末端側の固定部材を有し、
上記ロータ本体の基端側と末端側において上記ロータ本体に隣接し且つ上記ロータ本体と上記固定部材との間にそれぞれ配置され、上記複数のベーンの基端側及び末端側から漏れる圧力流体を遮断する基端側と末端側の軸受シートとを有し、
上記中心軸に平行なスラスト方向に関して、上記軸受シートの基端側及び末端側にあるスラスト方向端面部分と、上記スラスト方向端面部分に対向する上記固定部材のスラスト方向端面部分との間にスラストギャップが形成されており、
上記中心軸から離れるラジアル方向に関して、上記軸受シートの基端側及び末端側にあるラジアル方向外周部分と、上記ラジアル方向外周部分に対向する上記固定部材のラジアル方向端面部分との間にラジアルギャップが形成されており、
上記ラジアルギャップは上記スラストギャップよりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように構成された本発明のエアモータ及び医療用ハンドピースによれば、ロータケースにおいて、ロータ突出部を内包する突出部受け入れ部を有し、ロータケースとロータ突出部の側面側隙間が、ロータケースとロータ突出部の端面側隙間より小さいので、圧力流体がロータに効率よく供給され、ロータの回転数が調節される。特に、低速回転時にあっても、目的の量の圧力流体がロータに効率よく供給され、所望のトルクが得られる。また、このような効果を簡単な構成及び加工で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】医療用ハンドピースの側面図。
図2図1のハンドピースに組み付けられたエアモータの斜視図。
図3図2に示すエアモータの縦断面図。
図4図2に示すエアモータの縦断面図。
図5図2に示すエアモータの縦断面図。
図6図2に示すエアモータの一部を取り除いた斜視図。
図7】末端側から見たロータとロータケースの斜視図。
図8】基端側から見たロータとロータケースの斜視図。
図9】基端側軸受ケースを基端側から見た正面図。
図10】基端側から見た弁部材の斜視図。
図11】末端側から見た弁部材の斜視図。
図12】弁部材を含むエアモータの横断面図。
図13】弁部材を回転したときの、シール部材と通気孔との関係を示す図。
図14図2に示すエアモータの部分縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、以下の説明では、図面に表された構成を説明するうえで、「上」、「下」、「左」、「右」等の方向を示す用語、及びそれらを含む別の用語を使用するが、それらの用語を使用する目的は図面を通じて実施例の理解を容易にするためである。したがって、それらの用語は実施例で説明する装置が実際に使用されるときの方向を示すものとは限らないし、それらの用語によって特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲が限定的に解釈されるべきでない。
【0011】
〔A:構成〕
(1)ハンドピース:
図1は、歯科用治療器具の一つであるハンドピース10を示す。ハンドピース10は、歯科医師又は歯科衛生士等の術者が手に持って歯科治療を行うことができる程度の大きさを有し、図上左側に示すハンドピース本体11の末端に切削工具12などの回転部品が着脱自在に装着できるようにしてあり、図1の右側に示す後端部(基端部)が圧力流体供給源(図示せず)に接続されるようにしてある。ハンドピース10の基端側には、ベーン型エアモータ(以下、「エアモータ」という。)13が一体的に組み付けられている。
【0012】
(2)エアモータ:
エアモータ13は、ハンドピース10の図上右側端部(以下、「基端」という。)に接続された圧力流体供給源から供給される圧力空気(圧搾空気)を利用して回転を生成し、その回転が切削工具12に伝達されるように構成されており、以下に説明する構成を備えている。なお、圧力流体は、圧搾された圧力空気である必要はなく、加圧された液体であってもよい。
【0013】
(2―1)ハウジング:
図2は、エアモータ13の外観を示す。図に示すように、エアモータ13は、円筒状のハウジング(筐体)14を有する。ハウジング14は、その中心軸(第1の中心軸)15に沿って配置された末端側ハウジング部16と基端側ハウジング部17を組み合わせて構成されている。末端側と基端側のハウジング部16,17の間には、エアモータ13の回転数、回転トルク、回転方向を調節するための調節部(ボリュームカバー)18が配置されている。調節部18は、後に説明するように、給気量を調節する弁部材(後述する)を操作するために、中心軸15を中心として回転可能に、ハウジング14に外装されている。
【0014】
(2−2)ロータ:
図3図5に示すように、ハウジング14の内側にはロータ(回転子)20が収容されている。ロータ20は、中心軸を有する中実円筒状のロータ本体21と、ロータ本体21の中心軸に沿ってロータ本体21から両側(末端側と基端側)に伸出するシャフト22を有する。ロータ20は、その中心軸をハウジング14の中心軸15に一致させた状態で、末端側軸受23と基端側軸受24によって、回転可能に支持されている。
【0015】
図7図8に示すように、ロータ本体21は、末端側端部と基端側端部をそれぞれ末端側と基端側に突出させた円柱状の末端側突出部25(図7参照)と基端側突出部26(図8参照)を有する。そして、末端側突出部25の末端側と基端側突出部26の末端側に、シャフト22に外装された軸受シート27,28(図3図5参照)がそれぞれ固定されている。
【0016】
ロータ本体21は、中心軸15を中心とする円筒外周面29を有する。円筒外周面29は、周方向に所定の間隔(72°)をあけて、ロータ本体21の末端側端面30と基端側端面31までその全長に亘って、中心軸15と平行に且つ中心軸15から径方向に伸びる複数の放射溝32を有する。実施例では、放射溝32は末端側突出部25と基端側突出部26の端面を貫通して形成されているが、末端側突出部25と基端側突出部26を貫通させず、末端側突出部25と基端側突出部26に挟まれた領域にのみ、放射溝32を形成してもよい。各放射溝32は、長方形の板状羽根(ベーン)33と、羽根33を径方向外側に向けて付勢するためのばね34(図5参照)を収容している。
【0017】
ロータ20の周囲には、ロータケース35が配置されている。ロータケース35は、円筒外周面36と円筒内周面37を有する円筒状の部材で、円筒外周面36の中心軸をハンドピース中心軸15に一致させた状態でハウジングに固定されている。円筒内周面37の中心軸(偏心軸)38(図7参照)は、円筒外周面36の中心軸と平行であるが円筒外周面36の中心軸から偏心している。したがって、ハウジング14内に固定されたロータケース35の円筒内周面37及びその中心軸38は、ハウジング中心軸15に対して、図8の下方に偏心している。また、図8に示すように、ロータケース35の円筒内周面37には、その基端側の2箇所を径方向外側に拡幅して拡大部39,40が形成されている。図示するように、拡大部39,40は、偏心方向とは反対側(図8の中央部又は上部寄り)に形成されている。
【0018】
以上の構成により、ロータ20がハウジング14に組み付けられた状態で、ばね34の付勢力によって各羽根33の外周端部41(但し、拡大部39,40に対向する部分を除く。)がロータケース35の円筒内周面37に押し付けられており、隣接する羽根33の間に加圧室42が形成される。実施例では、5つの羽根33によって仕切られた5つの加圧室42が形成されている。
【0019】
(2−3)軸受:
図3図5に示すように、ロータシャフト22の末端側を支持する末端側軸受23は、ロータ20に隣接してハウジング14に固定された末端側軸受ケース(固定部材)43に保持されている。末端側軸受ケース43は、環状又は円筒状の部材からなり、ハウジング14に固定されてロータ20の回転に伴って移動する羽根33の末端側端部45(図7参照)を規制しており、内周円筒部44に末端側軸受23を収容している。実施例では、末端側軸受23は、ボール軸受であり、外側ベアリングリングと、内側ベアリングリングと、これら外側と内側のベアリングリングの間に配置された多数のボールで構成されており、外側ベアリングリングが末端側軸受ケース43の内周円筒部44に固定され、内側ベアリングリングが軸受シート27に固定されている。
【0020】
図14に示すように、内周円筒部44の基端側は、ロータ20の末端側突出部25を回転可能に収容している。そのため、内周円筒部44の基端側内径は、末端側突出部25の外径よりも僅かに大きくしてあり、両者の間には約5〜15μm以下の隙間(ラジアルギャップx)が形成されている。これに対し、中心軸15の方向に関してロータ20(すなわち、軸受シート27)と末端側軸受ケース43との間には、隙間(スラストギャップy)が形成されている。
【0021】
末端側軸受ケース43はまた、該末端側軸受ケース43の末端側に中心軸15を中心として同心的に配置された複数の部材、例えば、筒状の接続ガイド46、筒状のボタンシート47、固定リング48によって、基端側への移動が規制されている。接続ガイド46と固定リング48は一体で構成されており、ハンドピース本体11に対して固定されている。接続ガイド46と固定リング48は、加工・組立上、別体で構成されていてもよく、ハンドピース本体11に対して着脱自在としてもよい。
【0022】
図3図5に示すように、ロータシャフト22の末端側を支持する基端側軸受24は、ロータ20に隣接してハウジング14に固定された基端側軸受ケース(第2の部材、固定部材)50に保持されている。基端側軸受ケース50は、円盤状(又は中実円筒状)の部材で構成されており、ロータ20に対向する末端側端面51に形成された円筒形状の凹所(軸受収容室)52に基端側軸受24を収容している。実施例において、基端側軸受24はボール軸受であり、外側ベアリングリングと、内側ベアリングリングと、これら外側と内側のベアリングリングの間に配置された多数のボールで構成されており、外側ベアリングリングが基端側軸受ケース50に固定され、内側ベアリングリングが軸受シート28に固定されている。また、凹所52の基端側底部には環状の金属板からなるウェーブワッシャ(波座金)49(図8参照)が配置されており、ウェーブワッシャ49によってロータ20の中心軸方向の動きが規制されている。
【0023】
図14に示すように、円筒凹所52の末端側は、ロータ20の基端側突出部26を回転可能に収容している。そのため、図3に示すように、円筒凹所52の末端側内径は、基端側突出部26の外径よりも僅かに大きくしてあり、両者の間に隙間(ラジアルギャップx)が形成されている。また、中心軸15の方向に関してロータ20(すなわち、軸受シート28)と基端側軸受ケース50との間には、隙間(スラストギャップy)が形成されている。
【0024】
末端側軸受ケース43及び基端側軸受ケース50とロータ20の間に形成されるラジアルギャップxとスラストギャップyについて説明すると、複数の部品を中心軸方向に配列して構成されるエアモータ13は、中心軸方向(スラスト方向)の隙間を約30μm以下に抑えることは難しいのに対し、径方向(ラジアル方向)の隙間をそれよりも小さな値に設定することは十分に可能である。したがって、実施例では、ラジアルギャップxを約5〜15μm以下に設定し、これにより、末端側軸受ケース43及び基端側軸受ケース50とロータ20との間から漏れる圧力空気の量を最小限に抑えている。また、中心軸方向に関して加圧室42の両側がラジアルギャップxでシールされ、さらにその外側にスラストギャップyが配置されているので、スラストギャップyがラジアルギャップxに比べて大きくとも、圧力空気の実質的な漏れが防止される。換言すれば、スラストギャップyを大きくしても、圧力空気の漏れに影響はない。そのため、スラスト方向の組立に高い精度は必要でない。さらに、軸受の摩耗等によりロータ20がスラスト方向に移動しても、ロータ20が隣接する部材に接触することがない。
【0025】
基端側軸受ケース50には、3つの通気路が形成されている。具体的に、図9(基端側軸受ケース50を基端側から末端側に向かって見た図)を参照して説明すると、各通気路(第2給気路)53,54,55は、基端側の端面56から凹所52の近くまで、中心軸15と平行に伸びる基端側通気路部分と、凹所52の径方向外側の位置から末端側端面51に向かって径方向外側に斜めに伸びる末端側通気路部分で構成されている。3つの通気路53,54,55の基端側端面56に開口する口部57,58,59の中心は、中心軸15を中心とする所定半径rの円周上に配置されている。実施例では、3つの通気路53,54,55は周方向に等間隔に配置されていない。しかし、3つの通気路は周方向に等間隔に配置してもよい。
【0026】
図示しないが、基端側軸受ケース50の末端側端面51において、通気路53,54は、ロータケース35の基端側内周面37に形成された拡大部39,40に対向して連通しており、例えば、通気路53,54を通じてロータ20に供給された圧力空気は、拡大部39,40を介して、該拡大部39,40の内側を通過する加圧室42に供給される。
【0027】
(2−4)弁部材:
図3図5に示すように、基端側軸受ケース50の基端側には、弁部材(調節弁、第1の部材)60が配置されている。弁部材60は、略円盤状の部材からなり、ハウジング14の内側で、中心軸15を中心として回転可能に設けてある。図10図11に示すように、弁部材60は、末端側端面61と基端側端面62を貫通する給気路(第1給気路)63と排気路64が形成されている。実施例では、給気路63は、中心軸15に沿って基端側端面62から末端側端面61の近くまで伸びる基端側給気路部分と、中心軸15と平行に末端側端面61から基端側端面62に向かって伸びる末端側給気路部分と、これら基端側給気路部分と末端側給気路部分を連通する中央給気路部分によって構成されている(図3参照)。
【0028】
図11に示す末端側端面61にある末端側給気路部分の口部(出口)65は、基端側軸受ケース50に形成された通気路53,54,55と同様に、中心軸15から所定半径rの円周上に位置している。また、図11に示すように、弁部材60の末端側端面61には、給気路出口65を囲む2つの環状溝66,67が形成されており、それぞれにOリングからなるシール部材68,69が嵌められている。シール部材68,69は、環状溝66,67に嵌めた状態で、環状溝66,67から突出している。したがって、弁部材60と基端側軸受ケース50がハウジング14内に組み付けられた状態で、シール部材68,69は、弁部材60の末端側端面61と基端側軸受ケース50の基端側端面56に挟持されており、給気路出口65の周囲をシールしている。
【0029】
排気路64は、中心軸15を中心とする円周に沿って長く伸びており、図11に示すように、末端側端面61では周方向にほぼ180°の範囲に亘って存在する口部(排気入口)70となって表れ、図10に示すように、基端側端面62では周方向に短く伸びる2つの口部(排気出口)71となって表れている。
【0030】
術者が弁部材60を操作するために、弁部材60の外周面には、連結ピン72が取り付けてある。図12に示すように、連結ピン72は、末端側ハウジング部16に形成された貫通孔73を貫通し、その径方向末端部が調節部18に係合している。末端側ハウジング部16の貫通孔73は周方向に伸びる長孔として形成されており、周方向に約150°の範囲に亘って調節部18が回転できるようにしてある。
【0031】
(2−5)ブッシュ:
図3図5に示すように、弁部材60の基端側には、ブッシュ74が配置されている。ブッシュ74は、ハウジング14に固定されており、上述した弁部材60の給気路63と排気路64にそれぞれ連通する給気路75と排気路76が形成されている。給気路75の末端部は、中心軸15に沿って形成されており、弁部材60の給気路63に常時連通している。他方、排気路76の末端部は、中心軸15から偏心した位置に形成されており、弁部材60の排気路64に常時連通している。
【0032】
〔B:動作〕
以上の構成からなるハンドピース10及びエアモータ13の動作を説明する。切削工具12を正転する場合、術者は、必要であれば調節部18を操作し、弁部材60の給気路口部(出口)65を基端側軸受ケース50に設けた通気路53の口部(入口)57に対向させる。図13は、基端側軸受ケース50の基端側端面56と、それに対向する弁部材60の給気路口部(出口)65と該口部65を囲むシール部材68,69の関係を示しており、とりわけ、正転時、図13(a)に示すように、内側シール部材68に囲まれた領域80だけが通気路53の口部57に対向しており、内側シール部材68と外側シール部材69の間の領域81は、いずれの通気路にも対向していない。
【0033】
したがって、圧力空気供給源(図示せず)から供給された圧力空気は、ブッシュ74の給気路75、弁部材60の給気路63、基端側軸受ケース50の通気路53、及びロータケース35の拡大部39を介して、該拡大部39に向けて開放された加圧室42に供給される。拡大部39に臨む加圧室42は、偏心方向の反対側に位置している。したがって、拡大部39に対向した加圧室42を形成している隣接する2つの羽根33に作用する周方向の圧力差により、ロータ20は正転方向に回転する。そして、ロータ20の回転は、シャフト22、図示しない回転連結部材を介して切削工具12に伝達される。
【0034】
加圧室42の圧力空気は、ロータ20の回転と共に正転方向に移動し、基端側軸受ケース50の他の通気路55から、弁部材60の排気路64及びブッシュ74の排気路76を介して、基端側に排出される。
【0035】
正転する切削工具の回転数を低下させる場合、術者は、矢印83方向に調節部18を回転する。これにより、図13(b)に示すように、弁部材60の給気路口部(出口)65と末端側軸受ケース43の通気路53の口部57との対向面積(連通面積)が減少し、ロータ20に供給される圧力空気の供給量が減少する。その結果、ロータ20に加わる回転力が低下し、ロータ20の回転数、回転トルクが低下する。このとき、末端側軸受ケース43の通気路53の口部57は、外側シール部材69に囲まれた領域81の内側にある。したがって、圧力空気は、弁部材60と基端側軸受ケース50の隙間に漏れ出ることなく、ロータ20の回転にすべて寄与する。また、調節部18の回転量に対応する量の圧力空気がロータ20に供給されるため、回転数及びトルクの調節が安定する。
【0036】
ロータ20の回転を停止する場合、図13(b)、(c)に示すように、術者は、矢印83方向に調節部18を回転する。これにより、図13(c)に示すように、弁部材60の給気路口部(出口)65は末端側軸受ケース43の通気路53の口部57に対向せず、ロータ20への圧力空気の供給量が停止する。図示するように、このとき、末端側軸受ケース43の通気路53の口部57は、内側シール部材68に囲まれた領域80の外にあり、かつ、内側シール部材68と外側シール部材69の間の領域81の内側にある。したがって、内側シール部材68の内側にある給気路口部65内の圧力空気は、弁部材60と基端側軸受ケース50の対向面にある隙間に漏れ出ることがない。
【0037】
他方、ロータ20を逆転する場合、図示しないが、調節部18を図13の矢印84方向に回転し、弁部材60の給気路63の口部65を基端側軸受ケース50の通気路54に対向させる。これにより、供給された圧力空気は、弁部材60の給気路63、末端側軸受ケース43の通気路54から、拡大部40を通じて該拡大部40に臨む加圧室42に供給され、矢印84方向にロータ20を回転する。そして、ロータ20の回転は、シャフト22等を介して切削工具12に伝達される。
【0038】
加圧室42の圧力空気は、ロータ20の回転と共に逆転方向に移動し、基端側軸受ケース50の他の通気路55から、弁部材60の排気路66及びブッシュ74の排気路76を介して、基端側に排出される。
【0039】
正転時と同様に、逆転時にあっても、調節部18を操作することによってロータ20の回転数とトルクを調節できる。図面を用いた説明は省略するが、外側シール部材69の位置を適正に決定することにより、圧力空気が弁部材60と末端側軸受ケース43の隙間から漏れることを防止し、調節量に応じた安定した回転数とトルクが得られる。
【0040】
なお、以上の説明では、シール部材68,69はOリングで形成したが、これらは接着剤(例えば、シリコン接着剤)で形成することもできる。
【0041】
また、以上の説明では、ロータ20の突出部25,26はロータ本体21に一体的に形成したが、突出部25,26を別部材で構成し、これをロータ本体21に固定してもよい。この場合、別部材の突出部とロータ本来21の接触面を通じて圧力空気が漏れるのを防止するため、両者の間にシール材料又は接着剤を介在することが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
10 ハンドピース
11 ハンドピース本体
12 切削工具
13 エアモータ
14 ハウジング(筐体)
15 中心軸(第1の中心軸)
16 末端側ハウジング部
17 基端側ハウジング部
18 調整部
20 ロータ
21 ロータ本体
22 シャフト
23 末端側軸受
24 基端側軸受
25 末端側突出部
26 基端側突出部
27 末端側軸受シート
28 基端側軸受シート
29 円筒外周面
30 末端側端面
31 基端側端面
32 放射溝
33 羽根(ベーン)
34 ばね
35 ロータケース
36 円筒外周面
37 円筒内周面
38 中心軸(第2の中心軸、偏心軸)
39,40 拡大部
41 羽根の外周端部
42 加圧室
43 末端側軸受ケース
44 内周円筒部
45 羽根の末端側端面
46 接続ガイド
47 ボタンシート
48 固定リング
50 基端側軸受ケース
51 末端側端面
52 凹所(軸受収容室)
53,54,55 通気路
56 基端側端面
57,58,59 口部
60 弁部材(調節弁)
61 末端側端面
62 基端側端面
63 給気路
64 排気路
65 給気路口部(出口)
66,67 環状溝
68,69 シール部材
70 口部(排気入口)
71 口部(排気出口)
72 連結ピン
73 貫通孔
74 ブッシュ
75 給気路
76 排気路
80 内側シール部材に囲まれた領域
81 外側シール部材に囲まれた領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14