(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記密閉容器が、密閉容器内の炭酸ガス濃度を測定する炭酸ガス濃度検知部を有し、前記密閉容器内の離間した複数位置における炭酸濃度を測定可能である請求項1〜5のいずれか一項に記載の植物体の害虫防除設備。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[害虫防除設備]
本発明の植物体の害虫防除設備(以下、「害虫防除設備」という。)は、植物体を内部に収納する密閉容器と、前記密閉容器内に炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給装置と、を備える。本発明の害虫防除設備によれば、炭酸ガスを用いることにより、優れた安全性、防除性、即効性及び作業性が得られ、化学農薬のように薬剤耐性が発生するおそれもなく、低コストで、複雑な制御を必要とせずに害虫防除を行うことができる。
【0011】
本発明において植物体としては特に限定されるものではなく、食用、観賞用、工業用等の様々な目的で栽培される植物体を適宜選択することができる。
本発明の害虫防除設備によれば、化学農薬を用いずに安全に害虫防除ができるため、特に安全性が求められる食用の植物体、すなわち農作物に対して本発明の害虫防除設備を用いることが好ましい。
また、本発明の害虫防除設備では気体の炭酸ガスを用いるため、化学農薬を用いる場合に比して植物体の各所への拡散性に優れる。そのため、本発明の害虫防除設備は、葉裏に生息する害虫、巻葉性害虫、潜葉性害虫等の、化学農薬の効果が届きづらい害虫が付着し得る植物体を対象とすることも好ましい。
加えて、本発明の害虫防除設備を用いた場合、化学農薬と比して残留毒性を有しないため、化学農薬の残留が特に忌避される植物体、例えば食用に供する際に表皮の除去等が行われない植物体や、化学農薬を組織内に残留させやすい植物体等に適用されることが好ましい。
本発明の害虫防除設備を用いる植物体は、防除を目的とする害虫が確実に付着している植物体に限定されるものではなく、該害虫の付着が疑われる又は該害虫が付着している可能性を有する植物体であってもよい。
【0012】
なお、本発明の害虫防除設備は、各国又は各地域の基準、規制、法令等において炭酸ガスの使用が許可された植物体に対して、該基準、規制、法令等で定められた時期、回数及び程度の範囲内で使用されることが好ましい。例えば日本で使用する場合であれば、米、麦、トウモロコシ等の穀類、栗、いちご、しょうが、柿、切り花、葉たばこ等に対して、農薬登録時に定められた範囲内で用いられることが好ましい。また、本発明の害虫防除設備を用いる場合、植物体を密閉容器内に集めて炭酸ガス処理を行う必要があるため、圃場定植前、苗床(ポット等)の中に仮植された苗木を対象植物体とすることが好ましい。
特に、本発明の害虫防除設備を用いた場合、いちご等に付着するハダニを効果的に防除可能であることから、対象植物体をいちごの苗木とすることが好ましい。
【0013】
本発明の害虫防除設備が備える密閉容器は、目的とする植物体の1以上を内部に密閉して収納することが可能なものであれば、その大きさ、形状等は特に限定されるものではない。例えば、比較的大きな密閉容器としては密閉可能な部屋、倉庫、サイロ、天幕、ビニールハウス等を用いてもよく、比較的小さな密閉容器としては密閉可能な袋状構造体、箱等を用いてもよく、収納を目的とする植物体の大きさ、量等に応じて適宜選択し得る。
なお、本発明では炭酸ガスを用いるため、密閉時の内部と外部とのガス交換が発生しないことが好ましく、気体が流通不可能な状態に密閉可能、即ち気密可能な容器を用いることがより好ましい。そのため、密閉容器の素材としては、炭酸ガスを透過しない素材を用いることが好ましく、炭酸ガスを透過しないガスバリアーシート、塗料、コンクリート、金属、水等を単独または組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明の害虫防除設備が備える炭酸ガス供給装置は、密閉容器内に炭酸ガスを供給するものである。炭酸ガス供給装置としては特に限定されるものではなく、例えば、炭酸ガスボンベ、炭酸ガス充填タンク等の炭酸ガス供給源、該炭酸ガス供給源と密閉容器とを接続する配管等を備えた炭酸ガス供給装置が挙げられる。
【0015】
本発明における密閉容器は、炭酸ガスの注入に用いられるガス注入用開閉口と、空気抜き用開閉口とを有することが好ましい。また、これら開閉口とは別に、排気開閉口を有していてもよい。なお、ガス注入用開閉口、空気抜き用開閉口、排気開閉口は、いずれも密閉容器外側にバルブを備え、任意に開閉可能であることが好ましい。本発明では、バルブを有する開閉口も含めて、開閉口と称する。
空気抜き用開閉口は、炭酸ガス供給前に密閉容器内を満たしていた空気を抜く際に用いることができる。また、密閉容器内の植物体に対する炭酸ガス処理終了後に、密閉容器内の炭酸ガスを抜く際、密閉容器内が負圧とならないよう、空気を密閉容器内に導入する際に用いることができる。
【0016】
密閉容器内に注入されたガスがそのまま排出されないようにするために、ガス注入用開閉口に接続されたガス供給経路の端部と、空気抜き用開閉口に接続された空気抜き経路の端部とは離れた位置に設けられることが好ましい。
また、注入するガスは炭酸ガス、又は後述するような炭酸ガスと空気との混合炭酸ガスであるため、空気に対して比重が大きい。そこで、密閉容器の側面下部にガス注入用開閉口及び該ガス供給用開閉口に接続されたガス供給経路の端部を配置し、密閉容器内における前記ガス供給経路の端部の配置位置とは対角線上となる端部に空気抜き用開閉口に接続された空気抜き経路の端部を設けることが好ましい。このような構成とすることにより、注入した炭酸ガスがそのまま排出されることがない。また、炭酸ガス供給時、密閉容器内上部に配置された空気抜き経路の端部から、空気抜き経路を介して比重の小さい内部の空気を効率良く排出できる。
【0017】
通常、炭酸ガスは炭酸ガス供給源(例えば、炭酸ガスボンベ、炭酸ガス充填タンク等)から供給される。炭酸ガス供給源から密閉容器内へ直接炭酸ガスを供給する場合、供給される気体中の炭酸ガスの濃度はほぼ100vol%となる。本発明において植物体の処理に用いる密閉容器内炭酸ガスの濃度は特に限定されるものではなく、炭酸ガスが植物体に及ぼす薬害の程度、用いる植物体の種類、密閉容器内において植物体を処理する時間等に応じて適宜決定することができるが、例えば、対象とする植物体がいちごの苗木である場合には、80vol%未満であることが好ましく、20〜75vol%であることが好ましく、40〜60vol%であることがより好ましい。
【0018】
植物体に対する処理時の密閉容器内炭酸ガス濃度を上記好ましい範囲内とする方法は特に限定されるものではない。例えば、密閉容器内に元来充満されていた空気の一部を、供給した炭酸ガスで置き換えて所望の炭酸ガス濃度とする方法;密閉容器内に充満されていた空気の略全量を抜き出し、予め調整された所望濃度の炭酸ガス(他のガス又は空気との混合炭酸ガス)を供給する方法、等が挙げられる。
なかでも、炭酸ガス濃度の調節が容易となり、且つ注入する炭酸ガスの濃度を一定濃度以下とすることで作業者の危険性が弱まることから、空気等を用いて適度に希釈された混合炭酸ガスを用い、必要に応じて該混合炭酸ガスを、密閉容器内の空気等でさらに希釈して所望濃度として用いることが好ましい。
【0019】
予め調整された濃度の炭酸ガス(混合炭酸ガス)を供給する方法としては、例えば炭酸ガス供給装置から供給された炭酸ガスを、エジェクターを介して空気を混和しつつ供給し、混合炭酸ガスとする方法、炭酸ガス供給装置と、原料空気供給装置とを設け、混和して混合炭酸ガスとする方法等が挙げられる。
なお、ここで予め調整された濃度の炭酸ガスとは、最終的に植物体の処理に用いる所望濃度の炭酸ガスであってもよく、該所望濃度よりも濃い濃度の炭酸ガスであって、容器内の空気によって後に希釈されるものであってもよい。
【0020】
なかでも、エジェクターを用いた場合、害虫防除設備に必要となる装置が減り、簡便且つ安価に炭酸ガス濃度を調整できるため好ましい。例えば、密閉容器のガス注入用開閉口に配管等を介してエジェクターを接続し、該エジェクターに炭酸ガス供給装置を接続することにより、エジェクターを介して炭酸ガス供給装置と密閉容器とが接続され、エジェクターによって炭酸ガス濃度を調整することができる。
より具体的には、エジェクターの排気口が、配管を介してガス注入用開閉口に接続され、該エジェクターの給ガス口が、炭酸ガス供給手段、第一の圧力調整器、第一の流量計及び第一のニードルバルブに配管を介して接続され、該エジェクターの吸気口が、空気を吸入し、該吸気量を調整する絞りに接続され、外気の空気を調整して吸気する構成が挙げられる。このような構成とすることで、第一の圧力調整器にて炭酸ガスの圧力を調整し、且つ第一の流量計及び第一のニードルバルブを用いて炭酸ガス供給量を調整した上で、該炭酸ガスと吸気された空気とを混和することにより、予め調整された濃度の炭酸ガスを密閉容器内に供給できる。なお、本発明において配管とは、内部空間を用いて気体や流体を輸送し得るものであれば特に限定されるものではなく、硬質な金属管であってもよく、樹脂製の軟質なチューブ、ダクトホース等であってもよい。
【0021】
なお、原料空気供給装置を設ける場合であれば、以下のような構成を採用することができる。
炭酸ガス供給装置が、炭酸ガス供給源と、炭酸ガス供給源に配管を介して接続された第一の圧力調整器、第一の流量計及び第一のニードルバルブと、原料空気供給源と、原料空気供給源に配管を介して接続された第二の圧力調整器、第二の流量計及び第二のニードルバルブとを有し、炭酸ガスと原料空気との混合炭酸ガスを密閉容器内へ供給する。この構成では、第一の圧力調整器及び第二の圧力調整器が存在することにより、炭酸ガスの圧力と原料空気との圧力をそれぞれ所望の圧力(例えば同じ圧力)に調整することができ、圧力が調整された炭酸ガス及び原料空気を、第一及び第二の流量計、並びに第一及び第二のニードルバルブを用いて、所望の比率で供給し、混合することができる。
【0022】
上述のように本発明において炭酸ガスは、濃度を予め調整された状態で密閉容器内に供給されることが好ましい。濃度調整がなされた炭酸ガス(混合ガス)をガス注入用開閉口から注入しつつ、密閉容器内に充満していた空気を空気抜き用開閉口から必要に応じて排出し、所望の密閉容器内炭酸ガス濃度となった時点で開閉口を何れも閉じる。その後、後述するように必要に応じてファンを稼働させて内部の炭酸ガス濃度を均一化させた後、植物体に付着した害虫の防除を行うことができる。
【0023】
本発明における密閉容器は、密閉容器内の炭酸ガス濃度を測定するための炭酸ガス濃度検知部を備えることも好ましい。密閉容器内の炭酸ガス濃度を適宜測定し、ガス供給装置、空気抜き用開閉口、エジェクター等を用いて密閉容器内の炭酸ガス濃度を適切な範囲内に調整することにより、炭酸ガスが低濃度となることによる防除能の低下抑制や、炭酸ガスが過度に高濃度となることによる植物体への毒性(例えば植物体の枯れ、生育障害等)の抑制ができる。
また、上述したように炭酸ガスは比重の大きいガスであり、密閉容器内の下部に滞留する性質を有するため、前記炭酸ガス濃度検知部は、前記密閉容器内の離間した複数位置における炭酸濃度を測定可能であることが好ましく、密閉容器内の下部、中部、上部、炭酸ガス供給部位等の互いに離間した複数位置の炭酸ガス濃度を測定できることがより好ましい。
【0024】
さらに、本発明における密閉容器は、温度調整器を有することも好ましい。防除を目的とする害虫の行動が活発となる温度で植物体を維持することにより、植物体に付着した害虫の活動が活発となり、より迅速且つ効果的に害虫を防除することができる。なお、設定する温度は害虫の種類に応じて適宜決定することができ、例えば20〜30℃程度、より具体的には25〜30℃程度で処理を行うことができる。
【0025】
本発明における密閉容器は、その内部に植物を収容可能な棚やコンテナを設けることも好ましい。棚やコンテナを設けることにより、植物体を密閉容器内に積み上げることができるため、より多くの植物体を密閉容器内に収容して炭酸ガスによる防除処理を行うことができる。
【0026】
本発明の害虫防除設備は、密閉容器内の気体の流動を促進しうるファンを備えていることも好ましい。
密閉容器がファンを備えることにより密閉容器内の気体を循環させて気体成分の均一化が図れる。それにより、植物体の一部のみが炭酸ガスに暴露されることがなくなり、容器内の複数の植物体のすべて、又は植物体一個体の全域に亘って防除効果が得られる。また、植物体の一部のみが高濃度の炭酸ガスに暴露されて薬害が発生することを防ぐことができる。
ファンの設置方法は特に限定されるものではなく、気体を循環させるためのファン(サーキュレーター)本体を密閉容器内に設置してもよい。また、ファン(ブロワー)を密閉容器外に設置し、密閉容器内の気体を配管を介して抜き出し、密閉容器内に戻すことによって、密閉容器内に緩やかな気流を生じさせてもよい。
なかでも、密閉容器内にファンを設置することによる植物体への影響を考慮すると、密閉容器外にファンを設置することが好ましい。密閉容器外にファンを設置する場合、ファンは専用の吸気口及び排気口並びに配管を介して密閉容器と接続されていてもよく、密閉容器が有する空気抜き用開閉口及び排気開閉口を併用し、ファン専用の配管を介して密閉容器と接続されていてもよい。後者の場合、密閉容器の有する開口部数を少なくすることができるため設備が簡素となり好ましい。具体的には、密閉容器が有する排気開閉口と、前記空気抜き用開閉口とが、配管を介して該ファンと接続され、密閉容器内の気体を循環させることが好ましい。
【0027】
本発明の害虫防除設備がファンを備える場合、該ファンは、炭酸ガス処理後において、密閉容器内の炭酸ガスを排出する際にも用いることができる。
密閉容器外に設置されたファンを用いる場合であれば、密閉容器が有する排気開閉口とファンとを配管を介して接続し、ファンの作用により密閉容器内の気体を排出することができる。ファンを用いることにより、密閉容器内の炭酸ガスを迅速に排出することができる。
また、密閉容器内には高濃度の炭酸ガスが存在するため、炭酸ガス排出時には作業者の安全確保が重要となる。このとき、配管を接続したファンを用いて、この配管の先端から炭酸ガスを排出することにより、作業者や密閉容器から離間した場所に炭酸ガスを放出することができ、作業者の安全性を高めることができる。
【0028】
なお、密閉容器を略密閉とした状態で炭酸ガスの排出を行う場合、排出時に密閉容器内が負圧とならないよう、密閉容器内に外気(空気)を取り込み可能な状態としておくこともよい。天幕、ビニールハウス等の負圧により形状が変化し得る構造体を密閉容器として用いる場合、特に密閉容器内を負圧としないことが好ましい。具体的には例えば、空気抜き用開閉口を開放し、排気の際の空気取り込み口として使用することにより、密閉容器内を負圧とせず炭酸ガスを排出できる。
一方で、密閉容器として堅牢な構造物である倉庫やサイロ等を用いる場合であれば、炭酸ガス排出時に密閉容器内を意図的に負圧とすることにより、土中や植物体中に浸透した炭酸ガスを排出させることもできる。負圧を用いて炭酸ガスを排出させることにより、炭酸ガス処理後において植物体中又はその付近に炭酸ガスが残留することを防ぐことができる。
【0029】
[植物体の害虫防除方法]
本発明の植物体の害虫防除方法は、植物体の害虫を防除する方法であって、前記密閉容器内において、植物体が、炭酸ガスを含有する雰囲気に暴露される炭酸ガス処理工程と、前記炭酸ガス処理工程の後、前記植物体に水を接触させる水接触工程と、を有する。本発明の植物体の害虫防除方法は、上述した植物体の害虫防除設備を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の害虫防除方法に用いられる害虫防除設備、密閉容器、植物体の種類、炭酸ガスは上述の通りである。
【0031】
本発明の方法において、炭酸ガス処理工程で植物体が炭酸ガスに暴露される時間は特に限定されるものではなく、用いる植物体の種類、その炭酸ガス耐性、防除を目的とする害虫の種類、炭酸ガス濃度、炭酸ガスを農薬として用いる場合の使用基準・規制・法令等に鑑みて適宜決定することができる。例えばイチゴに付着し得るハダニ類(ナミハダニ)の害虫防除を行う場合であれば、好ましくは80vol%未満、より好ましくは20〜75vol%、さらに好ましくは40〜60vol%の炭酸ガスで24時間の処理を行うことが好ましい。
【0032】
また、本発明の炭酸ガス処理工程に供される植物体は、炭酸ガス処理工程の直前に水分を付与されないことが好ましい。具体的には、植物体、又は植物体と接触して植物体を支持する支持体に、炭酸ガス処理工程の0.5時間前(好ましくは1〜6時間前)以降に、水分を散水しない、又は、水分を含浸させないことが好ましい。
炭酸ガス処理工程に供される植物体が、その表面又は内部に水分を多く含む場合、炭酸ガスによる防除能が劣るおそれがある。これは植物体表面に付着した害虫や害虫の卵が水滴に覆われ、炭酸ガスが浸透しないためと考えられる。植物体が内部に水分を多く含む場合も、炭酸ガス処理工程中に植物体の地上部から蒸散により水が多く発生及び付着するため、同様に防除効果に劣るおそれがある。
また、植物体表面の水分に処理中の炭酸ガスが接触した場合、水分は炭酸水となりうる。植物体表面に炭酸水が付着することにより、植物体に害を及ぼすおそれがあるため、この観点からも植物体表面又は内部の水分は存在しない又は少ないことが好ましい。
【0033】
本発明の害虫防除方法において、水接触工程は、炭酸ガス処理工程を終えた植物体に、水分を接触させるものである。植物体への水分の接触方法は植物体の葉、花、実、芽、茎、根等の少なくとも一部分に、意図的に水分を接触させるものであればその方法は特に限定されるものではない。植物体に水分を接触させることにより、植物体表面に付着した炭酸ガスや炭酸水を除去することができる。水分の接触方法は、付着した炭酸ガスや炭酸水を直接洗い流すものであってもよく、植物体に水分を吸収させて、植物体の蒸散により自発的に洗い流させるものであってもよい。これにより、炭酸ガス処理工程後において、炭酸ガスや炭酸水が植物体に害を及ぼす可能性を低減できる。
【0034】
上記のように、本発明の植物体の害虫防除方法では、炭酸ガス処理工程後に水分を接触させるものであって、且つ、炭酸ガス処理工程前に水分を付与しないことが好ましい。よって、本方法では、植物体、又は植物体に接触して植物体を支持する支持体(例えば苗床中の苗床)の水分含有量は、水接触工程後に比して、炭酸ガス処理工程前において少なくなることが好ましい。
【0035】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。図中、同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、特徴部分を明示するため、すべての図面において縮尺は実際の態様と必ずしも一致していない。
【0036】
<第一の実施形態>
第一の実施形態に係る本発明の害虫防除設備は、エジェクターを用いて炭酸ガス及び空気を密閉容器内に供給し、且つ、循環用ファンを有するものである。
図1は、枠付き棚及び植物苗箱を有する本発明の害虫防除設備(気密ファスナーを使用した害虫殺虫バッグ設備一式)における、炭酸ガス供給時の構成を示す概略正面図である。
【0037】
害虫殺虫バッグ1は、前面と後面となる部分の下部以外の三方に、片方の端部分を始点とし、もう一方の端部分を終点とする気密ファスナー2がついており、開口時に枠付き棚3を搬入することができる。
害虫殺虫バッグ1の袋部分は、熱溶着や高周波溶着を行うためのポリオレフィン系樹脂やポリ塩化ビニール等からなるフィルム層と、アルミ蒸着したポリエステルやエチレン−ビニルアルコール共重合体等からなるガスバリアーフィルム層とを多層に積層したガスバリアーシートを溶着して作製されており、気密ファスナー2の取付けは気密ファスナー2の樹脂製テープ部分と害虫殺虫バッグ1とを溶着して行う。気密ファスナー2の形状と材質は溶着部分の密閉性と気密性を保てるものであれば特に制限はないが、嵌合強度や密閉性に優れるテープにエレメントがついてスライダーで開閉するタイプの止ファスナーで、錆びない合成樹脂製のものが好ましい。
【0038】
また、気密性のある部屋を密閉容器として使用する場合は、部屋全体を炭酸ガス遮断性のアクリルゴム製塗料や金属、コンクリートで隙間なく覆い、開閉扉の気密を維持させるため隙間部分を金属テープで目張りする。
水封方式を建物内で実施する場合は、天井部と周辺部とを覆うカバーを前記ガスバリアーシートで作製する。また、水封方式を屋外で実施する場合は、パイプ等を用いて簡単な骨組みを作製し、天井部と周辺部とを覆うカバーを前記ガスバリアーシートで作製し、骨組みに被せる。その後、建物内、屋外のいずれの場合においても、床面となる場所を炭酸ガス遮断性のアクリルゴム製塗料やコンクリートで隙間なく覆うか、前記ガスバリアーシートで覆う。このとき、周辺部カバーは上下に昇降開閉可能とし周辺部カバーが建物又は骨組みの床面に着く場所に溝を凹設しこの溝に水を張り、周辺部カバーのシートの下端部を溝内の水中に突入させ気密性を維持させる。水封方式における混合炭酸ガスの注入方法、密閉容器内部の空気の排出方法、混合炭酸ガスの濃度確認方法や所定温度範囲内とする方法等は害虫殺虫バッグ1の方法と同様である。
【0039】
枠付き棚3は、1段に植物苗箱4を横4列、奥4列、合計16個、また、縦に4段設置できるよう設計されており、最上段の棚を囲む部分には害虫殺虫バッグ1の天井部分を支える枠が設置されており、各棚は苗の植えられた植物苗箱4を載せた場合、上段の棚や害虫殺虫バッグ1の天井部分に葉がつかないような高さの設計になっている。枠付き棚3の材質は植物苗箱4を載せることから金属製で強度のあるものが好ましい。
【0040】
また、ガス注入用開閉口5を害虫殺虫バッグ1の気密ファスナー2の開閉に影響されない面の下部に設置し、天井面の対角線上となる位置に内部の空気を排出するための、空気抜き用開閉口15に接続された配管の端部を配置する。ガス注入用開閉口5には、エジェクター7の排気口に接続された配管を接続する。また、エジェクター7の給ガス口を、炭酸ガスボンベ8に接続した加温式圧力調整器9と減圧後の流量を調整する流量計10とニードルバルブ11と、配管を介して接続する。エジェクター7の吸気口には吸気量を調整する絞り12を接続し外気の空気を吸気できるようにし、エジェクター7に炭酸ガスを流した時に、炭酸ガスと吸気量を調整された空気とが共に害虫殺虫バッグ1に注入されるようにする。害虫殺虫バッグ1内において、ガス注入用開閉口5は、T字状の分岐用継手を有する配管と接続され、配管の分岐先から密閉容器内に混合炭酸ガスが供給される。混合炭酸ガス注入経路に分岐手を設けることにより、混合炭酸ガスの流速を弱めることができるため、害虫殺虫バッグ1内の空気と、混合炭酸ガスとの境界層を極力乱すことなく、効率よく空気層を排出させることができる。
【0041】
害虫殺虫バッグ1内部の上部、中間部、下部の各一か所、及び供給する混合炭酸ガス(ガス注入用開閉口5通過直後)の炭酸ガス濃度を測定できるようガスサンプリング用開閉口13及び炭酸ガス濃度計16を設置する。それぞれの開閉口の構造はチューブを害虫殺虫バッグ1に突設し、ピンチコックやコックで開閉を行うようにする。
【0042】
炭酸ガスと空気の混合ガスを害虫殺虫バッグ1内に注入する方法は、気密ファスナー2とガスサンプリング用開閉口13とを閉じ、ガス注入用開閉口5と空気抜き用開閉口15とを開け、炭酸ガスボンベ8の加温式圧力調整器9で炭酸ガスを減圧し、流量計10とニードルバルブ11を調整して炭酸ガスを流す。害虫殺虫バッグ1内部で所定濃度となる量の炭酸ガスとエジェクター7で絞り12により吸気量を調整した外気(空気)を共に害虫殺虫バッグ1内に注入し、害虫殺虫バッグ1内部に残存していた空気を空気抜き用開閉口15より排出する。
図1の時点ではファン14及びそれに接続された配管は用いられていない。
【0043】
図2は、本発明の害虫防除設備における、密閉容器内気体の撹拌時の構成を示す概略正面図である。
図2の構成では、
図1の構成において、空気抜き用開閉口15を閉め、混合炭酸ガス注入を止め、ガス注入用開閉口5を閉めた後、害虫殺虫バッグ1の外に設置されたファン14が、配管によって排気開閉口6及び空気抜き用開閉口15に接続される。
その後、排気開閉口6及び空気抜き用開閉口15を開き、循環用ファン14を稼働させ、内部の炭酸ガス濃度を均一化させる。
害虫殺虫バッグ1内へのガス注入後はガスサンプリング用開閉口13よりガスを抜き出し、炭酸ガス濃度計16で各位置の炭酸ガス濃度が所定炭酸ガス濃度範囲内であることを確認し、そのまま所定時間放置する。例えば、イチゴ苗で害虫であるハダニを殺虫する場合の混合ガスの炭酸ガス濃度範囲は40%から60%、所定温度範囲は20℃から30℃、所定時間は24時間である。
【0044】
防除処理を行う時は害虫殺虫バッグ1の気密ファスナー2を開き、枠付き棚3を搬入した後、苗の植えられた植物苗箱4を各段に16箱ずつ置く。気密ファスナー2を閉じ、上述の方法によって混合炭酸ガスを害虫殺虫バッグ1内へ注入した後、
図1〜3に図示しないヒーター等の温度調整器で害虫殺虫バッグ1内の環境温度を所定温度範囲内となるよう温度調節する。
【0045】
防除処理中はファン14を稼働させてもよく、稼働させなくてもよい。ファン14を稼働させない場合、排気開閉口6、空気抜き用開閉口15及びガス注入用開閉口5のすべてを閉じておくことができる。
【0046】
図3は、本発明の害虫防除設備における、ガス排出時の構成を示す概略正面図である。
図3の構成では、
図2の構成において、ファン14の吸入口に排気開閉口6からの配管を接続し、排気開閉口6及び空気抜き用開閉口15を開いた状態でファン14を稼働する。このとき、ファン14の排出口に接続された配管の端部を害虫殺虫バッグ1及び作業者から離間した位置に配置した上でファン14を稼働させ、内部のガスを排出する。
炭酸ガス濃度計16で害虫殺虫バッグ1内の炭酸ガス濃度を測定し、所定濃度以下まで炭酸濃度が低下した時点でファン14の排気を止め、気密ファスナー2を開いて、害虫殺虫バッグ1を開放する。その後、苗の植えられた植物苗箱4を取り出し、そのままハウス等に定植する。
【0047】
上記においては、ファン14を用いる例を説明したが、ファン14を用いずに、所定濃度(具体的には20〜75vol%等)の混合炭酸ガスを害虫殺虫バッグ1内に供給して害虫殺虫バッグ1の空気をすべて排出することで、害虫防除処理を行ってもよい。
【0048】
具体的には、気密ファスナー2とガスサンプリング用開閉口13とを閉じ、ガス注入用開閉口5と空気抜き用開閉口15とを開け、炭酸ガスボンベ8の加温式圧力調整器9で炭酸ガスを減圧し流量計10を確認しながらニードルバルブ11を調整して炭酸ガスを流す。注入する混合ガスが所定の炭酸ガス濃度範囲となるよう空気の吸気口であるエジェクター7の絞り12を調整して、吸引する空気量を調整し、炭酸ガスと空気の混合ガスを所定炭酸ガス濃度範囲内として害虫殺虫バッグ1内部に注入し、害虫殺虫バッグ1内部のほぼ全量の空気を空気抜き用開閉口15より排出する。その後、空気抜き用開閉口15を閉め、混合炭酸ガス注入を止め、ガス注入用開閉口5を閉める。炭酸ガス濃度計16で各位置の炭酸ガス濃度が所定炭酸ガス濃度範囲内であることを確認し、そのまま所定時間放置する。内部のガスを排出させる時は、換気を十分にしながら、気密ファスナー2を開いて、苗の植えられた植物苗箱4を取り出し、そのままハウス等に定植する。本態様は、
図1において、排出開閉口6及びファン14のみを備えていない設備に相当する。
【0049】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)気密ファスナーや気密可能な開閉扉や水封方式により密閉でき植物の出し入れが可能な構造で、炭酸ガスを透過しない素材で作られた袋や容器や部屋からなり密閉時には内部と外部のガスの交換が少なく、ガス注入用開閉口と空気抜き用開閉口を持ち、内部のガスを均一化できる循環用ファンを持つことを特徴とする害虫殺虫用設備。
(2)ガス注入開閉口にベンチュリ効果をもつエジェクターやアスピレーターの排気口を接続し、エジェクターやアスピレーターの給ガス口を炭酸ガスボンベや炭酸ガス充填タンクに接続した圧力調整器と減圧後の流量を調整する流量計とニードルバルブからなる炭酸ガスの供給装置と接続し、エジェクターやアスピレーターの吸気口に吸気量を調整する絞りを接続し外気の空気を調整して吸気できるようにしたことを特徴とする(1)の害虫殺虫用設備。
(3)袋や容器や部屋の設備の上部、中間部、下部の内部の炭酸ガス濃度とガス注入用開閉口から投入する炭酸ガスと空気の混合ガス中の炭酸ガス濃度を測定できるようガスサンプリング口または炭酸ガス濃度計検知部を設置することを特徴とする(1)又は(2)の害虫殺虫用設備。
(4)袋や容器や部屋の素材として炭酸ガスを透過しないガスバリアーシートや塗料、金属、コンクリート、水を単独もしくは組み合わせで使用することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(5)袋や容器や部屋の設備内部に植物を収納可能な棚を設置することや、植物を収納するコンテナを段積みで設置することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(6)ガス注入用開閉口を袋や容器や部屋の設備の側面の下部に設置し、その下部や上部の対角線上となる離れた部分に内部の空気を排出する空気抜き用開閉口を設置することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(7)袋や容器や部屋の設備内部または外部に温度調整器を設置し、環境温度を調整できるようにすることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(8)害虫殺虫時は、袋や容器や部屋の設備内部温度を所定温度範囲内となるよう調整し、設備内部に植物を置き密閉し、所定炭酸ガス濃度となる量の炭酸ガスと吸気量を調整した外気の空気をいっしょに設備内部に注入し、設備内部の空気を空気抜き用開閉口より排出後、空気抜き用開閉口を閉め、炭酸ガス注入を止め、ガス注入用開閉口を閉め、循環用ファンを稼働させ、内部の炭酸ガス濃度を均一化させ、所定炭酸ガス濃度範囲内とし、そのまま所定炭酸ガス濃度範囲内かつ所定温度範囲内を保ったまま所定時間で殺虫することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかの害虫殺虫用設備を使用した害虫殺虫方法。
【0050】
(1’)炭酸ガスボンベや炭酸ガス充填タンクに接続した圧力調整器と減圧後の流量を調整する流量計とニードルバルブと、エアーコンプレッサーやその補助エアータンクに接続した圧力調整器と減圧後の流量を調整する流量計とニードルバルブとからなり、それぞれの圧力調整器で炭酸ガスと空気の圧力を同じにし、それぞれの流量計とニードルバルブを用いて、炭酸ガスと空気を所定の比率となるように流して混合し送ガスするガス注入装置を使用し、気密ファスナーや気密可能な開閉扉や水封方式により密閉でき植物の出し入れが可能な構造で、炭酸ガスを透過しない素材で作られた袋や容器や部屋からなり密閉時には内部と外部のガスの交換が少なく、当該ガス注入装置と接続したガス注入用開閉口と空気抜き用開閉口を持つことを特徴とする害虫殺虫用設備。
(2’)袋や容器や部屋の素材として炭酸ガスを透過しないガスバリアーシートや塗料、金属、コンクリート、水を単独もしくは組み合わせで使用することを特徴とする(1’)の害虫殺虫用設備。
(3’)袋や容器や部屋の設備内部に植物を収納可能な棚を設置することや、植物を収納するコンテナを段積みで設置することを特徴とする(1’)又は(2’)の害虫殺虫用設備。
(4’)ガス注入用開閉口を袋や容器や部屋の設備の側面の下部に設置し、その下部や上部の対角線上となる部分に内部の空気を排出する空気抜き用開閉口を設置することを特徴とする(1’)〜(3’)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(5’)袋や容器や部屋の設備の上部、中間部、下部の内部の炭酸ガス濃度を測定できるようガスサンプリング口または炭酸ガス濃度計検知部を設置することを特徴とする(1’)〜(4’)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(6’)袋や容器や部屋の設備内部または外部に温度調整器を設置し、環境温度を調整できるようにすることを特徴とする(1’)〜(5’)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(7’)害虫殺虫時は、袋や容器や部屋の設備内部温度を所定温度範囲内となるよう調整し、設備内部に植物を置き密閉し、炭酸ガスと空気の混合ガスをガス注入用開閉口から設備の内容積と同じ量となるまで設備内部に注入し、設備内部の空気を空気抜き用開閉口より排出後、空気抜き用開閉口を閉め、炭酸ガスと空気の混合ガスの注入を止め、ガス注入用開閉口を閉め、所定炭酸ガス濃度範囲内かつ所定温度範囲内を保ったまま所定時間で殺虫することを特徴とする(1’)〜(6’)のいずれかの害虫殺虫用設備を使用した害虫殺虫方法。
【0051】
(1”)気密ファスナーや気密可能な開閉扉や水封方式により密閉でき植物の出し入れが可能な構造で、炭酸ガスを透過しない素材で作られた袋や容器や部屋からなり密閉時には内部と外部のガスの交換が少なく、ガス注入用開閉口と空気抜き用開閉口を持つことを特徴とする害虫殺虫用設備。
(2”)ガス注入開閉口にベンチュリ効果をもつエジェクターやアスピレーターの排気口を接続し、エジェクターやアスピレーターの給ガス口を炭酸ガスボンベや炭酸ガス充填タンクに接続した圧力調整器と減圧後の流量を調整するニードルバルブ付き流量計とからなる炭酸ガスの供給装置と接続し、エジェクターやアスピレーターの吸気口に吸気量を調整する絞りを接続し外気の空気を調整して吸気できるようにしたことを特徴とする(1”)の害虫殺虫用設備。
(3”)袋や容器や部屋の設備の上部、中間部、下部の内部の炭酸ガス濃度とガス注入用開閉口から投入する炭酸ガスと空気の混合ガス中の炭酸ガス濃度を測定できるようガスサンプリング口または炭酸ガス濃度計検知部を設置することを特徴とする(1”)又は(2”)の害虫殺虫用設備。
(4”)袋や容器や部屋の素材として炭酸ガスを透過しないガスバリアーシートや塗料、金属、コンクリート、水を単独もしくは組み合わせで使用することを特徴とする(1”)〜(3”)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(5”)袋や容器や部屋の設備内部に植物を収納可能な棚を設置することや、植物を収納するコンテナを段積みで設置することを特徴とする(1”)〜(4”)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(6”)ガス注入用開閉口を袋や容器や部屋の設備の側面の下部に設置し、その下部や上部の対角線上となる離れた部分に内部の空気を排出する空気抜き用開閉口を設置することを特徴とする(1”)〜(5”)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(7”)袋や容器や部屋の設備内部または外部に温度調整器を設置し、環境温度を調整できるようにすることを特徴とする(1”)〜(6”)のいずれかの害虫殺虫用設備。
(8”)害虫殺虫時は、袋や容器や部屋の設備内部温度を所定温度範囲内となるよう調整し、設備内部に植物を置き密閉し、注入する混合ガスが所定の炭酸ガス濃度範囲となるよう空気の吸気口の絞りを調整して、炭酸ガスを流し、炭酸ガスと空気の混合ガスを所定炭酸ガス濃度範囲内として設備内部に注入し、設備内部のほぼ全量の空気を空気抜き用開閉口より排出後、空気抜き用開閉口を閉め、炭酸ガス注入を止め、ガス注入用開閉口を閉め、所定炭酸ガス濃度範囲内かつ所定温度範囲内を保ったまま所定時間で殺虫することを特徴とする(1”)〜(7”)のいずれかの害虫殺虫用設備を使用した害虫殺虫方法。
【実施例】
【0052】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[試験例1]
イチゴの苗木を用いて、炭酸ガスによる薬害の程度を調べた。
具体的には、イチゴ苗木(品種:とちおとめ)各40株に対し、本願の害虫防除装置を用いて炭酸ガス濃度100vol%又は60vol%、温度30℃で24時間処理した後、圃場に定植し、定植直後及び7日後の様子を観察した。
100vol%の炭酸ガスで処理したイチゴ苗木は、40株のすべてにおいて葉、葉柄及び葉脈が定植直後に褐変し、7日後には全株が枯死した。一方、60vol%の炭酸ガスで処理したイチゴ苗木、及び炭酸ガス未処理のイチゴ苗木は、定植直後、7日後のいずれにおいても変化が認められず、正常に生育していた。
【0054】
[試験例2]
イチゴの苗木を用いて、炭酸ガスによる薬害の程度を調べた。
具体的には、イチゴ苗木(品種:とちおとめ)各20株を、本願の害虫防除装置を用いて炭酸ガス濃度80vol%又は75vol%、温度30℃で24時間処理した後、圃場に定植し、定植直後及び7日後の様子を観察した。
80vol%の炭酸ガスで処理したイチゴ苗木は、20株のすべてにおいて定植直後に葉の一部が褐変し、それら一部の葉の褐変は7日後も継続していたが、それ以外に問題は認められず正常に生育していた。一方、75vol%の炭酸ガスで処理したイチゴ苗木は、定植直後、7日後のいずれにおいても変化が認められず、正常に生育していた。
【0055】
[実施例1]
イチゴの苗木を用いて、炭酸ガス、又は農薬及び天敵を用いた場合のハダニ防除能及びイチゴへの影響を調べた。
具体的には、イチゴ苗木(品種:とちおとめ)を、本願の害虫防除装置を用いて平成24年8月30日に炭酸ガス濃度60vol%、温度30℃で24時間処理した後、翌日の9月1日に圃場に定植し、炭酸ガス試験区とした。
また、炭酸ガス防除を行っていない対照試験区の同種イチゴ苗木を同日に圃場に定植した。各試験区とも、定植時に古葉は葉掻いた。対照試験区の苗木には、10月10日にサンマイトフロアブル(1000倍希釈)による農薬処理を行い、その後10月29日にダニサラバフロアブル(1000倍希釈)による農薬処理を行った後、11月にはハダニの天敵であるミヤコカブリダニを、10アールあたり2000匹放飼した。
定植後の各試験区の50株を対象として、一定期間ごとに付着したハダニの数を目視で数えた。結果を
図4に示す。
また、定植後の各試験区の50株ずつを対象として、一定期間ごとに複葉数及び花数を数え、それらの総数を算出した。結果を
図5〜6に示す。
上記の結果から、本発明の害虫防除設備を用いた場合、効果的にハダニを防除可能であり、且つイチゴの生育に影響を与えないことが確認できた。したがって、本発明の害虫防除設備を用いることにより、植物の生育に害を与えうる害虫を、化学農薬や複雑な制御装置を使用せずに防除することができ、植物を良好に生育可能であることが分かった。