【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]〜[
2]のように記述される。
[1]構成1
低温軟化タイプのガラスフリットa1と屈伏点が前記低温軟化タイプのガラスフリットa1以上である高温軟化タイプのガラスフリットa2という少なくとも2種類のガラスフリットを含有する
とともに蛍光体粉末a3を含有して成る非可塑性無機原料粉末Aに、カルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末を添加
するとともに寒天粉末又はカラギナンを添加して成ることを特徴とするセラミックス工芸品用の成形材料。
【0010】
ここで、ガラスフリットの屈伏点(降伏点)は、自重及びそれにかかる荷重によって軟化収縮し始める点であり、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis) を用い、5℃/minで昇温して測定した熱膨張曲線において、見掛け上、膨張が停止する温度とする。
【0011】
【0012】
ここで、蛍光体とは、ルミネセンスによって光を放出する物質のことを指し、蓄光(燐光)体も含む。
【0013】
上記構成
1の何れかの成形材料に、さらに、カードラン(β−1,3グルカン;CAS登録番号は54724−00−4)を添加してもよい。寒天粉末としては、例えば、伊那食品工業(株)のUX−30を挙げることができる。
【0014】
[2]構成2
構成
1に於いて、
低温軟化タイプのガラスフリットa1の屈伏点は350℃〜800℃の範囲であり、
高温軟化タイプのガラスフリットa2の屈伏点は500℃〜950℃の範囲であり、
前記非可塑性無機原料粉末Aに於ける、低温軟化タイプのガラスフリットa1と、高温軟化タイプのガラスフリットa2と、蛍光体粉末a3の配合質量比は、低温軟化タイプのガラスフリットa1の成分比が1〜35質量%の範囲、高温軟化タイプのガラスフリットa2の成分比が50〜95質量%の範囲、蛍光体粉末a3の成分比が1〜60質量%の範囲である、
ことを特徴とするセラミックス工芸品用の成形材料。
【0015】
低温軟化タイプのガラスフリットa1の屈伏点は、好ましくは350℃〜750℃の範囲、更に好ましくは500℃〜650℃の範囲、特に好ましくは520℃〜630℃の範囲である。屈伏点が350℃に満たないガラスフリットは、一般的には存在しない。低温軟化タイプのガラスフリットa1の屈伏点が800℃を越えると、成形品の焼成時に高温を必要とするようになり、所望の特性の製品を得られ難くなる。
低温軟化タイプのガラスフリットa1の原料としては、上記の特性を備えるものであれば公知の原料を使用でき、特に限定されない。例えば、東罐マテリアル・テクノロジー(株)の12−3617(屈伏点548 ℃)、日本フリット(タカラスタンダード)のCY0072L1(屈伏点614℃)、日陶産業のM−25(屈伏点650℃)、日陶産業のM−204(屈伏点700℃)等を使用できる。
【0016】
高温軟化タイプのガラスフリットa2の屈伏点は、好ましくは、550℃〜950℃の範囲、更に好ましくは600℃〜800℃の範囲、特に好ましくは650℃〜750℃の範囲である。高温軟化タイプのガラスフリットa2の屈伏点が500℃に満たない場合は、それよりも屈伏点が低温で且つ良好な製品を得られる低温軟化タイプのガラスフリットa1を組合せの相手として選定できない。高温軟化タイプのガラスフリットa2の屈伏点が950℃を越えると、成形品の焼成時に高温を必要とするようになり、所望の特性の製品を得られ難くなる。
高温軟化タイプのガラスフリットa2の原料としては、上記の特性を備えるものであれば公知の原料を使用でき、特に限定されない。例えば、東罐マテリアル・テクノロジー(株)の12−3979(屈伏点690℃)、12−3725(屈伏点710℃)、タカラスタンダード(株)のCK0133(屈伏点650℃)等を使用できる。
ガラスフリットa1、a2としては、環境の観点から無鉛であることが好ましく、発光の美観の観点から無鉛透明フリットが好ましい。
【0017】
前記非可塑性無機原料粉末Aに於ける蛍光体粉末a3の配合質量比は、好ましくは3質量%〜45質量%の範囲、更に好ましくは5質量%〜30質量%の範囲、特に好ましくは7質量%〜25質量%の範囲である。蛍光体粉末a3の配合質量比が1質量%に満たない場合は、所望の発光を得られない。蛍光体粉末a3の配合質量比が60質量%を越えると、成形体を焼成しても焼結不足に陥り易い。
前記非可塑性無機原料粉末Aに於ける低温軟化タイプのガラスフリットa1の配合質量比は、好ましくは1質量%〜30質量%の範囲、更に好ましくは2質量%〜20質量%の範囲、特に好ましくは3質量%〜15質量%の範囲である。低温軟化タイプのガラスフリットa1の配合質量比が1質量%に満たない場合は、成形品の焼成時に、接合剥れが生じ易いため、所望の特性の製品を得るために熟練が必要である。35質量%を越えると、成形品の焼成時に熔融し易く、形状を保持できなくなる可能性が高くなる。
前記非可塑性無機原料粉末Aに於ける高温軟化タイプのガラスフリットa2の配合質量比は、好ましくは55質量%〜95質量%の範囲、更に好ましくは70質量%〜93質量%の範囲、特に好ましくは80質量%〜90質量%の範囲である。高温軟化タイプのガラスフリットa2の配合質量比が50質量%に満たない場合は、成形品の焼成時に熔融し易くなり、形状を保持できなくなる可能性が高い。95質量%を越えると、成形品の焼成時に、接合剥れが生じ易いため、所望の特性の製品を得るために熟練が必要である。
非可塑性無機原料粉末Aには、例えば、石英、長石、シャモット、骨灰、滑石、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、チタニア、コージェライト、チタン酸アルミニウム、フォルステライト、ムライト、ジルコン、フェライト、石灰石、ドロマイト、マグネサイト、炭化珪素、窒化珪素、各種ガラス粉末等を添加することもできる。なお、木節粘土、蛙目粘土、カオリン、セリサイト、陶石、蝋石、ベントナイト等は可塑性無機原料であるが、これらが少量含まれていても全体として非可塑性であれば用いることができる。
【0018】
[粘土質;手びねりやロクロ成形可能な成形材料]
構成
1の非可塑性無機原料粉末A100質量%に対して、それぞれ、
(a)寒天粉末又はカラギナンの外割での成分比を1質量%〜20質量%の範囲、
(b)カルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末の合計の外割での成分比を5質量%〜30質量%の範囲、
(c)カードランの外割での成分比を0質量%〜5質量%の範囲、
としてもよい。そのようにすると、手びねりやロクロ成形可能な粘土質の成形材料を得ることができる。
なお、成形に際して添加する水の量は、構成
1の非可塑性無機原料粉末A100質量%に対して、外割の成分比で、20質量%〜100質量%の範囲、好ましくは30質量%〜80質量%の範囲とする。
【0019】
上記(a)寒天粉末又はカラギナンの外割での成分比は、好ましくは2質量%〜8質量%の範囲である。この成分比が1質量%に満たない場合は、成形品に反り等の形状不良が生じたり、焼成後の製品に黒化等の変色が生ずる等の不具合の可能性がある。20質量%を越えると、造形が困難になる。
上記(b)カルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末の合計の外割での成分比は、好ましくは8質量%〜15質量%の範囲である。この成分比が5質量%に満たない場合は、パサパサになって粘土材料としての所望の成形性を得ることができない。30質量%を越えると、成形体を焼成した場合に収縮が著しい結果となってしまい、通常用途への利用は不適である。
上記(c)カードランの外割での成分比は、好ましくは0質量%〜1質量%である。この成分比が5質量%を越えると、パサパサして造形しにくいという不具合がある。
上述の成形材料(粘土材料)によると、低温焼成可能な粘土成形品を例えばロクロ成形や手びねりで成形できるため、透光性や艶さらには暗所で発光する蛍光特性を備えたガラス工芸系の製品に焼成可能な粘土材料を得ることができる。
【0020】
ここで、構成1で延べたカルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末の混合物について述べる。
カルボキシメチルセルロース粉末の粒径は、好ましくは5〜300[μm]、更に好ましくは10〜200[μm]である。カルボキシメチルセルロース粉末の粒径が5[μm]より小さかったり、300[μm]より大きかったりすると、塩化カルシウム粉末と均一に混じるまでの時間が長くなるという不具合がある。
塩化カルシウム粉末の粒径は、好ましくは1300〜150[μm]、更に好ましくは1000〜350[μm]である。塩化カルシウム粉末の粒径が150[μm]より小さかったり、1300[μm]より大きかったりすると、カルボキシメチルセルロースと均一に混じるまでの時間が長くなるという不具合がある。
カルボキシメチルセルロース粉末と塩化カルシウム粉末の容積比は、好ましくは1.5:8.5〜2.5:7.5の範囲、更に好ましくは2:8である。カルボキシメチルセルロース粉末の占める量が1/10より少ないと、粘土材料を水に溶いて練る時にべたつき易くなるという不具合がある。塩化カルシウム粉末の占める量が7/10より少ないと、造形後の作品に黴が生ずることを防止する効果が不十分になる。
【0021】
[泥漿鋳込みに適した成形材料]
構成
1の非可塑性無機原料粉末A100質量%に対して、それぞれ、
(a1)寒天粉末又はカラギナンの外割での成分比を1質量%〜10質量%の範囲、
(b1)カルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末の合計の外割での成分比を0質量%〜5質量%の範囲、
(c1)カードランの外割での成分比を1質量%〜30質量%の範囲、
とすると、泥漿鋳込みによる成形に適した成形材料を得ることができる。
なお、成形に際して添加する水の量は、構成3の非可塑性無機原料粉末A100質量%に対して、外割の成分比で、30質量%〜150質量%の範囲、好ましくは50質量%〜100質量%の範囲とする。
【0022】
上記(a1)寒天粉末又はカラギナンの外割での成分比は、好ましくは1質量%〜5質量%の範囲である。成分比が1質量%に満たない場合は、成形品に反り等の形状不良が生じたり、焼成後の製品に黒化等の変色が生ずる等の不具合がある。10質量%を越えると、泥漿鋳込みでの造形が困難になる。
上記(b1)カルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末の合計の外割での成分比は、好ましくは0質量%〜1質量%の範囲である。成分比が1質量%を越えると、泥漿鋳込みとしての成形性が悪化する。
上記(c1)カードランの外割での成分比は、好ましくは2質量%〜10質量%である。この成分比が1質量%に満たないと、泥漿鋳込み成形での造形が困難となる。30質量%を越えると、成形体を焼成した場合に収縮が著しい結果となってしまい、通常用途への利用は不適である。
この成形材料(泥漿鋳込みの成形材料)によると、低温焼成可能な粘土成形品を泥漿鋳込みで成形できるため、透光性や艶さらには暗所で発光する蛍光特性を備えたガラス工芸系の製品に焼成可能な泥漿鋳込み材料を得ることができる。
【0023】
また、この成形材料(泥漿鋳込みの成形材料)は、成形に際して添加する水の量を、構成
1の非可塑性無機原料粉末A100質量%に対して、外割の成分比で30質量%〜100質量%の範囲としてスラリーとし、該スラリーを所望の型内に充填した後、マイクロ波による加熱を行って乾燥することができる。
例えば、120℃程度に設定して20秒程加熱し、その後、70℃で10分程度加熱する。これにより、所望の型から脱型する。なお、型の内表面に予めココアバターを塗布しておくと、良好な離型性を得る。
この成形方法によると、所望の成形品を簡単に成形することができる。
【0024】
[構成
2とは別の構成例]
構成
2とは別の成形材料として、下記構成を提供することもできる。
記
構成
1に於いて、
低温軟化タイプのガラスフリットa1の屈伏点は350℃〜800℃の範囲であり、
高温軟化タイプのガラスフリットa2の屈伏点は500℃〜950℃の範囲であり、
前記非可塑性無機原料粉末Aに於ける、低温軟化タイプのガラスフリットa1と、高温軟化タイプのガラスフリットa2と、蛍光体粉末a3の配合質量比は、低温軟化タイプのガラスフリットa1の成分比が25〜90質量%の範囲、高温軟化タイプのガラスフリットa2の成分比が10〜60質量%の範囲、蛍光体粉末a3の成分比が1〜60質量%の範囲である、
ことを特徴とするセラミックス工芸品用の成形材料。
以下、この構成を、構成3−aと言うこととする。
【0025】
構成3−aでは、非可塑性無機原料粉末Aに於ける蛍光体粉末a3の配合質量比は、好ましくは3質量%〜45質量%の範囲、更に好ましくは5質量%〜30質量%の範囲、特に好ましくは7質量%〜25質量%の範囲である。蛍光体粉末a3の配合質量比が1質量%に満たない場合は、所望の発光を得られない。蛍光体粉末a3の配合質量比が60質量%を越えると、成形体を焼成しても焼結不足に陥り易い。
構成3−aでは、非可塑性無機原料粉末Aに於ける低温軟化タイプのガラスフリットa1の配合質量比は、好ましくは30質量%〜80質量%の範囲、更に好ましくは40質量%〜70質量%の範囲、特に好ましくは45質量%〜65質量%の範囲である。低温軟化タイプのガラスフリットa1の成分比が25質量%に満たない場合は、浮き彫りタイプの釉薬としても熔融不足で素地表面に馴染み難い。ガラスフリットa1の成分比が90質量%を越えると、浮き彫り意匠が失われ易くなる。
構成3−aでは、非可塑性無機原料粉末Aに於ける高温軟化タイプのガラスフリットa2の配合質量比は、好ましくは15質量%〜55質量%の範囲、更に好ましくは25質量%〜50質量%の範囲、特に好ましくは35質量%〜45質量%の範囲である。高温軟化タイプのガラスフリットa2の配合質量比が10質量%に満たない場合は、浮き彫り意匠が失われ易くなる。高温軟化タイプのガラスフリットa2の配合質量比が60質量%を越えると、浮き彫りタイプの釉薬としても熔融不足で素地表面に馴染み難い。
【0026】
[釉薬に適した成形材料]
構成3−aの非可塑性無機原料粉末A100質量%に対して、それぞれ、
(a2)寒天粉末又はカラギナンの外割での成分比を1質量%〜20質量%の範囲、
(b2)カルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末の合計の外割での成分比を5質量%〜30質量%の範囲、
(c2)カードランの外割での成分比を0質量%〜5質量%の範囲、
としてもよい。そのようにすると、釉薬として適した成形材料を得ることができる。
【0027】
上記(a2)寒天粉末又はカラギナンの外割での成分比は、好ましくは2質量%〜8質量%の範囲である。成分比が1質量%に満たない場合は、焼成後の製品に黒化等の変色が生ずる等の不具合の可能性がある。成分比が20質量%を越えると、対象成形品の表面に立体的に施した当該の釉薬が所望の形状から逸脱する等の形状不良が生じ易い。
上記(b2)カルボキシメチルセルロース粉末(CMC)と塩化カルシウム粉末の合計の外割での成分比は、好ましくは8質量%〜15質量%の範囲である。成分比が5質量%に満たない場合は、パサパサになって対象成形品の表面に立体形状を施すべき釉薬材料としての所望の成形性を得ることができない。成分比が30質量%を越えると、収縮が著しくなるため対象成形品の表面に形状を維持して焼き付けることが困難である。
上記(c2)カードランの外割での成分比は、好ましくは0質量%〜1質量%である。成分比が5質量%を越えると、パサパサして造形しにくいという不具合がある。
この成形材料(釉薬材料)によると、対象成形品の表面に立体的に意匠を施すことができるとともに、低温焼成可能であるため、対象成形品の表面に透光性や艶さらには暗所で発光する蛍光特性を備えたガラス工芸系の立体模様を形成できる。