(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ねじ山修正刃は、前記被修正ねじを前記ねじ山修正刃と前記当接手段との間に挟んだときに、前記各修正刃の刃先が前記被修正ねじの谷底に接するように配置されており、
前記複数の修正刃の配置方向と直交する方向において形成された前記各修正刃の刃先の前後両方向に前記端面(前記湾曲した傾斜面)を形成することにより、被修正ねじを左右どちら方向に回転させても同様にねじ山修正が容易にできるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のねじ山修正器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実機確認を行ったところ、特許文献1のねじ山修正器では、被修正ねじを強く挟むと、ねじ山修正刃の刃先が破損したねじ山に引っ掛かって回転困難となる。これは、切削力が低いねじ山修正刃の刃先で、被修正ねじの破損したねじ山を真っ直ぐに押し切ろうとするためであると考えられる。このため、特許文献1のねじ山修正器では、ねじ山の破損状態に合わせて非常に細かく被修正ねじを挟む圧力の微調整をしながら、少しずつ破損したねじ山を削り取って修正する必要があった。
【0006】
他方、被修正ねじを挟む圧力が弱いと、被修正ねじがガイドローラーを乗り越えて、ねじ山修正器から外れ易くなる。このため、特許文献1のねじ山修正器は、取り扱いに技術的な熟練を要するので、誰でも簡単にねじ修正ができるというものではなかった。
【0007】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、ねじ山の修正能力が高く、かつ技術的な熟練を要することなく容易にねじ山修正を行うことができるねじ山修正器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のねじ山修正器は、破損したねじのねじ山を修正するねじ山修正器であって、被修正ねじの回転による進行方向に沿って配置された複数の修正刃を有し、各修正刃が被修正ねじのねじ山間に噛み合うねじ山修正刃を、被修正ねじに当接させ、前記ねじ山修正刃との間で被修正ねじを挟み込む当接手段とを備えており、前記修正刃の配置方向と直交する方向における前記修正刃の端面は、前記ねじ山修正刃の厚さ方向において、内側に傾斜した湾曲した傾斜面が形成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、修正刃の角が湾曲した傾斜状態でねじ山の破損部分に当接するので、修正刃の角が破損部分をそのまま真っ直ぐ押し切ろうとする作用が弱まるとともに修正刃の角による切削力が高まり、無理のない切削が実現される。修正刃の角により破損部分が削り取られた後も、さらに被修正ねじを回転させると、破損部分に修正刃の側面が当接し、修正刃によって破損部分が、元の状態に向けて押し戻されるようになり、塑性変形によりねじ山が元の状態に修正されて行く。すなわち、本実施形態では、修正刃に湾曲した傾斜面を有することにより、被修正ねじを回転させると、修正刃による被修正ねじの破損部分の切削(第1段階)とこれに続く破損部分の塑性変形(第2段階)の2段階の作用が発揮され、ねじ山修正が円滑になるとともに、修正能力が高まることになる。このことにより、被修正ねじを強く挟んでも、被修正ねじを無理なく回すことができる上、ねじ山の修正能力が高く技術的な熟練を要することなく容易にねじ修正を行うことができる。
【0010】
前記本発明のねじ山修正器においては、前記ねじ山修正刃は、前記被修正ねじを前記ねじ山修正刃と前記当接手段との間に挟んだときに、前記修正刃の刃先が、前記被修正ねじの谷底に接するように配置されている。
【0011】
この構成によれば、被修正ねじと修正刃とを噛み合わせた状態において、被修正ねじの外周と修正刃の谷底とが接触するところ、被修正ねじの外周は円形であるので、修正刃の刃元と被修正ねじの外周との間に隙間が形成される。この隙間により、被修正ねじを強く挟んで被修正ねじを回転させても、修正刃が被修正ねじに引っ掛かることが防止され、被修正ねじを挟む圧力の調整が容易になり、ねじ山修正も容易になる。
【0012】
さらに、隙間は被修正ねじの回転が進むと次第に小さくなり、前記の接点において最終的には無くなる。隙間が小さくなるにつれて、破損部分は、修正刃の側面で次第に押し戻され、このことは破損部分を正規位置へ塑性変形させるように作用し、ねじ山修正に有利になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、修正刃に湾曲した傾斜面が形成されていることにより、被修正ねじを回転させると、修正刃による被修正ねじの破損部分の切削(第1段階)とこれに続く破損部分の塑性変形(第2段階)の2段階の作用が発揮され、ねじ山修正が円滑になるとともに、修正能力が高まることになる。このことにより、被修正ねじを強く挟んでも、被修正ねじを無理なく回すことができる上、ねじ山の修正能力が高く技術的な熟練を要することなく容易にねじ修正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るねじ山修正器の斜視図。
【
図5】
図1に示したねじ山修正器に被修正ねじを装着した状態を示す斜視図。
【
図6】本発明の一実施形態に係るねじ山修正刃の単体の平面図。
【
図8】被修正ねじのねじ山の破損状態を示す概略図。
【
図9】本発明の一実施形態に係るねじ山修正刃の一部を拡大した斜視図。
【
図10】比較例に係るねじ山修正刃の一部を拡大した斜視図。
【
図11】比較例に係るねじ山修正器を用いたねじ山修正時の要部を示す図。
【
図12】本発明の第1の実施形態に係るねじ山修正器を用いたねじ山修正時の要部を示す図。
【
図13】本発明の第1の実施形態において、被修正ねじのねじ山と修正刃との噛み合いを示す部分拡大図。
【
図15】本発明の第2の実施形態に係るねじ山修正器の斜視図。
【
図16】本発明の第3の実施形態に係るねじ山修正器の斜視図。
【
図17】本発明の第4の実施形態に係るねじ山修正器の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るねじ山修正器について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係るねじ山修正器は、被修正ねじ(ねじ山の一部が破損したねじ)を装着し、被修正ねじ又はねじ山修正器1を回転させながら、破損したねじのねじ山を元通りのねじ山に近づけて修正する器具である。
図1は本発明の第1の実施形態に係るねじ山修正器1の斜視図、
図2は側面図、
図3は平面図、
図4は正面図である。
【0016】
図1,2に示したように、本体2には被修正ねじへの当接手段であるガイドローラー3が軸4を介して回転可能に取り付けられている。圧力調整ねじ5は本体2及び移動支持片6に螺合している。圧力調整ねじ5は圧力調整ノブ7と一体になっている。移動支持片6にはねじ山修正刃8が固定されている。本実施形態では、ワッシャ12を介して、取り付けねじ11で移動支持片6に締め付けて、ねじ山修正刃8を移動支持片6に固定している。
【0017】
図4に示したように、移動支持片6の凸部10が本体2の凹溝9に係合している。
図1の圧力調整ノブ7を回転させることにより、これと一体の圧力調整ねじ5が回転する。この回転方向に応じて、移動支持片6は凸部10が凹溝9に沿ってスライドしながら前進又は後退し、移動支持片6と一体のねじ山修正刃8も前後に直線移動する。このことにより、ねじ山修正刃8とガイドローラー3との間の間隔調整が可能になる。
【0018】
図5は、ねじ山修正器1に、修正対象である被修正ねじ15を装着した状態を示す斜視図である。あらかじめ、ねじ山修正刃8とガイドローラー3との間隔を被修正ねじ15の直径より大きくした状態で、ねじ山修正刃8とガイドローラー3との間に被修正ねじ15を配置し、圧力調整ノブ7を回転させることにより、被修正ねじ15はねじ山修正刃8とガイドローラー3とで押圧された状態で保持される。この状態で、被修正ねじ15又はねじ山修正器1を回転させることにより、被修正ねじ15のねじ山16の破損部分がねじ山修正刃8により修正される。この詳細は後に説明する。
【0019】
図6はねじ山修正刃8の単体の平面図を示している。矩形状のねじ山修正刃8の各片には複数の修正刃20が形成されている。複数の修正刃20の各刃は、
図5に示した被修正ねじ15の軸方向、すなわち被修正ねじ15の回転による進行方向(矢印a方向)に沿って配置されている。修正刃20は被修正ねじ15のねじ山間に噛み合うように形成されている。ねじ山修正刃8の各片の修正刃20は、それぞれピッチが異なっており、ピッチの異なる被修正ねじ15に対応できるようになっている。具体的には、
図1において、取り付けねじ11を緩めてねじ山修正刃8を回転させて、ガイドローラー3に対向する修正刃20を、被修正ねじ15のピッチに合った修正刃20にすればよい。
【0020】
図7は
図6のAA線における断面図であり、修正刃20の配置方向と直交する方向における断面図である。修正刃20の断面は、ねじ山修正刃8の厚さ方向において、内側に傾斜した湾曲した傾斜面21が形成されている。この湾曲した傾斜面21を有することにより、被修正ねじ15を回転させると、修正刃20による被修正ねじ15の破損部分の切削とこれに続く破損部分の塑性変形の2段階の作用が発揮され、修正が円滑になるとともに、修正能力が高まることを見出した。このような効果が得られる理由は、次のように考えられる。
【0021】
図8は、被修正ねじ15のねじ山の破損状態を示す概略図である。ねじ山は谷底25から頂き26に向けて突出している。破損部分27においては、頂き26が潰れてねじ山が横方向に延出している。破損部分27の潰れが大きい場合や破損部分27が複数のねじ山に形成されると、ねじとしての機能を全く果たさなくなる事態も生じ得る。
【0022】
図9は本実施形態に係るねじ山修正刃8の一部を拡大した斜視図であり
図10は比較例に係るねじ山修正刃54の一部を拡大した斜視図である。
図9の本実施形態に係るねじ山修正刃8では、修正刃20は湾曲した傾斜面21と側面22とが交わった稜線の部分に角23が形成されている。
図10の比較例に係るねじ山修正刃54では、湾曲した傾斜面21に相当する形状はなく、修正刃50は平面部と側面52とが交わった稜線の部分に角53が形成されている。比較例に係る修正刃50は角53がねじ山修正刃54の厚さ方向には傾斜していないのに対し、本実施形態に係る修正刃20は角23がねじ山修正刃8の厚さ方向において内側に湾曲して傾斜している。
【0023】
図11は比較例に係るねじ山修正器を用いたねじ山修正時の要部を示す図である。被修正ねじ15のねじ山の谷底25と頂き26との間に修正刃50が噛み合っている。頂き26は外周でもあるので、適宜頂き26は外周26と表現する。以下、被修正ねじ15は右ねじとする。被修正ねじ15を回転(矢印b方向)させると、修正刃50の角53に、被修正ねじ15の破損部分27が当接する。この状態では、角53が直交状態で破損部分27に当接する。この当接状態で被修正ねじ15の回転を進めると、角53は破損部分27をそのまま真っ直ぐ押し切ろうとする。
【0024】
しかし、本願発明者が実機確認を行ったところ、比較例では、被修正ねじ15を強く挟むと、修正刃50の角53に破損部分27が引っ掛かって回転困難となる。これは、
図11に示したように、比較例では、角53が破損部分27と直交するためであると考えられる。
【0025】
これに対し、
図12は、
図1に示した本実施形態に係るねじ山修正器1を用いたねじ山修正時の要部を示す図である。
図11と同様に、被修正ねじ15のねじ山の谷底25と頂き26との間に修正刃20が噛み合っている。被修正ねじ15を回転(矢印b方向)させると、修正刃20の角23に、被修正ねじ15の破損部分27が当接する。この状態では、角23が湾曲した傾斜状態で破損部分27に当接する。この当接状態で被修正ねじ15の回転を進めると、角23により破損部分27が無理なく削り取られる。
【0026】
このように無理のない切削が実現されるのは、本実施形態では、角23が比較例のように直交状態で破損部分27に当接するのではなく、湾曲した傾斜状態で破損部分27に当接するので、角23が破損部分27をそのまま真っ直ぐ押し切ろうとする作用が弱まるためであると考えられる。
【0027】
図12において、角23が破損部分27に当接し破損部分27が削り取られた後も、さらに被修正ねじ15を回転(矢印b方向)させると、破損部分27に
図9に示した修正刃20の側面22が当接し、修正刃20の側面22によって破損部分27が、元の状態に向けて押し戻されるようになり、塑性変形によりねじ山が元の状態に修正されて行く。
【0028】
以上によれば、本実施形態では、修正刃20に湾曲した傾斜面21を有することにより、被修正ねじ15を回転させると、修正刃20による被修正ねじ15の破損部分の切削(第1段階)とこれに続く破損部分の塑性変形(第2段階)の2段階の作用が発揮されると考えられる。すなわち、破損部分27は切削後に塑性変形されるので、修正が円滑になるとともに、修正能力が高まることになる。
【0029】
ここで、
図13は被修正ねじ15のねじ山と修正刃20との噛み合いを示す部分拡大図である。
図14は
図13のBB線における断面図である。
図14では、ねじ山修正刃8は、修正刃20の刃先30が、被修正ねじ15の谷底25に接するように配置されている。
図14で示すように被修正ねじ15の中心33を通る中心線34上に刃先30があり、水平方向に配置された複数の修正刃20の配置方向と直交する垂直方向において、修正刃20の刃先30の上下両方向に湾曲して傾斜した傾斜面21を形成することにより、被修正ねじを左右どちら方向に回転させても同様にねじ山修正が容易にできる様になる。
【0030】
図14において、修正刃20のうち、被修正ねじ15の外周26と噛み合う修正刃20の谷底32は、垂直方向において直線状に形成されている。このため、被修正ねじ15の外周26と修正刃20の谷底32は接点28において接触する。これに対し、被修正ねじ15の外周26は円形であるので、修正刃20の刃元31と被修正ねじ15の外周26との間に隙間aが形成される。隙間aにより、被修正ねじ15を強く挟んで被修正ねじ15を回転させても、修正刃20が被修正ねじ15に引っ掛かることが防止される。このことにより、被修正ねじ15を挟む圧力の調整が容易になり、ねじ山修正も容易にできる様になる。
【0031】
さらに、隙間aは被修正ねじ15の回転(矢印b方向)が進むと次第に小さくなり、接点28において最終的には無くなる。隙間aが小さくなるにつれて、破損部分27は、修正刃20の側面22で次第に押し戻され、このことは破損部分27を正規位置へ塑性変形させるように作用し、ねじ山修正に有利になる。
【0032】
以上、本発明の作用効果が発揮されることについて、考えられる理由について説明したが、実機確認を行ったところ、前記内容に沿った結果を確認できた。本実施形態に係る実機においては、被修正ねじ15を強く挟んでも、被修正ねじ15を無理なく回すことができ、この間切り屑が発生した。この修正作業を数回繰り返すことにより、
図8に示した破損部分27の延出部分は、ほぼ無くなり、被修正ねじ15を実使用可能な状態に復元することができた。
【0033】
前記実施形態において、ねじ山修正作業時に被修正ねじ15を回転させる例で説明したが、ねじ山修正器1を回転させてもよい。さらに、被修正ねじ15は右ねじの例で説明したが、左ねじ(逆ねじ)であってもよい。
【0034】
以上、本発明の第1の実施形態について説明したが、以下のような実施形態であってもよい。以下の実施形態においても、修正刃の構成が第1の実施形態と同じであり、ねじ山修正の原理も第1の実施形態と同じである。
【0035】
図15は、本発明の第2の実施形態に係るねじ山修正器1の斜視図を示している。
図1の構成は、ねじ山修正刃8を前後に位置移動させて、ガイドローラー3とねじ山修正刃8との間の間隔調整を行う構成であるが、
図15の構成は、ガイドローラー3を前後に位置移動させて、ガイドローラー3とねじ山修正刃8との間の間隔調整を行う構成である。
図15において、ガイドローラー3は支持体35に取り付けられており、支持体35は支持板36に係合している。この構成では、圧力調整ノブ7を圧力調整ねじ5が進むように回転させることにより、圧力調整ねじ5が支持体35を押し、支持体35は支持板36に沿ってスライドし、ガイドローラー3とねじ山修正刃8との間の間隔調整が可能になる。
【0036】
図16は、本発明の第3の実施形態に係るねじ山修正器の斜視図を示している。本図では、圧力調整ノブ7を回転させることにより、内蔵された圧力調整ねじ5が回転し、これと一体にねじ山修正刃8を支持した支持体37が前後に移動し、ガイドローラー3とねじ山修正刃8との間の間隔調整が可能になる。
【0037】
図17は、本発明の第4の実施形態に係るねじ山修正器の斜視図を示している。
図1の構成では、被修正ねじへの当接手段は、軸4を介して回転可能なガイドローラー3であるが、
図17ではV字状の部材38で形成されている。この構成であっても、被修正ねじを挟み込むことが可能である。また、当接手段はねじ山修正刃8との間で、被修正ねじを挟み込める構成であればよく、他の構成であってもよい。
【解決手段】破損したねじのねじ山を修正するねじ山修正器1であって、被修正ねじの回転による進行方向に沿って配置された複数の修正刃20を有し、各修正刃20が被修正ねじのねじ山間に噛み合うねじ山修正刃8と、被修正ねじに当接させ、ねじ山修正刃8との間で被修正ねじを挟み込む当接手段3とを備えており、複数の修正刃20の配置方向と直交する方向に形成された各修正刃20の端面は、ねじ山修正刃8の厚さ方向において、内側に傾斜した湾曲した傾斜面21が形成されており、被修正ねじのねじ山の谷底に接するように配置された各修正刃20の刃先30の前後両方向に、湾曲した傾斜面21が形成されている。