特許第5776077号(P5776077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776077
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】巻取装置
(51)【国際特許分類】
   B65H 23/198 20060101AFI20150820BHJP
【FI】
   B65H23/198
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-257179(P2013-257179)
(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公開番号】特開2015-113209(P2015-113209A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2014年2月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本設計工学会によって平成25年11月5日に発行された日本設計工学会誌 設計工学 第48巻 第11号にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 亮
(72)【発明者】
【氏名】西村 高博
(72)【発明者】
【氏名】富永 保昌
(72)【発明者】
【氏名】沖廣 誠志
(72)【発明者】
【氏名】橋本 巨
【審査官】 渋谷 善弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−309492(JP,A)
【文献】 特開2002−234649(JP,A)
【文献】 特開2010−042823(JP,A)
【文献】 特開2012−076153(JP,A)
【文献】 特開2012−188221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 19/00−19/30,21/00−21/02,23/18−23/198,26/00−26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して搬送される長尺状のウェブを回転動作によりロール状に巻き取って巻取ロールにする巻取軸と、
該巻取軸に駆動連結された駆動モータと、
該駆動モータに接続され、上記巻取軸で上記ウェブを巻き取る際の巻取張力Tを上記巻取軸の径方向座標に関して表す張力関数T=f(x)(xは巻取長さ)で制御するよう上記駆動モータに作動信号を出力する制御手段とを備え、
該制御手段は、上記巻取ロール内部の接線方向応力σθ、ウェブ層間における摩擦力F及びすべりが生じ始める臨界摩擦力Fcrを少なくともパラメータとする目的関数と、上記ウェブの巻取予定長さが所定値Lで、且つ、上記巻取ロール内部の接線方向応力σθがゼロ以上であるとともに上記摩擦力Fが上記臨界摩擦力Fcr以上となるよう上記目的関数を制約する制約関数とに基づき、該制約関数の設定条件下で上記目的関数である接線方向応力σθがゼロに近づくよう、且つ、摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrに近づくよう演算して得た張力関数TをT=g(x)(xは巻取長さ)とし、ウェブの巻取長さのばらつきの最小値をLmin、最大値をLmaxとすると、上記張力関数T=f(x)のLmin≦x<Lmaxの区間が、張力関数T=f(Lmin)の一定の値となるように、且つ、f(Lmin)>g(Lmin)、f(Lmax)<g(L)を満たすよう上記駆動モータに作動信号を出力することを特徴とする巻取装置。
【請求項2】
請求項1に記載の巻取装置において、
上記張力関数T=f(x)のx<Lminの区間は、上記目的関数と、上記ウェブの巻取予定長さを所定値Lminとした上記制約関数とに基づき、該制約関数の設定条件下で上記目的関数である接線方向応力σθがゼロに近づくよう、且つ、摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrに近づくよう演算して得た張力関数であることを特徴とする巻取装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の巻取装置において、
上記最小値Lminは、上記所定値Lの−10%の値であり、上記最大値Lmaxは、上記所定値Lの+10%の値であることを特徴とする巻取装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の巻取装置において、
上記ウェブを切断する切断手段を備え、
上記巻取軸は、複数設けられ、
上記駆動モータは、複数設けられて上記各巻取軸にそれぞれ駆動連結され、
上記制御手段は、上記切断手段にも接続され、上記ウェブを上記各巻取軸のうちの1つに巻き取る終了間際には、次にウェブを巻き取る未巻取の巻取軸を回転させる駆動モータに当該未巻取の巻取軸を回転させるように作動信号に出力し、且つ、上記未巻取の巻取軸と巻取中の巻取軸との間のウェブ搬送方向上流側で上記ウェブを切断するように上記切断手段に作動信号を出力し、上記未巻取の巻取軸でウェブを巻き取り始める直前に、上記未巻取の巻取軸を回転させる駆動モータに上記ウェブの巻取開始時の巻取張力Tが張力関数T=f(0)の値になるように作動信号を出力することを特徴とする巻取装置。
【請求項5】
請求項4に記載の巻取装置において、
上記張力関数T=f(Lmin)=f(0)であることを特徴とする巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルム等からなる長尺状のウェブを巻き取る巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷機や塗工装置を用いて印刷や塗工を施したプラスチックフィルム等の長尺状のウェブは、巻取装置でロール状に巻き取られて巻取ロールとなって次工程に引き渡される。
【0003】
ところで、巻取ロールにシワや横すべり等の不具合が発生すると、その巻取ロールは次工程で使えなくなってしまう。巻取ロールに発生する不具合は、巻取ロール内部の応力状態が不適切になると発生することが知られ、これに対応するために、例えば、特許文献1の巻取装置では、巻取ロールの内部応力状態を定量的にモデル化し、この内部応力状態モデルに基づき、巻取軸でウェブを巻き取る際の巻取ロール内部の円周方向応力がゼロに近づくように、且つ、巻取ロールのウェブ層間にすべりが出始める摩擦力である臨界摩擦力にウェブ層間の摩擦力が近づくように演算することにより、ウェブの巻取予定長さが所定値の場合における最適な巻取条件を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−188221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ウェブの巻取長さは巻取工程以外の様々な要因によって大きくばらつくことが一般的に知られている。
【0006】
しかし、特許文献1で得られる巻取条件は、ウェブの巻取予定長さを所定値に固定して演算したものであることから、ウェブの巻取長さがばらついて巻取予定長さより短くなった場合には、巻取張力が低過ぎてすべりが発生してしまう一方、ウェブの巻取長さがばらついて巻取予定長さより長くなった場合には、巻取張力が高くなり過ぎてシワが発生してしまう。
【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ウェブの巻取長さが大きくばらついても、巻取時の不具合発生を抑制できる巻取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、巻取終了間際におけるウェブに加わる巻取張力の制御に工夫を凝らしたことを特徴とする。
【0009】
すなわち、第1の発明では、連続して搬送される長尺状のウェブを回転動作によりロール状に巻き取って巻取ロールにする巻取軸と、該巻取軸に駆動連結された駆動モータと、該駆動モータに接続され、上記巻取軸で上記ウェブを巻き取る際の巻取張力Tを上記巻取軸の径方向座標に関して表す張力関数T=f(x)(xは巻取長さ)で制御するよう上記駆動モータに作動信号を出力する制御手段とを備え、該制御手段は、上記巻取ロール内部の接線方向応力σθ、ウェブ層間における摩擦力F及びすべりが生じ始める臨界摩擦力Fcrを少なくともパラメータとする目的関数と、上記ウェブの巻取予定長さが所定値Lで、且つ、上記巻取ロール内部の接線方向応力σθがゼロ以上であるとともに上記摩擦力Fが上記臨界摩擦力Fcr以上となるよう上記目的関数を制約する制約関数とに基づき、該制約関数の設定条件下で上記目的関数である接線方向応力σθがゼロに近づくよう、且つ、摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrに近づくよう演算して得た張力関数をT=g(x)(xは巻取長さ)とし、ウェブの巻取長さのばらつきの最小値をLmin、最大値をLmaxとすると、上記張力関数T=f(x)のLmin≦x<Lmaxの区間が、張力関数T=f(Lmin)の一定の値となるように、且つ、f(Lmin)>g(Lmin)、f(Lmax)<g(L)を満たすよう上記駆動モータに作動信号を出力することを特徴とする。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、上記張力関数T=f(x)のx<Lminの区間は、上記目的関数と、上記ウェブの巻取予定長さを所定値Lminとした上記制約関数とに基づき、該制約関数の設定条件下で上記目的関数である接線方向応力σθがゼロに近づくよう、且つ、摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrに近づくよう演算して得た張力関数であることを特徴とする。
【0011】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記最小値Lminは、上記所定値Lの−10%の値であり、上記最大値Lmaxは、上記所定値Lの+10%の値であることを特徴とする。
【0012】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、上記ウェブを切断する切断手段を備え、上記巻取軸は、複数設けられ、上記駆動モータは、複数設けられて上記各巻取軸にそれぞれ駆動連結され、上記制御手段は、上記切断手段にも接続され、上記ウェブを上記各巻取軸のうちの1つに巻き取る終了間際には、次にウェブを巻き取る未巻取の巻取軸を回転させる駆動モータに当該未巻取の巻取軸を回転させるように作動信号に出力し、且つ、上記未巻取の巻取軸と巻取中の巻取軸との間のウェブ搬送方向上流側で上記ウェブを切断するように上記切断手段に作動信号を出力し、上記未巻取の巻取軸でウェブを巻き取り始める直前に、上記未巻取の巻取軸を回転させる駆動モータに上記ウェブの巻取開始時の巻取張力Tが張力関数T=f(0)の値になるように作動信号を出力することを特徴とする
【0013】
第5の発明では、第4の発明において、上記張力関数T=f(Lmin)=f(0)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明では、巻取予定長さより実際のウェブの巻取長さが長くなっても、巻取終了間際において巻取ロールの最外層付近におけるウェブ層間に働く摩擦力が高くなり過ぎないので、巻取ロールの最外層付近における接線方向応力が負に転じ難くなり、シワの発生を抑制することができる。一方、巻取予定長さより実際のウェブの巻取長さが短くなっても、巻取終了間際において巻取ロールの最外層付近におけるウェブ層間に働く摩擦力が低くなり過ぎないので、巻取ロールの最外層付近における摩擦力が臨界摩擦力を下回り難くなり、ウェブのすべりの発生を抑制することができる。このように、ウェブの巻取長さが大きくばらついても、シワやすべりといった巻取時の不具合発生を抑制することができる。
【0015】
第2の発明では、ウェブを巻き取る際、巻取開始から巻取終了間際までの区間において巻取ロールのウェブ層間における接線方向応力がゼロ以上に維持されるとともに、ウェブ層間における摩擦力が臨界摩擦力以上に維持されるようになるので、巻取ロールの中途部におけるシワやすべりの発生を抑制することができる。
【0016】
第3の発明では、塗工や印刷の業界では、例えば、2000mmの巻取予定長さに対して実際の巻取長さが1800mm〜2200mm程度ばらつくが、このように巻取予定長さに対して実際の巻取長さが±10%ばらついてもシワやすべりといった巻取時の不具合発生を抑制することができる。
【0017】
第4の発明では、2つの巻取軸間において、ウェブの搬送を止めることなくウェブの移行を行うことができる装置においても、各巻取軸で巻き取られた巻取ロールにシワやすべりといった巻取時の不具合を発生しないようにできる。
【0018】
また、巻取終了間際におけるウェブに加わる巻取張力が一定になるので、巻取軸間のウェブの移行時(ウェブ切断時)において、ウェブを案内するガイドローラの撓み量の変化が小さくなり、巻取終了間際のウェブの搬送経路が変化し難くなることで巻取不良の発生を抑制することができる。
【0019】
の発明では、巻取軸間のウェブの移行時(ウェブ切断時)におけるウェブを案内するガイドローラの撓み量の変化が第4の発明に比べてさらに小さくなるので、ウェブ移行時にウェブの搬送経路が大きく変化して巻取不良が引き起こされるといったことを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る巻取装置の概略正面図である。
図2】ウェブを巻取中の巻取軸から未巻取の巻取軸へ移行する直前の状態を示す概略正面図である。
図3】ウェブを巻取中の巻取軸から未巻取の巻取軸へ移行した直後の状態を示す概略正面図である。
図4】巻き取り始めた巻取軸の位置を変更している状態を示す概略正面図である。
図5】巻取装置の巻取時におけるウェブの巻取長さと巻取張力との関係を示した図である。
図6】従来の巻取張力の制御方法でウェブを巻き取る際に取得した各種データであり、(a)は、巻取径と巻取張力との関係を、(b)は、巻取径と接線方向応力との関係を、(c)は、巻取径とウェブ層間の摩擦力との関係を示した図である。
図7】本発明の巻取張力の制御方法でウェブを巻き取る際に取得した各種データであり、(a)は、巻取径と巻取張力との関係を、(b)は、巻取径と接線方向応力との関係を、(c)は、巻取径とウェブ層間の摩擦力との関係を示した図である。
図8】ウェブの巻取予定長さに対する実際の巻取長さの変化の割合と発生頻度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0022】
図1乃至図4は、本発明の実施形態に係る巻取装置1を示す。該巻取装置1は、所謂ターレット式巻取装置と呼ばれるものであり、図示しない印刷機で印刷が施された薄くて柔らかい長尺状のプラスチックフィルムからなるウェブWをロール状に巻き取って巻取ロール11にするものである。尚、図1乃至図4は、本発明の巻取装置1の各構成が見え易くなるように描いている。
【0023】
上記ウェブWの巻取長さは、上記巻取装置1の生産ライン上流側に位置する工程の様々な要因によって大きくばらつくのが一般的に知られ、巻取予定長さを所定値Lとすると、図8に示すように、上記ウェブ長さにおけるばらつきの最小値Lminは、上記所定値Lの−10%の値であり、ばらつきの最大値Lmaxは、上記所定値Lの+10%の値である。
【0024】
上記巻取装置1は、回転方向に等間隔に位置する4つのアーム部21a〜21dを有する略十字形状の回転体2を備え、該回転体2は、水平方向に所定の間隔をあけて対向するように一対設けられている。
【0025】
一方の回転体2中央には、第1駆動モータ3が駆動連結され、上記両回転体2は、上記第1駆動モータ3の回転駆動により、正面視で時計回りに回転するようになっている。
【0026】
上記各アーム部21aの先端間及び上記各アーム部21cの先端間には、それぞれ巻取軸22が回転可能に軸支され、上記各アーム部21bの先端間及び上記各アーム部21dの先端間には、それぞれガイドローラG1が回転可能に軸支されている。
【0027】
上記各巻取軸22には、それぞれ第2駆動モータ4が駆動連結され、該各第2駆動モータ4の回転駆動により、上記各巻取軸22は、正面視で時計回りに回転するようになっている。
【0028】
上記第1駆動モータ3の一側方下部(図1の紙面右側下部)には、上記回転体2から離れるにつれて上方に位置するように傾斜して延びる略L字状の装置固定側フレームFが位置し、該装置固定側フレームFの回転体2側には、上記ウェブWを案内可能なガイドローラG2が回転可能に軸支されている。
【0029】
また、上記第1駆動モータ3の一側方には、上記ガイドローラG2から離間した位置に上記ウェブWを案内可能なガイドローラG3が設けられ、上記ウェブWは、上記ガイドローラG3及びガイドローラG2に順に案内されながら上記第1駆動モータ3の一側方に位置する巻取軸22の下方を搬送され、下側に位置するガイドローラG1によって略V字状に折り返されるとともに、上記第1駆動モータ3の他側方に位置する巻取軸22に向かって搬送されて当該巻取軸22に巻き取られるようになっている。
【0030】
上記装置固定側フレームFの上記ガイドローラG2近傍には、上記ウェブWを切断する切断装置5(切断手段)が配設されている。
【0031】
該切断装置5は、上端が上記装置固定側フレームFに回動可能に軸支された切断フレーム5aを備え、該切断フレーム5aは、水平方向に所定の間隔をあけて対向するように一対設けられている。
【0032】
上記両切断フレーム5aの下端間には、刃部5bが設けられ、図2に示すように、上記両切断フレーム5aが上方に回動することにより、上記刃部5bで搬送中のウェブWを幅方向に切断するようになっている。
【0033】
上記装置固定側フレームFの反回転体2側には、一端が上記装置固定側フレームFに回動可能に軸支された回動フレーム6が水平方向に所定の間隔をあけて一対設けられ、上記両回動フレーム6は、上記回転体2に近づくにつれて下方に位置するように傾斜して延びている。
【0034】
上記両回動フレーム6の他端間には、押付ローラ7が正面視で反時計回りに回転可能に軸支され、該押付ローラ7と上記回動フレーム6とで押付機構8を構成している。
【0035】
上記押付ローラ7は、上記両回動フレーム6が上方に回動することにより、搬送中のウェブWを上記第1駆動モータ3の一側方に位置する巻取軸22に押し付けるようになっている。
【0036】
上記第1駆動モータ3の一側方に位置する巻取軸22上方には、噴霧状の水を下方に吹き出して上記巻取軸22外周面に水を付着させる水付着装置9が配設されている。
【0037】
上記第1駆動モータ3、各第2駆動モータ4、上記切断装置5、上記押付機構8及び上記水付着装置9には、制御装置(制御手段)10が接続されている。
【0038】
該制御装置10は、上記ウェブWを上記第1駆動モータ3の他側方に位置する巻取軸22で巻き取る際、当該巻取軸22を回転させる第2駆動モータ4に、図5に示すように、上記巻取軸22で上記ウェブWを巻き取る際の巻取張力Tを上記巻取軸22の径方向座標に関して表す張力関数T=f(x)(xは巻取長さ)で制御するよう作動信号を出力している(図5に実線で示す)。
【0039】
上記制御装置10は、上記巻取ロール内部の接線方向応力σθ、ウェブW層間における摩擦力F及びすべりが生じ始める臨界摩擦力Fcrを少なくともパラメータとする目的関数と、上記ウェブWの巻取予定長さが所定値Lで、且つ、上記巻取ロール内部の接線方向応力σθがゼロ以上であるとともに上記摩擦力Fが上記臨界摩擦力Fcr以上となるよう上記目的関数を制約する制約関数とに基づき、該制約関数の条件下で上記目的関数である接線方向応力σθがゼロに近づくよう、且つ、摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrに近づくよう演算した張力関数をT=g(x)(xは巻取長さ)とすると(図5に破線で示す)、f(Lmin)>g(Lmin)、f(Lmax)<g(L)を満たすよう上記第2駆動モータ4に作動信号を出力するようになっている。
【0040】
上記張力関数T=f(x)についてさらに詳述すると、上記T=f(x)のx<Lminは、上記目的関数と、上記ウェブWの巻取予定長さを所定値Lminとした上記制約関数とに基づき、該制約関数の設定条件下で上記目的関数である円周方向応力σθがゼロに近づくように、且つ、摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrに近づくように演算して得た張力関数となっている。
【0041】
尚、上述の巻取張力T、Tの張力関数は、例えば、特開2012−46261号公報に開示されている数式を用いて演算されている。
【0042】
また、上記T=f(x)のLmin≦x<Lmaxの区間は、T=f(Lmin)の一定の値となっている。
【0043】
そして、上記制御装置10は、上記巻取中の巻取軸22がウェブWをロール状に所定量巻き取って巻取終了間近になると、図2に示すように、上記第1駆動モータ3の一側方に位置する未巻取の巻取軸22を回転させる第2駆動モータ4に当該未巻取の巻取軸22を回転させるように作動信号を出力するとともに、上記水付着装置9から噴霧状の水を吹き出して上記未巻取の巻取軸22外周面に水が付着するように水付着装置9に作動信号を出力し、且つ、上記回動フレーム6を回動させて上記押付ローラ7で搬送中のウェブWを未巻取の巻取軸22外周面に押し付けるように上記押付機構8に作動信号を出力するようになっている。
【0044】
さらに、上記制御装置10は、上記押付ローラ7で搬送中のウェブWを未巻取の巻取軸22外周面に押し付けた状態で、上記未巻取の巻取軸22と巻取中の巻取軸22との間のウェブ搬送方向上流側で上記切断フレーム5aを回動させて上記刃部5bにより上記ウェブWを切断するように上記切断装置5に作動信号を出力するとともに、上記未巻取の巻取軸22を回転させる第2駆動モータ4に上記ウェブWの巻取開始時の巻取張力Tが張力関数T=f(0)の値になるように作動信号を出力するようになっている。
【0045】
そして、巻き取りを終了して上記第1駆動モータ3の他側方に位置する巻取軸22を回転体2から取り外した後、上記制御装置10は、上記回転体2を回転させる上記第1駆動モータ3に、当該第1駆動モータ3の一側方に位置してウェブWを巻き取る巻取軸22を上記第1駆動モータ3の他側方まで移動させるように作動信号を出力するようになっている。
【0046】
次に、上記巻取装置1におけるウェブWの巻取動作について説明する。
【0047】
まず、図1に示すように、第1駆動モータ3の他側方に位置する巻取軸22を回転させてウェブWに加わる巻取張力Tが予め設定された初期値(T=f(0))から張力関数T=f(x)となるように巻取軸22でウェブWを巻き取る(図5参照)。
【0048】
次いで、巻取中の巻取軸22から未巻取の巻取軸22に上記ウェブWを移行させる過程において、上記第1駆動モータ3の一側方に位置する未巻取の巻取軸22を回転させるとともに、当該巻取軸22外周面に水付着装置9で水を付着させる。
【0049】
その後、回転する未巻取の巻取軸22の外周面に押付ローラ7で搬送中のウェブWを押し付けるとともに、ウェブWを未巻取の巻取軸22外周面に押し付けた状態で、上記未巻取の巻取軸22と巻取中の巻取軸22との間のウェブ搬送方向上流側において切断装置5でウェブWを切断し、ウェブWの巻取開始時の巻取張力Tが上記初期値(T=f(0))となるように制御する。
【0050】
しかる後、上記第1駆動モータ3の他側方に位置する巻き取りを終了した巻取軸22を回転体2から取り外した後、回転体2を180度回転させて上記第1駆動モータ3の一側方に位置してウェブWを巻き取り始めた巻取軸22を上記第1駆動モータ3の他側方まで移動させる。
【0051】
このように、上述の動作を繰り返すことにより、巻取装置1を停止させることなく各巻取軸22でのウェブWの巻取作業を行う。
【0052】
次に、従来の巻取装置と本発明の巻取装置1とをそれぞれ用いて実験した結果について説明する。
【0053】
図6は、上記巻取張力Tの張力関数T=g(x)でウェブWを巻き取った際の各種データである。
【0054】
図6(a)のd1は、実際の巻取長さが巻取予定長さLと同じ2000m(巻取径r/r=2.69:rは巻取軸22の径で0.05mとする)のときの巻取径r/rと巻取張力Tとの関係を示しており、このときの巻取径r/rと接線方向応力σθとの関係を図6(b)のd2に、巻取径r/rと摩擦力Fとの関係を図6(c)のd3に示す。尚、臨界摩擦力Fcrを50kNとしている。
【0055】
次に、実際の巻取長さが、巻取予定長さLのばらつきの最小値Lminである1800m(巻取径r/r=2.57)となったときの巻取径r/rと接線方向応力σθとの関係を図6(b)のd2に、巻取径r/rと摩擦力Fとの関係を図6(c)のd3に示す。
【0056】
2の結果から判るように、接線方向応力σθが負にならないのでシワが発生することはないが、d3の結果から判るように、巻取ロール11の最外層から15%の位置であるr/r=2.2の位置において摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrを下回っており、巻取ロール11にすべりが発生する可能性が高くなっている。これは、予定された巻取径r/rに達する前にウェブWの巻き取りが終了してしまうことにより、巻取終了間際においてウェブW層間に必要な摩擦力Fとするための巻取張力Tが付与されなくなるからである。
【0057】
また、実際の巻取長さが、巻取予定長さLのばらつきの最大値Lmaxである2200m(巻取径r/r=2.79)となったときの巻取径r/rと接線方向応力σθとの関係を図6(b)のd2に、巻取径r/rと摩擦力Fとの関係を図6(c)のd3に示す。
【0058】
3の結果から判るように、ウェブW層間の摩擦力Fが巻取終了間際で大きくなり、すべりが発生することはないが、d2の結果から判るように、巻取ロール11の最外層付近で接線方向応力σθが負になる領域があり、シワが発生する可能性が高くなっている。これは、ウェブW層間の摩擦力Fが大きくなり過ぎたことで巻取ロール11の最外層付近の接線方向応力σθが負になってしまったものと考えられる。
【0059】
これら図6のデータが示すように、従来の如き方法で導き出された張力関数T=g(x)でウェブWの巻き取りを制御すると、巻取長さがばらついたときにシワやすべりが発生してしまう可能性がある。
【0060】
一方、図7は、本発明で導き出された巻取張力Tの張力関数T=f(x)でウェブWを巻き取った際の各種データである。
【0061】
図7(a)のD1は、実際の巻取長さが巻取予定長さLと同じ2000m(巻取径r/r=2.69)のときの巻取径r/rと巻取張力Tとの関係を示しており、このときの巻取径r/rと接線方向応力σθとの関係を図7(b)のD2に、巻取径r/rと摩擦力Fとの関係を図7(c)のD3に示す。
【0062】
次に、実際の巻取長さが、巻取予定長さLのばらつきの最小値Lminである1800m(巻取径r/r=2.57)となったときの巻取径r/rと接線方向応力σθとの関係を図7(b)のD2に、巻取径r/rと摩擦力Fとの関係を図7(c)のD3に示す。
【0063】
また、実際の巻取長さが、巻取予定長さLのばらつきの最大値Lmaxである2200m(巻取径r/r=2.79)となったときの巻取径r/rと接線方向応力σθとの関係を図7(b)のD2に、巻取径r/rと摩擦力Fとの関係を図7(c)のD3に示す。
【0064】
2及びD2の結果から判るように、最小値Lmin及び最大値Lmaxのどちらにおいても接線方向応力σθにおいて負にならず、ウェブWに圧縮応力が発生していない。したがって、本発明で導き出された巻取張力Tの張力関数T=f(x)でウェブWを巻き取る場合、実際の巻取長さが巻取予定長さLに対して±10%ばらついていてもシワの発生を抑制することができる。
【0065】
また、D3及びD3の結果から判るように、巻取径がr/r<2.38の領域ではウェブWの層間摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrより下回ることがなく、r/r≧2.38(最外層から7%の位置)でウェブWの層間摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrより下回っている。したがって、実際の巻取長さが巻取予定長さLに対して±10%ばらついていても従来の如き方法で導き出された張力関数T=g(x)で制御するより最大巻取径r/rが大きい状態ですべりの発生を抑制することができる。
【0066】
尚、図8は、巻取予定長さLに対して実際の巻取装置1で巻き取るウェブWの巻取長さの変化した割合とその頻度との関係を示すデータであり、頻度のばらつきを考慮すると、−10%〜10%程度(平均値±3σ)ウェブWの巻取長さが変化することが判る。例えば、Lが2000mmの場合、ウェブWの巻取長さは1800〜2200mのばらつきが発生し、Lが4000mの場合、ウェブWの巻取長さは、3600〜4400mのばらつきが発生することが判った。
【0067】
以上より、本発明の実施形態によると、巻取予定長さLより実際のウェブWの巻取長さが長くなっても、巻取終了間際において巻取ロール11の最外層付近におけるウェブW層間に働く摩擦力Fが高くなり過ぎないので、巻取ロール11の最外層付近における接線方向応力σθが負に転じ難くなり、シワの発生を抑制することができる。一方、巻取予定長さLより実際のウェブWの巻取長さが短くなっても、巻取終了間際において巻取ロール11の最外層付近におけるウェブW層間に働く摩擦力Fが低くなり過ぎないので、巻取ロール11の最外層付近における摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrを下回り難くなり、ウェブWのすべりの発生を抑制することができる。このように、ウェブWの巻取長さが大きくばらついても、シワやすべりといった巻取時の不具合発生を抑制することができる。
【0068】
また、ウェブWを巻き取る際、巻取開始から巻取終了間際までの区間において巻取ロール11のウェブW層間における接線方向応力σθがゼロ以上に維持されるとともに、ウェブW層間における摩擦力Fが臨界摩擦力Fcr以上に維持されるようになるので、巻取ロール11の中途部におけるシワやすべりの発生を抑制することができる。
【0069】
さらに、塗工や印刷の業界では、例えば、2000mmの巻取予定長さLに対して実際の巻取長さが1800mm〜2200mm程度ばらつくが、このように巻取予定長さLに対して実際の巻取長さが±10%ばらついてもシワやすべりといった巻取時の不具合発生を抑制することができる。
【0070】
それに加えて、2つの巻取軸22間において、ウェブWの搬送を止めることなくウェブWの移行を行うことができる本発明の実施形態の如き巻取装置1においても、各巻取軸22で巻き取られた巻取ロール11にシワやすべりといった巻取時の不具合を発生しないようにできる。
【0071】
そして、上記巻取装置1では、巻取終了間際におけるウェブWに加わる巻取張力が一定になるので、巻取軸22間のウェブWの移行時(ウェブ切断時)において、ウェブWを案内するガイドローラG1,G2,G3の撓み量の変化が小さくなり、巻取終了間際のウェブWの搬送経路が変化し難くなることで巻取不良の発生を抑制することができる。
【0072】
尚、本発明の実施形態では、f(Lmin)<f(0)となっているが、T=f(Lmin)=f(0)を満たす張力関数T=f(x)で巻取張力Tを制御してもよい。そうすると、巻取軸22間のウェブWの移行時(ウェブ切断時)におけるウェブWを案内するガイドローラG1,G2,G3の撓み量の変化がさらに小さくなるので、ウェブW移行時にウェブWの搬送経路が大きく変化して巻取不良が引き起こされるといったことを確実に防止することができる。
【0073】
また、本発明の実施形態では、巻取装置1が2つの巻取軸22を備えているが、複数の巻取軸22を備えたものであってもよい。
【0074】
また、本発明の実施形態では、T=f(x)のx<Lminの区間が、上記目的関数と、上記ウェブの巻取予定長さを所定値Lminとした上記制約関数とに基づき、該制約関数の設定条件下で上記目的関数である接線方向応力σθがゼロに近づくよう、且つ、摩擦力Fが臨界摩擦力Fcrに近づくよう演算して得た張力関数で制御されているが、これに限らず、その他の理論で定義された張力関数で制御されていてもよい。
【0075】
また、本発明の実施形態では、巻取装置1を印刷機で印刷が施されたウェブWを巻き取るのに使用しているが、塗工装置で塗工が施されたウェブを巻き取るのにも使用してもよく、ウェブ状のものを巻き取るのであればその他の設備でも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、プラスチックフィルム等からなる長尺状のウェブを巻き取る巻取装置に適している。
【符号の説明】
【0077】
1 巻取装置
4 第2駆動モータ
5 切断装置(切断手段)
8 押付機構(押付手段)
10 制御装置(制御手段)
22 巻取軸
L 巻取予定長さ
min 巻取長さの最小値
max 巻取長さの最大値
T、T 巻取張力
W ウェブ
F 摩擦力
cr 臨界摩擦力
σθ 円周方向応力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8