特許第5776082号(P5776082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776082
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】塗膜の乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/02 20060101AFI20150820BHJP
   F26B 3/30 20060101ALI20150820BHJP
   F26B 13/10 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   B05D3/02 E
   F26B3/30
   F26B13/10 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-71009(P2012-71009)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-202431(P2013-202431A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良夫
(72)【発明者】
【氏名】青木 道郎
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−196201(JP,A)
【文献】 特開2006−226629(JP,A)
【文献】 米国特許第4501072(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00〜 7/26
F26B1/00〜25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.5μm以下の吸収スペクトルを持つ有機溶剤を含有する塗膜を、主波長が3.5μm以下の赤外線を透過する基材の表面に、100μm〜2mm形成後、
該基材の裏面側からのみ、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射して、塗膜を乾燥させることなく塗膜内にエネルギーを均一拡散させ、続いて、塗膜を形成した基材の表面側から、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射して塗膜を乾燥させることを特徴とする塗膜の乾燥方法。
【請求項2】
該赤外線の照射は、3.5μm以上の赤外線を吸収するショートパスフィルタを介して行うことを特徴とする請求項1記載の塗膜の乾燥方法。
【請求項3】
該赤外線の照射は、フィラメントの外周が3.5μm以上の赤外線を吸収する複数の管によって覆われ、これらの複数の管の間にヒーター表面温度の上昇を抑制する冷却用流体の流路を形成した構造の赤外線ヒーターを用いて行うことを特徴とする請求項2記載の塗膜の乾燥方法。
【請求項4】
前記塗膜が、セラミック粉末を含有する塗膜であり、乾燥後に基材の表面から剥離されるものであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の塗膜の乾燥方法。
【請求項5】
基材の温度を60℃以下に維持しながら、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の塗膜の乾燥方法。
【請求項6】
塗膜が形成された基材の表面に冷却風を接触させることにより、基材の温度を60℃以下に維持することを特徴とする請求項5記載の塗膜の乾燥方法。
【請求項7】
基材がPETフィルムまたはガラスであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の塗膜の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PETフィルムやガラス等、近赤外線を透過する基材の表面に形成された塗膜の乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MLCC(積層セラミックコンデンサー)、チップインダクター、LTCC(低温同時焼成セラミック)などの多層構造の電子部品の製造工程では、例えば特許文献1に示されるように、セラミック粉末や金属粉末と有機バインダーと有機溶剤とを含む塗膜を基材の表面に形成し、乾燥させたうえで基材から剥離し、積層するという手法が採用されている。このための基材としては、強度に優れたPETフィルムやガラスが広く用いられている。
【0003】
この乾燥工程の生産性を高めるために、赤外線ヒーターや温風などが加熱手段として使用されるのが一般的である。しかしこのような従来方法では、乾燥中に加熱され膨張した基材が乾燥後の冷却工程において収縮し、その表面に形成された塗膜に圧縮応力を発生させる。圧縮応力を受けた塗膜は基材から剥離されると変形するため、積層工程における寸法精度の低下を招くという問題があった。
【0004】
また、従来技術では、基材の表面に形成される塗膜が膜厚100μm以上の厚みを有する場合、乾燥過程で塗膜の上下面の温度が不均一となり、熱応力に起因するひずみが生じる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−279245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来技術の問題点を解決し、基材の表面に形成された有機溶剤を含有する塗膜を、乾燥後の膜に圧縮応力を生じさせることなく、かつ、基材の表面に形成される塗膜が膜厚100μm以上程度の厚みを有する場合であっても、熱応力に起因するひずみを生じさせることなく乾燥させることができる塗膜の乾燥方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の塗膜の乾燥方法は、3.5μm以下の吸収スペクトルを持つ有機溶剤を含有する塗膜を、主波長が3.5μm以下の赤外線を透過する基材の表面に、100μm〜2mm形成後、該基材の裏面側からのみ、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射して、塗膜を乾燥させることなく塗膜内にエネルギーを均一拡散させ、続いて、塗膜を形成した基材の表面側から、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射して塗膜を乾燥させることを特徴とするものである。
【0008】
該赤外線を照射は、3.5μm以上の赤外線を吸収するショートパスフィルタを介して行うことが好ましく、特に、フィラメントの外周が3.5μm以上の赤外線を吸収する複数の管によって覆われ、これらの複数の管の間にヒーター表面温度の上昇を抑制する冷却用流体の流路を形成した構造の赤外線ヒーターを用いて行うことが好ましい。
【0009】
好ましい実施形態においては、基材がPETフィルムまたはガラスであり、前記塗膜はセラミック粉末を含有する塗膜であり、乾燥後に基材の表面から剥離されるものである。また、基材の温度を60℃以下に維持しながら、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射することが好ましい。さらに、基材の塗膜が形成された表面に冷却風を接触させることにより、基材の温度を60℃以下に維持することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、3.5μm以下の吸収スペクトルを持つ有機溶剤を含有する塗膜を、主波長が3.5μm以下の赤外線を透過する基材の表面に形成した上で、まず、該基材の裏面側からのみ、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射して、続いて、塗膜を形成した基材の表面側から、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射して塗膜を乾燥させることにより、膜厚を100μm以上に形成した場合であっても、乾燥が生じる前段で、塗膜を乾燥させることなく塗膜内にエネルギーを均一拡散させ、乾燥が始まる前の状態において、膜内温度を均一化しておくことができる。これにより、乾燥過程において塗膜の上下面に温度差がつきにくくなるため、膜内の熱応力が低減され、熱応力に起因してひずみが生じる現象を効果的に回避することができる。
【0011】
また、本発明に用いられる基材は、波長が3.5μm以下の赤外線によってはほとんど加熱されないため、基材を加熱することなく塗膜を乾燥させることができる。この結果、従来のように乾燥後に基材が熱収縮することがなくなり、乾燥された薄膜に圧縮応力を生じさせることがない。
【0012】
請求項2記載の発明では、加熱源としてフィラメントの外周が3.5μm以上の赤外線を吸収する複数の管によって覆われ、これらの複数の管の間にヒーター表面温度の上昇を抑制する冷却用流体の流路を形成した構造の赤外線ヒーターを用いている。この構造の赤外線ヒーターは、フィラメント温度を高めて主波長が3.5μm以下の赤外線を照射することができるにもかかわらず、ヒーター外表面の温度を冷却用流体により低温に保つことができる。一般に赤外線ヒーターはフィラメント温度を高めると、フィラメントの外周保護管の温度も上昇して外周保護管が二次発熱体となり、長波長の赤外線を放射して乾燥室内の温度を上昇させてしまうのであるが、請求項2記載の発明ではこの問題を回避し、基材の昇温を防止することができる。従って、乾燥室内の温度を上昇させることなく、基材の表面に形成された塗膜に主波長が3.5μm以下の赤外線を照射し、3.5μm以下の吸収スペクトルを持つ有機溶剤を短時間で効率よく乾燥させることができる。
【0013】
特に基材の温度を60℃以下に維持しながら乾燥させれば、冷却時の熱収縮の影響を実用上問題のないレベルに抑制することができる。このためには基材の冷却を併用することが好ましく、特に基材の塗膜が形成された表面に冷却風を接触させるようにすれば、蒸発した有機溶剤の蒸気を速やかに外部に排気することができるので、更に乾燥効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】塗膜の模式的な拡大断面図である。
図2】本発明の実施形態を示す乾燥炉の断面図である。
図3】本発明に用いられる赤外線ヒーターの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は塗膜の模式的な拡大断面図であり、1は基材であるPETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)、2はその表面に形成された塗膜である。基材は、主波長が3.5μm以下の赤外線を透過するものであればよく、PETフィルムの他、ガラス等を用いることもできる。
【0016】
一般に有機溶媒は3.5μm以下の吸収スペクトルを持つため、主波長が3.5μm以下の赤外線を吸収して効率よく加熱され蒸発するが、PET樹脂は主波長が3.5μm以下の赤外線によってはほとんど加熱されないという物性を持つ。なお、図1の左側に示す乾燥前の状態では、本実施形態のPETフィルム1の厚さは10〜100μm、塗膜2の厚さは100μm〜2.0mmである。
【0017】
本実施形態では、塗膜2が形成されたPETフィルム1を図2に示すような乾燥炉10により乾燥させる。この乾燥炉10は、入口側の払い出しロール11と出口側の巻き取りロール12との間でPETフィルム1を所定速度で移動させるいわゆるロール・トゥ・ロール方式の炉である。乾燥炉10の前段では、床部に、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射するための赤外線ヒーター13が適宜の間隔で配置され、続いて、乾燥炉10の後段では、床部と天井部に、同じく、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射するための赤外線ヒーター13が適宜の間隔で配置されている。なお、乾燥炉10の後段では、天井部にのみ赤外線ヒーター13を配置してもよい。更に、なお、本実施形態では連続式の乾燥炉10を用いているが、本発明においては乾燥炉の型式は特に限定されるものではなく、バッチ式の乾燥炉であっても差し支えない。
【0018】
これらの赤外線ヒーター13は、図3に示すようにフィラメント14の外周が複数の管15、16によって同心円状に覆われ、これらの複数の管15、16の間に冷却用流体の流路17を形成した構造のものである。内側の管15はフィラメント14の保護管であり、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどの赤外線透過性の保護管である。また外側の管16は内側の管15の外周に冷却用流体を流すための管である。これらの管15、16は電磁波のショートパスフィルタとしての機能を有し、3.5μm以上の赤外線を吸収するものである。前記のように石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどを用いることができるが、耐熱性、耐熱衝撃性、経済性などから、石英ガラス管を用いることが好ましい。
【0019】
フィラメント14は700〜1200℃に通電加熱され、波長が3μm付近にピークを持つ赤外線を放射するが、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどは、3.5μm以下の波長の赤外線を透過し、3.5μm以上の波長の赤外線を吸収するショートパスフィルタとしての機能を有する。このため、管15および管16はフィラメント14から放射された電磁波のうち、波長が3.5μm未満の赤外線を選択的に透過して炉内に供給する。この波長領域の赤外線エネルギーは塗膜2中の有機溶剤に直接吸収され熱に変換されやすく、また溶剤ないし水の分子間における水素結合の振動数とも合致するため、水素結合を切断して、塗膜2を効率よく乾燥させることができる。
【0020】
ただし、本発明の塗膜2の厚さは100μm〜2.0mmと、厚みがあるため、赤外線ヒーター13を乾燥炉10の天井部にのみ配置して、赤外線の照射を、塗膜2の上面側からのみ行った場合、照射されたエネルギーが、塗膜内で均一に分散する前に、照射面において溶剤や水分の揮発エネルギーとして失われてしまうため、乾燥過程で塗膜の上下面の温度が不均一となり、ひずみの要因となりうる。これに対し、本発明では、乾燥炉10の前段では、まず、該PETフィルム1の裏面側からのみ、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射することにより、塗膜を乾燥させることなく塗膜内にエネルギーを均一拡散させて、乾燥が始まる前の状態において、膜内温度を均一化しておき、その後、塗膜内にエネルギーが均一拡散した状態で、PETフィルム1の表面側から、主波長が3.5μm以下の赤外線を照射して乾燥させることにより、乾燥過程における塗膜の上下面温度の均一化を実現し、これにより、塗膜内における熱応力の発生や、それに起因した歪みの発生を効果的に回避可能としている。
【0021】
なお、PETフィルム1は波長が3.5μm以下の近赤外線によってはほとんど加熱されない物性を持つため、乾燥炉10を通過する間に温度が上昇することはない。このため従来のように冷却工程において熱収縮することもなくなる。
【0022】
ただし管15および管16は、3.5μmよりも長波長領域においては逆にふく射の吸収体となり、赤外線エネルギーを吸収することによりそれ自体が昇温する。前述の温度におけるフィラメント14からは3.5μmよりも長波長領域の赤外線も相当量放射されているため、そのままでは管16の表面温度が上昇し、その結果、管自身も赤外線の放射体となり、主として3.5μmよりも長波長の赤外線を炉内に二次放射するおそれがある。このような長波長の赤外線は炉内温度の上昇を招くとともにPETフィルム1を加熱し、従来と同様の問題を生じさせるおそれがある。
【0023】
そこで本発明では、管15と管16との間の流路17に冷却用の流体を流し、管15および管16に一旦吸収された長波長領域の赤外線のエネルギーを、対流熱伝達の形で変換して前記流体に伝達し系外に除去する。その結果、最終的に炉内に供給される赤外線の波長を短波長域に限定するとともに、フィラメント14が高温で継続的に通電加熱されている状況においても、管15および管16の温度を200℃以下、より好ましくは150℃以下に維持することが可能になる。従って長波長の赤外線の二次放射による炉内温度の上昇やPETフィルム1の加熱を、確実に防止することができる。
【0024】
なお、流路17に供給される流体は例えば空気、不活性ガスなどであるが、本実施形態では流体供給口18から空気を吹き込み、加熱された空気を流体排出口19から取り出している。
【0025】
このように本発明によれば、PETフィルム1を加熱するおそれのある3.5μmよりも長波長の赤外線を抑制しながら、3.5μm以下の吸収スペクトルを持つ有機溶剤を効率よく加熱し、乾燥させることができる。
【0026】
しかし、3.5μmよりも長波長の赤外線を完全にゼロとすることは困難であるため、PETフィルム1が僅かながら昇温する可能性がある。そこで本実施形態では、図2に示すように乾燥炉10の入口付近と出口付近に冷却風の噴出管20と吸気管21とをそれぞれ配置し、PETフィルム1の塗膜2が形成された表面に沿って冷却風を接触させ、PETフィルム1を冷却する。
【0027】
またこの冷却風により炉内も冷却され、PETフィルム1の温度を60℃以下、より好ましくは45℃以下に維持することが可能となる。しかもこの冷却風は塗膜2の表面から蒸発した有機溶剤の蒸気を外部に排出する機能を併せ持つため、塗膜2の乾燥をさらに促進することができる。なお、PETフィルム1の下面からの冷却を組み合わせることも勿論可能である。
【0028】
以上に説明したように、本発明によれば、基材であるPETフィルム1の表面に形成された有機溶剤を含有する塗膜2を、効率よく短時間で、しかも乾燥された塗膜2に熱応力や圧縮応力を生じさせることなく乾燥させることができる。
【実施例】
【0029】
実験炉を用い、塗膜乾燥速度を評価することで上記内容の効果を確認した。具体的には、PETフィルム上に厚膜を塗工し、乾燥手段として、A:送風乾燥によるもの、B:ショートパスフィルタ機能がない赤外線ヒーターと送風乾燥を併用したもの、C:本願のショートパスフィルタ機能を持つ赤外線ヒーターと送風乾燥を併用したものの3種類から何れかひとつを選択し、評価を実施した。その評価の結果、Cの乾燥手段(本願のショートパスフィルタ機能を持つ赤外線ヒーターと送風乾燥を併用したもの)を用いることにより、他の手段(AB)を用いた場合よりも、乾燥時間の短縮化、乾燥温度の低温化を実現することが確認された。
【符号の説明】
【0030】
1 PETフィルム
2 塗膜
10 乾燥炉
11 払い出しロール
12 巻き取りロール
13 赤外線ヒーター
14 フィラメント
15 管
16 管
17 流路
18 流体供給口
19 流体排出口
20 噴出管
21 吸気管
図1
図2
図3