特許第5776088号(P5776088)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5776088
(24)【登録日】2015年7月17日
(45)【発行日】2015年9月9日
(54)【発明の名称】多層光学フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20150820BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20150820BHJP
【FI】
   G02B5/28
   B32B27/00 N
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-533087(P2012-533087)
(86)(22)【出願日】2010年10月8日
(65)【公表番号】特表2013-506883(P2013-506883A)
(43)【公表日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】KR2010006902
(87)【国際公開番号】WO2011043623
(87)【国際公開日】20110414
【審査請求日】2012年4月6日
(31)【優先権主張番号】10-2009-0096273
(32)【優先日】2009年10月9日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2010-0093448
(32)【優先日】2010年9月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508148079
【氏名又は名称】エスケイシー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SKC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100129997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 米藏
(72)【発明者】
【氏名】ジュ チョンヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒョンソク
(72)【発明者】
【氏名】ソン ビョンクック
(72)【発明者】
【氏名】シン デヨン
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/029842(WO,A1)
【文献】 特表平11−508706(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/096298(WO,A1)
【文献】 特開2002−069165(JP,A)
【文献】 特表2008−517139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレート(PEN)を含む第1樹脂層及びヘテロサイクリック多価アルコールが共重合されたポリエチレンテレフタレート(PET)を含む第2樹脂層が交互に積層された構造を有し、
前記ヘテロサイクリック多価アルコールは、イソソルビド(isosorbide)又はスピログリコール(spiroglycol)であり、
前記第1樹脂層及び第2樹脂層の間の屈折率差が632.8nmにて0.25〜0.35であり、
前記第2樹脂層のPETは、ヘテロサイクリック多価アルコールの含量が10mol%〜60mol%となるように該ヘテロサイクリック多価アルコールと共重合され、
前記第1樹脂層は、両側の最外殻層に位置し、該両側の最外殻層の厚さの合計が前記積層された構造の総厚さの10%〜40%であり、
前記第1樹脂層及び第2樹脂層のそれぞれの平均厚さは、30nm〜300nmであり、
前記第1樹脂層の複屈折率は0.15〜3.0であり、
前記第2樹脂層は、屈折率が632.8nmにて1.55〜1.65であり、複屈折率が0.1以下であり、ヘイズ値が1.0以下であり、
前記第1樹脂層及び第2樹脂層には、脂環族ジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサンジメタノールが含まれていない、多層光学フィルム。
【請求項2】
前記多層光学フィルムは、下記の数学式1で表す積層比が0.01〜0.99であることを特徴とする、請求項1に記載の多層光学フィルム。
(数学式1)
積層比=d1/(d1+d2)
上記の式において、d1及びd2は、それぞれ第1及び第2樹脂層の平均厚さである。
【請求項3】
前記多層光学フィルムは、ミラーフィルム、カラーフィルター、包装材、または光学ウインドウの用途に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の多層光学フィルム。
【請求項4】
(a)ポリエチレンナフタレート(PEN)を含む第1樹脂及びヘテロサイクリック多価アルコールが共重合されたポリエチレンテレフタレート(PET)を含む第2樹脂をそれぞれ溶融押出した後交互に積層する段階、及び、
(b)前記段階(a)において積層されたシートを縦方向及び横方向の少なくともいずれか一方向に延伸した後熱固定する段階を含む、請求項1に記載の多層光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第2樹脂の複屈折率が0.1以下で、前記第1樹脂の粘度が前記第2樹脂の粘度の2倍を超えないことを特徴とする、請求項4に記載の多層光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記溶融押出の温度は280℃〜300℃であり、前記縦方向及び横方向延伸時の温度は120℃〜130℃であることを特徴とする、請求項に記載の多層光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルター、包装材などの用途で用いられる多層光学フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の多層フィルムは、フィトレー等による特許文献1に記載されているように、複合フィードブロックを用いて、2種以上のポリマーを同時に押出及び延伸して製造する方法を利用している。最近、これら多層技術は、ディスプレイの輝度を向上させるための偏光反射フィルム、ミラーフィルム、カラーシフトフィルム、カラーフィルターなどと、さまざまな分野に活用されている。
【0003】
その素材としては、複屈折率の高いポリエステル系が多く使用されており、代表的に、耐熱性など化学的・物理的に優れているポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などが用いられている。特に、PENの場合、複屈折率が高くその活用度は高いが、原料樹脂が高価であるという問題がある。
【0004】
また、最近では、ディスプレイの光源が、CCFLからLEDに転換することにより、耐熱性がより高く製造コストはより低いフィルムが求められている。この問題を解決するために、ポリカーボネート(PC)とポリエステルとを合金(alloy)した原料が使われているが、添加物によって製品の透過性が低下してしまう欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許登録 第5,122,905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、耐熱性及び工程性が優れて、かつ、透明度が維持され、高い光学効率を持つ多層光学フィルム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的により、本発明は、ポリエチレンナフタレート(PEN)を含む第1樹脂層、及びヘテロサイクリック多価アルコールが共重合されたポリエチレンテレフタレート(PET)を含む第2樹脂層が交互に積層された構造を持つ多層光学フィルムを提供する。
【0008】
上記他の目的により、本発明は、(a)ポリエチレンナフタレート(PEN)を含む第1樹脂及びヘテロサイクリック多価アルコールが共重合されたポリエチレンテレフタレート(PET)を含む第2樹脂を溶融押出して交互に積層する段階、及び(b)上記積層されたシートを縦方向及び横方向の少なくともいずれか一方向に延伸した後熱固定する段階を含む、本発明の多層光学フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層光学フィルムは、PET樹脂層にヘテロサイクリック多価アルコールを付加することで、耐熱性が向上して高温処理にも結晶化しないため、製造過程において、ヘイズ値が増加されずPEN樹脂層との工程性を向上させることができる。また、延伸後にもPET樹脂層が低屈折率を維持し、複屈折率も非常に低くて、PEN樹脂層との高い屈折率差を生じさせることができるので、光学特性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の多層光学フィルムの積層構造を示す概略図である。
図2図2は、各樹脂の含量別ガラス転移温度の変化を示すグラフである。
図3図3は、各樹脂の含量別屈折率の変化を示すグラフである。
図4図4は、各樹脂の含量別粘度の変化を示すグラフである。
図5図5は、実施例1で製造された多層光学フィルムのスペクトル結果である。
図6図6は、比較例1で製造された多層光学フィルムのスペクトル結果である。
図7図7は、比較例2で製造された多層光学フィルムのスペクトル結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0012】
本発明による多層光学フィルムは、特定の波長を反射させるために、屈折率の異なる2つの樹脂層が交互に積層された構造を有する(図1を参照)。2つの樹脂層は、それぞれ独自の屈折率が維持されるために、混合が生じず各々の層を保つことのできる互いに異なる物質で構成されなければならない。
【0013】
本発明のフィルムは、第1樹脂層と第2樹脂層間の屈折率差が、632.8nmにて0.2以上であることが好ましく、より好ましくは、屈折率差が0.25〜0.35であることが望ましい。
【0014】
本発明の多層光学フィルムは、両側の最外殻層に第1樹脂層が位置するように設計されることが望ましく、両最外殻層の厚さの合計が全体の多層光学フィルム厚さの10%〜40%になることが好ましい。
【0015】
本発明において、「ヘテロサイクリック多価アルコール」という用語は、酸素、窒素、硫黄、リンなどのヘテロ原子を1つ以上含むヘテロ環を有する多価アルコールのことを意味するもので、ここで、上記ヘテロ原子は、酸素、窒素または硫黄であることが望ましい。また、ヘテロ環は5員環〜14員環であることが好ましく、これは、上記範囲内である時にヘテロサイクリック多価アルコールがさらに安定して、かつ、生成がより容易であるためである。また、ヘテロサイクリック多価アルコール内のOH基の数は2つまたは3つが好ましく、OH基が多いほど耐熱性は向上するが、架橋が誘発され加工工程において問題が生じる可能性がある。
【0016】
好ましいヘテロサイクリック多価アルコールとしては、単一ヘテロ環を有するジオール(化学式3,5,6,7,8)、スピロ構造を持って2つのヘテロ環が結合した形態のジオール(化学式2)、ヘテロ環を含む2つ以上の環が連結された形態のジオール(化学式1、4、9、10、11)、1つ以上のヘテロ環を有しOH基が3つであるトリオール(化学式12、13)が挙げられている。
【0017】
ヘテロサイクリック多価アルコールの具体的な例として、
下記化学式1のイソソルビド(isosorbide)、
化学式2のスピログリコール(spiroglycol)、
化学式3のテトラヒドロフランジオール(tetrahydrofuran diol)、
化学式4のコーリーラクトンジオール(Corey lactone diol)、
化学式5のピリミジン−2,4−ジオール(pyrimidine−2、4−diol)、
化学式6の1,2−ジチアン−3,6−ジオール(1,2−dithiane−3,6−diol)、
化学式7のp−ジチアン−2,5−ジオール(p−dithiane−2、5−diol)、
化学式8の2−メチルピリジン−3,5−ジオール(2−methylpyridine−3、5−diol)、
化学式9のフロ[3,2−D]ピリミジン−2,4−ジオール(furo[3,2−D]pyrimidine−2、4−diol)、
化学式10の7H−ピロロ[2,3−d]ピリミジン−2,4−ジオール(7H−pyrrolo[2,3−d]pyrimidine−2、4−diol)、
化学式11の1,2,3,9−テトラヒドロピロロ[2,1−b〕キナゾリン−3,7−ジオール(1、2、3、9−tetrahydropyrrolo[2,1−b]quinazoline−3、7−diol)、
化学式12のテトラヒドロ−2H−ピラン−2,3,5−トリオール(tetrahydro−2H−pyran−2,3,5−triol)、
化学式13のトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(tris(2−hydroxyethyl)isocyanurate)などが挙げられる。
【0018】
(化学式)

【0019】
積層フィルムに照射された光は、光学特性により、1/2λ、1/3λの反射波長を形成するが、このような反射波長は、UV領域(200nm〜400nm)、可視光領域(400nm〜700nm)、赤外線領域(700nm〜)等と、積層の厚さまたは屈折率差によって調節することができ、そのうち二次反射波長の反射率は、積層比の値によって変化することがある。フィルムの外見をさらに向上させるためには、下記数学式1で表す積層比が0.01〜0.99の範囲、より好ましくは、0.50〜0.54の範囲になるように積層することが望ましい。
【0020】
(数学式1)
積層比=d1/(d1+d2)
上記の式において、d1及びd2は、それぞれ第1及び第2樹脂層の平均厚さである。
【0021】
上記の積層比は、2つの層の間において第1樹脂層の割合を示すもので、第1樹脂層と第2樹脂層の積層の厚さが近似して、積層比の値が0.50〜0.54の場合には、2次反射波長の反射率が10%内外であり2次反射波長の強度が低下するが、この範囲を超えると、2次反射波長の反射率が大きくなる可能性がある。したがって、本発明が目的としている効果をさらに高めるためには、積層比の範囲が0.01〜0.99になるように積層するが、できる限り0.50〜0.54の値に近似するように工程を調整することが望ましい。ただ、2次反射波長を最小限に抑えたとしても、以後のn次反射波長に対する問題は残っているが、同時にすべてのn次反射波長を合わせることは現実的に不可能である。
【0022】
本発明による多層光学フィルムの個別層の平均厚さは、30nm〜300nmであることが好ましく、上記の範囲であるときに、光学効率をより高めることができる。
【0023】
本発明の多層光学フィルムの積層数は特に限定されないが、好ましくは、50層乃至1000層であることが望ましい。
【0024】
−第1樹脂層−
第1樹脂層は、結晶性ポリエステルであるPENを主成分とし、必要に応じてヘテロサイクリック多価アルコールを少量共重合したPENを使用することで、耐熱性を向上させることができる。たとえば、ヘテロサイクリック多価アルコールが0.1mol%〜20.0mol%に共重合されたPENを用いることができるが、上記の範囲内である場合、複屈折率がほとんど減少しないため、積層工程によって現れる光の補強干渉による光学効果を高めることができる。
【0025】
第1樹脂層は、632.8nmにおける屈折率が1.80〜1.88であることが好ましく、複屈折率が0.15〜3.0であることが望ましい。
【0026】
−第2樹脂層−
第2樹脂層は、ヘテロサイクリック多価アルコールが共重合された非結晶性PETを主成分としている。上記第2樹脂層に含まれるPETは、ヘテロサイクリック多価アルコールが10mol%〜60mol%に共重合されていることが望ましい。ヘテロサイクリック多価アルコールの共重合の割合が上記の範囲内である場合、第1樹脂層(PEN)との屈折率差を最大化することができるので、より優れた光学効果を得るだけでなく、耐熱性が向上し、積層時の流れがほとんど生じないため、外観が優れることにもなる。
【0027】
第2樹脂層は、632.8nmにおける屈折率が1.55〜1.65であることが好ましく、複屈折率が0.1以下であることが望ましい。
【0028】
また、第2樹脂層は、ヘイズ値が1.0以下であることが望ましい。
【0029】
以下、本発明の多層光学フィルムを製造する方法について説明する。
【0030】
<原料樹脂の準備段階>
第1樹脂は、結晶性ポルリエステルであるPENを主成分とし、ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールの重縮合によって製造されたものを使用することができる。
【0031】
多層フィルム製造のための交互積層時の外見上の問題、流れ、ラインなどの問題を防止するためには、第1樹脂と第2樹脂間の粘度差が大きくないことが好ましく、例えば、第1樹脂の粘度が第2の樹脂の粘度の2倍を超えないことが望ましい。好ましくは、第1樹脂及び第2樹脂の固有粘度が0.6dl/g〜0.8dl/gであることがよい。
【0032】
第1樹脂と第2樹脂には、公知の添加剤、例えば重縮合触媒、分散剤、静電防止添加剤、帯電防止剤、紫外線遮断剤、ブロッキング防止剤、その他無機滑剤などが、本発明の効果を損なわない範囲内で添加されてもかまわない。
【0033】
第1樹脂は、632.8nmにおける屈折率が1.80〜1.88であることがさらに好ましく、複屈折率が0.15〜3.0であることが望ましい。一方、第2樹脂は、632.8nmにおける屈折率が1.55〜1.65であることが好ましく、複屈折率が0.1以下であることが望ましい。
【0034】
第2樹脂は、アモルファスであり、押出及び延伸後に低屈折率をそのまま維持する等方性ポリマー樹脂であることが望ましい。
【0035】
前記第2樹脂の主成分であるPETは、ヘテロサイクリック多価アルコールが10mol%〜60mol%に共重合されていることが望ましい。ヘテロサイクリック多価アルコールの共重合率が上記の範囲内である場合、第1樹脂層と近似の粘度及びTgを有するようになり優れた工程性を持つことが可能で、また、第1樹脂層の複屈折率が最大となる延伸温度の範囲で延伸工程が可能である。
【0036】
<溶融押出及び積層手順>
本段階では、第1樹脂及び第2樹脂を、圧出機を介して同時に溶融圧出する工程が行われる。溶融圧出温度は、280℃以上であることが好ましく、280℃〜300℃であることがより好ましい。
【0037】
溶融圧出される第1樹脂及び第2樹脂は、多層フィードブロックを介して積層される。フィードブロックの温度は、溶融圧出温度から大きく外れないことが好ましく、望ましくは280℃以上で行うことがよい。
【0038】
積層数は、波長の位置、反射率、またはフィルムの厚さに応じて調節され、少なくは50層以上、多くしては1000層以上に積層することができる。積層数が増えるにつれ、特定の波長に対する反射率が増加することになり、層に勾配を与える場合、反射波長の範囲は広くなることができる。また、各層の厚さによっても波長の位置を変化させることが可能であり、最外殻層の厚さも必要に応じて調節可能である。
【0039】
特に、圧出比により流量比を上手に維持することが、流れのない外見をもつフィルムを製造するのに役立つ。
【0040】
<延伸工程>
多層フィードブロックを介して形成された積層体は、キャスティングの後、縦方向及び横方向の少なくともいずれか一方向に延伸を経ることになり、これによって屈折率の差はさらに大きくなる。仮に、横方向または縦方向の1軸延伸を行う場合、製造された光学フィルターは一部のみ複屈折性を発現して、光を分離して透過/反射させる特性を有することができる。
【0041】
キャスティング時、エアナイフなどを用いて、素早く冷却させることが好ましいが、これは、第1樹脂層及び第2樹脂層が混合することなく、それぞれ独自の屈折率を維持させるのに役立つ。
【0042】
PENの光学的/物理的特性を最大化するためには、なるべく低い温度において配向延伸を行うことが好ましいが、PENのガラス転移温度(Tg)+30℃以下の温度、好ましくは、Tg+10℃以下の温度において行うことが望ましい。例えば、本発明の多層フィルムの延伸工程は、120℃〜130℃の延伸温度で行うことができる。
【0043】
このような延伸工程を経ると、第1樹脂層と第2樹脂層間の屈折率の差が0.2以上とさらに増加するようになり、従来のフィルムと違って結晶化による延伸妨害やヘイズ値の増加がほとんど生じない。
【0044】
上述のように製造された本発明の多層光学フィルムは、ミラーフィルム、カラーフィルター、包装材、光学ウインドウなどの様々な用途に用いられる。カラーフィルターの場合、所望の光を反射させ特定の色を半永久的に発現してインテリア等に用いることができる。
【0045】
以下、本発明を、実施例を通してより詳しく説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するだけであって、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0046】
以下で用いられる主な化合物の名称に対する略語の定義は、次の通りである。
【0047】
PET:ポリエチレンテレフタレート、
PEN:ポリエチレンナフタレート、
DMT:ジメチルテレフタレート、
EG:エチレングリコール、
NDC:2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール、及び
PDO:プロパンジオール

(製造例:第2樹脂の製造)
以下のように、様々な含量をもつ第2樹脂を用意した。
【0048】
製造例1:共重合PET(イソソルビド共重合のmol%:20、30、45、60)
ジカルボン酸であるDMT1モルに対して、多価アルコールであるEGとイソソルビドとの混合物(イソソルビド含量:20mol%、30mol%、45mol%、60mol%)を2モル〜4モルの割合で加えた後、触媒を添加して常圧で160℃〜220℃に上げながら重縮合反応を行った。反応中に生成されるメタノールを除去しながら4時間〜6時間後反応を完了した。その結果得られたエステル交換反応物に対して、徐々に265℃〜290℃に温度を上げながら1mmHg以下に減圧して未反応物を除去した。その後、撹拌を中止し下部から重合物を排出して、冷却した後切断して重合体を得た。
【0049】
製造例2:共重合PET(スピログリコール共重合mol%:20、30、45、60)
スピログリコールが、それぞれ20mol%、30mol%、45mol%、60mol%に共重合されたPET(SPG−PET、Mitsubish Gas Chemical社製)を使用した。
【0050】
比較製造例1:共重合されていない純PET
多価アルコールとしてイソソルビドが含まれていない純EGを用いたことを除いては、上記製造例1と同様の手順を行って重合体を得た。
【0051】
比較製造例2:共重合PEN(NDC共重合のmol%:20、30、45、60)
ジカルボン酸としてDMTとNDCとの混合物(NDC含量:20mol%、30mol%、45mol%、60mol%)を用いたことを除いては、上記製造例1と同様の手順を行って重合体を得た。
【0052】
比較製造例3:共重合PET(CHDM共重合のmol%:20、30、45、60)
1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)が、それぞれ20mol%、30mol%、45mol%、60mol%で共重合されたPET(PCTG、SkyGreenTM,SKケミカル社)を使用した。
【0053】
比較製造例4:共重合PET(PDO共重合のmol%:20、30、45、60)
多価アルコールとしてEGとPDOとの混合物(PDO含量:20mol%、30mol%、45mol%、60mol%)を用いたことを除いては、上記製造例1と同様の手順を行って重合体を得た。
【0054】
(テスト1乃至テスト3:第2樹脂の含量別特性評価)
以下において、様々な含量の共重合樹脂に対して評価を行った。
【0055】
テスト1.ガラス転移温度の測定
各々の樹脂に対するガラス転移温度を示差走査熱量計(DSC−Q100、TA Instrument社製)を用いて、10℃/分の速度で加熱しながら測定し、再加熱サンプルのデータを適用した。その結果を下記の表1及び添付の図2に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1及び図2の結果から見ると、PDOが共重合されたPETを除いては、一般的に共重合成分の含量か増加するほどガラス転移温度が上がった。特に、イソソルビドまたはスピログリコールが共重合されたPETの場合にもっとも上昇が早かったので、耐熱性が優れていることが分かる。CHDMが共重合されたPETと比較してみると、ヘテロ環を有するポリマーが、炭素環を有するポリマーより耐熱性の面で遥かに優れていることが分かる。
【0058】
テスト2.屈折率評価
各々の樹脂を280℃で溶融圧出して20℃の冷却ロールに密着させてから、2軸延伸機(東洋精機社、日本)を介して約120℃にて縦方向及び横方向に対して4倍に延伸し230℃で熱固定して、厚さ約20μmのフィルムを製造した。
【0059】
製造されたそれぞれのフィルムを、アベ(Abbe)屈折計を用いて632.8nmにおける縦方向及び横方向の屈折率を測定し、両データの平均値を計算して下記の表2及び添付の図3に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2及び図3の結果から見ると、大部分の樹脂が、共重合成分含量が10mol%〜60mol%の区間で最小の屈折率を示しており、特に、イソソルビドまたはスピログリコールが共重合されたPETの場合、ほとんどの区間で他の樹脂に比べ低い屈折率を示して、第1樹脂層(PEN)との屈折率差が大きいので、高い光学効率を持っていることが分かる。特に、これらヘテロ環分子は、20%以前から結晶化が低下して無結晶化が進んでいることが分かる。
【0062】
テスト3.粘度評価
各々の樹脂に対してオルトクロロフェノール(OCP)溶液に溶解してから、30℃の温度にてウベローデ粘度計を用いて落下時間を測定することにより重合体の極限粘度値を得て、その結果を下記の表3及び添付の図4に示した。
【0063】
【表3】
【0064】
表3及び図4の結果から見ると、イソソルビドまたはスピログリコールが共重合されたPET樹脂は、含量の増加につれ粘度が大きく変化して、高粘度ポリマーとの供圧出に有利であるが、CHDMやPDOが共重合されたPET樹脂は粘度の変化が大きくないので、高粘度ポリマーであるPENとの供圧出に不利であることが分かる。
【0065】
(実施例及び比較例:多層反射フィルムの製造)
以下において、本発明及び従来技術による多層反射フィルムの様々な実施例を記載した。
【0066】
実施例1
第1樹脂としてPEN(SKC社、韓国)を用いて、第2樹脂としてイソソルビドが10mol%に共重合されたPET(SKケミカル社、韓国)を用いた。
【0067】
2つの圧出機を用いて、第1樹脂及び第2樹脂をそれぞれ280℃で溶融圧出して、多層フィードブロック内で交互に積層するが、内部の層は厚さが1%ずつ増加する勾配状を有して、前記数学式1で表される積層比が0.01〜0.99になり、第1樹脂層が最外殻層に位置するように構成した。積層されたシートを20℃に冷却された冷却ロールに密着させ、未延伸積層シートを得た。
【0068】
未延伸積層シートを、2軸延伸機(東洋精機社、日本)を介して約120℃にて縦方向及び横方向に対して4倍に延伸を行い230℃で熱固定して、総厚さ18.7μmの2軸延伸された131層の光学フィルムを製造した。
【0069】
実施例2
第2樹脂として、スピログリコールが40mol%に共重合されたPET(Mitsubish Gas chemical社製)を用いたことを除いては、上記実施例1と同様の手順を行って、総厚さ18.7μmの2軸延伸された131層の光学フィルムを製造した。
【0070】
比較例1
第2樹脂として、共重合されていない純PET(SKC社)を用いたことを除いては、上記実施例1と同様の手順を行って、総厚さ18.7μmの2軸延伸された131層の光学フィルムを製造した。
【0071】
比較例2
第2樹脂として、DMT/NDCが55:45のモル比で共重合されたPEN(coPEN5545、SKC社)を用いたことを除いては、上記実施例1と同様の手順を行って、総厚さ18.7μmの2軸延伸された131層の光学フィルムを製造した。
【0072】
比較例3
第2樹脂として、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)が60mol%に共重合されたPET(PCTG、SKケミカル社)を用いたことを除いては、上記実施例1と同様の手順を行って、総厚さ18.7μmの2軸延伸された131層の光学フィルムを製造した。
【0073】
比較例4
第2樹脂として、プロパンジオール(PDO)が40mol%に共重合されたPET(SKC社)を用いたことを除いては、上記実施例1と同様の手順を行って、総厚さ18.7μmの2軸延伸された131層の光学フィルムを製造した。
【0074】
比較例5
第2樹脂として、ポリカーボネート(PC)とポリエステル(PCTG)とが合金された樹脂(キシレックス7200、SABICイノベーティブプラスチックス社)を用いたことを除いては、上記実施例1と同様の手順を行って、総厚さ18.7μmの2軸延伸された131層の光学フィルムを製造した。
【0075】
(テスト4:多層光学フィルムのスペクトル分析)
上記実施例1及びと比較例1並びに比較例2から得た多層光学フィルムに対してスペクトル分析機(UltrascanTM Pro、Hunter Lab社)を用いて反射波長を観察して、スペクトル結果を図5図7に示した。
【0076】
図5図7を見ると、実施例1の場合、比較例1及び比較例2に比べスペクトルの範囲が広いことが分かる。これは、高い屈折率差に起因したものであり、これによって反射波長の強度(intensity)が高くなって反射波長の領域が広くなるので、光学特性が優れて、かつ、少ない層でも効率的な反射フィルムが製造可能である。
【0077】
(テスト5〜テスト7:各樹脂層別の評価)
上記実施例及び比較例において、第1樹脂及び第2樹脂として用いるものと同一の樹脂に対して実施例1と同様の方法で行うが、個別層に溶融圧出及び延伸を行って、厚さ20μmの第1樹脂層及び第2樹脂層を単層フィルムとしてそれぞれ得た。
【0078】
テスト5:屈折率測定
上記で得られた第1樹脂層または第2樹脂層の単層フィルムに対して、アベ(Abbe)屈折計を用いて632.8nmにおける縦方向及び横方向の屈折率を測定し、両データの平均値を計算して下記の表4にまとめた。
【0079】
表4の結果から見ると、本発明による実施例1及び実施例2の多層光学フィルムは、延伸を経て第1樹脂層及び第2樹脂層間の屈折率差がさらに大きくなっており、その結果、層間屈折率差によって生じる補強干渉の効果も大きくなって、光学的効果、つまり、光の反射率を従来よりもさらに高められることが分かる。
【0080】
テスト6:長期耐熱性の評価(微細しわの有無)
上記で得られた第2樹脂層の単層フィルムに対して、85℃で500時間露出してから、顕微鏡を通して200倍に拡大観察して微細しわの発生有無を確認し、その結果を下記の表4にまとめた。
【0081】
表4の結果から見ると、実施例1及び実施例の第2樹脂層の場合には、長期間高熱に晒されても、微細しわの発生等、外見には大きい変化はなかった。これは、第2樹脂にヘテロサイクリック多価アルコールを共重合させて耐熱性が増加したためである。
【0082】
テスト7:延伸性の評価
上記で得られた第2樹脂層の単層フィルムの延伸工程時に観察した結果を下記のように評価して下記の表4に示した。
O:結晶化が生じなくて延伸性が優れている、及び、
X:結晶化が一部発生して延伸性が優れていない。
【0083】
表4の結果から見ると、本発明による実施例1及び実施例の第2樹脂層は、延伸工程時に結晶化が生じないので延伸性が優れていることが分かる。
【0084】
【表4】
【0085】
以上のテスト結果をまとめて見ると、本願発明による実施例1及び実施例2の多層光学フィルムは、従来技術による比較例1乃至比較例4の多層光学フィルムに比べ耐熱性、延伸性、光学特性等において優れていると評価され、比較例5の多層光学フィルムの場合、耐熱性は優れているが、延伸性が足りなくヘイズ値が高いので、光学用として使うには効率性に劣ることが分かる。
【0086】
以上本発明を、上記実施例を中心にして説明したが、これは例示に過ぎなく、本発明は、その技術分野において、通常の知識を持つ者には明らかである多様な変形及び均等のその他実施例を、以下に添付する請求の範囲内で行えることは可能であることを理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7