(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0015】
(実施形態1)
本発明の実施形態1を、
図1〜
図8を参照して説明する。樹脂モールド装置1Aでは、金型2の中央部に設けられたカル14を対称に成形キャビティ11が配置されるが、説明を明解にするために、
図1などでは、片側の成形キャビティ11を省略している。また、
図5〜
図8では、金型2の構成箇所に対応して形成されたワークWの箇所に、金型2の構成箇所の符号を付して説明を明解にしている。
【0016】
樹脂モールド装置1Aの概略構成について
図1および
図5を参照して説明する。
図1の断面図は、
図5の矢印A−A線に対応している。
【0017】
この樹脂モールド装置1Aでは、図示しない被成形品供給部からローダにより被成形品(ワークW)が金型2を備えたプレス部に搬入(供給)され、樹脂モールドされた後、アンローダにより成形品(ワークW)がプレス部から取り出されて成形品収納部へ収納される。この金型2は、互いに対向して配置される上型3と下型4で構成される。樹脂モールド装置1Aでは、下型4に載置されたワークWに対して、上型3と下型4とでクランプ(すなわち、金型2でクランプ)して樹脂モールドを行うものである。なお、
図1に示すワークWは、配線基板上に複数の半導体チップが搭載されたものである。
【0018】
金型2は、クランプ(クランパ)の高さ位置によって容積が可変する成形キャビティ11と、成形キャビティ11の周囲に設けられるオーバーフローキャビティ12とを有している。成形キャビティ11は、上型3のクランプ面で開口する凹部形状となっており、下型4にワークが載置され、下型4と共にワークをクランプ及び型締めされて内部空間ができる。この成形キャビティ11の内部空間でワークWの半導体チップが樹脂によってモールド(封止)される。また、オーバーフローキャビティ12は、上型3のクランプ面で開口する凹部形状となっており、成形キャビティ11から流出した余剰樹脂が収容される。
【0019】
また、成形キャビティ11とオーバーフローキャビティ12とは、金型2の境界部13によってわずかに連通している。
図5に示すように、本実施形態では、オーバーフローキャビティ12は、金型2でクランプされるワークWの内側に設けられている。
【0020】
金型2の上型3では、上型ベースブロック5が図示しない固定プラテンに固定して組み付けられている。また、一枚の凹部状の上型チェイスブロック10が底部側で上型ベースブロック5に固定して組み付けられている。この上型チェイスブロック10外側下部には、上型ストッパブロック8が取り付けられている。また、上型ベースブロック5には、上型チェイスブロック10内に搭載され、上型チェイスブロック10に貫通させた孔に上型キャビティブロック6が固定して組み付けられている。
【0021】
この上型キャビティブロック6は、成形キャビティ11の底部を形成するものであり、
図1に示すように、外形の異なる多段のブロックが積層されてなる。このブロックが多段となり形成された凹部(上型キャビティブロック6の外周側)に、上型可動クランパブロック7(以下、上型可動クランパ7という)が抜け止めされて組み付けられている。これら上型キャビティブロック6および上型可動クランパ7は、凹部状の上型チェイスブロック10の内側に組み付けられている。
【0022】
上型可動クランパ7は、上型チェイスブロック10の貫通孔に設けられたスプリング9(バネともいう)を介して上型ベースブロック5と弾発するように摺動自在かつ抜け止めされて嵌め込まれている。また、上型可動クランパ7には、上型キャビティブロック6を挿入する貫通孔が成形キャビティ11に合わせて複数箇所設けられている。このため、上型キャビティブロック6の周囲に上型可動クランパ7が配置されることになり、成形キャビティ11の底部が上型キャビティブロック6により、側部が上型可動クランパ7により形成される。
【0023】
上型可動クランパ7の中央部には、成形キャビティ11へ連通するカル14、ランナ15、ゲート16が順に設けられている。ゲート16は、成形キャビティ11の側部に設けられている。このため、ゲート16を通じて、成形キャビティ11の側部から樹脂が流入することとなる(
図5参照)。
【0024】
上型可動クランパ7のクランプ面外周側には、オーバーフローキャビティ12が設けられている。オーバーフローキャビティ12は、ゲート16側と反対側の成形キャビティ11の側部に境界部13を介して設けられている。
図5に示すように、このオーバーフローキャビティ12は、成形キャビティ11の側部に沿う方向に延びて設けられている。
【0025】
オーバーフローキャビティ12は、成形キャビティ11から流出した樹脂25(余剰樹脂)を受け入れて収容するものである。成形キャビティ11へ流入した樹脂25の流頭側には、フローマークの原因となるフィラーが樹脂25中から押し出されて偏在する場合がある。そこで、オーバーフローキャビティ12を設け、フィラーが偏在するような場合を考慮し、余剰樹脂を成形キャビティ11からオーバーフローキャビティ12に流出させている。
【0026】
また、上型可動クランパ7の境界部13には、成形キャビティ11とオーバーフローキャビティ12とを連通する複数の溝18aによってエアベント18が形成されている(
図5参照)。成形キャビティ11から流出した樹脂は、エアベント18を介してオーバーフローキャビティ12へ流入するため、溝18aの溝深さ、溝幅、溝長さ、溝の面性状、数によって、その流入量を調整することができる。
【0027】
また、上型可動クランパ7は、弾性部材であるスプリング9を介して上型ベースブロック5に組み付けられ、下型4に載置されたワークWに当接するものである。
図1に示す状態では、上型可動クランパ7は、スプリング9を介して吊り下げ支持(フローティング支持)されている。成形キャビティ11を形成する上型可動クランパ7は、上下動することで、相対的に成形キャビティ11の深さを可変、すなわち成形キャビティ11の容積を可変できる。
【0028】
上型ストッパブロック8は、上型可動クランパ7の周囲に配置され、上型チェイスブロック10を介して上型ベースブロック5に固定して組み付けられている。
図1に示すように、上型ストッパブロック8は、上型3の外側に位置している。また、上型ストッパブロック8は、下型4に当接するものである。上型ストッパブロック8は、上型可動クランパ7のように弾性部材を介するものではなく、上型ベースブロック5に固定して組み付けられているため、下型4に当接するまで、上型3と下型4は近接する。また、上型ストッパブロック8と上型チェイスブロック10の間に調整駒を設けることによって、上型3と下型4との距離の調整を容易に行うことができる。
【0029】
本実施形態では、成形キャビティ11を含む上型3のクランプ面には、クランプ面を覆うリリースフィルム17が張設される。リリースフィルム17は上型面にブロック間の隙間を利用した吸引機構により吸着保持されるようになっている。リリースフィルム17は、例えば長尺状のフィルム材が用いられ、ロール状に巻き取られた繰出しロールから引き出されて上型クランプ面を通過して巻取りロールへ巻き取られるように設けられる。
【0030】
下型4は、下型チェイスブロック21、下型インサートブロック22およびポット23を含んで構成されている。この下型4は、図示しない可動プラテンに組み付けられている。具体的には、下型インサートブロック22は、下型チェイスブロック21と図示しない下型ベースブロックを介して可動プラテンに組み付けられている。
【0031】
下型チェイスブロック21には、
図1に示すように、縁部から一段凹んだ凹部が形成されている。この凹部には、下型インサートブロック22が嵌め込まれる。また、下型チェイスブロック21の縁部は、下型4の外側に位置しており、上型3の上型ストッパブロック8と当接する。すなわち、上型3と下型4は、上型ストッパブロック8と下型チェイスブロック21の縁部とが当接する状態まで近接する。
【0032】
下型インサートブロック22は、下型チェイスブロック21の凹部に嵌め込むように組み付けられている。下型インサートブロック22の上面にはワークWが載置されるワーク載置部が設けられている。
【0033】
下型チェイスブロック21と下型インサートブロック22の中央部には、ポット23を挿入するために、貫通孔が複数箇所に設けられている。ポット23内には公知のトランスファ駆動機構により上下動するプランジャ24が設けられている。プランジャ24は、複数のポット23に対応して複数本が支持ブロックに設けられるマルチプランジャが用いられる。このプランジャ24は、
図5に示す複数のカル14のそれぞれに対向して複数設けられる。
【0034】
以下に、ワークWに対して、樹脂モールド装置1Aを用いた樹脂モールド方法について
図1〜
図4を参照して説明する。なお、一例として、ワークWの成形品の厚さは基板面から0.3mmとして説明する。
【0035】
まず、
図1に示すように、金型2が型開きした状態で搬入されたワークWを、下型4の下型インサートブロック22に載置する。また、上型3のクランプ面にはリリースフィルム17を吸着して、下型4のポット23には樹脂25(樹脂タブレット)を供給する。続いて、上型3と下型4を近接させて型締めを開始し、
図2に示すように、上型可動クランパ7はリリースフィルム17を介してワークWに当接して、上型3と下型4とでワークWをクランプする。また、これにより、ワークWにはスプリング9の抵抗力(付勢力)にバランスされた所定のクランプ力(例えば、5〜10ton)が加わる。
【0036】
このときワークWは、上型3の上型キャビティブロック6が成形品の厚さ寸法(例えば0.3mm)より所定厚(例えば0.2mm)だけ後退した退避位置を保ったまま上型可動クランパ7によりクランプされる。なお、上型ストッパブロック8は、下型チェイスブロック21と所定間隔(0.2mm)開けて停止している。
【0037】
続いて、
図3に示すように、金型2でワークWをクランプして所定のクランプ力(例えば、5〜10ton)を加えたまま、溶融した樹脂25を成形キャビティ11へ圧送し、オーバーフローキャビティ12への流出を境界部13で抑止しながら、所定の樹脂圧で成形キャビティ11内を充填する。この充填は、成形品の厚さ寸法より所定厚(例えば0.2mm)だけ成形キャビティ11の底部を深くした状態で行われる。本実施形態では、図示しないトランスファ駆動機構を作動させてプランジャ24を上昇させてカル14、ランナ15、ゲート16を通じて成形キャビティ11内へ溶融した樹脂25を充填して、樹脂圧を所定の第1保圧(例えば、1〜3MPa)として所定時間維持する。
【0038】
このとき、上型3の上型キャビティブロック6が成形品の厚さ寸法より所定厚だけ後退した退避位置を保っているため、ワークWの上面と上型キャビティブロック6の底面との隙間が広がり、溶融した樹脂25をワークWの上面へ充填し易くすることができる。
【0039】
溶融した樹脂25を圧送することによって、成形キャビティ11内のエアが境界部13で形成されているエアベント18を介して排出される。また、境界部13では、成形キャビティ11内を樹脂25で充填する際に、エアが排出され、かつ、樹脂25の流出が抑止されるように、複数の溝18aが所定の溝深さ、溝幅、溝長さ、溝の面性状、数に形成されている。このとき、一定の樹脂圧で所定時間保持をすることにより、第1保圧が行われる。
【0040】
続いて、所定の樹脂圧(第1保圧)より高く樹脂圧を上昇させ、成形キャビティ11からエアベント18を介してオーバーフローキャビティ12へ樹脂を流出させる。具体的には、
図4に示すように、下型4を更に上昇させ、上型可動クランパ7がスプリング9を押し縮めて、上型ベースブロック5側でキャビティ底部を形成する上型キャビティブロック6と略面一になると上型ストッパブロック8と下型チェイスブロック21が突き当たり、上昇が止まる。このとき、第1保圧より樹脂圧が上昇(8〜12MPa)し、成形キャビティ11の境界部13に形成されたエアベント溝18aで流出が抑止されていた樹脂25は、その限界を超えオーバーフローキャビティ12へ流入する。
【0041】
本実施形態では、樹脂の粒状、樹脂圧などを考慮して、溝18aの溝深さ、溝幅、溝長さ、溝の面性状、数を調整している。また、
図5に示すように、オーバーフローキャビティ12側へ開くような形状(テーパ形状)で溝18aを設けている。これにより、樹脂モールドし、硬化させることで、成形キャビティ11で形成された樹脂と、オーバーフローキャビティ12で形成された廃棄用の樹脂とを容易に分離できるようになる。
【0042】
本実施形態では、成形キャビティ11の底部を広げ、樹脂充填後、成形品の厚さ寸法になるまで成形キャビティの底部を押し下げる(浅くする)ことによって、フィラーが偏在している恐れのある樹脂25をオーバーフローキャビティ12へ流出させることができる。したがって、成形品にフローマークが発生するのを防止し、成形品質を向上することができる。
【0043】
また、成形キャビティ11への樹脂25の充填時では、特にゲート16側と反対側の成形キャビティ11の側部にフィラーが偏在している恐れが高いため、本実施形態では、オーバーフローキャビティ12を、ゲート16側と反対側の成形キャビティ11の側部に境界部13を介して設けることにより、フィラーが偏在している恐れの高い樹脂25を効率的にオーバーフローキャビティ12へ流出させている。
【0044】
なお、下型が上昇することにより上型キャビティブロック6が成形品の厚さ寸法(例えば0.3mm)に対応する成形位置まで押し出されることで、オーバーフローキャビティ12に入りきれない成形キャビティ11の樹脂25がゲート16を介してポット23側にも押し戻される。このとき、プランジャ24が樹脂圧により後退させられて、余剰樹脂をポットに戻すことができる。
【0045】
このように、上型可動クランパ7がワークWをクランプした後、更なる型閉め動作により上型キャビティブロック6を成形キャビティ11へ相対的に押し出すことで、狙い通りの成形品の厚さ寸法(例えば0.3mm)にすることができる。
【0046】
続いて、成形キャビティ11内に充填されている樹脂25を加熱硬化することで、ワークWが樹脂モールドされる。具体的には、溶融した樹脂25を成形キャビティ11へ圧送し、第1保圧(例えば、1〜3MPa)の樹脂圧より大きい樹脂圧を所定の第2保圧(例えば、8〜12MPa)を維持して、所定時間加熱硬化する。これにより、パッケージの厚さ寸法が極めて薄い成形品を、新規な設備を用いることなく狙い通りの厚さ寸法で安価に量産することができる。
【0047】
その後は、上型可動クランパ7がワークWをクランプしたまま下型4を僅かに(例えば0.2mm)下動させて上型キャビティブロック6のみを退避位置へ移動させることにより成形品を離型させる。下型4を更に下動させて型開きを行なうと、上型可動クランパ7がワークWより離間型開きした後、ワークWが下型4より取り出され、必要に応じて下型面がクリーニングされて1回分の成形動作が終了する。
【0048】
本実施形態では、
図5に示したように、ゲート16側と反対側の成形キャビティ11の側部に、境界部13を介してオーバーフローキャビティ12を設けた場合について説明したが、
図6に示すように、ゲート16が設けられた側部を除いた成形キャビティ11の他の側部に、境界部13を介してオーバーフローキャビティ12が設けられても良い。具体的には、
図6に示すように、成形キャビティ11は平面視矩形状であるため、ゲート16が設けられた1つの側部を除いた3つの側部のそれぞれに、境界部13を介してオーバーフローキャビティ12が設けられている。
【0049】
成形キャビティ11への樹脂25の充填時では、ゲート16側と反対側の側部の他にもフィラーが偏在する場合がある。そこで、ゲート16が設けられた側部を除いた成形キャビティ11の他の側部に、境界部13を介してオーバーフローキャビティ12を設けている。これにより、成形キャビティ11の側部でフィラーが偏在している樹脂25をオーバーフローキャビティ12へ流出させることができる。したがって、成形品にフローマークが発生するのを防止し、より成形品質を向上することができる。
【0050】
また、
図5、
図6では、成形キャビティ11とオーバーフローキャビティ12とを連通する複数の溝18aによってエアベント18を形成した場合について説明したが、
図7、
図8に示すように、境界部13には、成形キャビティ11に沿った長手および成形キャビティ11とオーバーフローキャビティ12とを連通する短手からなる幅狭な長溝18bによってエアベント18が形成されても良い。
【0051】
このように、成形キャビティ11に沿った長溝18bを設けることでも、成形キャビティ11の側部でフィラーが偏在している樹脂25(不要樹脂)を成形キャビティ11内に残存させることを防止することができる。したがって、成形品にフローマークが発生するのを防止し、より成形品質を向上することができる。また、長溝18bを設けることで、一度に、フィラーが偏在している樹脂25を、成形キャビティ11からオーバーフローキャビティ12へ効率よく流出させることができる。
【0052】
(実施形態2)
本発明の実施形態2を、
図9〜
図16を参照して説明する。樹脂モールド装置1Bでは、金型2の中央部に設けられたカル14を対称に成形キャビティ11が配置されるが、説明を明解にするために、
図9などでは、片側の成形キャビティ11を省略している。また、
図10、
図14〜
図16では、金型2の構成箇所に対応して形成されたワークWの箇所に、金型2の構成箇所の符号を付して説明を明解にしている。
【0053】
図9の状態は、
図4を参照して説明したように、下型チェイスブロック21にストッパブロック8を当接させ、成形キャビティ11の底部を押し下げて容積を小さくすると共に、オーバーフローキャビティ12へ樹脂25を流出させた状態である。また、
図9の断面図は、
図10の矢印A−A線に対応するものである。
【0054】
樹脂モールド装置1Bでは、上型可動クランパ7の境界部13に、成形キャビティ11とオーバーフローキャビティ12とを連通する複数の溝18aによってエアベント18が形成されている(
図10参照)。また、エアベント18を形成する複数の溝18aに対してそれぞれを堰止めるように上下動可能な複数の可動ピン26が、境界部13に設けられている。具体的には、溝18aを貫通する貫通孔に可動ピン26が挿入されて堰止められるようになっている。また、可動ピン26は、スプリング27に連結して設けられている。
【0055】
前記実施形態1では、エアベントの溝18aが所定の溝深さ、溝幅、溝長さ、溝の面性状、数にする必要があり、樹脂によっては最適解を出すのが難しい場合があるため、もっと簡単に同様の効果を出す必要がある。そこで本実施形態2では溝18aを樹脂に影響され難い機構として、可動ピン26およびそれを上下動可能とするスプリング27を設ける機構とした。成形キャビティ11へ溶融した樹脂25を圧送し、オーバーフローキャビティ12への流出を境界部13で抑止しながら成形キャビティ11内を充填する際に、可動ピン26はスプリング27によって境界部13から突出するように付勢される。
【0056】
この可動ピン26の先端は、オーバーフローキャビティ12側に対して成形キャビティ11側が下がる形状であり、例えば、
図11(a)に示すような段付き形状、
図12(a)に示すようなテーパ形状としている。また、
図11(b)、(c)、
図12(b)、(c)に示すように、可動ピン26の先端面には溝26aが形成されている。なお、溝26aは、エアベント18を形成するものである。
【0057】
可動ピン26は、その先端をオーバーフローキャビティ12側に対して成形キャビティ11側が下がる形状とすることで、エアベント18を介してオーバーフローキャビティ12へ樹脂25を流出させる際に、その樹脂25が可動ピン26の先端に潜り込むことによって、スプリング27の付勢力に抗して押し上げられる。また、可動ピン26の先端をテーパ形状として面取りした場合、樹脂25が可動ピン26を押し上げる際に、リリースフィルム17が破れるのを防止することができる。
【0058】
このように、可動ピン26およびそれを上下動可能とするスプリング27を設けることでも、成形キャビティ11内へ樹脂25を充填する際に、オーバーフローキャビティ12への流出を抑止し、また、成形キャビティ11の底部を押し下げる際に、オーバーフローキャビティ12へ樹脂25を流出させることができる。すなわち、成形キャビティ11の底部を押し下げることによって、フィラーが偏在している樹脂25をオーバーフローキャビティ12へ流出させることができる。したがって、成形品にフローマークが発生するのを防止し、成形品質を向上することができる。
【0059】
また、
図9を参照してスプリング27を設けた場合について説明したが、
図13に示すように、可動ピン26にアクチュエータ28を連結して、可動ピン26を上下動可能としても良い。アクチュエータ28を設けることで、可動ピン26の移動量及び突出タイミングを制御することができ、境界部13での樹脂25の抑止や、エアベント18を介する樹脂25の流出を容易に制御することができる。
【0060】
また、
図10を参照して可動ピン26を設けた場合について説明したが、
図14に示すように、長溝18bに対して堰止めるように上下動可能な可動板29(シャッタ)を境界部13に設けても良い。この可動板29の先端は、
図11および
図12に示したようなオーバーフローキャビティ12側に対して成形キャビティ11側が下がる形状である。このように、長溝18bに対して板状の可動板29を用いることで、一度にフィラーが偏在する余剰樹脂をオーバーフローキャビティ12へ流出させることができる。
【0061】
また、成形キャビティ11の側部に沿う方向に延びる1つのオーバーフローキャビティ12(
図10参照)を、
図14に示すように、分割して設けても良い。これにより、オーバーフローキャビティ12内の樹脂25が加熱硬化後にシュリンクしたとき、ワークWに反りが発生するのを防止することができる。また、
図15および
図16に示すように、オーバーフローキャビティ12を、金型2でクランプされるワークWの外側に設けることで、よりワークWに反りが発生するのを防止することができる。
【0062】
(実施形態3)
本発明の実施形態3を、
図17〜
図21を参照して説明する。樹脂モールド装置1Cでは、金型2の中央部に設けられたカル14を対称に成形キャビティ11が配置されるが、説明を明解にするために、
図17などでは、片側の成形キャビティ11を省略している。
【0063】
樹脂モールド装置1Cの金型2は、成形キャビティ11が形成された上型3とワークWが載置される下型4を主体として構成されている。この上型3において、上型キャビティブロック6と上型可動クランパ7との間、および、上型キャビティブロック6と上型可動クランパ7の中央部7aとの間、には上型3の表面に沿ってリリースフィルム17を吸引するためのフィルム吸引部31が設けられている。また、上型可動クランパ7と上型チェイスブロック32との間部分には気密用のシール部材33が設けられている。
【0064】
上型チェイスブロック32には、上型キャビティブロック6が直接固定されている。上型チェイスブロック32とこれが固定された上型ベースブロック5との間には、弾発材であるコイルスプリング34A、35Aが弾装された支持部材34B、35Bが設けられている。上型可動クランパ7および上型センターブロック7aは、支持部材34B、35Bに支持されて上型チェイスブロック32から離間した状態で取り付けられている。リリースフィルム17は、フィルム吸引部31に連通するフィルム吸引手段36により上型3の成形キャビティ11を覆うようにして表面に吸着保持される。
【0065】
境界部13には、ポット23、成形キャビティ11、オーバーフローキャビティ12などのエアをクランプ時に樹脂モールド装置1Cの外部(金型の外部)に排出するためのエアベント18が形成されている。エアベント18は、上型可動クランパ7に貫通状態で設けられた可動ピン26をクランプ面から突出させるように前進(進出)させることによって閉塞されると共に、クランプ面側から後退(退避)させることによって開放される。
【0066】
この可動ピン26は、上型チェイスブロック32とこれが固定された上型ベースブロック5との間に弾装されたコイル状のスプリング27によって下方に付勢されている。また、可動ピン26は、
図10に示したように、エアベント18を閉塞するために、溝18aの幅寸法よりも大きな径寸法に形成され、クランプ面におけるエアベント18上に上型可動クランパ7の支持方向(
図17内の上下方向)に進退出可能に設けられている。また、この可動ピン26の先端は、
図11(a)に示したような段付き形状である。
【0067】
これにより、可動ピン26は、
図17に示すように、スプリング27によって境界部13から突出するように付勢されている。この可動ピン26によって、成形キャビティ11へ溶融した樹脂25を圧送し、オーバーフローキャビティ12への流出を境界部13で抑止しながら成形キャビティ11内を充填することができる。
【0068】
樹脂モールド装置1Cにおいてエアベント18の平面位置よりもさらに外方側位置には、上型3と下型4とを型閉じ(クランプ)した際に、金型クランプ面を気密にシールするためのシール部材38が設けられている。エアベント18とシール部材38との間において下型4のクランプ面には、エアベント18から排出されたエアを流通させるためのエア流通路41が設けられている。このエア流通路41は、外部と遮断された成形キャビティ11内を、オーバーフローキャビティ12を介して減圧するエア給排装置42(減圧機構)に連通している。
【0069】
以下に、ワークWに対して、樹脂モールド装置1Cを用いた樹脂モールド方法について、一例として、ワークWの成形品の厚さは基板面から0.3mmとして説明する。
【0070】
まず、金型2が型開きした状態で搬入されたワークWを、下型4の下型インサートブロック22に載置する。また、上型3のクランプ面にはリリースフィルム17を吸着する。また、ポット23に樹脂25(樹脂タブレット)を供給する。続いて、
図17に示すように、上型3と下型4を近接させて型締めし、上型3と下型4とでワークWをクランプする。このときワークWは、上型3の上型キャビティブロック6が成形品の厚さ寸法(例えば0.3mm)より所定厚(例えば0.2mm)だけ後退した退避位置を保ったまま上型可動クランパ7によりクランプされる。
【0071】
続いて、エア給排装置42による減圧作用によって、ポット23、成形キャビティ11、オーバーフローキャビティ12などの間のエアを排出させると共に樹脂25に含まれている溶剤等の揮発成分と空気、水分等を予め樹脂モールド装置1Cの外部に排出する。これにより、その後に成形キャビティ11内に注送される樹脂25の中に含まれる気泡量を少なくすることができ、成形品質を向上することができる。
【0072】
続いて、
図18、
図20に示すように、金型2でワークWをクランプして所定のクランプ力(例えば、5〜10ton)を加えたまま、溶融した樹脂25を成形キャビティ11へ圧送し、オーバーフローキャビティ12への流出を境界部13で抑止しながら所定の樹脂圧(第1保圧)を維持して成形キャビティ11内を充填する。具体的には、エア給排装置42によるエアの吸引動作は継続したまま、プランジャ24を上昇させてカル14、ランナ15、ゲート16を通じて成形キャビティ11内へ溶融した樹脂25を充填する。充填後樹脂圧を所定の第1保圧(例えば、1〜3MPa)として所定時間維持する。この際、
図20に示すように、樹脂25は、境界部13の可動ピン26で抑止されている。
【0073】
図17、
図18および
図20に示すような工程において、上型可動クランパ7でクランプの際、ワークWから可動ピン26の先端部までの高さ(ギャップ)は、スプリング27によって境界部13から突出し、エアを排出するが、樹脂25は流出できない高さとなっている。本実施形態では、エア給排装置42(減圧機構)によってエアを吸引することで、樹脂25を流出しないように可動ピン26の先端部とワークWとのギャップを狭めたとしても、エアを排出することができる。
【0074】
続いて、所定の樹脂圧(第1保圧)より高く樹脂圧を上昇させ、成形キャビティ11からエアベント18を介してオーバーフローキャビティ12へ樹脂を流出させる。具体的には、
図19に示すように、下型4を更に上昇させ、上型可動クランパ7がコイルスプリング34A、35Aを押し縮めて、上型ベースブロック5側でキャビティ底部を形成する上型キャビティブロック6と略面一になると上昇が止まる。
【0075】
このとき、第1保圧より樹脂圧が上昇(8〜12MPa)し、成形キャビティ11の境界部13に形成されたエアベント溝18aで流出が抑止されていた樹脂25は、その限界を超えオーバーフローキャビティ12へ流入する。すなわち、上型キャビティブロック6を、成形品の厚さ寸法(例えば0.3mm)に対応する成形位置までさらに押し出す。
【0076】
続いて、成形キャビティ11内で充填されている樹脂25を加熱硬化し、ワークWに対して樹脂モールドする。これにより、パッケージの厚さ寸法が極めて薄い成形品を、新規な設備を用いることなく狙い通りの厚さ寸法で安価に量産することができる。また、減圧機構を設けることによって、成形キャビティ11への樹脂25の充填の際にエアの排出を効率的に行うことができる。また、成形キャビティ11の底部を押し下げることによって、フィラーが偏在している樹脂25をオーバーフローキャビティ12へ流出させることができる。したがって、成形品にフローマークが発生するのを防止し、成形品質を向上することができる。
【0077】
また、本実施形態では、
図17を参照してスプリング27を設けた場合について説明したが、
図21に示すように、リング状のパッキン43に通された中継ピン44を介して、図示しないアクチュエータからのエア押圧力と、スプリング45の抵抗力とによって、可動ピン26を上下動可能としても良い。アクチュエータを設けることで、可動ピン26の移動量を制御することができ、境界部13での樹脂25の抑止や、エアベント18を介する樹脂25の流出を容易に制御することができる。したがって、成形品にフローマークが発生するのを防止し、成形品質を向上することができる。
【0078】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0079】
前記実施形態では、固定した上型キャビティブロック6およびこれに対して可動する可動クランパ7を組み付け、クランプ(可動クランパ7のクランパ面)の高さによって容積が可変する成形キャビティを有する金型に適用した場合について説明した。これに限らず、例えば、クランパブロックを固定し、これに対して可動するキャビティブロックを組み付け、アクチュエータなどによってキャビティブロックを可動させて容積が可変する成形キャビティを有する金型に適用しても良い。
【0080】
また、前記実施形態では、上型3に成形キャビティ11およびオーバーフローキャビティ12を設けた場合について説明した。これに限らず、上型3と下型4の構成を逆にして、例えば、成形キャビティおよびオーバーフローキャビティを下型に設けても良い。